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〈外国語〉
外国語科におけるコミュニケーション能力の育成
―スキットを取り入れた言語活動の充実を通して―
沖縄市立宮里中学校
Ⅰ
教諭
大石根
章
テーマ設定理由
現代社会は,さまざまな価値観,情報が飛び交い,それらに対応する知識や能力が求められている。
PISAなどの諸調査では,思考力・判断力・表現力や学習意欲などに課題が見られる。このような状
況において,確かな学力,豊かな心,健やかな体の調和を重視する「生きる力」を育むことはますます
重要になっている。特に互いの考えを伝え合い,人間関係を円滑にするコミュニケーションをとること
は人と人,人と社会の関係性を保つために大変重要である。
新学習指導要領(外国語)ではコミュニケーション能力の基礎を養うことを目標としている。中学校
段階では小学校における外国語活動の素地の上に「聞くこと,話すこと,読むこと,書くこと」の4技
能のバランスのとれた育成を強調している。それらを通して実際のコミュニケーションを目的として外
国語を運用することができる能力の基礎を養うことを意味している。改訂の基本方針から「知識・技能
の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランスを重視すること。
」とあり,その基盤となる言語に
関する能力の充実が英語科も含め,各教科で重要である。
本校生徒に目を向けると,学校課題としてまじめであるが個人・集団の達成経験が少ない。基礎学力
は高いが,表現活動が苦手である。全国と同様に思考力・判断力・表現力に課題がある。また本校の校
内研修では各教科及び領域で「言葉を育むプログラム」を通して確かな学力を育成することを目標に取
り組んでいる。
これまでの学習指導を振り返ると新単語や文法事項についてのドリル学習,本読みなどを中心に行う
傾向にあった。実際の場面を設定しての言語活動がやや弱く,学習した言語材料を運用して自分の考え
や,意見をその状況に応じて,どのように表現していくかということが充分ではなかった。
そこで,指導の改善として,既習,新単語や文表現を使い,それらが活用される場面を設定した言語
活動の充実を図る必要がある。そして3学年間を通じた指導計画の中で当該学年,各単元で身につけさ
せたい英語力を意識し,生徒の実態に応じた個への指導の手立てを工夫しないといけない。まず新単語
や目標文を正しく理解する。本文の会話の場面と内容を場面イメージシートを活用し,把握する。そし
て本文を手本にしながら,ある場面を提示,生徒で設定していく。その場面に合う会話をペアやグルー
プで考えたり,話したり,書いたりして4技能を統合的に活用してコミュニケーションの充実を図るこ
とができると考える。
本研究では,自分の知識や経験と結びつけて,生徒にとって身近な場面を設定し,ペアで相談して作
り上げていくスキット活動を通して言語活動を充実させたい。スキットを取り入れた活動を充実させる
ことができれば,生徒が主体的に楽しく取り組むことができる。そして英語を通した言語活動における
コミュニケーション能力を育成することができると考え,本テーマを設定した。
Ⅱ 目指す生徒像
1 本文や話される内容の場面や状況を想像し,理解することができる生徒
2 授業に積極的に参加し,英語を通して,コミュニケーションを楽しむことができる生徒
Ⅲ
研究目標
英語によるコミュニケーションの能力を育成するために既習,新しい単語や文表現を活用し,スキッ
トの活動を取り入れた学習を通して実践的に検証する。
Ⅳ
研究仮説
1 基本仮説
お互いの考えを伝え合う場において,実際の場面や状況を理解し,場に応じたスキット活動を通し
て言語活動の充実を図ることで,コミュニケーション能力を育成することができるであろう。
2 具体仮説
(1) 本文で話される内容を理解する場において,その場面を想像して分かった事柄を書き出せる
ように場面イメージシートを活用することで,場面や状況理解が効果的にできるようになるで
あろう。
(2) ペアやグループ活動の場において,身近な場面を設定し,本文を手本にして既習単語や,目標文
を使ってスキットをつくり,互いに会話練習をして発表することでコミュニケーション能力を育成
することができるであろう。
3 検証計画
事前に英語でのコミュニケーションに関するアンケートと小テストを実施し,生徒の実態把握を行
う。それを基にコミュニケーション能力を育成するための場面イメージシートやワークシート,スキ
ット活動,及び評価方法を工夫し,活用した授業展開により課題解決へ向け,理論研究,教材研究を
行う。また,年間を通した指導計画の中で,実態に応じた個への指導の手立ての工夫を進める。
検証授業では上記の言語活動による指導方法の工夫が英語でのコミュニケーション能力の育成に効
果的であったかを生徒が作成した場面イメージシートやワークシート,自己評価シート,スキット活
動の様子や発表等を通して考察する。
事後調査では生徒の変容を見るために事前アンケートと同じアンケートを実施し,比較を行い,本
研究の成果と課題を考察して行く。
Ⅴ
研究構想図
次ページ参照
Ⅵ
理論研究
1 中学校学習指導要領外国語科
(1) 中学校外国語科の目標(
「中学校学習指導要領解説外国語編」より引用)
今回の改訂の経緯はPISA調査など各種の調査から我が国の児童生徒が思考・判断力・表現力,
表1 中学校外国語科の目標
学習意欲や学習習慣・生活習慣,自分
への自信の欠如などの課題を受けた中
外国語を通じて,言語や文化に対する理解を深め,
央審議会の答申を踏まえ,右記のよう 積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の
に目標が示されている(表 1)
。外国語 育成を図り,聞くこと, 話すこと, 読むこと, 書くこ
科の目標は,コミュニケーション能力
となどのコミュニケーション能力の基礎を養う。
の基礎を養うこととし,小学校に導入
表2 中学校英語の具体的な目標
された外国語活動の素地の上に「聞くこ
と」
,
「話すこと」
,
「読むこと」
,
「書くこ (1) 初歩的な英語を聞いて話し手の意向などを理解
と」の4技能をバランスよく育成するこ
できるようにする。
との重要性を強調している。それは単に (2) 初歩的な英語を用いて自分の考えなどを話すこ
知識を身につけさせるだけでなく,実際
とができるようにする。
のコミュニケーションを目的として外国 (3) 英語を読むことに慣れ親しみ,初歩的な英語を
語を運用することができる能力の基礎を
読んで書き手の意向などを理解できるようにす
養うことを意味している。コミュニケー
る。
ションの手段としての外国語というだけ (4) 英語で書くことに慣れ親しみ,初歩的な英語を
ではなく,コミュニケーションの能力を
用いて自分の考えなどを書くことができるように
養うことで時代や激しい社会の変化に対
する。
応できる。自ら課題を見つけ,自ら考え,
