成瀬正樹:スーパー・ギタリスト・ファイル ギターを演奏する人なら誰でも憧れるスーパー・ギタリスト。彼らがスーパーである所以は、その華麗なるテク ニックだけではありません。ギター本体やアンプ・セッティング、そしてエフェクターなどによって作られるギ ター・サウンドそのものが魅力的であるからこそスーパーなのです。Reason 4 にはそうしたギター・サウンド をシミュレートするためのギアが豊富にそろっています。本セミナーでは、スーパー・ギタリストたちのサウン ド・メイクをアナライズしつつ、それを Propellerhead の Reason 4 によって再現することを試みてみましょ う。 第 7 回:ジ・エッジ(U2) ( 2009 年 4 月 30 日 ) 「終わりなき旅」 スーパー・ギタリストのサウンドをアナライズし、シミュレートにチャレンジする本コーナー。今回は、先ごろ新作『NO LINE ON THE HORIZON』をドロップした U2 のジ・エッジをピックアップします。取り上げる曲は、1987 年発表の アルバム『ヨシュア・トゥリー』収録の「終わりなき旅(原題は「I Still Haven’t Found What I’m Looking For」)」。 特に 80 年代においては、U2 のサウンドがシーンへ与えた影響はとても大きく、J-POP∼ROCK においても、 “U2 っぽ いサウンド”、“ジ・エッジみたいなギター・アプローチ”というのがあちらこちらで聴かれたし、今でも 1 つのひな形、 スタイルとなっています。中でも象徴的なサウンド・アプローチの 1 つが、この「終わりなき旅」におけるディレイを活 用したギター・サウンド。時代を越えてキラメくサウンド・メイク・スキルをチェックしていきましょう! ■付点ディレイ活用フレーズの代名詞 まずは原曲のサウンドのアナライズ。この曲では、アコースティック・ギターによるコードの刻み、十分に歪ませたギタ ーでの白玉アプローチなどなど、さまざまなギター・サウンドが重ねられていて、深く、かつ透明感のあるサウンドを構 成しています。このような、スタジオ・ワークでしかおよそ再現できないであろうサウンド・メイクは、ジ・エッジを含 めた U2 のサウンド・プロダクションが得意とするところなので、他の楽器のアプローチも含めてその重なりを聴き込む ことをオススメします! さて、今回ここで着目するのは、ギターのメイン・パート、そう、 「終わりなき旅」をイメージする時に必ずそこに鳴り響 いてくるであろう、メロディと同等なくらいに印象的なあのアルペジオ・サウンドです。先に U2 のスタジオ・ワークで の多層にわたるサウンドについて触れましたが(もちろんその点は要チェックなのですが)、このメイン・パートがなけれ ば、いくら他の楽器を重ねていってもあの雰囲気は出ないと言えるくらい印象的なパートです。逆に言うならば、ライブ でもこのメイン・アルペジ・フレーズが鳴っていれば、もうそれだけで 1 つの世界が成立するほど、 “核”となるパートだ と言えるでしょう。 では、そのパートを生み出した機材面を見ていきましょう。ジ・エッジは、エクスプローラー、レス・ポール、ストラト キャスターからリッケンバッカーまで、さまざまなギターを活用します。この曲、このフレーズでの使用ギターは断定し かねますが、ソリッド・ボディのギターであることは間違いないでしょう。今回は、ストラト系のギター・サウンドでシ ミュレートしていくことにします。アンプはビンテージの VOX AC-30 でしょう。基本となるギター・サウンドからは、 クリーンにありながら、若干うっすらとした歪み掛かった成分が感じられますが(その微妙なギラツキ感の加味がかっこ いい!)、これは AC-30 のナチュラル・ドライブによるものでしょう。クリーンとは言っても、例えばミキサー卓にその まま突っ込んだような(ライン接続)、パッツンパッツンのクリーンとは違うワケです。そして最大のポイントとなるのが ディレイの使用! 付点8分の長さで鳴るように設定されています。付点ディレイと言えばエッジ、またエッジと言えば 付点ディレイ、なんてイメージもあるくらい、代表的かつ、多くのギタリストに影響を与えまくったエフェクト・アプロ ーチです。