(2010 年度夏季研修会資料) 数学の美しさと限界 (インド数学のすばらしさについて) ㈱藤井基礎設計事務所 藤本栄之助 数学はヨーロッパ哲学の発展に伴って進歩してきた。 デカルトの代数幾何学は、近代数学の基盤となったし、現代においても 2 次元の数学的 処理には必ずといっていいほど Cartesian (つまりデカルト的に)という形容詞というか、 枕詞が付いている。直交座標のことを The Cartesian coordinates というのもその例であ る。 デカルト的な数学の世界が analog とすれば、それを digital 化して数学的な世界観を拡 大したのはフランスの天才ガロアの群論である。ガロアは先鋭的な革命家だったために思 想と恋の確執から決闘事件を起こし、夭折した。ガロアの考えと方法を集大成したのはド イツのデデキントである。 それ以来、フランスとドイツからは次々と天才的な数学者が輩出した。Poincare, de Moivre, Causy, Euler, Reemann, などである。 多くの科学評論家や歴史学者は、ヨーロッパに近代数学の花が開花したのは、ピタゴラ スやユークリッド、アルキメデスなどのギリシャ数学の基盤があったからだといっている が、それは完全な間違いである。近代文明の発祥がギリシャ-ローマであると断言するの は大きな間違いである。つい先日に亡くなった梅棹忠夫氏は「文明の生態学的史観」で、 文明が発生する要因は(1)温暖な気候、(2)大きな河川の近くで、 (3)生態学的に共 通の景観を有するところに文明は起こる、といっている。かれの論説は黄河流域、インダ ス川流域、チグリス-ユーフラテス流域などの起こった文明に優劣はないということであ る。ユーラシア大陸の東から西まで広がっている彩色土器の分布で、これら各地で起こっ た文明が、ギリシャからローマへもたらされたのである。 かって、日本車がヨーロッパやアメリカ車を駆逐して猛烈な勢いで世界各国に売れわた っていったころ、BMWのフォン・クーヘンハイム会長は雑誌社のインタービューで次の ようなことを言った。 「日本車のことだが、われわれはかれ等(日本人)に対して大きなアドバンテージを持 っている。そのことをわれわれは誇りにしている。われわれは優れたバックグランドを持 っているからだ。この2~3000 年の歴史の源はギリシャであり、ローマなんだ。スタイリ ングのすべてはヨーロッパで創り出されたんだ。ギリシャの寺院を見たまえ。(ギリシャに は寺院なんかない。あるのは巨大建築であり、それには宗教性はない)。いわゆる黄金分割 というやつなんだよ。そしてスタイリングやら平面性などの組合わせに目をやって欲しい。 たとえばフランスのファッション、イタリアの高級メンズ・スーツ。価値とはそういうも んだよ。そしてその価値を手にしているのはわれわれなんだ。何故ならそういうものをき っちりと身に着けるには、伝統というものが必要とされるからだ。そして何世紀にもわた る教育というものがね」 文明の発祥地がギリシャやローマではないことは先にも述べた。黄金分割は奈良や平安 時代の建築様式にもある。ファッションならばヨーロッパ文明こそ日本様式を Japonism と して取り入れたではないか。教育のことでいまさらヨーロッパなんかに言われることはな い。 確かに、BMWはすばらしい会社であり、いい車である。だからといってフォン・クー エンハイムという会長が勘違いのエバリ方をする必要はないし、今でも自分の名前にフォ ンをつけて俺は貴族の出自だぞといわんばかりの態度は時代錯誤もいいところである。 さて、数学の話に戻ると、ギリシャやローマが衰退したあと、数学という学問はトルコ からアラビア地方に広まっていった。地球が円形であり、その直径まで計算した人はトル コ人であり、代数学のことを英語で Algebra というのはアラビア語である。さらに数学は ゼロ インドまで伝わって行き、インド数学は画期的な0という表示を発見した。 ここでは、私の友人の数学者からいただいたインド数学の美しさを紹介する。 Keep scrolling it gets better. Beauty of Mathematics!!!!!!! 1x8+1=9 12 x 8 + 2 = 98 123 x 8 + 3 = 987 1234 x 8 + 4 = 9876 12345 x 8 + 5 = 98765 123456 x 8 + 6 = 987654 1234567 x 8+ 7 = 9876543 12345678 x 8 + 8 = 98765432 123456789 x 8 + 9 = 987654321 1 x 9 + 2 = 11 12 x 9 + 3 = 111 123 x 9 + 4 = 1111 1234 x 9 + 5 = 11111 12345 x 9 + 6 = 111111 123456 x 9 + 7 = 1111111 1234567 x 9 + 8 = 11111111 12345678 x 9 + 9 = 111111111 123456789 x 9 +10= 1111111111 9 x 9 + 7 = 88 98 x 9 + 6 = 888 987 x 9 + 5 = 8888 9876 x 9+ 4 = 88888 98765 x 9 + 3 = 888888 987654 x 9 + 2 = 8888888 9876543 x 9+ 1 = 88888888 98765432 x 9 + 0 = 888888888 Brilliant, isn't it? And look at this symmetry: 1 x 1 =1 11 x 11 =121 111 x 111 =12321 1111 x 1111 =1234321 11111 x 11111 =123454321 111111 x 111111 =12345654321 1111111 x 1111111 =1234567654321 11111111 x 11111111 =123456787654321 111111111 x 111111111 =12345678987654321 しかし、こんな美しさもこれ以上は続かない。これは近代数学の整数論が10進法だから であり、6進法には、また2進法にもそれぞれに独特の美しさがあり、また必ずその限界も あるということである。 日本にも関孝和が和算という概念を開いて、微積分の計算までしている。ヨーロッパ式 数学にも劣らぬ正確さでπの数値計算をしているが、かれこそが数学の限界を一番知って いたはずである。π値が無限に続くことを通じて知った宇宙観に対して数学の無力さと人 間生の矮小さを。 日本には平家物語という無常観に基づく文学がある。人生には限界があることを文学を 通じて教えている。 祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理あり 奢れるもの久しからず ただ春の夜夢のごとし ポーランドの映画監督アンジェイ・ワイダは、 「日本人は一瞬の美しさを捉えて、絵にし、 文学にし、そして詩や歌にする能力を備えた稀に見る才能豊かな民族である」と評してい る。日本人は一瞬の美しさを数学の中に見出し、同時にまた、数学というか科学の力にも 超えてはならない限界があることを知っていたのではないか。アラビア人も、インド人も、 そして日本人も科学の限界を知って、人類に貧富の差を拡大させるような技術を創り出す ことはしなかった。フォン・クーエンハイムもそのことを知るべきである。
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