偽和果汁へいざなう現行関税率表等の諸問題

2008 年 9 月
偽和果汁へいざなう現行関税率表等の諸問題
日本ジュースターミナル株式会社
特別顧問
古野三喜生
検査室長
岩村 高廣
当社は愛知県三河港豊橋地区に濃縮オレンジジュース(以下 FCOJ と称す) の物流基地を所有し、
世界のオレンジ生産の最大手といえるブラジルの CITROSUCO 社及び CUTRALE 社の両社から
FCOJ のバルクでの受入れ、冷蔵保管、保税管理、品質管理及び検査、必要に応じたブレンド作業、
小分け作業、及び出荷作業を行っている。また、FCOJ に関する情報の逐一入手に努めており、日本
での FCOJ 輸入統計もその一つである。
財務省貿易統計品別国別表によると FCOJ の日本全体の輸入量が 2006 年以降減少している [図 1
参照]。 ブリックス値 約 66 の通常の FCOJ は、
「砂糖は加えられておらず」
「しょ糖の含有量が全重
量の 10%を超える」ので、日本の輸入関税率表番号 [付表 1 参照] では、2009.11-290(冷凍したも
の)又は 2009.19-290(冷凍してないもの)の何れかであり、現行の WTO 協定税率は何れも 25.5%
である。この輸入量の減少について、主に価格の上昇によるものと思われたが、通常の FCOJ には該
当しない関税率表番号 2009.11-210(関税率 21.3%)で比重約 1.32 (kg/ℓ) の“FCOJ らしきもの”
が某国から輸入されており、それが近年急増していることが分かった [図 2 参照]。
図1
1
図2
「某国以外」の殆どは比重 1.05 以下であり FCOJ とはいえない
この量を FCOJ 輸入数量に加算すれば 2007 年は 2006 年並みの輸入量となる。
因みに、ブリックス値 11~12 の 100%オレンジジュースの比重は約 1.045、ブリックス値 約 66
の通常の FCOJ では同約 1.32 である。FCOJ の比重は温度等の条件が同じならばブリックス値に対
しほぼ比例的に決まるので、逆に比重からブリックス値の推測も可能である。
この 2009.11-210 で輸入された“FCOJ らしきもの”を統計上 FCOJ としてカウントすべきか否か
については、輸入量が多くなってきたがために無視できなくなってきている。間違って 2009.11-210
に入れられたものなのか、また、FCOJ であるにも拘わらず「しょ糖含有量が 10%以下」なのかが疑
問であった。 前述したように、2009.11-290 及び 2009.19-290 の現行 WTO 関税率が 25.5%に対し、
2009.11-210 では 21.3%と 4.2%も低く、もしこれが FCOJ であったならば不公平な扱いであり公正
取引に反すると思われる。 しょ糖含有量を作為的に低くした“偽和”製品かもしれない。この疑問
に答えるには現物を入手して調べるのが最も確実と考えた。
そこでこの機会に、① 現行の関税率表が実情に則した合理的なものかどうか欧米のものと比較し
ての調査・検討、② 問題の“FCOJ らしきもの”のサンプルの入手と分析並びに分析結果に伴う果
汁偽和の考察を行った。
① 日本、米国及び EU におけるオレンジジュースに関する現行関税率表の比較・検討
日本、米国、EU におけるオレンジジュースに関する現行関税率表の部分を付表 1、付表 2 及
び付表 3 として添付した。
2009 果実又は野菜のジュース(・・・・)
オレンジジュース
2009.11 冷凍したもの
・
・
2009.12 冷凍してないもの(ブリックス値が 20 以下のものに限る)
・
・
2009.19 その他のもの
・
・
2
関税率表での上記 HS 品目表は、1988 年に世界税関機構(WCO)で決められたものであり国際的
に共通である。この各項番の下部細分が各国で個別に決められている。
・日本の場合は、上記 HS 品目表内三つのどの項番に対しても下部細分は、
1. 砂糖を加えたもの
-110
(1) しょ糖の含有量が全重量の 10%以下のもの
