20 山形県医師会会報 平成28年11月 第783号 小児の肺炎マイコプラズマ感染症に対する抗菌薬療法 あかねケ丘あきば小児科医院 秋 場 伴 晴 肺炎マイコプラズマ感染症を臨床的に診断する のであり、山形県全域の状況を反映していると考 手段の一つとして、外来でも簡単に検査が実施で えられる。ところで、p1遺伝子型の1型と2型 き、しかも迅速に判定ができるマイコプラズマ抗 はほぼ10年ごとに規則的かつ排他的、すなわち、 遺 原キット(リボテスト マイコプラズマ)が保険 どちらか一方のみしか分離されない状態を繰り返 適用になり、 2013年9月に発売された。それ以来、 しているとされている。この現象が山形県でも起 当院でこのキットを用いて肺炎マイコプラズマ感 こっているとしたら、2型菌亜種が増加し始めた 染症と診断した15歳以下の小児の患者数は、2016 のは2012年であり、2022年頃まではこの型が主流 年9月末までの3年余りで328例に達した。このう を占めることが予想される。しかも、引き続きこ ち84例が後に再発症したが、本稿では、自験例に の型でマクロライド耐性遺伝子変異が検出されな おける初回診断時の治療成績を交えながら、肺炎 い状態が続けば、本県においては、当分は肺炎マ マイコプラズマ感染症の抗菌薬療法について考察 イコプラズマ感染症の抗菌薬療法にマクロライド する。 系薬は有効であると言える。 肺炎マイコプラズマ感染症の治療で用いる抗菌 次に、実際の臨床の場での現状を明らかにする 薬の第一選択薬として推奨されているのはマクロ ために、自験例328例の治療成績を、2013年9月 ライド系薬である 。近年、これに耐性を示す肺炎 から2015年2月までの前期の57例と2015年3月 マイコプラズマ株による感染が増えていることが から2016年9月までの後期の271例とに分けて検 1) 24) 問題になっているが 、一方では、マクロライド 討した。 前期は鈴木らの報告7)を知る以前の時期で、 系抗菌薬の耐性率は地域によって偏りがあるこ 抗菌薬として原則的にはマクロライド系薬のクラ 5) と 、また、耐性率は最近になって減少してきてい リスロマイシン(CAM)を第一選択薬とはしてい るとの報告 もみられ、地域の状況を見極める必要 たものの、最初からトスフロキサシン(TFLX) がある。 やミノサイクリン(MI NO)を投与した症例もあっ 山形県における最近の状況に関しては、2004年 た。それは、マクロライド耐性株による肺炎マイ から2013年までの10年間に山形県内の患者から コプラズマ感染症が増加しているという情報が頭 分離した肺炎マイコプラズマ株を対象にした山形 の中にあったため、発熱期間が長かったり咳嗽が 6) 7) 県衛生研究所の鈴木らによる研究 がある。それに ひどくて重症感がある症例に対しては、もしマク よると、肺炎マイコプラズマのp1遺伝子型は1 ロライド耐性株に感染していればマクロライド系 型および3種類の2型亜種に分けられ、2012年以 抗菌薬を投与しても症状は改善せず、患者がさら 前は1型菌が多かったが、それ以降は2型菌亜種 に苦しむことになるのではないかという憶測が働 の割合が増加し、2013年には66. 1%を占めていた。 いたことによる。しかし、鈴木らの報告7) を読ん さらに、p1遺伝子1型菌は高率にマクロライド でからは、現在の山形県においてはマクロライド 耐性遺伝子変異を保有していたのに対して、2型 耐性株による肺炎マイコプラズマ感染症はほとん 菌亜種からはその遺伝子変異は検出されなかった。 どないだろうと考え、後期では271例中270例に この研究に用いられた検体は、山形市、天童市、 CAMを、以前にCAMの服用ができなかった1例に はアジスロマイシン(AZM)をと、全ての症例に 米沢市および鶴岡市の医療機関から提供されたも 山形県医師会会報 平成28年11月 第783号 21 マクロライド系抗菌薬を投与した。投与量と投与 クロライド系抗菌薬以外のTFLXやMI NOを投与 日数は、CAMは15mg/ 日(最大1日量 400mg) kg/ することは、厳に慎まなければならない。 を10日 間、AZMは10mg/ 日(最 大1日 量 500 kg/ mg)を3日間であった。その結果、服薬開始から 48時間以上経っても解熱しなかったためにマクロ 文献 1)小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員 ライド耐性株の感染を疑って抗菌薬を変更したの 会:小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011追 は271例中6例、2. 2%であったが、最後の6例目 補版、 「小児肺炎マイコプラズマ肺炎の診断と治 は2016年1月に経験した症例で、それ以来、173 療に関する考え方」.平成25年2月19日 例連続で抗菌薬を変更していない。しかし、これ 2)Okada T, e :Rapi t al d ef f ect i venes s of ら6症例すべてがマクロライド耐性株に感染して mi nocycl i neordoxycycl i neagai ns tmacr ol i deasma pneumoni ae i nf ect i on r es i s t antMycopl i na2011out br eakamongJapanes echi l dr en. Cl i nI nf ectDi s55:1642~1649,2011 いたとは限らず、ウイルスなど他の病原体の感染 を合併していたことも考えられる。つまり、マク ロライド耐性株による感染は皆無であった可能性 もある。 3)小山千草、他:増加するマクロライド耐性マ 肺炎マイコプラズマに感染すると、病原体の名 イコプラズマ.日小児会誌 117:135~137, 称から多くは肺炎を起こすのではないかと思われ 張薬などの内服による外来治療で全例軽快してお 2013 4)KawaiY,e :Nat tal i onwi des ur vei l l anceof asma pneumoni ae macr ol i der es i s t ant Mycopl .Ant i nf ect i on i n pedi at r i c pat i ent s i mi cr ob Agent sChemot her57:4046~4049,2013 り、肺炎を来たした症例がいた可能性は否定でき 5)石黒信久:薬剤耐性の現状と抗菌薬治療.小 がちであるが、肺炎に至るのは約10%と言われて いる。自験例では肺炎の有無の検索は行っていな いが、前後期を通じて抗菌薬や鎮咳薬、気管支拡 ないものの、病院に紹介しなければならないよう な重症な症例はなかった。 いずれにしろ、山形県においては、現在は、マ 児科 56:785~792,2015 6)尾内一信:呼吸器感染症.小児科 57:755 ~760,2016 クロライド耐性株による肺炎マイコプラズマ感染 7)鈴木 裕、他:山形県で2004年から2013年の 症は極めて少ないと考えるのが妥当であり、抗菌 10年間に分離したMycopl asmapneumoni aeの マクロライド耐性遺伝子変異およびp1遺伝子 型解析.感染症誌 89:16~22,2015 薬はマクロライド系薬を第一選択薬とすべきであ る。以前にマクロライド系抗菌薬が服用できな かったなどの特別な事情がない限り、最初からマ
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