‧ 國 立 政 治 大 學 ‧

國立政治大學日本語文學系
碩士論文
指導教授:蘇文郎
博士
政 治 大
日本語動詞由来複合語の語形成
立
‧ 國
學
-認知意味論の観点から-
‧
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研究生:葉秉杰 撰
中華民國九十九年一月
謝辞
この論文を執筆するにあたり、多くの方々にご指導、ご意見を頂き、ここで
感謝の意を申し上げたいと思います。審査委員の担当に当たった東呉大学の頼
錦雀先生及び政治大学の吉田妙子先生から論文に関する大変貴重なコメント
を多く頂きました。指導教官の蘇文郎先生には大学生の時からたくさん面倒を
見て頂き、先生のお蔭で日本語学や言語学に目が覚めました。大学院に入って
からも丁寧にご指導頂き、論文のテーマの決定から完成まで 4 年間ほど付き合
って頂きました。大学院で最初に集中講義を開いてくださった東京大学の楊凱
栄先生からは日中対照研究の方法論を教えて頂き、東京都立大学名誉教授の奥
治
政
大
などを教えて頂きました。筑波大学に交換留学のときは矢澤真人先生や竹沢幸
立
一先生に日本語研究や理論言語学に関する授業を聴講させて頂き、いろいろ啓
津敬一郎先生とアメリカのプリンストン大学の牧野成一先生からは研究方法
‧ 國
學
発されました。于乃明先生と蔡瓊芳先生にはいつも励まして頂き、一方ならぬ
お世話になりました。特に于先生は、北京外国語大学で開催された「若手研究
‧
者合同シンポジウム」に出席する機会をくださり、感謝の気持ちでいっぱいで
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す。私が一番敬愛する先輩である王淑琴先生は語彙研究の指導のほか、研究者
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であるべき態度も教えてくださいました。クラスメートの姜鈞傑君と黄志傑君
を初め、先輩の横山麻紀さんや後輩の范佩佩さんとは日ごろ研究をめぐって熱
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き論戦を繰り広げる中、論文に関するヒントをいっぱい得ました。真如苑仏教
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会からは多額な奨学金を頂き、日本で論文に関する資料をいっぱい入手できま
した。
ほかにも感謝しきれないほど私を支持してくださった方々がいらっしゃい
ますが、ここで改めて感謝の意を表します。どうもありがとうございます。
なお、論文においてなお不備な点があると思われますが、それに関してはす
べて筆者の責任です。
日本語動詞由来複合語の語形成
―認知意味論の観点から―
[要旨]
従来の日本語の動詞由来複合語に関する研究は意味分類にとどまったもの
か統語現象に注目したものが殆どであり、意味拡張の仕組みや語の複合による
選択制限はまだ解明されていない。しかし、認知意味論の方法を用いたスキー
マ、理想化認知モデルなどの導入に伴い、項構造や動詞の語彙概念構造では読
み取れない次のような情報が説明できるようになると思われる。
複合語の多義性
2.
複合語の選択制限
3.
複合語の統語的特性
‧
‧ 國
立
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1.
政 治 大
まず、複合語の多義性というのは、「歯磨き」のような一つの語が二つ、或
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は二つ以上の意味を担うことであり、従来では後項動詞の名詞化による現象と
io
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されているが、本論文はそれがメトニミーによる意味拡張だと主張したい。
次に、選択制限とは、
「?洗剤を水割りで使う」
、
「?部屋で立ち読みする」
、
「??
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こんにゃくを輪切りにする」などといった、文法的に間違っていると言いにく
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いが、不自然に感じられることである。本稿は「名づけ機能」からこの現象を
検討する。
また、複合語の統語的特性というのは、構成が「内項+動詞」か「付加詞+
動詞」と分解できても、
「-する」が後接したりしなかったりするということで
ある。
特に 1 と 2 は先行研究では殆ど言及されていない。これは、動詞由来複合語
の分析にまだ不十分なところであると思われる。本稿では、認知意味論の方法
を導入し、新しい語形成モデルを提案する。
キーワード:動詞由来複合語、スキーマ、フレーム、用法依存モデル、理想化
認知モデル
日語動轉名詞之構詞法
-從認知語意學的觀點[摘要]
就筆者所觀察,至今有關日語動轉名詞之研究大都僅止於語義分類或是分析
其句法現象,複合詞語義擴張之結構與因詞彙複合所產生的選擇制約(selectional
restriction)之原因尚未闡明。然而,透過認知語意學之基模、理想化認知模組等,
我們可以正確掌握在論元結構或是詞彙概念結構所無法得知之信息,如以下三
點。
1. 複合詞的多義現象
2. 複合詞的選擇限制
3. 複合詞的句法特徵
立
政 治 大
首先,複合詞的多義現象所指的是同一個形態帶有兩種或兩種以上語義之詞
‧ 國
學
彙,如「歯磨き」
。在以往的研究皆被視為是動詞語基轉為名詞時所發生之現象,
筆者則主張本現象是起因於轉喻。
‧
其次,選擇限制所指的是如「?洗剤を水割りで使う」
、
「?部屋で立ち読みす
る」、
「??こんにゃくを輪切りにする」之類,未必不合語法但會令人感到不自然
之用法。本論文將由「命名功能」來探討此現象。
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最後,複合詞的句法特徵所指的是,詞彙結構雖同樣能夠分解為「內部論元
+動詞」或「附加語+動詞」,卻未必能夠與「-する」結合來做為一個動詞使用
之現象。
以上三點中特別是 1 和 2 在先前研究中幾乎未被提及。筆者認為此二點在動
轉名詞中尚有待研究。因此,本論文將藉由認知語意學之方法來嘗試提出新的構
詞模式。
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關鍵字:動轉名詞,基模,框架,使用基礎模組,理想化認知模組
Word-Formation of Deverbal Nouns in Japanese
-By the point of view of Cognitive Semantics-
Abstract
In this paper, I attempt to interpret some phenomena of deverbal nouns in Japanese
as shown following, by the method of cognitive semantics.
1. The polysemy of deverbal nouns
2. The selectional restriction of deverbal nouns
政 治 大
3. The syntactic characteristics of deverbal nouns
立
At first, I will explain the polysemy of deverbal nouns as the lexicon “Hamigaki”,
‧ 國
學
which is considered as a phenomenon of conversion of the base verb, is due to
metonymy.
‧
Second, I will make an explanation about the selectional restriction of deverbal
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nouns such as “? Senzaiwo mizuwaride tsukau”, “? Heyade tachiyomi suru”,
io
ungrammatical usage via “naming function”.
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“??Konnyakuwo wagirini suru”, which are easy to be regarded unnatural but not
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Last, I will discuss the relation of the affix “-suru” and deverbal nouns which can
engchi
be analyzed to “theme + verb” or “adjunct + verb”.
Keywords: deverbal noun, schema, frame, usage-based model, idealized cognitive
model
目
第1章
次
序論
1.1
研究動機及び目的……………………………………………………………1
1.2
「語」に関する重要な概念…………………………………………………2
1.2.1
名づけ機能…………………………………………………………………2
1.2.2
右側主要部規則……………………………………………………………3
1.2.3
二分枝分かれ構造…………………………………………………………3
1.2.4
形態的緊密性………………………………………………………………4
1.2.4.1
統語的な要素の挿入……………………………………………………4
1.2.4.2
照応………………………………………………………………………5
治
政
大
論文構成………………………………………………………………………6
立
1.3
學
第2章
一部の修飾………………………………………………………………5
‧ 國
1.2.4.3
研究対象と先行研究
はじめに………………………………………………………………………7
2.2
研究範囲………………………………………………………………………7
2.3
研究背景………………………………………………………………………10
2.4
研究方法………………………………………………………………………11
‧
2.1
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2.4.1
カテゴリー化………………………………………………………………11
2.4.2
スキーマ……………………………………………………………………12
2.4.3
理想化認知モデル…………………………………………………………12
2.5
n
al
Ch
engchi
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v
終わりに………………………………………………………………………13
第3章
動詞由来複合語の語形成
3.1
はじめに………………………………………………………………………14
3.2
先行研究………………………………………………………………………14
3.2.1
影山(1999)………………………………………………………………14
3.2.2
杉岡・小林(2001)………………………………………………………15
3.2.3
伊藤・杉岡(2002)………………………………………………………16
3.2.4
先行問題のまとめ及び問題点……………………………………………18
3.3
本論文の提案…………………………………………………………………19
3.4
名づけとしての動詞由来複合語……………………………………………22
3.5
動詞由来複合語の機能………………………………………………………25
3.5.1
形容詞に使われる動詞由来複合語………………………………………27
3.5.2
動詞に使われる動詞由来複合語…………………………………………34
3.5.3
名詞に使われる動詞由来複合語…………………………………………39
3.5.4
機能による意味変化………………………………………………………43
3.6
複合語の選択制限……………………………………………………………45
3.7
終わりに………………………………………………………………………53
第4章
動詞由来複合語の多義性、音韻構造及び生産性
治
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4.2 先行研究………………………………………………………………………56
立
4.2.1 奥津(1975)…………………………………………………………………57
はじめに………………………………………………………………………56
學
‧ 國
4.1
西尾(1988)…………………………………………………………………58
4.2.3
影山(1993)、影山(1999)………………………………………………58
4.2.4
籾山(2002)、ジョン・瀬戸(2008)……………………………………59
4.2.5
先行研究のまとめ及び問題点……………………………………………59
‧
4.2.2
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Nat
4.4
動詞由来複合語の音韻構造…………………………………………………64
4.5
動詞由来複合語の生産性……………………………………………………70
4.6
終わりに………………………………………………………………………75
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動詞由来複合語の意味拡張…………………………………………………60
io
4.3
第5章
Ch
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結論
5.1
本論文の結論…………………………………………………………………76
5.2
今後の課題……………………………………………………………………77
