『フォーティユースボーイ』(PDF:476KB)

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たばこ
煙草の話をしようか。駄目?
娘の話をしよう。
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全身検査をお願いした。尻の穴までほじくり回して
もらった、というわけだ。
で、貴方はあと四十五年、おおよそ男性の平均寿
命までは生きるでしょうね、とバンバン背中を叩か
やぶ
ことをまず思い出した。きちんとした設備が整って
れながら宣告されたわけだ。
知り合いの医者に余命四十五年を宣告された。
僕は赤ん坊ではなく中二でもなく二十歳ですらな
す
か
い。人生酢いも甘いも嚙み分けた気になっている、
いるところで自分の生涯をハッキリさせたいから、
飲酒喫煙はデフォであり、油物大好きはもちろん、
糖分塩分過剰摂取の三食であり、慢性的な寝不足で
才能だろうか。不健康な生活をし続けても生きてし
だろう。でも僕の肉体はそれを拒否してしまった。
不健康生活なんていう、僕程度が思い付く緩やか
たいしゃ
な自殺は、人の代謝という神秘の前に撃沈した。僕
疑うべきは、無駄にノリがいい医者が藪である可
能性だったが、日本有数の大学病院の検査室にいる
実際結構酢いも甘いも味わってきた四十歳だ。死に
こんな有名病院に来ていたのだ。
な
たくなるほど萎えることは多々あるけど、まあまあ
楽しいことがそこそこある人生っていう人の生涯を、
もあった僕は、当然長生き出来ないはずだった。五
まう才能。医者に
ある程度満喫してきた四十男だ。
十過ぎか六十ちょっとでぽっくり、どこか見知らぬ
ンのまま﹁そうだな﹂と爆笑された。
しかしオチている場合ではない。最悪か幸運か、
いてみると無駄に高いテンショ
と同じようなことをして四十で死ぬ人は絶対にいる
世界にイってしまう予定だった。
予定を確定事項とさせたくて、知り合いの医者に
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フ ォ ー テ ィ ユ ー ス ボ ー イ
あと四十五年は人生が続く。そんな事実を知った一
年目の一日目から、こんな精神状態では、精神的に
ムレると思った。
余命四十五年の二日目、二十日間の有給願いを提
出した。
課長は特に一考もせず事情を聞いてくれることも
なく、承諾してくれた。
承諾してくれる五秒くらい前に、フロア全体に聞
こえる声で﹁お前みたいなぼんくらが二十日休んだ
程度で、何も変わらない。休んじまえ﹂と、叫んで
いた程度だ。
僕も相当の恥知らずと自負しているが、彼には根
負けする。給料の半分以上を育毛関係に費やしてい
るとされる、六十間際にして真っ黒なふさふさヘア
物だったのかもしれない。
有給二十日を願い出た僕を、大声でこきおろした
あと、課長席の目の前に立っている僕にだけ聞こえ
るささやき声がした。
﹁休み明けに辞表持ってこいよクソが。じゃないと
は
辞めるまで一生倉庫生活だ﹂
高齢者間際にして禿げている自分が許せない、超
や ゆ
健康主義と揶揄された世代にふさわしい、綺麗な小
心ぶりだった。
僕はこのとき、僕の右手に れんばかりの何かが
あるのかどうか、確かめていた。右手をグーパーグ
ーパーニギニギして指の筋をほぐしていた。
例えるなら、生きる理由を己の発毛具合に全て託
している六十間際の髪の毛を思いっきり引っ張り抜
く、などを行うための準備運動だった。
やろう、と思った。クビになろう、嫁と娘を置い
て北海道から逃げだそう、と思った。
ーであることが、根負けする理由の大半だ。
叔父のコネ入社でありながら戦力ならずの身とし
て十数年、僕が在籍している場末の課の長である。
やってやる、と思いながら、僕は頭を下げていた。
まっさつ
だからこそ、僕を社会的に抹殺出来る、唯一の人
