私と環境行動学

連載
私と環境行動学⑵ 建築心理学 から環境行動学 へ
髙橋 鷹志 ( 建築家・研究者・東京大学名誉教授 )
◆建築心理学 の 誕生と環境行動研究 への 移行
東京大学工学部建築学科 の 吉武泰水先生 のご指導 の 下 で 、
髙橋 鷹志(たかはし・たかし)
1936 年東京生 まれ。1961 年東京大学工学部建築学
科卒業。1968 年同大大学院数物系研究科建築学専攻
博士課程単位取得退学。
名古屋工業大学非常勤講師(~
1976 年)、東京大学工学部教授(~ 1995 年)、新
潟大学大学院教授(~ 2002 年)、日本大学教授(~
2006 年)、早稲田大学特任教授(~ 2007 年)。工学
博士、東大名誉教授。日本建築学会理事、建築設計資
料集成委員会委員長、人間・環境学会会長、日本イン
テリア学会会長などを歴任。
主な建築作品に「東京大学鹿児島宇宙空間観測所第一
「成
次計画施設」
(1962 年、東大生産研池辺研究室)、
蹊大学大講義室棟」
(1964 年)
、東京大学付属病院
、
「三井記念病院」
(1970 年、以上東大
棟(1970 年)
吉武研究室)
、
「菅 の 家」
(1983 年)
、
「 ツインサイロ 」
、
「猫の広場のある家」
(2002 年)ほか。
(1997 年)
主な著書に『建築計画』
(1975 年、実教出版社)、
『環
境心理学』
(1979 年)
、
『インテリアデザイン』
(1989
年、共 に 朝倉書店)
、
『単位空間Ⅰ』(建築設計資料集
成、1980 年)
、
『建築学便覧1 計画』(1980 年)
、
『コ
ンパクト 設計資料集成』
(1991 年、以上丸善)、『建
築・都市計画 のための 空間学辞典』(1996 年、井上
書店)
『人間-環境系のデザイン』
、
(1997 年、彰国社)、
『環境と空間』
(シリーズ<人間と建築> 1、1997 年、
朝倉書店)ほか。
(MERA:Man-Environment Research Association )が
1. 《セイウチの 群 れ》:アラスカ州 ラウンド・アイランドの 岩陰
で 眠るセイウチの 雄。「接触性行動」の 完全 な 例 である。
「 ものの 見 え方」をテーマに博士論文「空間 の 知覚的尺度に関
1983(昭和 58)年に誕生したのである。 こうした 学際領域 の
2.《池に浮かぶ 2 羽 の 白鳥》:スワンのような「非接触性」の 動
する研究」をまとめあげ 博士課程 を 修了した 私 は 、 1968 (昭
形成に刺激 され、私 の 知覚心理的研究 はより広 い 人間行動学
物 は 体 が 触 れ合うことを避 ける。
和 43 )年 の 名古屋工業大学非常勤講師着任を皮切りに、建築
へと関心 が 移行して 行った 。
3. 《流木に並 んで止まる鳥》と 4. 《 バス停に列をつくり並 ぶ 人
計画学 をベ ースに 大学研究者としての 道 を 歩 みはじめた 。 当
建築心理学 は 生理的・心理的に便利 で 快適 な 生活環境 の 実
たち 》
:
「個体距離」とは 非接触性 の 動物 が 自分と仲間との 間
時 は日本建築学会 のなかでも 、建築計画委員会と環境工学委
現に一定 の 役割 を 果 たしたが 、世 の 中 は 戦後 の 復興、高度成
に保 つ 正常 な 問題に対して 、動物心理学者 ハイニ・へディガー
員会という専門別 の 構成として 扱 われていた 。しかし、諸外国
長 の 歪 みが 顕在化し、地球環境破壊 が 深刻化したことを 背景
( Heini Hediger;1908-1992 )が 名 づけた 言葉 である。流木
での 建築と心理との 相互研究 の 影響 により、建築 の 人間心理
に、建築心理学 から 環境心理学 へと呼称 を 変 えることになっ
の 上 で日なたぼっこをしている鳥 も 、バスを待っている人々も 、
に対 する影響に関心 が 生まれ、建築心理学に関 する著作 が 次々
た 。 さらに環境 の 概念として 、人工物 がつくり出 す環境 だけで
ともにこの 自然 な 集まり方 の 例を示している。
と現 れるようになったのである。
なく、 そこで 生活、生存 する人々 の 社会文化的環境 を 重く見
5.《野球 のアンパイアに猛烈に抗議 する監督》と 6.《立 ち 話を
「木割」を 唯一 の 例外として 、 わが 国 でのかたちに関 する諸
る立場をとるようになった 。建物 の 高 い 性能 も 、それのかかわ
する 3 人》
:人間 の 4 つ の 距離帯 のうち の 2 つ の 例 で ある。 5.
