世界に挑む産業界・官界・政界トップ リーダーによる 連続リレー講座 「グローバル人材に不可欠な教養 ~社会基礎学」 【パネルディスカッション】 グローバル化とは何か?グローバル 化の中で日本は?学生は何を学び、 何を身につけるべきか? 2014.10.4(土) 神戸大学リレー講義 神戸大学客員教授 東北大学理事(産学連携担当) 進藤秀夫 1 自己紹介 と 私にとっての「グローバル化」 1963年 誕生 <1964年 東京オリンピック> <1973年、79年 石油ショック> 1982年 大学入学(理系)。 漠然と新エネルギーに関心。 <1981-85年 NEDO太陽熱PJ(香川県)> 「開発目標は達成したが、経済性の点で適性が少ないとの結論」(NEDO20年史) → 技術だけでなく経済・社会(そして政策)にも関心。→システム科学を専攻。 就職。 資源エネルギー庁を持つ通産省へ。 → エネルギーではなく、技術、通商、産業振興施策を主に担当することに。 <1987年ブラックマンデー。 1990年バブルがはじけ、「失われた20年へ」> 1992年 米国の行政大学院に留学(2年間)。 → 英語は自信なかったが、いくつかの小さなきっかけで自信を持てた。 1994-98年 技術協力、国際投資促進政策担当。頻繁に海外出張。 → 相手もなまりのある英語。下手でも伝える度胸がカギと感じる。 2001年 経産省で防災・危機管理を担当。 <2001年 米国同時多発テロ事件発生> 2004-07年 米国駐在。 NEDO事務所(3年間)。 全米+世界を駆け回る。 → Nativeに英語がうまいねと言われて舞い上がる。 2007年 経産省に戻る。産業振興、技術政策を担当。 <2008年 リーマンショック> 2010年 いろいろな機関で、産学連携施策・業務を中心に担当するようになる。 (2010年 経産省、2012年 産総研、 2013年東北大学) → 「グローバル人材育成のための産学連携」もキーワードに。 <2011年 東日本大震災> <2020年 東京オリンピック> 1986年 2 グローバル人材が求められる時代 「グローバル人材育成推進会議 中間まとめ」(内閣 官房、2011年6月): 我が国の18歳人口の約1割(11万人程度)が 20歳代前半までに1年間以上の留学や在外 経験を有し、交渉力を有するグローバル人材 の潜在的候補者となる姿を目指す。 「グローバルなリーダー人材の育成と活用研究 会」(産業競争力懇談会(COCN)、2012年2月) 傘下企業へのアンケート:『自社内でグローバ ルリーダー人材が何人必要か』 (回答29社) 「100人以下」 「100-500人」 「500-1000人」 「5000人以上必要」 14% 29% 21% 18% (*)上記の「グローバルリーダー人材」の定義:『海外拠点及び国内拠点の 専門職を含むマネジメントを行う技術系リーダー』 (%) 35 グローバル人材の採用について 30 25 日本人留学生を採用す ると回答した企業の割 合(%) 20 15 外国人留学生を採用す ると回答した企業の割 合(%) 10 5 0 (出典:大学におけるグローバル人材育成のための指標調 査(経済産業省、2014年3月) 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 (データ:ディスコ「採用活動に関する企業調査」 2011年6月、2012年6月、2013年5月) 3 グローバル人材とはどういう人材か ~各種報告書における「グローバル人材」の定義~ 1.日本創生委員会グローバル人材育成ラウンドテーブ ルにおける定義 ①自分の意見を持ち、国際的な舞台で物おじせず主張と議論 が出来る人材 ②コミュニケーションを通じて世界の人々と信頼関係を築くこと が出来る人材 ③多様な価値観を理解・尊重し、自国の文化・歴史を等身大で 説明できる人材 ④「人に尽くす、社会に尽くす、国に尽くす」、更には「国際社会 に貢献する」という高い志を有する人材 (出典)日本創生委員会・グローバル人材育成ラウンドテーブル提言((社)プロジェクト産業協議会(JAPIC), H23.12) 4 2.「産学人材育成パートナーシップ グローバル人材育成 委員会」における定義 • 「グローバル人材」に共通して求められるのは、通常の社会人に求められる①「社会人基礎力」※に加え、 ②外国語でのコミュニケーション能力、③異文化理解・活用力。 外国語(特に、 世界で幅広く 通用する英 語)でのコミュ ニケーション 能力 異文化理解・ 活用力 ⅰ)多様な文化や歴史を背景とする価値観やコミュニケーション方法等 の差違(=「異文化の差」)の存在を認識して行動すること ⅱ)「異文化の差」を「良い・悪い」と判断せず、興味・理解を示し、柔軟に 対応できること ⅲ) 「異文化の差」をもった多様な人々の「強み」を認識し、それらを引き 出して相乗効果によって新しい価値を生み出すこと 考え抜く力(シンキング) 前に踏み出す力(アクション) 社会人基礎力 ~一歩前に踏み出し、 失敗しても粘り強く取り組む力~ 主体性 ~疑問を持ち、考え抜く力~ 課題発見力 実行力 計画力 働きかけ力 創造力 チームで働く力(チームワーク) ~多様な人々とともに、目標に向けて協力する力~ ※「社会人基礎力」:職場や地域社会の中で多様 な人々とともに仕事を行っていく上で必要な基礎 的な能力として経済産業省が提唱する概念 5 発信力 柔軟性 規律性 傾聴力 情況把握力 ストレスコントロール力 (出典)産学人材育成パートナーシップ グローバル人材育成委員会 (経済産業省・文部科学省、H22.4) 5 大学で身につけてほしいこと ※ 日本創生委員会における「グローバル人材」の定義をベースに、順番を少し変更 1.