異校種連携の工夫

研究協力委員全員でそれぞれの校種の授業を参観した後に、現在、小・中・高等学校の
各校種段階で行われている一般的な授業像について、「指導の基本」、「指導の工夫」、「児
童生徒の興味関心を高めるための工夫」の3つの観点から意見を述べ合った。次の表は、
その結果をもとに、各校種の指導方法等の特色について、学習指導要領の目標や内容も考
慮しながら、まとめたものである。
3
指導
の
基本
導指の
工夫
興味
関心
を高
める
工夫
各校種における
各校種 における指導方法等
における 指導方法等の
指導方法等 の 特色
小学校段階(社会)
・基本的な学習習慣の基
礎の育成
・身近で総合的な視点か
ら事象をとらえる。
・ゆっくりで、きめ細か
な指導
・主に基礎的な技能の
習得と活用
・ノートを書かせる時間
を十分に確保
・視覚に訴える板書の工
夫
・地域の教材を活用した
学習活動の工夫
・気付かせる発問の工夫
・児童との対話(双方向)
を重視した指導
・身近でより具体的なこ
と例を活用した指導
・主に実物や視聴覚教材
を活用しての指導
・資料館や郷土博物館と
の連携
・単元全体を通して作業
的、体験的学習を展開
(主に集団)
・中学校や高等学校教員
と連携した授業
中学校段階(社会)
・基本的な学習習慣の育
成
・地理的、歴史的、社会
的視点で事象をとらえ
る。
・テンポや学習の流れを
重視した指導
・より高度な技能の習得
と活用
・ノートを書かせる時間
を確保
・視覚に訴えつつ、構造
を重視した板書の工夫
・地域の教材を活用した
学習活動の工夫
・思考を促す発問の工夫
高等学校段階
(地理歴史・公民)
・学習習慣の定着
・社会人としての基礎的
り方や生き方の育成
・地理、歴史、政治など
のより専門的な視点で
事象をとらえる。
・要因や背景を重視した
指導
・さらに高度な技能の習
得と活用
・詳細かつわかりやすい
説明
・探求心を刺激する発問
・思考を促す発問を工夫
して学習を深める。
・副教材を使用して理解
を深める。
・抽象的な内容をより身
近な事例で指導
・主に実物や図版、視聴
覚教材を活用しての指
導
・資料館や郷土博物館と
の連携
・新聞や時事問題の活用
・主に単元の展開部分で
作業的体験的学習を展
開(集団や個人)
・小学校や高等学校教員
と連携した授業
・抽象的かつ形而上的な
内容を具体的な事例で
指導
・主に図版や視聴覚教材
を活用しての指導
・新聞や時事問題の活用
・主に単元の展開部分で
作業的体験的学習を展
開(主に個人)
・小学校や中学校教員と
連携した授業
4
各校種の
各校種 の 指導方法等の
指導方法等 の 特色を
特色 を 踏 まえた連携
まえた 連携の
連携 の 工夫
(1 )
各学校が
各学校 が 所有している
所有 している実物
している 実物・
実物 ・ 視聴覚教材・
視聴覚教材 ・ 資料等の
資料等 の 公表
各校種の指導方法の中で、興味や関心を高める工夫に共通するものとして 、「身近な
事例・具体的な事例の活用」や「実物・視聴覚教材の活用」がある。
近隣の学校間での教材・教具の貸借等の便宜を図ることにより、各校種が実物教材や
視聴覚教材、補助資料を用いた効果的な授業を構築できると考える。
① 具体例
ア 各学校が所有し、貸与・閲覧可能な実物・資料の一覧表をホームページに掲載
する。
【歴史分野に関する例】
教材・資料の種類
所 有 物
貸出 閲覧
Ⅰ 実 物
長崎市の原爆瓦破片(5個)
○ ○
召集令状
× ○
千人針
○ ○
昭和初期の日本の教科書
○ ○
中華人民共和国の教科書
○ ○
Ⅱ 模 型 ( 複 製 品 ) 原爆投下時の広島市の立体模型
○ ○
古代エジプトの神々(ミニチュア)
○ ○
