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◆ 2015 年 6 月 19 日掲載 新・判例解説 Watch ◆ 行政法 No.154
文献番号 z18817009-00-021541234
砂利採取計画認可処分等の取消訴訟及び差止訴訟における漁業者等の原告適格
【文 献 種 別】 判決/長崎地方裁判所
【裁判年月日】 平成 27 年 1 月 20 日
【事 件 番 号】 平成 23 年(行ウ)第 13 号
【事 件 名】 砂利採取計画認可処分等取消等請求事件
【裁 判 結 果】 一部棄却、一部却下
【参 照 法 令】
行政事件訴訟法 9 条・37 条の 4 第 3 項、砂利採取法 16 条、長崎県海域管理条例 3 条
1項2号
【掲 載 誌】 判例集未登載
LEX/DB 文献番号 25505755
……………………………………
……………………………………
全な発達に資するという中には、他産業の利益に
ついて砂利採取による被害の発生を防止する趣旨
及び目的を含むものと解すべきである」。
「同法の趣旨及び目的は、主として公益的見地
から砂利採取計画の認可等の規制をするものとい
うべきである」。
事実の概要
平成 14 年 9 月 27 日から平成 24 年 1 月 31 日
までの間に、長崎県知事は砂利採取法に基づく砂
利採取計画認可処分を、長崎県壱岐振興局長は平
成 16 年までは公有土地水面使用料及び産物払下
料徴収条例、平成 16 年からは同条例を全部改正
した長崎県海域管理条例(本件条例)に基づく砂
利採取許可処分を、砂利採取業者A社に対して複
数回にわたって行った。これを受けてA社は壱岐
沖の一定の海域で砂利(海砂)を採取した。
Xらは佐賀県知事から中型まき網漁業の操業許
可を受けた漁業者及びダイビング業者(スキュー
バダイビングのガイド業務等を行う者) であるが、
A社による海砂採取によって海域の環境が悪化
し、収入が減少したなどと主張して、平成 23 年
7 月 29 日付け及び同年 10 月 31 日付けでA社に
対し下された砂利採取計画認可処分及び砂利採取
許可処分の取消し、一定の海域において同社に対
し上記各処分を行うことの差止め及び平成 14 年
以降A社に下された上記各処分により被った損害
の賠償を求め、
Y(長崎県)を被告として出訴した。
3 本件条例の趣旨及び目的
「本件条例の趣旨及び目的は、主として公益的
見地から海域の適正な利用を図り、併せて水産資
源の保護と自然環境の保全に寄与することという
べきである。
他方で、本件条例は、長崎県知事が、水産資源
の保護及び自然環境の保全の見地から、砂利採取
につき、砂利採取法 16 条の認可を要する場合に、
海砂の採取の禁止区域、採取方法、採取限度量を
定めるものとし(7 条 1 項 1 号)、海砂の採取の
許可を受けようとする者に対しては、申請区域及
びその付近に権利を有する者の同意書を申請書に
添付しなければならないとしている(4 条 1 項 1
号)」。
これらの諸規定からすれば、「本件条例は、海
砂採取の申請区域及びその付近に漁業権等の権利
を有する者の利益を一般的公益の中に吸収解消さ
せるにとどまらず、個別的利益としても保護する
趣旨を含むと解する余地があるというべきであ
る」。
判決の要旨
1 原告適格の判断基準
本判決は、小田急高架化事件最高裁判決(最大
判平 17・12・7 民集 59 巻 10 号 2645 頁) が示した
判断基準(以下、「最判基準」という)を引用する。
4 原告漁業者らの利益の内容及び性質
2 砂利採取法の趣旨及び目的
「許可に係る漁業(以下「許可漁業」という。)
を営む利益は、漁業権が設定されていない、広範
な海域を対象として漁獲能率のよい漁業を行うこ
砂利採取法の「趣旨及び目的の砂利採取業の健
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じるとしても、これにより直ちに原告……の営業
海域に与える影響が大きいとは考えがたいもので
ある。
したがって、本件各処分等による原告……らの
営むダイビング業に対する侵害の態様及び程度
は、弱いといわざるを得ない」。
とができる利益というべきものである。
そうすると、許可漁業を営む利益は、特定の水
