有機薄膜太陽電池材料の構造制御 Structure Control of Organic Photovoltaic Materials ○前川 侑大 1),村上 拓也 1),前田 篤志 1),武藤 浩行 2),松田 厚範 2),木村 宗弘 3) Y. Maegawa1), T. Murakami1), A. Maeda1), H. Muto2), A. Matsuda2), M. Kimura3) 1) 大阪府立大学工業高等専門学校,2)豊橋技術科学大学,3)長岡技術科学大学 1. はじめに 無機太陽電池に比べ安価に製造できる有機薄膜太 陽電池は、軽量且つフレキシブルという特長を有し ているため、自然エネルギー利用の観点から注目さ れている。有機薄膜太陽電池における光電変換は、 ①光を吸収した電子供与体内で励起子が生成,②拡 散移動した励起子が pn 接合界面で電荷分離,③電子 と正孔を各電極に捕集というプロセスで成立してい る。ここで、拡散長が数 nm 程度である励起子が接 合界面に到達できずに失活してしまうことは、低変 換効率の原因と考えられている。近年、この課題を 解決するために、共役系高分子とフラーレン誘導体 のバルクヘテロ接合[1]あるいはブレンド膜[2]、p 型お よび n 型有機半導体の共蒸着層[3]等が提案されてい る。中でも、ナノインプリント技術で形成される直 立超格子は[4]、高変換効率の有機薄膜太陽電池を実 現する上で理想的な構造とされている。 ナノレベルの電荷分離界面を形成するための指針 として、我々は非極性分子間に働く疎水性相互作用 に着目している。基板表面-有機分子間、また、有 機分子同士に引力である疎水性相互作用が発現する と、例えば電子供与体層が疎な柱状構造で成長する ことが期待される。実現すれば、その上から電子受 容体層を蒸着することにより、擬似的な直立超格子 構造を形成できる(図 1)。本講演では、非極性表面 を有する水素終端化 Si 基板あるいは自己組織化単 分子膜(SAM: Self-Assembled Monolayer)上に、非 極性分子である銅フタロシアニン(以下、CuPc)を 斜め蒸着した場合の構造変調について報告する。 非極性分子 非極性表面 2. 実験 2.1 水素終端化 Si 基板 Si 基板をエタノール,超純水で超音波洗浄した後、 オゾン改質装置内で 1 時間 UV 光を照射し、表面の 有機汚濁物を除去した。次に、5%HF 水溶液(5 分 間浸漬)で酸化膜を除去すると共に、Si のダングリ ングボンドを H 原子で終端化した。さらに、基板表 面を原子レベルで平坦化するため、80℃に加熱した 40%NH4F 水溶液(30 秒間浸漬)でエッチングした[5]。 こうして形成した水素終端化 Si 基板の水滴接触角 は 65 度程度であり、表面が非極性であることが分か る。 2.2 SAM 緩衝層 SAM の特徴については、吸着分子同士の相互作用 により会合体構成分子が密に集合し、分子配向と配 列が高度かつ規則的な構造として自発的に形成され ることが挙げられる[6]。本研究では、SAM 緩衝層の 形成に光ラジカル反応を採用した[7]。水素終端化 Si 基板への UV 光照射(1-2 時間)により表面から H 原子を引き抜き、1-Hexadecene が持つ末端二重結合 と生成した Si ラジカルを反応させた。SAM 形成後 の水滴接触角は 90 度程度まで顕著に増大すること から、表面が疎水性を有していると結論できる。 2.3 CuPc 薄膜 本研究では、非極性且つ代表的な電子供与体であ るCuPcを薄膜化材料に選択した。ここで、水素終端 化Si基板のSi-H結合は表面から垂直(90 度方向)に 伸びているのに対して、Hexadecyl-SAM緩衝層の長 鎖アルキル基は 30 度方向に傾斜している。そのため、 CuPc薄膜の形成には、自作の基板傾斜機構(図 2) による斜め蒸着法を採用した。基板と蒸着源の相対 角度を任意に設定できることから、疎水性相互作用 の効果が最大となる成膜条件の探索が可能となる。 柱状構造体 擬似的直立超格子 図 1 研究アプローチ 図 2 基板傾斜機構 (b) (a) (a) (b) (c) 図 4 AFM 像 (a)Hexadecyl-SAM 緩衝層 (b)Si-O 基板 図 3 断面 FE-SEM 像 (a)Si-H 基板 (b)Hexadecyl-SAM 緩衝層 (c)Si-O 基板 3. 