GaNパワーデバイスのインバータ応用

2010年6月24日 第8回 窒化物半導体応用研究会
GaN系電子デバイスの現状とその可能性
GaNパワーデバイスのインバータ応用
パナソニック株式会社
セミコンダクター社
半導体デバイス研究センター
上田哲三
講演内容
GaNインバータによる省エネルギー化
GaNパワーデバイス技術
z低コストSi基板上GaN結晶成長
zノーマリオフ化: Gate Injection Transistor (GIT)
GaNワンチップインバータIC
z集積化: Feイオン注入による高耐圧素子分離技術
zGaNインバータICの高効率動作
まとめ
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
インバータによる民生機器の省エネルギー化
家庭での電力消費内訳
衣類
乾燥機
2.8%
食器洗浄
乾燥機
1.6%
エアコン
その他機器
20.2%
温水洗浄
便座
3.9%
電気カーペット
4.3%
家電製品のインバータ化率
テレビ
9.9% 照明用
16.1%
出典:エネルギー白書
5%
インバータ
23%
インバータ
エアコン
25.2%
冷蔵庫
16.1%
冷蔵庫
ノン
インバータ
6000万台
ノン
インバータ
8000万台
■ 環境効果
グローバル市場でのインバータ化を促進
(エアコン23%→50%、冷蔵庫5%→10%とした場合)
120億kWh節電
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
8基の火力発電所相当
CO2換算すると,400万t削減
(日本の年間総排出量13億tの
0.3%相当削減)
インバータ搭載機器とノンインバータ機種の消費電力比較
ノンインバータ
インバータ
エアコン
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
年間消費電力(
1台当り)
年間消費電力(
1台当り)
3000kWh/年
1000kWh/年
ノンインバータ
インバータ
冷蔵庫
インバータ:省エネルギー化のコア技術
Gate Driver
Transistor
Fast Recovery Diode
■ インバータは6個のトランジス
タから構成される
Motor
■ トランジスタのスイッチングに
よりモータを駆動
Controller
AC
DC
AC
U-Phase
Motor
Current
U-Phase
V
-Phase
V-Phase
W-Phase
W-Phase
Motor
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
Inverter
GaNトランジスタによるインバータの高効率化
■ GaNトランジスタでは電圧オフセットがなくオン抵抗が小さいため、損失を大幅に低減可能
Si系インバータ
IGBT
ダイオード
FRD
IF
IR
IF
電流
電流
IR
モータ
IGBT
オフセット
VF
電圧
ダイオード
オフセット
VF
電圧
損失 = VF・IF + VF・IR
GaNインバータ
IF
GaN
トランジスタ
IR
電流
RON
電流
IF
RON
IR
モータ
電圧
電圧
損失 = Ron・IF2 + Ron・IR2 → 0
IF:駆動電流、 IR:還流電流
FRD:Fast Recovery Diode (高速リカバリダイオード)
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
GaNインバータによる損失低減予測
■ GaNインバータにより従来トランジスタと比較し大幅な損失低減が可能
電力損失の割合(%)
120
100
ダイオード損失
80
スイッチング損失
60
還流時
導通損失
40
オン時
導通損失
20
0
従来Si-IGBT
IGBT
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
GaN双方向SW
GaNトランジスタ
GaNインバータ実現に向けてのデバイス技術課題
低コスト化
z現状のSiパワーデバイスを置き換えるためには低コスト化が必要
zGaNデバイスでは基板コストが大きな割合を占める
大口径Si基板上への結晶成長
ノーマリオフ動作の実現
zAlGaN/GaNヘテロ接合においては分極のためアンドープでも
高いシートキャリア(~1x1013cm-2)が発生
zノーマリオフと大電流の両立が困難
新動作原理ノーマリオフデバイス(GIT)
ワンチップ集積化
zGaNトランジスタが横型かつ小面積であるという特長を活かすため
には集積化が望まれる
新たな高耐圧素子分離技術
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
GaNの結晶成長に用いられる基板
■ GaNでは異種基板上へのヘテロエピタキシャル成長を行う必要がある
■ 結晶性とコストにトレードオフが存在
■ Si基板はコスト・放熱の点で有望だが、これまではGaNの結晶性が課題
基板材料
基板価格比
(Si基板を1)
格子定数
(A)
GaNの
熱膨張係数
転位密度
(10-6/K)
(cm-2)
熱伝導率
(Wcm/K)
GaN
1600
3.19
5.45
105-106
2.2
SiC
100
3.07
4.20
107-108
4.5
サファイア
10
4.76
(2.74)
7.70
109
0.4
3.84
3.59
109 -1010
1.5
Si
1
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
Si基板上へのAlGaN/GaN構造MOCVD成長
■ AlGaN/AlN 初期成長層
■ GaN/AlN多層膜による応力緩和
MOCVD エピタキシャル構造
6インチSi基板上へのMOCVD成長
格子定数: Si>GaN>AlN
熱膨張係数: Si<GaN<AlN
GaN
圧縮歪
AlN
GaN
超格子バッファ層
応力緩和
AlGaN
AlN
Si(111)基板
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
■ 6インチ全面にて 鏡面・クラックフリー
