第3章 エコフィードの現 状 1.背 景 日 本 の 平 成 19 年 度 の 食 料 自 給 率 は 、 カ ロ リ ー ベ ー ス で 前 年 度 か ら 1 ポ イ ン ト 増 加 し た も の の 40% で あ る 。主 な 先 進 国 の 自 給 率 は 、ア メ リ カ 128% 、フ ラ ン ス 122% 、ド イ ツ 84% 、英 国 70% と な っ て お り 、日 本 の 食 料 自 給 率 は 主 要 な 先 進 国 の中で最低の水準となっている。特に飼料穀物は、そのほとんどを輸入に依存し ている状況にある。 農 林 水 産 省 が 平 成 17 年 3 月 に 策 定 し た 「 食 料 ・ 農 業 ・ 農 村 基 本 計 画 」 で は 、 平 成 27 年 度 に 食 料 自 給 率 を 45% に す る こ と を 目 標 と し 、飼 料 自 給 率 に つ い て は 、 平 成 15 年 度 の 25% か ら 35% へ 向 上 さ せ る こ と を 目 標 と す る こ と が 明 記 さ れ た 。 こ の 飼 料 自 給 率 目 標 (35%)の 実 現 の た め に 、 国 、 農 業 団 体 、 学 識 経 験 者 、 都 道 府 県、消費者団体、飼料団体、食品団体の関係者からなる「飼料自給率向上戦略会 議」 「 全 国 食 品 残 さ 飼 料 化 行 動 会 議 」が 平 成 17 年 に 設 置 さ れ 、日 本 で 飼 料 自 給 率 向上の取り組みが展開しつつある。 一方、最近における飼料穀物の国際需給・価格の動向をみると、米国でのバイ オ・エ タ ノ ー ル 需 要 の 拡 大 等 を 背 景 に ト ウ モ ロ コ シ の 国 際 価 格 が 上 昇 傾 向 に あ り 、 今 後 、 バ イ オ ・ エ タ ノ ー ル 向 け の 需 要 が さ ら に 拡 大 す る と の 予 測 も あ る 1。 ま た 、 中国やインドでは、近年の経済発展による畜産物消費の拡大にともない、家畜飼 料向けの穀物需要は増加している。こうした状況で、我が国の畜産の持続的な生 産性向上を図るために、国産飼料の生産・利用の拡大を図ることが重要な課題と なっており、食品残さの飼料化(エコフィード化)が注目されている。 2.エコフィードの現 状 エ コ フ ィ ー ド( ecofeed)と は 、環 境 や 生 態( ecology)、節 約( economy)等 を 意 味 す る エ コ( eco)と 、飼 料 を 意 味 す る フ ィ ー ド( feed)を 合 わ せ た 造 語 で 、 「食 品 残 さ の 飼 料 化 」ま た は「 食 品 残 さ 飼 料 」を 示 す 2 。食 品 循 環 資 源 を 原 料 に し て 加 工処理されたリサイクル飼料と同義であり、 1 米 国 に お け る 燃 料 用 エ タ ノ ー ル 生 産 向 け と う も ろ こ し 需 要 量 は 、2007/08 年 度 の 7、 690 万 ト ン か ら 、2018/19 年 度 に は 1 億 2、830 万 ト ン に 増 加 す る と 予 測 さ れ て い る ( 農 林 水 産 省 「 飼 料 を め ぐ る 情 勢 」 平 成 21 年 4 月 )。 2 「 エ コ フ ィ ー ド ( ECOFEED)」 は 社 団 法 人 配 合 飼 料 供 給 安 定 機 構 が 2005 年 に 特 許 庁 に 商 標 登 録 を 出 願 し 、 2007 年 に 商 標 を 取 得 し て い る 。 23 1) 食品製造副産物:酒粕、焼酎粕、醤油粕、豆腐粕、果汁粕、パン屑等、 食品の製造過程で得られる副産物や野菜カット屑等の加工屑 2) 余剰食品:売れ残りのパン、麺、弁当、総菜等、食品として製造された 後、利用されなかったもの 3) 調理残さ等:調理に伴い発生する残さ 等を利用して製造された家畜用飼料を指す。 食 品 残 さ は 、食 品 製 造 副 産 物 の 一 部 の 有 価 で 取 引 さ れ る も の( ふ す ま 、大 豆 粕 、 パ ン 屑 な ど )を 除 く ほ と ん ど が 廃 棄 物( 産 業 廃 棄 物 ま た は 一 般 廃 棄 物 )に 該 当 し 、 それぞれの段階で数多く発生している。 「 平 成 19 年 度 食 品 循 環 資 源 の 再 生 利 用 等 実 態 調 査 ( 農 林 水 産 省 )」 に よ る と 、 食 品 産 業 に お け る 平 成 19 年 度 の 食 品 廃 棄 物 等 の 年 間 発 生 量 は 1,134 万 ト ン で 、 業 種 別 よ る 食 品 残 さ の 発 生 割 合 は 、食 品 製 造 業 43% 、食 品 卸 売 業 6% 、食 品 小 売 業 23% 、 外 食 産 業 27% と な っ て い る ( 表 3− 1)。 