-190
(2) その他のもの
2. その他のもの
-210
(1) しょ糖の含有量が全重量の 10%以下のもの
-290
(2) その他のもの
と全く同じである。表はマトリックス的組合せであり一見合理的であるように見えるが、問題は後
述したように中身である。
・米国の場合は、
2009.12 の下に
-25
濃縮されておらず、濃縮率 1.5 以上のジュースから作られていないもの
-45
その他のもの
があるだけで、下位細分は必要最小限に留め、簡素化されている。
・EU の場合は、
2009.11 の下に
・ブリックス値 67 を超えるもの
-11 価格€ 30/100kg 以下のもの
-19 その他のもの
・ブリックス値 67 以下のもの
-91 価格€ 30/100kg 以下のもので、重量比 30%以上の糖類を加えたもの
-99 その他のもの
2009.19 の下に
・ブリックス値 67 を超えるもの
-11 価格€ 30/100kg 以下のもの
-19 その他のもの
・ブリックス値 20 を超え 67 以下のもの
-91 価格€ 30/100kg 以下のもので、重量比 30%以上の糖類を加えたもの
-98 その他のもの
とあり、実情に合わせた分類を行っている。
日本の場合は、第二次世界大戦終戦後間もなく決められた分類方法に、
その後に GATT 或いは WTO
で決められた国際的条件を追加して組合わせた関税率表が用いられてきており、表 1 のように「砂糖
を加えたもの」か否かは 1947 年以降、
「しょ糖 10%以下」か否かは 1955 年以降現在まで、税率を除
き変わっていない。このため、適正関税に影響する諸般の情勢はこの半世紀で激しく変わっているは
ずであるものの、それらが関税率表に反映されておらず実情に即わないものとなっている。
3
表1
年
1951~54
1955~57
1963
1980
1990
2008
オレンジジュースに関する輸入関税率の経緯
砂糖を加えたもの
しょ糖10%以下
その他のもの
35%
30%
35%
30%
35%
30%
35%
30%
35%
又は27円/kgの
何れか高い方
25.5%
29.8%
又は23円/kgの
何れか高い方
その他のもの
しょ糖10%以下
その他のもの
30%
25%
30%
25%
30%
25%
30%
25%
30%
21.3%
25.5%
1. 1947年(米軍占領下)のものは、「果じゅう及び糖水」で「砂糖を加えたもの」15.3円
/100斤 と「その他」10.7円/100斤でしか区分けされてなかった。
2. 1954年までこの区分けは変わらなかった。 (税率は変わったが)
3. 1955年、協定(GATT)により、「しょ糖10%以下」と「その他」が区分けされ、前者が30%と
25%に各5%下げられた。
4. 1990年オレンジジュースでは上位区分として「冷凍したもの」と「その他のもの」が追加
された。 その後、-2009.12「冷凍してないもの(ブリックス値が20以下のものに限る)が
追加され3区分となった。 これは1995年にGATTからWTOへの移行に伴うものである。
日本の関税率表では、オレンジジュース同様、他の果汁でも一様に機械的に「砂糖を加えたもの」
、
「しょ糖 10%以下」が規定されている。果汁は近年濃縮果汁の輸入取引が増えているなど多様化して
いる。その影響によるものか、項番 20.09 「果実又は野菜のジュース」での 2007 年の各果汁の輸入
実績における「砂糖を加えたもの」の金額比率を見ると、オレンジジュースが 1.5%、グレープフル
ーツジュースが 1.9% であり、その他のかんきつ類果実のジュース、パイナップルジュース、トマト
ジュース、ぶどうジュース、りんごジュース、その他の果実又は野菜ジュースは全てゼロであった。
これでは何のために未だに「砂糖を加えたもの」の項目をそれぞれに残しているのか理解し難い。
また、果汁中のしょ糖が果糖やぶどう糖に自然或いは作為的な転化により減少することがあるが、
しょ糖含有量の測定は簡単ではない、同種のものでもしょ糖含有量 10%前後に跨ることがある等の