主体的に判断し,行動していく。問題を解決する資質や能力,他人と共に協調し,思いやりのある
人間性豊かでたくましく,生きるための力(生きる力)に繋がるものと考える。
Ⅴ
研究構想図
社会的背景
近年,情報化が進み,グローバル化している。その状況に対応する確かな学力,豊かな心,健やかな体の調和を重視
する「生きる力」を育むことが重要になっている。
生徒の実態
県教育施策
・まじめな生徒が多く基礎学力も高いが個人・集団での達成経験
が少なく,表現活動が苦手である。
・自ら学ぶ意欲を育て,学力向上を目指す。
・豊かな表現力とねばり強さを育成する。
市教育施策
教師の実態
・生きる力を培い心の教育の充実を目指す。
・すべての場面で自己肯定感の向上に取り組む。
・4技能の統合的な指導
・英語を通してのコミュニケーション活動の充実に課題
学校教育目標
1【 自 律
2【 希 望
3【豊かな心
4【 健 康
目指す生徒像
】自他の人格を尊重し、自ら考えて行動する生徒
】進んで学習し,自分の将来に希望を持つ生徒
】思いやりがあり,心豊かな生徒
】心身ともに健康で,明るくたくましい生徒
・本文や話される内容の場面や状況を想像し,理解するこ
とができる生徒
・授業に積極的に参加し,英語を通して,コミュニケーシ
ョンを楽しむことができる生徒
研究テーマ
外国語科におけるコミュニケーション能力の育成
―スキットを取り入れた言語活動の充実を通して―
研究目標
英語によるコミュニケーションの能力を育成するために既習,新しい単語や文表現を活用し,スキットの活動を取り入
れた学習を通して実践的に検証する。
研究の基本仮説
お互いの考えを伝え合う場において実際の場面や状況を理解し,場に応じたスキット活動を通して言語活動の充実を図るこ
とでコミュニケーション能力を育成することができるであろう。
具体仮説1
具体仮説2
本文で話される内容を理解する場において,その場面を想
ペアやグループ活動の場において,身近な場面を設定し,本
像して分かった事柄を書き出せるように場面イメージシー
文を手本にして既習単語や,目標文を使ってスキットをつくり,
トを活用することで場面や状況理解が効果的にできるよう
互いに会話練習をして発表することでコミュニケーション能力
になるであろう。
を育成することができるであろう。
理論研究
・中学校学習指導要領外国語科
・ 外 国語 科 にお ける コ ミュニ ケ ー シ
ョン
・スキット活動を取り入れた外国語指
導について
研究内容
指導計画
・生徒の実態調査と分析
・指導計画の作成
授業実践
・学習の見通しと振り返り
・4技能の指導の工夫
・場面イメージシート,ワークシートの工夫
・スキット活動の指導工夫
・PDCA をもとにした評価と個への指導工夫
・評価方法について
・小中連携について
検証授業の計画・実践・分析・考察
研究のまとめ・研究成果と今後の課題
英語では,上記の外国語科の目標を受け,具体的な目標として表2のように設定している。この
ように実際に英語を使用してコミュニケーションを図ることを念頭に置いている。聞く,話す,読
む,書く,の領域別に分けて示されている。それらの基礎的な言語活動をバランスよく生徒の学習
実態に応じて3学年間を通し,計画的・系統的に行うことが大切である。ただ単に英語を読んだり,
書いたりするのではなく,そこには初歩的な英語を通して相手の考えを理解したり自分の考えを書
いたり, 相手に話して伝えることができることである。それらを総合的に育成していくことを通し
てコミュニケーション能力の育成に繋がるとしている。
(2) 英語科における言語活動
言語活動の指導事項は3学年間を通して,実際に英語を使用して互いの考えや気持ちを伝え合う
活動とそれを支える言語材料について理解したり練習したりする活動のバランスに配慮しつつ指導
することが必要である。外国語科の目標及び内容では次のように示されている(表3)
。言語活動の
指導に当たっては,具体的で分かりやすい場面や状況を設定するとともに,いくつかの表現の中か
らその場面や状況にふさわしいものを示しておくことが必要である。言語活動の指導ではある特定
の場面や状況を設定し,生徒自らその場面や状況に合った表現を思考し,判断し,伝え合う活動を
工夫していく必要があると考える。
表3 (2)言語活動の取扱い(イ)
2 外国語科におけるコミュニケーション
(イ) 実際に言語を使用して互いの考えや気持ちを
(1) コミュニケーションとは
コミュニケーションとは「社会生活 伝え合うなどの活動においては,具体的な場面や状
を営む人間が互いに意思や感情,思考 況に合った適切な表現を自ら考えて言語活動ができ
を伝達し合うこと。言語・文字・身振 るようにすること。
などを媒介として行われる。」
(国語辞書 大辞泉)とある。コミュニケーション行動の機能は,単
に情報の伝達にとどまらず,情動的な共感,さらには相手の行動の制御をも幅広く含んでいる。今
日ではインターネットや電子メールなどの情報通信の進展により,その言葉の意味や範囲は多岐に
亘っている。これらに対応できる言語スキルはもちろん,相手を理解し自らの考え・意見を正しく
発信することにより,好ましい人間関係を築き保っていくための大きな基盤である。
(2) 外国語科におけるコミュニケーションについて
外国語科におけるコミュニケーションは,
「外国語を通じてコミュニケーション能力の基礎を養
う。
」と外国語科教育の目標の中核となっている。中学校の外国語科においては,4技能を総合的・
統合的に育成する指導を通して,4技能を活用できるコミュニケーション能力を育成することが求
められている。これは,単に読んだり聞いたりした外国語を理解するにとどまらない。自らの考え
を相手に伝えるときに自分の体験や知識と関連付けて価値判断をしたり,既習の言語材料を用いて
感想や意見を表現したりしていくなど実際の場面を設定する。聞き手や読み手として主体的に考え
判断しながら理解し,話したり書いたりして互いの考えを伝え合い,表現する活動を充実すること
でコミュニケーション能力の育成をねらいとしたものである。
英語教育を通して子供たちに育てたい「コミュニケーション力」が次のように示されている。
表4 (平成 17 年 8 月 3 日
文部科学省「初等中等教育における国際教育推進検討会報告」)
①異文化や異なる文化を持つ人々を受容し,共生することのできる態度・能力(共生・思い
やり)
②自らの国の伝統・文化に根差した自己の確立(個の確立)
③自分の考えや意見を自ら発信し,具体的に行動することできる態度・能力(自己決定・行
動力)
つまり言語スキルのみに偏らないよう,国際社会のなかで求められる協調性や豊かな人間性と
思考力・判断力・表現力に通じる上記の三つの資質・能力を統合的にバランスのとれた育成を
図る必要がある。
3 スキット活動を取り入れた外国語指導について
スキット作りとは,既習事項を活用してある程度まとまりのある対話文を作り出していく活動であ
る。つまり自分の知識や経験を活用し,ある特定の場や状況に合った対話文を考え,表現していくも
