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答申本文 - 東京都青少年・治安対策本部

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第1章
1
電子メディア社会の中での成長
電子メディア環境があたり前
どこの家庭でもよいが、子ども部屋をのぞいて見よう。子ども部屋には自分専用
のテレビがあり、お気に入りの CD や MD を聞けるオーディオ設備がある。手元に
は、買いしぶる親に頼み込んで手にした携帯電話もある。マンガの単行本や雑誌が
乱雑に置かれている。もちろん、ゲームや参考書も並んでいる。メールを送ったり、
インターネットで探索をしたいので、居間にあるパソコンとは別に、自分の部屋に
も、旧型でいいからパソコンが欲しいが、親が許してくれそうにない。
どこにでも見られるような、平均的な子どもの姿だが、20年前、あるいは、15年
前、自分専用のテレビを持つ子どもはいなかったし、パソコンや携帯電話は、おと
なでも手にふれる経験が少なかった。
メディアの変化は、少しずつではあるが確実に進むので、流れの中に身を置いて
いると、変化に気がつきにくい。しかし、何年間か経つと、環境が大きく変わって
いるのに気づく。それでも、おとなたちは、年齢にもよるが、白黒テレビを見たり、
指先で電話のダイヤルを回したり、カセットテープで音楽を聞く体験を持っている。
したがって、過去との比較で、現在をとらえることができる。
しかし、子どもたちは、身の回りにワイドなテレビやMD、携帯電話があるのが
あたり前という感覚の中で育っている。そうした子どもの感覚を、恵まれた環境に
甘えていると非難しがちだ。しかし、それは、水道や電気のある暮らしに慣れたお
となに、以前より暮らしが豊かになったのだから、感謝して暮せというのに似てい
る。水道のない暮らしは大変だったろうとは思う。そうはいっても、いつでも、水
道の水は出ているし、断水などはめったにないから、水道のある暮らしをあたり前
に思い、むしろ、カルキ臭さを消すために浄水器をつける。あるいは、温度調節の
できる湯沸し機をつけたいと願う。
子どもには、長い時間という意味での過去がなく、現在しか生きていないので、
現在がすべてになる。つまり、現在の子どもは電子メディア社会の中で生まれ、育
っているのであるから、電子メディアに違和感を持たないのは当然であろう。しか
し、子どもの感じ方はともあれ、そうした現在の子どもの育ちが、これまでの育ち
と異なるのはたしかであろう。
子どもが電子メディアに接するようになったのは、テレビゲームが発売され、ゲ
ームソフトに子どもが魅了された1980年代初めだった。そうなると、今年高校を卒
-1 -
業する世代あたりが、電子メディア社会の一期生となる。
一期生の世代が成長する過程なのであるから、電子メディア社会の成長がどうい
う問題をもたらすかに、具体的な結論がでるのは少し先の話になる。しかし、その
間にも、電子メディア世代は次々と成長していく。しかも、この10年の変化を視野
に入れると、これからの変化はさらに激しく、急速なテンポで進展すると思われる。
それだけに、将来が不透明で、見通しをつけにくいとしても、現在で予測できる範
囲で、電子メディアの社会の成長がどういう問題を引き起こすのか。功罪をあわせ
て検討し、弊害を最小にする努力を重ねることが大事になる。
2
電子メディア社会の成長特性
子どもが変わったといわれる。考えてみると、子どもをとりまく環境が変わり、
そうした変化を受けて、子どもが変質したのであろう。そうした環境の変化はさま
ざまな角度から説明できるが、その中で、もっとも大きな変化は、すでにふれたよ
うな電子メディア化の進展であろう。
現在の成長を電子メディアに囲まれた育ちとするなら、それ以前の成長を特徴づけ
るのはテレビを友とした成長となる。テレビが子どもになじみ深いものになったの
は、テレビの受信契約台数が1千万台に達し、テレビが2軒に1軒の割合で普及し
た昭和37年前後のことになる。したがって、昭和30年代の半ば以降に生まれた子ど
もはテレビのある環境で生まれ、テレビを子守歌代わりに育ったテレビ第一世代に
なる。そうした世代は30代後半になり、小中学生の親世代である。
そして、昭和30年代以前に生まれた人はラジオ世代になる。特に団塊の世代以前の
人たちは子どもの頃に「鐘の鳴る丘」や「話の泉」などを耳にして育っている。
したがって、三世代家族を考えた場合、祖父母はテレビのない時代に生まれたラジ
オ世代、父母はテレビ世代、子どもは電子メディア世代の育ちとなる。したがって、
メディア的に見ると、三世代が、それぞれ異なる育ちをしているので、理解しにく
い面も生じてこよう。
それでは、電子メディアに囲まれた現代の子どもたちの成長には、父母や祖父母
の時代と比べ、どういう特性が認められるのであろうか。
(1)
メディアの単位が家族からパーソナルへ
父母の時代、テレビは一家に一台しかなく、居間に家族が集まり、「8時だよ!
全員集合」や「ザ・ベストテン」などを見るのが家族団欒の風景だった。祖父母の
時代も、居間に集まってラジオに耳を傾けたといわれる。
-2 -
いわば、家族の中心にメディアが位置する構図である。それに対し、現在では、
家にあるテレビの台数が増え、テレビが自分専用となり、パーソナル化している。
子ども部屋にテレビに加え、オーディオの装置やゲームもある。現在の子どもは居
間ではなく、自分の部屋をパーソナル・スペースとして、そこを根城とする生活を
送っている。
(2)
メディアの種類がモノからマルチへ
父母の時代、テレビは一家に一台と決まっていた。オーディオの装置も1台だっ
た。家にあるメディアは、それぞれ一台ずつしかない「モノ(ワン)」の時代であ
る。現在では、テレビやオーディオはむろん、電話も、それぞれが専用のものを持
つ「マルチ」の時代である。同種のものが数多くというだけでなく、メディアの種
類も多いという意味での「マルチ」である。
子どもサイドに立つと、自分の部屋に、マンガ雑誌やMD、ゲーム、テレビなど、
多くの種類のメディアがあるので、そうしたメカニックな友を相手にしていると、
孤独を感じることが少ない。充足感を味わえるのは部屋の中にいる時という感じで
ある。
(3)
一回だけから反復へ
テープレコーダーやビデオのない時代、ラジオやテレビは生で見るメディアだっ
た。「8時だよ!全員集合」は土曜の八時に見ないと、もう二度と見るチャンスは
なかった。しかし、現代のビデオ、インターネット、テレビゲームなどのメディア
は、同じ映像を何度でも繰り返し見ることができるところに特性がある。刺激の強
い映像でも繰り返し見られるし、むしろ刺激の強い映像ほど繰り返し見たいと思う
のであろう。子ども部屋で、同じ内容を繰り返し見続ける。そうした反復性がメデ
ィアのインパクトを強める可能性が強い。
(4)
子ども部屋の情報量がゼロから無限へ
祖父母の時代、子ども部屋にいるだけでは、雑誌を読むとかすることはできても、
新しい情報をほとんど入手できなかった。父母の時代でも、居間のテレビは娯楽と
して楽しめても、部屋の中に情報は入ってこないし、個人的な情報を得る機会は少
なかった。子ども部屋では、新しい情報の入手はゼロに近い時代である。
それに対し、現在では、子ども部屋の中に、ビデオ機能があるので、欲しい情報
を複製できるし、部屋のパソコンがあれば、子どもでも情報を探索できるし、情報
の発信もできる。子どもでも、部屋に居ながら、無限に近く、情報を受信し、発信
-3 -
できる時代を迎えている。
(5)
情報を得る態度が努力からイージーへ
祖父母の時代、雑誌を読むには、字を覚え、文を理解する力が必要だった。だか
ら、子どもは年齢に応じた雑誌に接することはできても、おとなの雑誌を読むには
かなりの努力が必要だった。
しかし、現在では、ボタンを押すだけで、テレビの画像が写り、CDが鳴り始め、
パソコンが作動する。自分がほんの少し働きかけるだけで、多様な質の高い情報を
入手できる。努力が求められずに、イージーな感じで、情報を入手できる時代であ
る。
このように考えてくると、子ども部屋の中で、①自分専用の、②多くのメディア
と接しながら、③多くの情報を、④簡単に入手できるのが、現在の子どもを巡る状
況となる。
3
電子メディア社会の成長の功罪
現在の子どもにとって、電子メディア時代を感じさせるのは携帯電話であろう。
携帯電話の操作は簡単だ。携帯電話を持っていれば、単純な操作で、時間を超え、
場所を越えて、誰とでもコミュニケーションを取れる。これまで、友だちと会おう
と思うと、会う場所を決めることが必要になるし、夜遅くは連絡を取れない。しか
し、携帯電話は、時間の制約や場所の限定を超越して、友だちとコンタクトするこ
とを可能にした。
労力の少なさと比較して、多くの利便を期待できる。高校生を取り巻くメディア
は、携帯電話の他にも、コンポやテレビゲームも軽便さを備えている。コンポは頭
だしやリピートが可能だし、サウンドも自分の好みに選択できる。もちろん、さま
ざまな形での録音も可能だ。
そうした便利なメディアに囲まれていると、そうしたメディアのある空間が快適
になる。そして、自分の部屋で、心のままに、いくつかのメディアを操作して、ゆ
ったりとくつろぐのが、至福の時となろう。
部屋の中での自分は、ただ一人の権威者で、ストレスもなく、好きなままの行動
をとれる。特に自分の好みの音響が流れるし、ビデオは自分で録画したものだ。加
えて、現在のテレビゲームは映像がシャープなので、臨場感を味わいつつ、自分な
りにアタックができる。
そうした環境の中で生活していると、一人でいることが快適だし、自分流に生き
-4 -
ている気持ちがする。そうなると、部屋から外へ出て、人とふれあうことが億劫に
なりやすい。そう考えると、「ひきこもり」は現代の子どもが陥りやすい心の状況
のように思われてくる。
青少年の回りに、多様なメディアがある。しかし、あらためてふれるまでもなく、
メディアはあくまでメディアで、使い方は個人の問題になる。
携帯電話を例にしても、電話を、友人や恋人と話すためのメディアとして使うの
が一般的であろうが、多様な情報を探索することも可能だ。高校生でも、パソコン
をゲーム機として使える一方、インターネットなどで情報を収集したり、発信した
りすることもできる。
そうした意味では、電子メディア社会の場合、多様なメディアを自分の休息や気
晴らしのために使うこともひとつの接し方だ。そうした一方、メディアの機能を駆
使して、自己開発や知的な探求のために活用するのもメディアとの別の接し方とな
る。
そうした多様で新しい問題を含んでいるので、電子メディア社会の到来の意味を
明らかにすることは多くの意欲的な研究者の考察対象だった。現在では、まだ解明さ
れない部分が多いが、いずれにせよ、子どもの成長にとっても、電子メディア化は、
マイナス面と同時にプラス面、つまり、功罪両面をもたらすと考えられる。
-5 -
第2章
1
青少年の現状
メディアの利用状況
現代はまさにマルチメディア社会であり、テレビ、ラジオだけでなく、テレビゲ
ーム、インターネット、携帯電話など、多様な電子メディアが生活の中に入り込ん
でおり、氾濫する情報の中にわれわれは生きている。青少年もその例外ではなく、
メディアの種類によっては、青少年こそが最も多く接触している。
実際に、青少年たちは一体どれほどメディアに触れているのか。「青少年をとり
まくメディア環境調査」(平成14(2002)年 東京都生活文化局, 小5・中2・高2対
象,(以下「メディア環境調査」という。)によれば、テレビは、各学年、男女共に
毎日3時間以上見る者がほぼ6割いる。テレビゲーム・パソコンゲームは、「2時
間くらい」「3時間以上」の合計が、小学生男子では51.9%、女子では24.0%、中
学生男子は56.2%、女子は21.1%、高校生男子は46.4%、女子は14.4%であり、男
子では相当な時間がゲームに割かれていることがわかる。
メディア環境調査ではマンガを読む時間は聞いていないが、「東京都子ども基本
調査」(平成11(1999)年 東京都生活文化局, 小3・小5・中2対象)によると、
「きのう、学校からかえって、つぎのようなことをどのくらいしましたか」という
質問に対して、「まんがを読んだ」は30分くらいが32.4%、1時間以上は19.6%で
ある。
こうしたことから、現代の青少年は、週に20時間ほどテレビを見て、5時間以上
マンガを読み、男子については10時間ほどゲームをする。つまり一週間に30∼40時
間、1日5時間くらいははなんらかの映像、画像に触れている子どもが相当数いる
ということになるであろう。まさにメディア漬けの生活と言って良い。
その時間、彼らは現実とは異なる映像や画像に触れているのである。バーチャル
の世界と現実の世界の境界が曖昧になり、両者を混同するといったことが事実とし
てあるかどうかは不明であるが、これだけ多くの時間テレビ、ゲーム、マンガなど
の映像に接していれば、何らかの影響があるものと懸念されるのもまた当然であろ
う。また、他方、おそらく彼らは、週に30∼40時間も実体験的な活動はしていない
であろう。勉強とテレビとゲームとマンガで生活時間のほとんどが構成されている
と言っても過言ではないのである。
-6 -
2
携帯電話・PHS※1
(1)
携帯電話・PHSの所有状況
すでに40年以上前から普及してきたテレビ、20年ほど前から普及してきたテレビ
ゲームに加えて、近年はさらにインターネットや携帯電話・PHSといった新しい
メディアが加わってきた。
メディア環境調査によれば、携帯電話・PHSを自分専用で持っているのは、小
学生男子が9.9%、女子が22.9%、中学生男子が33.1%、女子が49.4%、高校生男子