ことから、もはや“しょ糖含有量をもって関税率を決める”ことに意味がないどころか、混乱を招き、
悪用されるおそれもある。
現今、輸入果汁の大半を占める濃縮果汁(ブリックス値約 66) での平均的しょ糖含有量は、オレン
ジ 20~25%、りんご 5~15%、ぶどう 0~3% であり果実の種類により大きく異なる。オレンジの場
合は「しょ糖 10%以下」は通常は殆ど該当しないが、りんごの場合はどちらに入るか個別に変わるで
あろうし、ぶどうの場合は殆ど該当するはずである。このように違いがあるにも拘わらず、一様に「し
ょ糖 10%以下」と規定することは、はもはや“非現実的”と言わざるを得ない。
「砂糖を加えたもの」と「しょ糖 10%以下」の規定は、約 60 年前の戦後国内砂糖生産者を保護す
るために決められたものであり、前述の通り、この分類は今となっては無用であるばかりか、むしろ
関税率表の適用を複雑化させている。
従って、関係行政当局においては、この問題について真剣に検討され、実情に合ったものに改善し
て頂きたいものである。具体案としては、
A1. 「砂糖を加えたもの」の項目を除外する。 又は、
4
A2. 「砂糖を加えたもの」の「砂糖」を「砂糖類」又は「糖類」に変える。
備考: 「砂糖」は、砂糖きび、甜菜など農産物から作られる天然しょ糖の一つであるが、「砂糖類」
或いは「糖類」は、天然・人口を問わず、しょ糖、果糖、ぶどう糖、転化糖、異性化糖、等を含む
もので、英語の Sugar に相当するものである。「砂糖類」または「糖類」であれば、本来の目的に
加えて、多少なりとも後述する偽和の防止にも役立つであろう。
B.「しょ糖の含有量が全重量の 10%以下のもの」を「ブリックス値が 20 以下のもの」に変える。
備考: ブリックス値が高いものは、果汁中の水分を除く固形物をそのままにして濃縮したものなので
付加価値が高い。また、糖類に対して税率を高くするという基本思想があるのであれば、果汁のブ
リックス値は糖含有率にほぼ比例し、測定も正確かつ容易にできるので、より合理的と考えられる。
上記 A1. と B. を組み合わせれば、関税率表は:
2009 果実又は野菜のジュース(・・・・)
オレンジジュース
2009.11 冷凍したもの
①
1. ブリックス値が 20 以下のもの
②
2. その他のもの
2009.12 冷凍してないもの(ブリックス値が 20 以下のものに限る)
③
2009.19 その他のもの
④
と、12 分類は 4 分類に減り非常に簡素化される。
A2. と B. の組み合わせでは 8 分類となる。
もし A2.を EU 関税率表に類似した考えに基づき、加えた糖類の量範囲を明確に、例えば「重量比
20%を超えた糖類を加えたもの」とすれば、この内容はほぼ B.の「ブリックス値が 20 以下のもの」
の対語となるので、A2.は削除し A1.と B.の組み合わせでよいことになる。
備考: EU の関税率に「-91 価格€ 30/100kg 以下のもので、重量比 30%以上の糖類を加えたもの」とあ
り、税率を上げているが、この目的は自国の砂糖生産者保護よりも、安価な糖類を大量に混入させ
た安物、まがい物の果汁に高関税(従価税+従量税)を課すためのもののようである。
② 某国から輸入された“FCOJ らしきもの”の分析結果と偽和に関する考察
1. 分析結果
本年 5 月、某ルートから該当品(某国産 FCOJ)のサンプル(以下「Sample A」という)を入手し、
また、6 月に別の某ルートから別の該当品のサンプル(以下 Sample B という)を入手し、6 月から
7 月の間に各種分析を行った。比較検討するために、該当品以外の各種サンプル、及び糖類分析に
ついては某国産 FCOJ を含んだものを原料としたネット通販の果汁 100%濃縮還元ジュースや、
一般市販品についても行った。それらの分析・検査結果は表 2 のとおりであった。
糖類の分析は、当初は HPLC を使うため愛知県食品工業技術センターに委託したが、その後は
