肝臓病教室 脂肪肝 脂肪肝の定義 全ての肝小葉の1/3以上の領域にわ たって肝細胞に著明な脂肪滴の蓄積 性変化がみられ、そのほかに顕著な 形態学的異常を認めないもの (日本消化器病学会, 1979年) 脂肪肝の顕微鏡像 脂肪肝の原因 1.肥満(食べ過ぎ) 2.糖尿病などの内分泌疾患 3.アルコール 4.薬物性(副腎皮質ホルモン剤など) 5.高カロリー輸液 6.その他 脂肪肝の原因の頻度 16% 18% 48% 肥満 糖尿病 アルコール性 その他 18% (菊池英亮ら1993) 脂肪肝はなぜこわい 脳卒中 睡眠時無呼吸 症候群 心筋梗塞 脂肪肝 脂肪肝は病気の一つ に過ぎない 胆石症 性ホルモン 異常 全身で同時に病気が 進行している。 高血圧 糖尿病 高脂血症 痛風 動脈硬化 変形性膝 関節症 脂肪肝はどのようにしてできるのか? 肝臓に脂肪(中性脂肪)が溜 まる原因は 1.食事から原料が過剰に供 給される(左図①,③) 2.体で脂肪が十分に利用さ れず、余ってしまう(左図②) 中性脂肪には食事中の脂肪 由来のもの(左図①)と、食 物の糖質、アミノ酸から肝臓 で合成されるもの(左図③) の2つがあり、食事の脂肪の みを制限しても意味がありま せん。 日本人の食事内容は総エネルギーはほとんど変 わっていませんが、脂肪摂取量が増えています。 日本人の栄養摂取量 エネルギー (kcal) 2500 2000 1500 糖質 脂質 タンパク質 1000 500 0 1960 1970 1980 1990 2000 脂肪摂取量増加が脂肪肝増加の一因ですが、高カロリー食であっ た昔に脂肪肝が少なかったのは筋肉労働の効果と考えられます 10年前の脂肪肝の頻度(検診)は 1割未満でした 症例数(人) 脂肪肝合併率 (%) 矢島ら(1986) 814 7.1 斎藤ら(1989) 5,486 10.9 玉置ら(1991) 21,980 7.9 小薗(1991) 2,358 14.0 高橋(1991) 1,310 8.4 山田ら(1992) 1,139 7.6 最近、脂肪肝は増加しています。特に、 肥満の方での合併率が多くなっています 肥満者 脂肪肝 10% 12% 非肥満+脂肪肝なし 非肥満+脂肪肝あり 9% 69% 肥満+脂肪肝あり 肥満+脂肪肝なし 西原ら(NASH診療 Up to Date 2004) 脂肪肝は性別、年齢でも合併率が異なります 閉経後の女性で急速に多くなってきます 14 脂肪肝の 頻度(%) 12 10 8 男 女 6 4 2 0 30∼39 40∼49 50∼59 60∼69 年齢(歳) 脂肪肝は大人だけでなく若い世代で増えています 小児における脂肪肝の頻度 肥満児における 脂肪肝合併率(%) 小1 肥満度>50% の頻度(%) 0.5 中1 1.5 34.5 高1 1.2 47.6 0 久留米大学小児科(1991) 脂肪肝は大人だけでなく若い世代で増えています 「問題はこうした若者たちが近 い将来、父親、母親として、我 が子の食事を管理する立場に なるということ」と次代への影 響を懸念する 山陽新聞(1995.5.3) 大学生におけるBMI≧25(太りすぎ)の頻度 BMI= 体重(kg) 身長(m) ×身長(m) <18.5 やせ、 18.5-25 標準、 ≧25 肥満 男 女 昭和30年 昭和50年 平成3年 0.5% 3.6% 12.5% 2.6% 4.8% 松浦一陽ら(1995) 隠れ肥満に注意を! 若い頃にやせ形であった人は若い頃の体重より 5kg以上肥えた場合には 、BMIが一見正常でも 生活習慣病を肥満者と同じくらい合併しやすい 山陽新聞(1999.11.9) 脂肪肝の診断 (血液検査) ・GOT(AST)<GPT(ALT)の高値 (ほとんどの方は100以下です) ・コリンエステラーゼ(ChE)高値 ・肝炎ウイルスマーカー陰性 (画像検査) 超音波、CT 肝静脈 肝臓 腎臓 肝臓が白っぽくなる 肝臓が白っぽくなるため腎臓の 元々の色とコントラストがつく 深いところには超音波が届きに くくなり、血管が見えにくくなる 脂肪のために肝臓 が黒っぽくなる 腹腔鏡による診断 脂肪のために肝臓 が黄色っぽくなる 肝生検組織による診断 GPT(ALT)が300を越えた脂肪肝 27歳 男性 1989年7月から1990年8月まで月1∼2回のインドネシア 出張を行い、出張中は高カロリーの食事を摂取していた。 