障害者自立支援法の見直しと今 後の課題

障害者自立支援法の見直しと今
後の課題
小澤 温(東洋大学)
話の流れ
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障害者自立支援法に至るまで
障害者自立支援法の理念について
障害者自立支援法の概要
障害者自立支援法の課題と見直しの論点
障害者自立支援法の歩み
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社会福祉基礎構造改革(1998年~2002年)
支援費制度の展開と挫折(2003年~2005年)
介護保険統合論(2004年)
グランドデザインの提案(2004年)
障害者自立支援法の成立(2005年10月)
障害者自立支援法の展開と問題(2005年11月~2006年3月)
障害者自立支援法の施行(2006年4月)
介護保険との統合問題(少なくとも2009年は先送り)
(後期)重点施策実施5か年計画(2007年12月)
社会保障審議会・障害者部会報告書(2008年12月)
障害者自立支援法改正法案(2009年3月)
障害者自立支援法の改正(2009年6月、7月?)
支援費制度は本当にだめだった
のか(従来の説明について)
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施行後、在宅サービス(ホームヘルプサービス)
の利用者は1年半で1.5倍に急増→しかし、サー
ビス未利用者が掘り起こされたとすれば「急増」
は問題だったのか。
サービス水準の地域格差(ホームヘルプサービ
スでは都道府県で最大7.8倍の差)→しかし、大
阪府と滋賀県を除くと5倍以内に収まる。
支援費の問題に地域格差があり、その是正のた
めに、障害者自立支援法が施行されたことは興
味深い。
「障害者自立支援法」のポイント
障害者施策を3障害一元化
現状
○3障害の制度格差を解消し、精神障害者を対象に
○市町村に実施主体を一元化し、都道府県はこれをバッ
クアップ
現状
・ 障害種別ごとに複雑な施設・事業体系
・ 入所期間の長期化などにより、本来の施設目
的と利用者の実態とが乖離
○33種類に分かれた施設体系を6つの事業に再編。
あわせて、「地域生活支援」「就労支援」のための事業や
重度の障害者を対象としたサービスを創設
○規制緩和を進め既存の社会資源を活用
就労支援の抜本的強化
現状
・養護学校卒業者の55%は福祉施設に入所
・就労を理由とする施設退所者はわずか1%
○新たな就労支援事業を創設
○雇用施策との連携を強化
支給決定の透明化、明確化
現状
・全国共通の利用ルール(支援の必要度を判定
する客観的基準)がない
・支給決定のプロセスが不透明
○支援の必要度に関する客観的な尺度(障害程度区分)
を導入
○審査会の意見聴取など支給決定プロセスを透明化
安定的な財源の確保
現状
・新規利用者は急増する見込み
・不確実な国の費用負担の仕組み
○国の費用負担の責任を強化(費用の1/2を負担)
○利用者も応分の費用を負担し、皆で支える仕組みに
自立と共生の社会を実現
利用者本位のサービス体系に再編
障害者が地域で暮らせる社会に
・ 3障害(身体、知的、精神)ばらばらの制度体
系(精神障害者は支援費制度の対象外)
・実施主体は都道府県、市町村に二分化
法律による改革
障害者自立支援法の理念に関
して
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普遍主義(定率負担、応益負担)と選別主
義(障害者の範囲の限定、手帳制度など)
の混合について→国民みんなで支えると
いう美名の下で。
機会平等(一般就労、就労支援など)の重
視と結果不平等(福祉的就労の低賃金水
準など)の放置について→国連・障害者権
利条約の批准問題にも関わる課題
障害者自立支援法の理念
・目的(第1条)
・・・・障害者及び障害児がその有する能力及び適
性に応じ、・・・・
・国民の責務(第3条)
すべての国民は、その障害の有無にかかわらず、
障害者等がその有する能力及び適性に応
じ、・・・・
・「能力および適性に応じる」ために、その判断基準
が必要になる→障害程度区分という発想へ
障害者自立支援法の理念
・市町村の責務(第2条)
意思疎通において支援が必要な障害者等が
障害福祉サービスを円滑に利用すること
ができるよう必要な便宜を供与すること、
障害者等に対する虐待の防止および早期
発見のために関係機関との連絡調整を行
うこと、その他障害者等の権利擁護のため
に必要な援助を行うこと。
障害者自立支援法の前提
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障害者自立支援法以前からある問題と施