理論 は 、古代ローマからはじまる西洋 の 建築理論、建築美学(建
る人々 の 関係、組織 が 破綻していては 意味を失うからである。
の 2 人 の 人間 の「密接距離」
( intimate distance )は 、この 瞬
築美論)の 系譜 のなかで 生成されたといってよいだろう。 それ
環境 の 次元 は 心理学 だけでなく、社会学、倫理学 などの 行
間 における彼らの 感情 が 攻撃的 で 敵対的 なものであることを
らは 当然 のことながら 時間 をかけて 積 み 重 ねられてきた 経験
動科学、地理学、考古学、工学 そして 建築・都市学 へその 影
はっきり 示 し て い る。 6. は 互 い に か な り 遠 い「 個 体 距 離 」
則 あるいは 大家 の「大 いなる主観」であった 。「美論」を 科学
響 が 及 んでいった 。 そこで 広く環境と行動との 相互作用 を 考
的 に 解明しようとする 科学的、実証的心理学 が 勃興 するのは
察 する学際領域として「環境行動研究」が 誕生したのである。
:
7.《会社で座って打 ち 合わせ 》と 8.《会社で立って打 ち 合わせ 》
19 世紀まで 待 たなければならなかった。例 えば 黄金分割 の 美
現在、日本建築学会 の 建築計画分野において「環境行動小委
個 人 的 で な い ビ ジ ネ ス は 、 一 般 に「 社 会 距 離 」(social
的根拠 によって 実験 によって 証明しようとした G.T. フェヒナー
員会」が 設置 され、専門家 による 研究活動 が 行 われて いる。
distance)で行われる。社会距離はインヴォルヴメントの 度合
そして 、シリーズ<人間と建築>として 、
いによって 4 ~ 12 フィート(約 1.2 ~ 3.7 メートル )範囲 で 変化
それと並 んで 、建築美 へ の 心理的 アプローチである「建築心
1『環境と空間』
する。一緒に仕事をしいている人々は 、立っているときでも 坐
理学」という言葉 がはじめて 使 われたのは 、美術史家 で ある
2『環境と行動』
っているときでも 、短 い 社会距離を保って 席をとる傾向 がある。
H. ヴェルフリン(Heinrich Wölfflin 、1864-1945)が 22 歳 の
3『環境とデザイン 』
( いずれも 2008.2 、朝倉書店)
「公衆距離」( public distance )は 、
9. 《壇上で演説 する人》:
若 さでまとめあげた 哲学博士論文『建築心理学序説』(1886
がそれぞれ刊行された 。
個人的 なインヴォルヴメント(関与)の 輪 のまったく外 にある。
(Gustav Theodor Fechner 、 1801-1887 )の 仕事 がある。
( personal distance )を保っている。
声 は 誇張 されるか 増幅 され、コミュニケーションの 多くは 手 ぶ
年)においてであった 。 ここではじめて「用・強・美」の 用や 生
活環境 の 質としての 快適という属性 に 光 が 当 てられたのであ
◆環境行動学研究 のきっかけは E・ホール『 かくれた 次元』
りや 身 ぶりに移ってしまう。 これは 公衆向 け 、演劇公演用 の 距
る。 そ れ に 対 して H. ウォットン( Henry Wotton 、 1568-
私 の 家 の 書棚 には 環境心理 や 環境行動 に 関 するさまざまな
離 である。
( 1624 )の 中
1639)は、『 The Elements of Architecture 』
図 書 が あ る が 、 な か で も エド ワ ード・ホ ー ル( Edward T.