参考文献……………………………………………………………………………79
第1章
1.1
序論
研究動機及び目的
日本語の動詞由来複合語は非常に生産的な語形成の方法である一方、意味が
様々であり、形態から捉えにくいと思われる。たとえば、「くず拾い」と「く
ず入れ」を比較したところ、ふつう前者は「くずを拾うこと」か「くずを拾う
人」と理解されるのであるが、後者は「くずを入れる道具」としか意味しない
ようである。しかし、いずれも前項と後項の関係は「~をする」となっている。
筆者の考察によれば、従来の研究は、このように語全体の意味分類や複合語の
内部構造、すなわち前項と後項の関係の分類にとどまっているものが殆どであ
治
政
大
れつつあるが―形態が「名詞+動詞語幹 」や「形容詞語幹+動詞語幹」となっ
立
ていても、意味が二つ以上あり得るし、
「-する」がつくかつかないかも複合語
る。近年の研究は統語的振る舞いについても言及され、語形成モデルが解明さ
1
‧ 國
學
ごとに違う。なお、たとえ「-する」をつけて動詞として使えても、複合語の
語基動詞がとれる目的語を必ずしも受け継ぐとは限らない―といったことに
‧
ついても議論されるような研究は、管見の限り、現時点ではまだないようであ
sit
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(1) 複合語の多義性
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る。上に述べた三つの問題点をそれぞれ
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(2) 複合語の統語的特性
(3) 複合語の選択制限
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と呼ぶことにするが、(1)と(3)は従来の分析法(項構造と語彙概念構造)
だけでは十分に説明できず、認知意味論の方法を用いる分析が必要かつ有効だ
と思う。しかし、認知意味論、或いはラネカー(Langacker)を代表とする認
知文法に基づいた研究は単純語扱いする傾向が強いようであり、そのような分
析は妥当かどうかまだ議論する余地があると思われる。本論文は複合語と認め
る観点に立ち、認知意味論の方法を導入し、(1)~(3)の問題解決を目指し
つつ、新たな語形成モデルの提案を目的とする。
1
動詞の連用形と扱う見方もあるが、筆者は動詞の語尾変化を一種の接辞を見なし、動詞を「語
幹+時制接辞」と見るため、「語幹」と呼ぶことにする。
1
1.2
「語」に関する重要な概念
本論に入る前に、まず「語」に関わる重要な概念をここで提示しておく。語
は文を構成する最も基本的な単位で、意味を担う最も小さい単位の形態素
(morpheme)からなる。通常、文に独立して現れるものを単純語2、二つ以上
の単純語が組み合わさったものを複合語、単純語に接辞(affix)3がついたも
のを派生語と呼ぶが、複合語と派生語は併せて合成語と呼ぶ。同一の形態で二
つ以上の品詞を認められる語も一種の派生語と見られるが、このような現象を
転換(conversion)と称するか、ゼロ接辞(zero-affix)の添加による現象だ
と見るか、研究者によって見方が分かれている。
1.2.1
名づけ機能
政 治 大
立
奥津(1975)、斎藤(2004)で提示されているように、我々は(見知らぬ新
‧ 國
學
しい)語に出くわしたときに、常に当の語をパラフレーズして理解しがちであ
る。例えば、奥津は斎賀(1959)で挙げられた「積雪寒冷地帯義務設置学校屋
‧
内運動場急速整備促進期成会」を次のように言い換えられると述べている。
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(1) 雪が積リ寒ク冷イ地帯ニ義務トシテ設置サレタ学校ノ屋内ノ運動場
ヲ急速ニ整備スルコトヲ促進シソノ成功ヲ期スル会
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奥津(1975:161)
また、斎藤は複合語の語形成を次のように構造化している。
(2) 語構成の常識的モデル
a + b →
ab
斎藤(2004:3)
しかし、まさに氏が当の論文で述べているように、「綱引き」は単に「綱を
引くこと」を意味するのではなく、むしろ「綱の両端を多人数で引き合って勝
2
独立形態素、自由形態素(free morpheme)に当たっている。
接辞はさらに接頭辞(prefix)、接中辞(infix)、接尾辞(suffix)に分けることができ、
いずれも単独で文に使えない拘束形態素(bound morpheme)である。
3
2
負を争う競技(『新明解国語辞典』第五版)」と理解されるであろう。同様な指
摘は影山(1999)もしており、このようにある慣習化されたこと(もの)に対
し、我々は常に造語を通して名づけ(naming)をするのである。
さて、上では「綱引き」や「山登り」は単に「綱を引くこと」と「山に登る
こと」だけを表すのではないと述べたが、それは決して「NV」は「Nを/に
V」を含意しないわけではない。
「a+b=ab+α」は認知言語学のゲシュタルトの
考え方及び「全体は部分の総和以上のものである」(河上 1996:1)という主
張とも合致しており、事実「綱引き」の意味も「山登り」の意味も「綱を引く
こと」と「山に登ること」によって支持されていると思われる4。
治
政
大
さて、合成語には全く同じ要素によって構成されるものがあるが、その意味
立
の中核をなし、しかも品詞を決める部分は主要部(head)と呼ぶ。主要部は大
右側主要部規則
學
‧ 國
1.2.2
体語の右側に位置すると一般化され、これを右側主要部規則(Righthand Head
Rule(RHR))と呼ばれている。(Williams1981:248)
‧
er
io
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(4) ハチミツ、ミツバチ(竝木 1988:69)
たとえば、
(4)の「ハチミツ」は「蜜」の一種であり、
「ミツバチ」は「蜂」
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の一種である。このような複合語を内心(endocentric)複合語と呼ぶ。一方、
engchi
主要部のない複合語もあり、たとえば英語の「redskin」は「red」でも「skin」
でもなく、このような複合語を外心(exocentric)複合語と呼ぶ。なお、「東
西南北」や「春夏秋冬」、
「松竹梅」のような等位複合語(dvandva
compound)
も右側主要部規則の例外となっている。
1.2.3
二分枝分かれ構造
複合語は結合要素がむやみに結びついてできるのではなく、基本的には統語
4
上に見たように、
「綱引き」は「綱を引くことを勝負する競技」という「a+b=ab+α」の考
え方は認知言語学の発想と重なっているが、研究者によっては、J.R. Taylor et al.(2008)
のように「水割り」を「水」と「割り」の合成と見るよりも「水割り」一つと見るべきだと主
張する文法家もいる。しかし、そのような考え方に踏まえては、比較的新しい造語の「コーラ
割り」はいかに解釈すべきか問題になる。
3
構造と同様に二つずつ結合していくのである。これは二分枝分かれ構造
(Binary Branching Condition)と呼び、複合語に見られる一般的な制約だと
思われる(Selkirk1982;影山 1999;伊藤・杉岡 2002 他)。1.2.2 で述べた等
位複合語を除き、二、三つの要素からなる複合語を始めとして、斎賀(1959)
でいう「積雪寒冷地帯義務設置学校屋内運動場急速整備促進期成会」のような
長い複合語まで、内部構造は(5)、
(6)のような対等関係ではなく、
(7)、
(8)
のように分解されるだろう。
(5) [[思い][出し][笑い]]
(6) [[積雪][寒冷][地帯][義務][設置][学校][屋内][運動場][急速][整
治
政
大
(7) [[[思い][出し]][笑い]]
立
(8) [[[[[[[積雪][[寒冷][地帯]]][[義務][設置]]][[学校][[屋内][運動
場]]]][[急速][整備]]][促進]][期成]]会]]
‧
1.2.4
學
‧ 國
備][促進][期成][会]]
形態的緊密性5
sit
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語が受けるもう一つの制約として形態的緊密性(lexical integrity)が挙
io
n
al
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げられる。それを次に示すいくつかの現象で説明する。
1.2.4.1
Ch
統語的な要素の挿入
engchi
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ごく少数の例外(e.g. 我が家、木の葉など)を除き、語の内部に基本的に
助詞は現れない。
にほん
くるま
にほんぐるま
(9) 日本の 車 (cf.* 日 本 車 )
にほん
しゃ
にほんしゃ
(10)*日本の 車 (cf.日 本 車 )
(11)雨(*が)降り、ボール(*を)投げ、郵便(#6の)配達(影山・柴谷
1987:143)
5
この節の内容は影山(1999)、影山・柴谷(1987)
、伊藤・杉岡(2002)に基づいて書いたも
のである。
6
“#“は求める意味と異なることを意味する。
4
助詞の省略はくだけた会話、新聞の見出し、名詞の列挙及び決まり文句以外、
基本的に不可能であり、特に(9)の名詞句における「の」はどのような文体
でも省略できないのである。(影山・柴谷 1987)それに対し、(10)、(11)に
見られるように、「語」に助詞を挿入すると、文法的に不適格になる。
助詞のほかに、時制屈折語尾、複数屈折語尾及び助動詞などの文法範疇(機
能範疇;functional category)も語の内部にふつう現れない。次の例を参照
されたい。
(12)子供新聞/*子供たち新聞(影山 1999:11)
1.2.4.2
照応
立
政 治 大
文における名詞句を代名詞で指すことを照応(anaphora)という。照応は先
‧ 國
學
行詞の位置により、外向きの照応(outbound anaphora)と内向きの照応
(inbound anaphora)に分けられ、それぞれ次のように示しておく。
sit
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‧
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(13)先行詞が語の内部にある場合(外向きの照応)
io
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1999:9)
er
*[山登り]の好きな人はそこで死んでも本望だと思っている。(影山
Ch
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(14)先行詞がふつうの名詞句である場合(内向きの照応)
engchi
*彼は高級な外車に乗っていて、毎晩[それ洗い]をしている。
(同:10)
(13)、(14)に見られる通り、外向きの照応であれ、内向きの照応であれ、
語の構成要素の一部を代名詞で指示する、或いは代名詞を語内部に盛り込むこ
とはネイティブ・スピーカーによって容認されたり、されなかったりするが、
原則的には受け入れられない。これは照応の島(anaphoric island)の制約と
いう。(Postal 1969)7
1.2.4.3
7
一部の修飾
ここで Postal(1969)への言及は影山(1999)によるものである。
5
語はひとつのまとまりとして文に現れるため、語の一部だけを外部から修飾
することはできない。(15)を参照されたい。
(15)魚釣り/*[大きな魚]釣り
花見/*[満開の花]見(伊藤・杉岡 2002:7)
1.3
論文構成
本論文の構成は次に示す通りである。第 1 章は研究動機と目的、語に関する
重要な概念を提示する。第 2 章はまず動詞由来複合語を定義し、研究範囲につ
いて述べる。その上で先行研究の概観をする。第 3 章は従来の語形成モデルを
治
政
大
張に基づき、動詞由来複合語の意味を検討する。それから、第
5 章で本論文の
立
結論及び今後の課題を述べる。
検討した上、本論文が主張する語形成モデルを提案する。第 4 章は本論文の主
‧
‧ 國
學
n
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Nat
al
6
Ch
engchi
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第2章
2.1
研究対象及び先行研究
はじめに
本章では研究範囲を規定した上で、先行研究を概観し、本論文で使う理論枠
組みを提示する。
2.2
研究範囲
日本語に動詞成分を含んだ複合語は少なくとも(1)に挙げる 10 種類存在す
るが、従来の研究では、A から J までを動詞由来複合語とすることはない。
治
政
大
B. V+V 消し忘れ、付き添い、食べすぎ、垂れ流し、売り尽くし、差
立
し入れ…
學
C. V+V
立ち読み、寝冷え、飢え死に、煮干し、思い出し笑い…
‧ 國
(1) A. V+V
使い古す、踏み潰す、降り始める、食べ損なう、見逃す、言
い忘れる...
‧
色褪せる、旅立つ、手放す、脈打つ、間違う…
E. N+V
ゴミ受け、風船売り、寸法直し、山登り、手作り、犬走り、
y
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飲み水、焼き魚、飼い主、渡り鳥、迷い箸、乗り物、受け皿、
al
n
F. V+N
er
色移り…
Nat
D. N+V
折り紙...
Ch
engchi
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v
G. V+A
打たれ強い、見苦しい、食わず嫌い…
H. A+V
黒こげ、白塗り、粗挽き、厚揚げ、薄切り、無理やり…
I. A+V
高鳴る…
J. Adv+V
よちよち歩き、ポイ捨て、がちゃ切り、マジギレ、ガン見、
苦笑い...