が81.0%、女子が89.3%となっており、高校生どころか、小中学生にも携帯電話・
PHSの所有者が増えていることがわかった。特に女子は小中学生でも所有率が高
い。
携帯電話・PHSを使ったことのある者だけを対象に、はじめて携帯電話・PH
Sを使った学年を聞くと、当然小学生ほど早く、「小学3・4年生」が男子で50.2
%、女子では61.9%である。中学生では「小学5・6年生」が男子で29.0%、女子
では44.2%であり、携帯電話・PHSの利用時期がどんどん早まっていることがわ
かる。
携帯電話・PHSを使う理由としては、「親から持つように言われたから」
「家族と連絡がとりやすいから」のほか、「メールを送ったり受けたりしたいか
ら」などが挙がっている。親としては、近年、子どもを対象にした犯罪が増えてい
るように感じられるために、子どもの身を守るという観点から、子どもに携帯電話
・PHSを持たせたケースが多かったのではないかと思われる。子どもにはもちろ
ん携帯電話・PHSを使ってみたいという好奇心がある。このように、親の心配と
子どもの関心が一致して、ますます携帯電話・PHSの利用開始年齢を早めている
と言える。
(2)
携帯電話・PHSによる電子メールの利用状況
「携帯電話やPHSでメールを送る」を「毎日のようにする」のは、中学生男子
で21.2%、女子では39.2%、高校生男子で60.0%、女子では81.1%となっている。
これはいずれも会話より頻度が多い。その意味で携帯電話・PHSは、電話という
よりは手紙の代わりであると考えた方が正しい。
直接会って話しにくいこと、電話でも話しにくいこと、あるいは手紙に書くと大
げさになってしまうようなちょっとしたことを、電子メールでは気楽にやりとりで
※1
PHS:簡易型携帯電話(personal handyphone system)
-7 -
きるからであろう。また電子メールは、相手が今していることを邪魔せずに送るこ
とができるというメリットもある。その意味で携帯電話・PHSの電子メールは、
コミュニケーションを補完する機能を持っていると言える。
(3)
携帯電話・PHSの影響
しかし、電子メールに過度に依存したコミュニケーションが増えていくと、直接
的なコミュニケーションが下手になるのではないか。また、手軽にコミュニケーシ
ョンができるがゆえに、特定の相手との連絡が途絶えると、自分が嫌われたのでは
ないかと過度に心配したりすることもあるようである。
しかし、子どもたちの方は、そういう懸念はあまり感じておらず、むしろ携帯電
話・PHSのメリットを強く感じているようである。携帯電話・PHSを使いはじ
めてからの影響では、「友だちと仲良くなった」「友だちが増えた」について「と
てもそう思う」「ややそう思う」という者がほぼ過半数である。また携帯電話・P
HSを使うようになって「持っているだけで、安心できるようになった」という回
答も多い。反対に、携帯電話・PHSによって「親と話す機会が増えた」「家族と
仲良くなった」という回答は少ない。
このように携帯電話・PHSは現代の子どもたちにとって、友だちとのコミュニ
ケーションを増やし、深めるために必須なものとして意識されている。これは、お
となが、携帯電話・PHS、あるいは電子メールによるコミュニケーションが、人
間関係の形成を阻害すると思いがちであるのとは対照的である。
メディア環境調査では、信頼できる人について聞いているが、「父親」「母親」
「兄弟・姉妹」「学校の先生」に比して「とても信頼している」という回答が多い
のは総じて「友だち」であり、男子より女子でその傾向が強い。そのことからも、
友だちを増やし、友だちと仲良くなれる携帯電話・PHSが、彼女たちにとってい
っそう大きな意味を持つことが想像できる。
しかし、携帯電話・PHSを使うようになって、「家に帰ることが遅くなった」
も「とてもそう思う」「ややそう思う」を合わせると高校生男子が24.8%、高校生
女子が30.1%、さらに「外出することが増えた」「どこに出かけるか家族に言わず
に外出するようになった」「友だちの家などに外泊するようになった」「学校以外
の友だちと会う機会が増えた」についても2,3割いる。おとなが懸念するように、
携帯電話・PHSの利用が家庭の求心力を弱めている面があることも否定できない。
親にしてみれば、親とのコミュニケーションは増えないのに、子どもが親と知ら
ない時間に知らない場所で知らない誰かと話し、かつ子どもの外出が増えたりすれ
ば、心配して当然であろう。
-8 -
だが反対に、子どもが携帯電話・PHSを持つと子どもと連絡が取りやすくなり
便利であり、安心であるという意見も8,9割あり、また「子どもの行動がわかり
やすくなった」「携帯電話・PHSを持つことはよいことである」という意見も半
数ほどいるなど、親としても携帯電話・PHSについてはメリットを感じることの
方が多いようである。
もちろん、携帯電話・PHSによって有害な情報に触れたり、犯罪に巻き込まれ
たりする危険性を感じている親も3,4割いるが、こうした危険性さえ除去できれ
ば、積極的に携帯電話・PHSを使っていきたいと考える親の方が多いと言えるで
あろう。
3
パソコン、インターネット
(1)
パソコン、インターネットの所有状況
インターネットにつながっているパソコンについて家族での所有状況を見ると、
小中学生の家庭ではほぼ半数が家族で使うパソコンを所有している。高校生の家庭
ではやや少なく4割ほどである。これは親の年齢が若いほどインターネットに熱心
であることによるものと思われる。またインターネットにつながっていないパソコ
ンの所有状況は、小中高ともに25%前後である。
(2)
パソコン、インターネットの利用状況
パソコンをふだんどのような目的に使うかという質問では、「インターネットを
する」「ゲームで遊ぶ」「電子メールを送ったり受けたりする」「CD-ROMやD
VDやテレビを見る」なども多く、単に文章を書いたり、表計算をしたりといった
ビジネス的な使い方というより、遊びやコミュニケーションの道具として使いこな
し始めている様子がうかがえる。
「パソコンでインターネットをする」は、「毎日のようにする」「週に3,4回す
る」を合わせると、高校生男子で19.0%、女子で12.7%であり、インターネットが
相当普及してきていると言える。
また、インターネットを使う者に対して、どのような目的でインターネットを使
うかを聞くと、「趣味やお店に関する情報を見る」「占い・ゲーム・遊びに関する
情報を見る」が多いが、「掲示板(BBS)※2を見たり、利用する」「チャット※3をす
る」も2割前後おり、単に既存のホームページを見るというよりも、他者とのコミ
ュニケーション手段として使うことも好まれているようである。
-9 -
4
テレビゲーム・パソコンゲーム、ビデオ
(1)
テレビゲーム・パソコンゲーム、ビデオの所有状況
自分専用のテレビゲーム機は、小学生男子が49.4%、女子が28.5%、中学生男子
が54.7%、女子が27.0%、高校生男子が61.2%、女子が19.4%持っている。ビデオ
デッキも高校生男子は34.4%、女子は21.6%が持っている。
(2)
テレビゲーム・パソコンゲーム、ビデオの利用状況
「テレビゲームやパソコンゲームで遊ぶ」は「毎日のようにする」が小学生男子45.
7%、女子14.7%、中学生男子38.2%、女子12.2%、高校生男子33.2%、女子5.2%
となっており、男子におけるテレビゲームの浸透度の高さがわかる。
「ビデオを見る」は「毎日のようにする」「週に3,4回する」を合わせると、中
学生が38.5%、高校生と小学生が30%前後であり、男女共に相当ビデオにも接して
いると言える。
5
出会い系サイト※4
インターネットや携帯電話・PHSを通じて知り合いになった人はいますかとい
う質問では、「いる」が高校生男子で32.6%、女子で53.1%である。
具体的にどのようにして知り合いになったかは、「趣味に関するホームページで
知り合った」は男子が24.2%、女子が18.0%、「知らない人からメールがあり、返
事のメールを送った」は男子が23.4%、女子が39.0%。また最近話題の「出会い系
サイトを利用した」は高校生男子が37.1%、女子が31.5%である。
さらに、それらの人とどのように連絡を取っているかでは、「電話、携帯電話・
PHSで話している」「電子メールをやりとりしている」のほか、「実際に会って
いる」も22.8%あり、高校生全体に対する割合では約1割がインターネットや携帯
電話・PHSを通じて知り合った人と直接会っているということになる。
掲示板(BBS):インターネットなどのコンピュータネットワーク上で、すべての参加者がメ
ッセージを読み書きできるシステム。
※3 チャット:インターネットなどのコンピュータネットワーク上で、リアルタイムでメッセージ
をやりとりする。1対1で行うものや、同時に多人数が参加して行うものがある。
※4 出会い系サイト:パソコンや携帯電話を使って見知らぬ人と情報を交換するためのバーチャル
な「場所」を提供する、インターネット上のサイト。共通の趣味や話題で集うサイトもあるが、大半
は、男女交際の仲介を主目的としたもの。
※2
- 10 -
出会い系サイトについてどう思うかという質問では、「利用したくない」が63.1
%、「犯罪にあう可能性があり危険である」も40.5%いる。大半の高校生は出会い
系サイトには何らかの抵抗があるのだが、「責任を持って慎重に利用すれば問題な
い」が25.9%、「出会いのチャンスが増える」という肯定意見も16%と少なくない。
総じていえば、15%ほどの高校生は出会い系サイトを積極的に利用しているのでは
ないかと推察される。
6
有害な情報について
(1)
青少年の接触状況
青少年が有害な情報に接する情報源を見ると、いくつかの特徴が見られる。ポル
ノ画像を見たメディアとしては、「ビデオ」が高校生男子で65.5%、中学生男子で
も55.3%あるのが目を引く。ただしテレビでポルノ画像を見たというものも6割ほ
どいるので、どれほどのハードな画像を見たのかは不明であるが、アダルトビデオ
が中学生にまで浸透している可能性も否定できない。
また、特に高校生男子の情報源を見ると、各種の有害な情報についてインターネ
ットから入手するケースが増えているのではないかと推察される。
たとえば何らかのメディアでポルノ画像を見た者のうち、インターネットで見た
者は高校生男子の46.3%いる。中学生女子でも36.9%がインターネットでポルノ画
像を見たと言っているが、これは自分の好奇心で見た以外に、出会い系サイトやア
イドル、芸能人のホームページを閲覧した際に、自分の意志とは無関係に送信され
てくる画像が多いのではないかと推察される。
また高校生男子では、「暴力的な画像や残虐な画像」を見た者のうちインターネ
ットは20.3%、同様に「犯罪の手口に関する情報」は21.9%、「自殺の方法に関す
る情報」は20.5%、「薬物の入手方法」は20.8%となっている。今はまだ本・雑誌
からの情報入手の方が多いが、今後インターネットがさらに普及すれば、インター
ネットからの情報入手が本・雑誌を追い抜くこともありえ、同時に低年齢化してい
くものと思われる。
また、あたかもコンビニエンスストアに24時間お菓子があるように、24時間いつ
でもこうした情報に触れられるという状況が続けば、これらの情報が描く世界がノ
ーマルなことだと青少年に誤解させる危険もある。一方でセクシュアル・ハラスメ
ントやドメスティック・バイオレンス ※5や男女平等参画が話題になっても、他方で
※5
ドメスティック・バイオレンス:配偶者等に対する暴力のこと。
- 11 -
はインターネットには24時間性や暴力が商品として溢れているという状況は矛盾で
あろう。もちろんそうした世界を一面的に排除する危険も認識しなければならない
が、現実に触れる以上に情報の世界に浸ることが日常になっている現代社会の問題
は改めて議論されねばならないだろう。
(2)
親の対応
これまで見てきたように、現代の青少年は、ポルノ画像や暴力的あるいは残虐な
画像に接する機会が、携帯電話・PHS、インターネット、ビデオ、テレビゲーム
・パソコンゲーム、インターネットと増えている。特に高校生の男子ともなれば、
それらのメディアを自室内に自分専用で所有することも多いため、親の目の届かな
いときに有害な情報に容易に触れられる状況にあると言える。
こうした状況に対して、親は、テレビ番組やテレビゲーム・パソコンゲームに暴
力的なものが多いことを懸念する者がほぼ8割おり、暴力的な表現の悪影響を懸念
する者も7割ほどいる。そして、その悪影響の対応としては、「子ども自身の判断
力」「親自身の責任で子どもを守る」「業界の自主規制」「法的規制」の順番で何
らかの対応をしようとしている。
また、インターネットについては、子どもが利用することを「よいことである」
と考える親が7,8割であり、「これからの時代に不可欠」とする親も8,9割で
ある。しかし「有害な情報に接する可能性があり心配」も6割前後ある。
さらに、インターネットや携帯電話・PHSを通じた出会いについては、「子ど
も自身が責任を持って行動すれば問題ない」という親が36.4%なのに対して、「犯
罪にあう可能性があり危険である」が54.7%、「不健全である」も31.5%、など、
不安も大きい。
インターネットや携帯電話・PHSを通じた有害な情報への接触については、
「子どもに悪い影響を及ぼすのではないか心配」とする親が7割前後、「凶悪な犯
罪を引き起こす可能性がある」とする親が6割ほどいる。
それへの対応としては、テレビ、テレビゲーム・パソコンゲームの場合と同様、
「子どもの判断力を育てる」が最も多く9割ほどであるが、「親の責任で対処」よ