J.K.インターナショナル社の酵素法 F-キットを用いて、当社検査室で行った。 この酵素法は、糖
類分析用として HPLC と共に CODEX General Standard (STAN247-2005)で認められている。
5
表2 果汁サンプルの分析、検査結果
濃縮ジュース
サンプル
某国産FCOJ
A
B
濃縮還元ジュース
ブラジル産FCOJ
C
D
某国産含
有果汁 国内一般市販品(濃縮還元100%)
(濃縮還元
100%)
E
F
*
G
*
H
*
*
糖類分析 しょ糖(g/kg)
(F-キッ ぶどう糖(g/kg)
ト)
果糖(g/kg)
糖度(USDA)
88.4
206.9
215.3
66.02
35.6
241.4
235.6
66.08
216.1
127.2
136.1
66.18
240.7
123.8
135.2
65.98
114.7
*
191.7
198.8*
-
206
*
124.8
132.8*
-
222.6
*
147
153.7*
-
233.7
*
130.5
134.6*
-
酸度(USDA)
4.08
3.26
3.96
3.9
-
-
-
-
糖酸比(USDA)
16.16
20.26
16.71
16.9
-
-
-
-
オイル(ml/100ml USDA)
0.0157
0.0151
0.0038
0.0081
-
-
-
-
9
8.5
10
9
-
-
-
-
色調(USDA)
36.5
35.7
36.7
36
-
-
-
-
アミノ態窒素(mg/100g)
138
136.2
194.7
144.4
-
-
-
-
ビタミンC(mg %)
37.9
32.0
39.5
43.4
-
-
-
-
エタノール(g/kg 11.0BRIX)
<0.01
0.06
<0.01
0.02
-
-
-
-
比重
1.319
1.320
1.315
1.313
1.046
1.047
1.045
1.046
一般生菌(cfu/mℓ)
10
0
0
40
-
-
-
-
かび酵母(cfu/mℓ)
0
0
0
10
パルプ(USDA)
-
-
-
* 6倍濃縮 に換算した値
-
Sample A、B の2検体の分析結果をもって某国からの輸入 FCOJ の全てを表しているとは言え
ないが、少なくとも2検体共しょ糖含有率が全重量の 10%以下であることが判明し、FCOJ でこの
様なものが存在すること自体が驚きであった。 比重も約 1.32 で、理化学検査・微生物検査も通常
の FCOJ と特に変わるところがなかった。しかし、複数パネラーによる官能検査では、“自然な味
ではなくオレンジジュースとは言い難い”とのコメントが多かった。
Sample E はネット通販の
「某国産 FCOJ+某国産以外の FCOJ」を原料にした果汁 100%の濃縮還元オレンジジュースであ
るが、甘さに癖があり香気がなく口に残る感じであった。
2. 偽和に関する考察
一般にオレンジ果汁中の糖成分構成比は、
「しょ糖:果糖:ぶどう糖」がほぼ「2:1:1」と言わ
れている。但し、産地やしょ糖の転化により大きく変わることがある。 AIJN COP には Guideline
として 100%オレンジ果汁の各糖類含有量の幅が示されている。それによれば、しょ糖が 10~50g/
ℓ、果糖及びぶどう糖がそれぞれ 20~35g/ℓ であり、特にしょ糖の幅が広い。また、その Guideline
の備考欄には、糖類の構成比の幅は広く、糖の転化により変わりえることが記されている。
該当品サンプルの分析結果が前記のように、しょ糖含有量が異常に低く通常の FCOJ とは思えな
いものであったことから、1) 某国産のオレンジ果汁の特性
2) 日本に輸入するまでの間にしょ糖
が自然に転化した可能性 3) 某国での偽和の可能性、の 3 点について考察を行った。
1)
某国産オレンジ果汁の特性
欧州に拠点を置く果汁の品質と安全に関わる国際的 NPO “SGF” (Sure Global Fair) の膨大な
6
データベースから、某国産真正(Authentic) FCOJ の 28 件の詳細分析結果が得られた。