まず 1.2.1 で提示した右側主要部規則から、品詞別で次のように再分類する
と、動詞と形容詞、名詞に分けることができる。C、D、I はふつう複合動詞と、
G は複合形容詞とそれぞれ分類されるため、考察対象から排除される。
(2) 動詞
7
C. V+V
使い古す、踏み潰す、降り始める、食べ損なう、見逃す、言
い忘れる
D. N+V
色褪せる、旅立つ、手放す、脈打つ、間違う
I. A+V
高鳴る
形容詞
G. V+A
打たれ強い、見苦しい、食わず嫌い
名詞
A. V+V
立ち読み、寝冷え、飢え死に、煮干し、思い出し笑い
B. V+V
消し忘れ、付き添い、食べすぎ、垂れ流し、売り尽くし、差
し入れ
E. N+V
色移り
立
飲み水、焼き魚、飼い主、渡り鳥、迷い箸、乗り物、受け皿、
學
‧ 國
F. V+N
政 治 大
ゴミ受け、風船売り、寸法直し、山登り、手作り、犬走り、
折り紙
よちよち歩き、ポイ捨て、がちゃ切り、マジギレ、ガン見、
io
sit
y
Nat
苦笑い
‧
J. Adv+V
黒こげ、白塗り、粗挽き、厚揚げ、薄切り、無理やり
er
H. A+V
名詞の中でも、なお様々な下位分類ができる。まず、
「V+V」型に着目すると、
n
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Ch
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Un
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A.と B.は対応する動詞が存在するかどうかという点で異なっている。
engchi
(3) 「V+V」型名詞
A. 立ち読み、寝冷え、飢え死に、煮干し、思い出し笑い
→*立ち読む、*寝冷える、*飢え死ぬ、*煮干す、*思い出し笑う
B. 消し忘れ、付き添い、食べすぎ、垂れ流し、売り尽くし、差し入
れ
→消し忘れる、付き添う、食べ過ぎる、垂れ流す、売り尽くす、差し
入れる
「立ち読み」と「消し忘れ」を例に取り上げれば、「立ち読み」は対応する
動詞「立ち読む」がなく、「立ち読みする」の形にしなければならないのに対
8
して、「消し忘れ」はそれに対応する動詞「消し忘れる」が存在するので、そ
れぞれは異なった語形成プロセスをたどって形成されたと思われる。図示する
と、
(4) 立ち読み→接辞附加→立ち読みする
(5) 消し忘れ←時制辞削除←消し忘れる
A タイプ(i.e. 「立ち読み」タイプ)は軽動詞(light verb)「する」を添
加することによって動詞に使われ、影山(1993)が主張している「動名詞」
(verbal noun)に属する。一方、B タイプ(i.e. 「消し忘れ」タイプ)は一
政 治 大
般的8に動詞による派生名詞だと思われ、従来の研究でも A と別とされるので、
考察の対象外とする。
立
F は後項が名詞である点9でほかの複合名詞の構造と異なり、
「N+N」や「A+N」
‧ 國
學
などと併せて一次複合語(primary compound)と呼ばれることもあり(影山
1999)
、考察対象としない。こうして、本論文の考察対象となる複合語は主に
‧
(6)に示すような 4 種類になるが、これらは一次複合語と違う点は、前項と
色移り
H. A+V
J. Adv+V
sit
er
立ち読み、寝冷え、飢え死に、煮干し、思い出し笑い
al
n
E. N+V
io
(6) A. V+V
y
Nat
後項は文法関係10に立つということにある。
Ch
i
Un
v
ゴミ受け、風船売り、寸法直し、山登り、手作り、犬走り、
engchi
黒こげ、白塗り、粗挽き、厚揚げ、薄切り、無理やり
よちよち歩き、ポイ捨て、がちゃ切り、マジギレ、ガン見、
苦笑い
8
伊藤・杉岡(2002:140)では「着膨れる」や「食い倒れる」
、
「寝ぼける」などが挙げられ、
それらの動詞は動詞由来複合語の「着膨れ」
、
「食い倒れ」
、
「寝ぼけ」の逆形成による複合動詞
だと指摘されている。確かに影山(1993)が提案する「他動性調和の原則」も考え合わせれば、
(4)に挙げた「垂れ流す」を含め、本来「非能格自動詞+非対格自動詞」、
「他動詞+非対格
自動詞」、
「非対格自動詞+他動詞」というような組み合わせは不可能であり、これらの複合名
詞を派生名詞ではなく、動詞由来複合語と認めるべきだと思われる。
9
「入れ墨」、
「告げ口」
、
「寄り道」などといった一部の例外を除き、大体この規則に従ってい
る。これらの例は本論文の考察対象にならないので、深入りしないが、詳しくは影山(1980)
と影山(1993)を参照されたい。
10
つまり、前項は後項の必須補語であったり、後項が表す動作による結果であったり、後項
が表す動作の様態であったりすることである。
9
(7) A. 水鉄砲、水羊羹、水商売、水玉、水鳥、水風呂、水枕、水メガネ
B. 飲み水、焼き魚、飼い主、渡り鳥、迷い箸、乗り物、受け皿、折
り紙、はけ口
(6)に並べた例はいずれも文法関係が想定でき、たとえば A.類は「立って
読む」、「寝て冷える」、「飢えて死ぬ」、E.類は「ゴミを受ける」、「山に登る」、
「手で作る」、「色が移る」、H.類は「黒くこげる」、「白く塗る」、「粗く挽く」、
「無理にやる」、J.類は「よちよち歩く」、「ポイと捨てる」と考えられる。
それに対し、
(7)に見た一次複合語は前項と後項の関係は一定ではない。
(7)
A.の水鉄砲は「ポンプ式に、筒の先の細い穴から水を押し出して飛ばす玩具」
治
政
大
い柔らかい羊羹」(大辞林)というものである。ほかの「水商売」や「水玉」
、
立
「水鳥」などもまた違う関係が窺えられ、要するに、前項が同じ「水」となっ
(大辞林)というものであるが、水羊羹は「寒天でこし餡を固めた,水分の多
‧ 國
學
ていても、後項との関係は実に多岐に渡っているわけである。
(7)B.は形態的にいずれも「V+N」となっているが、語の意味をよく吟味
‧
したところ、やはり語の結合関係は様々だと気がつく。たとえば、「飲み水」
sit
y
Nat
は「飲料にする水」
(大辞林)で、
「飲まれた水」というより「我々人間に飲ま
io
er
れている清くて、体に無害の水」と考えられる。それに対し、「焼き魚」にお
ける「焼き」は「焼いた」
、
「焼かれた」
、
「焼き上がった」などと意味し、動作
n
al
Ch
の完成や受身などの意味を帯びている。
engchi
i
Un
v
なお、以下(8)のような前後が同じ文法関係による結合であるが、主要部
が漢語動名詞か外来語である複合語も考察の対象外とする。
(8) ジグザグ走行、ながら運転、立ち往生、銀行預金、アメリカ出張、家
庭訪問、不法投棄、無断コピー、不正アクセス
2.3
研究背景
今までの動詞由来複合語に関する研究は大まか次の三段階に分けることが
できる。
(9) 段階一:複合語の意味分類、内部構成の分析
10
代表的研究:西尾(1961)、奥津(1975)、Makino(1976)その他
段階二:英語との比較による分析
代表的研究:影山(1982)、竝木(1988)、その他
段階三:英語学の概念、理論を積極的に日本語に導入した研究
代表的研究:影山(1999)、杉岡・小林(2001)、伊藤・杉岡(2002)
その他
段階一の研究は形態論(morphology)的立場からの分析が多く、殆ど複合語
の分類に止まっているが、後の研究に一つの方向付けを提供してくれたのは評
価される。段階二は英語との比較を通し、日本語の特性を見出した。
(e.g. 英
治
政
大
るが、日本語は概して「N(A/V)+V(連用形)」で表現する)そして、段階三で
立
初めて「動詞由来複合語」という用語を日本語に適用し、非対格仮説を初め、
語の動詞由来複合語は「-er」で道具や人間を表し、
「-ing」で出来事を表現す
‧ 國
學
項構造などの理論を取り入れ、大きな貢献を遂げている。但し、否めないこと
に、今までの研究は形式主義を重視するものがほとんどであり、認知意味論の
‧
立場から見た動詞由来複合語の研究はまだ少ないようである。
y
sit
io
er
研究方法
Nat
2.4
本節では本論文で使う主な理論枠組みを提示する。
n
al
2.4.1
Ch
engchi
カテゴリー化(categorization)
i
Un
v
この世にあるもの、ことを様々なグループに分類するという心的過程
(mental process)を認知言語学ではカテゴリー化と呼ばれる。たとえば、飛
行機、車、船などは「交通機関」という上位レベルに帰納される。そして、車
を例にすれば、その下位分類として、軽自動車、ワゴン車、セダン、リムジン
などが挙げられる。このように、カテゴリーはふつう三段階の階層構造
(hierarchical structure)となっており、それぞれ上位レベル・カテゴリー
(superordinate level category)、基本レベル(basic level category)、下
位レベル(subordinate level category)と名づけられている。この概念を言
語に適用したところ、基本レベルは日常でも頻繁に使われ、外国語学習者や子
供の言語習得に当たり、一番最初に覚えることばになる。そして、上のレベル
11
に行けば行くほど、総称的になりやすいし、逆に下に行けば行くほど概念が複
雑になる。図示すると次の通りになる。
(10)
交通機関
上位レベル・カテゴリー
飛行機
車
ワゴン車
セダン
2.4.2
船
基本レベル・カテゴリー
リムジン
下位レベル・カテゴリー
スキーマ(Schema)
治
政
大
カテゴリーに属するメンバーの共通点を抽象化し、その抽象化された「鋳型」
立
がスキーマである。しかも、[A]、[B]、[C]は必ず“[B]、[C]は[A]の一種”と
スキーマという用語は最初認知心理学の分野で用いられた。我々人間は同じ
‧ 國
學
いう関係にある。具体的な例を取り上げると、(10)に挙げた「ワゴン車」も
「セダン」も「リムジン」もいずれも「エンジンで駆動し、四輪で地上を走行
‧
するという点で「車」といえる。そして、「ワゴン車」と「車」を比べてわか
sit
y
Nat
るように、「ワゴン車」は必ず四角くて、後ろのトランクがなく、車高が何ミ
io
n
al
er
リメートルか以上でなければならず、「車」より具体的な形が頭に浮かぶ。
(11)
Ch
(スキーマ)
[A]
[B]
(事例)
i
Un
v
e n g c h i (より抽象的)
[C]
(事例)
(より具象的)
ジョン・瀬戸(2008:16)
2.4.3
理想化認知モデル(Idealized Cognitive Model)
我々はあることばを使用する際、そのことばにある様々な知識や文化背景な
どを前提に、意味を単純化、理想化して捉えている。このようにある対象を特
徴付けるために稼動する知識構造は理想化認知モデルと呼ばれている。
12
(12)経験と概念化
=対象と経験の関係
=概念の記号化
吉村(2003:202)
政 治 大
「bachelor」を「未婚、独身男子」と理解するのだが、あまりローマ法皇を
立
最も有名な例の一つである「bachelor」の例を挙げよう。ふつう、我々は
‧ 國
學
「bachelor」と呼ばないのは「ローマ法皇は結婚しないことになっている」と
いう知識に起因するのではないであろうか。こうして「ローマ法皇」を
‧
「bachelor」と理解しない ICM が機能すると同時にプロトタイプ効果も現れる。
(i.e. ローマ法皇は bachelor のプロトタイプではないこと)
y
sit
al
er
io
終わりに
Nat
2.5
iv
n
C
た。2.2 で見たように、一見したところ、どれも動詞成分を含んだ複合語とし
