ADRトピックス(PDF)

ADR トピックス
ADR 症状
ローコールによる白血球減少
薬 剤 名
ローコール
Vol.8
2011・11
一般名
臨床薬学研修委員会
フルバスタチン
ADR
事
例 症状
報告
患者は、61 歳女性であった。平成 21 年 2 月 1 日よりローコール 30mg の服用を開始した。
(経緯など)
血液検査にて白血球減少が認められたため、平成 22 年 2 月 26 日にローコール 30mg は中止とな
り、ゼチーア 10mg へ変更となった。転帰は、不明である。
ADR 発 生
機序
ローコールが白血球減少を引き起こす機序は、現段階では不明であるが1、B リンパ球および T
リンパ球の減少に関して現在提唱されている仮説を述べる。なお、ローコールによる白血球減少
は、添付文書上では 0.1%~5%未満であることが表記されている。
白血球の 1 種である B リンパ球は、早期プロ B 細胞・後期プロ B 細胞等の分化過程を経て成
熟 B 細胞となる2。
早期プロ B 細胞の受容体である Kit と骨髄間質細胞上の糖タンパクである SCF
と結合すると、早期プロ B 細胞は後期プロ B 細胞に分化する3。(図 1)
フルバスタチンが HMG 還元酵素を阻害してメバロン酸の生合成が抑制されると、この結合が
阻害されてアポトーシスを起こし、B 細胞が減少すると考えられている4。
また、白血球の 1 種である T リンパ球の増殖には ERK や p38 といったタンパク質がリン酸化
されることが重要であるが、フルバスタチンが HMG 還元酵素を阻害してメバロン酸の生合成が
抑制されるとこの経路が阻害されて T 細胞が減少すると考えられている5。
類似薬に
関して
上記の通り、ローコールによる白血球減少の機序は不明である。しかし、フルバスタチンによ
るメバロン酸生合成抑制が関連しているならば、他のスタチンによっても白血球減少が生じるは
ずである。
他のスタチンによる白血球減少は、添付文書上では以下のとおり記載されている6。
リピトール(アトルバスタチン):0.1~5%未満
リバロ(ピタバスタチン):0.1%未満
メバロチン(プラバスタチン):0.1%未満
リポバス(シンバスタチン):0.1%未満
その他
【pleiotropic effects (多面的作用)】7
白血球減少は免疫力の低下を意味するが、逆に移植手術における免疫抑制やSLE等の自己免疫
疾患治療においては有用である。従って、これらにスタチンを応用することが期待されている4,6。
このような、コレステロール低下作用に依存しないスタチンの作用は『pleiotropic effects(多面的
効果)』と呼ばれ、内皮細胞保護効果など冠動脈イベントの発症抑制に寄与していると推測されて
いる。一方、今回の例のようにADRに繋がる可能性も有するため注意が必要である。以下に、こ
れまで報告されているpleiotropic effectsの例と、現在推測されている作用機序を示す(図2)。
抗炎症作用:CRP↓、MCP-1↓
免疫調節作用:TNF-↓、T細胞増殖抑制
内皮機能改善作用:eNOS↑
プラーク安定化:MMP-9↓
図 1. B 細胞分化の初期段階は骨髄間質細胞に依存している(参考文献 2 より引用)
図 2 スタチンの pleiotropic effects(参考文献 7 より引用)
スタチンは HMG-CoA 還元酵素を
阻害することでコレステロール合
成を阻害する。その結果、PI3K/Akt
経路を活性化させ、同時にイソプレ
ノイド産生抑制を介し内皮機能を
改善する。これらの血中コレステロ
ール低下作用によらないスタチン
の機能は pleiotropic effects として
注目されている
参考文献
1
ノバルティス ファーマ株式会社 学術情報・コミュニケーション部より (電話にて確認)
エッセンシャル免疫学第 2 版, Peter Parham, メディカル・サイエンス・インターナショナル p156
3 Bone marrow-derived mesenchymal stem cells induce both polyclonal expansion and differentiation of B
cells isolated from healthy donors and systemic lupus erythematosus patients. Stem Cells. 2008 Feb;
26(2):562-9.
4 Relevance of the mevalonate biosynthetic pathway in the regulation of bone marrow mesenchymal
stromal cell-mediated effects on T-cell proliferation and B-cell survival. Haematologica. 2011
Jan;96(1):16-23. Epub 2010 Sep 30.
5 Inhibition of proliferation and signalling mechanisms in human lymphocytes by fluvastatin. Clinical and
Experimental Pharmacology and Physiology (2002) 29, 673–678
6 リピトール・リバロ・メバロチン・リポバスの各添付文書
7 スタチンの pleiotropic effects とその分子機序 日薬理誌 2006;128:161-166
2
臨床薬学研修委員会 須山炎