10. 《密接距離 で 撮影した 相手 の 眼》:特徴 が 誇張 されディテ
で 建築 の 役割として「 Commoditie,Firmenes,and Delight
“ THE HIDDEN
Hall,1914-2009) の『 か く れ た 次 元 』(
ールがはっきりするので 、これから得られた 視覚体験 は 、他 の
DIMENSIONS”1966; 邦訳:日高敏隆・佐藤信行共訳、 み
どの 距離とも 混同されない 。
明治以降、西洋建築 の 導入に没入してきた日本にとっては、
すず 書房、 1970 )は 、私 の 環境行動学 の 研究に大きな 影響を
11. 《個体距離 で 撮影した 相手 の 顔》:顔 のディテー ルはまだ
建築心理学 の 登場は驚くべきことであった。 わが国での 初めて
与 えた 1 冊 である。 同書 には 26 枚 の 口絵写真 が 収 められてい
認 めうるが 、特徴 のひずみはもはや 見られない 。この 距離 では 、
の著作『建築のための心理学』
(大山正、乾正雄)が発刊された
て 、 それぞれに 著者 の 解説文 が 記 されており、「 プロクセミッ
対象物 の 形、物質、表面 のきめは 目 につきやすく、 はっきり
のは 1969(昭和 44)年 のことであり、ヴェルフリンの 同著作 の
クス」
(proxemics:人間空間学)
(表 1)に関 する説明 が 簡潔
見 わけられる。
発刊 から 83 年後 のことである。 また 当時、 アメリカの ERDA
にまとめられている。少し長くなるが 参考になるので 加筆して
12. 《社会距離 で 撮影した 相手 の 姿》:全身 が 見 えるが、社会
紹介しておこう。《》内 は 口絵写真 の 概略。
距離 の それもかなり遠 いところからでは 、眼 の 中 の 毛細血管
(用・強・悦)」をあげている。
(Environmental Design Research Association)や、ヨーロ
ッパの AP(Architectural Psychology)などの建築学と心理学
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との学際的学会の誕生に刺激され、わが国でも「人間・環境学会」
のような 顔 のごくこまかいディテールは 失 われている。
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連載 私と環境行動学⑵ 建築心理学 から環境行動学 へ
10. と 11. と 12.:他人 の 視覚的把握 は 距離とともに 変 るが 、
17. 《ヴェニスのサン・マルコ広場と人々》:この 広場は広大 な
と配置 を 見事 に 示 す 例 である。 砕 いた 小石 の 海 から 盛り上 が
受容器-目・耳・鼻、近接受容-皮膚と筋肉)に 関 する記述 で
これは 体験 された 嗅覚的・触覚的感覚とあ いまって 、 そ の 他
空間 をうまくとりかこんだ 理想的 な 例として 広く知られる。 こ
る 15 個 の 岩 の 置 きかたを 見ると、日本人 が 空間 の 知覚 に 際し
ある。 さらに 興味 をもったのは 、「人間 における距離 の 考察」
人にどれくらいインヴォルヴされるかを 決 めるのに 大 きな 役割
の 人々 が 感じている自由とくつろぎが 、魅力 であるとともに快
てあらゆる感覚 を 使うことと、自分 のために 何 かを 見出しうる
であり、人間相互 の 距離を「密接距離」
「個体距離」
「社会距離」
を果 たしている。
い 空間 の 感覚を伝 える。
点 まで 人 を 導 いてゆく傾向とが 示唆 される。 この 傾向 は 日本
13.《駅待合室 の 長椅子》と 14.《歩道に面したカフェのテーブ
18. 《広場 に 置 かれた 彫像 に 乗 る少年》:彫刻 は 空間 にひとつ
人 の 生活 の 他 の 部分にも 反映している。
接相と遠方相(距離 6 ~ 18 インチ )、社会距離を近接相(距離
ルと椅子》
:公共 の 場所 での 机 や 椅子 の 配置 は 、会話 の 程度