行後新たに付加された問題とを区別して
考える必要がある
障害者自立支援法の施行以前から
指摘されていた問題
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在宅サービス基盤の不十分さ(入所施設の待機
問題など)
契約に基づく制度における権利擁護システムの
不安(相談支援体制の不備)
市町村職員の判断への不安(都道府県から市町
村への権限委譲の政策と実態との乖離)
障害程度区分(簡略化された区分)によるサービ
ス必要量判断への不安
就労、住宅、教育と福祉制度・行政の分断(縦割
り行政問題)
障害者自立支援法施行以降付
加された課題
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定率負担問題の再検討(2006年、2007年
2008年にわたる負担軽減措置)
障害程度区分(給付管理的な危険性)とケ
アマネジメント(エンパワメント支援)の関係
市町村格差問題(市町村事業化による格
差問題と市町村間の社会資源の不均衡)
(総合的な自立支援システムの構築)
市 町 村
介護給付
訓練等給付
・居宅介護
・重度訪問介護
・行動援護
・療養介護
・生活介護
・児童デイサービス
・短期入所
・重度障害者等包括支援
・共同生活介護
・施設入所支援
・自立訓練(機能・生活)
・就労移行支援
・就労継続支援
・共同生活援助
自立支援給付
自立支援医療
障害者・児
・(旧)更生医療
・(旧)育成医療
・(旧)精神通院公費
補装具
地域生活支援事業
・相談支援
【基 本 ・コミュニケーション支援、日常生活用具
事 業】
・移動支援
・地域活動支援
・福祉ホーム
等
支援
・広域支援
・人材育成
都道府県
等
※自立支援医療のうち
旧育成医療と、旧精神
通院公費の実施主体
は都道府県等
利用者本位のサービス体系へ再編
利用者本位のサービス体系へ再編
○
○ 障害者の状態やニーズに応じた適切な支援が効率的に行われるよう、障害種別ごとに分立した
障害者の状態やニーズに応じた適切な支援が効率的に行われるよう、障害種別ごとに分立した
33種類の既存施設・事業体系を、6つの日中活動に再編。
33種類の既存施設・事業体系を、6つの日中活動に再編。
・・ 「地域生活支援」、「就労支援」といった新たな課題に対応するため、新しい事業を制度化。
「地域生活支援」、「就労支援」といった新たな課題に対応するため、新しい事業を制度化。
・・ 24時間を通じた施設での生活から、地域と交わる暮らしへ(日中活動の場と生活の場の分離。)。
24時間を通じた施設での生活から、地域と交わる暮らしへ(日中活動の場と生活の場の分離。)。
・・ 入所期間の長期化など、本来の施設機能と利用者の実態の乖離を解消。このため、1人1人の利用者に対し、身
入所期間の長期化など、本来の施設機能と利用者の実態の乖離を解消。このため、1人1人の利用者に対し、身
近なところで効果的・効率的にサービスを提供できる仕組みを構築。
近なところで効果的・効率的にサービスを提供できる仕組みを構築。
<現
行>
<見直し後>
日中活動
重 症 心 身 障 害 児 施 設
(
年
齢
超
過
児
)
以下から一又は複数の事業を選択
進行性筋萎縮症療養等給付事業
更 生 施 設 ( 身 体 ・ 知 的 )
授産施設(身体・知的・精神)
小規模通所授産施設(身体・知的・精神)
福祉工場(身体・知的・精神)
精 神 障 害 者 生 活 訓 練 施 設
精神障害者地域生活支援センター
( デ イ サ ー ビ ス 部 分 )
障 害 者 デ イ サ ー ビ
ス
※ 概ね5年程度の経過措置期間内に移行。
新体
体系
系へ
へ移
移行
行(
(
※)
)
新
※
身 体 障 害 者 療 護 施 設
居住支援
【介護給付】
① 療養介護
( 医療型 )
※ 医療施設で実施。
② 生活介護
施設への入所
又は
( 福祉型 )
【訓練等給付】
③ 自立訓練
( 機能訓練・生活訓練 )
④ 就労移行支援
⑤ 就労継続支援
( 雇用型、非雇用型 )
【地域生活支援事業】
⑥ 地域活動支援センター
居住支援サービス
(ケアホーム、グループホーム、
福祉ホーム)
地域生活支援事業(市町村)
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相談支援事業(相談支援、居住サポート、
成年後見制度利用支援事業)
コミュニケーション支援事業
日常生活用具給付事業
移動支援事業
地域活動支援センター
その他
地域生活支援事業(都道府県)