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﹁考えておきます﹂と、だけをいい、すたすた席ま
エネルギー問題は代替エネルギーの発見により価格
となった環境問題は年々その過激さを増していき、
った、原風景は何も変わらない程度に情報化された
かつての近未来SF漫画・映画風に現代を例える
なら﹁光や電子となった意志を人が使いこなせなか
の上下で大騒ぎはしなくなっていた。
で戻っていた。
かいり
精神と肉体の乖離を感じた。おそらく根性系統の
問題だろう。右手は震えているわけではない。動こ
うとしないのだ。そして足が勝手に逃げ出してしま
った。
二〇二九年﹂だろうか。
〇〇九年頃になっても、偉人が想像した未来は情報
中学生の男子が体育館裏に女子を呼び出すときな
どに使う感情が足りなかった。
有給明けの二十日後、もう一度試してみようと思
った。目の前に座っている小心者が自分の上司だと
端末の小型化が進んだ程度だったけど、二〇二〇年
二〇世紀のいつか頃までは、二一世紀が凄く発展
した別世界になっていると思われていたらしい。二
いうことを忘れてしまうくらいの時間を空ければ、
代後半にもなれば、少しはかつてのSF漫画が提示
そんな未来的な便利な道具の効果を得るには、ま
副題を付けられた、便利な道具になっていた。
い文句と共に飾られ、現代の利器というつまらない
ちょっとは染まった。プラグの導入だ。でもよう
やく訪れた未来の道具は、家電量販店で過大なうた
した未来の情 緒に染まっていると信じていた。
じょうちょ
やれる気がした。
二〇〇九年二十歳だった、二〇二九年四十男にな
った僕は、そう思った。
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世界大戦は今年も起こることがなく、地球消滅論
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フ ォ ー テ ィ ユ ー ス ボ ー イ
を一杯飲み
ルの三階から落下しても、頭から墜ちない限りは軽
二百万程度の肉体強化プラグを差し込めば、雑居ビ
電気信号が肉体に反映される、などのしくみらしい。
そこに差し込めば、効果が得られる。脳内に達した
当てれば隠れる程度。防水加工だ。市販のプラグを
し込み口がある感覚だ。サイズは小指の第一関節を
差し込み口を付ける。肉体の内側にコンセントの差
う。彼の勤めていた企業による陰湿な社運をかけた
ら現在まで二十数回の暗殺未遂にあっている、とい
総会で発表。全世界震撼。のちに天才学者は発表か
などのある種暴論によって、彼は研究を公式に国連
局天才学者の地球のみんなが一つになれればいい、
ラストで紹介されていた。そうこう色々あって、結
も天才学者側が良い者で、企業側が悪役に見えるイ
プラグという新技術導入に関して利益独占を計る
企業側との四苦八苦の攻防があったらしい。いかに
ず十万ちょっとの手術で首筋にプラグ穴と呼ばれる
傷にもならない、という。美味しい珈
嫌がらせであるらしいが、企業側は全面否定。天才
などのことは昨日やっていたTVショーが教えて
くれたが、僕にとってはまるで無価値な情報だ。
しんかん
たいだけなら、二百二十五円くらいのプラグを差し
学者は今でも世界のどこかに潜みながら、プラグの
インドか中国の天才学者が考案発明した、近未来
的超技術の導入、らしい。
言うならば、S・ジョブズやB・ゲイツに興味は
ないのだ。
お
込めば、ファミレスで出される程度の珈 なら、す
アップデート作業に追われている、と。
彼の発明により人類は三百年先の未来を手に入れ
た、と二時台のニュースが教えてくれた。まるで未
コーヒー
ぐに飲むことが出来る。
来人が現代に未来の技術を持ち込んだのでは、と真
幾らのプラグを差し込めばどの程度の時間限定で
超人化するのか、使用後の全身激痛とは、本当に日
面目に推測されるほど、超常的な技術だという。