りも「技術的な対策が必要」という親が多く、また「法的な規制」も「親の責任」
とほぼ同数いる点が、テレビやテレビゲーム・パソコンゲームの場合とは異なって
いる。
つまり、テレビやテレビゲーム・パソコンゲームの場合は子どもが見ている番組
やソフトの内容を親も見ることができるので、親としても対処できるが、インター
ネットの場合は何を見ているかわからないから、技術的規制や法的規制に頼らざる
- 12 -
を得ないということであろう。
7
課題
(1)
有害な情報との接触について
テレビなら深夜にしか流れないような情報、あるいは従来なら特殊な店に入らな
ければ入手できなかったような情報がインターネット上には溢れている。犯罪、自
殺、爆弾の作り方、サドマゾ、児童ポルノ、スカトロジー、死体嗜癖等々の情報も
検索エンジンで簡単に見つかる。しかも24時間いつでも入手できる。出会い系サ
イトもきわめて多数存在し、そうしたサイトへのアクセスを勧誘するメールも頻繁
に送りつけられてくる。
酒でもたばこでも自動車免許でも、肉体的、精神的発達から見て青少年にはまだ
不適切と判断されるものに何らかの年齢制限が加えられることは一定の合理性があ
ると言える。また、性風俗店などなら立地による制限もできるが、場所を持たない
インターネットではそれが不可能である。
インターネットのできるパソコン、携帯電話、携帯情報端末さえあれば、小学生
でもそれらの情報に簡単にアクセスできるし、見知らぬ他人と簡単に知り合うこと
もできるのである。何の生活体験も社会経験もない未熟な子どもが、あまりにも容
易に悪意を持った他者に出会いうるのである。
しかも、インターネットや携帯電話・PHSは、個人と個人を結びつけるので、
規制が難しい。テレビ、ラジオ、新聞のような従来のマスコミは、情報の受け手は
多いが、送り手が限定されており、送り手側に情報の校閲・審査機能があるので、
情報の内容を吟味してから発信することが比較的容易である。
しかし、インターネットや携帯電話・PHSでは、個人が自分でホームページを作
ったり、掲示板(BBS)やチャットに参加したり、保護者を介せずに子どもが自由に
通話、通信したりできる。つまり子どもたちが、いつでも自由に情報を作ったり、
受発信したりできるというメリットがあるが、他方では、誰が作ったかよくわから
ないホームページがあったり、見知らぬ人からメールが来たり、またホームページ
やメールに書かれた情報の真偽や偏りについて責任ある機関が校閲・審査するとい
う体制がとられていない、などの欠点がある。
したがってインターネット、携帯電話・PHSが普及する社会では、これまでのマ
スコミで行われてきたような情報の送り手側による自主規制では情報を管理しきれ
ない。マスコミは、いわば情報という水を大量に供給しているわけだが、水源地で
水量や水質を管理できる。しかし、インターネットや携帯電話・PHSではそうい
- 13 -
う大元での一括管理ができず、情報の内容については個人個人が責任を持つしかな
いという難しさがあるのである。そこでは個々の情報の送り手の責任と能力が問わ
れると共に、情報の受け手側にも情報を取捨選択し解読する力がいっそう必要にな
るのである。
このような状況を考えると、子どもたちにインターネットをさせる、携帯電話を
与えるということは、なんらかの危険や責任を伴うことであると言える。それは、
言ってみれば子どもにおとなの世界に入る鍵を渡すことであり、本来であれば、そ
こで発生するリスクに責任を持つ能力があるかどうかを子どもに問うてから与える
べきものなのかも知れない。
(2)
実体験の重要性について
最も重要なのは、メディア漬けの状況にある現代の子どもたちに、バーチャルと
は違うリアルな体験をしてもらう機会をもっと増やすことであろう。バーチャルな
情報との接触の増加が避けられないとすれば、リアルな体験もまた増やすことで、
トータルなバランスをとってもらう必要があると思われるのである。
もちろん、メディアの影響というのは、あるのかないのかわかりにくいものであ
る。人間を実験台にするわけにはいかないので、同じ人間が生まれてから成長する
間にメディアにどのように接触するかの違いで、どんな人間に変わるのか変わらな
いのか証明はできないのである。
しかし、証明ができないからといって、何もしなくていいということにもなるま
い。われわれおとなには、想定されるメディアの悪影響を除去するだけでなく、よ
り良い情報、知識、体験を子どもたちに与える責任と義務と権利があるからである。
テレビゲームの中で人を何百回殺したとしても、リアルな世界での痛みを知って
いる人間であれば、現実の人間をゲーム感覚で殺したり、いじめたりすることはな
いのではないかと思われる。生き物を育てたり、年下の子どもと遊んだり、おとな
と付き合ったり、高齢者や障害者の話を聞いたり、自然の力に感動したり、素晴ら
しい芸術や文化にじかに触れたり、おとなの仕事の現場で厳しさを感じたり、ある
いは日常的に家事をしたりといった、手と足と体と五感を使った体験が豊かになさ
れていれば、リアルとバーチャルの混同のようなことが仮にあるとしても、それを
抑止できるのではないかと思われるのである。
(3)
人間関係の広がりとひきこもり
電子メールを利用すれば、地域や年齢を越えて、社会が広がり、多くの未知の人
と接触するのが可能になる。子どもでも、おとなのチャットに加われるし、遠く離
- 14 -
れた地域の人との交流も可能だ。中高校生でも外国語が得意ならば、海外の友との
交流が可能になる。そうした意味では、広い世界の人々と交流する若者が育ってく
る。
その反面、深夜に一人でテレビゲームをするに象徴されるような、引きこもり的
で、非社会的な子どもが育つことも反面の事実である。特に子ども部屋の中に、子
どもの理性を超えたさまざまな情報が入り込んでくるので、子どもによっては、メ
ディアに埋没する可能性が強まる。
子ども部屋に一人でいるのに慣れているので、友だちと教室にいるだけでプレッ
シャーになる。そして、教室内のささいなことでも、争いの元になる。なにしろ、
友だちと遊んだ経験に乏しいから、友だちとの付き合い方が分からない。最近のい
じめや授業の荒れなどの背景に、そうした人間関係の未成熟さが見られる感じがす
る。それだけに、子どもたちに人間関係の体験をいかに積ませるのかが重要になる。
(4)
自尊感情の高まりと自信喪失
パソコンを操って、海外などの未知の情報を入手できる。そうした体験を重ねて
いれば、自分に自信を持てる。多くの子どもが電子メディアに積極的にたくましく
接している。メディアを自分サイドに引き寄せて活用している子どもが多い。メデ
ィアをコントロールして、自分の個性を作る子どもである。
そうした反面、メディアに溺れる生徒がいるのはたしかであろう。部屋の中で、
ねくらに夜遅くまで、パソコンのゲームに興じる。朝は眠いし、学校の授業にも関
心を持てない。メディアにコントロールされ、自信喪失気味な子どもである。
メディアの伝える情報の中には、質的に問題の多いものも含まれていよう。しか
し、俗悪といわれる情報に接してもおぼれず、多様な情報の渦の中から、自分で判
断して、適切な情報を集め、活用していく。そして、自分らしさを形成する。それ
だけに、そうした情報を取捨選択する力、つまり、メディア・リテラシーを育てる
ことが重要になる。
こう見てくると、電子メディア社会では、①生の体験を積ませる、②友だち付き
あいを大事にして、人間関係を育てる、そして、③自分の個性を作ることが課題に
なる。そうした人間らしい育ちに、情報を取捨選択する能力が加われば、子どもた
ちの将来に明るい希望を托せるように思われる。
- 15 -
第3章
1
メディア・リテラシーの育成
メディア・リテラシーの定義
まずメディア・リテラシーという言葉について、検討してみることにしたい。
いうまでもなく「メディア・リテラシー(media literacy)」は、情報を伝達する手
段、媒体を意味する「メディア(media)」という言葉と、読み書き能力を意味する
「リテラシー(literacy)」という言葉が結びついたものである。
その定義についてはすでにさまざまな研究者、団体などから提出されている。た
とえば、メディア・リテラシー運動全米指導者会議(平成4(1992)年)は、「メデ
ィア・リテラシーとは、市民がメディアにアクセスし、分析し、評価し、さまざま
な形態でコミュニケーションを創りだす能力を指す。この力には、文字を中心に考
える従来のリテラシー概念を超えて、映像および電子形態のコミュニケーションを
理解し、創りだす力もふくまれる」と定義している。
また「放送分野における青少年とメディア・リテラシーに関する研究会報告書」
(平成12(2000)年
郵政省)では、メディア・リテラシーを「メディア社会を生き
る力」ととらえ、その構成要素として、
「①メディアを主体的に読み解く能力
(ア)
情報を伝達するメディアそれぞれの特質を理解する能力
(イ)
メディアから発信される情報について、社会的文脈で批判的(クリティカ
ル)に分析・評価・吟味し、能動的に選択する能力−(中略)また、主体的
に読み解く対象は、これら総体としてのメディアであるが、そこでは多様な
読解が可能であり、唯一の正解を求めるものではない。なお、日本語の「批
判的」という語については、一般に対象に対する否定的な意味合いで用いら
れるが、ここでは「クリティカル(critical)」という語の有する、必ずしも
否 定・肯定に区分できない内在的な批評の意味で用いている。
②メディアにアクセスし、活用する能力
メディア(機器)を選択、操作し、能動的に活用する能力
③メディアを通じてコミュニケーションを創造する能力。特に、情報の読み手
との相互作用的(インタラクティブ)コミュニケーション能力」
を示している。そしてメディア・リテラシーはこれらが相互作用的に、有機的に
結合したもの、としている。
な お メ デ ィ ア ・ リ テ ラ シ ー に 類 似 し た 言 葉 と し て 、 メ デ ィ ア 教 育 ( media
- 16 -
education)、メディア・スタディーズ(media studies)なども存在している。
そして「メディア」+読み書き能力を意味する「リテラシー」、という言葉の基
本的構造から考えるなら、メディア・リテラシーとは基本的に、さまざまなメディ
アに対し、
①(文字で「本を開く」、「ペンを取る」などに相当する)メディアにアクセス
し、活用する能力
②(文字で「読む」に相当する)メディアを主体的に理解・判断する能力、
③(文字で「書く」に相当する)メディアを通じてコミュニケーションを創りだ
す能力
の3つの要素とそれらの相互作用が重要である、ということができるだろう。
2
メディア社会の人間関係
新しいメディアの普及により、青少年と人間、情報との関係には変化が生じる。
たとえばインターネットや携帯電話・PHSなどの普及により、人間関係が浅く
なったか・深くなったか、という議論がある。しかしそこでより重要なことは、顔
を知る−名前を知る−浅い話をする−深い話をする、という従来のコミュニケーシ
ョンの過程自体の変化であろう。したがって人間関係の「浅い−深い」以外にも、
たとえば「一面的−全面的」という視点を取り入れ、ある事柄についてホンネで話
せても、顔を知らない、名前を知らない場合は、深いが一面的になる、というよう
に視点を変えて理解・判断する必要があるだろう。また人間関係の「少ない−多
い」についても、それ以外に「限定的−無限定的」という視点を取り入れ、クラス
の友だちは少ないがメル友が多い場合は、多いがネット限定的、というように理解
・判断する必要があるだろう。
同じように新しいメディアの普及により、情報関係も変化する。そこにおいても、
ウイルスのように本来的に有害な情報、わいせつな情報など受信者の年齢や国によ
り有害度が異なる情報、また情報関係のなかでの自分や他者のプライバシーの侵害
などのリスク、などをさまざまな視点により理解・判断することが大切であろう。
これまでの社会は、
「青少年のアイデンティティ形成の過程で、 家庭、学校、地域から同心円的に、
良くも悪くもフィルターをされた人間、情報が青少年に関係してくる社会」
といえるだろう。フィルターをされた人間の典型としては、家庭の親、学校の教
師、またフィルターをされた情報の典型としては、学校の教科書をあげることがで
きる。もちろん、歴史的には都市化による地域の人間関係の変化、マスメディアの
- 17 -
発達による情報の増大などが進行したが、単純化した図式としてはこのようなこと
がいえると思う。
それに対して現代は、
「青少年のアイデンティティ形成以前、あるいはその過程で、電子メディアによ
り多様な人間、情報が関係してくる社会、また それに対して青少年が、双方向的に
コミュニケーションできる社会(=パーソナルメディア社会)」
といえるだろう。もちろんメディアは基本的に累積的であるので、それ以前の社
会の人間、情報との関係が消滅するわけではない。またメディアは本質的に中立的
であるので、このパーソナルメディア社会が、本質的に「良い社会」や「悪い社会」で
あるわけではない。たとえば青少年が双方向的にコミュニケーションできることも、
意見の表明という点では望ましいが、メディア・リテラシーが十分育成されていな
い場合は、相手に操作されるリスクが増大する、といえるだろう。したがってより
重要なことは、 これまでの社会の人間関係、情報関係との違い、そのメリット・デ
メリットを主体的に理解・判断し、コミュニケーションを創りだしていけるメディ
ア・リテラシーの育成であろう。
3
海外でのメディアの教育
日本におけるメディア・リテラシー育成の取り組みは、教師グループや研究者、
NPO等の民間団体、メディア機関などによって始まったところだが、まだ体系的