海外の人とのコミュニケーション力 2.異文化や多様な価値観を理解する力 3.自分の意見を持ち、主張できる力 4.人や社会・国・世界に貢献しよう という志 6 大学で身につけてほしいこと 1.海外の人とのコミュニケーション力 *世界はボーダーレス。人材が流動化。 • 日本人や外国人を問わず他者と意思疎通を図ることができるか。 • スキルとしては、語学力は当然のこと、プレゼンテーション力、ファ シリテーション力、ディベート力、ライティング力など。 • ブロークンイングリッシュでいいから積極的に発信する姿勢を。 ▽ 語学をしっかり学ぼう。 ▽ 留学など、ぜひ海外に行ってみよう。 日本に留学・滞在している外国人留学生たちとも 積極的に交流しよう。 7 大学で身につけてほしいこと 2.異文化や多様な価値観を理解する力 * 世界は多様(民族、宗教、価値観、文化)。 • ほかの価値観を許容したうえで、Win-winとなるような解決策を提 示できるか。 • 答えは一つに決まっているわけではない。共通の土俵を提示でき るか。ものごとを多面的な視点から俯瞰・鳥瞰できる力が必要。 • 自国の歴史・文化もきちんと説明できるか。 (日本人としてのアイデンティティの上に、 他国・地域の歴史・文化の理解・尊重が可能となる) ▽いろいろな人と話をしてみよう。 ▽専門外の講義もいくつかとり、視野を広く持つことを心がけよう。 ▽内外の歴史・文化について興味を持ち、掘り下げてみよう。 8 大学で身につけてほしいこと 3.自分の意見を持ち、主張できる力 *世界はどんどん変貌。変化のスピード、スケールが大。情報量も爆発的に増加。 ・自分の意見を持つ←自分なりの世界観(原点、軸)が必要 ・数々の知識はそのために再統合が必要 ・専門分野への深い理解+(専攻以外の)広い教養が必要 ・一方、知識を得ることがすべてではない ①答えが決まっていない問題が多い。 ②知識は日々膨張し、更新されるもの。取捨選択が必要。 ・知識を柔軟に取捨選択しつつ、課題・問題がどこにあるか、 何であるのか、どうすれば解けるのか、考え抜く力が大切。 (データ)喜連川優「情報爆発のこれまでとこれから」の データを基に作図 ▽受け身で教わるのではなく、新たな知識・課題を自ら学習する癖をスタイルとして 身につけよう。(卒業しても学ぶことはたくさんある。← 好奇心を持つことが大事。) ▽俯瞰・鳥瞰力に加えて、課題を探求・発見し、解決する力を身につけよう。 ▽時事的な課題や新聞の一面記事などのトピックについて、自らの立ち位置を考察・ 整理する癖をつけるとよい。 9 大学で身につけてほしいこと 4.人や社会・国・世界に貢献しよう という志 * 世界は複雑で、混とんとしている。地球的課題もいっぱい。 • • • • • 何のために生きるのか。 自分一人だけで生きているわけではない。 自らの立ち位置が決まると、やりたい事・学ぶべきことが見えてくる。 志があると「成し遂げるまであきらめない」力が生じやすい。 チームワーク、リーダーシップなども育てていきたい。 ▽ 自分のやりたいこと、得意なことを見つめなおしてみよう。 ▽ 一生の友人をみつけよう。 ▽ 政府の政策、経済や資源エネルギー・環境のような全国的・地球的 課題などについても、目を広げてみよう。 ▽ 小さくまとまらないように。広い土俵を設定し、自分の可能性を信じ 続けよう。 10 グローバル人材育成に求められる取り組み グローバル人材育成に係る提言・報告書は、数多く出されているが、敢えて大ざっぱ にまとめると: ①産業界と大学の連携が求められる取組 産学の継続的な意見交換の場の設定、キャリア教育や実践的教育の強化・大学生 の海外留学の奨励に係る協力等 (企業からの講師派遣、企業の海外拠点におけるインターンシップなど) ②大学に求められる取組 教養教育の拡充、大学の国際化(大学教職員の国際化、留学生の受け入れ拡大、 秋入学など) ③企業に求められる取組 採用環境の改善(留学経験者に不利益とならないような採用時期の柔軟化や 留学経験者・外国人人材の積極的な採用育成) ④政府に求められる取組 双方向の学生交流の推進、産学連携の環境整備、高等教育のグローバル化の推 進、初等中等教育と高等教育の連携推進(初等中等教育における外国語教育・留学 推進や大学入試の改革)、奨学金の拡充など 11 世界で通用する人材育成に向けた政策方針 <日本再興戦略>(2015年6月閣議決定) ・ 小学校における英語教育実施学年の早期化、指導時間増、 教科化、指導体制の在り方や、中学校における英語による 英語授業の実施について検討。 ・ グローバル・リーダーを育てる教育を行う新しいタイプの高校 「スーパーグローバルハイスクール(仮称)」の創設。 ・ 世界と競う「スーパーグローバル大学」を創設。 今後10年間で世界大学ランキングトップ100に我が国の大学が 10校以上入ることを目指す。(注:現状2校(THES誌ランキング)) ・ 2020年までに日本人留学生を6万人(2010年)から12万人へ倍増。 ・ 優秀な外国人留学生についても、2012年の14万人から2020年まで に30万人に倍増させることを目指す。 ・ 2015年度の国家公務員試験から、外部英語試験を導入。 大学入試や卒業認定へのTOEFL等の活用を促進。 12 トビタテ!留学JAPAN • 文部科学省は、大志あるすべての日本 の若者が、海外留学をはじめとして新し いチャレンジに自ら一歩を踏み出す気運 を醸成することを目的として、留学促進 キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」を 開始いたしました。 • ターゲットイヤーである2020年までに、 大学生の海外留学12万人(現状6万 人)、高校生の海外留学6万人(現状3万 人)を目指します。 トビタテ!フォーチュンクッキー (平成25年10月) http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/sokusin/index.htm 授業料+現地活動費+渡航費を支援 応募資格 だれでも!(すべての意欲 ある学生が対象) 第二期生募集期間:2014年9月下旬~ 10月下旬 特設サイトは↓ http://www.tobitate.mext.go.jp/ http://www.daily.co.jp/newsflash/gossip/2013/12 /15/0006573158.shtml 13 世界で通用する人材育成に向けた様々な取組 <文部科学省の取組> ・ 2014年度、世界トップクラスの研究や国際教育を実施するスーパーグロー バル大学を30校(トップ型10校、グローバル化牽引型20校)選定、10年間、重 点的に財政支援。 <個々の大学による国際化に向けた取組> • 海外留学の必修化 一橋大:2018年度までに新入生全員に約1か月の語学留学を義務付け 秋田大:2014年4月新設の国際資源学部は、3年生に海外フィールドワーク を義務付け • 国際学生寮・コミュニティハウスの整備 芝浦工業大:2013年春 約120名 早稲田大学:2014年3月 約870名 東京理科大:2014年4月 約130名 • 東南アジアに教育拠点 明治大:2013年5月 バンコクにアセアンセンターを開設 (出典:日本経済新聞2014年3月21日34面特集記事より) 14 教養教育への取り組みはまだまだ遅れている状況 全国の主要大学の学長さん130人以上にききました(2013年9月) • グローバル人材の育成に向けて、できている具体 的な取り組みは?(複数回答) 海外留学制度の充実 75.0% 語学教育の充実 53.6% 国際的に通用する教養教育 11.6% 国内外の学生が共同生活する寮の整備 11.6% (出典)日経記事・主要大学学長アンケート(2013.9.29-30公表)より (全国133大学の学長・理事長からの回答) → 日本創生委員会は特に「一般教養の強化」を提言 ⇒ 本講座でいう「社会基礎学」 15 そして半年後の学長アンケートでは • 今後拡充する教育分野は?(複数回答) 教養教育 キャリア教育 大学院教育 専門教育 • 大学が学生に求めるもの 主体性 75.3% 基礎学力 46.6% コミュニケーション力 36.3% グローバルな視点 31.5% 積極的である 23.3% 独創性 15.1% まじめ 8.9% 91.1% 79.5% 75.3% 71.9% 現在の学生に足りないもの 37.0% 13.7% 31.5% 41.8% 32.9% 30.8% 0.0% (出典)日経記事・主要大学学長アンケート(2014.4.6-7公表)より (全国146大学の学長・理事長からの回答)16 終わりに • 澤柳政太郎(1865-1927) 教育学者。文部次官、東北帝国大学初代総長、京都帝国大学第5代総長、成城学校校長などを歴任。 成城小学校(現在の成城学園の母体)を創立。 「一大革新を要するがごとき時代、あるいは国家の運命に一転機を要 するがごとき時においては、特に青年の奮起を要する。」 「青年は独立独行、全く自己の力をもって進むべき方向を定め、その進 むべき道を行き、その開くべき荊棘を開かんことを期すべきである」 (澤柳政太郎「青年の奮起」(1915)より) ※「独立独行の人」 どんな難局にあっても自ら考え行動し、道を切り拓 いていく人材 お薦めの図書 • 中村俊裕著「世界を巻き込む。」 ダイヤモンド社 • 岩瀬大輔著「ネットで生保を売ろう!」 文芸春秋 • 岩佐大輝著「99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る」 ダイヤモンド社 17
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