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常生活に支障をきたすほどの関節痛なのか、に興味
及した。プロ野球選手などのプロスポーツ競技者へ
ラマから映画のタイアップなどもあり、爆発的に普
り決めがなされたが、導入当初は効果の持続時間な
の使用規制などはステロイドなどと同様、早急に取
があるのだ。
僕は開発者ではなく研究者でもなく、ただの消費
者だ。プラグ業界に興味がある若者にとっては、世
使用後の副作用として筋肉痛などにも似た全身激
痛が走るとされ、日常生活に支障が出ているなどの
どについての疑問も多かった。
にとっては世間話の一ネタに過ぎない。今説明した
苦情もあがった。使用抑制の名目のもと、たばこ税
界のどこかで暗殺を逃れている天才学者の氏名とか
プラグのうんちゃらほんちゃらという概要もすぐに
ビール税同様に、プラグ税がかけられ、新たな財源
功績とかを丸暗記していることが当たり前でも、僕
忘れてしまうだろう。
裕層向けプラグまで、出来てしまった。
としてプラグはその必要悪度も高めた。
忘れてしまっても、プラグ効果を得るために必要
なことは、プラグ穴にプラグを差し込むことだけだ。 効果の持続時間、プラグの使用回数制限が設けら
れ、使い捨ての百円プラグから、四十五年使える富
五歳児でも出来る。手に入れた未来の奇蹟が、ただ
の便利な道具に成り下がってしまったことが、少し
日本での導入に至っては、税金投入の動きがあり、
プラグ手術代金の半値以下の格安キャンペーンに始
レビなどのマスメディアでもプラグに関する苦情・
史の繰り返しに対して国民の盛り上がりは低く、テ
残念なだけだ。
まり、ジャニーズ系タレントが出演する、プラグを
問題提起などが大々的に報道されることはなくなっ
それは金をかければどうにでもなる主義の台頭で
あり、それに対してもまた文句続出となったが、歴
小道具にした超絶パフォーマンスが話題のテレビド
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ていった。
はけ口はネットへ向かったが、そこでは文句より
も効果充実を訴える声が多数だった。私立大学の教
授の弁としてプラグを使用しても脳に異常が起こる
可能性は交通事故に遭う可能性と何ら変わりない、
むしろ運動不足の若者にとっては使用後の全身激痛
は成長を促すかも、などとヤフーニュースで書かれ
ていたから、僕はああそうなんだじゃあ安心だ、と
思うことにしている。
い
とんび
たか
ていて、いつの間にか娘が生まれていた。
鳶が生んだ鷹だった。
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﹁有子、ちょっといいか﹂
早 朝 の 江 別 駅 二 番 ホ ー ム で、 有 給 二 日 目 の 僕 は
﹁偶然﹂娘と出会った。未来は自分の手で摑み取る
ものだ、というサイエンスフィクションハリウッド
に出回らなくなるまでは、絶対に使い続けるだろう。
なった、などの研究成果が発表されたとしても市場
ら顔を上げずに、答えてくれた。
から覗いている娘は、膝の上に広げている問題集か
広島東洋カープの赤い野球帽子を被り、スカート
ひらりの情緒を失わせる学校ジャージがスカート内
シュワちゃん映画の運命論を定義にした偶然だ。
プラグはそういうレベルで、二〇二九年を生きる先
﹁いいですよ。この問題を解いて、友達と朝のコミ
それでいいと思う。たとえプラグ使用により脳萎
しゅく
縮などが起こり、寿命が十年縮まることが明らかに
進国の人類に浸透していた。
委員会の月一報告の資料をまとめてから、昨日のヤ
ュニケーションをはかり、三時間目の予習もやって、
こんなむなしい世界で、こんなちんけな僕は、古
臭くてダサ過ぎる風習としか思っていなかったお見
クザの捕り物に関しての報告書もまとめて、家に帰
と