域に排他的な権利を設定する漁業権に基づく漁業
(以下「漁業権漁業」という。
)の場合と異なり、
特定の海域における水産動植物との関係が希薄な
ものといわざるを得ない。
そして、上記のような許可漁業を営む利益の性
質に照らすと、本件条例に基づく許可を申請する
にあたり、求められている同意は、許可漁業を営
むものを対象としているとまではいえない」。
「本件条例に違反した違法な処分が恒常的に行
われることによって、周辺の海域が混濁したよう
な場合、周辺海域において、長期間にわたる漁獲
量の減少や当該海域における魚介類の死滅等によ
り、当該海域で漁業を営むものが著しい経済的損
失を被るおそれ自体は否定することはできない
が、その損失を被るおそれは、上記周辺海域〔海
砂採取の申請区域の周辺海域〕において漁業を営む
ものに限られる。
そして、当該漁業が漁業権漁業である場合には、
……そのような被害を受けないという具体的な利
益は、一般的公益の中に吸収、解消させることは
困難であるということができる。
他方、それが、許可漁業である場合には、……
被害を受けないという具体的な利益が一般的公益
の中に吸収、解消されないとは、直ちにいうこと
ができない。
これらを併せ考慮すると、知事から許可を得て
長期間にわたって一定の海域で漁業に従事してい
ることを考慮しても、本件条例に反した違法な砂
利採取による許可漁業を営む利益に対する侵害の
態様及び程度は、弱いといわざるを得ない」。
6 結論
以上のように述べて、本判決は、砂利採取法及
び本件条例は原告らの利益を個別的利益として保
護すべきものとする趣旨を含むということはでき
ず、原告らはいずれも取消訴訟及び差止訴訟の原
告適格を有しないと判断し、訴えを却下した。
また、国家賠償請求については、処分に違法性
がないとして請求を棄却した。
判例の解説
以下では、原告適格に関する論点に限定して検
討する。
一 処分の根拠法令による保護
最判基準によると、第 1 に、処分の根拠法令が
原告の利益(漁業又はダイビング業を営む利益)を
保護しているかが問われる。
この点につき、本判決は砂利採取法が原告の利
益を公益としてであれ保護しているとは明示的に
は述べていない。また、本件条例が漁業権者以外
の漁業者やダイビング業者の営業利益を公益とし
てであれ保護していると認める判示もない(判決
の要旨2及び3)。
したがって、原告の利益が、砂利採取法や本件
条例により保護される利益の範囲に含まれるかど
うか(いわゆる保護範囲要件1))について、本判決
は明示的に判断していないように思われる。その
理由として、本判決の結論を導くためには、この
点についての明示的判断を示すことが必ずしも必
要ないからであると考えられる。
5 原告ダイビング業者の利益の内容及び性質
「原告……が従事するダイビング業は、海が公
共の用に供されて、これを一般公衆が自由に利用
することができる結果として、いわば事実上の行
為として行っているものにとどまる。
したがって、特定の海域との関係も希薄であ
る」
。
「原告……がダイビング業に従事するという営
業海域は、
……広大である上、……〔本件処分によっ
て砂利採取が認められた区域〕から各数キロメート
ル以上離れている。そうであれば、本件各処分等
による海砂採取に伴う余水による海水の混濁が生
2
二 個別的利益としての保護
1 条文の手がかり
処分の第三者の原告適格が認められるために
は、第 2 に、根拠法令が当該利益を個々人の個別
的利益として保護していることが必要である。そ
こで、まずは規定上そのような趣旨を読み取るこ
2
新・判例解説 Watch
新・判例解説 Watch ◆ 行政法 No.154
とができないかが問題となる。
本判決は、本件条例 7 条 1 項 1 号及び 4 条 1
項 1 号を手がかりとして、
「漁業権等の権利を有
する者」について個別的利益として保護する趣旨
を見出す(判決の要旨3)。したがって、少なくと
も漁業権者については、個別的利益としての保護
が肯定される。
もっとも、本件条例 4 条 1 項 1 号は同意書の
対象者として「権利を有する者」と規定するにす
ぎない。したがって、漁業者の中でこれに該当す
るのは漁業権者のみなのか、それとも原告のよう
な許可漁業者も含まれるのかは、規定の文言上は
明らかではない。この点につき、本判決は、
「許