な広がりは見せていない。
海外では、イギリスのように1930年代の映画の時代から、メディアに関する教育
が教師たちによって行われてきた例をはじめ、学校におけるメディア教育の経験の
ある国は少なくない。これらの国々においても、公式に学校教育のカリキュラムに
組み込まれたのは1980年代以降である。
たとえばメディア教育発祥の地といわれる イギリスでは、イングランドとウェー
ルズで昭和63(1988)年の教育改革法にもとづき、全国共通カリキュラム(The National
Curriculum)が導入された。そこでは5−16歳の国語(母語)で、メディアについて
教えることが取り入れられている。(イギリスでは、イングランド、ウェールズ、
スコットランド、北アイルランドの各地域で、それぞれの教育担当省が教育を管轄
している。なおスコットランド、北アイルランドにもメディアの教育はある。)
また16−18歳ではメディアの教育の独立した科目として、映画とメディア研究
(Film and Media Studies)、メディア研究(Media Studies)、メディア研究上級レベル
(Media Studies Advanced)があり、メディアの批判的理解がおこなわれている。また
- 18 -
イングリッシュ&メディアセンターでは、教員がメディアの教育で効果的な授業が
おこなえるよう、教材開発、教員研修、教師向けの雑誌の発行をおこなっている。
イギリスのように大学等の教育機関によるバックアップがなかったカナダでは、
1970年代からの教員の草の根的な実践を背景に、昭和62(1987)年にオンタリオ州で
世界で初めて国語(母語)のカリキュラムにメディア・リテラシーの育成が導入さ
れた。その後は小学校から高校までの全学年で、メディアの教育が義務づけられて
いる。(なおカナダでは州ごとに教育の管轄が異なるが、現在では全10州でカリキュ
ラムにメディア・リテラシーの育成が導入されている。)
たとえばオンタリオ州の言語(Language)の、口頭と視覚のコミュニケーション
(Oral and Visual Communication)のカリキュラム(1997年)を見てみよう。そこでは
生徒が、相互に理解し影響しあうこと、巧みに自信を持って自己表現すること、メ
ディアの働きを理解しさまざまなメディアを使うことのために必要な、口頭と視覚
のコミュニケーション技術を発展させていくことが強調されている。そして初等教
育でのメディア・コミュニケーション技術の例として、「自分たちの現実の生活と
テレビアニメや映画で描かれる生活を異なるものとしてとらえる」(1年生)、
「メディアが情報を提供する多様な方法とその特徴を理解する(新聞記事、インタ
ーネット、ドキュメンタリー映画、CD-ROM)」(5年生)、「音声と映像の組
み合わせでどのような効果を生むことができるかを記述し、説明する」(7年生)
などがあげられている。
4
メディア・リテラシー育成の考え方
(1)
メディア・リテラシーを育てる場
焦点を日本の状況に移そう。メディア・リテラシーの育成が遅れがちといっても、
テレビなどの視聴態度については多くの試みがなされてきた。特にテレビが人間形
成に及ぼす影響については優れた先行研究が見られる。
そうした中で、テレビの情報を適切に取捨選択するためには先行体験が重要とい
う指摘がなされている。おとなの場合にしても、自分が経験を持つ領域については、
テレビの情報を批判的に選択して、新しい情報を吸収することができる。しかし、
未知の世界については、真偽を確かめる基準を持てないので、すべてが真実のよう
に思える。
そうした観点をふまえると、先行体験が乏しいだけに子どもの方がテレビからの
影響をストレートに受けやすいように思われる。そして、電子メディア社会になる
と、メディアからの影響はさらに度合を増すと考えられる。それだけに、メディア
- 19 -
・リテラシーを育てる作業が重要になる。
子どもがメディアにもっとも多く接するのは家庭であろう。そうした意味では、
家庭でメディアに対するしつけがなされることが望ましい。そうしたしつけが機能
していれば、メディア・リテラシーを育てる土壌が培われることになる。しかし、
個々の家庭での配慮に限界があると考えられるので、地域の人とメディアについて
話し合う、あるいは、メディア環境の浄化を考えるなど、地域での働きに期待した
い気持ちがする。
しかし、メディア・リテラシーの育成はきちんとした指導計画に従って体系的に
取り組む課題であろう。それだけに、家庭や地域での育成も大事だが、メディア・
リテラシーの育成を中心となって担うのは学校であろう。しかし、これまで、学校
でのメディア・リテラシー育成の取り組みはあまり進んでいない。
(2)
ア
メディア教育の基本的な視点
情報の取捨選択が鍵
メディア・リテラシーの育成を、簡略して、メディア教育と呼びたいと思う。
メディア教育は、すでにふれたように、構成要素として、①メディアへのアクセ
ス
②情報を取捨選択
③自己発信の三要素が取り上げられることが多い。この三
領域は、見方を代えると、①アクセスし、②取捨選択し、③表現するというメディ
ア・リテラシー指導のステップでもある。そして、メディア教育というと、第一段
階の①の「アクセス」に関心が集まりがちになる。
しかし、この10年に限っても、パソコンの操作は信じられない位簡単になった。
しかも、アクセスのしやすさはこれから先さらに進むと見込まれている。我々おと
なは、車のメカニックを知らなくとも運転しているし、カメラの仕組みに関係なく
写真をとる。ハードを正確に知ろうとすると、高度の専門性が求められる。しかし、
一般のユーザーはハードを知らなくとも、ソフトを活用できる。現在のメカニック
の多くは、そうしたハードとソフトとの分離の上に成り立っている。それと同じよ
うに、メディア教育にあたっても、①のアクセスへの過程は可能な限り簡略化して、
②の情報の取捨選択を重要視すべきであろう。実際に、パソコンのソフトは毎年の
ように更新されるから、現段階でアクセスを完璧にしても、有効期限は3年も持た
ないように思われる。
さらに、③の自己発信について、誰でも発信することはできる。特に、現在の子
どもは、我々おとな世代より、発信するためのノウ・ハウや表現方法をしっかり持
っている。しかし、発信内容が乏しい印象を受ける。質の良い情報を発信するため
- 20 -
には、その年齢なりに、問題に対して深い理解力や鋭い洞察力を持つことが肝要に
なる。そう考えると、メディアは伝達の手段であって、質の高い自己発信をするに
は、作文指導や読解指導のような日常的な学習の質が問われる感じになる。
このように考えてくると、メディア・リテラシーを育てるために3段階のステッ
プが認められるのは確かだが、中心となるのは、②の「情報の取捨選択する力を育
てる」であろう。メディアの伝達する多様な情報の中から、真偽を確かめ、質の良
い悪いを見極め、自分が必要としている情報を入手する。より具体的にいうなら、
情報を①分析し、②判断し、③選択する力を育てることが課題となる。そうしたス
テップを追って情報を弁別する力を育てることは、電子メディア社会に生きるため
の基本と考えられる。
イ
メディア教育の原理
メディア教育と言うのはやさしい。しかし、そうした教育の成果を上げることは
それほど簡単ではない。これまでの学校の授業と本質的に異なる指導方針が求めら
れるからである。
(ア)
個別学習が前提
教師が一斉に授業して、情報を伝達するだけでは、個々の子どもの力はつかな
い。情報を取捨選択する力を育てるためには、情報について、一人一人の子ども
には、メディア教育の前提として個別学習があるといえよう。
(イ)
集団学習との関わりが大事
しかし、個別学習をするだけでは、自分の考えが全体の中でどういう位置を占
めるかが明らかでない。メディア教育にあたって、個別学習と並んで、集団学習
との関わりが大事になる。人の意見を聞き、自分の考えを作る。集団の中で多様
な考えがあるのを知り、相対の中に自分を位置づける。そうした集団学習の機会
を大事にしたい。
(ウ)
状況に応じた単元選択
メディア教育にあたっては適時性が重要になる。現代という時代、校区の状況、
子どもの発達段階などに応じて単元を選択することが望ましいので、単元選択が
重要になる。行政的に単元選択の原則を提示する必要はあろうが、基本的には各
学校、各学級に単元選択を任せることになる。それだけに、各学校の力量が問わ
れることになる。
(エ)
綿密な指導案作りが鍵
単元選びにあたって、適時性が重要だが、指導案作りにあたっては綿密な準備
- 21 -
が必要であろう。これまでの教科の指導の場合、教育界に長年の蓄積があるので、
教師の力量に多少の問題があっても、混乱が生じることは少ない。しかし、メデ
ィア教育は未開拓の領域なので、事前の下調べが肝要になる。学校内外の情報を
集め、メディア教育のモデル作りをする意気込みで指導に取り組んで欲しい。
(オ)
伝達から支援への転換
メディア教育で大事にしたいのは、子ども自身の探求心であろう。それだけに、
メディア教育にあたって、教師はこれまでのような情報の伝達から、子どもの学
習の支援へ、指導態度を転換させる必要があろう。
こう考えてくると、メディア教育を発展させようとするなら、これまでの学校
のあり方を根本から問い直す態度が必要となる。これまで、日本の学校は知識伝
達型で、そうした学校が多くの問題を抱えると指摘されてきた。それだけに、メ
ディア教育は受容型から自発型へ、学校での学習態度を変える契機となるように
思われる。
そう考えると、メディア・リテラシーを育てるために、教師の視点から「メデ
ィア教育」を説くより、子どもの視点を大事に考えて、「メディア学習」の立場
を明確にする。そして「メディア教育」から「メディア学習」へ、メディア・リ
テラシー育成の視点を大きく転換させる必要があろう。少なくともメディア学習
の時間では、子どもたちの自発的な学習態度を尊重したいと思う。
イギリス、カナダの事例は以下の資料を参考にした。
「放送分野における青少年とメディア・リテラシーに関する研究会報告書」2000年郵政省
菅谷明子「メディア・リテラシー−世界の現場から」岩波新書2000年
イギリスの全国共通カリキュラムに関するホームページ(http://www.nc.uk.net/home.html)
カナダのオンタリオ州の教育担当省のホームページ(http://www.edu.gov.on.ca/)
- 22 -
第4章
事業者の取り組み
ゲーム機・インターネット・携帯電話など、近年の急速なメディアの発達により、
猥褻・残虐・逸脱行動の示唆といった様々な有害な情報に、青少年が無防備にさら
される可能性が高まってきた。
総務庁が平成11(1999)年に発表した「青少年とテレビ、ゲーム等に係る暴力性に
関する調査研究報告書」(茨城・埼玉・愛媛・京都・兵庫の各府県の小6・中2の
3,242人が対象)によれば、テレビ・ゲームなどの暴力シーンや残虐な表現に接触す
る機会が多い青少年ほど、暴力行為などの問題行動を経験している割合が多く、ま
た暴力の被害者に対する共感も低い傾向があるという。また郵政省が平成12(2000)
年に実施した「子どものテレビとテレビゲームへの接触状況に関するアンケート調
査」(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の小3・4年生が対象)の結果からも、
テレビゲームへの接触時間とバイオレンス度には相関関係がある、という見解が出
された。
以上の調査で示されたのはあくまでも相関関係であって、「テレビやゲームが子
どもに悪影響を与える」という因果関係が立証されたわけではない。たとえば平成1
0(1998)年、黒磯市の中1男子がバタフライナイフで教師を刺殺した事件の際、約1
年前に放送されたドラマで、主人公が同種類のナイフを使うシーンがあったことが
注目された。しかし、この事件とドラマを単純に関連づけることは疑問視されたし、
一部で再放送中止という対応についても場当たり的という批判がなされた。他方で、
子どもをポルノや残虐シーンなどになるべく触れさせたくない、という保護者や社
会の憂慮の声が全般的に高まっていることもまた事実である。
こうした声に応え、メディアの送り手をはじめとする事業者の側でも、表現の自
由とのバランスをはかりつつ、有効な自主規制を行おうと様々な取り組みがなされ
ている。本章では、最近の事業者の取り組みをメディアごとに概括し、そのうえで
提言を行いたい。
1
テレビ
放送はもっとも公共性の高いマスメディアといえる。放送事業者は、長年にわた
って、放送法により言論・表現の自由が保障される一方で、自主的に番組基準を定
め、また番組審査機関を設置することが規定されてきた。平成11(1999)年、郵政省
・NHK・日本民間放送連盟(以下民放連)の三者による「青少年と放送に関する専
- 23 -
門家会合」(以下専門家会合)が設けられ、青少年と放送に関する次のような取り
組み方針を発表した。1. 青少年向けの放送番組の充実(『児童・青少年の知識や
理解力を高め、情操を豊かにする番組』を週3時間以上放送するなど)、2. メディ
ア・リテラシーの向上、3. 青少年と放送に関する調査等の推進、4. 第三者機関
等の活用、5. 放送時間帯の配慮(午後5時∼9時を児童の視聴に十分配慮する時間
帯とする)、6. 番組に関する情報提供の充実(暴力・性などの表現について青少
年への配慮が不可欠と判断した場合、番組冒頭や番組内テロップ・広報番組・番組
宣伝枠・インターネットなど様々な方法で事前の情報提供を行う)。
1の「青少年向け番組」を週3時間以上放送という項目については、後に民放各