ま た 、 食 品 循 環 資 源 の 再 生 利 用 率 は 食 品 産 業 全 体 で 60% ( 約 680 万 ト ン ) と な っ て お り 、 そ の 内 訳 を み る と 、 食 品 製 造 業 と 食 品 卸 売 業 が そ れ ぞ れ 86% 、 70% と 高 い が 、 外 食 産 業 は 31% と 低 くなっている。 再 生 利 用 さ れ た 食 品 廃 棄 物 の う ち 飼 料 と し て 35% ( 全 体 の 約 21% ) が 利 用 さ れ て お り 、産 業 別 内 訳 を み る と 、こ こ で も 食 品 製 造 業 が 45% と 高 く 、外 食 産 業 が 16% と 低 く な っ て い る 。再 生 利 用 さ れ な い 食 品 残 さ の 大 部 分 は 焼 却 や 埋 立 処 分 さ れている。 表3−1 食品残さの年間発生量および再生利用率等の仕向量 (単位:千トン,%) 3) 食品廃棄物等の 再生利用率 再生利用の用途別仕向け割合(%) 年間発生量 うち,食品リサイクル法に基づく仕分け 実数 発生割合 実数 再生利用 肥料化 飼料化 メタン化 油脂及び 1) 2) 油脂製品 (%) 率(%) a b c d e f g h 食品産業計 11,343 100 6,796 60 37 35 3 6 食品製造業 4,928 43 4,248 86 36 45 5 3 食品卸売 736 6 518 70 58 19 6 食品小売業 2,630 23 1,078 41 50 20 5 外食産業 3,048 27 952 31 14 16 20 資料:農林水産省 注:1)業種別については,食品産業計の年間発生量を100とする構成比である. 2)食品廃棄物の年間発生量に対する割合であある. 3)再生利用の用途別仕向量は,再生利用への仕向量に対する割合である. 区分 24 3.エコフィードの活 用 事 例 と課 題 1)全国のエコフィード事業所 エ コ フ ィ ー ド に 取 り 組 む 事 業 所 数 は 平 成 17 年 度 に 全 国 134 カ 所 、平 成 18 年 度 は 141 カ 所 と 増 加 し て い る ( 表 3− 2)。 都道府県の中では北海道で事業所数が最も多く、ビート・馬鈴薯といった農産 物の飼料化が行われている。因みに九州では焼酎粕の飼料化が中心なっている。 主 な エ コ フ ィ ー ド 原 料 と し て 、 事 業 系 調 理 残 さ を 利 用 す る 事 業 所 数 は 32 で 、 千葉・東京・神奈川といた大都市周辺でも散見される。また、食品製造副産物が 76、魚 粉・肉 粉・油 脂 等 が 16、余 剰 食 品 が 11、そ の 他 が 6 事 業 所 と な っ て い る 。 対 象 家 畜 と し て は 、 豚 を 対 象 と す る 事 業 所 が 72 と 最 も 多 く 、 次 に 牛 が 54、 鶏 24、 そ の 他 が 9 の 順 に な っ て い る 。 事業系調理残さや余剰食品等は主に豚用、食品製造副産物については牛用とし て飼料化され、また魚アラ・肉粉・油脂等は鶏や魚向けの貴重な動物性タンパク 質として主に飼料化され利用されている。 以 上 で み た よ う に 、エ コ フ ィ ー ド に 取 り 組 む 事 業 所 は 近 年 徐 々 に 増 え つ つ あ り 、 コンビニ調理工場から排出される調理屑などの飼料化や、鳥取県の畜産専門農協 が 行 っ て い る 、 自 給 飼 料 と 食 品 残 さ を 利 用 し た 発 酵 TMR に よ る 牛 肉 の ブ ラ ン ド 化 な ど 、 特 徴 あ る 取 り 組 み が 見 ら れ る 3。 しかし、食品残さ等の飼料化にあたっては、調査などからいくつかの課題も明 らかになりつつある。次節では、養豚農家でのエコフィードの利用実態調査など から、食品残さ等の飼料化にあたっての課題をみてゆく。 2)食品残さ等の飼料利用への課題 養 豚 農 家 で の エ コ フ ィ ー ド の 利 用 実 態 調 査 に よ る と 、 平 成 18 年 に 利 用 し て い る 農 家 は 18.4% 、 利 用 し て い な い が 利 用 を 検 討 し て い る 農 家 が 25% と な っ て い る ( 表 3− 3)。 