の 次元 を 加 える。 とくにそ の 彫刻 がさわったり、 こすったり、
22.《 ベイルートのいじわるの 家》:アラブ人は建築 の 混 みあい
4 ~ 7 フィート )と遠方相(距離 7 ~ 12 フィート )、公衆距離 を
と明瞭 な 関係 をもっている。 鉄道待合室 のように、椅子 が 何
たたいたり、もたれかかったり、よじのぼったりできるときには 。
に対してきわめてあからさまな 感覚 を 示し、展望 のさえぎられ
近接相(距離 12 ~ 25 フィート)と遠方相(距離 25 フィート以上)
列 かに 固定して 固苦しく並 べてある 空間 は 、会話 を 阻害 する
19.《カフェのテーブルと椅子》と 20.《野外演説を聞く群衆》:
ない 、しかも 閉じた 空間 を 要求 する。 ベイルートの“ いじわる
に区分 けしている(表 1 )。
傾向 がある(「離社会的空間」)。 ヨーロッパの 歩道にあるカフ
プロクセミックスなパターンは 、しばしば 文化 のちがいに 対 す
の 家”は 、 ある隣人 から地中海 の 展望 を 奪うことによって 、 そ
以上 のような 対人距離に関 する記述に影響を受 け 、私 の「識
ェのテーブ ルのような 配置 は 、人々 を 互 いにひきつける 傾向
るすぐれた 手 がかりとなる。 フランスでの 2 つの 場面--カフェ
の 隣人を罰 するために建 てられた 。
別尺度に関 する研究」が 始まったのである。識別 の 対象として 、
がある(「集社会的空間」)。
のテーブルの 混 み 合った 並 べかたと、野外演説 を 聞く群衆--
23. と 24.《2 点とも低所得者向け公共高層住宅》:低所得者集
記号・図形・建築構成部位・人体に対して 遠距離 から近 づいて
15. 《使 い 勝手 の 悪 い 狭隘 な 台所》と 16. 《狭隘 な 台所に 2 人
は 、フランス人 が 北欧人、 イギリス人、 アメリカ人より密に集
団 のために 建 てられた 公共住宅 は 、しばしばすっきりした 姿 を
行き、見 え方 がどのように変化 するのかを現地調査を行うこと
いる場合》
:特色 の 固定した 空間 は 、人間 の 行動を支配 する物
まる傾向をもっていることを示 すもので 、 その 結果、フランス
もち 、生活 をかばってくれるが 、人間 の 多くの 基本的問題 の
になった 。 その 1 つでは 、前号 で 紹介したように、埋 め 立 てが
質的 な 対象物 と 部屋 や 建物 の 内化 された デ ザ インを 描 きだ
人 の 生活 は 多くの 面 で 高度に感覚的にインヴォルヴされている
解決には 失敗している。高層アパート住宅 は 、見 たところスラ
終 わった 八郎潟 の 南部排水機場 に 人間と記号 を 置 き、 770m
す。 せまくるしい 、しかも 設計 の 悪 い 台所 は 、近代的 な 建物
ことを示唆している。
ム 街 ほど悲惨 ではないが 、住 むためにはそれが 置 き 換 えたス
から 130m までの 24 カ所 で 対象 の 識別実験 を 行った 。人間 が
にしばしば 見られる、 デザイン的要素とそこでおこなわれるべ
21. 《龍安寺石庭》:古 い 日本 の 首都京都 の 郊外にある龍安寺
ラムより障害 が 多 い 。
黒 い 点 から 始 まって 、身体 の 部分、最後 には 目と眉との 分離
き活動との 一致 の 欠如を示 す例 である。
の 禅房 の 庭 は 、 15 世紀 の 作品 で あるが 、空間 の 日本的利用
25.《シカゴのマリーナ・シティーの 円形アパート》と 26.《ワシ
まで 、人体 の 見 え方 の 変化に関 する実験 であった 。
ントン DC 南西部 のアパート》
:住宅建築における最近 の 2 つの
次に、同書 の 第 3 章「動物における混 みあいと社会行動」か
発展によって 、 アメリカの 都市中心部 が 窒息してゆく傾向 が 逆
らヒントを受 けて 行ったのが 、山手線 の 車両内 の 混 み 具合と乗
転しうる 希望 がでてきた 。 シカゴの マリー ナ・シティー では 、