合いにて結婚し、気付いたら叔父のコネにて就職し
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ですよ﹂
ってシャワーを浴びてさっぱりしたあとなら、いい
のまま棒立ちだった。
ことも出来ず、口を開けっ放しにしてだんまり状態
﹁お父さん、今死にそうなんだ。だから今すぐに、
そんな僕に気付いた娘は上目のチラ見から、直視
のニコ笑いを向けてくれた。
ら、ベンチから立ち上がると、ホームの誰もいない
一生のお願いってことなら、どうだ﹂
噓をつくことにした。
とりあえず、全力で
娘の顔はあがらない。
﹁朝のホームルームまでに委員会の資料まとめなが
喫煙スペースのあるところまで行ってしまった。問
僕も思わずニコっと返す。娘はニコニコ顔のまま、
赤い帽子の下に垂れている長い髪の毛を揺らしなが
ら友達とコミュはかって、捕り物の報告書の草案を
題集は立ったまま読んでいる。
さ ぎ
れはあくまでファッションアイテムとしての立ち位
を依頼されたからだ。意味は特にないが、依頼をさ
屈辱を通り越した情けなさが前提である冷や汗を、
そ こう
朝っぱらからかいている主な理由は、娘の素行改善
出来ず、娘の座っていたベンチに座るしかなかった。
僕は再び声をかけることはおろか、煙草を吸いた
いからという口実を使って、娘のそばに行くことも
考えたあとなら、一時間目の授業中にメールで聞き
ますよ。噓だったら詐欺未遂で訴えます。構いませ
んね﹂
置だった。当時の僕は知らなかったが、彼氏君の趣
れたとき、依頼人が持ってきた封筒には一万円札が
野球帽子にジャージin スカートという格好から
は野球部マネージャー臭がプンプンしているが、こ
味だ。男色に染め上げられている、ということだ。
意味は特にない。
二十枚詰まっていた。
不愉快この上ないが、そんな娘の日常細部を知るは
ずもない、有給二日目の僕は、娘の回答に切り返す
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べっかを使いながら、一万円札が二十枚詰まった封
筒が差しだされた。
封筒を見下ろしながら﹁素行改善などは教師の立
場から注意すべきでは﹂とコピペな文句を口にして
上司の髪の毛を引っ張るために必要な感情とはな
かいこ
んぞや、と考えながら、有給初日の僕は、懐古主義
とささやかれる缶ビールのプルタブを引っ張り上げ
いたが、理由は察する。お前雑魚過ぎるよマジで、
こ
ていた。勇気とかいう感情を欲しがっていた気がす
だったが、理由は察する。
ざ
るが、有給二十日の初日にとって最も大事な行為は、
そんな至極真っ当な考えに基づいていた僕の耳に、
ピンポーン、と甲高い音が聞こえてきた。引っ張り
棄してしまう理由はよく分かる。それがあなた方の
ている娘に対して、一担任教師が頭を使うことを放
理事長直轄校内規制委員会委員長であり、第二新
朝からビールを飲み干すこと以外考えられなかった。
札幌署刑事課強襲班第三係に臨時刑事として雇われ
上げていたプルタブを押さえて冷蔵庫にしまい、玄
仕事だろ、と思ったが、思うだけにした。
登下校に偶然出会ってしまう父親の不自然さに、
有給三日目辺りから気付いた娘は、世間話と称した
娘に思いっきり殴られ罵られたのは、有給十五日
目だった。
ののし
翌日から十九日間連続して、僕は娘と偶然出会い
続けた。
関に立った。ちまたでは声認証自宅訪問者立体3D
映像閲覧システムが導入されているようだが、築三
十年の一九九〇年代末に建てられた、かつての画一
的一軒家である中古物件にそんなものはない。
﹁お願いに来ました﹂訪問者は心労で今にも倒れそ
うな顔をしていた。娘の担任だった。
﹁娘さんの偉大
訪問理由は娘の素行改善依頼だ。
さについては重々承知のうえなのですが﹂そんなお
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目上の者に対しての道徳を説き続ける僕に﹁娘を尾