これは例えば、 “チョーキング”や“タッピング”などと同じように、1 つの奏法テクニックと言えるのではな いでしょうか。そのディレイを生み出すジ・エッジの使用エフェクターといえば、t.c. electronic のディレイの名機であ る TC2290 が有名で、おそらく、この曲でも使われていると思います。しかしディレイに関しては、突き詰めていけば、 確かにその機器でなくては得られないサウンド、というのもあるにはあるのでしょうが、タイム、フィードバック、レベ ルといったパラメーターをどのように設定するのか、という点が一番のポイントだと思います。しっかりと狙いを持って 設定していけば、手持ちのエフェクターでもジ・エッジ風のサウンドはシミュレートできるハズ! ■隠し味を重ねて緻密に構築! さあ、シミュレートです。まず、NN-XT(サンプラー)を立ち上げて、基本となるギター・サウンド探しからです。 サウンド・ファイルをチェックしていく中で、“Class A Studio Strat with strums”というパッチを発見。このファイ ルは、ギターの素の音だけでなく、コンプレッサーからコーラスからディレイにリバーブまで、既に設定が施された、出 来上がったサウンドとなっています。実はこれがもう、かなりそのままでバッチリなトーンを持っていて、若干ギラツキ 過ぎの高域を抑え、リバーブを曲に合わせて微調整、そしてあとはディレイを付点8分に設定しさえすれば、 「これはこれ でいいでしょ!」と思えるサウンドになりました。理屈なしで手っ取り早くジ・エッジ風のトーンを得たい場合にはこれ もオススメです。 さてさて、そんな簡易なアプローチもありつつですが、ここからはもっとその中身を踏まえた上でのサウンド・メイクの 解説をしていきましょう。 細かなところまで作り込むためにも、まずはベースとなる、素のギターの音を NN-XT で探します。ストラトらしさがナ チュラルな“Strat Edge”にも惹かれたのですが(名前もバッチリ!って‥、 “エッジ”違いですが)、今回はトーンにク リーミーな太さも感じられる“Strat+Trem”を選択しました。 基本サウンドを選んだら、次にコンプレッサー(MClass Compressor)を掛けて、音にハリを与えます。トーンに擬似 的な太さも演出ができ、音の元気度を少し上げるような感じです。そしてさらに、アンプによるナチュラルなサチュレー ションを加えたいので、SCREAM 4 を立ち上げ、 “BadGETubes”のパッチにある TUBE をセレクトします。歪みはも ちろんかなり控えめ。クリーンなトーンはそのままな上で、“ロック”の隠し味を加える、といったイメージですね。 SCREAM 4 の3バンド・イコライザーもオフのままで良いでしょう。 ギターのトーンも決まったことだし、さあ次はディレイ!といきたいところですが、さらにもう 1 つ隠し味でコーラスを 加えます(CF-101)。コーラスは本当に隠し味。コーラスの揺れる効果を感じさせない程度で、音にふくよかさ、彩りを 加味します。 そして次にいよいよディレイです。ディレイは DDL-1 を使用。シーケンサーでテンポが設定されているのならば、DDL-1 は付点音符などのテンポ・ディレイが大得意です。まず設定したいディレイ・タイムの長さ、つまり音符の長さですが、 ここで設定したい付点8分ならば、8分音符とその半分を加えた分の長さ、つまり 16 分音符が3つ分の長さになります よね。その場合、DDL-1 の[STEP LENGTH]で“1/16”(16 分単位となる意)を選択、そして[UNIT]で“STEPS” を選択して、その左にあるパラメーターで、16 分音符3つ分とすべく“3”に設定します。これだけで、付点8分の長さ となるディレイ・タイムになっているワケです。ちなみに、[UNIT]を“MS”に切り替えれば、ディレイ・タイムの確認 &ディレイ・タイムによる設定も行えます。テンポ(BPM)=120 ならば付点8分は 375ms で、テンポ=110 なら ば 409ms ですね(※)。 *ディレイ・タイムを割り出すための公式 ディレイ・タイム(msec)=60/BPM × 音符 × 1000 音符の部分には、4分音符を“1”とした数字を入れる。