現代の経済問題III 第3講: 戦略形ゲーム1

現代の経済問題 III
第 3 講: 戦略形ゲーム 1
三浦慎太郎
2013 年 4 月 29 日
神奈川大学
1
概要
⃝ 戦略形ゲーム
1. ゲーム的状況の定式化
➢ “読み合い”の状況 (例: じゃんけん) の定式化.
➜ 共有知識と完備情報同時手番ゲーム.
➢ 戦略形ゲームの構成要素.
➜ プレイヤー・戦略・利得 (効用),利得行列表現.
➢ 代表的な戦略形ゲーム.
➜ 囚人のジレンマ・男女の争い・マッチングペニー.
2. ゲームの解.
➢ ゲームの帰結 (解) はどうなるか?
➜ 均衡分析とその前提条件.
➢ ゲームの解が満たすべき性質.
2
1. ゲーム的状況の定式化
3
ゲーム的状況の定式化
⃝ ゲーム理論では人々の駆け引きを分析する.
➢ 前回のあらすじ: 個人の意思決定問題.
➜ 個人の行動と不確実性だけで結果が決まった.
➢ 現実の駆け引きはより複雑….
例 じゃんけん.
➜ じゃんけんの結果は一人の行動だけでは決まらない.
➜
と
の二つの要因が影響.
➱ “私”はグーを出す.結果は “あなた”の行動に依存する.
❒ “あなた”がパー ➜ “私”の負け・“あなた”の勝ち.
❒ “あなた”がチョキ ➜ “私”の勝ち・“あなた”の負け.
❒ “あなた”がグー ➜ あいこ.
➢ 学問の大原則: まずは簡単なケースから始めよう!
4
ゲーム的状況の定式化
⃝
.
➢ ゲーム理論で最も基本的な状況.
➜ “完備情報”とは?“同時手番”とは?
➢ 同時手番ゲームとは “
”を含むゲーム的状況である.
➜
➜ 同時手番ゲームの例: じゃんけん.
➜ 同時手番ゲームではない例: 将棋.
5
ゲーム的状況の定式化
⃝ 完備情報同時手番ゲーム (続き).
➢ 完備情報ゲームとは,
ゲーム的状況である.即ち,
1.
2.
3.
4.
各個人が選択可能な行動の全て;
起こりうる結果の全て;
当事者間の行動の組み合わせと帰結の対応関係;
自分を含めた各人の選好;
が全て駆け引きの当事者間全員の
になっている状況.
➜ 当事者間の “常識”になっているということ.
➢ 完備情報ゲームの例: じゃんけん. ➢ 完備情報ゲームではない例: 麻雀・カードゲーム.
6
⃝ 完備情報同時手番ゲーム (続き).
➢ ゲーム理論では共有知識を以下のように定義する:
定義 1 共有知識
以下の性質を満たすとき事象 E は共有知識である:
1.
2.
3.
;
;
.
➢ 共有知識となる事象の例:
➜ 傘をさして歩いている友人間での「今日は雨」という事象.
➢ 共有知識とはならない事象の例:
➜ 口頭で伝えられた「次回テストをする」という事象.
➢ 共有知識は事象 (事柄) への深い理解を要求している.
➜ 相手の行動を予測する際に議論を簡略化できる.
7
⃝
.
➢ 完備情報同時手番ゲームは戦略形ゲームで表現する.
➢ 戦略形ゲームでは以下の 3 要素でゲーム的状況を記述する.
1.
: 意思決定を行う個人・組織.
➜ プレイヤーの定義は分析したい状況で異なる.
➱ 企業間競争 ➜ 企業が一人のプレイヤー.
➱ 企業組織 ➜ 企業の各構成員がプレイヤー.
2.
: プレイヤーの
.
➜ 単なる行動ではないことに注意!
例 1 “局面 A では行動 a を選択し,局面 B では行動 b を選択”.
例 2 “行動 a と行動 b を交互に選択”.
3.
: 結果に対する数値化されたプレイヤーの選好順序.
➜ プレイヤーの行動選択の結果,ある一つの帰結が実現.
➜
で表現される.
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ゲーム的状況の定式化
⃝ 戦略形ゲーム (続き).
➢ 戦略形ゲームをフォーマルに表現すると以下のようになる:
1.
; プレイヤーの集合. n 人ゲーム.
➜ i ∈ N ; プレイヤー i.プレイヤーの “一般表現”.