Ⅲ 視聴覚教材 A 映画 スパルタカス( VHS)※
× ○
クレオパトラ( DVD)※
× ○
B テレビ 栄光のルネサンス(VHS)( 日本テレビ ) × ○
※
※ 視聴覚教材については、著作権法の規定により、貸与はできないため、閲覧
のみ可とし、授業をつくる上での参考としてもらう。
イ 教材用写真の提示
視聴覚教材の一つとして、教員が自主制作した教材用のスライド写真やデジタル
写真などを提示し、自由な利用を可とするようにする。
<写真例>
東照宮(境内)
東照宮(陽明門)
東照宮(眠り猫)
ウ 問い合わせコーナーの設置
ホームページには、例えば、
「 昭和30年代の久喜市街の写真を探しています 。お持ちの方 、ご連絡ください 。」
「○○講演会の講師を捜しています。どなたかよい方を知りませんか?」
などの「問い合わせコーナー」も設置する。
②
期待される
期待 される効果
される 効果
ア 教材の収集や作製が容易にできる。
イ 実物教材や視聴覚教材が充実し、より印象に残る授業をつくることができる。
ウ 各学校間での情報交換を促進し、教育活動の充実を図ることができる。
( 2 ) 出前授業の
出前授業 の 実施
各校種における指導の基本に共通している「基礎・基本の定着」と「自ら考える力の
育成」のためには、授業テーマや科目に対する興味関心を高めて、生徒が主体的に学ぼ
うとする姿勢をはぐくむ必要がある。
上級学校の教員が授業内容に関する解説や、あるテーマに関する講義を行うことは、
生徒の知的好奇心や探求心を刺激し、学習意欲を高揚させうると考える。
① 具体例
ア T・T授業
小・中学校で、授業に関係するテーマについて、中・高校教員が5~10分程度で
解説する。予め、VTRに収録した講義を放映してもよい。
【歴史分野に関するテーマの具体例】
テ ー マ
具 体 例
Ⅰ 出来事の世界史的な背景 帰化人(渡来人)による関東開拓の背景
鉄砲伝来と大航海時代
ザビエルと宗教改革
鎖国と17~18世紀のオランダ
Ⅱ 近年の研究成果
第1回遣隋使の派遣は607年ではなかった
江戸時代の先進性
近代世界システム論
Ⅲ モノの歴史
コーヒーの歴史
自動車の歴史
Ⅳ 人物像
水戸黄門(徳川光圀)の実像
Ⅴ エピソード
那須・殺生石と中国故事
イ 模擬授業(特別授業)
小学校や中学校に 、中・高校の教員が出向いて社会・地歴・公民科の授業を行う 。
中・高から授業担当者を募集し、講義できるテーマを各校種に提示しておくことに
よって、依頼の便宜を図ることができる。
【千葉県教育委員会の実践例(抄出 )】
高 校 名 教 員 氏 名 希望校種
授業内容(概要)
□□高校
○○ ○○
小 史跡めぐりガイド
△△高校
×× ×× 小・中 視覚効果の高い歴史の授業
■■高校
◎◎ ◎◎
小 貨幣について、クイズ形式で学ぶ
▽▽高校
▼▼ ▼▼ 小・中 地域史、日本史の全体像
※千葉県教育委員会では「小・中・高連携の特別授業」と称し実施している。
② 期待される
期待 される効果
される 効果
ア 違った見方で 、社会科を学ぶ楽しさ・面白さを生徒に味わわせることができる 。
イ 通常と違う授業形態から、期待感や緊張感を生徒にもたせることができる。
ウ 生徒の上級学校理解を深め、進路指導の一助となる。
エ 教員相互にとって、一つの研修機会となる。
(3 )
共同作品展の
共同作品展 の 開催
授業の結果、児童生徒が作成した作品(レポートや発表の資料等)を同校種の他校の
生徒や、他校種の生徒が見ることはたいへん意義深いことである。内容や表現の技法な
ど、学ぶことは数多くある。特に上級学校の生徒の作品を見ることは、下の学校の児童
生徒にとっては大きなプラスになると考える。また、児童生徒のみならず、各校種の教