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相談支援事業(発達障害者支援センター、
障害者就業・生活支援センター)
広域支援事業(相談体制整備、精神障害
者退院促進支援、障害児療育支援)
人材養成(相談支援者、サービス管理責
任者など研修事業)
その他
障害者自立支援法の推進のた
めに地域で考えること
・市町村における支給決定手続き、相談支
援事業のあり方
・地域自立支援協議会の活性化
・障害福祉計画(特に、個別給付以外の市町
村地域生活支援事業に関する計画づくり
の創意と工夫)
社会保障審議会・障害者部会・
報告書にみる見直しの論点
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相談支援
地域生活支援
障害児支援
障害者の範囲
利用者負担
報酬
個別論点
相談支援
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相談支援の拠点機関の設置
サービス利用計画書作成の対象拡大
ケアマネジメントの実施の中で支給決定
地域自立支援協議会の法定化
障害者相談支援事業のイメージ
地域生活支援事業
利用者
市町村相談
支援機能強
化事業
福祉サービス利用援助
社会生活力を高めるための支援
個別支援会議
社会資源の活用支援
ピアカウンセリング
住宅入居等
支援事業
(居住サポート
事業)
成年後見制
度利用支援
事業
異分野多職種協働
総合的な相談支援
権利擁護のための必要な事業
障害程度区分にかかる認定調査
の委託の場合
・認定調査の実施
・サービス利用意向の聴取
専門機関の紹介
相談支援専門員
サービス利用計画作成・フォロー
の場合
・委託相談支援事業の運営評価
・中立公平性の確保
・困難事例への対応協議調整
・ネットワーク構築
・地域資源の開発改善
・人材活用(専門的職員・アドバイザー)
・サービス利用計画作成・フォロー支援
・利用者負担額の上限管理
地域自立支援協議会の運営
サービス事業者
行政機関
当事者
サブ協議会
権利擁護
就労支援
地域移行 等
企業・就労支援
自立支援協議会を市町村が
設置し、中立・公正な事業運
営の評価を行う他、権利擁
護等の分野別サブ協議会等
を設置運営する。
民生委員
(市町村単位・圏域単位)
保健・医療
地域自立支援協議会
子育て支援・学校
高齢者介護
相談支援事業者
相談支援事業のこれまでの歩み
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市町村障害者生活支援事業(2003年度より一般
財源化)
障害児(者)地域療育等支援事業(2003年度より
一般財源化)
精神障害者地域生活支援センター(2006年度よ
り一般財源化)
支援費制度導入時、障害者自立支援法立ち上
げの重要な時期に、国庫補助事業としての相談
支援事業整備基盤が消滅したこと
市町村がどのくらい「相談支援事業」の重要性を
理解できるか(法的には義務化。問題は質。)
相談支援体制のポイント
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サービスの必要性は個別的(機械的なタイプ分
けはできない)、全体的(障害のあるその人だけ
でなく家族・関係者)、包括的(介護だけでなく、
就労、教育、社会参加、生きがいなど)である。
相談支援の対象者は障害者自立支援法の対象
者ではない。地域の生活者に対して。
そのため、地域における相談支援体制づくりこそ、
この制度の要である。
制度の谷間、救済されない多くの人の相談体制
はできないものか。
相談支援事業の整備について
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障害福祉計画の策定が重要
相談支援事業による包括的な生活ニーズ
の把握がないと地域生活支援事業の必要
量の計算ができない。
相談支援システムの構築が必要。地域の
状況を勘案したシステムづくりが成否を決
める。(市町村の問題意識の格差が決定
的になる)
支給決定手続きと相談支援の見
直し
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障害程度区分(現状の項目および調査方法は、
確かに問題が大きい)の見直しだけでよいのか
最大の目的はサービス必要の判断(程度区分の
評価が目的ではない)
そのためには相談におけるソーシャルワーク、ケ
アマネジメントを丁寧にできる仕組みが不可欠
現在の法制度の下では、相談支援事業者による
ケアマネジメントと市町村審査会の2つを総合的
に判断する市町村の取り組みが必要(サービス
利用計画書の作成手続きに関する障害者自立