図3
某国産真正 FCOJ のしょ糖含有量分布図 (100%果汁換算:SGF データベースより)
3
表 3 は、真正サンプルに関する SGF のデータ及び分析した某国からの輸入 FCOJ サンプル並
びに AIJN Guideline の数値を比べたものである。
表3
某国産 FCOJ 中の糖成分含有量の比較 (100%果汁換算)
SGF某国真正サンプル
しょ糖
果糖
ぶどう糖
糖全体での
しょ糖の割合
単位
g/ℓ
g/ℓ
g/ℓ
最小
31.2
20.1
19.4
平均
39
25
25
最大
45.9
33.2
32.9
%
37.5
44
50.6
輸入FCOJサンプル
Sample A Sample B
15.1
6.6
37.8
39.4
37.2
43.6
16.8
7.4
AIJN Guideline
10~50
20~35
20~35
50以下
注) 輸入 FCOJ サンプルは Brix 11.2、比重 1.045 の 100%オレンジジュースに換算した値。
表 3 から明らかなように、某国からの輸入サンプルの糖成分含有量は、Sample A、Sample
B 共、SGF 真正サンプル及び AIJN Guideline から大幅に外れていることから(AIJN のしょ
糖の低い方を除く)、真正な FCOJ とは言い難い。
備考: CODEX STAN247-2005 では、
「真正(Authenticity)とは、製品での、その元である果実
の物理的、化学的及び官能と栄養上の特性を保持していること」とあり、その判断基準も述べ
られている。
また、農林水産省農林水産消費技術センター(現(独) 農林水産消費安全技術センター)が平成
10~11 年度に実施した各種果汁の複数サンプルの分析結果(調査研究報告第 24 号)「「果実
飲料原料の偽和鑑別法の検討」(平成 12 年 11 月)においても同様のデータがある。
http://www.famic.go.jp/technical_information/investigation_research_report/pdf/2404.pdf
この報告中のオレンジ、りんご、ぶどう果汁の糖成分に関する分析データを表 4 に取りま
7
とめたが、オレンジ果汁に関しては AIJN guideline とほぼ一致している。
表4
(単位: g/ℓ)
主要果汁中の糖成分含有量
オレンジ: 14件
りんご: 20件
ぶどう: 15件
範囲
平均
範囲
平均
範囲
平均
しょ糖
35.3~49.2
42.6
10.7~27.7
19.2
0~5.5
0.5
果糖
18.2~27.3
24.3
40.7~55.1
50
44.7~58.1
52.3
ぶどう糖 16.6~23.6
20.9
13.3~27.1
20
35.2~49.1
43
2) FCOJ 内のしょ糖が自然に転化した可能性
しょ糖液に酸を加えて加温すると、加水分解してぶどう糖と果糖になる。この分解作用の
ことを「転化」といい、この反応によりできたぶどう糖と果糖の混合物を「転化糖」という。
一般に酸の濃度が濃くなったり、しょ糖液の温度が高くなったりすると、ぶどう糖と果糖の
生成が速くなる。
考察 1.
約 2.5 年前に当社で受入れたブラジル産 FCOJ について、ブラジルで出荷前に分析した糖成
分データと、約マイナス 10℃下で保管していた同一ロットのサンプルを、2 年半経過後に分
析した糖成分データを比較した (表 5 参照)。
表 5 ブラジル産 FCOJ 中の糖成分含有量の変化
糖の種類
ブラジルで出荷前に分析
2 年半経過後に日本で分析
しょ糖
約 239 g/ℓ
約 230 g/ℓ
果
約 137 g/ℓ
約 150 g/ℓ
約 130 g/ℓ
約 110 g/ℓ
糖
ぶどう糖
(注) 分析は何れも HPLC による。日本の場合は愛知県食品工業技術センターに委託。
この結果からも明らかなように、約マイナス 10℃下での保管では、2 年半経過後の糖成分含
有量には、あまり大きな変化が見られなかった。
考察 2.