員にとっても大いに参考になるものと思われる。
① 具体例
ア 児童生徒の作品展
県内でも、小・中学校の社会科の授業において、児童・生徒が制作した作品の代
表を各学校から集め、各学校で巡回展示を行うとともに、市役所のロビーに作品を
掲示して 、一般市民が作品を自由に見られるような事業を行っているところもある 。
こういった小・中学校の社会科作品展に高校生の作品が加わることによってさらな
る広がりが期待できる。
② 期待される
期待 される効果
される 効果
ア 各校種の児童生徒が、同校種の他の学校の児童生徒の作品から内容や表現技法
を学ぶことができる。
イ 各校種の児童生徒が、他校種の児童生徒の作品から内容や表現技法を学ぶこと
ができる。
ウ 実際の授業で行われた優れた実践を他校でも参考にすることができる。
加須市小中学校社会科作品展
加須市小中学校社会科作品展
-巡回展-
-中央展-
( 4 ) 異校種の
異校種 の 教員による
教員 による共同
による 共同の
共同 の 教材づくり
教材 づくり
教材をつくる際に、より上級学校の教員の意見を聞くことは、教材をより専門的な
見地から考えることができる。また、異校種の学習内容を意識して教材を作成するこ
とで、異校種の学習内容に系統性をもたせることにつながると考える。
① 具体例
ア 地域の副読本の作成
小学校で使用する地域学習のための副読本は、ほどんどの市町村では地域の小学
校教員が作成しているが、中には中学校教員が作成に加わって、小中の教員が共同
で小学校の副読本を作成している例もある。そこにさらに高等学校の地理歴史・公
民科の教員が何だかの形で加わることができれば、より専門的な立場から検討でき
るのではないかと考える。
イ 地域の学習素材の開発
地域の学習素材を教材として授業に取り入れることは、児童生徒の学習意欲の向
上にもつながり、小・中・高のどの校種においても重要である。異校種の教員と共
同で教材を作成することで、より専門的で学習効果の高い教材が作成できる。
②
期待される
期待 される効果
される 効果
ア より専門的で 、地域の実態に合った教材にすることができ 、学習効果が高まる 。
イ 異校種の学習内容の系統性を意識して教材に取り入れることができる。
( 5 ) 異校種の
異校種 の 教員による
教員 による各種
による 各種の
各種 の 交流
異校種間で授業を参観する機会が少なく、それぞれの校種でどのような授業を展開
しているか知らない、わからないというのが現状である。異校種の授業を参観し、情
報交換や意見交換を行うことは、異校種の学習内容の特質を理解し、社会、地理歴史
・公民科の学力を系統的に身に付けさせるためにも重要である。
① 具体例
ア 社会科教員連絡協議会(市町村・区単位)の開催
同じ市町村の中の異校種の社会、地理歴史・公民科の教員で連絡協議会のような
組織をもつことができれば、小・中・高の12年間を見通した児童・生徒理解や系統
的な指導の活性化等につながると思われる。
イ 異校種の授業参観(授業研究会)
異校種間で授業を参観する機会が少ない現状の中でも、それぞれの校種で広く保
護者等に公開されている授業(小・中学校の一日学校公開や高等学校の入学希望者
への学校公開)であれば、参観できる可能性があるのではないかと考える。
また、異校種の授業実践にふれる研修の場(異校種の授業研究会や授業実践報告
会に参加する機会)がさらに必要なのではないかと思われる。
② 期待される
期待 される効果
される 効果
ア 異校種の児童・生徒理解につながる。
イ 異校種の指導方法等の長所を取り入れて授業改善をすることができる。
ウ 異校種の学習内容や各種の技能を意識した系統的な授業を展開できる。