hengchi U
n
本章では本論文の研究対象、研究背景及び本論文の主な理論枠組みを見てき
か見えないが、前後の関係や対応する動詞の有無からさらに下位分類すること
ができることが判った。2.3 では先行研究を年代別に分け、それぞれの段階で
いかなる研究がなされたか、また認知意味論に基づいた研究が少ないことにつ
いて述べた。次の章では最初に重要な先行研究をもう一度検討し、その後 2.4
で提示した理論を導入し、本論文の提案を見ていく。
13
第3章
3.1
動詞由来複合語の語形成
はじめに
本章ではまず動詞由来複合語の語形成に関する先行研究を概観し、問題点を
提出してから 3.3、3.4 で本論文の提案について述べる。3.5 で複合語を機能
ごとに先行研究の反例を検討しながら、筆者の主張の妥当性を検証する。3.6
では従来全く見過ごされてきた複合語の選択制限について考察し、3.7 で本論
文の提案する語形成モデルを再検討して終わりにする。
3.2
先行研究
治
政
大
り、従来の研究は形式重視のものがほとんどである。以下では
3 つの代表的な
立
研究を年代順で見ていく。
筆者の知る限りでは動詞由来複合語の認知意味論的な先行研究は皆無であ
‧ 國
學
3.2.1
影山(1999)
‧
影山は Selkirk(1982)の第一投射の条件(First Order Project Condition)
sit
y
Nat
を日本語に適用し、日本語の動詞由来複合語の語形成を考察している。英語で
io
er
は「子供が遊ぶこと」という意味の「*child-playing」や「赤ちゃんが泣くこ
と」を意味する「*baby-crying」
(pp.126)など、
「主語+動詞」という組み合
n
al
Ch
i
Un
v
わせは不可能だとされているが、日本語には「胸騒ぎ」や「地鳴り」などとい
engchi
った「主語+自動詞」の結合パターンも見られるので、影山は外項(external
argument)と内項(internal argument)を区別した上で、Selkirk の主張を
より正しく規定している。具体例を示すと、次の通り11である。
(1) 主語(外項)+非能格自動詞:カエル泳ぎ、ウサギ跳び、韋駄天走り
…
(2) 主語(内項)+非対格自動詞:雨漏り、肩こり、心変わり、胸焼け、
地響き…
(3) 目的語(外項)+他動詞:*子供遊び、*赤ん坊泣き、*(子供の)親
11
14
これらの例はすべて影山(1999:126-127)による。
育て12…
(4) 目的語(内項)+他動詞:しりとり、缶けり、輪投げ、玉入れ、ババ
抜き…
外項に見える複合も一二あるが(i.e. (1))、それは本当に「カエルが泳ぐ」
や「ウサギが跳ぶ」13などということを意味するのではなく、
「~のようにする」
という直喩表現である。少なくとも、現時点では「受取人払い」といったごく
少数の例外を除き、「外項+動詞連用形」型の複合は許されない14と思われる。
3.2.2
杉岡・小林(2001)
治
政
大
詞連用形」型と「付加詞+動詞連用形」型と分けている。そして、動詞の意味
立
構造(アクション・チェイン;action chain)を導入し、「付加詞+動詞連用
形」型の動詞由来複合語を分析している。
學
‧ 國
杉岡・小林は影山(1999)の考えを受け継ぎ、動詞由来複合語を「内項+動
‧
(5) 卵を釜で徐々に固くゆでる
io
al
徐々に
n
釜で
↑
Ch
er
↑
sit
y
Nat
<行為(ACT)>→<変化(BECOME)>→<結果状態(BE)>
iv
↑
固く
n(杉岡・小林 2002:253)
U
engchi
「卵を釜で徐々に固くゆでる」という文における三つの副詞は(5)に示し
ている意味と関わり、動詞との結合により「釜ゆで」と「固ゆで」と二つの複
合語ができる15。英語の動詞由来複合語は項構造でのみ生成されるのに対し、
日本語の動詞由来複合語は項構造のみならず、動詞の意味構造においても生成
される。
12
「親が子供を育てる」という意味では不適格になる。
類例として「鷲づかみ」や「うなぎ登り」
、「とんぼ返り」などが挙げられる。
14
上に述べたのは和語の場合であり、
「外項+漢語動名詞」については小林(2004)が詳しい。
15
同書では変化(BECOME)に関与する「*徐々ゆで」は言わないが、「早ゆで」などは文脈に
よっていえる場合もあると説明されている。
13
15
伊藤・杉岡(2002)16
3.2.3
杉岡は上の先行研究を踏まえ、日本語の「内項+動詞」型の動詞由来複合語
も項構造で生成されると主張している。しかし、英語の動詞由来複合語はコト
を表す「-ing」やモノ、人間を表す「-er」などの接辞を用いるのに対して、
日本語はどれも動詞の連用形で終わるので、次のような外心構造17をなしてい
ると仮定している。
(6)
N
V’
立
Vx<yi>
學
‧ 國
Ni
ゴミ
政 治 大
ひろい
‧
主要部が動詞にもかかわらず、複合語全体としては動作の名前や職業などを
sit
y
Nat
意味し、普通名詞として使われるため、
「-する」について述語に使えない。そ
io
er
れに対し、付加詞との複合は、前項の付加詞が主要部動詞の語彙概念構造にお
いて、どの意味述語を修飾するかに従い、複合語の構造も変わると指摘されて
n
al
Ch
i
Un
v
いる。たとえば、「ペン書き」における「ペン」は主要部動詞「書く」の語彙
engchi
概念構造の「ACT」の部分を修飾するので、
「ペン書き」はやはり動詞に使える
が、
「うす切り」における「うす」は主要部動詞「切る」の語彙概念構造の「BE」
を修飾するので、複合語全体も「結果状態」を表し、「~はうす切りだ」とい
うように使われるのである。
16
筆者が参考にした部分は主に杉岡が執筆したものである。以下、特に年代を明示しない部
分は、すべてこの論文によるものである。
17
益岡(1987)でいう外心構造は、[[山口先生は][[生徒に][きびしい]]]のような属性叙述
文の統語構造のことをいい、また氏のいう内心構造は[[山口先生が][生徒を][しかった]]のよ
うな事象叙述文の統語構造(述語を主要部としたものと名詞句を補足部としたものが姉妹関係
をなしている構造)のことをいうが、ここでいう外心構造は語レベルのことで、全体の意味が
主要部から読み取れないものをいう。1.2.2 も参照。
16
(7)
VN x < y >
N
N
VN x < y >
A
N
ペン
書き(する)
うす
切り(だ)
伊藤・杉岡(2002:124-125)
さらに、二種類の複合語は音韻的にもそれぞれの特徴を見せている。内項と
の複合は連濁せずに発音され、しかも動詞のアクセント(起伏型)となってい
るが、付加詞との複合は連濁を起こし、そして名詞アクセント(平板型)とな
っている18。
――-┐
立
政 治 大
─-┐
‧ 國
― ― ―
學
(8) 内項:ほん よ み(本読み)(cf. 動詞用法: 本を 読 みに行く)
― ― ―
―
付加詞:ぼーよみ、たちよみ(立ち読み)
(cf. 名詞用法:本の読みが
‧
浅い)
Nat
al
n
考察の結果は次の表にまとめられている。
engchi
i
Un
v
表1
内項の複合
付加詞の複合
例
ゴミひろい
手書き、薄切り
指示物
動作の名前
複雑述語(動作・状態)
品詞
普通名詞
動作性名詞、述語名詞
構造
外心構造
内心構造
動詞アクセント
名詞アクセント
起こさない
起こす
項構造
LCS
連用形のアクセント
連濁
レベル
18
Ch
er
io
sit
y
伊藤・杉岡(2002:126)
西尾(1961)も参照。
17
伊藤・杉岡(2002:130)
3.2.4
先行研究のまとめ及び問題点
まず、語の結合パターンについてであるが、2.2 では動詞由来複合語の構成
要素は文法関係によって結合すると述べたが、主語か目的語かということだけ
考えるのは不十分であり、影山が指摘しているように、外項と内項を区別する
ことが必要だと思われる。外項との結合は、ごく限られた一部の例外(受取人
払い、犬走り、鳥居)を除き、ほとんど不可能である。
次に、付加詞との複合の場合、複合語の前項が主要部動詞の意味構造のどの
部分を修飾するかによって、複合語全体の文におけるふるまいが影響されるこ
政 治 大
ともほぼ杉岡が指摘している通りになっている。
立
(9) [道具-ACT ON]ペン書き、ワープロ書き、手作り、機械編み(する)
‧ 國
學
[様態-ACT ON]はしり書き、べた書き、にわか作り、蒸し焼き、二度
塗り、下焼き、粗削り、空煎り(する)
‧
[原因-BECOME]日焼け、雪焼け、船酔い、仕事疲れ、ビール太り、着
y
sit
Nat
ぶくれ、寝冷え(するをとることができる)
io
al
n
山積み(だ)
er
[結果状態-BE]四つ割り、薄切り、角刈り、白塗り、厚焼き、固ゆで、
Ch
i
Un
v
[材料-BE]石造り、木彫り、モヘア編み、毛織り(だ)19
engchi
しかし、杉岡の主張に反する例も少なからず存在する。
(下線筆者)
(10)私とお婆ちゃんは指切りしてお別れした。20
(11)ポン引きやおかまも店じまいしてしまったのだろう。21
(12)?パスタを早ゆでする。(cf. 早ゆでパスタ)
(13)ただしホンモノの温泉のなかには、温度調節のためではなく、別の目
的で源泉を水で割っているところもあります。22
19
20
21
22
18
(9)は伊藤・杉岡(2002:117-120)による例である。
『忘れないで不動産屋一代』
『暗闇の達人』
『一度は泊まってみたい癒しの温泉宿』pp.171
→?別の目的で源泉を水割りにしているところもあります。
(cf. ウイ
スキーを水割りにする。)
(10)と(11)は主要部動詞の内項との複合にもかかわらず、普通名詞とし
て「~をする」に使われるのではなく、直接「-する」について動詞述語に使
われており、表 1 の「品詞」のところの反例となっている。(12)は付加詞と
の複合であるが、動詞により、形容詞に使われるほうが多いようであり23、し
かも杉岡の一般化にも反している24。
(13)は「水で割る」という部分を「水割
りにする」と言い換えるとふつうではないと思われる。しかし、杉岡の主張に
よれば、(10)と(11)はあくまで普通名詞であるため、そもそも動詞として
治
政
大
も LCS から複合語の選択制限がどこによるのか説明できない。
立
は使えないと予想される。また、LCS で形成されるとされている(12)と(13)
‧ 國
學
(14)「早茹で」と「水割り」の LCS:
「早茹で」:[x ACT-ON y FAST]
‧
「水割り」:[[x ACT-ON y BY MEANS OF WATER] CAUSE [y BECOME[BE
er
io
sit
y
Nat
DILUTE]]]
(14)から我々は付加詞が元動詞の LCS におけるどの意味述語を修飾するか
n
al
Ch
i
Un
v
という情報しか読み取れず、なぜ「源泉を水割りにする」ことが違和感を覚え
engchi
させるのかという情報は入っていない。そこで、複合語全体の統語的特性は杉
岡の指摘の通り、付加詞が修飾する LCS の意味述語によって左右されやすいと
いうことは確かであっても、(10)~(13)に挙げた現象も説明できる語形成
モデルが必要だと思われる。
3.3
本論文の提案
従来の研究では、語の構成に重点が置かれ、考察が行われてきた。最も代表
23
Google 日本で『早茹での』と『を早茹でし』で絞り検索した結果、それぞれ 1380 件と 107
件だった。
24
杉岡は「手作りする」
、「手作りの人形」のように二通りの使い方を持つのは道具・様態を
