河畔林土壌の腐植層集積を制御する要因の解明

ロノキ林において最も低い値となった。
このことからドロノキ林の
河畔林土壌の腐植層集積を制
御する要因の解明
環境ではリターが分解し難いことが明らかになった。
しかし、各
樹種のリターと比較した場合よりも重量減少率の差は小さく、
ド
宮本 敏澄 [北海道大学大学院農学研究科森林資源科学講座/助手]
ロノキのリターそのものも分解し難い性質を持つことが示された。
室内分解実験では、樹種間の重量減少率に差が認められ、
比高による違いは認められなかった。野外実験でも同様に比
背景・目的 高間で大きな差が認められなかったことから、
今回の双方の実
河川改修などによる河川の人為的な開発によって河畔林の
験には存在しなかったような極端な乾燥条件がなければ分解
消失、減少が社会的な問題となっている。河川へと流れ込む
者の活性に大きな影響は現れない可能性もある。樹種間での
森林の腐植層由来の有機物や無機塩類が、河川や沿岸海
差は化学成分の違いや葉の組織構造の違いなどによると考え
洋の生物群集に大きな影響を与えることは近年注目を集め、
河
られるが、
窒素含有率に着眼すると、
窒素含有率の高いケショ
畔林の養分供給源としての機能が重要視されつつある。
ところ
ウヤナギがもっとも分解されやすく、続いてオオバヤナギ、窒素
が、河畔林における土壌の養分動態やその制御要因につい
含有率の最も低いドロノキであった。窒素放出率については、
ての研究例はきわめて少ない。
そこで、本研究では、河畔林土
ケショウヤナギ>オオバヤナギ>ドロノキの順に放出率が高
壌の腐植層集積を制御するリターの分解速度に着目し、土壌
かった。分解前の窒素含有率が高いものほど分解率と窒素の
水分条件や樹種の違いが分解速度に与える影響について検
放出率の高いことから、
窒素がリター分解速度の制限要因とな
証した。
ることが示唆された。窒素の放出量についても重量減少率、
窒
素放出率と同様、
ケショウヤナギ>オオバヤナギ>ドロノキの順
内容・方法 野外実験では、河川の水面からの比高と植生の違いが分
解に与える影響を検討した。調査地は北海道十勝支庁管内
を流れる札内川と歴舟川の中流域とした。優占する樹種によっ
て「ケショウヤナギ林」、
「ケショウヤナギーオオバヤナギ混成
林」、
「ドロノキ林」
を選定した。
さらに、
各植生について、
河川の
水面からの比高の違いにより、
増水時の攪乱以後の経過年月
が異なる林分について3段階に区分し、
調査区を設定した。各
調査区には秋にリターバッグを設置し、6ヵ月後に回収し、重量
減少率を求めた。
リターバッグには各調査区由来のケショウヤ
ナギ、
オオバヤナギ、
ドロノキのリター、
あるいは共通リターとして
一カ所の林分由来のケショウヤナギを入れた。
室内実験では異なる5段階の土壌水分条件に調節した装
に高くなっていた。
それぞれの樹種によって、重量減少率と窒
素放出量の関係には固有の傾きが存在するため、
分解過程に
ともなう窒素の放出量は樹種によって異なることが示された。
以上をまとめると、土壌水分状況と分解速度の関係につい
ては、明瞭な傾向が認められなかった。
しかし、樹種の異なるリ
ターの間には分解速度に差が認められ、分解前のリターの窒
素含有率が高いと重量減少率と窒素放出率が高くなる傾向
が認められた。
これらのことから河畔林のリターの樹種組成は、
腐植層集積を制御する要因として影響し、
その場の腐植層分
解速度と分解に伴う窒素の放出量を予測するために有効な
情報となる可能性が示された。
今後の展望 置を用い、土壌の水分条件とリター樹種の違いが分解に与え
河川改修などによる人為的な開発によって、本来の姿の河
る影響を検証した。
ここでは上述した3樹種のリターが入ったリ
畔林の立地環境や樹種組成は急速に変化している。
したがっ
ターバッグを全ての水分条件に設置し、4ヶ月後に回収して重
て現存する河畔林の養分供給源としての機能を正確に評価
量減少率と窒素放出率を求めた。
し、
その保全や再生の指針を示す必要がある。同時に改変後
の植生から、
リターの分解速度や窒素の放出率を高い精度で
結果・成果 各樹種のリターの重量減少率は林分の発達段階、
すなわち
異なる比高の立地間で大きな差は認められなかった。
また、
ケ
ショウヤナギの共通リターについても同様に明瞭な差は認めら
れなかった。一方、
ドロノキ林におけるドロノキのリター重量減少
率は他の2植生での各樹種のリターの場合に比べて1/2近く
の低い値を示した。
このことは、
ドロノキのリターが他の2樹種より
も分解し難い性質をもっているか、
あるいはドロノキ林の環境が
分解に適していない可能性が考えられる。
そこで、
ケショウヤナ
ギの共通リターの重量減少率を各植生で比較すると、
やはりド
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予測するモデルを構築する必要もある。本研究は、河畔林の
林分単位から流域単位の機能評価を行うための基礎研究で
あると同時に、今後は消失あるいは改変された河畔林を本来
の機能を備えたものへ再生するための技術の応用へと発展が
期待される。