肝硬変の治療(※PDF)

肝硬変の治療 Treatment of Patients with Cirrhosis N Engl J Med 2016; 375:767‐777. 【肝硬変患者のケア連携】 肝硬変患者の他職種チームによるケアの中心となるメンバーは
ケア・コーディネーターである.ケア・コーディネーターは患
者,肝臓専門医,プライマリ・ケア医,ホスピタリスト(入院
患者専門医),肝臓移植コーディネーター,その他の専門家の
間の連携を取るハブとして機能する.他にも,薬剤の整理,診
療と臨床研究の調整,「スマート体重計(測定した体重を自動
で通信する)」を患者の自宅に設置してモニターする,患者の
状況を電話して確認することで救急外来の受診を減らす,入院
治療から通院治療への移行の調整,熟練した介護施設やホスピ
スへの紹介,などの役割を持つ. 患者や家族との
コミュニケーシ
ン
肝臓病専門医との
コミュニケーション
プライマリ・ケア医との
コミュニケーション
移植コーディネーターとの
コミュニケーション
ホスピタリストとの
コミュニケーション
ケア・コーディネーター
診療と臨床研究
の調整
他の専門職との
コミュニケーション
スマート体重計の設置と
体重モニター
薬剤の整理
熟練した介護施設や
ホスピスへの紹介
入院から外来へのコーディネート
1
交感神経の活性
心臓の予備力
死亡率
レニン・アンギオテンシン・
アルドステロン系の活性
バクテリアル
トランスロケーション
末期肝硬変
・β遮断薬は以下の条件では中止する.
治療に不応性の腹水
収縮期血圧<100 mmHg
平均動脈血圧≦82 mmHg
血清 Na<120 mEq/mL
急性腎障害
肝腎症候群
特発性細菌性腹膜炎
敗血症
重症アルコール性肝炎
コンプライアンス・アドヒアランス不良
・β遮断薬は心収縮力とストレス下での循環を減
少させるので,生存期間を縮める.
・心臓の予備力が極度に低下.
・交感神経系と RAAS の活性が最大限に亢進.
・バクテリアル・トランスロケ-ションが起きて,
死亡する
β遮断薬の窓は再びは開かない
非代償性肝硬変
(中~大の静脈瘤)
・β遮断薬は静脈瘤出血の予防の
適応がある(一次予防)
.
・β遮断薬は静脈瘤の再出血の予
防にも適応がある(二次予防)
.
・心臓の予備力はあるが,確実に
低下していく.
・動脈血圧の低下を代償するため
に,交感神経系と RAAS の活性
が亢進する.
・バクテリアル・トランスロケ-シ
ョンのリスクが上昇.
β遮断薬の窓が閉じる-β遮断薬を中止
早期肝硬変
・β遮断薬は初期の
肝硬変には適応がな
い(静脈瘤出血を予
防しないし,有害事
象が増加する)
.
・心臓の予備力は元
のまま.
・交感神経系と
RAAS の 活 性 は 元
のまま.
・バクテリアル・ト
ランスロケ-ション
のリスクは低い.
β遮断薬の窓が開く-β遮断薬を開始
病状の進行
ウィンドウ仮説
β遮断薬は「β遮断薬の臨床ウィンドウ」の病期の中にある患者では,生存率を高めると考えられる.早
期の肝硬変で中等度以上の静脈瘤がない患者には,β遮断薬は静脈瘤の発症を予防しないだけでなく,悪
影響をもたらす可能性がある.β遮断薬の臨床ウィンドウは,中等度から大きな静脈瘤のある肝硬変ステ
ージで開き,静脈瘤出血の一次予防と二次予防に効果を示す.しかし更に進行した肝硬変では血行動態の
変化により,難治性腹水,低血圧,肝腎症候群,特発性細菌性腹膜炎,敗血症が出現し,β遮断薬の臨床
ウィンドウは閉じる.
2
肝硬変の主な合併症
合併症
発症
コメント
予防法
腹水
腹腔内の液体貯留.循環器系,血管系,機能
利尿剤とナトリウム制限を組み合わせて治療す
食事の塩分制限.多くの場合,水分制限は有益
的,生化学的,および神経伝達物質など,複数 る.治療抵抗性の場合は,腹水穿刺やTIPSを
でない.
の異常が原因になる.
必要とすることも.
肝硬変による心筋症
心拍出量と収縮力は正常~増加.
心臓のストレス応答が低下.
アルコールやヘモクロマトーシスが更に悪影響
なし
する場合がある
肝性脳症
睡眠障害(多い初期症状),羽ばたき振戦,精
神状態の変化,深部腱反射の著明な亢進,昏
睡.症状が明白な場合は臨床的に診断できる
が,無症状の症例は軌道マークテストよって検
出する.
ラクツロースおよびリファキシミン(抗生剤)
で治療する.アンモニアの測定は信頼できない 鎮静剤と麻薬製剤は避ける.タンパク質の摂取
ため,治療開始の判断やモニターには使用しな 制限は有益ではない.
い方が良い.
肝性胸水
通常,右側の横隔膜の欠損孔を通して,腹水が タンパク質の喪失,感染,出血のリスクがある
食事の塩分制限.腹水管理.
胸腔に移動する.
ため,胸腔drainageの留置は避ける.
肝細胞癌
無症状のことも多い.代償性肝硬変の患者が突
然,非代償性になった時には疑うべき.他に,
痛み,早期満腹感,黄疸,腫瘤の触知がある.
破裂すると腹腔内出血を引き起こし,急死する
ことがある.
