巻り!エッセ イ 大人 の夢 を叶 える世界 一 流美術館創 立 を地域振 興 と結合 させ よ う 新潟 県立大学学 長 イム美術館である。加 えて近 日開館予定がアブダビ、 グ ァグラハ ラ (メキシ コ)、ヴ ィリニ ュス (リ トアニ ア)、そ して計画 してい るのが 台中、リオデジャネイ ロ、ウイー ン、ザ ルツブルク、ブカレス トな どの こと 東京 大 学 名誉 教授 猪口 孝 1 人生 は美 しいもの をみ る こ とで あ る 美 しい ものに対す る人間の欲求は尽 きない。私 は 美術家 で もなんで もないが、学術会議 などでいった ついでに LI界の美術館 ・博物館 を訪 れたことが何回 かある。フイレンツェのウフイッツェ美術館、パ リの ルーブル美術館、ニューヨー クのグッゲ ンハイム美術 館 在どである。こころが 洗 われる感 じといったら大 袈裟 になる。しか し、よかったなあとい う感想 をもつ。 幸 せになる。良か ったなあと思えば、 綺麗 だと思 えば、 得 した感 じになる。それにつけ くわえれば、日本 のど こかで もこの位 のものが もっとないのかなあ と思 う。 仏教伝来 の道」 最近大成功 を収めた東京国立博物館 「 とか、国立新美術館 「ゴ ッホ」とかを念頭 に置 いてい る。上記の美術館 の特徴 のなかで も、世界一流 のもの をいつ も出 しつづ ける こと、そ して想像 にす ぎない が、おそらく採算が とれてい ることが とて も重要なこ とだと思 う。両者 の相関係数 は高いはずである。 2 世 界 一 流 美術 館 の要 件 このことを達成 で きるような沢 山の要因があると 思 う。素人考 えで恐縮であるが、沢山の鑑賞者 の来訪 を勇気 づ けるものがほ しい。た とえば、素敵 な建物 と 環境、館長 館員の判断 ・提示 の芸 術的感性 の水準、 交通宿泊の快適、レス トランの水準 などがあげられよ う。スペ インのビルバオ市 (スペ インの西北 バスク地 方、フランスのボル ドーの南)に ある ビルバオ グッ ゲ ンハ イム美術館 は建物が素敵、ビスカヤ湾 に臨む環 境 の美 しさだけでな く、レス トランもよし、田舎風 の ホテルもよしとなる。もちろん展示 されるものは世界 一流の ものだけである。アカデ ミア美術館はキュレイ ターのお話が抜群である。とにか く、たとえば、グビデ の像 がなぜ このようになっているのか とい う質問 に、 圧倒的な美術 史的芸術論 的蘊蓄 を傾けて答 える。長 い廊下 でダビデを眼の前 にして、鑑賞者 の関心 を強 く 引 きつ けて10∼ 15分 明快 に話す のだか らなかなか である。ニューヨー クのグッゲ ンハイム美術館 は とに か く買 い集 めただけでな く、それをしっか りとキユレ イ トする仕組 みが整備 されていること、しか もその説 明が米国的効率 と整然 さと微笑 で迫って くる。自分 の 国の 自慢す るものをいつ も同 じところで出展 している 台北 と北京の故官博物館が一 方 に、他方 に世界各地 にあるグッゲ ンハ イム美術館 のように、世界各地 か ら 買 い集 めた膨 大 なものを世界中のグ ッゲ ンハイム美 術館 にグルグル回す仕組みがある。日本では前者 のタ イプが数か らいって圧倒的だ と思 う。ただ し、自己保 有 といっても世界中か ら買い集 めたものではなく、む しろ世界中から借 りて見せているものである。何 が問 題かとい うと、借 りる費用が、素人の想像だが、かな り のものになると思 う。鑑賞者 の数が 1年 間に何十万 な らよい。ゴッホ展 などはその位だろう。しか し多 くの 場合なかなか採算が とれないことになる。採算 が とれ なければ、長続 きしない。あまり背伸 びをしないで、日 本 の各地 で買 い集 めた、あるいは借 りて きたものをま わすことになるのではないか。そのなかで も横浜や金 沢 は工夫 と努力が 多 い。立派である。しか し、世 界一 流 のもので世 界各 地か ら鑑賞者 を呼 び集 めることに どこまで成功するか。なかなか難 しい。 3 麟 靱 世 一 ・ ︱ ︱ ︰ ︲ ︰ ︱ ︰ 〓 爵Ч 1944年 生 まれ。 東京大学卒業 、 マサ チ ュー セ ッツエ科大学 で政治学博 士 を取 得。 前国際連 合事務 次長補、前法制 審議会 委 員、現在、東 京大学 名誉 教授 日本学術会 議会 員、新潟 県立大学 学長。 日本 の政治 と国際関係 で約百冊 の 現 代市 民 の国家観』 (東大 出版会 )、F日 学術 書、 無数 の学術 論文 を英語 と日本語 で干」行 してい る。最近 書 と して、 『 ア ジアの視点 ア ジア全域世論調査 てみ る人間 社会 ・世界』全 5巻 。 本政治 の謎』 (西村書店)。現在執 筆中 は 「 である。世 界一流美術館 にす る要件が どこまでみた 、 され るかについて、とりわけ ソフ ト面 で′ し 配 な とこ ろがないで もないが、最近政令都市 になった、あるい はもうす ぐなる予定の新 潟 とか熊本 などに分館 をつ くってみたらどうだろ う。は じめは、契約 と建物 (と くにデザイ ン設計)は それな りに費用がかかるだろ う。しか し、観賞者が ビルバオのように一年 に何十万 も集 まるのであれば、収入がかな りになる。