のである。さらに生徒の思考力・表現力を高めるためにも有効な手立てであると考える。実際にコミ
ュニケーションを行う場合は,英文を話したり書いたりする際に,
「場面や相手の状況に応じて,どの
表現が適切で伝わりやすいのかを考える力」
(思考力・判断力)。
「場面や相手の状況を踏まえ,自分の
考えや意見を伝えようと身に付けた語彙や表現を駆使して,筋道を立てたり工夫したりして内容を構
成し,適切な表現を用いて発信することのできる力」
(表現力)が求められる。このようにスキット活
動は上記の判断力・思考力・表現力それぞれに関連性が
あり,それらを活用したコミュニケーションの育成に効
教師による授業の展開
果があると考える。スキット作りの手順として(図 1)
,
本研究では授業における基本文・重要文の学習からスタ
-トし,スキットに終わる授業の流れの取り組み方につ
いてである。まず教科書にある新文型や本文の内容をA
生徒自身による場面の設定
LTとのティ-ムティ-チングや日本人教師(JTE)
のみによる授業の展開を実施する。その文型を使った発
展学習の時間に,生徒自身の身近な事柄に関するスキッ
トを作成する時間を設定する。自分たちでスキットの場
面を設定(教師で設定する場合もある)して,その場面
ペア・グループで対話文作成
状況に適した対話文をペア,グル-プで話し合いながら
作成する。スキットの内容をお互いに発表し,他の生徒
が相互にはっきりと理解できるものとなるようにする取
り組みである。教科書に出てくる基本文や新単語の練習
発表・相互理解
や復習,本文に沿った会話文作成が生徒には比較的容易
に無理なくできる方法と考えた。
図1 スキット活動の手順
スキット活動を外国語指導に取り入れるのに際し,次
の三つの留意事項をおさえた(図2)
。①「自分の知識や経験を活用して,話題の展開を決めていくこ
と」は,判断力,②「生徒にとって身近な場面設定を基に会話のやりとりを考えていくこと」は,思
考力,③「ペアで相談しながら作成し,発表することを前提に行う」は,表現力をそれぞれ統合的に
養う。それらはコミュニケーション能力の育成に繋がるとした。
4 評価方法
① 自分の知識や経験を活用
「新学習指導要領の下での学習評価に
判断力
して,話題の展開を決める。
ついては,生徒の『生きる力』の育成
を目指し,生徒一人一人の資質や能力
をより確かに育むようにするため,学
② 生徒にとって身近な場面
習指導要領に示す目標にてらしてその
設定を基に会話のやりとり
思考力
実現状況をみる評価を着実に実施し,
を考えていく。
生徒一人一人の進歩状況や教科の目標
の実現状況を的確に把握し,学習指導
③ ペアで相談しながら作成
の改善に生かすことが重要であると共
し,発表することを前提に
表現力
に,学習指導要領に示す内容が確実に
行う。
身に付いたかどうかの評価を行うこと
が重要である。
」
(国立教育政策研究所)
コミュニケーション能力の育成
とあるように評価については生徒一人
一人に焦点をあて,学習内容の定着度
図2 スキット活動の留意事項
を把握する必要がある。生徒の実態に
合った指導計画を立て,実践していく過程で生徒一人一人の進歩状況をみながら指導計画,方法を工
夫・改善していくPDCAサイクルに位置づけられる。それは「指導と評価の一体化」の教育を効率
よく推進するうえで重要である。
外国語科においても,学習指導要領で3学年間を通じて目指すべき目標が示されており,各学校に
おいて学年ごとの目標をさだめ,指導計画を適切に作成することになっている。このため,各学校の
年間計画に基づき,単元の目標や内容,学習活動を明確にして計画を立て,評価基準を立てる必要が
ある。
評価基準を立てる際に習得状況の分かりやすい指標として
「判断基準表」
(文教学院大学教授 渡
邉寛治)を参考にした。「判断基準表」は活動で想定される「評価観点と評価規準」,それらをより具
体化した判断基準である。
示された身に付けたい力の習得状況の程度を明示するもので,
数値や記号,
文章表記で示したものである(表5)
。
表5
評価観点と評価規準
「十分満足できる」状
況
(A)と判断される生
徒の具体的な例
スキットで自分の
家族や友人のことに
関心が高く意欲的に
相手に伝えようと判
断できる。
「努力を要する」状況
4観点
評価規準
(C)と判断される生徒
の具体的な例
手だて(○印)
コミュ
スキット
スキットで自分の
スキットで自分の家族
ニケーシ で間違うこ
家族や友人のことを や友人のことを発話する
ョンへの とを恐れず
躊躇せず発話しよう のが難しい。
関心・意 話してい
としている。
○事前に家族や友人のこ
欲・態度 る。
とについて,スキット作
成がスムーズに進むよう
(趣味やスポーツなど)
調べさせておく。
上記の表5の「努力を要する」状況(C)と判断される生徒の具体的な例のように該当する生徒へ
の手だてを考え,評価へ繋げることができる。同時に指導の改善を図ることができる。このようにP
DCAサイクルを取り入れた評価をすることで,課題がある生徒に対して「個に応じた指導の充実」
が図られる。
学校評価全体の枠組みの中で適切に位置づけられ,
実施されることが必要とされている。
本研究では単元の評価規準と評価方法,及び,課題のある生徒に対しての「個に応じた指導」を工夫
していく。コミュニケーション能力の育成には繰り返し学習,3学年間を見据えた取り組みが必要な
のでPDCAサイクルを取り入れた評価方法をし,生徒の実態に合った指導の工夫・改善を図ってい
く。
5 小中連携について
小学校の外国語活動の目標(表6)を見ていくと,中学校の目標と同様に「コミュニケーション能
力」の育成を目標にしている。
表6
「満足できる」状況
(B)と判断される
生徒の具体的な例
平成 20 年度版 小学校学習指導要領解説外国語活動編より
小学校 外国語活動 目標
第1 目標
・外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深め,積極的にコミュニケーションを図
ろうとする態度の育成を図り,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら,コミュニケ
ーション能力の素地を養う。
小中連携が求められているのは明白である。中学校は小学校段階で,その能力がどのように,また
何(言語材料)が,どの程度慣れ親しまれているのかをある程度把握しておく必要がある。特に第 1
学年では小学校での外国語活動を通して育成された素地を踏まえた学習指導を工夫していくことで小
学校の外国語活動から中学校への円滑な接続が図られる。
現在,小学校で活用されている英語活動の副読本「Hi! friends」では小学校で扱う文表現が中学校
英語学習のどの単元で出てくるか明示されている。このことより,小中連携したカリキュラムを考え
ていく必要があると考える。
小中連携の例として,小学校の英語活動(What color do you like?)で生徒自身が作り,使った作
品(好きな色のTシャツの絵)を中学校へ提出しておく。中学校の英語学習で What~?や Who~?など