局が該当番組のリストを公表した。だが、挙げられたのはその時点で放送中の番組
がほとんどで、新鮮な印象は薄く、またアニメやバラエティ番組が多かった。もっ
ともどういうものが「青少年の知識や理解力を高め、情操を豊かにする番組」なの
かについて、なかなか具体的な社会的合意が得られない以上、これは仕方ないこと
かもしれない。
注目したいのは2・4・5・6である。まず受け手の側がメディア・リテラシー
を高めていく必要性が確認されている。そのうえで、アメリカのように番組に画一
的に事前レイティングを義務化する代わりに、午後5∼9時という青少年枠の設定
と個別的な番組情報の事前提示という自主規制により、保護者が少なくとも一定時
間は安心して子どもにテレビを見せることのできる環境づくりを目指しているとい
えよう。さらに第三者機関が、子どもをめぐる放送の課題を広く社会のテーマとし
て考えていくための、放送局と視聴者をつなぐ役割を果たすことになる。後述のよ
うに、テレビが青少年に及ぼす影響について社会的に意見が割れている現状では、
全体的に極めて穏当な制度と思われる。
以上のような基本方針に基づき、平成12(2000)年4月、NHK・民放連は放送事業
者の自主的な機関として「放送番組向上協議会」の中に、学識経験者らによる第三
者機関「放送と青少年に関する委員会」(以下「青少年委員会」という。)を新し
く設置した。青少年委員会は、放送と青少年に関する調査等を行うほか、視聴者か
ら放送番組に関する意見を受け付け、それをもとに審議し各放送局にその結果を伝
達する。これを受けてどうするかは各局の判断に委ねられるが、局側の対応は公表
される。同委員会は平成12(2000)年11月に「バラエティー系番組に関する見解」を
発表。その中で、視聴者から苦情の多かった民放の2つのバラエティ番組のコーナ
ーについて、それぞれ青少年に対し「いじめや暴力の肯定」「女性に対する覗きの
肯定や差別的観念の固定化」といった好ましくないメッセージを伝える危険性があ
ると述べた。これを受けて各局は、指摘されたコーナーの放送を中止した。
- 24 -
この見解発表から放送中止に至る続く一連の動きについて、青少年委員会には多
くの意見が寄せられた。そのうち9割以上が「おとなの判断の押し付けで、お笑いと
いうものへの理解が足りない」「これらの番組が青少年に悪影響を与えるとは思え
ない」「番組内容が悪いと思うなら親が指導するべきで、放送中止はおかしい」な
どの反対意見だった。少ない賛成意見は、30代以上の人からのものが多かったとい
う。
こうした反響は、世論をそのまま反映しているというわけではない。しかし、ど
んな表現が有害なのか、あるいはそもそもテレビが青少年に悪影響を及ぼすのかに
ついて、広く社会的合意が得られていないことは事実だろう。特に世代的な意見の
食い違いは大きいと思われる。インターネットと電子メールが普及した現在、誰で
も自分の意見を放送局や青少年委員会などに送りやすくなっている。こうしたメデ
ィアを通じて、放送と青少年の関わりについて広く活発な議論が行われることが期
待される。
メディア・リテラシーの取り組みについては、放送機関自身による、子ども向け、
教師・親向けの多様な番組やビデオ教材の開発、子どもや学校への制作体験の場の
提供などが行われてきた。郵政省では「専門家会合」の終了後「放送分野における
青少年とメディア・リテラシーに関する調査研究会」を開催して、メディア・リテ
ラシーの実践へ向けた環境整備の検討を進めた。こうした経緯もあり、近年、放送
機関では、メディアや教育の研究者や、学校現場と協力して、さらに学校向けのメ
ディア・リテラシー教育用の番組の充実と、具体的な授業事例や授業用教材を紹介
するホームページによる情報提供にも力を注いでいる。また、子どもが制作体験を
通してメディアのもつ多様なメリット・デメリットを学びながら、情報を批判的に
読み解く能力を養うことについても、多様な機会を設けている。これらの取り組み
は、メディア・リテラシー教育の意義を広く社会に伝え、実践の普及にも貢献して
いるといえよう。また、放送のプロフェッショナル自身も、子どもたちから新鮮な
刺激を受けて、映像文化の担い手としてのメディア・リテラシー向上の重要性を再
確認する機会となっている点も重要と思われる。
2
テレビゲーム
近年出現してきた新しいメディアの中でも、テレビゲームは特に子どもへの影響
が強く懸念されてきた。代表的な業界団体として、平成8(1996)年に設立された社
団 法 人 「 コ ン ピ ュ ー タ エ ン タ ー テ イ ン メ ン ト ソ フ ト ウ ェ ア 協 会 ( Computer
Entertainment Software Association:CESA)」がある。平成13(2001)年現在、会員数
- 25 -
は201社(うちゲーム制作会社が約140社)にのぼり、市場にでているソフトウェア
の9割近くをカバーするという。
CESA では平成9(1997)年に「コンピュータエンターテインメントソフトウェア倫
理規定」を制定し、「差別的表現および名誉毀損的表現」「性的表現」「反社会的
な行為、暴力および犯罪についての表現」について自主的な規制を求めている。よ
り慎重な検討が必要と思われるソフトについては、会員各社は任意の判断で CESA
に提出し、審査を受けることとなっている。発売ソフト中に4∼5%について審査の依
頼がなされるという。
さらにゲーム機の性能の高度化に伴い「表現のリアル化」という新たな問題が浮
上してきたことから、平成11(1999)年には倫理規定を一部改訂。暴力表現に関する
規定を細分化し、新たに「購入前の注意喚起を要する区分」として B 区分を設定、
パッケージの前面に「注意喚起マーク」の印刷を義務づけた。A 区分はこうした必
要がないものであり、C 区分は発売禁止が勧告される。平成12(2000)年の B 区分は
20本で、発売された全タイトル中の1.43%であった。
以上のように、発売されるテレビゲームの大多数については現在、業界団体 CESA
による自主規制と任意審査に基づくレイティング(格付け)が行われている。保護者
が子どもの買うゲームソフトのパッケージに十分に注意を払うことで、刺激の強い
暴力描写などの入ったタイトルを避けることができるよう配慮されているのである。
ゲームソフトは、雑誌のように嫌でも表紙が目に付くというわけでもないし、中
身が自然に目に入ってしまうということはほとんどない。もちろん親が購入を許可
しなくても(あるいは許可しないゆえに)、友だちに借りてしまうといったことも
大いにありうる。しかし、ゲームのプレイ時間なども含め、こうしたことも親の指
導範囲であろう。子どもが有害な情報に接触する可能性を完全に排除するため、現
行の B 区分に当たるようなゲームソフトを全面的に発売禁止にするといった措置は、
やはり行き過ぎと思われる。総体としてみれば、パッケージ前面に注意喚起マーク
をつけたうえで、あとは保護者の判断と家庭での指導に任せるという CESA の方針
は、穏当な方法といえよう。
他方で、ますますリアルさを増していくテレビゲームが子どもに与える影響につ
いて、多くの親が不安を抱いていることも事実である。現在は CESA による自主規
制が中心だが、テレビにおける「放送と青少年に関する委員会」のように、ゲーム
の作り手とユーザーの間をつなぐ場を設けることも視野に入れるべきかもしれない。
そのうえでより細かいレイティングを求めていくという方向性もあろう。
なおパソコンのアダルトゲームに関しては、コンピュータソフトウェア倫理機構
という別の機関により18禁指定が行われ、青少年は購入できない。これについては
- 26 -
ビデオや雑誌についてと同様、購入時の身分証明書の提示の徹底などをはかってい
くべきだろう。
3
インターネット
実社会において違法なことはサイバースペースでも違法というのが、グローバル
な大原則であることはいうまでもない。しかし、国境を越えて無限に広がるインタ
ーネットは、国家機関による法的規制が極めて困難なメディアである。
サイバースペース内にはびこる有害な情報のうち、ポルノなどの猥褻情報に関し
ては、平成11(1999)年4月に風俗営業適正化法(風営法)の改正案が施行された。
これにより、インターネットを利用してポルノ映像を有料で提供する事業者は公安
委員会への届け出が義務づけられ、また18才未満の青少年への提供が禁じられるよ
うになった。
しかし、この改正風営法による取り締まりも、現実には様々な困難がある。まず、
年齢確認の方法が明確でないこと。これと関連して、個人情報の流出という問題も
ある。アメリカでは平成10(1998)年に「子どものオンライン保護法(COPA)」が議
会を通過し、ポルノサイトに対して、ユーザーが18才以上であることの確認が義務
づけられた。この法に対しては民間団体が、言論の自由の侵害として違憲訴訟を起
こしており、現在最高裁で審理中である。だが、いったん施行された時、多くのサ
イトはクレジットカード番号などの入力を求めるようになり、結果として膨大な個
人情報が収集されることとなった。また青少年が保護者の名前とカード番号を黙っ
て使用する、といった問題も多発したという(ジェニングス/フィーナ著、荒木ゆ
りか訳『あなたの情報はこうして盗まれている』、翔泳社)。もう1つの問題点は、
無認可事業者の存在である。警察や民間のボランティア組織が巡回を行っているが、
夥しい数に上るサイバースペース全体を十分に監視するのは困難である。
さらに暴力描写や残虐な画像などに関しては、法的規制はほぼ不可能といえる。
従って、青少年をインターネット上の有害な情報からある程度でも守るためには、
フィルタリング※6という方法が中心とならざるをえない。
有害な情報を遮るフィルタリングを行うためには、前提としてそのサイトを何ら
かの仕方でレイティング(格付け)しておく必要がある。代表的なレイティング方法
フィルタリング:インターネット上の情報を、受信者が設定するレベルに合わせて選択的に受
信すること。例えばわいせつな画像を子どもに見せたくない場合に、ソフトを使ってその情報を選び、
ホームページ等の閲覧を制限すること。
※6
- 27 -
に、アメリカの非営利団体 RSAC(The Recreational Software Advisory Council:RSAC
=娯楽ソフト諮問会議が制定した、RSACi(Recreational Software Advisory Council on
the Internet)がある。これは「ヌード」「セックス」「暴力」「言葉」の4つのカテ
ゴリーについて、予め決められた基準に従い、5段階(レベル0∼4)で格付けする
ものである。しかし、実際にはこうした数値化はなかなか難しく、時間もかかる。
そこで最近では、平成10(1998)年に RSAC を吸収合併した国際的なレイティング団
体 ICRA(Internet Content Rating Association =インターネット・コンテント・レイテ
ィング協会)が、キーワードを羅列する方法を開発した。
日本では、代表的な業界団体である財団法人「インターネット協会」(平成13(20
01)年現在で大手プロバイダなど277社が法人賛助会員として参加)が、RSACi をベ
ースとした SafetyOnline という独自の基準によりレイティングを行っている※7。検
索エンジンを用いた非適切語と画像認識の両方で自動的にレイティングし、最後に
人間がチェックするという方法で、既に数十万のサイトが入力済みとなっている。
同協会は、これらのデータに基づき、さらに ICRA 基準にも対応したフィルタリング
ソフトを無償配布している。またこうした特別なソフトを使用しなくても、インタ
ーネット・エクスプローラには、フィルタリングがかかるようパスワードつきで設
定できる機能が備わっている。
しかし、フィルタリングソフトは、現状では選ばれた単語、語句で検索される結
果、有害な情報とそうでない情報とが区別されない場面が多々生じているという懸
念もある。また、フィルタリングによる有害な情報のスクリーニングは、現時点で
はまだ広く普及しているとはいえない。インターネット協会を初めとする業界団体
には、フィルタリングの精度をより向上させると共に、多くの親たちが利用できる
よう、いっそう啓蒙活動を強化することが期待される。また IT 講座などにフィルタ
リングに関する情報を組み込むことも必要であろう。
以上のように性や暴力に関わる有害な情報については、現時点でも法的・技術的
にある程度の対応が可能だといえる。しかし、これ以外にも、例えば出会い系サイ
トなど、多くの親が子どもにむやみに触れてほしくないと思う反面、外的な規制が
難しい種類の情報はたくさんある。やはりテレビゲームと同様、インターネットに
ついても、親が子どもの年齢に応じて指導性を発揮し、しっかりした価値観とメデ
ィア・リテラシーを育成することが最終的にはもっとも大切であろう。
※7
インターネット協会では、インターネット利用のためのルール・マナー集を作成し、子どもが
インターネットを利用する際に、保護者や教師が気をつけるべきことや、子どもを指導するための情
報を提供するなど、メディア・リテラシーの育成にも努めている。
- 28 -
4
携帯電話
携帯電話の普及率は全人口の50%を超えた。こうした状況では、子どもに「なけれ
ば友だちづきあいに支障をきたす」などと言われると、親としては持たせないとい
うやり方を貫くのはなかなか難しいだろう。
平成11(1999)年に i モードが発売され爆発的にヒットして以来、携帯電話もインタ
ーネット接続サービスに対応した機種が主流となっている。ケータイからアクセス
可能な出会い系サイトも増え、それらを通じて知り合った男女間に起きた様々なト