意味する付加詞が作成・使役変化動詞と複合した場合に限られると指摘している。(伊藤・杉
岡 2002:121)
19
的な研究ともいえる杉岡の研究も音韻構造と生産性などの面から、「内項+動
詞」型と「付加詞+動詞」型の動詞由来複合語を二つの異なったレベルで生成
されると証明しようとし、語形成プロセスに着目し、考察を進めているが、筆
者は認知意味論の用法基盤モデルの立場から、意味重視の語形成モデルを提案
したい。
認知意味論の言語観では、ことばはあくまでも現実世界から切り離され、独
立した存在ではなく、常に現実世界と関わり合っており、認知能力の一種とさ
れている。具体的な例を挙げると、我々人間はあるものを見たときに、そのも
のの成分より、用途を先に認知するのではないだろうか。たとえば、あるボー
ルを見た場合、それを「セルロイドボール」や「ゴムボール」よりも、先に「ピ
治
政
大
は言語にも反映されると考えられ、本論文の研究対象を取り上げて述べると、
立
筆者は「内項+動詞連用形」だから、動作の名前だとか、「付加詞+動詞連用
ンポン玉」、
「野球ボール」と認識するのではないだろうか。そして、この事実
‧ 國
學
形」だから、複雑述語だとかいうふうに考えず、むしろ現実世界で「需要」
(動
機付け)があるので、既存の「型」(スキーマ)を通して複合語を創り出すと
‧
考える。ただし、筆者の知る限りでは、従来の認知意味論に基づいた研究では、
sit
y
Nat
複合語の意味は往々にしてその構成要素の足し算で求められるものではない25
io
er
と見るものが多いようである。たとえば、ジョン・瀬戸(2008)は「ウイスキ
ーの水割り」という例を挙げ、その文における「水割り」は「水」と「割り」
n
al
Ch
i
Un
v
が合成したものよりも、「水割り」が一つで知覚されると述べている。確かに
engchi
その考え方に基づいては、我々がふだん食べる「油揚げ」も単に「油」と「揚
げる」による結合に過ぎないとは考えられず、「油+揚げる+豆腐」という
「1+1=2+α」と考えざるを得ないが、それにしても複合語の分析可能性
(analyzability)を完全に否定するまでもないだろう。事実、
「油揚げ」が「油
揚げ麺」のような使われ方では、むしろ全体は「油で揚げる」としか意味しな
いし、つまり「1+1=2」のような結果になっているのではないかと思われる。
では、動詞由来複合語は一体いかに形成されるのだろうか。筆者は次のような
語形成モデルを考案している。
25
20
すなわち「1+1≠2」というゲシュタルト(Gestalt)という考え方である。
(河上 1996)
(15)認知意味論に基づいた動詞由来複合語の語形成モデル26
27
治
政
大
れがちながらも、その構成から抽出されたスキーマは一つの語形成の仕方とし
立
て健在しているのだと考えられる。
先に挙げた「水割り」や「油揚げ」などのように、たとえ一語として意識さ
‧ 國
學
(16) [[主要部動詞の内項/付加詞]動詞連用形]
スキーマ
‧
[[オリーブ油]揚げ]
事例
er
io
sit
y
→
Nat
[[油]揚げ]]
この考え方に基づいては、動詞由来複合語は項構造レベルで形成されるか、
n
al
Ch
i
Un
v
語彙概念構造レベルで形成されるかという区別がなくなり、このような形態を
engchi
持つすべての造語は類推もしくはアナロジー(analogy)によるものだという
ことになる28。このように、前項は様々な要素を入れ替えるという範列的関係
(paradigmatic relation)が可能ながらも、それは後項、すなわち主要部動
詞の内項か付加詞のいずれかでなければならないという統合的関係
(syntagmatic relation)はふつうの文と共通し、音素レベルから文レベルま
で、スキーマで統一的に捉えようとしている認知言語学の発想と重なる部分も
あると思われる。ただし、本論文の第 1 章でも言及した名づけ機能が示した通
26
このモデルは吉村(2003)を参考に筆者が作成したものである。
ここでいう「既存の語」とは我々の脳内に存在する心的辞書に登録されている語のことで
ある。
28
西尾(1988)も似たような考えを示しているが、生産性の格差から、複合語を創り出す「型」
が一つだけではなく、幾つか存在するとしている。また、浅尾(2007、2009)も構文形態論
(Construction morphology)を導入し、筆者と近い考えを示している。
27
21
り、
「語」である以上、必ず「文」と違う部分があると想定される。たとえば、
影山(1999)は第一章の冒頭で、次の例を挙げて比較している。
(17)a.私は山に登るのが好きだ。
b.私は山登りが好きだ。影山(1999:2)
(18)黒塗りの車
氏の説明によると、複合語表現の「山登り」は単に「山に登ること」を意味
するに止まっているのではなく、スポーツないしリクリエーション活動として
の山に登ることに意味が限定されるという。同様な現象は(18)においても見
治
政
大
らず、特に高級な乗用車を指すという 。形式重視の研究では、
上の現象を「語
立
彙化(lexicalization)」によるものだと扱われているが、認知論の立場では、
られる。
(18)の指示対象はただ「黒く塗った/塗られた車」という意味のみな
29
‧ 國
學
名づけ機能がもたらした特殊な意味は実は我々の経験と密接な関係に立って
いると考えられ、なぜほかの意味が自動的に排除されるかは理想化認知モデル
‧
(Idealized Cognition Model)によるものだと考えられる。
sit
y
Nat
(15)を通して、従来では例外と扱われてきたものが説明できるほか、語彙
io
n
al
er
化と処理された部分も捉えることができると予期される。
3.4
Ch
名づけとしての動詞由来複合語
engchi
i
Un
v
筆者は二つのレベルから形成されるとされてきた二種類の動詞由来複合語
を一つのスキーマから創り出されると想定した上、どちらも動詞が表す事態に
対する名づけ30と捉え直したい。すなわち、「玉乗り」は「玉に乗ること」で、
「手縫い」は「手で縫うこと」と捉えるのである。そもそも日本語の「複雑述
語」に「ぶち壊す」や「読み始める」
、
「泡立つ」といった複合動詞及び「毛深
い」や「聞き苦しい」といった複合形容詞が存在するのに、なぜ「複雑述語」
に使われる動詞由来複合語が名詞形となっているのかというのも興味深い疑
29
米国、プリンストン大学の牧野成一先生による指摘である。
杉岡は内項複合語を「動作の名前」としているが、
「金魚すくい」など、「動作の名前」と
してはふさわしい例もあれば、「崖崩れ」や「左利き」などといった「動作」と言いがたい例
もあるので(台湾、東呉大学の頼錦雀先生による指摘)、ここでは動詞が表す(抽象的な)事
態に対する名づけとしておく。
30
22
問である。
にもかかわらず、内項、付加詞という区別をせずに、一律に「動詞が表す事
態に対する名づけ」と扱っていいのかと問い掛けたくなるかもしれない。確か
に内項との複合は一つの出来事として、意味が整合しているので、「動詞が表
す事態に対する名づけ」という解釈にふさわしいが、「付加詞+動詞」型も常
に主要部動詞の目的語を文に放出しなければならないというわけではない。た
とえば、「早押し」といえば、何を押すか、「夜釣り」といえば、何を釣るか、
また「輪切り」といえば、何を切るかは動詞「押す」
、
「釣る」、
「切る」と比べ、
それほど重要ではないようである。なぜなら、これらの複合語は「名詞」だか
らである。動詞と名詞の関係を(19)の Langacker(1987)の図で説明すると、
治
政
大
で、過去か現在か、それとも未来かというテンスや開始、進行中、完了などの
立
アスペクトを表示しなければならないし、「誰が何を」、「何がどう?」という
動詞は(19a.)のように出来事に関与する時間的局面を一つ一つ描写するもの
‧ 國
學
ような動作の参与者も常に我々の念頭に置かなければならない。それに対し、
名詞は(19b.)に示しているような時間を超越する概念なので、テンスやアス
‧
ペクト情報はすべて捨象され、しかも、ふつう名詞はあるモノやコトに用いる
y
sit
io
n
al
er
要31ではない。
Nat
名づけであるため、「誰が何を」や「何がどう?」といった情報は必ずしも必
Ch
(19)a. 連続走査(sequential scanning)
engchi
i
Un
v
b. 累積走査(summary scanning)
31
政治大学の吉田妙子先生の指摘によると「犯人」のような「何の犯人?」という一項名詞
が存在するという。
23
Langacker(1987:144)
これは動詞由来複合語に限って見られる現象ではなく、派生名詞、複合名詞
を含み、全ての名詞に共通する概念である。たとえば、「追い越す」なら、常
に「X が Y を追い越す」というふうに動作の参与者を一々明示しなければなら
ないし、「今から追い越す」か「既に追い越した」かなどという情報も言明し
なければならないが、名詞化された表現の「追い越し」は通常、(20)に示す
ように「同じ方向に向かい、同じ車線を走行中の車が、後方にある車が車線を
変更し、前方にあった車を越えて走行すること」という行為を表すゆえ、「誰
が何/誰を追い越す/したか」は追究されない。
治
政
(20)“追い越し”に対するイメージスキーマ大
立
‧
‧ 國
學
io
sit
y
Nat
n
al
er
さて、内項との複合か付加詞との複合かを問わず、形態的に名詞となってい
i
Un
v
る動詞由来複合語を一律に「動詞が表す事態に対する名づけ」としていいのだ
Ch
engchi
ろうか。ここで、斎藤(2004)を引用すると、斎藤(2004)も後項が「~投げ」
の動詞由来複合語を 8 例取り上げ、筆者と同様な扱いをしている。
(21)すくい投げ→(相手を)すくうようにして投げること
背負い投げ→(相手を)背負うようにして投げること
円盤投げ→円盤(のようなもの)を投げること
ハンマー投げ→ハンマー(のようなもの)を投げること
砲丸投げ→砲丸(のようなもの)を投げること
槍投げ→槍(のようなもの)を投げること
雪投げ→雪(の玉)を投げること
輪投げ→輪を投げること
24
(22)・すくい投げ:相撲の技
・雪投げ
・背負い投げ:柔道の技
・輪投げ
子供の遊びの名称
・円盤投げ
・ハンマー投げ
陸上競技の名称
・砲丸投げ
・槍投げ
斎藤(2004:80-81)
(21)、
(22)では「内項+動詞」型と「付加詞+動詞」型が混ざっているが、
同書で言及されているように、それぞれ何に対する名づけなのかということが
治
政
大
いられる「内項+動詞」型の「円盤投げ」や「ハンマー投げ」などに上位概念
立
の「陸上競技の名称」が存在するように、「すくい投げ」や「背負い投げ」な
重要である。「円盤を投げること」、「ハンマーを投げること」の名前として用
‧ 國
學
ど付加詞との複合の場合も上位概念の「相撲の技」
(あるいは決まり手)と「柔
道の技」が存在する。ただし、「相撲の技」という上位概念に対応する技の名
‧
前はまず一つしかないと考えられない。従って、動詞由来複合語か否かという
y
sit
io
n
al
er
た。
Nat
ことにかまわずに、「相撲の技」に対応する名前を調べた結果、次のものを得
Ch
i
Un
v
(23)突き出し、寄り切り、押し倒し、一本背負い、上手投げ、足取り、吊
engchi
り落とし、送り投げ、合掌捻り、居反り、蹴返し、腰砕け…32
語構成は違うものの、
「名前」として機能する点は変わらないと思われるの
で、筆者が名詞形となっている動詞由来複合語をすべて「動詞が表す事態に対
する名づけ」とする主張は必ずしも不適切ではないと考えられる。