利 用 農 家 で は 、 パ ン 類 、 ご 飯 ・ 米 加 工 品 類 、 麺 ・ 加 工 品 類 等 の 利 用が多い。その一方で、エコフィードを利用していない農家が未利用の理由とし て あ げ て い る の が 、「 安 全 性 へ の 不 安 」 が 最 も 多 く 、 さ ら に 「 栄 養 面 で の 不 安 」、 「まとまった原材料の入手が困難」などの懸念があげられている。また「原材料 を 加 工 す る 労 働 力 が 少 な い 」が 第 5 位( 33% )に あ げ ら れ て お り 、安 全 性 と 品 質 を確保した加工済みエコフィードが安定供給可能であれば、利用者が拡大する可 能性がうかがえる。 3 取り組み事例の詳細については「食品残さ飼料(エコフィード)の利用を進める た め に 」( 社 団 法 人 配 合 飼 料 供 給 安 定 機 構 ) を 参 照 の こ と 。 25 全国の配合飼料製造工場を対象に行われた「配合飼料製造工場における食品残 さ 等 の 利 用 実 態 調 査 結 果 ( H17 年 度 実 績 )」 で も 、 ほ ぼ 同 様 の 課 題 が 指 摘 さ れ て 表3−2 全国のエコフィード事業所数 都道府県名 事業系調理 余剰食品 残さ 4 1 北海道 青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 1 福島県 茨城県 栃木県 1 群馬県 埼玉県 1 千葉県 3 東京都 3 神奈川県 6 山梨県 長野県 静岡県 新潟県 2 富山県 石川県 福井県 岐阜県 愛知県 2 三重県 滋賀県 京都府 1 大阪府 3 兵庫県 2 奈良県 和歌山県 鳥取県 島根県 岡山県 広島県 山口県 1 徳島県 香川県 愛媛県 高知県 1 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 大分県 宮崎県 鹿児島県 沖縄県 計 32 出所:農林水産省畜産振興課資料 食品製造 荒粕・肉粉・ その他 副産物 油脂など 15 1 1 1 1 1 1 計 1 2 1 2 1 3 3 1 3 2 2 3 7 1 1 2 2 3 5 1 2 1 1 1 2 1 1 1 3 1 2 1 1 1 1 1 4 1 1 1 1 3 5 2 76 1 11 26 1 1 16 6 20 3 1 2 1 3 1 2 2 3 8 6 3 6 0 3 5 9 1 2 0 2 4 3 7 2 5 6 0 0 0 1 2 1 1 0 1 1 1 6 1 2 0 1 4 5 4 141 表3−3 養豚農家へのエコフィード利用実態調査結果 1)エコフィードの利用状況 利用している 現状維持・規模拡大 規模縮小・中止等 利用していない 利用を検討 利用予定無し H13 15.5 14.4 1.1 84.5 14.1 70.4 H15 12.1 9.9 2.2 87.9 18.4 69.5 H17 20.0 18.7 1.3 80.0 18.5 61.5 H18 18.4 17.6 0.8 81.6 25.0 56.6 2)エコフィードを利用しない理由 順位 1 原材料や加工された飼料が安全性の面で不安 2 原材料の品質が栄養面で不安定 3 原材料のまとまった入手が困難 4 肉質低下がある 5 原材料を加工する労働力が少ない 6 運搬,乾燥などの経費が必要で,経済的にさほど安くない 7 イメージによる豚肉消費低下の恐れ 出所:農林水産省畜産振興課資料 い る( 表 3− 4)。 「 品 質 の 安 定 性・安 全 性 と 一 定 量 の 確 保 」を 課 題 と し て あ げ る 工 場 数 が 32 と 多 く 、 次 に 「 安 定 的 な 供 給 」 と 「 栄 養 成 分 の 安 定 化 、 明 確 化 」 が そ れ ぞ れ 26 工 場 と 多 い 。 こうした調査から、今後のエコフィード普及には、安全性や栄養面への不安、 また安定供給など、いくつかの克服すべき課題が明らかになりつつある。 3)エコフィード認証制度について 農林水産省は、コンビニエンスストアなどから廃棄される食品残さを家畜飼料 表3−4 配合飼料製造工場における食品残さ等の飼料利用への課題 項目 1 品質の安定性・安全性と一定量の確保 2 安定的な供給 3 栄養成分の安定化,明確化 4 動物性たんぱく質の混入の恐れ 5 トレーサビリティ 6 異物の混入 7 価格(栄養成分に見合っているか) 8 消費者への理解 9 経費(乾燥等にかかる)ほか 出所:農林水産省畜産振興課資料 27 工場数 32 26 26 16 6 4 4 4 4 図3−1 エコフィード認証マーク 出 所 :( 社 ) 日 本 科 学 飼 料 協 会 ホ ー ム ペ ー ジ よ り に加工した「エコフィード」の普及に向け、新たなエコフィード認証制度を創設 し 、 2009 年 3 月 か ら 申 請 受 付 を 開 始 し た 。 