植込み型除細動器

植込み型除細動器(ICD) と 両室ペーシング機
能付植込み型除細動器(CRT-D)について
植込み型除細動器(ICD = implantable cardioverter defibrillator)
<はじめに - ICD とは ->
最近は公共施設で自動体外式除細動器 (AED = automated external
defibrillator)が設置されるようになっており、心臓突然死の予防に役に立って
いることが報告されています。心臓突然死の半数以上は心室細動(Vf)や心室頻
拍 (VT) が 原 因 と い わ れ て お り 、
AED による除細動を早期に行うこ
とで救命が可能です。しかし、心室
細動/心室頻拍を起こした患者様の
近くに AED がいつもあるとは限ら
ないことや一人でいるとき(目撃者
がいないとき)に心室細動/心室頻拍
になっても誰も AED を装着してく
れないという問題点があります。
ICD, CRT-D の模型
植込み型除細動器(ICD)は心室
細動/心室頻拍を起こす可能性が高い
患者様にペースメーカーと同様に体
内に埋め込んで使用する装置で、日
本でも 1996 年から使われてきまし
た。右心室や右心房に植え込んだリ
ード線の電極で患者様の心臓のリズ
ムを監視し、心室細動/心室頻拍が発
生したときにはリード線についてい
るコイルを利用して体内から除細動
の電気を流します。その他にも、抗
頻 拍 ペ ー シ ン グ (ATP =
体の中から電気を
流して除細動治療
anti-tachycardia pacing)や通常のペ
を行います
ースメーカーと同様に徐脈(脈拍が
遅くなった状態)に対するペーシン
グ機能を有しており、患者様の心臓の状態にあわせてこれらの機能を組み合
わせています。
<ICD の対象となる患者様>
日本循環器学会作成の「不整脈の非薬物治療ガイドライン
(http://www.j-circ.or.jp/guideline/index.htm)」
・アメリカの AHA/ACC のガイ
ドライン・欧州 ESC のガイドラインを参考に決定しています。主なものとし
ては、
・心室細動/心室頻拍で心肺停止・失神・ショックになったことがある
症例
・拡張型心筋症や虚血性心疾患による低心機能があり充分な薬物治療
を行っても慢性心不全(NYHA 分類のクラス 2-3)が持続している症例
・拡張型心筋症や虚血性心疾患による低心機能があり非持続性の心室
頻拍が認められ、誘発テストで持続性心室頻拍/心室細動が誘発される症例
・心疾患があり、原因不明の失神があって誘発テストで持続性心室頻
拍/心室細動が誘発される症例
・Brugada 症候群や QT 延長症候群など心室頻拍/心室細動を起こしや
すい疾患を有する症例
などが ICD 植え込みの対象となる可能性があります。専門的な表現があり
わかりにくいと思いますが、要するに
「心室細動/心室頻拍という危険な不整脈が認められてい
る、もしくは将来的に起こす可能性が高い症例」
ということになります。
<ICD の植込み>
ICD 植込み後の胸部レントゲン
右心室リード(除細動機能も兼ねる)
当院でも毎年 15~20 人
前後の新規植込み患者様が
おられます。局所麻酔の手術
でリード線を右心房や右心
室に留置し、鎖骨の下のあた
本体
右心房
リード
右心室
リード
りにポケットを作成して本体を埋め込み、心室細動の誘発テストを行って、
装置が適切に働くことを確
植込み術中の心室細動誘発テストの心電図
認して手術は終了です。誘発
テストを含めて 2 時間前後の
手術時間となります。
<ICD 外来>
植込み後も約 4 ヶ月お
きの ICD 外来で ICD の作動
状況や電池の消耗などをチ
ェックし、装置が適切に働い
心室細動
ICD にて除細動
ていることを確認します。そ
(Vf)
に成功
のチェックの際に電池が消
耗していれば電池交換が必要です。電池交換の手術は、局所麻酔後に鎖骨の
下のあたりのポケットを数 cm 切開して装置を取り出し、新しい装置を取り付
ける手術となります。その際に
リード線のチェックもおこな
います。リード断線やリークな
ど、リード線が継続して使えな
い状態であると判断すれば新
規にリード線を挿入すること
左はペースメーカーや ICD のチェックに使用する装置。
もあります。
右はワイヤレスで装置のチェックをしているところ
(資料提供 Medtronic社
<ICD 植込み患者様の車
の運転について>
ICD を植え込んだ患者様は車の運転は原則禁止です。これは、ICD を
植え込んだことが悪いのではなく、ICD を植え込む必要があるような失神な
どの既往があり、運転中に失神をすれば大事故を起こす恐れがあるというこ
とが理由です。ただし、ICD を植え込んでから 6 ヶ月以上経過し ICD の作動
や意識消失を起こしていない患者様には、医師は「運転を控えるべきとはい
えない」という診断書を作成することが可能です。患者様はこの診断書を公
安委員会に提出し適性検査を受けた後に運転が可能となります。ICD 植込み
後に作動や意識消失があった場合にも運転禁止となりますが、その後 12 ヶ月
間の観察で ICD の作動も意識消失もみられなければ、医師は先程と同様に「運
転を控えるべきとはいえない」という診断書を作成することが出来ます。
<ICD が作動したらどうしますか?>
意識があるときに ICD が作動すると、突然「ドーン」となる衝撃があ
ります。経験者の話では「突然後ろからハンマーで頭をたたかれたような感
覚」となるような衝撃があるようです。
・ICD の作動が1回だけでおさまり、その後は何もなければ、そのま
ま様子をみて、次の ICD 外来のときに、
「いつ・何をしていたときに起きたの
か」を教えてください。装置をチェックして本当に心室細動/心室頻拍があっ
たのかを確認し、必要に応じて設定の変更や薬の調節を行います。