2分音符ならば“2”、8分音符ならば“0.5”、 16 分音符ならば“0.25”、付点8分音符ならば“0.75”という要領。 テンポ=120 で8分音符の長さならば、60/120 × 0.5 × 1000 = 250msec となる。 以上がジ・エッジによるサウンド・メイクとなりますが、最後にもうひと味。レコーディングではミキサーに送られた後 に、さらにリバーブが用いられています。ここでもその流れをシミュレートし、一旦ミキサーに送った後に、センド/リ ターンにリバーブをつなぎましょう。ギターへのリバーブにはプレート系やルーム系のリバーブを用いられることが多い のですが、ここではホール系となる、RV7000 の“ALL C1 Long Hall”を選択。広くスペイシーな空間を演出し、あ のサウンドに迫ってみましょう。 ■セッティングの確認 接続順は“ギター→コンプレッサー→歪み(アンプのナチュラル・ゲインのシミュレート)→コーラス→ディレイ→ミキ サー”で、ミキサーのセンド/リターンに「リバーブ」となります。「NN-XT→MClass Compressor→SCREAM 4→ CF-101→DDL-1→Mixer(+RV7000)」となります。 NN-XT クリーミーなソリッド・ボディのトーンを持つ“Strat+Trem”を選択。 MClass Compressor [RATIO]を“4:1”。ほかは、12 時の位置に設定。 Scream 4 [DAMAGE CONTROL](歪み)は低めで 10 時辺りに設定。パッチは“BadGETubes”で“TUBE” を選択。イコライザーはオフ。[BODY](共鳴)はオンにして、[TYPE]は E。十分なレゾナンスを稼ぐ。 CF-101 [DELAY]を“8”、[RATE]を“10”、[MOD AMOUNT]を“6”程度くらいの、コーラスだと分らない くらいに軽く掛ける。 DDL-1 付点8分音符の長さに設定。テンポ指定がしてあるのならば、パラメーターは“3”、[UNIT]を“STEPS”、 [STEP LENGTH]を“1/16”に設定すれば OK。[FEEDBACK]は“24”、[DRY/WET]は“18”ほど に設定。 RV-7000 リバーブ・タイプは“ALL C1 Long Hall”を選択。[Decay]は 80、[HF Damp]は 60、[HI EQ]は-28 くらいの、暖かめなトーンに設定。[DRY/WET]は WET 側に振り切り、ミキサー側でリバーブの量を決 める。ミキサーの RETURN は 100、AUX(センドの量)は 45 ほどに上げて十分に響かせる。 では、ここまでの接続と設定を、Reason 4のパネルで図示しておきましょう(図 1/図 2)。 図1 フロント・パネル 図2 リア・パネル ■MIDI プログラミングによるディレイ・トラックのシミュレート 以上、今回は常套手段としてディレイ・サウンドをディレイ・エフェクターで作成する方法を紹介しましたが、エフェク ターを用いずに、打ち込みでディレイを作ってしまう方法もあります。作り方は意外と簡単で、メインのフレーズを作成 したら、それを別トラックにコピー、そして、ディレイさせたい任意のタイミング(今回ならば付点8分音符分)まで全 体の位置をズラしてしまえば良いのです。基本的にはこれで出来上がり。あとは、レベルを調整したり、フィードバック を増やしたいのならば、同じアプローチを数度別トラックに繰り返してズラしていけば良いのです。このアプローチをす ることで、ディレイ音に(各トラックに)さらに別のエフェクトを掛けることが出来たり、定位を自在に設定したりと、 より積極的な音作りがしやすくなります。コツは、ディレイ音としたトラックにはイコライザーを掛けて少しトーンを抑 えると、よりナチュラルなサウンドにまとまりやすくなるでしょう。 また、ディレイ・エフェクトを模したトラックにさらにディレイを掛けてみる……などなど、やり過ぎてトゥ・マッチに なってしまう危険性もありつつも、可能性が広がっていくことは楽しいものです。現在のデジタル環境は“試してみる” ということがとても容易です。まずチャレンジしてみる!ということは、とっても価値あることだと思います!
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