の疑問詞を用いた疑問文の導入や展開にその作品を活用することができる。
このように小学校の聞く,
話す活動で取り扱った内容を中学校でさらに発展させて活用することができる。そのことは生徒の興
味・関心・意欲を高めていくうえで効果的であり,小学校と中学校の連続性をより実感できる。小学
校では始業時のあいさつを英語で「Attention please. Let’s start English class!」「OK. Let’s
start English class!」
,終業時は「Attention please. Let’s finish English class!」
「OK. Let’s
finish English class!」で習慣付いているのでそのまま中学校でも継続して使える。小学校でペア・
グループ活動に慣れさせておくとで,中学校でもよりスムーズにペアを組んだり,グループでの活動
ができる。中学校からペアやグループ活動の実践例や形態等を紹介するのも良い。
中学校段階では「多くの生徒が心身の成長に不安定を覚える段階である。目立つことや恥をかくこ
とを恐れ,人前で自分の意見を述べることを臆する傾向が強くなる。」
(金井睦)このことから生徒の
発達段階や生徒が置かれている環境を考慮し,生徒一人一人の学習状況を把握しながら,言語活動の
内容を工夫・改善する必要がある。間違うことを恐れず,ペアワークやグループワークを多用して実
際のコミュニケーションの場を設定し練習をする。同時に読みや書くなどの小学校にはなかった取り
組みを加えた学習活動を通して,文構造の理解や自分の考え・思いを表現する喜び,英語を通しての
コミュニケーションを数多く成功体験させることも大切である。
そのことにより生徒の視野が広がり,
学習意欲の伸長に繋がると考える。
Ⅶ
研究実践(検証授業等)
1 単元名
My family in the UK
(中学校 1 年 New crown Lesson 6)
2 単元の目標
(1) 自分の家族や友人のことを口頭で説明する。
(2) ペアワーク,グループ活動において間違うことを恐れず話す。
(3) 三人称単数形の文の構造を理解する。
(4) 疑問詞 Where と When を用いた文の構造を理解する。
3 単元について
(1) 教材観
本単元ではブラウン先生の家族の紹介を通して,三人称単数現在形の文章や問答を学ぶ。これま
で,自分や相手以外の第三者については be 動詞を用いて表現することはできるが,一般動詞を用い
て人についても表現できるようになると,今まで以上に表現の幅は広がる。しかし,複数形の s(es)
も学習した時期でもあり,人称の概念も出てきて生徒にとっては複雑で混乱しやすいので何度も言
ったり,書いたりしないと身に付けにくい単元でもある。また本単元の話題になっているイギリス
という国の歴史や文化を知ることを通して異文化に関心を持たせたい。
(2) 生徒観
本学級の生徒は単語練習のリピートや全体での読み練習では声が良く出るがクラス全体の前での
発表やリーディングでは声が小さく,自主的な発表者も少ない。単元が進むにつれて基礎的・基本
的事項の定着が課題とされる生徒も多くなっている。そこで,より実際感が持てるように目標文を
使ったスキットをペアで作成,練習したり教科書の本文の読み練習を行うことで楽しく,また積極
的に発表や読みを行うことができる生徒が出てきた。
本単元を進めるにあたり,英語の授業に関するアンケートを実施した結果本学級の実態として次
のことが分かった。
「授業中,習った英語を使うことができますか」に対する答えで「あまり使って
ない」と「使っていない」合わせて 50%である。学習指導要領ではコミュニケーションを目的とし
て外国語を運用する能力の基礎を養うことを示しているので,英語の授業において学習した単語,
目標文等を活用した言語活動が必要である。また「本文を読んだり聞いたりするとき,その場面や
状況を想像していますか」という問にたいして「あまりしていない」24%,
「していない」11%で合
わせて 35%の生徒が漠然と読んだり,聞いたりしていることが分かった。コミュニケーションにお
いて相手を理解するうえで,
話の内容や表情等から推測したり想像力を働かせることは重要である。
そこで話の内容をしっかり想像させ,理解し,学習した言語材料をもとに自分や他のことについ
て英語を通して表現する能力を育成したいと考える。
(3) 指導観
言語材料の一般動詞の三人称単数現在形は、主語によって動詞が変化する日本語には見られない
語法であるため難解である。確認テストや授業ごとの評価シートを使って振り返りを行い,PDC
Aをもとに確認しながら指導にあたりたい。
「読むこと」の学習については,教科書本文の中の新言
語材料に注目させながらも,イメージシートを活用してブラウン先生や,イギリスに住んでいる両
親はどういう人なのか全体の内容をしっかりと読み取らせたい。また,ペアでのスキット活動を通
して運用力の育成を図っていきたい。
4 本研究との関わり
本研究で考えるコミュニケーション能力とは英語を通して相手の言っていることや考え,文書など
を正しく理解し,自分の考えを正しく伝えるためのコミュニケーションを図ろうとする能力である。
それの育成のために今までの自分の知識や経験と想像力を活用して相手の言っていることを分かろう
とすることや,ある場面を設定して学習した言語材料を活用し,表現していく練習をしていくことが
必要であると考える。
5 単元の評価規準
(1) 単元の評価規準を次のように設定した。
(ア)コミュニケ
ーションへの関
心・意欲・態度
(イ)外国語表現の能力
(ウ)外国語理解の
能力
(エ)言語や文化についての知
識・理解
①
①
①
①
スキット等で
間違うことを恐
れず話している。
三単現の英文を使っ
て家族や友人のことに
ついて簡単な説明文が
書ける。
本文の内容を
正しく理解でき
る。
3人称単数形の文の構造を
理解している。
② 疑問詞 Where と When を用い
た文の構造を理解している。
(2) 年間指導計画から見た「単元の評価規準」と「Cと判断される生徒への手だて」
4観点
評価規準
「十分満足できる」状況
(A)と判断される生徒
の具体的な例
「満足できる」状況
(B)と判断される生
徒の具体的な例
「努力を要する」状況(C)
と判断される生徒の具体
的な例
手だて(○印)
コミュ
ニケーシ
ョンへの
関心・意
欲・態度
スキットで
間違うことを
恐れず話して
いる。
スキットで自分の家
族や友人のことに関心
が高く意欲的に相手に
伝えようと判断できる。
スキットで自分の
家族や友人のことを
躊躇せず発話しよう
としている。
スキットで自分の家族
や友人のことを発話する
のが難しい。
○事前に家族や友人のこ
とについて,スキット作成
がスムーズに進むよう(趣
味やスポーツなど)調べさ
せておく。
三単現の英文を使って
自分の家族や友人のこと
について簡単な説明文を
書くことが難しいと判断
できる。
○三単現の意味を再確認
し,教科書の本文を参考に