この認証制度は、食品循環資源を利用した飼料について、一定の基準(食品循 環資源の利用率や栄養成分等)を満たす飼料をエコフィードとして認証し、食品 リサイクルへの関心を深めるとともに、食品循環資源の積極利用を推進すること を目的としている。 エコフィードの認証基準は以下の 5 点である。 (1) 食 品 循 環 資 源 の 利 用 率 が 20% 以 上 、 か つ 「 推 進 食 品 循 環 資 源 」 4 の 利 用 率 が 5% 以 上 (2) 原 料 や 生 産 が 規 格 書 で 定 め ら れ て い る こ と (3) 原 材 料 の 保 管 、 製 造 工 程 や 品 質 管 理 な ど 、 飼 料 業 務 管 理 規 則 が 定 め ら れ て いること (4) 製 造 記 録 の 8 年 以 上 保 管 (5) 製 品 の 栄 養 成 分 が 把 握 さ れ て い る こ と (社)日本科学飼料協会が申請を受けて、書類審査、現地調査を行い、安全性 確認は(独)農林水産消費安全技術センターが行う。 認 証 さ れ れ ば 飼 料 に は「 エ コ フ ィ ー ド 」の 名 称 と 認 証 マ ー ク( 図 3− 1)を 利 用 4 「 推 進 食 品 循 環 資 源 」 と は 、 国 内 で 発 生 し た 食 品 残 さ の う ち 、 ア) 食 品 製 造 副 産 物 の一部(豆腐粕、醤油粕など、まだ十分に飼料利用されておらず、今後利用を推 進 す べ き も の )、 イ) 余 剰 食 品 の す べ て ( パ ン 、 総 菜 、 弁 当 等 、 食 品 と し て 製 造 さ れ た も の の 、 利 用 さ れ な か っ た も の )、 ウ) 調 理 残 さ の す べ て ( 調 理 に 伴 い 発 生 す る 残 さ )、エ)食 べ 残 し の す べ て( 調 理 後 、食 用 に 供 さ れ た 後 、食 べ 残 さ れ た も の ) をさす。 28 す る こ と が で き る 5 。今 後 は 、認 証 さ れ た エ コ フ ィ ー ド を 給 与 し て 生 産 し た 畜 産 物 について、一定の基準を設けて「エコフィード利用畜産物」として認証する仕組 み も 検 討 さ れ る 予 定 で あ る 6。 4.まとめ エコフィードに取り組む事業所数は近年増加しつつあり、全国で特徴のある取 り組みが現れつつあり、養豚農家などで利用が徐々に増えつつある。 一 方 で 、利 用 事 態 調 査 の 結 果 な ど か ら 、 「 安 全 性 へ の 不 安 」や「 栄 養 面 で の 不 安 」 などの懸念が指摘されており、エコフィード普及のための克服すべき課題が明ら かになりつつある。エコフィードの認証制度の創設は、エコフィードの利用者の こうした懸念を取り除き、エコフィードの普及に一定の効果が期待できるであろ う。 エコフィードの取り組みは始まったばかりである。エコフィードについての調 査研究も、エコフィードの事業所や利用する畜産農家側からのものが多く、エコ フィードを給与して生産された畜産物を消費する消費者側からのものはほとんど ない。消費者がいかにエコフィードを理解し評価するかが、今後のエコフィード 進展の一つのポイントになるであろう。 5 2009 年 7 月 時 点 で 、 す で に 2 件 の 認 証 が 行 わ れ て い る 。 6 2009 年 3 月 23 日 農 業 協 同 組 合 新 聞 よ り 。 29 参考資料 [1]( 社 ) 日 本 科 学 飼 料 協 会 ホ ー ム ペ ー ジ http://kashikyo.lin.go.jp/ [2]「 飼 料 を め ぐ る 情 勢 」 農 林 水 産 省 生 産 局 畜 産 部 畜 産 振 興 課 、 平 成 21 年 4 月 [3]農 業 協 同 組 合 新 聞 ( 2009 年 3 月 23 日 記 事 ) [4]「 食 品 残 さ 飼 料( エ コ フ ィ ー ド )の 利 用 を 進 め る た め に 」社 団 法 人 配 合 飼 料 供 給 安 定 機 構 他 、 平 成 20 年 [5]「 食 品 残 さ 利 用 飼 料 の 安 全 性 確 保 の た め の ガ イ ド ラ イ ン 」全 国 食 品 残 さ 飼 料 化 行 動 会 議 他 、 平 成 18 年 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