肝肺症候群
肝疾患,室内気の呼吸時のAaDO2増加,肺内
有効な薬剤はない.肝臓移植が唯一の治療法. なし
血管の拡張が三主徴.
肝腎症候群
門脈圧亢進症性胃症
B型肝炎や非アルコール性脂肪性肝疾患の患者
では,肝硬変になっていなくても発生すること 腹部超音波検査,CT,またはMRIによる6ヵ
がある.B型肝炎,C型肝炎,非アルコール性 月毎の画像検査.AFP,PIVKA-2.
脂肪性肝炎がリスクを高める.
腸間膜の血管拡張.肝障害の進行によって最終 循環血液量が低下したときの状況が,肝腎症候 腎毒性のある薬剤は避ける.難治性腹水や特発
的に腎血流が低下.
群に似ている.
性細菌性腹膜炎を有する患者にはβ遮断薬と降
圧剤を使用しない.
まれに大量出血の原因になる.胃粘膜にびまん
性の浸み出し出血があるが,他に病変がない場 背景の門脈圧亢進症の程度が重症度を決める. なし
合に考慮する.
門脈血栓症
多くは無症状.代償性肝硬変の患者が突然,非 肝硬変の患者では出血のリスクが上昇するた
エノキサパリンによる予防的治療の研究結果は
代償性になった時には疑うべき.肝細胞癌が原 め,抗凝固療法は現在のところ反対意見もあり 議論の余地があるため,現在は推奨されていな
因のことがある.
推奨されない.
い.
肺高血圧症
全身倦怠感や労作時呼吸苦,胸痛,失神,起坐 薬物療法は困難.肝臓移植は周術期の死亡率が
なし
呼吸を認めることがある.
高い.
特発性細菌性腹膜炎
抗生物質の予防投与の適応となるのは,消化管
発熱,腹痛,腹部膨満感,意識レベルの変化, 腹水穿刺を早急に行うことが重要.検体はベッ
出血,腹水中のタンパク濃度が低い,特発性細
敗血症.
ドサイドで血液培養ボトルに注入する.
菌性腹膜炎の既往.
食道胃静脈瘤の破裂
突然の消化管出血(吐血と下血).
EVL.止血困難な場合はTIPS.Hb 7-8
g/dLを目標に輸血.
予防的EVL.非選択的β阻害剤は出血を予防
するが,静脈瘤の発生は防げない.
肝硬変の様々な兆候や合併症
兆候
発症メカニズム
対処法
コメント
味覚と嗅覚の異常
不明
異常で不快な嗅覚と味覚.肝硬変に伴う
元の肝疾患が改善すると可逆的になる可能 食欲不振に関係する.最初にウイルス性
性.
肝炎で指摘され,やがて他の慢性肝疾患
にも伴うことが判った.
女性化乳房
エストロゲンの過剰
スピロノラクトンが処方されている場合
は,他の利尿剤に変更する.
線溶亢進
凝固因子の消費,フォンヴィルブランド因 1.アミノカプロン酸(分解してトラネキサ
刺し傷や抜歯後の止血困難.時に外傷な
子と血小板のフィブリノーゲン受容体の分 ム酸になる)
く出血.
解によって血小板凝集能が低下するため. 2.トラネキサム酸
知覚異常性大腿神経痛
太ももの外側皮神経の絞扼性神経障害.鼠
径靭帯が上前腸骨棘に付着する下を神経が 腹水のコントロールで改善する.
通過する部分で起きる.
大腿の鈍痛,かゆみ,灼熱感.若干の刺
激から強い不快感まで症状の幅が広い.
大量の腹水がある患者に見られる.
筋けいれん
不明.可能性として,利尿剤の使用により 1.硫酸キニーネ
循環血液量が減少し,電解質バランスが崩 2.キニジン
れるため.
3.亜鉛とタウリン
多施設研究では肝硬変患者の52%が筋け
いれんを訴えた.
悪心,嘔吐
1.制吐剤(オンダンセトロン,ノバミン)
門脈圧亢進が消化管の運動に影響し,胃内
2.ジンジャー(しょうが)は治療と予防に 腹水患者の食欲不振に関係する.
容の排泄が遅れる.
有用なことがある.
皮膚そう痒
中枢性のオピオイド感受性の亢進が原因か
もしれない.肝疾患の患者では内因性オピ
オイドが増加している可能性.オートタキ
シン#の関与が示唆.
Spur cell anemia
(有棘赤血球貧血)
低コレステロール血症のため細胞膜が不安 残念ながら輸血した赤血球は低コレステ
定になる.
ロールのために溶血する.
乳房痛を伴うことがある.
1.非吸収性陰イオン交換樹脂(コレスチラ
ミン,コレスチポール,ウェルコール)
原発性胆汁性胆管炎に多いが,他の肝硬
2.ナロキソン,その後ナルトレキソン
変でも見られる.黄疸がなくても掻痒は
3.セルトラリン
認められる.
4.その他(オンダンセトロン,ガバペンチ
ン,ドロナビノール)
血液像で有棘赤血球を認める溶血性貧
血.
#オートタキシン:分泌型リゾホスホリパーゼD.リゾホスファチジルコリンを加水分解してリゾホスファチジン(LPA)を生成する反応を触媒する.LPAは神経新生,血管新生,平滑
筋収縮,血小板凝集および創傷治癒などの様々な生物学的応答を引き起こす.オートタキシン-LPA伝達路は,腫瘍の進行や炎症などに関与する.