3.5
動詞由来複合語の機能
語形成モデルの妥当性を検証すべく、伊藤・杉岡(2002)になぞらえて複合
語の統語、意味及び音韻等の面から検討しなければならないが、本節は統語と
32
“Wikipedia” 大相撲の決まり手一覧項目
25
意味(表 1 に指示物及び品詞に当たる部分)に焦点を置いて考察を進めたい。
影山(1999)等が述べているように、動詞由来複合語は次のように名詞、動
詞、形容詞33と三つの用法を併せ持っている。
(24)名詞:花見に行く。玉入れをする。絵描きがいる。二つ切りにする。
(25)動詞:ごぼうを灰汁抜きする34。料理を手作りする。ママと指切りす
る。
(26)形容詞:3 人乗りの自転車。種抜きのオリーブ。石焼き芋。耳寄りの
情報。
治
政
大
や道具(e.g.缶切り)なども表し得るし、意味が多岐に渡っている。意味から
立
分類すれば、コト名詞とモノ名詞に大別できるが、コト名詞は動作の名前にふ
まず名詞に使われる場合は出来事を始め、それに関わる人間(e.g. 絵描き)
‧ 國
學
さわしくても、モノ名詞は到底そう言いにくいと思われる。この意味の多様性
に関して、従来では NVN という構造をなしている複合名詞の第 3 項が削除され
‧
たものとされているか(奥津 1975)、一次複合語と扱われている(影山 1999)。
sit
y
Nat
この問題については第 4 章で詳しく検討することにするが、ここではまず複合
io
er
語の拡張の意味はメトニミーによるもので、全ての意味は「動詞が表す事態」
に基づいたものだと考えておく。
n
al
Ch
i
Un
v
次に、動詞に使われる場合は(25)に書いているように、他動詞と自動詞と
engchi
二種類の用法が見られる。内項との複合の場合、複合語自体は一つの出来事と
して意味が明白であるので、特に問題がないが、付加詞との複合の場合、主要
部動詞が要求する目的語は動詞単独の場合に比べ、強く制限されることもあり
(e.g. (12)、
(13))、
「何に対する名づけなのか」に影響される部分が大きい
と考えられる。
最後に形容詞に使われる場合であるが、これは動詞の場合と同様に、複合語
が要求する項、つまり被修飾語も「何に対する名づけなのか」に強く影響され
るようである。(e.g. 早茹でパスタ、?早茹でたまご)
33
ここでいう形容詞は名詞修飾形が「な」ではなく、
「の」に従うようになっているので、形
態論的には名詞に分類されるが、意味的には形容詞に近いので、形容詞として扱うのが妥当で
あろう(村木(2002、2008 等)でいう第三形容詞をも参照されたい)。
34
『スーパー大辞林』
26
こうして、動詞由来複合語のスキーマ的意味は「動詞が表す事態に対する名
づけ」と統一的に捉えられても、実際の意味は使われ方によって変化するのが
わかり、次の節から機能ごとに考察していきたい。
3.5.1
形容詞に使われる動詞由来複合語
最初に形容詞に使われる動詞由来複合語を見る。従来の指摘では、形容詞と
して機能するのは付加詞との複合の役目だとされている35。具体的には次のよ
うなものが挙げられる。
(27)手作りケーキ、石焼き芋、旬摘みお茶、朝採りいちご、固ゆでたまご、
治
政
大 階建てのアパート…
(28)2 人乗りのスポーツカー、7 人がけの座席、3
立
塩茹で枝豆、平積みの本、輪切り唐辛子、黒塗りの車…
‧ 國
學
これらは動詞単独の場合(e.g. 焼き芋、ゆで卵)と比べ、
「何で作った/焼い
た/茹でたのか」、
「いつ採ったのか」、
「いかに積んだ/切ったのか」といった材
‧
料、道具、時間、結果などの付加的情報が盛り込まれており、杉岡・小林(2001)
sit
y
Nat
などでいわゆる「複雑述語」に当たっている。問題は、複合語の意味は本当に
io
er
単に「手で作った/作られた36ケーキ」、「石で焼いた/焼かれた芋」、「旬に摘ん
だ/摘まれたお茶」
、「2 人乗れるスポーツカー」、「3 階に建てた/建てられたア
n
al
Ch
i
Un
v
パート」に止まっているのだろうか。影山(1999)では「手編み」などの例が
engchi
挙げられ、次のようなことが指摘されている。
(29)これらの名詞要素37の働きは、
「手編み」の「手で」のように手段を表
したり、「産地直送」の「産地から」のように起点を表したりと様々
であるが、複合語であるからには、何らかの付加的な意味が含意され
ることが多い。たとえば「手編み」なら「心がこもっている」
、
「産地
直送」なら「新鮮である」といったニュアンスが感じ取ることができ
35
たとえば、影山(1999:138)に挙げられた「手編み」
、
「親譲り」、
「大学出」などもほとん
ど主要部動詞にとっての必須項とは思えない。
36
英語の「-ed」に訳されることから(e.g. handmade cake;morning picked strawberry;
two-seated sport car;three-floored apartment)、これらの複合語が受身的解釈を受けるこ
とがわかる。
(影山 1999:138 も参照)
37
複合語の前項を指す。
27
る。(影山 1999:138)
影山の指摘と同様に、筆者は 3.3 の(18)でも「黒塗りの車」という例を挙
げ、
「黒塗りの車」はただ「黒く塗った/塗られた車」を意味するだけではなく、
「高級な乗用車」をも意味することを述べた。問題はこれらの「ニュアンス」
を我々は果たしてどこから読み取るのかということである。語彙概念構造によ
る記述はそういう付加的意味が記されていないため、我々はせいぜい前項が主
要部動詞のアクション・チェインのどの部分を修飾するのかしか知れず、付加
的意味は個別的な記憶に頼らざるを得ないことになる。
治
政
(31)[時間 ACT-ON y]:旬摘み、朝採り… 大
立
(32)[結果 ACT-ON y]:固ゆで、平積み、輪切り、黒塗り、3 階建て…
(30)[道具 ACT-ON y]:手作り、石焼き、塩茹で38…
‧ 國
學
従来のように、付加的意味を語彙化の産物と見れば、問題が解決されそうに
‧
見えるが、しかしそうすると、今度は次に挙げる問題が浮かんでくる。
sit
y
Nat
io
er
(33)意味的に+αを感じやすいもの:少年院がえりの先輩39、手作りケー
キ、旬摘みお茶、朝採りいちご、平積みの本…
n
al
Ch
i
Un
v
(34)意味的に+αを感じにくいもの:2 人乗りのスポーツカー、7 人がけ
engchi
の座席、3 階建てのアパート、固ゆでたまご、塩茹で枝豆、輪切り唐
辛子…
直感的に(33)の例には付加的意味が含意されている。「少年院がえりの先
輩」は少年マンガに出たシーンで、マンガの主人公の所属の中学校にある応援
団にいる少年院から帰った先輩を中心として、上級生は新入の団員らに暴力を
振るったり、退部しようとする団員を恐喝したりする。それを止めようとする
新聞部長は立ち上がるが、逆襲をさせられ、散々になる。勝利を収めて祝いの
38
「塩」は「材料」とも解釈できるが、ここでの問題と特に関係がないので、道具だけと見
ておく。
39
『エスパー魔美 4』より
28
会を開いた団員らはその会で先輩のごまをすろうとして、「少年院がえりのた
のもしい大先輩をもって、われわれは幸せであります」と発言する。通常少年
院や刑務所に入ったことは恥じるべきことであるが、上の場面では、その「少
年院がえりの先輩」がむしろ尊敬されているように思われる。裏の社会では、
刑務所に入った経験は、まさに「男の勲章」だと思われるという。それで、
「少
年院がえり」に「頼もしい」などというプラス的な意味が盛り込まれるわけで
ある40。
「手作りケーキ」についてであるが、影山が指摘しているように、まずこの
「手作り」に「心がこもっている」ということが感じられる。類例として、
「手
縫い」や「手摘み」、
「手書き」などが挙げられる。これらは影山が指摘した意
治
政
大
産、大量消費の社会では、商品はほとんど機械によって生産されるので、我々
立
も使っては捨て、使っては捨てをしがちであり、商品に対して必ず感情を持っ
味を感じさせるのも言語外の知識41によるのではないだろうか。今日の大量生
‧ 國
學
ているとは限らない。その一方で、製造者が感情を込めて自分の手で一つ一つ
作り上げたものは、たとえ形が整っていなくても、感情のない機械で作ったの
‧
ではなく、喜怒哀楽を感じる人間が作ったのだから、なんとなく製造者の心が
sit
y
Nat
感じられるわけである42。
io
n
al
er
さらに、
「朝採り」は一般のものと比べ、次のような意味が含意されている。
Ch
i
Un
v
(35)朝採り野菜:野菜全般に、品温が下がっている朝に収穫することで、
engchi
収穫後の呼吸による糖分等の消耗が少なくみずみずしさが保持され
る。なす、きゅうりなどは葉で光合成された養分が夜間に移動して果
実に蓄えられる。太陽の光が当たると色素の働きで色が濃くなるため、
朝採りの果実はやや淡いみずみずしい色をしている。
(http://www.pref.nara.jp/dd_aspx_menuid-8031.htm)
「旬摘み」についても、その前項の「旬」が意味すること43から、被修飾語
40
「ムショ帰り」(刑務所帰り)についても同様な分析ができるだろう。
いわゆる「百科事典的知識」とも。(影山 1999;早瀬・堀田 2005 など)
42
そのほか、場合によって、人間の手で作ったものは機械で作ったものより精密というニュ
アンスも感じられる。
43
たとえば、スーパー大辞林の解釈には「魚介類・野菜などの,味のよい食べ頃の時期。出
41
29
は一般のものよりおいしいと思われる。被修飾語により、「春摘み」や「秋摘
み」などの表現も可能である。(下線筆者)
(36)「初摘み紅茶 DJ-1」同様、エネルギッシュな若々しい味は健在。春摘
みの特徴である若い味、ほのかな酸味が上品に表現され、時間の経過
とともにカップの中で味が変化していきます。いつまでもその余韻を
楽しめる、存在感ある紅茶をお楽しみください。44
(37)秋摘み新茶は、春の新茶と同じような気候になる“秋分の日”頃に収
穫されるお茶で、秋の新芽の一芯三葉部を中心に手摘みされる非常に
貴重で高級なお茶なんです。45
治
政
大
最後に、「本」を修飾することの多い「平積み」も単に「平たくなるように
立
積むこと 」を意味するにとどまらず、往々にして新刊やベストセラーを指す
46
‧ 國
學
ことが多いようである。従って、机の上の「積読」が平たくなっていても、
「平
積みの本」とは言いがたい。
‧
(33)に挙げた例は上述したような付加的意味を感じさせるのに、LCS から
sit
y
Nat
それらの情報が読み取れないので、筆者はこれらの「言語外の知識」を ICM で
io
er
記述することを主張したい。まず最初の「少年院がえり」であるが、これは形
態としては「少年院から帰ること」に対する名づけであるが、意味は一般の人
n
al
Ch
i
Un
v
と裏の社会の人の中に存在する ICM によって変わると考えられる。
engchi
(38)ふつうの人に存在する立派な人間としての ICM:物知りで、金持ちで、
犯罪経験を持っていない。
(39)裏の社会の人に存在する立派な人間としてのモデル ICM:逮捕歴/刑務
所経験を持っている。
「立派な人間」をより詳しく定義するのに、さらに緻密な分析が必要である
が、差し当たり(38)、
(39)のように見てさしつかえないだろう。ここで強調
盛りの時期。
」というのがある。
44
http://www.makaibari.co.jp/shopping/tea/haruvintage.html