行している恥知らずな父親は自殺とかしたくなりま
でいた。あっぱれ。
有給十二日目には、娘がつまらないミスを犯して
こうち しょ
しまい、第二新札幌署の拘置所に拘束されたりした。
が犯人扱いされてしまい、校内活動に積極的なぽっ
ちなみに有給八日目に校内で起こった三年四組女
うわば
子の上履き盗難事件では、状況証拠的に娘の彼氏君
てしまうことも許せる相手、までは昇格していた。
有給の四分の三を消化した十五日目前後では、会
ば とう
話と称した罵倒投げかけから、登下校に偶然出会っ
﹁ お 前 ら が 有 子 ち ゃ ん を 馬 鹿 に し て い る 現 実 が糞 な
しかなかったが、目の前で繰り広げられた彼氏君の
まった。あくまで書記長だった僕は、突っ込み役で
臨時刑事として権力を行使していることにやっかみ
れた僕はそれに随伴することになり、娘が刑事課の
せんか﹂と問いかけをするようになっていた。
ちゃり美少女ポニーテール風紀委員長によって校内
第二係の係長にビンタを食らわしてしまう彼氏君、
んだ﹂という名台詞や、敵役の首謀者だった刑事課
隊も使用しているらしいと囁かれる、闇市場価格に
なシーンで決着することとなった。警視庁の特殊部
長同士の対決に持ち込まれ、屋上ダイブなどの派手
ゅんとしていたが、横に並んだ僕と彼氏君に対して
は、全く出番のなかった娘は助けてやったあともし
ですっ、と記録したくなる活躍だった。この騒動で
などのシーンでは、もうなんかアスラン並に大好き
くそ
て一般人の生涯賃金の四分の一程度、と されてい
赤い野球帽子のつばを下げて表情を隠しながら、赤
めい ぜ り ふ
していた一味を引っ捕らえる活躍の手助けをしてし
ずいはん
実権が娘から奪われそうになったが、娘率いる校内
彼氏君率いる娘救出隊が結成され、書記長に任命さ
規制委員会の暗躍によって、屋上を舞台にした委員
る第八種肉体強化プラグを使用していた娘は、地上
くなった耳たぶは隠せずに﹁あんがと﹂と、言って
ささや
四階建ての屋上から飛び降りても、軽傷打撲で済ん
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フ ォ ー テ ィ ユ ー ス ボ ー イ
たま
くれたりした。堪らなくなってしまった。
十日目に基因する。
その日の娘はレッドソックスの赤い帽子を被って
いた。
らん ばん じ ょ う
こんなレベルで仲良くなっていた有給日和の十五
日目、僕は娘に死ねやコラと罵られながら殴られる
は
わけだが、波瀾万丈 過ぎる毎日を過ごせていたこ
彼氏君と一緒に下校している背後数メートルを偶
にら
然歩いていても、無言で睨まれる程度で﹁お父さん
タームまで用意されている毎日だった。娘が運んで
後に黒幕判明どんでん返しまでデフォであり、感動
ービスサービスパンチラ胸チラあったり、最後の最
毎日毎日、週刊連載漫画や週一アニメの一話一話
を目の前で観ているようだった。山オチ谷あり、サ
いくのを羽交い締めにしたりして﹁ちょっと触れる
目の彼氏君の浮気疑惑歩行では、娘が一人猪突して
では僕の助言で解決への道が開かれていたし、九日
ない程度の仲になっていた。有給八日目の校内騒動
今なら笑えるかもしれません﹂などのことが言われ
とが、十五日目に調子に乗った主な原因だ。
きたそんな毎日は、過ぎ去りし経験出来なかった青
なです﹂などの肉体的接触などもあり、僕的心象は
じ
ふ
娘に自己紹介されてしまった。一応十八年間同じ
﹁校内規制委員会委員長、常井有子です﹂
たときは、そんな安心感はぶっち飛んだ。
有給十日目の昼過ぎ、娘が、娘の素行改善依頼を
えりくび
つか
してきた教師の後ろ襟首を摑んで居間まで入ってき
凄く右肩上がりだった。だから少し安心していた。
は が
が事故に遭ったら普段なら泣いてしまいますけど、
春の日々、として堪能していた。