農林水産消費技術センターの調査研究報告第 12 号「貯蔵条件がリンゴ濃縮果汁の成分に与え
る影響について」(昭和 63 年 7 月)
http://www.famic.go.jp/technical_information/investigation_research_report/pdf/1208.pdf
に、しょ糖、ぶどう糖及び果糖について、冷凍(-22℃)、冷蔵(0℃)、常温の 3 温度をパラメー
ターにした 360 日間の糖成分の経時変化の報告がある。それによると、りんご濃縮果汁にお
いて冷凍及び冷蔵保管では糖成分の経時変化は殆ど無かったが、常温では加水分解により、
しょ糖含有量は 360 日後に半減している。
また、少し旧い資料であるが、同センターの調査研究報告第 6 号「加水分解によるしょ糖
の経時変化」(昭和 57 年 3 月)
http://www.famic.go.jp/technical_information/investigation_research_report/pdf/602.pdf
では、所定濃度のしょ糖水溶液にクエン酸、りんご酸及び酒石酸を添加した試料液を冷蔵庫
で保管 (同報告では、資料液の保管温度に関する記述はないが、冷凍庫ではなく、一般的な冷
蔵庫を用いたものと思われる。)し、しょ糖の目減り等の経時変化を調査している。
FCOJ は、通常、常温で輸送や保管されることはなく、必ずマイナス温度で、特に長期保
8
管は-10℃以下で行われるため、FCOJ 中のしょ糖が加水分解により「果糖+ぶどう糖」に自
然に転化されることは考え難い。従って、某国の果汁メーカーが FCOJ 出荷前にしょ糖含有
量低減のための作為的加工を行ったものと思われる。具体的方法は不明だが、しょ糖、果糖
及びぶどう糖の極端な構成比から“偽和されたもの”と推測せざるを得ない。
3) 偽和の検討
食品の「偽和」とは、加工食品の製造工程において、例えば安価な異種原料の混合や水増
しを行い、食品の純正性を失わせることであり、
“果実飲料の偽和”は古くから知られている。
「偽和」によって、消費者が表示と品質との違いにより不利益を被るし、飲料業界に対して
不信感を抱く。更に、不公正取引を引き起こし、業界全体が被害を受けるおそれがある。
欧米では、果汁の偽和(Adulteration)は一世紀以上前からあったようで、行政当局もそ
れなりの対策を講じて来ているが、不正は後を絶たない。果汁の偽和は、当初は“水で薄め
る”、“糖類や酸を添加する”など簡単な操作であったが、偽和鑑別の技術が進むに伴い、そ
れから逃れるために手の込んだ巧妙な手口も増えているようである。
日本では、果汁と偽和の歴史が浅いためか、関心が薄く、取締まりのための法整備が遅れ
ている。
“偽和”と判明しても、人体に危害を加えないものであれば直罪を受けるには至らな
い。JAS 法も緩やかであり、最近頻発している食品偽装・偽和事件をみても、なかなか刑事
起訴までは到らないのが現状である。
米国での規定:
FDA の Federal Food, Drug, and Cosmetic Act Chapter IV - Food の 402. Adulterated
food[342]の中で、食品は以下のいずれかに該当する場合には“adulterated (偽和されている)
とみなす”と規定されている。
(1) 健康に有害な有毒物質を含む。
(2) 安全でない添加された有毒物質を含む。
(3) その容器が健康に有害な有毒物質から構成されている。
-
--------
-
--------
(12) 大切な構成成分が省かれているか、他の物質によって置き換わっている。不都合が隠さ
れている。増量のための、または実際以上の外見を示すための物質が添加されている。
以上のように、米国では"Adulterated Food" という言語は、上記 (12)のいわゆる偽和食品
以外に広範囲の食品の状況に用いられている。(12)のような adulteration は、”economic
adulteration” と呼ばれている。
"Adulterated Food" の他に"Misbranded Food" (偽造食品に相当)の用語がある。
Federal Food, Drug, and Cosmetic Act Chapter III - Prohibited Acts and Penalties の
SEC.301 に
(a) "adulterated" された、もしくは "misbranded" された食品の州間の取引
(b) 州間の取引における食品の "adulteration" もしくは "misbranding"
(g) "adulterated" された、もしくは "misbranded" された食品の製造
-
--------
があり罰則の対象になっている。
偽和事件で処罰された実例:
(Magazine: FDA Consumer より)
9
1993 年、A 社が 3 年間に亘り甜菜糖からの安価な転化糖を濃縮オレンジジュースの一部に
置き換え約 200 万ドルコストセーブしていたのが発覚し、A 社は約 50 万ドル、A 社社長は実
刑の上約 10 万ドルの罰金が科せられた。
1994 年 F 社は、偽和されたオレンジジュースを「100%Pure Orange juice」とラベル表示
して 1000 万ドル以上販売したのが発覚し、9 人の幹部社員が罪に問われた。その内の一人は
37 ヵ月の実刑と約 13 万ドルの罰金が科せられた。