2.
➜
➜
➜
;
の集合.
; プレイヤー i の戦略集合.選択肢の集まり.
; プレイヤー i の戦略.“i さん”の実際の選択.
;
と呼称.
“全員”の実際の選択.
3.
; (vNM) 効用関数の集合.
➜
; プレイヤー i の効用関数.
➜ ui(s1, s2, . . . , sn); 戦略プロファイル (s1, s2, . . . , sn) が
選択された際にプレイヤー i が得る効用値.
9
⃝ 戦略形ゲーム (続き).
例 2 人じゃんけんを戦略形ゲームとして定式化する.
➢ プレイヤー:
.
➢ 戦略:
.
➜ プレイヤー 1 はグーを選択:
.
➢ 利得: vNM 効用関数 u1, u2 は以下のように定義できる:
u1(グー, グー) = 0,
u1(チョキ, チョキ) = 0,
u1(パー, パー) = 0,
u1(グー, パー) = −1,
u1(グー, チョキ) = 1,
u1(チョキー, グー) = −1,
u1(チョキ, パー) = 1,
u1(パー, グー) = 1,
u1(パー, チョキ) = −1,
u2(グー, グー) = 0.
u2(チョキ, チョキ) = 0.
u2(パー, パー) = 0.
u2(グー, パー) = 1.
u2(グー, チョキ) = −1.
u2(チョキー, グー) = 1.
u2(チョキ, パー) = −1.
u2(パー, グー) = −1.
u2(パー, チョキ) = 1.
10
⃝
.
➢ 愚直に定義に従うと定式化が非常に面倒….
➜ 利得行列を用いるとスッキリと表現できる!
11
⃝ 利得行列 (続き).
➢ 左端にプレイヤー 1 の選択可能な戦略が並んでいる.
➜ プレイヤー 1 が表の
を選択.
2
1
グー
グー
チョキ
0, 0
1,
1, 1
チョキ
パー
1,
1
パー
1
0, 0
1, 1
1, 1
1,
1
0, 0
12
⃝ 利得行列 (続き).
➢ 上端にプレイヤー 2 の選択可能な戦略が並んでいる.
➜ プレイヤー 2 が表の
を選択.
2
1
グー
グー
チョキ
0, 0
1,
1, 1
チョキ
パー
1,
1
パー
1
0, 0
1, 1
1, 1
1,
1
0, 0
13
⃝ 利得行列 (続き).
➢ 利得行列の各マスは
の一つに対応
➜ 黒丸の部分は
に対応.
➢ 中の数字が各プレイヤーの利得に対応する.
➜ プレイヤー 1 の利得が ,2 の利得が の数字.
2
1
グー
グー
チョキ
0, 0
1,
1, 1
チョキ
パー
1,
1
パー
1
0, 0
1, 1
1, 1
1,
1
0, 0
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ゲーム的状況の定式化
⃝ 代表的な戦略形ゲーム.
➢
.
➜ A と B の二人が拳銃の不法所持で現行犯逮捕.
➜ 二人は強盗事件の容疑者であるが,証拠が不十分.
➜ 自白を引き出すため,個別に取り調べを受けている両者に
対して検事は以下のような司法取引を持ちかける:
➱ 二人とも “自白”すれば,二人とも懲役 3 年.
➱ 二人とも “黙秘”すれば,拳銃不法所持のみで各懲役 1 年.
➱ 君が “自白”で相方が “黙秘”した場合,君は直ぐに釈放
されるが相方は懲役 5 年.
➱ 逆に君が “黙秘”して相方が “自白”した場合,相方は直
ぐに釈放されて君は懲役 5 年.
➜ 二人はどのように行動すると考えられるか?
➜ 要点は
.
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ゲーム的状況の定式化
⃝ 代表的な戦略形ゲーム (続き).
➢ 囚人のジレンマ (続き).
黙秘
B
自白
黙秘
A
自白
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ゲーム的状況の定式化
⃝ 代表的な戦略形ゲーム (続き).
➢
.
➜ Q 太郎と P 子は仲の良いカップルで,デートをすることに.
➜ デートの行き先としてはサッカー・映画の二つ.
➜ お互いに話半分で聞いていたので行き先を忘れてしまった.
➱ 携帯も電池切れでお互いに連絡が取れない.
➜ 二人とも一緒に過ごした方が別々の場合よりも好き.