美術品を 買 い集めた り、借 りまくった りするのではな く、グッ ゲ ンハ イムの本館 が グルグル 回 して くれ るか ら、世 界一流美術館 が一 年中眼 の前 で実現 する。人が沢山 訪間すれば、経済効果がかな りになる。交通、宿泊や 食事、そ してその他 の観光 も一年 に何百人 とか何千 人でな く、一年に何十万人になれば、それは違 って く る。地域振興 に結合 で きる。ソフ ト面 での心配 とは、 キュレイターのことである。私 の経験 ではとにか く、 世界一流 の芸術的セ ンス をもちあわせているのだろ うと思 うが、必要 に応 じて、英語で しっか りと楽 しま せて くれる点が′ 心配である。某博物館 で経験 したこ とであるが 、展示物 の半分 は英語 の古文書 であるの に、キュレイターが全然英語は駄 目と聞 き、がっか り した。日本語 で も学者ならなんとか通用す るが、鑑賞 者 を唸 らせ るとか楽 しませ るのにはほど遠 かった。 この ような問題 もなんとか解決 に向けて進 むように 工夫 と努力 を重 ねることが重 要 であろ う。とくには ム美術館 は世界分館構 想 に基 づいて、す でに上記 の ビルバオ、ヴェネッィア、ベ ル リンにあるグッゲ ンハ ることは地域 にとって継続的 な振興の大 きな要 素 に なる。箱物が ここまで嫌 われるようになった要因のも うひとつ は、集客や売 り上げをよく考え抜 いて作 った かとい うことに疑 間がある。効果的 に使 われていない 土地があるか ら、建築業者が地方政府の予算 の分 け 前 にあずか りたいからとかで、箱物 に予算が行 きやす かった時期があったのだろう。しか し、現今 の財政状 況から考えると、集客や売 り上げを考えないプロジェ クトは論外 である。しか し、何が本 当に集客 と売 り上 げを可能にするかを真剣 に考 えなければならない。一 音 だったら、産業誘致が地方振興 の切 リオしだったか も しれない。引 き続 き、切 り札である場合が今 で もある。 しか し、20世 紀 と大 きく違 う環境が現在展 開 している ことを忘れてはならない。グ ローバ ル化が深化 し、モ ノを製造す る工 場 は 日本ではなかなか割 に合 わない ことが多 い。科学技術で先をい くことなしに日本が力 強 く生 き延 びる途 はない とい う議論 に大 賛成 なので あるが、その掛け声の割 りには科学技術の研究開発投 資が地方振興 に役 に立 っているとい う話 は余 り聞か ない。研究開発投 資はリスクが とて も高 い し、地方 に スピルオーバーす るような成果がす ぐにでるようなも のは少 なめである。地方振興 のために、オリンピック 招致 とかサ ッカーの国際大会招致 とか、スポー ッの人 気が高 い。それはそれで頑張 っていかない と日本が力 じめの決断はリー ダーシップをもって臨 むことが肝 ′ ヽ である。日本社会の現前 の状態、つ まリガヽさなこと し で も意気 地のない 人が集 まって、何 も研 究 もしなけ れば、何 も決定 しないで、停滞 と衰退 をはやめるだけ の無作為 を続 けていることを回避 しなければならな い。地域振興 は美術館か らである。 強 く生 き残 るためにはだめだ と思 う。気 になるのは 日 本芸術文化立国をこれだけ主張 している人が 多 い割 りには文化で地域 振興 とい う話 をあまり聞かない。耳 に入るのは、集客の単位が一 年 に何 千人 とかの話 で、 4地 術館分館のようなアイデアを使 って、日本市民の文化 認識度 (cultural lteracy)を 高めると同時 に、日本 の 世 界 一 流 美術 館 を地 域 振 興 に結 合 させ る そ こで愚考 したのが次の提案 である。世界一流 の 美術品 を買 い集 めるだけの財政的余裕があるところ は企業で も政府で も非政府団体 で も篤志家 で も今の 日本 では多 くを期待 で きない。上記 のグ ツゲ ンハイ も役 に立たないとい う議論が強い。実際に存在 してい る箱物 のい くつかをみたが、むべ なるかなとい っ気が する。ここで愚考 した ものは多 くの箱物 と異 な り、箱 がお金 を継続的に生み出す 「 打 ち出の小 槌」であるこ とである。集客がかなり世界的にも確実 なものをつ く 域 振 興 は文 化振 興 で 美術館の話 をしているうちに、世界一流美術館 を招 致する話 にな り、さらに建物 も作 り、ソフ トの面 での 人員養成の話 に及 んだ。このところ、箱物 とよばれる 主 として地方 自治体が つ くるものはどこで も嫌 われ ている。建設業界を潤すだけで、地方振興 にもなんに 何十万人 とい う話 ではない。文化立国は 日本文化 を地 方的 (p征ochlJ)な もの として、それを大 事 にするの も確かにとても重要なのであるが、グッゲ ンハ イム美 近隣か らも沢山の芸術愛好家が美 術館 を訪間するよ うにで きない ものだろ うか。浦安 のディズニー ランド には近隣諸国から一年 に非常 に沢 山の人が訪れてい る。これが地域振興でなくてなんだろう。 (いの ぐち たか し)
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