支援法の見直しの議論)
相談支援事業とサービス利用計画作成費(見直し前)
新制度では、
(1)一人一人の利用者が、必要に応じて支援を受けられるよう、市町村の必須事業(地域生活支援事業)
として相談支援事業を位置付け、これを相談支援事業者に委託できるようにする。
(2)特に計画的な支援を必要とする者を対象として、サービス利用のあっせん・調整などを行うための給
付(サービス利用計画作成費)を制度化。
サービス利用
サービス利用計画
支給決定
障害程度区分
の認定
アセスメント
申請
(就労・教育等の支援)
(福祉サービス)
相談
相談、情報
提供・助言
支給決定プロセス ※
サービス利用者のうち、
特に計画的な自立支援
を必要とする者
サービス利用
計画作成費
(個別給付)
・サービス利用の
あっせん・調整
・モニタリング
相談支援事業者
申請支援
連絡調整
相談支援事業【市町村事業】
(相談支援事業者に委託可能)
※支給決定事務の一部(アセスメント等)について、市町村から相談支援事業者へ委託可能。
地域自立支援協議会について
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国の研修で強調している3層構造
個別調整会議→定例調整会議→運営会
議
考え方としては、ケースワーク(アウトリー
チを含む)→コミュニティワーク→コミュニ
ティ・デベロップメント、のソーシャルワーク
の3層構造のシステム化
これに基づいて、個別ニーズ→地域課題
→社会資源の調整と開発へ展開する
地域生活支援
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地域移行支援の充実
グループホームにおける支援体制の充実
就労移行支援、就労継続支援の充実
官公需の優先発注
所得保障(障害基礎年金の水準の引き上
げ:かなり困難?)
障害児支援
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障害児施設体系の見直し、一元化(ただし、
これは障害者自立支援法の範囲ではない、
児童福祉法の見直しになる)
入所施設(特に、重症心身障害児施設)の
年齢超過問題(児・者一貫の支援の必要
性)(しかし、生涯施設で暮らすような新た
なコロニー政策の危険性はないのか)
障害者の範囲
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身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、
精神保健福祉法の対象者は、障害者自立
支援法の対象者となる。
発達障害は対象にする
難病、その他、身体障害者福祉法の対象
になりにくい対象者の扱い
利用者負担
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負担軽減措置は今後も継続
社会保障審議会で争点になったのは、むしろ、
利用者負担の記載そのものが問題ではないかと
いう点。(これは、2008年、秋に提訴した障害者
自立支援法の違憲訴訟の争点でもある)
改正法案では応能負担に変更へ(ただし、支援
費の時と比較すると応能負担とは言えないとの
批判もある)
報酬
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日払い方式を堅持する代わりに、報酬の
アップがなされる
2009年度予算案では、障害福祉サービス
では概ね5.1%のアップ(介護保険におけ
る介護報酬は概ね3%のアップなので、そ
れよりは若干アップ)
これにより、人材確保、経営の安定が図ら
れたかは今後の検証課題
個別論点
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サービス体系(日払い方式の堅持)
障害程度区分の見直し(今回はむずかしい、3年
後には見なおす)
地域生活支援事業にある移動支援の個別給付
化(重度者など?)
サービス基盤の整備(小規模多機能事業所など
基準の緩和)
障害者虐待防止の法制化(議員立法?)
障害者の権利に関する条約との整合性(批准に
向けて、今後、争点化)
障害者自立支援法の改正のポ
イント(6月の時点)
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利用者負担の見直し(応能負担原則)
障害者の範囲の見直し(発達障害を対象にす
る)
相談支援の充実(基幹型相談支援センターを「設
置できる」(表現注意))
障害児支援の強化(障害児施設体系の一元化)
グループホーム、ケアホームの利用援助
障害程度区分から障害支援区分への名称変更