だからだろう。有給十五日目の僕は娘にとって何
かができてしまう男だ、と思い上がってしまった。
あ の 青 春 色 の 奇 蹟 空 間 に 漂 っ て い た 僕 は、 自 分 が
﹁何か﹂は出来てしまう、そこそこ特別な存在だと
思い上がってしまった。
思い上がりを確定させてしまった出来事は、有給
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屋根の下で暮らしている血縁関係なのに。僕という
四十男をよっぽど父親として認識したくなかったの
求めている空気は絶無だった。
﹁早速用件に入りたいのですが﹂スリッパで頭を叩
人による隠
は小規模だったが、このお金が動くということは個
娘の調査によると、高校内の会計処理に関して不
正にうんちゃら何とかされた金銭が発覚し、額自体
きつける勢いで、娘は担任教師のこめかみをグーで
が大であるとして、こっそり鑑識呼び込んだり、監
だろう。
擦るようにして殴りつけた。
﹁靴、脱いでください
視カメラ映像を暇な警察官総出で調査したりした結
ではなく集団による隠 工作の可能性
いんぺい
よ。アメリカじゃないんだから﹂
氏に怯えるアザゼルさん及び悪魔一同くらい怯えて
このときの僕の両膝は、ガックガクのブッルブル
だった。名作ギャグ漫画風に言うならば、アクタベ
び嫌がらせ分を含んだ懲らしめ行為の依頼をしたこ
娘への素行改善という表向きの理由にしてお説教及
ロ吐く勢いで僕のところにお金を持ってきたこと、
となり、一時間前に問いつめたところ、あっさりゲ
果、娘の担任教師が実行犯である可能性が九割以上
いた。このときの娘は、人に恐怖を与える殴り方ベ
まった財布から百円抜かれた程度の被害です。しか
﹁金額自体は大騒ぎする額ではありません。万札詰
を与えてやることが凄く嫌だったから、無視した。
正座している人間から何か謝罪をしたそうな視線
を感じたが、謝罪をすることで与えてしまう安心感
とを、白状したそうだ。
こ
スト !のプラグを差し込んでおり、一般人に恐怖
た
きちんとした話し合いの場を持ちましょうという
形式だったが、ガクブル心境の僕に娘が何か意見を
り前のように正座だった。
僕と娘はガラステーブルを挟んだ対面式のソファ
に座った。担任教師は靴を両膝の上に置いて、当た
を与える行為に長けていた。
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フ ォ ー テ ィ ユ ー ス ボ ー イ
しむかつきます。あなたがここ何日か私につきまと
ないなら、それで結構です﹂
省してくれて、外では二度と私の目の前に姿を現さ
新走
Powers Selection‐
﹄
‐で
〝僕〟と、有給の終わり
パーフェクトな〝娘〟と情けない
続きは﹃
―
少し頭を垂らして少し重たい息を吐いた。少しふ
ざけんな、と思った。
娘としてではなく、委員長という立場ある者とし
ての足取りだった。
僕の返事も聞かずに、娘は謝り続ける教師の後ろ
襟首を摑んで、家から出て行った。
っていた理由も判明しました。迷惑です。二歳児く
らいまでは確かにあなたに助けを求めたことがあっ
たかもしれません。それ以降は無い、と断言出来ま
す。そんなあなたですが、生物学上の父親である以
上、ある一定の敬意は払います。でもそれだけです。
そんなあなたがこれ以上私の人生に干渉してくるこ
とは、酷く不愉快です﹂
気持ちの上では怒鳴り散らしたかったけど、納得
出来る物言いだったから、僕は頷いた。
﹁お前が僕
の助けを必要としないで生きていける、という点は
だ ちん
﹁あなたが得た金銭については駄賃と思ってくださ
その通りだ﹂
い。この件はこの教師による醜い暴走、という形で
処理します。あなたもある意味被害者です。むろん
あなたはゴミですが、正直注意を与えたりすること
もしたくありません。肩が凝っているんです。あな
たの行動で被害をこうむったのは、私だけです。反
!!