45
http://www.kanzacha.jp/ec/000920.asp
46
『大辞林』より
30
したいのは、我々が同じ「少年院がえり」に対し、なぜ違ったイメージを持っ
ているのかは実は我々の中に存在する ICM に左右されるからだということで
ある。なお、「手作り」や「旬摘み」などにいたっても、同様な分析ができ、
実際、「旬摘み」や「朝採り」などに対する背景知識を持たない人には、それ
らのことばの「真の意味」を必ずしも感じられず、せいぜい形態通りの意味の
「旬に摘んだ/摘まれた」、
「朝採った/採られた」としか感じ取れないこともあ
り得る。
さて、意味的にプラスαを感じさせやすい(33)が存在する一方で、意味的
にプラスαを感じにくい(34)も存在する。先述したように、もし複合語の付
加的意味を語彙化の産物と見るなら、同じ複合語であるのに、なぜ(33)の例
治
政
大
いのかが疑問になる。筆者は百科事典的意味を重視する(14)の語形成モデル
立
を通してはじめて両方の意味が説明できると考える。
は語彙化による付加的意味を帯びるが、(34)はそういう付加的意味を帯びな
‧ 國
學
まず「2 人乗り」と「7 人がけ」と「3 階建て」から見ると、これらの複合
語の前項はいずれも社会通念にふさわしい数字であり、特に驚くに値しないも
‧
のである。ゆえに付加的意味を感じさせないわけである。しかし、いま仮に前
sit
y
Nat
項を現実離れの数字、たとえば「100 人乗り(の車)」や「1000 階建て(のビ
io
er
ル)」と入れ替えるとすると、奇異な感じがするのではないだろうか。
「固ゆで」
や「輪切り」なども、我々の日常生活でよく見られる調理法なので、特に他の
n
al
Ch
i
Un
v
意味を感じず、複合語の意味を形態に表されている「固くゆでる」とか「輪に
engchi
切る」と受け止めるのだと思われる。
さて、上では「付加詞+動詞」の複合語を見たが、杉岡の一般化に反して、
内項との複合の場合も形容詞に使われる例も少なからず見受けられる。
(40)箱入りの本、瓶詰めのジャム、泥まみれのシャツ(由本 2009)…
(41)先割れスプーン、皮むきにんにく、CD 付きカルタ、種抜き梅、ラバー
貼りラケット、金張りくす玉、コンクリート敷きの床、タイル張りの
洗面台、先曲がりピンセット…
(42)魚焼き網、枝きりばさみ、蚊取り線香、人斬り包丁 …
(43)恐怖の鉄喰い植物(『ナニコレ珍百景』)、子持ちししゃも、指出し手
袋…
31
(40)の複合語は、後項の主要部動詞にとって必須の項(本が箱に入る;ジ
ャムを瓶に詰める;シャツが泥にまみれる)との複合でありながら、形容詞に
使えることを由本(2009)でも指摘されている。仮に(40)の複合語の前項が
内項と言えないとしても、
(41)の「先割れ」や「皮むき」、
「CD 付き」などと
(42)の「魚焼き」と「枝きり」、
「蚊取り」、
(43)の「鉄喰い」、
「子持ち」な
どはそれぞれ「先が割れる」、「皮をむく」、「CD が付く」、「魚を焼く」、「枝を
切る」、「蚊をとる」、または「鉄を喰う」、「子を持つ」などを意味することか
ら、真の内項だと言える。
(40)
、
(41)の複合語は受身の解釈が受けられる点で、付加詞との複合と同
じである。
立
政 治 大
(44)「瓶詰め」=瓶に詰めた/詰められた
‧ 國
學
「皮むき」=皮をむいた/むかれた
「種抜き」=種を抜いた/が抜かれた
Nat
sit
y
‧
「ラバー貼り」=ラバーを貼った/が貼られた
io
er
なお、これらの複合語は一部付加詞との複合の場合と同様に、しばしば形態
上の意味に止まらず、付加的意味を感じさせることが多い。「箱入り」のもの
n
al
Ch
i
Un
v
はギフトや高級品を指す場合もあれば、本の場合、ハードカバーの上製本を指
engchi
すことも多いのではないだろうか。「先割れ」は「スプーン」を修飾すること
が多いが、割れたスプーンの先端は不本意による結果ではなく、「フォークの
役目も兼ねる47」ためにした結果である。また、
「皮むき」もただ「皮をむいた
/むかれた」ことを意味するだけではなく、往々にして何かの目的で「前もっ
て皮を剥いておいた」ものを修飾する。さらに、「種抜き」も「食べやすくす
るために販売する前に種を取り出した」ものを示す場合が多いと思われ、ラバ
ー貼りラケットというのは別売りのラバーが貼られたものではなく、
「初心者、
一般向けの(安い)ラケット」を指すと思われる。
(42)は「~のための」或いは「~できる」を意味する。つまり、「魚焼き
47
32
『大辞林』より
網」は「魚を焼くための網」若しくは「魚を焼ける網」を、「枝きりばさみ」
は「枝を切るためのはさみ」か「枝を切れるはさみ」を表している。内項との
複合の場合、一部は道具を表すことができるが(e.g. 爪きり、耳かき、栓抜
きなど)、基本的としては出来事を意味すると考えられるので48、(42)の例は
内項の基本義によって、道具の意味が制限されると思われる。
(43)の一群は受身の解釈を受けにくいが、修飾対象に対し何か属性をつけ
るのはほかの複合語と変わったところがない。なお、
「指出し(手袋)」は「指
が出せる」、つまり可能を意味し得る点では、
(28)の「2 人乗り」
、
「7 人がけ」
と同じである。
上の例は名詞のどの側面を修飾するか、影山(1999)、吉村(2003)
、由本(2009)
治
政
大
で記述してみると、(45)になる。
立
に準えて、Pustejovsky(1995)が提案するクオリア構造(Qualia Structure49)
‧ 國
學
(45)構成役割(constitutive role)
:ミルク飲み人形;泥まみれ;鉄喰い;
子持ち
‧
形式役割(formal role)
:箱入り;瓶詰め;先割れ;皮むき;種抜き;
人乗り;7 人がけ;革張り
er
io
sit
y
Nat
ラバー貼り;コンクリート敷き;指出し;2
目的役割(telic role):魚焼き;枝きり;蚊取り;人斬り
n
al
Ch
engchi
i
Un
v
上では形容詞に使われる複合語を見てきた。従来、形容詞の用法を持つのは
付加詞との複合の場合に限られるとされてきたが、内項との複合の場合も形容
詞に使えることを由本(2009)は次のような考えを示している。
(46)もとの動詞の内項を叙述対象とする形容動詞50は、項、付加詞に関わ
らずその状態や属性を表す要素との結合であれば複合語を形成し得
ると考えられる。(由本 2009:217)
48
複合語の多義性については第 4 章で詳しく検討する。
クオリア構造というのは本来生成語彙論のモデルであるが、語にまつわる百科事典的知識
を含んでいる点で認知論的だといえる。詳細は吉村(2003)を参照されたい。
50
ここでいう形容動詞は連体修飾形が「の」をとるものも含まれている。
49
33
要するに、複合語はその構成によって機能が拘束されるのではなく、むしろ
何かに対する属性を付ける必要があれば、(15)と(16)に示したスキーマか
ら複合語が作られると考えられる。
3.5.2
動詞に使われる動詞由来複合語
本節では動詞に使われる動詞由来複合語について考察する。動詞に使われる
動詞由来複合語は形容詞に使われる場合と同様に、従来では「付加詞+動詞」
型の役目とされてきた。
(47)車を水洗いする;高級品を衝動買いする;専門書を流し読みする。
(影
治
政
大
ラーメンを早食いする;バーゲンで靴下をまとめ買いする。
(杉岡・
立
小林 2001:252)
山 1999:133)
‧ 國
學
肌が日焼けする;街をそぞろ歩きする;部下が早死にする;切手をの
り付けする;週刊誌を立ち読みする;ドレスを手作りする。(伊藤・
‧
杉岡 2002:115)
sit
y
Nat
io
er
これらと形容詞用法と比べ、必ずしも付加的意味を感じさせないし、ほぼ形
態通りの意味となっている。たとえば、
「車を水洗いする」は「車を水で洗う」
n
al
Ch
i
Un
v
とほとんど同じだと思われるし、「ラーメンを早食いする」と「靴下をまとめ
engchi
買いする」も「ラーメンを早く食べる」、
「靴下をまとめて買う」と意味が変わ
らない。では、なぜわざわざ複合語を作るのかという疑問が生じる。後に見る
ように、実はこれらの例は内項との複合の場合と同様に、行為や何かに対する
名づけだと考えられる。しかも、こう想定した上で初めてなぜこれらの「複雑
述語」としての複合語は動詞の形態ではなく、名詞の形態となっているのか説
明できる。
「-する」について動詞に使える動詞由来複合語は多く杉岡が指摘している
ように、動詞(厳密に言えば、動作動詞及び使役変化動詞)の LCS51における
ACT を修飾する道具や様態などを意味する語と複合するものである。次の例を
51
ここでは LCS という用語を用いているが、基本的にアクション・チェインという概念と共
通する。
34
参照されたい。
(48)[道具-ACT ON]:ペン書き、ワープロ書き、手作り、機械編み(する)
…
[様態-ACT ON]:はしり書き、べた書き、にわか作り、蒸し焼き、二
度塗り、下焼き、粗削り、空煎り(する)…
動詞の LCS における ACT は動作(activity)を表すので、その部分を修飾す
る語との複合によってできた複合語も動作を表す性質を受け継いでいると考
えられる。具体的には次に示すような用法として使われている。(下線筆者)
治
政
大
(49)そこである年。メッセージの部分だけを手書きすることにした。
立
(50)軽快な食感の秘密は、スライスとダイスを空焼きして混ぜ合わせたこ
52
‧
‧ 國
學
と。53
また、
(51)に示すように、状態変化動詞の場合、LCS における BECOME を修
y
sit
io
n
al
er
詞に使える。
Nat
飾する原因などを修飾する語との複合したものも直接に「-する」をつけて動
Ch
i
Un
v
(51)[原因-BECOME]日焼け、船酔い、仕事疲れ、ビール太り、着ぶくれ、
寝冷え
engchi
ところが、形容詞の場合に見られたように、内項との複合にもかかわらず、
動詞に使える動詞由来複合語も報告されている。
(52)a.
52
53
私鉄各社がそろって運賃を値上げ/値下げした。
b.
運賃が値上がり/値下がりした。
c.
あの喫茶店は、いつも月曜日は早めに店じまいする。
d.
煮物(の味)を味見する。
(影山 1999:134)
『「手書き」の力』pp.71
『スポンジ・パウンドケーキと焼き菓子』pp.93
35
(52)の例はすべて「N の一部を~V する」と再分析できると影山(1999)が
指摘しているが、影山自身が同書の 133 ページで挙げた例の「ワインを瓶詰め
する」、
「庭に水撒きする」、
「床をワックスがけする」などは氏の分析の「N の
一部」とは言いがたい。さらに問題になるのは影山(1993:195-196)で「動
名詞」とされている例である。(分類は筆者によるものである。)
(53)イ.
内項+他動詞:凧揚げ、人殺し、夜更かし、餅つき、草むしり、
歯磨き、 息抜き、票がため、形見分け、くじ引き、根比べ、地なら
し…
治
政
大
帰り、家出、名前負け、神頼み、山登り、乳離れ、仲間入り、山ごも
立
り、物怖じ…
内項に当たる自動詞補語+非能格自動詞:寺参り、塾通い、里
ハ.
内項+非対格自動詞:雨漏り、息切れ、地割れ、心変わり、気
‧ 國
學
ロ.
乗り、目移り、気抜け、色落ち、値崩れ、底冷え、家鳴り、拍子抜け
‧
sit
y
Nat
具体例を示すと次の通りである。
(54)~(58)は(53)イ.に当たるもので、
io
er
そして、
(59)~(61)は(53)ロ.に当たるもの、
(62)~(64)は(53)ハ.
