成瀬 正樹:スーパー・ギタリスト・ファイル12

成瀬正樹:スーパー・ギタリスト・ファイル
ギターを演奏する人なら誰でも憧れるスーパー・ギタリスト。彼らがスーパーである所以は、その華麗なるテク
ニックだけではありません。ギター本体やアンプ・セッティング、そしてエフェクターなどによって作られるギ
ター・サウンドそのものが魅力的であるからこそスーパーなのです。Reason 4 にはそうしたギター・サウンド
をシミュレートするためのギアが豊富にそろっています。本セミナーでは、スーパー・ギタリストたちのサウン
ド・メイクをアナライズしつつ、それを Propellerhead の Reason 4 によって再現することを試みてみましょ
う。
第 12 回:ガンズ・アンド・ローゼス(スラッシュ)
( 2009 年 12 月 18 日 )
「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」
スーパー・ギタリストのサウンドをアナライズし、シミュレートにチャレンジする本コーナー。今回は、今月(’09 年
12 月)来日を果たしたガンズ・アンド・ローゼスの「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」のイントロ部のサウンド
をピックアップしましょう。
「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」は、ガンズの衝撃的デビュー・アルバム『アペタ
イト・フォー・ディストラクション』(’87 年発表)に収録されていて、全米1位にもなった大ヒット曲です。特に印象
的なのが PV で、スラッシュがレスポールに(アンプがオンの状態のまま)シールドを「ブブビッ」とノイズを立てつつ
接続し、あのイントロを弾き始めるところは理屈抜きでカッコ良かったですね∼。真似をして、アンプの所有者に怒られ
た経験のある人もいるかも?
そう、昨年久々の新作『チャイニーズ・デモクラシー』を発表したガンズなのですが、ガ
ンズと言えばファースト(!)、ギターはやっぱりスラッシュ(!!)というイメージが拭えない人も少なくないのではないでし
ょうか。L.A.メタルが席巻する’80s 当時、ハード/ヘヴィ・シーンでは、アーミングやタッピングなどのトリッキー、
もしくはシュレッドなテクニックを多用し、ハムバッカーをマウントしたストラト・シェイプ(ディンキー・タイプなど
も含む)のギターをメインとするギタリストがほとんどでした。そのような流れの中、ブルージーでプリミティブなロッ
ク・ギター・フレーズを軸にレスポールを奏でるスラッシュのプレイ・スタイルは個性的であり、際立っていて、レスポ
ールの持つ絶品なトーンをシーンに再認識させました(※)。今年は、レスポール・ギターの生みの親であるレス・ポール
氏が亡くなった年でもあります。レス・ポール氏の残した偉大な功績をリスペクトしつつ、スラッシュの名演によるレス
ポール・サウンド、チェックしてみましょう!
※ガンズ初期の頃は B.C.リッチのモッキンバードも併用していて、そちらでもナイスなトーンを弾き出していました。
■歪み控えめながら激太で豊潤なフロント P.U.のサウンド
原曲サウンドのアナライズ。まずギターですが、歪みの量自体は控えめでありながら、太く、伸びやかなこのサウンドは、
レスポールのハムバッカーP.U.、それもフロント P.U.によるもので間違いないでしょう。
同じフロント・ハムでも、ストラト系ボディのギター(ハムバッカー・ストラト)によるものとは(もちろん、それはそ
れで良い音ですが)、異なるテイストを持っています。実際にプレイしてみると気持ち良くてクセになってしまう、甘くて
サステインのあるトーンですよね。その音色に惚れ込み、
「豊潤な∼」と表現する人もいるでしょう。レコーディングで使
用したレスポールの年代は特定できませんが、恐らくメインとして使用されていたサンバースト・フィニッシュの’87 年
製レスポールではないでしょうか。’50 年代のヴィンテージものの枯れたトーンとは、またひと味違う、ハリのあるサウ
ンドに感じられます。アンプはマーシャル(JCM800 かジュビリー・シリーズなど)。ブギーやフェンダーとは違うミド
ルの質感が特徴的です。エンディング・ソロでペダル・ワウの使用、また途中のバッキングでコーラスの使用も確認でき
ますが、基本は“ギターからアンプに直結”で間違いないはずです。また、’80s の作品らしく、ディレイ/リバーブを
用いたであろう残響がたっぷりと掛かっていますが、これらはミックス時にミキサー側で掛けたものだと思います。
(DAW
上ではなく)実際にライブのプレイで再現するのならば、歪みの後段でエフェクトを掛けることのできる、アンプのセン
ド/リターンに残響系エフェクターをつなぐ方法、もしくはエンジニアに頼んで、ミキサー側で掛けてもらうようにする
と良いでしょう。
以上、レスポールをダイレクトにマーシャルにつないでフロント P.U.を使用、というのが今回のサウンドの基本システム。
シンプルなハード R&R サウンドです!
■ジャズ・ギター・サウンドでレスポールのフロント P.U.のサウンドを!
では、シミュレートを始めましょう。まずはいつも通り、NN-XT(サンプラー)で基本となるギター・サウンド探しです。
パッチ名をチェックしていくと、一番良く目に付くのが“Strat∼”といったストラトキャスターのサウンドで、次いで
“Tele∼”といった、おそらくテレキャスターのサウンドを模したものなど、フェンダー系ギターのサウンドが多く見掛
けられます。
“レスポール”の名が付いたパッチは中々発見できず……かもしれませんが、そんな時は、ジャズ系のサウン
ドをチェックしてみましょう。
“Jazz∼”とうたっているギター・サウンドのパッチは、ギブソン系ギターのフロント P.U.
を用いたサウンドをイメージし、シミュレートされたものが多いのです。
「え?
ジャズ?
今回はギブソンっていったっ
て、ガンズのスラッシュでしょ?」と思われた人もいるかもしれませんね。そう、ブルースブレイカーズでのエリック・
クラプトンや、レッド・ツェッペリンでのジミー・ペイジらの素晴らしいドライブ・サウンドによって、ジミ・ヘンドリ
ックスのストラトと並んで、ロック・ギターの代名詞の一つと認知されていったレスポールなのですが、そもそもはジャ
ズ用に作られたギターと言われているんですよね。それが、時代の流れと、何人かのアイディア溢れる名プレイヤー達に
よって、歪ませたロック・サウンドに最適だと認知されていったのです。エフェクターなどでも多々あるのですが、時代
の流れとともに、設計者の狙いとは異なる形で認められていくというのもとても興味深いですよね∼。
閑話休題。
そうなんです、元々がジャズ用に設計されたレスポールなのですから、ジャズ・ギターで、かつソリッド・ボディをイメ
ージしたサウンドがあるならば、それはレスポールのフロント P.U.の素のサウンドとしてばっちりとハマるはず、そして
それを歪ませれば似せられるはず!
という作戦です。ジャズ系のサウンドでチェックしていった中で良さそうだったの
が、“Jazz Gt Soft”。甘く、太いギブソン系のトーンでありつつ、輪郭もあるサウンドです。
基本とするパッチが決まったら、次に SCREAM 4 を立ち上げて歪ませます。最初、
「チューブアンプのナチュラルなドラ
イブはやはりはコレでしょ!」とばかりに、ほどほどに歪みを上げた状態で“OVERDRIVE”をセレクトしてみたところ、
サウンドの質自体は良いものの、歪みが少ないかも?
という印象も。ということで、念のためにと他の歪みもチェック
(大事なことです!)。しかしやはり、
“DISTORTION”や“FUZZ”では歪みの質感が求めているものとは違っていまし
た。そこで、
“OVERDRIVE”にした上で、歪みをマックスに上げ、トーンとプレゼンスでギラツキ感を与えたところ、か
なり良い感じに。さらに“BODY”を ON にして“箱鳴り”感を加えてみました。またさらにトーンを追求するために、
歪みの後段にパラメトリック・イコライザーの PEQ-2 をつなぎ、レスポールらしいミドルをプッシュし、加えて、輪郭を
もう少し強調するために、高域を微細にブーストしたところ、歪み感、トーンともに納得できるサウンドに。
以上で、スラッシュ本人が出している「レスポール&マーシャル」のサウンドのシミュレート完成です。ただこれだけで
は、ガンズの曲で聴かれるサウンドとは異なります。そう、残響の付加ですね。残響エフェクターの接続は、レコーディ
ング時もミキサー側で掛けられたであろうことを踏まえて、シミュレートする際も同様にミキサーの AUX にディレイ
(DDL-1)とリバーブ(RV7000)をつないだ形でエフェクトを掛けましょう。ディレイは曲のテンポに対して8分音
符ほどの長さでフレーズの邪魔をしないように薄く、そしてリバーブは、スプリング・リバーブをシミュレートしたプレ
ート系のリバーブでたっぷりと掛けます。
■セッティングの確認
接続順は「ギター→アンプによる歪み→イコライザー→ミキサー」で、ミキサーのセンド/リターンに「ディレイ」と「リ
バーブ」です。
「NN-XT→SCREAM 4→PEQ-2→Mixer(+ DDL-1 & RV7000)」となります。

