序 ∼デバイス治療のフロントライン:多機能デバイスを使いこなす∼ 『不整脈治療 update』シリーズは,5名の編集委員が特にアップデートが必要と判断した不整 脈の薬物および非薬物治療の最新情報と,実施の際のコツや注意点(knack and pitfalls),そ して現在注目されているトピックスなどを紹介し,今日からの診療に役立てていただける治療 の実践書である。本書は「シリーズ第2巻」で,医用工学・IT の発展を最も反映し,進歩した 植込み型デバイス治療のフロントラインに焦点を当てた。 ペースメーカ治療が開始されてから約半世紀が経過したが,最新の植込み型除細動器(ICD), 心臓再同期療法(CRT-P/CRT-D)に至るまで,デバイスサイズは縮小し,一方,バッテリー 寿命は延長し,植込み術自体も容易になるとともに患者負担も相当に軽減された。最も重要な 進歩は,各機能の充実,そして技術革新で,デバイスはもはや単なる電気刺激装置ではなく, 心臓の監視・治療装置と言える。徐脈に対するペーシング,頻脈に対する抗頻拍ペーシングと カルディオバージョン / 除細動,収縮同期不全を伴った重症心不全の治療,心不全増悪の早期 診断,そして IT を活用した遠隔モニタリングなど,不整脈から心不全まで,診断と治療が可 能となった。「進歩」であり「進化」である。 では,そのデバイス機能は症例ごとに適切に使いこなされているだろうか。上記の進歩は逆 に,機能の複雑さ,調整の難しさ,煩雑さにつながるかもしれず,有益なはずのデバイス機能 が十分に活かされていないかもしれない。これは決してユーザーの怠慢ではなく,進歩のス ピードが速く,その情報が十分に伝わっていないためである。さらに最近では道路交通法が改 正され,自動車運転の可否に関する指導も適切に行わなければならない。日常生活でも電気自 動車や IH 調理器が普及し始め,環境も変わりつつある。つまり,デバイス患者の生活・環境 に対する適応法にも細心の注意を払う必要がある。 そこでシリーズ第2巻「進化する多機能デバイスの適正使用」では,上記の課題,問題点を 克服すべく,最新の情報,治療のコツと注意点,トラブルシューティング,日常生活において 指導すべき内容,そして知っておくべきトピックスなどについて,わが国のトップランナーの 先生方に執筆を依頼した。植込み型デバイス治療の最新版とも言えるだろう。 本書により,進化するデバイスがより適切に適用され,多くの患者が最新医療のメリットを 享受されることを願っている。 2014 年 8 月 編集委員長 奥村 謙 編集委員からの言葉 ∼「第2巻」のテーマとポイント∼ 本邦における頻脈性不整脈に対する非薬物療法の導入は欧米に約 10 年遅れ,1994 年にカ テーテルアブレーションが,1996 年に植込み型除細動器(ICD)が承認され,保険適用となった。 その後,2004 年に両室ペースメーカ(CRT-P),2006 年には両室ペーシング機能付き植込み型 除細動器(CRT-D)が保険償還された。 医用工学の進歩に伴うデバイス機器の飛躍的な発展,多くの大規模臨床試験から得られた適 応拡大に関するエビデンスの蓄積,および長寿高齢化による適応症例数の増加により,頻脈性 不整脈に対するデバイス治療は急速に普及している。しかし,植込み患者数の増加とともに, デバイス植込みの周術期および術後管理中のトラブルも増加している。さらに最近では,ICD 植込み後の自動車運転制限が改正され,またデバイス植込み症例の障害認定基準見直しも発表 された。デバイス植込みとその後の管理を担当する循環器 / 不整脈専門医,検査技師および看 護師は,ソフト面・ハード面ともに日進月歩で高機能化するデバイス機器に精通し,かつ周術 期および術後管理中に起こりうる様々なトラブルへの適切な対処方法を習得し,適宜アップ デートしていく必要がある。しかしながら多忙な日常臨床下では,このための十分な時間がと れない医療従事者が多いのではないかと思われる。 今回,頻脈性不整脈に対するデバイス治療の特集として,最近のエビデンスや学会・論文報 告,およびガイドライン等を基に,デバイス治療担当医師が特に知っておくべきもの,あるい は留意すべきもの,そして現時点において多くの医療従事者が興味をもっていると思われる項 目とトピックスを1冊の本にまとめて発刊することとした。デバイスの適応や周術期・術後管 理から,リードトラブルとその対応,デバイスのトラブルシューティング,自動車運転に関す る道路交通法と障害認定基準,Topics まで,全 21 項目の構成である。Topics の内容として, 心不全モニタリング等の最新のデバイス機能,wearable cardioverter-defibrillator,subcutaneous ICD,そしてリードレスペーシング を取り上げた。 読者の方々に,あらゆる角度から漏れなく,デバイス治療に関する必要かつ有益な情報が短 時間で得られるように配慮したつもりである。編集委員長と編集委員で相談し,各項目に最も 精通した先生に執筆をお願いし,できる範囲で分かりやすく記載していただくようお願いし た。本書が,デバイス治療にあたるすべての医療従事者のお役に立てれば幸いである。 2014 年 8 月 第2巻責任編集 夛田 浩
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