させる。
本文の内容についてイ
メージシートに記入する
ことが難しい
○2~3回聞かせたり,読
ませたりする。
ワークシートの記述や
確認テストで三単現の s
の理解が 60%以下で「努
力を要する」状況と判断さ
れる。
○一人称,二人称と比較
し,違いを理解させる。
ワークシートの記述や確
外国語
表現の能
力
三単現の英
文を使って家
族や友人のこ
とについて簡
単な説明文が
書ける。
三単現の英文を使っ
て家族や友人のことに
ついて簡単な説明文が
書け,意欲的に取り組ん
でいると判断できる。
三単現の英文を使
って自分の家族や友
人のことについて簡
単な説明文が書けて
いると判断できる。
外国語
理解の能
力
本文の内容
を正しく理解
できる。
本文の内容について
イメージシートに正し
く記入していると判断
できる。
本文の内容につい
てイメージシートに
記入している。
言語や
文化につ
いての知
識・理解
三人称単数
形の文の構造
を理解してい
る。
疑問詞の
Where と When
を用いた文の
構造を理解し
ペーパーテストで三
単現の s が「充分満足で
きる」状況と判断される
ペーパーテストで疑
問詞 Where と When を用
いた文の構造を「充分満
足できる」状況と判断さ
れる。
ペーパーテストで
三単現の s の理解が
「おおむね満足でき
る」状況と判断される
ペーパーテストで
疑問詞 Where と When
を用いた文の構造を
「おおむね満足でき
ている。
る」状況と判断され
る。
認テストで疑問詞 Where
と When を用いた文の構造
の理解が 60%以下で「努
力を要する」状況と判断さ
れる。
○疑問詞は文頭に置くこ
とを確認させ,その後は既
習の疑問文の形が来るこ
と(配列)を理解させる。
6 単元の指導計画(8時間)
時
数
○ねらい・学習内容
1
○本単元で身に付ける技能や
理解する内容を知る。
○三人称単数形の文の構造を
理解する。
Part1
・New words
・Miki plays tennis.
・人称の意味,違いの確認
・確認テスト
・自己評価シート記入
○自分の家族や友人のことを
相手に伝えている。
Part1
・New words の復習
・本文の読み,内容理解
・イギリスについて
・自分の父,母,友人に置き
換えてスキット練習・発表
・自己評価シート記入
○三人称単数形の文の構造を
理解する。
Part2
・New words
・Does Miki play tennis?(疑
問文)
Yes, she does./No, she
doesn’t.
・ Does~?を使って会話練
習
・確認テスト
・自己評価シート記入
2
3
4
○三人称単数形の文の構造を
理解する。
Part2
・New words の復習
・Miki does not(doesn’t)
play table tennis.(否定文)
学習活動
指導上の留意点
評価と個への指導
規準・技能 評価方法
個への指導
①New words を理解させる。
エの①
確認テス
・ノートの
(UK と England の違いなど)
ト
連習問題点
地図を利用
〈書く〉
自己評価
検
②3人称単数形の意味と
シ-ト
・例文をい
sの付け方を理解させたい
くつか示
(主語が I,you 以外で一人,
す。
一つの場合一般動詞にsが
・家庭学習
付く)
用プリント
①確認テストの結果をもと
に復習
②まず教科書は見ないで
本文を聞き,内容をイメージ
シートに記入する。
Q-Aで確認
③話題になっている先生
の父母を自分の父母に換え
てスキットを作り発表する。
①New words を理解する。
(does は do にsが付いた形
である)
②3人称単数形の疑問文
は理解しやすいようにsの
移動で理論的,視覚的に示
す。
③練習の後確認テストで理
解できたかを見て次時に生
かす。
①確認テストの結果をも
とに前時の復習
②3人称単数形の否定文
も疑問文と同様sの移動で
理論的,視覚的に示す。
③練習の後確認テストで理
アの①
イの①
ウの①
〈聞く〉
〈読む〉
〈話す〉
エの①
〈書く〉
〈話す〉
エの①
スキット
活動
イメージ
シ-ト
自己評価
シ-ト
・机間指導
しながら進
まない生徒
へアドバイ
ス
・例をいく
つか示す。
活動の観
察
確認テス
ト
自己評価
シ
-ト
・ノートの
点検,アド
バイス
・会話練習
に教師も参
加する。
・家庭学習
用プリント
確認テス
ト
自己評価
シ-ト
ワークシ
ート
・ワークシ
ートの点
検,アドバ
イス
5
6
7
検
証
授
業
・ワークシートで問題練習
・確認テスト
・自己評価シート記入
解できたかを見て次時に
生かす。
○自分の家族や友人のことを
相手に伝えている。
Part2
・New words の復習
・本文の読み,内容理解
・登場人物を自分の兄弟や友
人に換えてスキット練習,発
表
・自己評価シート記入
①確認テストの結果をも
とに前時の復習
②まず教科書は見ないで本
文を聞き,内容をイメージ
シートに記入する。
Q-Aで確認
②話題になっている先生
の妹を自分の兄弟や友人に
換えてスキットを作り発表
する。
①New words を理解する。
②3人称単数現在形の Wh疑問文は既習の do が does に
なったことを強調する。
③ペアでの練習後確認テス
トで理解できたかを見る。
○疑問詞 Where と When を用い
た文の構造を理解している。
Part3
・New words
・Where(When) does Miki play
tennis? (疑問詞を使った疑
問文)―答え方
・確認テスト
・自己評価シート記入
○when,where を使って家族や
友人のことを相手に聞いたり
答えたりする。
Part3
・New words 復習
・本文の読み,内容理解
・場面を換えてスキット練習,
発表
・自己評価シート記入
8 Lesson6(My family in the UK)
Part1~3 まとめ
・New words 復習
・3単現のs,疑問文,否定
文,イギリスについて
・確認テスト
・自己評価シート記入
・アンケート記入
①まず教科書は見ないで本
文を聞き,内容をイメージシ
ートに記入する。
Q-Aで確認
②話題になっている場所や
バグパイプを換えてスキッ
トを作り発表する。
〈書く〉
アの①
ウの①
イメージ
シ-ト
スキット
活動
・ペアで練
習グループ
内でも発表
・いくつか
例を示す。
〈読む〉
〈話す〉
自己評価
シ-ト
エの①,②
活動の観
察
確認テス
ト
自己評価
シ-ト
・机間指導
・会話練習
に教師も入
る。
スキット
活動
イメージ
シ-ト
自己評価
シ-ト
・ペアで練
習
確認テス
ト
自己評価
シート
アンケー
ト
・わからな
い点を挙げ
させる。
・疑問点に
答えながら
進める。
〈書く〉
〈話す〉
アの①
ウの①
〈聞く〉
〈話す〉
①Lesson で出てきた単語を エの①,②
フラッシュカードで発音,意
味,綴りのセットで復習
〈書く〉
②3単現の意味,肯定文,疑