・もし、1日に続けて何回も ICD の作動が続けて起こるときには、す
ぐに当院に連絡して(救急車で)受診するようにしてください。意識が保たれて
いる状態で1日に何回も ICD が作動するときには、
① 心室細動/心室頻拍ではない不整脈を心室細動/心室頻拍である
と装置が勘違いしている。
② 心室細動/心室頻拍になっているのに ICD が治療できていない。
などの原因が考えられます。いずれにしても装置の設定の変更や心室
細動/心室頻拍に対する薬の調整やカテーテルアブレーションなどの治療が必
要になる場合がありますので、すぐに診察を受けるようにしてください。
<おわりに>
ICD を植え込むことは、患者様にとって肉体的・精神的にストレスに
なります。当院では日本循環器学会作成の「不整脈の非薬物治療ガイドライ
ン」
・アメリカの AHA/ACC のガイドライン・欧州 ESC のガイドラインを参
考にしながら、本当に必要な患者様に植え込みを行うことを心がけ、さらに
データを検証していきます。また、植込み後の行動制限がなるべく少なくな
るよう、今後も各種研究会などで情報交換を行いながら、患者様に還元して
いきたいと思います。
なお、循環器科柏瀬医師は NPO 法人「日本 ICD の会」の顧問に就任予
定です。今後も ICD を植え込んだ方の心機能や心のケアを心がけていきたい
と思っております。
2008 年 8 月 20 日
循環器科 副医長 柏瀬一路
両室ペーシング機能付植込み型除細動器(CRT-D = cardiac resyncronization
therapy defibrillator)
<はじめに - CRT-D とは ->
CTR-D は日本語では両室ペーシング機能付植込み型除細動器と表現します。
簡潔に表現すると,
CRT-D = CRT-P + ICD
ということになり、CRT-P(別途記
載)と ICD の両方の機能を持つ植込
み装置ということになります。右の
写真に示しますように、外見や装置
の大きさは ICD と似ています。
そもそも、壁運動の同期性がなく
なっており CRT-P を入れる必要が
あるような患者様は心機能が低い
ため心室細動/心室頻拍を起こしや
すいことが論文でも報告されてお
ICD, CRT-D の模型
り、心機能をたすける両室ペーシン
グ機能に加えて ICD の機能も必要であるという発想から CRT-D は開発され
ました。なお、壁運動の同期性については CRT-P の<CRT (cardiac
resyncronization therapy) = 心臓再同期療法とは>を参照してください。
<CRT-D の対象となる患者様>
こちらも、日本循環器学会作成の「不整脈の非薬物治療ガイドライン
(http://www.j-circ.or.jp/guideline/index.htm)」
・アメリカの AHA/ACC のガイ
ドライン・欧州 ESC のガイドラインを参考に決定していますが、
・拡張型心筋症や虚血性心疾患による低心機能があり充分な薬物治療を
行っても慢性心不全(NYHA 分類のクラス 3-4) が持続しており、心電図の
QRS 幅が 130 ミリ秒以上の症例
が代表的な適応症例です。下線部のところ以外は ICD の低心機能症例の基
準と重なっています。また、CRT-P の適応基準をみると、CRT-P の適応とな
るような症例は、ICD の適応ともなり得ます。要するに、
「心筋症や虚血性心疾患のため心機能が高度に低下して
おり、心室細動/心室頻拍という危険な不整脈を起こす可能
性が高く、かつ壁運動の同期性がなくなっている症例」
ということになります。実際には、いろいろな背景を考慮しながら循環器
科全体の話し合いで方針を決定し、患者様本人や家族と話し合って最終決定
しています。
<CRT-D の植込み>
CRT-P と同様に右心房リ
ード・右心室リード・左心室
リードの 3 本のリードを植え
込みます。右心房リードと右
心室リードはそれぞれの部屋
の中に留置します。左心室リ
ードは右心房を経由し、冠静
脈の中にリード線を入れて左
心室の側壁や後壁周辺にリー
ドを留置します。右心室リー
ドと左心室リードが左心室の
対極になるように留置するの
が理想的なパターンです。
右心室リードは除細動の電
気ショックを行うためのコイ
ルがついて CRT-P のリードよ
りも若干太くなっていますが、
植込み手順は同じです。
最後に ICD の植込み手術の
ときと同様に心室細動の誘発
テストを行って、装置が適切
に働くことを確認して手術は
終了です。
右心房
リード
左心室
リード
右心室
リード
本体
<CRT-D 植込み後のフォロ
ー>
ICD 機能についてのフォ
ローは<ICD 外来>・<ICD
植込み患者様の車の運転につ
いて>・<ICD が作動したら
どうしますか?>を参照して
ください。
右心房
リード
左心室
右心室
リード
リード
CRT-D 植込み症例は心機能が低下しており、心不全で緊急入院するリス
クが高いですから、日頃から薬をきちんと服用し、水分管理をしっかり守っ
て節度のある生活を送るようにしてください。また、きちんと外来通院する
ようにしてください。当科では毎月1回「心不全教室」を開催して、心不全
に対する日常生活の注意点などを中心に説明しております。当院通院中の心
不全がある患者様が対象です。受講につきましては循環器科主治医に相談し
てください。
<おわりに>
CRT-D は欧米では 2002 年から、日本では 2006 年 8 月に健康保険適応の
認可が下りました。現存する不整脈の植込み装置としては、ペースメーカー
機能と ICD 機能をすべて有しており、いろいろな不整脈に対応可能です。歴
史が浅く、今後も装置の小型化やリードの改良が続けられていくと思います。
当院でも植え込んだ症例の経過やデータを蓄積して今後の治療に役立ててい
こうと思っております。
2008 年 8 月 20 日
循環器科 柏瀬一路