下記のような肝機能異常が続くため1990年9月に紹介。 GOT GPT 90/1/30 3/14 47 61 82 137 4/11 66 5/28 66 8/7 100 9/4 122 9/13 95 198 179 308 349 282 身長 164cm, 体重 61kg, BMI 22.7 (入院時検査)GOT 59, GPT 196, γ-GTP 80 GPT(ALT)が300を越えた脂肪肝 超音波検査 GPT(ALT)が300を越えた脂肪肝 腹腔鏡検査 GPT(ALT)が300を越えた脂肪肝 肝生検組織像 体重と平行してGPT(ALT)が動揺する脂肪肝 1967年生まれ 男性 1988年9月(21歳)、1989年4月(22歳)の健診で肝機能 異常を指摘され1989年7月に本院受診。 身長 173cm 体重 86kg BMI 28.7 (入院時検査)GOT 112, GPT 274, γ-GTP 70 超音波検査:脂肪肝 体重と平行してGPT(ALT)が動揺する脂肪肝 ALT (IU) 体重 300 95 (kg) 250 90 200 85 150 80 100 75 50 0 70 1989 1990 1991 1992 1993 1994 ALT 体重 脂肪肝はどのように治療するか? →原因に対する治療が一番 肝臓に脂肪(中性脂肪)が溜ま る原因は以下の2つです。 ①食事から原料が過剰に供給 されること→食事療法 ②体で脂肪が十分に利用され ず、余ってしまうこと(左図②) →運動療法 脂肪肝の治療は生活習慣の改善が 第一です 1.食事療法 2.運動療法 3.薬物療法(補助的) 食事療法、運動療法は脂肪肝治療 においては車の両輪に例えられ、 どちらか一方のみでは効果は不十分 になります。 食事療法+運動療法のみで 脂肪肝はよくなります 食事療法 日本人の栄養摂取量 エネルギー (kcal) 2500 2000 1500 糖質 脂質 タンパク質 1000 500 0 1960 1970 1980 1990 2000 日本人は肉体労働者が多かった時代でも平均2000kcal の食事で十分でした。 現代人は昔よりも少ない食事量で十分と思われます。 食事療法 適切なエネルギー量は年齢、性別、仕事の内容で大きく 変わってきます。 適切なエネルギー量 ¦¦ 基礎代謝エネルギー + 日常生活・運動で消費されるエネルギー 基礎代謝エネルギー 生きていく上で必用な最低エネルギー 年齢・性別で基礎代謝エネルギー量は異なります 筋肉が減少すると基礎代謝エネルギー量は減少します (kcal)1600 1400 1200 1000 800 男(60kg) 女(50kg) 600 400 200 74 ∼ 70 65 ∼ 69 64 ∼ 60 50 ∼ 59 49 40 ∼ 39 ∼ 30 20 ∼ 29 0 (年齢) 日常生活・運動で消費されるエネルギー(10分あたり) (kcal) 250 200 男(60kg) 女(50kg) 150 100 50 グ 速 ジ 歩 水 ョ 泳 ギ (ク ン ロ グ ー ル ) サ イ ク リ ン 降 昇 段 務 除 掃 階 机 上 事 起 立 0 かなり運動しないとエネルギーは消費されません。 →腹八分目の食事が重要です 運動療法 運動をすると・・・ 運動をすると脂肪分解を高めるホルモン が分泌され、血液の流れを促進します 脂肪酸が速やかに血管の中に取り込まれ 筋肉へ運びます 筋肉に運ばれた脂肪酸は赤筋の中で 水と二酸化炭素に分解されます 脂肪酸が 水と二酸化炭素に 分解されます! 