さて今回は、「虚血性心臓病(または虚血性心疾患)」とカテーテル検査・治療 について話をしたいと思います。 「虚血性心臓病」という言葉は、あまり聞きなれない言葉かと思いますが、結 局のところ「狭心症」と「心筋梗塞」の二つの病気の名前を総称していると考 えて良いでしょう。 私達は日頃“専門用語(医療用語)”を多く使いますし、この“専門用語(医療 用語) ”を更に短縮して呼ぶことも多くあります。加えて英語やドイツ語(昔の 名残ですね~)の単語を使う事もあります。例えばスタッフとの会話の中では、 「レート」=heart rate(英語):心拍数の事、「ハルン」=harn(ドイツ語); 尿の事、 「バイタルサイン」=vital signs(英語) :血圧+脈拍+体温+呼吸数、の ような言葉は日常茶飯事ですし、カルテに記載する時などは、 「IHD」=ischemic heart disase(英語):虚血性心臓病、 「AP」=angina pectoris(英語) :狭心症と いった略語を記載することもあります。 それぞれの業種の中で、それぞれの「専門用語」を使う事は多いとは思います が、私たちが使う“専門用語(医療用語)”は英語・ドイツ語・難しい漢字・略 語が入り乱れていますので、やはり医療の現場にいない方々は中々理解しがた く、これが患者さんやご家族にとっては「私には医療は分からない」と思って しまう一つの理由かもしれません。もちろん患者さんやご家族との面談の中で “専門用語(医療用語)”は極力使わずに、一般的な表現で説明や相談をするよ うにしていますが、時々聞きなれない言葉が出てきて、場合によってはその言 葉が重要な“キーワード”になっていることもあり得ますので、医師や看護師 などとの話の中で「その言葉の意味は?」と感じた時には、遠慮せずに質問を して下さい。病状や治療方針の説明・相談の際の“文脈”に対してもそうです が、使われる“単語”についても分かりにくい時には是非その意味をお聞き下 さい。更に加えて言うと、医師が患者さんの病状をお話しする際には、当然そ の方の“生命” “健康”についての内容になりますので、ぶっきらぼうで直線的 な言い方では刺激が強くなりますから、より“繊細な表現”で時には“回りく どい”言い方になってしまう時があります。そして医師の“真意”が分からず、 話の趣旨がお互いに食い違う事にもなりかねませんので、やはり「?」が頭に 浮かんだら積極的に質問をなさって下さい。 さて、心臓の話に戻りますが、この様に医療の現場では“専門用語”は頻繁に 登場してきます。前回の「心不全」でご紹介しましたが、国立循環器センター の「循環器病情報センター」にある「循環器病あれこれ」は“専門用語”をち りばめながらも、全体として分かりやすく解説してあり、かつ広く循環器医療 に関しても説明されていますので、やはり是非ご覧下さい。とても良いサイト です。http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/index.html 「虚血性心臓病」は「狭心症」と「心筋梗塞」の総称と述べましたが、この“言 葉”について更に話を進めたいと思います。 “言葉”や“定義”といったものは大体退屈なものですが、なるべく実用的に 説明したいと思います(ですから幾らかの語弊があるかもしれませんがご容赦 下さい)。 1:虚血性心臓病(虚血性心疾患)=狭心症+心筋梗塞 2:狭心症=(安定)狭心症+不安定狭心症 3:心筋梗塞=急性心筋梗塞+陳旧性心筋梗塞 “言葉”の意味を箇条書きにするとこのようになりま す。 「虚血性心臓病」は「狭心症」と「心筋梗塞」の総称 ですが、「狭心症」は「(安定)狭心症」と「不安定狭 心症」に区分されます。そして「心筋梗塞」は「急性 心筋梗塞」と「陳旧性心筋梗塞」に分かれます。 ・・・なんか心に響かない言葉の羅列のように感じているかもしれませんが、 更に進めます。 1:不安定狭心症+急性心筋梗塞=急性冠症候群 ここで「急性冠症候群(きゅうせいかんしょうこうぐん)」という“言葉”が出 てきました。 後ほど説明致しますが、 「虚血性心臓病」という一つの“心臓の病気”は、心臓 のなかでも「冠動脈(冠状動脈)」と呼ぶ心臓の細胞が生きてゆくため、つまり は心臓が機能する為に必要な“血液(酸素や栄養)”を補給する血管に異常をき たしたものです。 この「虚血性心臓病」の中で、 「不安定狭心症」と「急性心筋梗塞」を「急性冠 症候群」と呼ぶ理由は“緊急に対応しなければならない病態である”からなの です。 「虚血性心臓病」でも「(安定)狭心症」=“安定”は“安心” を意味する訳ではないため放置してはいけないのですが・・・ と「陳旧性心筋梗塞」=過去に起きた心筋梗塞 は必ずしも “緊急に対応しなければならない”訳ではないのですが、 「急 性冠症候群」は“緊急に検査・治療を必要とする重大な事が 「冠動脈」に起きている!”のです。 では何が「冠動脈」に起きているのでしょうか? 「虚血性心臓病」の成因は、 「冠動脈」に「動脈硬化」が生じ、血液が通る“血 管内腔(けっかんないくう=専門用語ですかね・・・)”が狭くなり、充分に血 液が流れなくなり、つまりは心臓の細胞に充分な酸素や栄養が届かないことで す。 冠動脈の血管を大分⇔別府間国道 10 号線「別大国道」と例えると、路肩の工事 や土砂崩れで車が通る車道の幅が狭くなっている状態が「虚血性心臓病」とな ります、そして・・・ ・(安定)狭心症→現在もぼちぼち工事中だが 4 車線の内 2 車線は走れる状態 ・陳旧性心筋梗塞→既に工事済で全車線通行可能(または過去の土砂崩れで、 以前から 1 車線のみ利用可能) これであれば、幾らかの不都合・渋滞はあっても通行することはできるのです が、 ・不安定狭心症→継続する土砂崩れで、現在は 1 車線のみ通行できるが、やが て通行止めになる危険性がある ・急性心筋梗塞→土砂崩れのため現在全車線通行止め となると別大国道を通行することがおぼつかなくなりますし、 “全車線通行止め” では生活に大きな支障が出るため速やかな復旧が必要となります。これが「急 性冠症候群」と呼ばれる病態です。 時に医師は本人や家族へ病状を説明する時に、その真 意や場合によっては事の重大性をしっかり分かって頂 きたくて、緊急な場合にあってもこの様な“例え”で 病状を表現することがあります。 「人の病気を道路工事 や土砂崩れに例えるなんて!」と思う気持ちも分かり ますが、 「分かり易く伝えようとしているんだな」と推察して頂ければ助かりま す。そして分からない“専門用語”が出てきた際には、遠慮なくお尋ねくださ い。 さて、次回は“復旧作業”についてお話ししたいと思います。
© Copyright 2024 Paperzz