問,否定文の形を確認する。
③確認テストで理解できた
かを見る。
④事前にとったアンケート
と同じものをとり研究の成
果と課題の分析につなげる。
・いくつか
例を示す。
7 本時の指導
(1) 本時の目標
When,Where を使って家族や友人のことを相手に聞いたり答えたりする。
(2) 授業仮説
ペアやグループ活動の場において,身近な場面を設定し,本文を手本にして既習単語や,目標文
を使ってスキットをつくり,互いに会話練習をして発表することでコミュニケーション能力を育成
することができるであろう。
(3) 本時の「単元の評価規準」と「Cと判断される生徒への手だて」
観点
評価規準
「十分満足できる」状
況(A)と判断される
生徒の具体的な例
「満足できる」状況
(B)と判断される
生徒の具体例
「努力を要する」状況
(C)と判断される生徒
の具体例と手だて
コミュニケ
ーションへの
関心・意欲・
態度
スキット等
で間違うこと
を恐れず話し
ている。
与えられた一般動詞
を使って when,where
を使ったスキットを作
りペアで練習ができ,
自作のスキットを作る
ことができる。
与えられた一般
動詞を使って
when,where を使っ
たスキットを作り
ペアで練習ができ
る。
与えられた一般動詞を
使って when,where を使
ったスキットを作ること
が困難。
机間指導しながら例を示
し,ワークシートへの記
入を促す。
(4) 本時の展開(7/8時間目)
時
学習活動
生徒の活動
教師の支援
評価
4技能
間
1
Warm up
1
Good morning, I’m
10
fine thank you, It’s
分
Friday, など
導
2
学習の見通しを持つ
2
入
めあてを読み上げて
確認する。
1 英語であいさつ,曜
1
日等を質問する。
コミュニケーシ
ョンへの関心・意
1
話す
こと
欲・態度
2 めあてを掲示し,確
2
認する
コミュニケーシ
ョンへの関心・意
「Where,When を使って家
2
話す
こと
欲・態度
族や友人のことを聞いた
り答えたりする。
」
3
New words の復習
3
スペル→発音,日本語→
英語
3 フラッシュカード
3
を活用
コミュニケーシ
ョンへの関心・意
3
話す
こと
欲・態度
4
目標文の復習
4
目標文を読み上げ,意味
を確認する。
4 センテンスカード
4
を掲示,活用
コミュニケーシ
ョンへの関心・意
語順に注意するよ
Where does Miki play
tennis?
―She plays tennis near the
river.
4
話す
こと
欲・態度
う確認する。
知識・理解
場所→Where,
時→When を使うこ
とを強調
does Miki play tennis?
―She plays tennis .
on Sundays.
5
35
本文の内容を理解,読みの
5
教師が読む英語を聞い
練習
て分かった内容をイメー
分
ジシートに記入,全員で内
6
展
スキットを作り,練習,発
容を確認する。
表
全体で読みの練習をす
開
5 ピクチャーカード
イメージシートの
内容について問いか
けて答えを確認する。
る(2~3 回)。
6
ペアでスキットを作成
し,練習,発表する。
5
外国語理解の能
を使って読み上げる。
力
6
5
コミュニケーシ
読むこ
ョンへの関心・意
と
欲・態度
6
6 スキットの例を示
す。
5
まとめ
本文の読みを全員で行う
相手・自分以外の人につ
分
振り返り(自己評価)
自己評価シートで学習の振
いて聞いたり説明でき
り返りを行う
ることを確認する
聞く
こと・
話す
こと
8 公開授業の様子
学習の見通し
今日の学習
内容について
Where,When を使って家族や友人の
黒板に掲示,
ことを聞いたり答えたりする。
全員で読んで
写真1
学習の内容を確認
確認する。
Where does Miki play tennis?―She plays tennis near the river.
When does Miki play tennis?―She plays tennis on Sundays.
前時の内容を復習。全員で読んで意味も確認
イメージシートを作成
ALTとJTE
で数回,同じ会話
写真3
文を読んで聞かし
ながら記入させ
る。
写真2 ALTとJTEの会話文を聞く
写真3
わかった事をイメージシートに記入
本文の内容を聞いて想像したことやわかった事をイメージシート
に記入。その後全体で内容を確認(具体仮説1)
全体で読み練習した後,本文を参考に自分の家族
や友人についてのスキットを作成
本読みの練習をした後,自分
の家族や友人についてスキッ
トを作成。例を示し,参考にさ
せる(手だて)。
写真5 机間指導しながら個への対応
作成したスキットをペアで練習(具体仮説2)
写真4
スキットの例をALTと一緒に紹介
作成したスキ
ットをペアで練
写真7
写真6
習。ALTも巡回
し,質問に対応し
たり発音指導を
する。
写真6 スキットの練習風景①
写真7
スキットの練習風景②
全体の前で発表
ペアで練
習したスキ
ットを全体
写真9
写真8
の前で発表,
全員で聞く。
→
相互理
解
写真8
発表の様子①
写真9
発表の様子②
学習の振り返り
授業の最後に自
己評価シートを使
って今日の学習を
振り返る。
生 徒 の 振 り返 り を もと
に次時の授業の工夫・改
善へ繋げていく。生徒の
習 得 状 況 の把 握 に も活
用する。
図3
Ⅷ
自己評価シート
仮説の検証
本研究では,本文の内容理解の効果的手法としてのイメージシートの活用と,ペア,グループ活動に
おけるスキット作り,練習,発表を通してコミュニケーション能力の育成ができたかをワークシートの
記述や生徒の自己評価,事前・事後のアンケートの比較や生徒の感想等から検証していく。
1 具体仮説(1)の検証
本文で話される内容を理解する場において,その場面を想像して分かった事柄を書き出せるよう
に場面イメージシートを活用することで,場面や状況理解が効果的にできるようになるであろう。
具体仮説(1)では,本文を聞いたり,読んだりする時にその内容を主体的に分かろうとして想像し
ているかということを生徒のイメージシートへの記述や振り返りシートから検証する。
(1) イメージシートについて
イメージシート(図4)は生徒が聞いたり,読んだりする際に会話されている場所や人物,内容(表
7)について想像し,分かった事柄を書き出せるようにしたワークシートである。イメージシートの
設問内容は,問1「話されている場所はどんな所?」,問2「誰と誰が話をしている?」
,問3「ど
んな場面ですか?」
,問4「何について話をしているか?」と5W1Hを基本に置いた質問で,一言
二言の日本語で答えられるものとした。問5は聞き取れた単語や英文を書き出せるようにした。
表7 本文の内容(「中学校 1 年 New crown
Lesson 6」)
Paul: Where does your sister live?