可漁業を営む利益の性質」に照らし、前者である
と解している(判決の要旨4)。
それ以外に原告らの利益を個別的利益として保
護する趣旨を導くことができるような条文の手が
かりは示されていない。
もっとも、条文の手がかりは「個別的利益とし
ての保護の趣旨」を肯定するためには有効である
が、それが存在しないことのみを理由として当該
趣旨を否定することはできない。行政事件訴訟法
9 条 2 項により、
「利益の内容及び性質」を考慮
することが求められる。
されたのか。それは、端的にいえば、「保護の必
要性」が認められなかったからであると解される。
区別可能性がある利益について根拠法令が保護
しているからといって、直ちに「個別的利益とし
ての保護」が認められるわけではない。「救済を
認めるか否かの判断において、救済の必要性の強
弱は不可欠の考慮事項である」2)。法的保護に値
する利益説は「保護の必要性」を前面に打ち出す
見解であるが、保護に値する利益説にせよ法律上
保護された利益説にせよ、「保護の必要性」は当
然に考慮される。
本判決において「保護の必要性」の判断を左右
したと思われる事柄として、次の 2 点を挙げる
ことができよう。
第 1 に、「排他性の有無」である。これは特に
原告許可漁業者と漁業権者の比較について述べら
れていることであるが、前者には後者のような排
他性が認められないことが強調されている3)。
「特定の海域との関係が濃密か希薄か」
第 2 に、
である。原告漁業者とダイビング業者のいずれに
ついても、特定の海域との関係が希薄であること
が指摘されている。「別の場所で漁業・ダイビン
グ業を営めばよいではないか」ということであろ
う。
なお、本判決においては、排他性より特定の海
域との関係の方が重視されたのではないかと思わ
れる。原告漁業者は、一定の操業禁止区域を除く
佐賀県海域での漁を認められていたのであるが、
仮に、もう少し限定された海域について許可が与
えられたとすれば、排他性を持たなくても、保護
の必要性が認められた可能性がある。
ところで、本件において原告適格が否定された
のは、本判決が法律上保護された利益説を採用し
たからではない。法的保護に値する利益説に立つ
としても、「保護の必要性」につき同様の判断基
準を用いるとすれば、やはり原告適格は否定され
るのである。むしろ、「利益の内容及び性質から
みれば保護の必要性がない」場合において、それ
でも当該利益を個別的利益として保護すべきとす
る立法者意思が条文の手がかりによって見出すこ
とができるとすれば、保護に値する利益説によれ
ば保護されない利益について、法律上保護された
利益説であれば保護され原告適格が認められると
いう可能性がある4)。
2 利益の内容及び性質
利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、
第 1 に、個別的利益としての保護が可能な利益
であるかが問題となる。すなわち、「個々人の個
別的利益としての保護」を認めるためには、根拠
法令が「特に」特定の個人の利益を保護している
ことが必要であるから、不特定多数の者が有する
利益(公益)と区別できるものでなければならな
い(区別可能性)。一般消費者の利益や文化財享有
利益などは利益の性質からして公益と区別できな
いので、個別的利益としての保護が難しい。
本件の場合、この点は問題にならないと思われ
る。すなわち、漁業を営む利益は不特定多数の者
が持つ利益ではなく、漁業を営む者に限られる。
また、漁業者の間においても、海砂採取によって
直接的な損害を被る漁業者の範囲は、地理的に絞
り込むことが可能である。ダイビング業を営む利
益についても同様である。このように本件におい
ては「区別可能性」を認めることが容易である。
それでは、なぜ個別的利益としての保護が否定
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な権限を付与してやることが適切」であるため 、
認められているのである。これに対し、例えばト
ロール漁業のように「どこでも魚のいるところで
網をひっぱればいいので、これだけ広い海に漁業
権のような独占排他的に営む権利を与えることも
できないし、またその必要もない」漁業について
は、水産資源の保護及び漁業調整の観点から、許
11)