客 の 位置 についての 観察調査 である。 大 きなバッグを 床 に 置
バートランド・ゴールドバーグ( 1913-1997 )が 円形 のアパート
いている高校生、大股開 きで 腰掛 けている若者、足 を 組 んで
タワーを設計した(完成 1964 )。下 のほうの 何階 かはラセン形
前に投 げ 出している中年 の 男 など、電車内 はデズモンド・モリ
にのぼるようになっており、居住者 のための 露天 の 、しかも 道
ス( Desmond Morris;1928- )の「人間動物園 の 檻 の 中」の
路 から 離 れた 駐車場となる。 買物 や 娯楽 の 施設 も 完備してい
様相を呈している(図 1)。
フィート
0
1
2
密 接
距離の略分類
3
4
5
個 体
近接 遠方
近接相
相
相
6
7
8
10
12
社会・用談
遠方相
近接相
14
16
18
20
22
30
公 衆
遠方相
強制的認識距離はここからはじまる
遠方相
ー40’
より
30’
頭、腰、もも、胴が触れる・。または偶然に触れることができる
筋 覚
手は胴のどこにでもたやすく届き、動かすことができる
手は四肢にたやすく届き、
にぎることができる。
しかし上よりぎこちない
座ったまま相手の脇に手を触れることができる。偶然の接触が起こるほど近くない
るので 、このタワーは 天候 や 交通 に 妨 げられない 保護 された
1人がひじを自由に動かせる
2人がひじを自由に動かせる。片方が手をのばし、相手の四肢の一つをにぎることができる
干渉距離の外
手をのばすと、相手にやっと届く
頭が8’
ー9’
離れている2人は、手をのばしてものをやりとりできる
伝導
(接触)
放射
嗅 覚
洗った皮膚と髪
シェイヴィング・
ローション
性的におい
息
体臭
足臭
一般に知覚されない
動物的温度・湿気は消える
(ソーロー)
占有率
D.C. の 建築家クロイエシェル・スミス(生没年不明)が 発展さ
せたものである。 それはワシントン南西部 のアパートで 、彼女
は 都市再建 の 問題 へ の 興味 ぶかい 、美的 にも 満足といえる、
多様 な 、 そして 人間的にも 共鳴 できる解決をもたらしている。
文化的態度
可
可
◆心理的 バリアフリーの 環境 づくりが 急務
タブー
タブー
消毒薬は可、その他はタブー
タブー
タブー
表 1 プロクセミックスの 知覚における遠距離と近接受容器 の 相互作用を示 す 表 出典:
『 かくれた 次元』P.77 エドワード・ホール 著 みすず 書房(1970.10.30 )
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一角を作りだしている。
もう1 つ の 有望 な 都市計画 へ のアプロー チは 、 ワシントン
接触距離のちょうど外
温度感覚
「公衆距離」に 分類していることである。 また 、密接距離 を 近
エドワード・ホールの『 かくれた 次元』では 、プロクセミック
に 関して 種々 の 視点 から 記述 されている。 そ のなかで 私 が 最
初 に 興味 をもったものは 、人間と動物 における相互距離 の 調
節 に 関 する記述 である。 そして 第二 は 、空間 の 知覚(遠距離
図 1 車両内 の 混雑度と区画 の 占有率
出典:昭和 53 年度 日本建築学会 関東支部研究報告集(Vol.49 )
『空間における人間集合 の 型 --通勤車両 の 場合--』 髙橋鷹志、西出和彦(著)
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連載 私と環境行動学⑵ 建築心理学 から環境行動学 へ
さらに外部空間に関しては 、物理的 バリアフリー 環境 は 概 ね
研究 する 分野 として「環境行動研究(EBS:Environment-
整備 されてきているが 、街中 を 歩 いていると生活 に 必要 なも
Behavior Studies)」がある。 この 研究は、環境と行動から
のとは 思うが 心理的障害にしばしば 出合うことになる。見上 げ