NN-XT
ギブソン系ギターのフロント P.U.を感じさせる、甘さと太さがありつつ輪郭のある“Jazz Gt Soft”を選択。

SCREAM 4
チューブ・アンプのナチュラルなドライブを感じさせる“OVERDRIVE”をセレクトして、
【DAMAGE CONTROL】
はフルアップ。【TONE】を2時半位、【PRESENCE】をマックスに設定。【CUT】はオフ。【BODY】をオンに
して【TYPE】は[D]、【RESO】を2時辺り、【SCALE】が3時辺り、【AUTO】は0に設定。

PEQ-2
バンドで、8KHz 以上のハイを微細にブースト、[Q]は絞り切って滑らかに。【B】バンドでは、1kHz 辺りの
ミドルを軽くブースト、[Q]は 12 時辺りに設定。

DDL-1
[STEP LENGTH]を用いて、ディレイ・タイムを8分音符の長さに設定(図では仮に BPM=120 での設定)。
【FEEDBACK】は少なめの[30]で、エフェクト量はミキサー側で設定するために【DRY/WET】は思いっき
り[WET]側に設定。ミキサーの【RETURN】は 100、【AUX レベル】は9時くらいに。

RV-7000
リバーブ・タイプは“ALL Warm Plate”を選択。
[EQ Enqble]をオンにし、
【Decay】を2時、
【HF Damp】
は9時、【HI EQ】を 11 時辺りに設定。【DRY/WET】は[WET]側に振り切り、ミキサー側でリバーブの量を
決める。ミキサーの【RETURN】は 100、【AUX レベル】は 11 時の辺り。
では、ここまでの接続と設定を、Reason 4のパネルで図示しておきましょう(図 1/図 2)。
図1
フロント・パネル
図2
リア・パネル
スーパー・ギタリストのサウンドをアナライズし、シミュレートにチャレンジする本コーナーはいかがでしたでしょうか?
またどこかでお会いしましょう!