ラブルや犯罪も報道されている。また出会い系サイトを含めたネット上の事業者が、
勝手に携帯電話に広告などを送りつけてくる迷惑メールが一時極めて多く、社会問
題となった。
この迷惑メール問題については、経済産業省による平成14(2002)年2月からの特
定商取引法施行規則の一部改正により、事業者が承諾を得ていない消費者にメール
を送る際、冒頭に広告等であることを示す文字列の表示と、本文に受信を希望しな
い旨を通知する連絡先を表示することが義務づけられた。さらに同省は、消費者が
通知を送ってもメール送付を止めない悪質事業者に対して業務停止命令や罰金など
の罰則を課すことができるよう、特定商取引法改正案を同年3月国会に提出した。
この措置は前進ではあるが、受け取り拒否の意思を通知する以前に、最初の迷惑
メールを受け取ってしまうことは避けられない。冒頭に付けられた広告の表示を目
印に、あらかじめこうしたメールを受信しないようにできる設定を携帯電話や PHS
に組み込むことはできないだろうか。業界の積極的な自主的対応を期待したい。
- 29 -
第5章
1
メディア・リテラシーと法的地位
子どもの知る自由、通信の自由等との関係
(1)
情報から子どもを隔離する意義
パソコン、携帯電話等通信機器と情報の氾濫、そして、子どもの健全な成長発達
と「規制のあり方」については、主に、通信機器の販売事業者、いわゆる有害な情
報の提供者、プロバイダー等情報提供を仲介する事業者(以下「事業者」という)
との関係が議論されてきたといえる。
しかし、情報提供の制約、通信機器等の情報端末機器の販売の制約は、反面では
子どもに対する情報からの隔離でもあり、その観点から法的に検討することが必要
である。
子どもの立場からの「規制(制約)」の意義については、憲法上の「表現の自由」
「知る自由」(憲法21条1項)「通信の自由」(同法21条2項)、また「教育を受ける権
利」(同法26条2項)「幸福を追求する権利」(同法13条)との関係について検討されな
ければならない(なお、子どもが「健全に成長発達する権利」は、教育を受ける権利、
幸福を追求する権利の具体化された権利であるともいえる。)。
また、この検討は事業者に対する規制の法的根拠、メディア・リテラシーとの関
係を明らかにすることにもなる。
(2)
裁判例にみる子どもの「知る自由」の制約
子どもの「知る自由」に関連していくつかの参考となる裁判例がある。
ア
最高裁平成元(1989)年9月19日第三小法廷判決
本件は、岐阜県青少年保護条例による有害図書の販売規制について関する判例で
あるが、その判決の中で補足意見(伊藤正巳裁判官)は、「青少年」の権利性に関
連して次のとおり指摘している。以下は、その骨子である。
①
知る自由の保障は、提供される知識や情報を自ら選別してそのうちから自らの
人格形成に資するものを取得していく能力が前提とされている。
②
青少年は、一般的にみて、精神的に未熟であって、①の選別能力を十全には有
しておらず、その受ける知識や情報の影響を受けることが大きいと見られ、成人
と同等の知る自由を保障される前提を欠く。
③
したがって、青少年の持つ知る自由は一定の制約を受け、その制約を通じて青
- 30 -
少年の精神的未熟さから保護される必要がある。
④
この保護を行うのは第一次的には親権者その他青少年の保護に当たるものの任
務であり、それが十分に機能しない場合も少なくないから、公的な立場からその
保護のために関与が行われることも認められなければならない。
として、「青少年」の知る自由の制約の根拠を説明している。
この補足意見では、知る自由を制約する根拠のほか、知る自由の保障の前提とし
て子どもには備わるべき「能力」が必要であること、子どもの成長発達には親権者
のほか公的立場からの関与が必要であることを指摘している。
イ
福岡高裁宮崎支部平成7(1995)年3月1日判決
本件は、宮崎県青少年育成条例に基づいて某コンピューターソフトを含むフロッ
ピーディスクを有害図書に指定したことについて判示したものである。
判決の骨子は以下のとおりである。
①
表現の自由は、心のはたらきをもった人間としての存在に関わる本質的部分で
あるから、基本的人権として尊重されなければならないところであり、青少年に
ついて、この自由は尊重すべきである。
②
青少年は身体的、精神的成長期にあり、その時期に青少年に対してさまざまな
知識、情報に接する機会を保障することは、青少年が健全な精神を養い、責任あ
る思考・行動をとることができる成人に成長するためにきわめて重要である。
③
青少年に対しては、成人とは異なった特別の法的保護をすることも必要であっ
て、法が児童の酷使を禁止し(憲法27条3項)、教育を受ける権利を保障し(同法26
条2項)、民法、刑法、少年法その他の諸法において特別の措置を講じているのも、
身体的、精神的に未成熟な青少年の健全な発達を促すとともに、その発達を阻害
する要因を排除する趣旨から出たものである。
④
規制は、事業者の営業の自由、表現の自由、親権者らの青少年に対する監護、
教育の権利等を踏まえた上で、青少年の知る権利と青少年の保護育成とを調整し
た必要最小限度の規制をする趣旨であり、その運用において違憲、違法となるこ
とはあるにしても、規制そのものは違憲とはいえない。
この判決では、身体的、精神的成長期にある子どもに対してさまざまな知識、情
報に接する機会を保障することは、子どもが健全な精神を養い、責任ある思考・行
動をとることができる成人に成長するために極めて重要であるとしつつ、身体的、
精神的に未成熟な青少年の健全な発達を促すとともに、その発達を阻害する要因を
排除するために、必要最小限度の規制は已むを得ないとしている。
- 31 -
ウ
このように、裁判例においては、子どもは、一般的にみて精神的に未熟であっ
て、提供される知識や情報を自ら選別能力を十分には有しておらず、その受ける知
識や情報の影響を受けることが大きいとみられ、成人と同等の知る自由を保障され
る前提を欠くことから、子どもの持つ「知る自由」は一定の制約を受け、その制約
を通じて子どもはその精神的未熟さから保護される必要がある、とされている。
(3)
メディア・リテラシーは子どもの「知る自由」等の自由、子どもの成長発達権
を確保するための有用な能力であること
現代社会においては、情報端末が隅々までいきわたり、家庭内において親の目の
行き届かない場所で、子どもは氾濫する情報の中にいて、かつ情報のやりとりをし
ている。このような社会の中で、親の立場としても、子どもに通信機器等を与える
ことの利便性、必要性に迫られている状況がある一方で、子どもに対して監護権を
十分に行使し得ない状況があり、また、「能力」を具備しない精神的に未熟な子ど
もが氾濫する携帯電話を使った犯罪に巻き込まれるという状況が出現している。
このような社会生活の中で、子どもに「能力」が備わっていないとして「知る自
由」を制約しつつ、「知る自由」を享受できる前提となる「能力」についての教育、
指導をしないままに、氾濫する情報の渦中に子どもを放置することはまったく無責
任であり、また、子どもの健全な成長発達権(「教育を受ける権利」)の観点から
も疑義がある。
むしろ、このような社会においては、家庭、公的機関は、子どもの情報へのアク
セス、その手段としての通信機器の使用を制約することの担保として、子どもが
「能力」を具備し、知る自由を成人と同様に享受するための教育をより積極的に進
めることが大前提となっているといえる。
前記裁判例においても、メディア・リテラシーという用語は使用されていないも
のの、「知る自由の保障は、提供される知識や情報を自ら選別してそのうちから自
らの人格形成に資するものを取得していく能力が前提とされている」(前記判決ア
①)として、知る自由を保障する前提としての「能力」の必要性を認めている。
メディア・リテラシーの概念を踏まえると、この「能力」はメディア・リテラシ
ーそのものであるともいえる。
このように、メディア・リテラシーとその教育は、子どもにとっては「能力」が
ないとして制約される「知る自由」等の制約から解き放たれるための機会であり、
また、自らがこれらの自由の享受と健全に成長発達する機会を確保するための機会
であり、法的にも「知る自由」等の自由、子どもの成長発達権を根拠とする意義の
ある概念として位置付けられる。
- 32 -
2
法規制と自主規制そしてメディア・リテラシー教育
(1)
ア
法規制
法規制の流れ
情報の提供者に対しての法規制としては、刑法(わいせつ物の陳列販売等に関す
るもの)のほか放送事業法等がある。
(放送事業法)
テレビ等の放送事業について定めたものであり、3条2第1項では、
「放送事業者は、国内放送の放送番組の編集に当たっては、
①
治安及び善良な風俗を害しないこと
②
政治的に公平であること。
③
報道は事実を曲げないですること。
④
意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明ら
かにすること
が定められ、これに基づき、放送事業者は、放送基準を作り、自主規制を行って
いる。
しかし、この法律は、インターネット等の通信に関して適用されるものではない。
そのため、インターネット等による通信を利用した情報の提供について、現在、次
のような立法がなされている。
(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風俗営業法))
平成10(1998)年に改正された風俗営業法は、「映像送信型性風俗特殊営業の規制」
の項目(31条の7以下)を設け、
①
映像送信型性風俗特殊営業を営む者は、18歳未満の者を客としてはならないこ
と
②
映像送信型性風俗特殊営業を営む者が、当該営業に関して、この法律または
この法律に基づく命令、条例に違反したときは、当該違反行為が行われたとき
における事務所の所在地を管轄する公安委員会は、善良の風俗、清浄な風俗環
境を害する行為、少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため必要な
指示をすることができること。
③
映像送信型性風俗特殊営業を営む者が、18歳未満の者を客とした場合、公安委
員会は映像送信型性風俗特殊営業を営む者に対して18歳未満の者を客としないた
め必要な措置をとることができること、
- 33 -
等を定めるとともに、映像送信型性風俗特殊営業を営む者に自動公衆送信装置
を提供している、いわゆるプロバイダーに対して、わいせつ画像の発信を防止
するための措置を講ずるように努力義務を定めた。
また、同法は、都道府県風俗環境浄化協会を都道府県に一つ、全国風俗環境浄化
協会を全国に一つ指定することができるとし、善良な風俗の保持及び風俗環境の浄
化並びに少年の健全な育成を図ることを、いわば映像送信型性風俗特殊営業を営む
者が自主的に行うよう定めている。
(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律)
いわゆる「児童買春、児童ポルノ禁止法」である。児童買春、児童ポルノに係る
行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童
(18歳未満)の保護のための措置等を定めている。
同法では、国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの頒布等の行為が児童
の心身の成長に重大な影響を与えるものであることにかんがみ、これらの行為を未
然に防止することができるよう、児童の権利に関する国民の理解を深めるための教
育及び啓発に努めること、国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの頒布等
の行為の防止に資する調査研究の推進に努めることが義務付けられた(14条)。
(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法
律)
平成13(2001)年11月成立した法律であり、いわゆる「プロバイダー法」と呼ばれ
ている。この法律は、インターネット上において流された特定個人の権利を侵害す
る情報に関して一定の範囲でプロバイダーの責任を明確化し、損害賠償責任を認め
たもので、行政による「表現の自由」等の制約という議論を回避し、特定の情報に
よって権利侵害を受けた個人との利害調整を図っている。
このように、インターネット等の通信を利用して子どもの権利を侵害するような
行為については、多方面から法規制が整理されつつあるといえるが、表現の自由と
の調整も難しく、事業者に対しては、子どもの健全な成長発達の観点から自主規制
が求められるところである。
イ
海外の流れ
米国では平成8(1996)年電気通信法で 平成12(2000)年1月1日までに、13インチ以
上のテレビにいわゆるVチップを内臓することをメーカーに義務づけた。また、こ
れにともなって、放送事業者に対しては自主的に番組のレイティングを行うことを
求めている。
また、「児童オンラインプライバシー保護法(Children's Online Privacy Protection
- 34 -
Act (「COPPA」))」が平成12年(2000)年4月21日から施行されている。
この法律は、商用ネットによる13歳未満の子どもの情報収集に関するもので、
①
インターネット上で子どもより入手した子どもの個人情報の収集、使用、公
開における不当あるいは詐欺的行為や活動を禁じ、
②
情報の収集、利用、公開以前に保護者の承認を得ること、
③
保護者の要請を受けた場合、子どもより収集した個人情報の閲覧を許可する
こと、
④
子どもがオンラインでのゲーム、賞品、その他の活動へ参加する際に行なう