形成 され、場面 を 臨床例として 蓄積 することを 主 たる方法とし
ると蜘蛛 の 糸 のように、垂 れ下 がっている電線やそれを繋 いで
ている。 スケール 別に集 められている各トピックは 臨床カルテ
いるコンクリートの 電柱、 そこに 貼りつけられている広告 など
の 一例 であり、空間 デザインへ の 示唆となることはもとより、
が 気障りである。 かかる状況 を 取りはらった「心理的 バリアフ
自己カルテ 作成、建物・街 の 探訪、探索、解説、評価 への 手
リー 環境」を追求 する必要 があると考 える(写真 1 )。
引きとなる。
和洋折衷 の 生活様式 も 一落した 現在、グローバル 化 の 進行
◆身体 0m からはじめる環境行動研究 で 実践
はグローカル(global+local)な生活様式 の 確立が必要とされ
人間と環境関係における「関係」にはその 様態、質、時間 の
る。 最近 の 街、車中 での 無法 な 立 ち 居振 る舞 いに 遭遇 するに
3 つの 側面 がある。しばしば 指摘 されているように従来 の 研究
つけても、「身体 0m」からの 環境行動 への 思量が空間デザイン
においては 、建築的環境条件と人間 の 生活との 関係として 生
の 原点であることに注意を喚起していく必要があるだろう。
(談)
活 や 行動 を 誘導 するといった 決定論的 スタンスが 取られること
つづく
が 多 かった 。 たしかに一定 の 役割 を 果 たすことはできるが 、こ
のような 考 えに 基 づ いてつくられた 物理的環境 が 、人間と環
境 の 関係 を 固定化し、新 たな 生活 や 行動 を 阻害 する要因 にな
る可能性 もあるだろう。
一方、人間と環境とをそれぞれ 独立 のものとして 両者間 の
相互作用を扱うのではなく、 1 つの 行動 のなかの 動きとみるの
が「トランザクショナリズム」
( transactionalism:相互浸透論)
の 立場 で ある。 決定論 に 見られる 硬直した 因果関係 を 脱し、
より現実 の 日常に近 い 人間と環境 の 関係を描こうとするもので
ある。 環境 への 人間 の 能動的 な 働 きかけを 重視 することが 決
定論との 相違 である。人間と環境 がどのような 距離をとるにせ
よ、関係 を 結 んだ 結果、 それがともに 影響 を 受 けて 変化 する
という点 において 、決定論 や 相互作用論とは 性格 を 異 にする
関係 の 様態 であると言 える(図 2)。
私 たちは 、身体表面 から 宇宙 にまで 広 がるさまざまな 次元
の 空間との 関 わりのなかで 生 を 営 んでいる。 夜、電灯 を 消し
写真 1 電柱(広告)と電線
人間
(PERSON)
環境
(ENVIRONMENT)
身体的次元
(発達、力量、
コンピテンス、
健康)
心理的次元
(動機づけ、
欲求、同一性)
社会文化的次元
(経験、価値、倫理、役割)
物理的次元
(自然・人工物)
対人的次元
(種々の集まり)
社会文化的次元
(規範・制度・慣習)
行動
ただけでトップライトから満月が 顔 を 覗 かせ 、環境 が 一変 する
といったことは 誰 にでも 経験 があるだろう。 つまり、行動 する
ことは 空間 をデザインすることと同義語 であるという結論に至
る。 デザイナーが 画面を描き、空間をつくることだけがデザイ
ン行為 ではない 。
身 の 回りから拡大 するさまざまな 空間 スケールにおいて 、さ
らには 時間、情報 の 次元 をも 含 んで 、環境と行動との 相互作
用 から生成 される空間 デザインに光を当 てる。 こうした 問題を
40
関係の様態
決定論
可能論
蓋然論
相互作用論
浸透論
関係の質
道具・効用・促進的
剥奪・抑圧・拘束的
治癒的
挑戦的
調和的
関係の時間
永続的・長期的
定期的・周期的
短期的・一時的
偶発・突発的
人間ー環境関係
(PERSON-ENVIRONMENT RELATION)
図 2 人間ー環境系 モデル
出典:
『人間ー環境系 のデザイン 』日本建築学会(編)、彰国社( 1997.5.1 )