EU での規定:
The European Commission の下部機関に European Food Safety Authority があり
"General Principles and Requirements of Food Law" を所管している。個別的には各国の法
律に従うが、果汁に関する横断的機関としては European Quality Control System (EQCS)、
AIJN、SGF 及び IFU 等があり有機的に機能している。
AIJN の「Code of Practice」と SGF の「真正サンプルデータベース」は、国際的によく
利用されている。
日本での規定:
加工食品の表示に関する法規としては、食品衛生法に基づく諸規則及び JAS 法に基づく加
工食品品質表示基準等があり、また、加工食品の中の果実飲料に関する法規としては、果実
飲料品質表示基準及び同日本農林規格(JAS 規格)等がある。更に、業界団体である果実飲料公
正取引協議会が自主基準として定め、公正取引委員会が認定した「果実飲料等の表示に関す
る公正競争規約」もある。
しかし、日本では“偽和”に対する規定がはっきりせず、品質表示などで問題があっても
出先機関から注意、指導、警告を受けるに留まっているようで罰則が適用された話は未だ聞
かない。
果実飲料品質表示基準及び JAS 規格において、「濃縮果汁」の定義として「・・・又はこ
れらに砂糖類、はちみつ等を加えたものであって・・・」とあるが、これは“真正(Authentic)”
な濃縮果汁と言えるであろうか。
“偽和”をいざなうことに繋がるのではないだろうか。最終
製品の「オレンジジュース」なら夫々のレシピーにより添加物を加えることがあるので理解
できるが、原料たる「濃縮果汁」においてこのような定義がなされるのは理解し難い。
因みに、CODEX における「果実ジュース及びネクターのための CODEX 一般規格」
(CODEX STAN247-2005) では、果汁への糖類やシロップの添加を認めているのは消費者へ
の販売製品やケータリングのみであり、濃縮ジュース (Concentrated Fruit Juice) では認め
られていない。
あとがき
統計データの整理と検討という単純な切っ掛けから、思いもよらぬ問題点が浮き彫りにされた。
例えば、或る国で FCOJ に水と安価な糖類(転化等など)を加え、しょ糖含有量 10%以下の“FCOJ
もどき”のものを作ってそれを日本に輸入した場合、日本での低関税率適用により更に価格上のメ
リットを享受でき、その FCOJ を使った“安かろう悪かろう”製品が最悪の場合には国内に蔓延ら
ないとは限らない。オレンジジュースに限らず他の果実飲料も同様である。
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この裏には日本の現行関税率表や JAS 法にも問題がありそうである。
偽和製品が横行しては
“消費者不利益、飲料業界への不信感、不公正取引“にもなりかねない。関係の行政機関及び団体、
業界におかれては、是非、この問題について真剣に検討され、改善して頂くことを期待する次第で
ある。
参考文献:
1. 財務省貿易統計品別国別表
2. 日本、米国、E.U.の関税率表
・日本: 実行関税率表
(1947 年~2008 年)
・米国: Harmonized Tariff Schedule of the United States (2008)
・E.U.:
List of Tariffs and Supplements in the International Customs Journal (2006)
3. CODEX General Standard for Fruit Juices and Nectars (CODEX STAN 247-2005)
4. AIJN Code of Practice – Reference Guideline of Orange Juice
(2007)
(AIJN: Association of the Industry of Juices and Nectars of the E.U.)
5. SGF (Sure Global Fair International E.V.) ------- Orange Juice Database
6. 農林水産省農林水産消費技術センターの調査研究報告:
・第 6 号「加水分解によるしょ糖の経時変化」(昭和 57 年 3 月)
・第 12 号「貯蔵条件がリンゴ濃縮果汁の成分に与える影響について」(昭和 63 年 7 月)
・第 24 号「果実飲料原料の偽和鑑別法の検討」(平成 12 年 11 月)
7. 新訂版 食品のうそと真正評価
(藤田哲著)
8. FDA (US Food and Drug Administration) 関連文献
・FDA: Federal Food, Drug, and Cosmetic Act (2004)
9. 農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律 (JAS 法:平成 19 年 3 月改正)
10. 果実飲料の日本農林規格 (JAS 規格:平成 18 年 8 月改正)
11. 果実飲料品質表示基準
(平成 19 年 11 月改正)
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