■ 最大移動度 1653 cm2/Vsec
従来のノーマリオフ型AlGaN/GaN HFET
Charge distribution
-σAlGaN
σ : Fixed charge
NS(GaN)
>1x1013 cm-2
2DEG
-5.1x10-6 Ccm-2
-σGaN
-
2.9x10-6
+
Band diagram
+σAlGaN
5.1x10-6 Ccm-2
PSP(AlGaN)
ε 0ε AlGaN
σ = PPE ( Al xGa1− x N ) + PSP ( Al x Ga1− x N ) − PSP (GaN )
+σGaN
Ccm-2
O.Ambacher et al, J.A.P. vol.85, no.6, p.3222, 1999
従来のノーマリオフ化技術
PSP(GaN)
PPE(AlGaN)
„AlGaN薄層化、Al組成の低減
Schottky
metal
EC
ΔEC
EF
Al0.25Ga0.75N
qN s d AlGaN
N s = +σ / e − (ε 0ε AlGaN / d AlGaN e 2 )[eφb + EF − ΔEc ]
-2.9x10-6 Ccm-2
0
V p = φb − ΔEc − VAlGaN = φb − ΔEc −
GaN
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
PPE: Piezoelectric
polarization
PSP: Spontaneous
polarization
→ ドレイン電流の減少
オン抵抗増加
„MISデバイス、フッ素添加
→ 信頼性の確保
Fの安定性確認が必要
新規ノーマリオフ型GaNトランジスタ - GIT 断面構造
Gate
Gate Injection Transistor
(GIT)
Source
i-GaN
■ノーマリオフ化
p型ゲートによりチャネルの
伝導度変調によりオン抵抗低減
Energy [eV]
■低オン抵抗化
ホール注入
4
3
2
1
0
-1
-2
-3
-4
i-AlGaN
Gate
Ohmic p-AlGaN
i-GaN
ポテンシャル障壁増による
キャリア濃度減
EC
EF
EV
ホール注入、伝導度変調
+
-0.3
-0.2
-0.1
0
0.1
D e p th [u m ]
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
μh << μe
バンドダイヤグラム
ポテンシャル障壁を増加
p型ゲートからチャネルへ
Drain
p-AlGaN
i-AlGaN
0.2
0.3
0.4
GITの動作原理
ソース電極
ゲート電極
ドレイン電極
オフ
Vg = 0V
p-AlGaN
i-AlGaN
− −
− − − − − − −
P型ゲートがゲート下
チャネルを空乏化
電流が流れない
↓
ドレイン電流が流れない
i-GaN
ソース電極
ゲート電極
ドレイン電極
オン
p-AlGaN
+
+ i-AlGaN
− − − − − − − − − − − − − − − − −
+ + +
− − − − − −
電流が大量に流れる
ホールの移動速度 << 電子の移動速度
i-GaN
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
Vg > Vf of GaN-PN junction
ホール注入
↓
電子発生
↓
ドレイン電流増大
(conductivity modulation)
GITとMESFETのIds-Vgs特性比較
Ids (mA/mm)
250
100
100
Ids (GIT)
gm (GIT)
200
150
120
Lg=2µm, Lgd=7.5µm
80
Ids
(MESFET)
60
gm
(MESFET)
40
50
20
0
0
-3 -2 -1 0
ノーマリオフ動作
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
1 2 3
Vgs (V)
4
5
gm (mS/mm)
300
6
ホール注入により
2つめのgmピークが発生
400
400
Vgs=5V
Vgs=5V
100
1.0E-04
Vgs=0V
Drain Current Ids (mA/mm)
Ids (mA/mm)
Drain Current Ids (mA/mm)
Si基板上GITのDC特性
350
80
8.0E-05
300
300
4V
4V
250
3V
3V
200
200
60
6.0E-05
40
4.0E-05
150
2V
2V
100
100
20
2.0E-05
50
1V
1V
00
00
1
22
3
44
5
66
7
88
9
10
10
0.0E+000
0
0
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
400
400
600
600
Drain-Source
Vds (V)
VdsVoltage
[V]
VdsVoltage
(V)
Drain-Source
Vds (V)
・しきい値電圧 Vp
・最大ドレイン電流 Imax
・オン抵抗 RonA
・オフ耐圧
200
200
:
:
:
:
+1.0V
370mA/mm
2.0mΩcm2
700V
800
800
GITのスィッチング特性
Vdd=100V Characteristics - Results Switching
測定回路
tr, td, tf vs Vgs
RL=10Ω
Vgs Monitor
60
50Ω
Vds Monitor
tr、td、tfの定義
Vgs
Vds
90%
10%
tf
tr
td(off)
tf
50
40
td(off)
30
20
10
tr
0
0
90%
1
2
3
Vgs (V)
10%
Ids
td(on) tr
tr, td (o ff), tf (n se c)
Id Monitor
td(off) tf
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4
5
6
GITの信頼性評価結果
■ 125℃、Vds=400Vでの高温高電圧信頼性評価において、1000時間以上
の安定動作を確認
しきい値電圧の時間変化
