(PDF:343KB) 富士常葉大学環境防災学部 学部長・教授 藤川格司

静岡で光る学術の種
連載
∼大学ネットワーク加盟校の研究者紹介∼
川の変化から人の営みを捉え、 環境保全を考える
富士山南麓の水環境研究
■富士常葉大学環境防災学部
藤川
1953年生
格司
学部長
教授
専門:水文学、 地理情報システム等
日本大学大学院理工学研究科地理学専攻博士後期課
程修了、 理学博士
日本大学助手、 民間企業勤務を経て、 2000年の富
士常葉大学開学より助教授、 2005年より教授。 静岡
県森の力再生事業評価委員会委員
学生たちと一緒にフィールドワーク
1
はじめに
うようになった。 現在では、 工場排水もなくなり再
び子供たちが川で遊べる状態にまで回復している。
富士常葉大学では、 水文と環境の講義・実習の総
人間活動に伴う地表面の植生・土地利用の変化は、
称 「水辺ウォッチング」 を行っている。 これは富士
短期的には蒸発散量の変化など大気への影響、 河川
山の地下水と人間活動の影響をテーマに地域の水循
流域における湧水の枯渇・基底流量の減少など注目
環を学ぶプログラムである。 本プログラムの中で地
されているが、 長期的には、 地下水涵養量の変化、
域が抱える問題として田宿川の環境を保全していく
地下水流動量の変化、 河川や海洋への地下水流出量
ために、 研究を通じて大学の関わり方を考えている。
の変化をもたらすと考えられる。 そして、 地下水貯
田宿川は大学のある富士市にあり、 全長1.5㎞の
留量の減少分は地球上の水循環過程の中でどこへ再
かんよう
小さな河川である。 田宿川は昔から子供の遊び場や
洗濯の場として住民の生活と密接に関わっていた。
配分されたのか不明でもある。
富士山の地下水を利用した製紙工場がある富士山
その反面、 田宿川にはゴミ等も捨てられるようになっ
南麓で、 そして地下水の過剰な揚水により地下水塩
ていた。 このゴミと水中に生える水草が、 田宿川の
水化を起こした地域で、 人間活動による水循環の過
水位を上昇させ、 「雨が降るだけで氾濫しやすい川」
程で地下水貯留量を減少させて地下水の役割を除く
となっていった。 さらに、 1960年頃から田宿川付近
と、 どのような影響が出るのか明らかにすることは
に製紙工場が建設され、 地下水の揚水により地下水
重要である。 特に地表面の植生、 土地利用の変化と
位低下が起こり、 そして湧水量が減少し河川流量も
合わせて継続して観測する必要がある。
少なくなった。 それに工場排水の流入が加わり、 水
質汚染が見られるようになった。
これに対し住民は、 田宿川を守るために河川沿い
の六町内が 「今泉六町内河川委員会 (2006年にわき
水田宿川委員会と改称)」 を結成し、 1985年から防
災と環境保全の一環として水草刈りと河川清掃を行
ここではその研究の一環として田宿川の水位観測
を行ったので、 その水位変化から湧水で涵養されて
いる河川への人間活動の影響を明らかにした。
静岡で光る学術の種
∼大学ネットワーク加盟校の研究者紹介∼
深層地下水の上昇により浅層地下水の流出量が増
2
人間活動の影響
図1
地域水循環の模式図
加していることがわかった。 しかし、 ここで浅層地
下水と言っているのは、 新富士溶岩層の中で表層に
ある溶岩流の地下水を示しており、 同じ新富士溶岩
層の深度約100mから揚水している深層地下水とは
連続していないと考える。 河川を涵養する湧水量と
浅層地下水の関係、 浅層地下水と深層地下水の関係
を今後検討しなければならない。
古富士溶岩流は玄武岩質の集塊質泥流である。
図3
深層地下水位上昇量と河川水位上昇量との関係
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図1に地域の模式図を示した。 富士山に降った降
水は、 新富士溶岩流に浸透して流下し、 一部はその
途中の溶岩流の末端から湧水として流出する。 それ
により涵養された河川が田宿川である。 また、 一部
はより深層の新富士溶岩層、 古富士溶岩層 (集塊質
泥流) の中に浸透して流下し被圧地下水となる。 地
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下水の揚水がなければ、 地下水は直接 (沿岸海底)
地下水流出となる。 海岸部の沖積層中にも潤井川な
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H1:深層地下水の揚水停止に伴う上昇、 T1:潮汐による上昇
どから涵養された地下水が存在する。
工場等により深層の地下水が過剰に揚水され、 地
図3に深層地下水位上昇量と河川水位上昇量の関
下水位低下により塩水化を起こしている。 揚水によ
係を示した。 図によるとH1は深層地下水の揚水停
る影響で地下水位低下がおこり、 湧水も枯渇したこ
止時期 (工場の操業停止) で、 T1は潮汐による大
とがある。 このことから地域の水循環過程では湧水
潮の時期の関係を示している。 これは人間活動によ
も深層地下水も同じ地下水であることがわかる。
る揚水量の影響の方が自然現象の潮汐による影響よ
りも大きいことを示している。
図2
工場等の揚水停止による河川水位上昇
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まとめ
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ここでは田宿川の水位変化から湧水で涵養されて
いる河川への人間活動の影響を明らかにした。
田宿川の水位変化には、 深層地下水位が大きく関
係し、 その上昇により流量が増加し、 また、 その上
昇の程度により流出量も増減することがわかった。
図2に工場等の揚水が停止している時の河川の水
田宿川の水位変化は潮汐および揚水量の影響を大き
位を示した。 河川水位は日平均値で、 降水量は日降
く受けている事を示した。 そして人間活動による揚
水量である。 8月15日周辺で降水もないのに水位が
水量の影響が潮汐の影響を上回ることを明示した。
上昇している。 図は深層の地下水の揚水を停止する
富士常葉大学では 「水辺ウォッチング」 を通して
ことで、 湧水量が増加して河川水位も上昇している
人間活動の影響を学び、 地域の水循環システムを健
ことを示している。
全なものにすることを研究している。
(富士常葉大学教授
藤川
格司)