個人情報の収集を、その活動に妥当な範囲に限定すること、
⑤
子どもより収集した個人情報の機密、保障、保全を維持する手段を確立する
こと、
等を定めている。
これにより、商用サイトによる13歳未満の子どもへのアクセスが制約されること
になった。また、この法律を受けて、米国において有力なプロバイダー事業者は、
インターネットへの入会登録手続等において年齢のチェックを行いはじめていると
のことである。この法律は、子どものインターネットの使用と商用ネットによる制
約を保護者の監護の下に置くことで、子どもの保護を図ったものであり、保護者の
監護権がどのように機能するかが問われているともいえる。
(注)この法律と同時に成立した児童オンライン保護法(COPA)は、インター
ネット上における一定のわいせつ表現については未成年に有害な内容にあた
るとして、未年者によるアクセスを制限することなく、商用目的で公開した
場合は、5万ドル以下の罰金、6か月以下の禁錮、および社会奉仕活動が科
されることになっていた。しかし、平成12(2000)年6月22日、連邦控訴審裁判
所は、この法律を米国憲法修正第1条(言論の自由条項)に反すると判断し
た。現在、上告審において審理がなされている。
欧米では、いわゆる迷惑メール等の規制方法として、いわゆる OPT-OUT(受信者
が特定の情報発信者に対して受信拒否手続きをとった場合、以後情報の発信を禁止
する)、もしくは OPT-IN(受信者が発信者に対して登録、同意をした上で初めて情
報を送信するもの)を立法化して、インターネット上のメールのやりとりについて、
携帯電話、パソコンの所持者の側が入手する情報を管理できるようにしている。
EU諸国では、OPT-IN が有力になってきているということである。
(2)
ア
メディア・リテラシーの有用性
子どもとメディア・リテラシー
- 35 -
子どもの健全な成長発達にとって、「知る自由」は重要な権利であり、メディア
・リテラシーは、「知る自由」を享受するための重要な能力である。
子どもに「能力」が備われば、「表現の自由」等の自由との調整、規制のあり方
も異なってくると思われる。
また、メディア・リテラシー教育は、子どもの健全な成長発達を確保するため、
「知る自由」を享受するために重要なシステムであり、いわゆる「有害情報」との
かかわりにおいては、個人情報の第三者への漏洩、「有害情報」の垂れ流し等が無
責任になされていることに対する防衛でもあり、行政は、その教育システムの構築
に向けて努力しなければならない。
イ
事業者とメディア・リテラシー
子どものメディア・リテラシーは年齢に応じて異なる。また、氾濫する情報は、
日々開発される通信機器を介して地域、国境を超えてやりとりがなされている。
子どもの「知る自由」、「通信の自由」等そして「健全な成長発達」の観点から、
そもそも「有害情報」とは何か、「有害」「無害」の基準は何か、「グレーゾー
ン」はあるのかないのか、また「有害」な情報なるものは、従来から問題とされて
いる性描写、暴力的描写ばかりでなく、さまざまな形の情報が想定される。
また、このような情報の氾濫に対する法的規制のあり方は、多方面からの価値観、
表現の自由、通信の自由等の権利、利害関係が複雑に絡み合っており、単純に「子
どもの健全育成」という観点のみを根拠として規制を理由づけることはできない。
このように、規制がなされていない分野、行政による規制の難しい場面において
は事業者の自主規制に期待しなければならない。(資料参照)
しかし、事業者がメディア・リテラシーの意義を主体的に受け入れ、さらに協力
体制を確立するためには強い動機付けが必要となる。
事業者の自主規制の動機付けとして参考になるのは、平成13(2001)年11月成立し
たいわゆるプロバイダー法である。この法律をきっかけにして、プロバイダーは、
特定個人に対する誹謗中傷等の情報による損害賠償義務の発生を防止するために、
自主的に情報の管理を強化し、インターネットの利用者に対しての監督、メディア
・リテラシー教育を実施する必要性に迫られている、といえる。
ちなみに、前に紹介した COPPA は、保護者の立場を明確にし、プロバイダーに保
護者の子どもへの監護権を侵害するような情報の収集、利用、公開を規制した結果、
プロバイダーに13歳未満の子どもの会員登録を停止するという自主的な手法をもた
らしている。
このように、行政による法規制の形をとることなく、情報の提供者と仲介役であ
- 36 -
るプロバイダーと受領者の間における利害調整という観点から、個人情報を管理す
る事業者に情報の管理義務を明確にし、損害賠償義務等の経済的リスクを負わせる
などすることによって、結果として、事業者において自主的規制が行われるよう働
きかける手法も有用であり、むしろ、極めて正常な社会内における調整作用である
と思われる。
3
規制以前のおとな社会のあり方とメディア・リテラシー
表現の自由等に対する法規制は、必要最小限になされなければならず、最終の手
段である。
しかし、表現の自由、営業の自由を享受するおとな、業界の姿勢は、「能力」を
具備していない子どもの心身に大きな影響を与えていることは確かであり、おとな
社会、業界の子どもに対する社会的責任は重く、この責任の実行は法規制以前の問
題である。
テレビに流れるCMは、「売上を至上」としてパソコン、携帯電話の便利さを殊
更にアピールし、氾濫する情報とその利用のリスクについて知らせることがない。
家庭は、パソコン、携帯電話等の通信機器を介して氾濫する情報を管理できず、子
どもに対する監護能力に不安が生じている。
子どもの健全な成長発達を阻害するような逸脱したおとな、業界の行為が許され
ないことは当然のこととして、メディア・リテラシーとその教育は、このようなお
とな社会や業界の姿勢、そして社会的責任のあり方を、「規制」という方法論にか
かわらず、「規制」とは異なる観点から問うものと言える。
メディア・リテラシーとその教育は、子どもの健全な成長発達とその大前提とな
る「知る自由」を確保する道を探る上において、おとな社会のあり方をも示唆する
極めて有用な概念である。
- 37 -
第6章
提言−メディア社会の「生きる力」を求めて−
電子メディア化はこれから先、急テンポで、しかも広範囲に進んでいこう。それ
だけに、青少年が電子メディアの渦に巻き込まれる可能性が高まるとも考えられる。
電子メディアの中での成長は、これまで経験をしていない状況だけに、電子メディ
アと青少年との距離をどうとっていくのかは、これから先の重要な課題となろう。
このような状況にある現在、①青少年のメディア・リテラシーの育成がなにより
重要になるが、それと同時に、②実体験の拡充を図って、電子メディア社会が陥り
やすい状態を解消することも大事になる。その一方、現実的な対応として、③有害
な情報への対応を配慮することも必要になる。そうした状況の中では、④青少年と
メディアに関する情報提供の充実が緊急の課題となる。もちろん、電子メディア化
は社会全体に浸透するので、⑤これまでの青少年問題以上に、家庭、地域、学校、
事業者、行政はそれぞれの役割を果たしつつ、互いに連携をとって、問題に対処す
る体制作りが望まれよう。
1
家庭の役割
子どものしつけや教育を担うのは第一義的には親であり、家庭は子どもにとって
もっとも大切な成長の場である。自分の子どもにどのような情報を与え、または情
報から隔離し、どのような体験、経験をさせ、どのようなおとなに育てるのかは、
親としての責務であろう。もちろん、親たちの世代も、電子メディア化は未知の世
界であるから、判断に迷う場面も少なくないと考えられる。それだけに、親が当惑
し、しつけを迷う気持を理解できる。しかし、親として、電子メディア化にしっか
りとした考えを持たなければ、子どもも自分の頭で考え、情報を判断する力を持ち
にくくなる。そう考えると、子どものしつけを他人任せにせず、最終的な責任が親
にあることを自覚し、自信を持って子どもを育てて欲しいと思う。
(1)
保護者もメディアや情報について学び、子どものメディア利用を理解・把握し
てアドバイスできる能力をつける。
(2)
メディアへの判断力を高めるために、子どもと共にメディアについて考え、コ
ミュニケーションを図る。
- 38 -
(3)
子どもがインターネットや携帯電話など新しいメディアを利用する際には、そ
の便利さ、メリットだけでなくデメリットや危険性について、保護者も十分理解し、
注意すべき点も含めて説明する。
(4)
子どもの年齢に応じ、パソコンに有害な情報を排除するフィルタリングを組み
込んだり、携帯電話での迷惑メール対応の設定を図るなど不健全な情報から遠ざけ
る工夫をする。
(5)
家庭生活、日常生活の中で、体と五感を使った体験を豊かにするよう工夫する。
家事の手伝いをする、生き物を育てる、海や山など自然の厳しさを体験する、優れ
た芸術や文化にじかに触れるなど、メディア以外に様々な体験を積ませることによ
り、リアルとバーチャルの混同といったことを阻止する。
(6)
インターネットなどの匿名性、非対面性のあるメディアによるコミュニケーシ
ョンもスムーズに行うことができるようにするために、ボランティア活動や地域で
の体験活動に親子で参加し、異年齢の子どもや高齢者、障害者など多様な人たちと
接する。親自身が積極的に地域へ出て行くことで、子どもも自分から参加していく。
相手の立場を考慮するといったモラルを、実体験でいろいろな立場の人との人的交
流することにより身につけさせる。
2
地域の役割
地域は、子どもが年齢の異なる子どもやおとなとの付き合いを通じて、社会性を
身につける重要な場といわれてきた。しかし、東京の場合、子どもたちの放課後は、
学習塾やけいこ事に通う子どもと自分の部屋にこもる子どもとに分断され、地域に
遊び戯れる子どもの姿を見かけなくなった。地域は、子どもの生活の場としての機
能を喪失している。しかし、このところ、地域で何らかのボランティアや子どもの
育成に関わりたいという意欲を持つ人が増加している。経済企画庁の「国民生活選
好度調査」(平成12(2000)年)によると、「今後ボランティア活動に是非参加して
みたい」「機会があれば参加してみたい」と回答した人の割合は、合計で65%であ
り、そのうち、17.6%の人が、「青少年の健全育成活動」に参加したいと回答して
いる。平成14(2002)年4月から学校が週5日制に移行し、子どもが家庭や地域で過
ごす時間が増える。それだけに、子どもの育成に地域が果たす役割が増すと考えら
れるので、電子メディアの問題についても、地域での取り組みに期待するものは多
- 39 -
い。
(1)
子どものメディアへの接し方や、情報の選択、判断能力、活用の方法など、社
会教育の場として学校の施設や機材を活用し、地域のおとなたち自身が子どもと同
じパソコンを使ってその便利さや情報の氾濫を体験する。
(2)
NPO等の民間団体においては、先進的な取組みも始まっているが、インター
ネットや携帯電話など新しいメディアの活用方法と利用に伴う危険について子ども
に教える研修会や、親子がともに楽しみながら学ぶ実践的なワークショップなどを
増やしていく。
(3)
大学等の研究機関は、情報、人材、設備の宝庫である。これからは、大学相互
で連携しながらメディア関係の施設を地域へ開放したり、メディア・リテラシーに
関する公開講座を開くなど、積極的に社会に対して開かれた活動を推進する。
(4)
子どもたちが立ち寄るコンビニエンスストアで、成人向けの雑誌が子どもが手
に取りやすいところに置いてあることはないか、また、アダルトビデオの自動販売
機が子どもの通るところにあるなど、地域のおとなが日頃から気を配り、行政への
情報提供や事業者への要請を行い、地域ぐるみで取り組んでいく。
(5)
子どもたちが、家にこもってテレビゲームで遊ぶばかりではなく、外にでて遊
ぶためのきっかけづくりも必要である。体を使って友だちとふれあう遊びを体験で
きるように、地域のイベントなどで、伝承遊びや新しい群れ遊びを体験できる機会
を積極的に提供する。
(6)
子どもたちが自分の目で社会を見て、世の中のことを学べるように、地域の商
店や会社などが積極的に子どもたちを受け入れ、体験学習の場を提供する。
3
学校の役割
学校における情報教育は、「情報活用能力」の育成を目標としている。情報活用
能力とは、「情報活用の実践力」「情報活用の科学的な理解」「情報社会に参画す
る態度」である。
学校教育では、「情報活用能力」の育成を通じて、メディア・リテラシー教育
- 40 -
(メディア学習)に取り組んでいる。体系的に子どもの教育を行うことができるの
は学校であり、メディア学習に学校の担うべき役割は大きい。それだけに、学校関
係者は、メディア・リテラシーを育てる中枢が学校であることを自覚し、リテラシ
ーの育成に工夫をこらし、努力して欲しい。
(1)
小学校、中学校では平成14(2002)年度から、高等学校では平成15(2003)年度か
ら、新学習指導要領が本格的に実施され、それぞれ「総合的な学習の時間」が導入
される。
「総合的な学習の時間」は、児童・生徒が自ら課題を見つけ、問題を解決する力
などの「生きる力」を育てること、情報の集め方、発表の仕方などを身につけ、問
題解決に向けての創造的な態度を育成すること、自分の考えや意見をもち、自己の
生き方について考えることができるようにすることをねらいとしている。
テーマや学習方法は、各学校が子どもたちの創意を生かしながら選択することに
なるが、メディアについて学ぶことは、子どもたちにとって重要なので、学習テー
マとして積極的に取り上げることが望まれる。
(2)
新学習指導要領の実施により、中学校では、技術・家庭科の「情報とコンピュ