Tj=125oC
Vds=400V
2
1
0
0
200
400
600
Time (hrs)
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
800
1000
10-5
Ids@Vgs=0V (A/mm)
Vth (V)
3
オフリーク電流の時間変化
Tj=125oC
Vds=400V
10-6
10-7
10-8
10-9
10-10
0
200
400
600
Time (hrs)
800
1000
GaNワンチップインバータIC
■ 横型かつ小面積で高抵抗下地GaN層上にGaNトランジスタは形成されており、
素子間分離耐圧を十分高くすることでワンチップ集積化が可能
GaN-GIT
U
V
W
M
集積化の効果
ワイヤリング箇所の低減
→寄生インダクタンスの低減
低コスト化、高速動作
小型化 →実装面積低減
GaN-GIT
GaN-GIT
Gate
Gate
分離
領域
素子分離層
Si基板
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
Gate
So
ur
ce
Gate
So
ur
ce
So
ur
ce
Gate
Drain
Gate
Gate
So
ur
ce
Drain
Gate
p-AlGaN
i-AlGaN
i-GaN
Buffer Layer
Feイオン注入による高耐圧素子分離
■ Feイオン注入により、1200℃以上の熱処理後でも900V以上の高い素子間耐圧を実現
分離領域シート抵抗の熱処理温度依存性
熱処理による分離領域での耐圧特性変化
1010
after 1200C annealing
Fe
109
without annealing
Fe
B
0.8
Fe
B
C
108
Current (mA)
Sheet Resistance (Ohm/square)
1.0
107
B
106
0.6
0.4
B
Fe
0.2
105
0
104
Without
annealing
800
1000
Annealing Temperature (oC)
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
1200
0
200
400
600
Voltage (V)
Voltage
(V)
800
1000
GaN-GITの動作モード
■ GaN-GITでは逆方向特性において、ゲート電圧制御により
オフセット電圧のないFETモード(Vgs=5V)と
ダイオードのように動作する逆導通モード(Vgs=0V)を実現可能
GITの電流-電圧特性
順方向特性
400
Vgs=5V
300
Vgs=0V:
逆導通モード
)
Ids( (mA/mm)
4V
200
3V
100
2V
0
1V
逆方向特性
-100
-200
Vgs=5V:
FETモード
Vgs=0V
step=+1V
-300
Vgs=5V
-400
-10
-8
-6
-4
-2
0
Vds (V)
Vds
(V)
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
2
4
6
8
10
インバータにおけるGaN-GITゲート電圧制御
■ 動作モードの制御によりダイオードフリーでの低損失動作を実現
GaNインバータ
IGBTインバータ
ON
駆動
電流
Q1
OFF Q1
ON
還流
電流
ON Q2
OFF Q2
OFF
Q1
駆動
電流
Q2
OFF
ON
Q1
還流
電流
Q2
FRD
上側素子
Q1
下側素子
Q2
ON
上側素子
Q1
ON
下側素子
Q2
ON
OFF
OFF
ON
OFF
OFF
D
還流電流はダイオードのみに通電
D
逆導通
モード
逆導通
モード
S
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
D
S
S
FETモード
GITダイオードのリカバリー特性
■ GaN-GITの逆導通モードによるダイオードで良好なリカバリー特性を確認
6
Current (A)
4
GIT
2
0
-2
Si-FRD
-4
-6
-100
E-07
5.E-07
0
+100
5.E-07
Time (ns)
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
+200
6.E-07
6.E-
作製したGaNワンチップインバータIC
GaN-GIT
電源ライン
Q1
U
Q2
電源ライン
Q3
Q5
V
W
素子分離
領域
Q1
Q3
Q5
U
V
W
ゲート
M
モータ
Q4
Q6
GNDライン
Q2
Q4
Q6
GNDライン
1mm
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
GaNワンチップインバータの特性
インバータ出力動作波形
効率の出力依存性
500mA/div 20ms/div
GaNインバータIC
95
効率 (%)
U
V
W
変換損失
4.8%
変換損失
8.3%
90
IGBT
85
5
10
15
出力 (W)
■ GaNインバータにてIGBTインバータと比較し変換損失を42%低減
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
20
25
まとめ
GaNパワーデバイスのインバータ応用
GaNパワーデバイス技術
z低コスト6インチSi基板上へのMOCVD結晶成長
z伝導度変調を用いたノーマリオフGate Injection Transistor (GIT)
Vp=+1.0V RonA=2.0mΩcm2 BVds=700V
高温高電圧信頼性試験での1000時間超安定動作確認
GaNワンチップインバータIC
zFeイオン注入を用い高耐圧素子分離実現
z高効率インバータ動作を確認
IGBTインバータと比較し損失42%低減
謝辞: 本研究の一部は新エネルギー・産業技術総合開発機構からの委託研究開発
「インバータ高効率化のためのGaN双方向スイッチの研究開発」の助成を受けて行われた
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会
2010.6.24 第8回 窒化物半導体応用研究会