O-014 事前的診断的評価におけるプロセスレコードの有効性

O-014
事前的診断的評価におけるプロセスレコードの有効性
*内田 全城 1), 岡本 徹 1), 石神 理恵 1)
1)常葉学園静岡リハビリテーション専門学校
キーワード:事前的診断的評価, プロセスレコード, 領域転換
【目的】
理学療法教育における臨床実習は,受動的学習から能動的学
習への転換が重要とされ,この基盤には情意領域が関与すると
いわれている.このため養成校には情意面を含む自己主導型の
学習を促す教育方法が求められる.学内教育では認知領域が占
める割合が高いが,情意・精神運動領域を含む臨床能力の向上
に結び付ける教授法や評価手法が望まれるようになり,近年,
臨床実習における事前的診断的評価として客観的臨床能力試験
の有効性について多くの報告がされている.情意領域の教育基
盤は内的欲求に基づく内的動機付けが好ましいとされ,自己洞
察が必要となる.自己洞察を促す方法として,
「気がかり」を根
源としたプロセスレコードがあり,学びの評価にも用いられて
いる. 以上より本研究の目的は,臨床実習の事前的診断的評
価におけるプロセスレコードの有効性について,定期試験成績,
臨床評価実習との関係から検証することである.
【方法】
対象は平成 22 年度理学療法学科 3 年生 69 名の臨床評価実習
前に実施した学外授業(公開講座への参加)に対するプロセス
レコード,定期試験成績,臨床評価実習成績である.事前に本
研究の目的を文書にて説明し同意を得た後に調査を行い,情報
管理に留意した.プロセスレコードは,1)最も印象に残った内
容,2)選択理由,3)再構成内容,4)考察で構成され,学外
授業後に調査を行った.分析は,プロセスレコードにおける再
構成から考察に至る記述内容について Bloom らの教育目標に基
づき,共同研究者が協議した上で認知領域階層尺度に分類した.
また考察から情意領域への転換を示す記述がある群と無い群に
区分した.定期試験成績は総得点の中央値以上の者を H 群,満
たない者を L 群に区分し,臨床評価実習成績は,各一般目標成
績を優:4,良:3,可:2,不可:1と点数化し,認知,情
意,精神運動領域ごとに平均値を算出した. 分析は,1)プロセ
スレコード教育分類の割合,2)プロセスレコード教育分類と
定期試験及び評価実習成績の関係,3)プロセスレコード情意
領域への転換有無における認知領域階層尺度,定期試験成績,
および臨床評価実習成績の関係について検証した.統計ソフト
は Excel2007 を使用し,2)に対してピアソン相関係数検定と
ウィルコクソン符号付順位和検定,3)には t 検定とウィルコク
ソン符号付順位和検定を用いて検証を行い,有意水準 1%未満
とした.
【結果】
プロセスレコード教育分類の内訳は,知識 52%,理解 33%,
応用 6%,分析 6%,合成 3%であり,情意領域への転換があっ
た者は 64%,ない者は 36%であった.プロセスレコード認知領
域階層尺度と定期試験成績および臨床評価実習の関係では,定
期試験成績 H 群のほうが L 群に比べて有意に認知領域階層が
深く(p<0,01),臨床評価実習成績と認知領域階層との間に相
関を認めなかった.情意領域転換の有無と定期試験成績および
臨床評価実習の関係は,転換がある群のほうが有意に定期試験
成績は高く(p<0,01),臨床評価実習成績も総合得点と各領域
の全てにおいて有意に高かった(p<0,01).また,認知領域階
層においても有意に階層が深かった(p<0,01).
【考察】
今回,臨床評価実習における事前的診断的評価として,学外
授業を対象としたプロセスレコードの有効性について検証した.
その結果,プロセスレコードにおける認知領域階層が深い者ほ
ど定期試験成績が良いが,臨床評価実習成績との間には相関が
認められなかった.このことは,定期試験は認知領域を反映す
る評価指標であり,臨床実習は認知領域単独では評価指標とし
て不十分であることが示唆された.一方,プロセスレコード考
察から情意領域への転換が出来る者ほど定期試験成績や臨床評
価実習成績が高値を示したことから,領域間の思考転換能力が
臨床評価実習に対する事前的診断的評価として有効な指標とな
ることが示唆された.情意領域は単独で修業するものでなく,
認知や精神運動領域の学修過程で組み入れる必要がある.自己
洞察を活用したプロセスレコードを教授場面に活用することで,
情意領域への思考転換を促すことが可能になると考える. 以上
より,プロセスレコードは臨床評価実習における事前的診断的
評価指標として有効であることが示唆され,また学内教育にお
いても領域間の思考転換能力を促す手法として活用できること
が示唆された.
【まとめ】
プロセスレコードにおける情意領域の分析から,領域間の思
考転換能力が臨床実習に向けた事前的診断的評価として有効な
指標であること,また教授場面での活用により自己洞察を通じ
た領域間の思考転換能力を促す手法となることが示唆された.