Ms Brown: She lives in London. She has
a job at a college.
Paul: When does she play the
bagpipes?
Ms Brown: She plays them every summer
at festivals. Look.
Paul: Fantastic!
ALTとJTEで話す本文の内容(表7)を
図4 イメージシート
聞かせながらこのイメージシートに分かった事
柄を記述させた。その結果,ほぼ殆どの生徒が
その内容についての質問に対し書き出すことが
できた。しかし,その書き出した答えが本文の
内容と全て合っているのは,一部の生徒であっ
た。そこで,設問の問1から全員に教師が問い
かけて,生徒に答えを発表させた。
「お家」,
「学
図4 イメージシート
校」
,
「運動場」とそれぞれが活発に答えを出し
合い,全員で話し合いながらより具体的に「学校の教室の中」
,という一番適する答え(会話してい
る場所)を導き,確認することができた。
学習後の生徒の自己評価シート(図5)より「先生の言っている事をイメージしながらできた」
「集中してできた」
「理解できた」
「プリントに全部書けた」
「一応理解できた」等の記述から,答え
を意識しながらも,話を聞きながらその内容について想像力を働かせたと考えることができる。そ
のことは実際の会話においても相手の話す内容について,その場面をイメージしながら聞くことの
習慣作りにも役立つと考える。
図5
自己評価シート
(2) 事前,事後のアンケート結果より
右の図6のグラフは英語の授業や
コミュニケーションについて,事前
にとったアンケートと実践を終えて
からとった事後のアンケート結果を
比較したものである。アンケートの
質問は「本文を読んだり聞いたりす
る時,頭の中でその場面や状況を想
像(イメージ)していますか」とい
う内容である。事前にとったアンケ
ートで「イメージしている」33%,
図6 事前,事後のアンケート結果を示したグラフ
「時々やっている」32%で合計 65%
が事後では,それぞれ 56%と 25%で合計 81%と増加している。イメージシートの質問事項に答え
ようとして想像を巡らせたと考えられる。
次のグラフ(図7)は,1 時間目の学習を終えた時点での評価が「C」と判断された生徒(努力
を要する状況の生徒)の自己評価シートと 7 時間目終了時の評価シートの比較を示したものである
(縦軸は,4→とてもそう思う,
3→そう思う,2→あまり思わ
ない,1→思わない)
。
イメージできた
単元の当初は内容については
あまりイメージしていなかった
が,単元が進むに連れてイメー
1時間目
ジするようになり,本文の意味
本文の意味がわかった
もわかるようになっている。そ
7時間目
のことは,普段のコミュニケー
ションにおいても相手が言って
いることや伝えていることの内
読みを積極的にやった
容を考えたり,推し量ったりす
る能力の育成にも繋がっていく
と考える。
0
1
2
3
4
クラス全体の統計からも三つ
図7 自己評価シートの比較を示したグラフ
の項目のそれぞれが「とても思
う」と「そう思う」を合わせて9割以上の数値を示している(図8,9,10)
。
図8
全体アンケート①
図9
全体アンケート②
図 10 全体アンケート③
しかし,
「そう思わない」生徒もそれぞれ数名おり,今後も継続した個別指導の工夫・改善,実践が
必要である。
上のそれぞれのグラフの内容から,イメージシートを活用することで本文の内容理解,同時に本
読み等への積極的な取り組みの助けになっているものと考える。
2 具体仮説(2)の検証
ペアやグループ活動の場において,身近な場面を設定し,本文を手本にして 既習単語や,目標
文を使ってスキットをつくり,互いに会話練習をして発表することでコミュニケーション能力を育
成することができるであろう。
具体仮説(2)では,
スキットを外国語学習に取り入れることがコミュニケーション能力の育成に有効
であることを生徒の活動の様子や,事前事後のアンケート結果等から検証する。
(1) スキット作りを通して
新単語や新文型の導入,練習した後それらの文型を使って身近な場面を設定して,スキット作り
に取り組ませた。最初の段階では生徒の興味が湧くように自分の親しい人の似顔絵を描いて,その
人物について会話練習ができるようにした(図 11)
。興味を持ちながら楽しく取り組む姿が見られ,
ペアの相手と積極的に練習することができた。
図 11 絵を活用したスキット
図 12 単語を指定したスキット
次に新しい文表現を使って「相手に質問してもら
う文」
,
「自分が答える文」と分けた。使用する単語,
語句もある程度指定し,作成させた(図 12)
。教科書
の本文に出てくる文章,単語,語句を参考にしてい
るので比較的スムーズに作成することができた。し
かし,ところどころ記入できていない生徒も数名お
り,机間指導しながら例を示したり,お互い聞き合
って作成するよう声掛けすることにより最後まで記
入することができた。
最後の段階では,目標文の Where,When を使った
図 13 自由に作成したスキット
文を用いて自由に会話文を作成させた(図 13)。その際,スペルや文法事項等を意識しながらも,
とらわれ過ぎないよう,自由な発想で書けるように声掛けを行った。本文を参考にしたり,教師に
質問したり,生徒同士で質問したりして,殆どの生
徒が作成することができた。生徒が書いた感想を見
ると「Where,When を使った疑問文を作ることがで
きて良かった」
「プリントにちゃんと書くことができ
た」等の達成感に通じる文が見られた。
このように,段階を追って比較的容易で,教師が
写真 10
ある程度語句等を指定したりして生徒が取組やすい
ものから徐々に難易度を上げていった。そうするこ
とで生徒の負担やストレスを少なくすることができ,
円滑にスキット作成ができると考えた。
(2) スキット活動の様子
スキット活動は教科書のどの単元でも活用できる
写真 10 スキット練習
が,説明文やリーディング中心の物語を扱った単元ではあまり向いているとは言えない。この場合
は「読むこと」
,
「理解力」に視点を置いた指導・工