➜ ただし行き先の好みは二人で異なる:
➱ Q 太郎はサッカーの方が映画よりも好き.
➱ P 子は映画の方がサッカーよりも好き.
➜ お互いに相手と相談なしに行き先を決めねばならない.
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ゲーム的状況の定式化
⃝ 代表的な戦略形ゲーム (続き).
➢ 男女の争い (続き).
P
サッカー
映画
サッカー
Q
映画
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ゲーム的状況の定式化
⃝ 代表的な戦略形ゲーム (続き).
➢
.
➜ J 太郎と DB がコインを使ったギャンブルをしている.
➜ それぞれコインを表・裏のどちらを上にするか決める.
➱ 相手からはどちらを上にしたかが見えないとする.
➜ それぞれの勝利条件は以下の通り:
➱ (表・表),(裏・裏) ならば J 太郎の勝利.
➱ (表・裏),(裏・表) ならば DB の勝利.
➜ それぞれどちらの面を上にするべきか?
➢ サッカーの PK も同様の構造をしている.
➜
と呼称.
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ゲーム的状況の定式化
⃝ 代表的な戦略形ゲーム (続き).
➢ マッチングペニー (続き).
表
D
裏
表
J
裏
20
2. ゲームの解
21
ゲームの解
⃝ これまでのお話.
➢ ゲーム的状況の要素を抜き出し,どのように定式化するか?
➢ これだけでは如何ともし難い….
⃝ これからのお話.
➢
を分析する.
➢ 言い換えれば,“ゲームを解く”ことになる.
➢ そのためには
を定義する必要有り.
➜ 「どのような状況がゲームの帰結としてもっともらしいか」
➜
と呼称する.
➢ 解概念により導かれたゲームの予測結果を
と呼称.
➜ 均衡とは “
”状態のこと.
➜ 均衡を求める分析なので
と呼称.
22
⃝ 均衡分析の前提条件.
➢ 均衡分析を行う場合,以下のことを前提として仮定する:
1.
.
➜ 各プレイヤーは
が出来るということ.
➜ 効用関数 ui を最大化する戦略 si ∈ Si を選択可能.
2.
.
➜ プレイヤーは
に立って物事を考えられる.
➜ 「自分が相手ならばこう動くであろう.
」
3.
.
➜ 各プレイヤーの
が共有知識である.
4.
.
➜ ゲームの解は自己拘束的でなければならない.
➜ 均衡行動は自分以外の誰からも強制されるものではない.
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⃝ ゲーム理論の強み.
➢
での分析.
➜ ケースバイケースで分析手法を変えることをしない!
➜ 特定の分析手法で様々な駆け引きを分析する!
➱ 特定の解概念で全ての状況を斬る!
⃝ ゲームの解が満たすべき (満たすことが望まれる) 性質.
1.
.
➢ 解概念が広範な状況に適用できなければならない.
➢ ナイスな解概念でも特定状況でのみ使用可能では使えない.
2.
.
➢ 起こりうる結果をシャープに予測出来る方が望ましい.
➢ “何でも言える”は “何も言えない”と同義.
3.
.
➢ ゲームの構造が僅かに変化しても解は大きく変化しない.
➢ 解が
に強く依存しすぎていない.
24
まとめ
⃝
は以下の三要素で構成される:
➜
.
➜ これらの要素を表記した行列を
と呼称する.
⃝
とは各プレイヤーが相手の戦略を知る前に自身
の戦略を決定しなければならないゲーム的状況である.
⃝ ある事象・情報がプレイヤー間の
になっているとは,各
プレイヤーがその事象・情報を知っており,各プレイヤーが「各
プレイヤーがその事象・情報を知っている」ことを知っており…
と無限階層の認識になっている状態である.
⃝
とは,プレイヤー全員が駆け引きの構造を正し
く理解しているゲーム的状況である.具体的には以下のものが全
て共有知識となっているゲーム.
25
➜ (i)
(iii)
, (ii)
,
, (iv)
⃝ 「ゲーム的状況の何をもってもっともらしい帰結とするのか」を
定めたものが
であり,解概念によって導かれた「ゲーム的
と呼称する.
状況の予測結果」を
⃝ 均衡分析の前提条件は,(i)
,(iii)
である.
⃝ 解概念の満たすべき性質は,(i)
である.
,(ii)
,(iv) 解概念の
,(ii)
,(iii)