結果と考察 3.1 断面 FE-SEM 測定 基板を 70 度傾斜させて蒸着した CuPc 薄膜の断面 FE-SEM 像を図 3 に示す。非極性表面を有する水素 終端化 Si 基板および Hexadecyl-SAM 緩衝層上では、 傾斜した柱状構造体が形成されている。いずれも先 端が丸みを帯びた長さ 150nm,太さ 50nm 程度のロ ッド状であり、形・サイズの均一性は高い。但し、 膜厚と柱状構造体の密度については両試料で違いが 見られる。薄膜の成長初期過程は、ランダムに到達 する蒸着気化分子の基板表面への吸着と捉えること ができる。そのため、膜厚の違いは CuPc 分子と各 基板の最表面に存在する(a)H 原子,(b)CH3 基との親 和性の差に起因すると考えられる。ここで、 Hexadecyl-SAM 緩衝層上に形成した CuPc 薄膜の成 長様式は極めて興味深い。1 層目の傾斜柱状構造体 が形成された後、2 層目についても同様なナノ形状 で成長することが分かる。今後、膜厚による構造変 化を検証する予定である。 次に、柱状構造体の密度については、水素終端化 Si 基板においてやや疎な状態が実現している。水素 終端化 Si 基板では、Si のダングリングボンドの全て が H 原子で終端化されている。一方、Hexadecyl-SAM 緩衝層を形成した Si 基板表面には、置換したアルキ ル基と未置換の H 原子が 1:1 の比率で存在している (長鎖アルキル基の立体障害による)。以上の事実は、 Si-H 表面-CuPc 間に働く疎水性相互作用が強く、 より凝集した形で柱状構造体が形成されることを示 唆している。 なお、図 3(c)に示すとおり、酸化 Si 基板上に形成 した CuPc 薄膜では柱状構造体は観測されない。π 電子共役系が広がる CuPc の分子構造は平面性が高 いため、疎水性相互作用が働かない Si-O 極性表面で は層状成長するものと考えられる。同様の結果はガ ラス基板上でも得られた。 3.2 AFM 測定 断面 FE-SEM 測定と同一試料の AFM 像を図 4 に 示す。Hexadecyl-SAM 緩衝層上に形成した CuPc 薄 膜については、柱状構造体の先端形状を反映した凹 凸と共に、10 から 20 のロッドからなる楕円上のド メインが観測された。探針の走査方向に重畳してい るノイズは、柱状構造体の間隙が深いために、カン チレバーのたわみ量をコントロールするサーボ系が 追従しないことを示唆している。水素終端化 Si 基板 上の CuPc 薄膜はより疎な柱状構造を有しているた め、その影響が顕著であり、明瞭な AFM 像は観測 できていない。なお、酸化 Si 基板上では、比較的平 滑性の高い均一な薄膜が形成されていることを確認 した。 4. むすび 本研究では、有機薄膜太陽電池においてナノレベ ルの電荷分離界面を実現するための第 1 ステップと して、電子供与体層の構造制御を試みた。水素終端 化 Si 基板および Hexadecyl-SAM 緩衝層上に CuPc を 斜め蒸着した結果、疎水性相互作用に起因すると考 えられるナノ柱状構造体の形成に成功した。今後、 疎な柱状構造を形成するためのプロセスを確立する ことにより、擬似的な直立超格子構造を有する有機 薄膜太陽電池を試作できるものと考える。 謝辞 本研究を進めるにあたり有用な助言をいただきま した大阪府立大学工業高等専門学校の須﨑昌已教授, 東田卓教授,辻元英孝助教に厚く御礼申し上げます。 参考文献 [1] F. Padinger et al., Adv. Funct. Mater. 13 (2003) 85. [2] M. R-Reyes et al., Appl. Phys. Lett. 87 (2005) 83506. [3] J. Xue et al., Adv. Mater. 17 (2005) 66. [4] D.-H. Ko et al., J. Mater. Chem. 21 (2011) 16293. [5] T. Takahagi et al., J. Appl. Phys. 64 (1988) 3516. [6] H. Sugimura, Int. J. Nanotech. 2 (2005) 314. [7] F. Effenberger et al., Angew. Chem. Int. Ed. 37 (1998) 2462.
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