夫が適していると考える。
本研究で扱った「三人称単数現在形のS」は,生
徒にとっては理解困難な所である。同時に,自分と
相手以外の話題について会話ができ,英語を通じて
のコミュニケーションの幅が広がる単元でもある。
写真 11
このように難解な単元を(1)で述べたワークシ
ートをもとに,ペアやグループでスキット活動を楽
しく取り組めるよう工夫した。ペアで練習(写真 10,
11)した後,数組に全体の前で発表する場を設けた。
生徒の書いた自己評価シートの感想(図 14)を見
ると,文を作れたこと,ペアで練習できたこと,英
写真 11 ペアでの練習
語で会話できたこと,皆の前で発表できたこと
等,次の学習意欲に繋がる達成感を読み取るこ
とができる。
(3) 個への指導の手だて
ここでは,観点の知識・理解で「努力を要す
る状況」と判断される生徒に対し, 行った手だ
てについて述べていく。三人称単数現在形主語
の「一般動詞の疑問文の作り方」での授業で,
学習した後,家庭学習として取り組ませた(図
15)
。
肯定文の場合の動詞に付いていた s(es)が疑
図 14 自己評価シートの感想
問文になると助動詞の Do に移動し,
動詞の原形になることを示すと同時
に,既習事項の Do を用いた疑問文と
比較させた。その違いに気付かせる
ことで比較的容易に答えることがで
きた。
しかし,実際のスキット作りでは
ワークシートにスムーズに書けない
こともあった。そこで全体で繰り返
し練習・確認したり,教師から個別
の声掛けやアドバイスを行うことで
仕上げることができた。
このように家庭学習で復習し,授
業で確認した。不十分と判断される
場合は家庭学習に出た問題を繰り返
し復習し,確認を行った。
図 15 復習のための家庭学習
(4) 事前,事後のアンケート結果より
グラフの図 16 は,英語を通じてのコミュニケーションについて,アンケートで実践の事前と事
後の結果を示したものである。4項目(1「習った英語を使うことができる」
,2「英語は楽しい」
,
3「相手の言うことをしっかり聞いている」
,4「自分の事を相手にしっかり伝えている」
)の内「習
った英語を使うことができる」に対する回答が事前の 50%から事後の 72%と,他の3項目に比べ,
その伸びが顕著である。それはスキット活動を通して,練習したり発表したりしたことにより,英
語を「使った」
,
「使えた」と認識していると言える。教師側から見ると,実際はスキット活動を通
してほぼ全員の生徒が学んだ目標文を活用して練習をしていることから 100%に近い数字が出てき
ても不思議ではないと考えるが,生徒の意識としてはそこまで実感はないものと考える。より実感
が持てるよう指導・工夫が必要である。その為にもスキットを取り入れた学習は外国語習得に少な
からず役に立つ方法の一つと考える。
場面や状況を設定することで,英語の
みならず実際の人間を相手に行うコミュ
ニケーションを基盤に,近年急速に発展
しているさまざまな電子機器を媒体とし
たコミュニケーション活動等の練習にも
対応可能である。
これらのことからもスキットを取り入
れた外国語学習をすることで,コミュニ
ケーション能力の育成に繋がると考える。
しかし「英語は楽しいですか」の問に対
しては若干の落ち込みが見られる。それ
は日常使っている日本語には,あまり馴 図 16 事前,事後のコミュニケーションに関するアンケート結果
染みのない「三人称単数」と言った概念や,文法事項の難しさから来ているのではないかと考えら
れる。日本語との違いを示していくと同時に,内容理解や会話練習と共にその基盤になる文構造の
理解や反復練習等が必要であることを痛感する次第である。
「相手の言うことをしっかり聞いていますか」と「自分の事を相手にしっかり伝えていますか」の
問に対してもそれほどの伸びが見られない。日常それらをあまり意識せず,友人や家族との会話を
交わしている表れだと考えることができる。コミュニケーションの基礎となるしっかり聞いて,し
っかり伝えるという事の重要さを認識させていく必要がある。それは人間社会を構築し,人間関係
をスムーズで良好なものにしていく上で,必要不可欠であることを意識させたい。
Ⅸ
研究の成果と課題
1 成果
(1) イメージシートを活用することを通して,教科書の文を読んだり,話される内容を聞いたり
する際に,その場面や状況をイメージしながら,内容の理解がより効果的にできた。
(2) スキットを言語活動に取り入れることで,生徒は興味・関心を持ち,取り組むようになった。そ
れにより場面や状況に応じた会話練習をすることで,英語の運用能力(コミュニケーション能力)
が高まったと考える。
(3)「努力を要する状況」の生徒への指導の手だてとして,外国語学習にイメージシートやスキッ
トを活用することで意欲的な言語活動への参加,達成感へ繋がった。
2 課題
(1) イメージシートの質問内容の解釈で,その答えが2つ以上可能になる場合があり戸惑う生徒が数
名いた。できるだけ一つの質問に対して答えが一つになるよう工夫改善が必要である。
(2) スキット活動の際,ペアの相手がいなくて練習がスムーズにできない生徒がいた。普段の学級経
営,教科経営等を通してクラスの誰とでもペアやグループ作りができるように指導,工夫していく
必要がある。
(3) 授業の中で全体の前での発表が時間的制限があり,全員に実施させることができなかった。学習
意欲に繋がる評価の視点からペア学習やグループ学習での発表後,生徒同士の相互評価を工夫し,
取り入れる必要がある。
(4) ALTとJTEの話す英語の聞き取りが苦手な生徒がおり,事前にある程度場面や状況について
日本語で説明したり,絵を見せながら,繰り返し聞かす等の手だてを考えていく必要がある。
〈主な参考文献・引用文献〉
・金井睦 2011 『指導と評価』 日本図書文化協会 日本評価研究会
・文部科学省 2011 『評価規準の作成,評価方法の工夫改善のための参考資料(中学校外国語)』
教育出版
・平木裕 2011 『中等教育資料』 学時出版
・松村明 2006 『国語辞書 大辞林』 三省堂
・阿原成光 2004 『英語の授業づくりアイディアブック④中学 1 年 年間計画と評価』 三友社出版