カ ナ リ ヤ も ど き 丸山弘子

カナリヤもどき
丸山弘子 自分の不注意で、可愛がっていたセキセイインコに逃げられてしまった。もともと迷い込んで来
た鳥なのだから、と思っても、すぐには諦めきれないでいた。
グッドタイミングとはこんなことを言うのか、と、早速いただくことにした。
そんな時、友達から電話がかかってきた。
かえ
「孵したセキセイインコの雛が育ったけど、一羽いかが、飼ってみない?」
おび
逃げられた鳥はブルーだったが、今度はやさしい黄色である。色は関係ないと思うが、ブルーは
活発だった。いただいた黄色は、やさしくておとなしい。というより臆病である。親兄弟から離さ
れて、一羽でわが家に来たのだから、当然といえば当然だ。
人の手から一番遠い籠の隅で怯えている。
しかし、一週間ほど経っても餌や水を取り替えるとき、
はじめはブルーだって体をかたくしていたが、二日ほど経つと、手を差しだせば、乗ってくる。
ミカンを食べていれば、欲しがって寄ってくる。というように人馴れしていたから、同じ種類の鳥
でも性格がずい分違う。しかしブルーのように、勝手に籠の出入口を中からあけて脱走する、とい
う心 配 は 、 黄 色 に は な さ そ う だ 。
それより黄色は餌を食べたあと、羽繕いしてしばらく機嫌よく鳴いたあとは、止り木にじっとし
ているだけだ。何か遊べるものを与えたら、と思い鈴を吊るしてみた。止り木に近いところに吊る
した 。
臆病者の黄色は、はじめ鈴を怖がっていた。ひょっとしたはずみで体に鈴が触れた時、音にビッ
クリした様子はこちらの方が驚いた。しかし何度かそんな経験をして、自分に危害を加えないと分
ると、こんどは積極的に鈴をつつくようになった。気に入ったのだな、と思った。更に馴れて、自
分が鳴いて鈴をつついて鳴らす。そして鈴の音を真似するようになった。時どきセキセイインコ特
有のダミ声も混じるが、それが合の手になって全体的にいい感じである。それより黄色自身が楽し
そう に 感 じ た 。
「いい声で鳴いていますね。カナリヤを飼っているのですか」
訪ねてきた人が玄関で、母にたずねているのが聞こえる。
「いいえ、セキセイインコなんですよ。鈴の音を真似しているうちに、あんなにいい声になってく
れたんです。皆さん、だまされちゃうんですよ。うちでは、とんだカナリヤもどきだね、なんて言っ
てい ま す 」
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展景 No. 74
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