可制とされているのである(許可漁業) 。つま
り、漁業権が付与されるかどうかは主として漁業
の種類によるのであって、漁業権漁業(例えば養
殖業)が許可漁業(例えばトロール漁業)よりも「漁
業そのものの価値」が高いものであるとはいえな
い。いずれも、漁業者にとって重要な生計を立て
る手段であろう。
三 本判決に対する批判
本判決の「保護の必要性」に関する判断につい
ては、以下のような反論が可能である。
第 1 に、原告許可漁業者は、許可された操業
区域内であればどこでも漁をしてよいはずであっ
て、
「漁場を変更する義務」は原告には存在しない。
原告ダイビング業者もどこで営業するかは自由で
あろう。
第 2 に、操業ないし営業の場所を変えても従
来と同様の収益が見込まれるかという視点も必要
であろう。
原告らが違法な営業(例えば無許可漁業)
第 3 に、
を行っているならば、保護の必要性は否定される
と思われるが、本件ではそのような事情はない。
第 4 に、良好な景観を享受する利益、善良な
風俗の中で生活する利益などは、それがどの程度
重要かについて個人差が大きいために、保護の必
要性が否定されやすい5)。これに対して営業利益
の重要性は、より普遍的であると解される。
第 5 に、漁業権漁業と許可漁業の関係の捉え
方について、疑問がある。
漁業には、①自由漁業(漁業権や許可を必要とせ
ず、誰でもできる漁業)
、②漁業権漁業、③許可漁
業の 3 種類のものがある6)。
漁業権は「行政庁の免許によって設定された一
定の水面において排他的に漁業を営むことのでき
る権利」7)であり、物権とみなされる(漁業法 23
条 1 項)。その結果、漁業権者は物権的請求権を
有することとなり、この点で許可漁業、自由漁業
を営む者と異なる8)。確かに、このような漁業権
の「排他性」を考慮すると、許可漁業者と比較し
て漁業権者の方が保護の必要性が高いといえるか
もしれない。
しかし、そもそも漁業権漁業と許可漁業との間
で「漁業そのものの価値」に差があるとはいえな
いように思われる。漁業権漁業とは、一定の政策
的考慮に基づき漁業権を付与することが必要ない
し適切な漁業である。すなわち、漁業権には定置
漁業権、区画漁業権及び共同漁業権の 3 種類があ
るが、前二者については、その漁法の性質上、特
定の区域について排他的に漁業を営む権利を与え
なければ漁業が成り立たないため9)、共同漁業権
については、漁法からいえば漁業権を与える必要
性はないが「関係漁民に漁場を管理させるために
は、その漁民の集合体である組合に、それに必要
4
●――注
1)小早川光郎『行政法講義 下Ⅲ』(弘文堂、2007 年)
257 頁。
2)芝池義一「取消訴訟の原告適格判断の理論的枠組み」
『京
都大学法学部創立百周年記念論文集 第 2 巻』(有斐閣、
1999 年)98 頁。
3)直接には小田急事件最高裁判決とサテライト大阪事件
最高裁判決の比較に関するものであるが、処分の根拠法
規が保護する利益が「民事法上の排他性が認められるも
のか」を基準に個別的利益性を判断する見解として、中
島肇「原告適格・仮の差止めに関する実務的雑感」論究
ジュリ 8 号(2014 年)53 頁。
4)生命・身体の安全や健康被害を受けない利益以外の利
益であっても、「個々人の個別的利益としても保護する
趣旨を含む」という立法者意図が一般的に推定される可
能性を示唆するものとして、中川丈久「取消訴訟の原告
適格について (2)――憲法訴訟論とともに」法教 380 号
(2012 年)103 ~ 104 頁。ここでは「利益」について限
定が加えられていないので、利益の内容及び性質からは
「保護の必要性」が認められない場合であっても、上記
の立法者意図の推定が及ぶことになる。
5)板垣勝彦「原告適格――行政過程における私人」法教
401 号(2014 年)21 頁参照。
6)金田禎之『新編 漁業法のここが知りたい〔改訂版〕』
(成
山堂書店、2010 年)20 頁。
7)金田・前掲注6)24 頁。
8)金田・前掲注6)59 頁。
9)金田・前掲注6)21~22 頁。
10)金田・前掲注6)33 頁。
11)金田・前掲注6)22~23 頁。
島根県立大学准教授 岩本浩史
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