脂肪肝(特に非アルコール性)は非進行性の ものと考えられていましたが、最近、進行性の 脂肪肝が存在することが明らかになり、 脂肪肝の分類が細かくなりました 脂肪肝の分類 非アルコール性脂肪性肝障害 ・非進行性のもの:単純性脂肪肝 ・進行性のもの:非アルコール性脂肪性肝炎(NASH) アルコール性肝障害 ・アルコール性脂肪肝 ・アルコール性肝炎 NASH (non-alcoholic steatohepatitis) 非アルコール性脂肪性肝炎 1980年にMayo ClinicのLudwigらが飲酒歴がないにも かかわらず、肝生検所見がアルコール性肝障害に類 似した20例を報告しNASHと命名。 肥満女性、糖尿病、高脂血症患者にみられることが多 い。 放置すると肝炎反応、線維化が進行し、肝硬変に進 行する (欧米では10年で20%前後)。 肝硬変になると肝臓の脂肪化は無くなることが多い。 NASH (non-alcoholic steatohepatitis)の病理組織診断 実質内に炎症細胞浸潤 肝細胞の風船様膨化 実質内の線維化 Mallory体 大滴性の脂肪沈着 ①肝炎がある ②肝炎後の傷跡の線維化がある 進行性のNASH例(14年間の経過で肝硬変に進展) 67歳女性 1996年に 黄疸、浮腫 出現 医学の歩み 206:341-345;2003 NASHは脂肪肝にさらなるストレスが加わって 発生します 男女別にみたNASH (東京女子医大) 従来の報告(中高年の女性に多い)に加え、 若年者の患者数が増加しています。 食生活の乱れが原因の一つになっていると思われます。 本院におけるNASHの現況 症例数 14例 男女比 5:9 平均年齢 55歳(16∼74歳) 7 6 男性 5 女性 4 3 2 1 0 <40 40-50 51-60 61-70 >70 本院におけるNASHの現況 食生活の乱れが原因の症例が11/14(79%)と大半です 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 年齢 性 BMI 16 42 43 45 50 56 60 61 62 63 65 66 67 74 M F M M M F F F F F F F F M 30.7 21.5 28.0 22.9 23.7 31.6 20.3 21.8 20.5 27.5 21.8 22.5 21.8 31.2 合併症 高脂血症 高脂血症 白血病 糖尿病 白血病 高脂血症 糖尿病 高脂血症 高脂血症 成因 過栄養 偏食 過栄養 過栄養 薬剤性 過栄養 薬剤性 過栄養 偏食 過栄養 過栄養 過栄養 不明 過栄養 線維化 の程度 0 2 0 0 1 4 0 0 2 0 0 0 2 2∼3 典型的なNASH症例 1935年生まれ 女性 1996年、脳梗塞 1998年、肝障害を指摘され肝生検施行 身長150cm 体重62kg BMI 27.6 4.4 Alb T-Bil 0.5 AST 128 ALT 199 LDH 496 γGTP 102 g/dl mg/dl IU/l IU/l IU/l IU/l WBC 6800 RBC 434万 13.6 Hb Ht 41.4 Plt 23.5万 /μ l /μ l g/dl % /μ l HBsAg anti-HBc(x1) anti-HCV ANA AMA ASMA (-) (-) (-) (-) (-) (-) 典型的なNASH症例 典型的なNASH症例 典型的なNASH症例 (IU/l) 250 糖尿病判明 食事療法再指導 200 ALT γ-GTP 瀉血 食事療法 150 100 50 0 1999 2000 2001 2002 2003 NASHの臨床経過(11例での検討) 改善が得られたのは食事療法がきちんとできた患者さんです Yes(n=3) 改善1例、やや改善2例 Yes(n=6) 治療効果 Yes(n=2) 改善2例 食事療法 No(n=3) 薬物療法 不変1例 No(n=1) Yes(n=3) 改善2例*、やや改善1例 食事療法 No(n=5) 不変2例 No(n=2) *偏食改善の1例を含む 脂肪肝のまとめ ①食生活の乱れ、運動量の減少で患者さん の数が急速に増加しています ②進行性の脂肪性肝炎(NASH)の患者さん も増えています ③治療は生活習慣の改善(腹八分目、運動) が第一です
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