ータ」が、高等学校では「情報」の授業が必修となる。これらの教科を活用する他、
諸外国の例にも多い国語やインターネット等のメディアが活用されるその他の教科、
また授業以外の委員会、クラブ・部活動などを通じてメディア学習を進めていくこ
とが期待される。
(3)
メディア学習の対象は、パソコンなどの新しいメディアに限定されない。日常
的なテレビの観察・分析を通じてメディアについて学ぶきっかけをつくったり、コ
マーシャル制作を体験しながらその意図を学ぶことや、同じ問題を取り上げた複数
の新聞報道を比較して、メッセージの違いを読み取ることも大切である。テレビや
新聞を含めた多様なメディアの特性を比較しながらその内容を理解したり、変容す
るメディア環境の全体像について学ぶことが求められる。
(4)
情報機器の操作の習得にとどまらず、メディア・リテラシーの育成として効果
をあげるためには、実践に適した教材が開発され、提供されることが必要である。
テレビ番組、ビデオ、ウェブ教材、CD−ROM、印刷物など、児童・生徒及び教
師向けの各種教材を活用し、先進的な教師の実践事例を参考にする。また、メディ
ア関連機関や研究グループ等が提供する様々なメディア体験学習の場を活用してい
- 41 -
く。
(5)
インターネットや携帯電話などの新しいメディアの利用が増えているため、青
少年がハイテク犯罪の被害を受けたり、加害者となることのないように、生活指導
のなかでメディアの影の部分についても学び、情報モラルを身に着ける指導が望ま
れる。これは子どもの生活全般に関わることであり、保護者に対しても情報を提供
して注意を呼びかける必要がある。
(6)
メディア学習の実践を通じて、児童生徒だけでなく教師も含め学校全体がメデ
ィア・リテラシーを身につけることで、学校自体がインターネット等で情報発信し、
地域的、年齢的な制約を超えた多彩な他機関との交流や連携を図ることが可能にな
る。また、障害のある児童・生徒や不登校の児童・生徒への教科指導などにも活用
が期待できよう。
(7)
メディア学習は新しい課題なので、教育界でも未開拓の領域に属する。特に、
学校の姿勢を、これまでの知識を伝達する形から、子ども自身が自発的に学習に向
かう問題解決型へ転換させる必要があろう。また、メディア学習を進めるためには、
指導法についても、教師がそれぞれ指導案を公表し、互いに意見を交換しながら、
試行錯誤を繰り返しつつ、質の高い実践を目指す態度が必要となろう。
それと同時に、メディア学習は個別、少人数(班学習)、学級のように多様な編
成で展開されるので、①個別学習や少人数学習に使える小さな部屋や資料室など、
従来の校舎とは異なる施設や設備が求められる。また、②学習の単位が小さくなる
と、担任だけで指導しきれないので、教員の増員が必要になる。さらに、③個別学
習を始めると、参考書や図鑑はむろん、パソコンなどの費用がかかり、①の施設、
②の人員など、これまで以上の財源の確保が必要になる。保護者やボランティアの
協力、学校開放等を通じた地域のおとなの参加・連携や学校評議員制の活用を図る
ことが必要であろう。
4
事業者の役割
メディア関係の事業者や団体は、青少年の健全な育成のために様々な取り組みを
行っている。本協議会の聞き取りの結果でも、事業者や関係団体の自己規制や、メ
ディア・リテラシー育成への取り組みが予想以上に意欲的に取り組まれているのが
分った。しかし、一部にはCM等で利便性のみを強調し、青少年への影響に対する
- 42 -
配慮が少ない事業者の行動も見られる。また、出会い系サイトにみられるように、
メディアによる情報が、意図から離れて、子どもに影響を与え、非行の誘引と見な
される事例も見られる。情報の制作者、仲介者やスポンサー等のメディアに関わる
事業者は、子どもが日常的に接する情報を提供する者として、その影響力と社会的
責任を自覚し、これまで以上に、積極的に社会貢献していくことが求められる。自
主規制が有効性を発揮できれば、それ以上の規制を求める声も薄れる。これまで以
上、影響力の及ぶ範囲を広げると同時に、事業者相互の連絡も密にして欲しいと思
う。
(1)
メディア事業者として、実態を把握したうえで、メディアの多様な可能性を生
かして、子どもの精神的な成長、発達、社会性の向上に資するような優れた番組、
ソフト、サイト等の開発と提供に努める。また、メディア学習に役立つ番組、ビデ
オ教材等を積極的に提供する。
(2)
メディア事業者や関係機関が、メディア・リテラシーの必要性を十分認識し、
多様な形で子どもたちのメディア・リテラシーを高める機会を充実させることが重
要である。子どもがニュース番組等の制作を体験したり親子で楽しみながら様々な
メディア製作に参加し、メディア関係者と直接交流しながらメディアの仕組みや役
割を理解し、活用する機会を増やしていくことが期待される。
(3)
インターネット上の有害な情報については、フィルタリングの精度をより向上
させるとともに、より多くの保護者が利用できるようにわかりやすく対応方法を知
らせる。コンテンツ提供者、プロバイダーやハード・ソフトウェア提供者等の関係
事業者、団体の一層の啓蒙活動が期待される。事業者が開催するIT講座などにフ
ィルタリングに関する情報を組み込むことも必要である。
(4)
携帯電話・PHSに一方的に送られる広告などの迷惑メールについては、法整
備や通信事業者による防止対策が進められているが、非行や犯罪の危険性から青少
年を保護する観点から、出会い系サイトなどのメールを受信しないようにするメー
ル送信事業者や通信事業者等の一層の対策強化が望まれる。
5
都への提案
都をはじめ、国、区市町村などの行政は、青少年とメディアとの健全な関わりを
- 43 -
保障し、青少年がメディア利用を通じて自律性や自主性を育てられるよう、また、
その一方で不健全な情報によってその成長を阻害されないよう、それぞれの役割に
応じて社会環境を整備する責務を負っている。具体的には、家庭、地域における子
どもの育成への支援、環境整備を行うとともに、事業者との連携を図り、必要に応
じて監視、指導を行なうなど幅広い活動が必要である。
都が自ら取り組むべき具体策について提案したい。
(1)
メディア・リテラシー育成のための具体的な実践プロジェクトを行なう。
子どもたちが、メディアの受け手としてばかりでなく、インターネット等を通じ
て自ら発信者としての役割も広がるこれからの時代、メディアから得られる多様な
情報をうのみにせず、自分で内容の真偽や価値を判断して適切な情報を集め活用し
ていく力を身につけるためには、メディアの情報がどのように作られ、提供されて
いるのかを体験を通じて考え、学んでいく必要がある。それは講義や説明を一方的
に聞くだけでは不十分なため、実際にテレビ映像を制作したり、ホームページをつ
くる等の実体験を通じて、メディアの情報には一定の意図をもった編集が伴うもの
であり、まとまったメッセージの発信のためには、不可欠なプロセスやルールがあ
ることを、試行錯誤しながら会得する必要がある。
都が実施したメディア環境調査にみられるとおり、子どもたちの様々なメディア
体験をイギリスやカナダ、アメリカのように学校教育にカリキュラムとして組み込
んだり、事業者や民間グループでの独自の取り組みが活発になされている国もある。
また、日本においても学校やNPO等の民間団体、研究機関、事業者・事業者団体
などでの先進的な取り組みが見られる。しかし、これらの取り組みはまだその緒に
ついたばかりで、広範な広がりを持って、多くの子どもたちが体験的にメディアを
学ぶ機会を持てる状況にはない。
そのため、都はメディア・リテラシーの育成に取り組んでいるこれらの団体等の
ノウハウや協力を得て、子どもたちが実際にメディア制作に参加、体験して創造性
を高めながらメディアを学ぶワークショップなどを実施し、その結果をカリキュラ
ム化、ビデオ教材化などして区市町村や学校等に提供し、取り組みを広めていくな
どの実践的なプロジェクトを行なう。この取り組み状況を、都の広報媒体を通じて
広く都民に周知することで、メディア・リテラシー育成の必要性や子どものメディ
ア体験の大切さについても都民の理解が深められる。
(2)
有害な情報についての対策を強化する。
都は、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」によって、ビデオ等を含む不
- 44 -
健全図書類の規制を行っている。このうち、青少年がアダルトビデオを購入するこ
とが周囲のおとなの目に触れにくい自動販売機については、平成13(2001)年7月1
日から、改正条例で自動販売機管理者を置いて、設置の届出をすることを義務付け、
青少年が容易に購入できないようにする措置をとる努力義務も定めた。業界におい
ては、18歳未満の青少年は購入できない旨の表示、マジックミラーの貼付、販売時
間の制限等の自主規制を行っているが、メディア環境調査によると、中学生にもア
ダルトビデオが浸透している可能性が否定できない。都は、青少年が簡単にはアダ
ルトビデオを購入できないように、事業者の自主的措置をより拡充するよう業界団
体に働きかけ、アウトサイダーも含めて、監視・指導を強化すべきである。
インターネット上の有害な情報については、(財)インターネット協会がポルノや
暴力を含むサイトについてレイティングを行い子どもには見られないようにするフ
ィルタリングソフトを無償配布したり、市販のソフトにもその機能があるなど一定
の取り組みがなされているが、必ずしもすべての有害な情報が排除されるわけでは
ない。フィルタリングの精度を向上させると共に、保護者に対して子どもが使うパ
ソコンへのフィルタリング設定方法をわかりやすく周知することについて、関係業
界に要請する。
携帯電話の迷惑メールについては、都は携帯電話販売事業者や通信事業者に対し
て、子どもが使用するための携帯電話を販売・利用提供する際には、出会い系サイ
トなど迷惑メール等によるリスクと受信拒否のための設定方法などの対策を保護者
に十分周知するよう要請すべきである。また、青少年が迷惑メールを受信しないよ
うにするフィルタリング等の技術的対応について、通信事業者による一層の開発促
進が必要であり、都としても青少年利用の実態を踏まえて要請していくとともに、
国へもルールの整備や事業者の取り組み促進のための一層の指導を提案していく。
(3)
「心の東京革命」をより一層推進し、実体験の拡充を図る。
便利なメディアに囲まれ、自分の部屋にこもってひとりで遊ぶばかりでは、友だ
ちとの付き合い方、身近なおとなとの良好な人間関係の築き方を学ぶことはできな
い。子どもの成長の過程では、メディアに触れてメディアを活用すると同時に、い
ろいろな人と交流する豊かな経験を積むことが必要である。また、バーチャルなも
のを現実と思い込むようなことがないように、仮想の世界と現実の世界との違いを、
生の体験を通して実感し、理解する必要がある。
都は現在、「心の東京革命」の推進に取り組み、子どもたちが自立した自己を確
立すると同時に、社会の一員として他者とのかかわり方を身につけられるように育
成することを目指している。そのため、子どもたちが社会の中でいろいろな人と交
- 45 -
流し、さまざまな経験・体験を積む機会の拡充を進めているが、メディア社会の進
展の中では、その取組が一層重要であり、さらなる事業展開が求められる。
子どもたちが豊かな体験をするためには、家庭、学校、地域社会が協力しあい、
地域ぐるみで取り組むことが必要である。町会、商店街、学校、PTAなどが協力
して、合宿通学や商店街での体験事業などを実施することにより、異年齢の子ども
やおとなとの交流、おとなの仕事の体験をすることできる。また、おとなと子ども
が一緒に参加する祭りの準備や練習活動、地域の団体等が主催するキャンプなどの
自然体験も、仲間との時間を共有して親睦を深め、子どもの感受性を育むことに役
立つ。これらの取組みは一部の地域で行われているが、これからより多くの地域に
広まることが期待される。
そこで都としては、先進的な取組みを行っている実践例の情報を収集して、事例
の発表会を行ったり、事例集としてとりまとめて配布することにより、取組みにつ
いての理解を深め、他の地域で取り組む際の参考としてもらえるようにすることが
必要である。また、これらの取組みがより活発に行われるように、地域の活動団体
等に対して支援していくことが求められる。
(4)
青少年とメディアに関する情報を提供する。
青少年とメディアとの関わりについて、青少年の利用実態や生活や意識への影響、
そこから派生する問題点や対応策などの情報が不足している。また、情報があって
も都民にはどこにあるのか分からない状況がみられるため、都は、ホームページ等
を通じて、充実した情報提供を行う必要がある。
内容としては、青少年とメディア利用の実態に関する調査等の情報のほか、各メ
ディア事業者や関係団体等で行われている青少年に向けての取り組みの内容を広く
周知することが必要である。保護者向けには、子どもがインターネットを利用する
際の注意や有害な情報を排除するフィルタリングの方法、携帯電話の迷惑メールを
受信しない設定の方法などの、子どもの保護対策が重要だろう。また、メディアと
青少年についての意見や、メディアの利用にかかるトラブルや苦情を受け付ける相
談窓口などについての情報が必要である。
学校や地域に対しては、メディア・リテラシー育成の先駆的な取組の実践例や教
材などを紹介し、取組みを行う際に役立つ情報を提供していくことが求められる。
事業者に対しては、青少年を保護するための規制内容などを周知し、その遵守を
促すことが必要である。
- 46 -
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