に相当するものである。なお、補足として、他動詞で、ニ格との複合の例を(65)
n
al
に示しておく。(下線筆者)
Ch
engchi
i
Un
v
(54)髪を部分染めしたいです。54
(55)先に述べたように普通は雑草としてすぐに草むしりされてしまうカ
タバミも、ヤマトシジミの幼虫のエサになる。そこで、すべてのカタ
バミを草むしりしてしまうのではなく…55
(56)何年かタンスにしまわれた後、着なかったらどうするのかな。誰に形
見分けするのだろうか。56
54
“Yahoo!知恵袋”
(http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail.php?qid=1415213449)
55
『自然との共生をめざす環境学習』pp.60(i.e. この例は影山(1999)では不適格だとさ
れているが、実際には使われている。)
56
『境界の糸』pp.99
36
(57)実現はしてませんが、亡くなった後に骨董品を形見分けするよりはい
い方法だと思います。57
(58)私とお婆ちゃんは指切りしてお別れした。58
(59)田中さんは奥さんが家出して困っている。59
(60)山ごもりしたものの、結果的には兵糧攻めにあった形だった。60
(61)1 着が 2 人いる場合、また 4 着が 2 人いる場合は、子どもたちと話し
合って、ジャンケンをするのもよいし、同時に 2 人が速い組に仲間入
りしたり、遅い組に仲間入りしてもよい。61
(62)平地や軽い坂であれば急ぎ足でも息切れしない。平地や軽い坂を急ぎ
足でいくと息切れがする。…息切れのため外出できない。着替えでも
治
政
大
(63)乱暴な言い方だが、心変わりされた方はなぜ心変わりされたかをよく
立
考える必要があるんだ。…自分の未熟な点、至らなかった点をじっく
息切れする。62
‧ 國
學
り反省するなら、相手がなぜ心変わりしたのかそのうち見えてくるだ
ろう。心変わりをされない自分を見つけ出すスタートラインに立てる
‧
よ。63
sit
y
Nat
(64)摩擦などにより衣服に色移りする場合がありますのでこすらないよ
io
er
うにしてください。64
(65)私たちはそれらの事物を効率的にグループ分けすることができる。65
n
al
Ch
engchi
i
Un
v
中で特に注意に値するのは、動名詞だからといって、全部目的語を取る他動
詞に使えるわけではないことである(e.g. (58)
)。前項が目的語の一部か(e.g.
庭の草をむしる→庭を草むしりする)主要部動詞にとっては間接目的語と複合
するものが目的語を取る他動詞に使えるのは、二重ヲ格構文にならないためだ
と考えられる。事実、内項との複合の場合、複合語自体が一つの出来事を表す
57
58
59
60
61
62
63
64
65
『ハッピーなお葬式がしたい!』pp.206
『忘れないで不動産屋一代』pp.31
『中上級を教える人のための日本語文法ハンドブック』pp.123
『おそば坂』pp.70
『3 年の体育』pp.35
『専門医がやさしく教える心臓病』pp.65
『徘徊』pp.241
デパート“TOKYU HANDS”のポリ袋に書かれている注意書き。
『認知言語学の基礎』pp.27
37
「まとまり性」が強いので、付加詞との複合の場合ほど目的語を帯びる他動詞
に使われないことが予想される。一方、目的語を取らない自動詞的に使われる
複合語はどのように説明すればいいのだろうか。杉岡等は内項との複合の場合、
特に書き言葉としては「~をする」構文を使わなければならないと指摘してい
るが、氏が言及しているように、話し言葉において、この「を」はしばしば省
略される。「を」がついているものとついていないものという両者に特に意味
上の相違点も見当たらないので、自動詞として使われるのだと考えられる。66但
し、非対格自動詞が主要部になった場合、特に意思では制御できない自然現象
などを意味する複合語は、「地震が起きる」などのように「~がする」構文を
使って言わなければならないものもある。従って、複合語がどんな構文に使わ
治
政
大
複合だが、動詞の概念構造或いはアクション・チェインにおける
BE の部分を
立
修飾するため、動詞に使えない(cf. 石造り、レンガ積み、薄切り、厚焼き)
れるのかは意味に左右される部分が大きいといえるだろう。実際、付加詞との
‧ 國
學
とされている、前項が「材料」を意味する複合語も動詞として使われる例を見
つけた。
‧
sit
y
Nat
(66)博多に「ふじ本」という一流の割烹があるんですが、そこでは大きな
io
er
鯛が手に入ったら、骨と縁側だけを炭火で塩焼きしてくれるそうです。
私はその話を聞いて、工夫をしてみました。焼いた骨と縁側に熱湯と
n
al
Ch
i
Un
v
酒を入れ、即席の潮汁に仕立ててみたのです67
engchi
(67)なお、市販の乾燥ヒジキをお湯で 30 分程度水戻しすれば、大部分の
ヒ素が溶出するとの指摘もあるのでヒ素が気になる人には料理の前
に水戻しの一工夫を加えることを勧める。68
特に注意すべきのは(66)の「塩焼き」は料理名としての「塩焼き」ではな
いことである。通常「塩焼き」は「~を塩焼きにする」という用いられ方を見
せているが、その場合の「塩焼き」は調理法の意味拡張と見ることができる69が、
66
特に辞書に登録されている複合語は常に意味の特殊化現象が見られ、文化などの要素が絡
み合っていると思われる。
(e.g. 水撒き、色づけ、舵取り、しわ寄せ、てこ入れ、綱渡りなど)
67
『もてなしの心』
68
『海洋のミネラル学』pp.89
69
詳しくは第 4 章で検討する。
38
(66)の場合、
「塩焼き」されたものは料理の「塩焼き」にならないので、
「塩
焼き」が調理法の名前として、目的語を帯びる他動詞に使われたと考えられる。
以上の例文を検討した結果、複合語の使われ方は実は意味に影響され、そし
て、複合語の意味を決定する最大の要因は、何に対する名づけだといえるだろ
う。
3.5.3
名詞に使われる動詞由来複合語
上では動詞由来複合語の用法は意味に左右される部分が大きいと述べたが、
実は形態がすべて名詞形となっている動詞由来複合語を動詞が表す事態に対
する名づけと統一的に捉えられると筆者が考えている。何に対する名づけは、
治
政
合語の選択制限にもよほどの影響をもたらす。 大
立
動詞に使われるかないかということに影響を与えるだけではなく、後に見る複
‧ 國
學
(68)金魚すくい、バウムクーヘン作り、窓拭き、子育て、仕事探し、ババ
抜き、庭弄り、ボート漕ぎ、墨入れ、デカール貼り、スイカ割り、ガ
‧
ラス破り、海鳴り、興ざめ…
sit
y
Nat
io
er
内項との複合は(68)に示しているように、「金魚すくい」は「金魚をすく
うこと」を、「バウムクーヘン作り」は「バウムクーヘンを作ること」をそれ
n
al
Ch
i
Un
v
ぞれ意味すると思われる。しかし、今まで繰り返して述べたように、「語」で
engchi
あるからには、必ず「名づけ機能」により何か付加的意味が込められる。まさ
に我々が「山登り」を「スポーツないしリクリエーションの活動として山に登
ることに限定される」(影山 1999:2)と捉えるように、上の「金魚すくい」
も多く「縁日お祭りのときに屋台で遊ぶゲーム」の一種と捉えられる。同じカ
テゴリーに属する複合語同士を示すと次の通りである。
(69)
縁日お祭りのときに屋台で遊ぶゲーム
金魚すくい
ヨーヨー釣り
輪投げ
しかし、周知の通り、「お祭りのときに屋台で遊ぶゲーム」は(69)に示し
39
たものだけではなく、さらに列挙すると(70)のようになる。
(70)
縁日お祭りのときに屋台で遊ぶゲーム
金魚すくい
ヨーヨー釣り
輪投げ
ダーツ
射的…
同じカテゴリーの下では動詞由来複合語だけではなく、単純語、場合によっ
ては一次複合語や派生語も現れるが、要するにこれらは動作の名前を表す点で
同じであり、そして、形態に見られない意味は上位概念から来たものだと考え
られる。実際、上位概念が存在しない場合、付加的意味も必ずしも感じられる
とは限らない。
立
政 治 大
(71)ミニ遠足を年に何回かして滝登り、川上り、洞穴巡り、山登りをし心
‧ 國
學
を強くするように好奇心、自信、やる気を育て主体性を何気なく後押
ししている。70
‧
sit
y
Nat
(71)における「滝登り」と「川上り」、
「洞穴巡り」は「山登り」と並べら
io
er
れているが、前にある三つは「スポーツとしての活動」とは言いがたい。内項
との複合は動詞句に近いため、特別な意味が込められていない場合もしばしば
n
al
Ch
あり得る71。類例を追加しよう。
engchi
i
Un
v
(72)ケーキ作りの技術は、教えれば一年ですべて覚えてしまうだろうな。
逆に言えば、ケーキ作りを覚えるには、一年あればいいということに
なってしまう。72
70
71
72
40
『新保育園物語』pp.61
従って、次のように形態的緊密性を破る例もときどき見受けられる。
„ [[明るい街]作り]
„ [[地球に優しい環境]作り]
„ [[今晩の宿]さがし] (テレビ番組“田舎に泊まろう”)
„ [[旬の焼き物]さがし](テレビ番組“田舎に泊まろう“)
„ [[フランチーニの墓]参り](影山 1993:333)
„ [[バーのママ]殺し](影山 1999:110)
„ [[先輩の尻]拭い](郡司 2002:54)
„ [[自分の店]の屋号]入りタオル(竝木 2005:8 出久根達郎『面一本』pp.447)
『ショートケーキ日記』pp.65
(73)もみもみはミルク飲みの動作
猫がときどき見せる不思議な動作と
して、飼い主の腕や肩、胸などを前足でもみもみすることがあります。
73
(74)麺食いのためのページ74
(75)携帯電話を二台持ち歩いているのは、電池切れ対策です。ボイスメー
ルと電子メールがそれぞれ一日 100 本も届くのを一台で受信すると、
半日で電池切れになり連絡途絶になります。75
(72)の「ケーキ作り」は「ケーキを作る(技術)
」と言い換えても、意味
的に著しい違いがないと思われるし、また、
(73)の「ミルク飲み」、(74)の
治
政
大
食う」、
「電池が切れる」と言い換えられるようである。こうして、語彙化は程
立
度こそあれ、特殊な意味を帯びることもあるという従来の指摘も実は上位概念
「麺食い」
、そして(75)の「電池切れ」もそれぞれ「ミルクを飲む」、「麺を
‧ 國
學
が存在するかどうかということを通して、形態に見られない意味を確認できる。
76
‧
一方、付加詞との複合は述語に使われるものだと位置づけられているが、実
sit
y
Nat
は同じな観点から捉えることができる。たとえば、次の例は「複雑な動作」を
io
n
al
er
意味するよりも、髪型の名前として使われていると思われる。
Ch
i
Un
v
(76)三つ編み、丸刈り、七三分け、銀杏返し、おさげ、ちょんまげ、ポニ
engchi
ーテール、ツインテール、アフロヘアー、パーマ、姫カット…77
内項との複合の場合と同様に、同じカテゴリー内に動詞由来複合語のほかに、
単純語、外来語ないし一次複合語も存在している。これらは内項複合語と比べ、
一つの出来事としてのまとまり性が弱く、
「三つ編みをする」、
「丸刈りをする」
といった用法が少ないように思われるが、皆無だというわけでもない。たとえ
ば次の例は髪型の一種という意味ではないが、「三つ編み」という動作を行う
73
74
75
76
77
『猫の気持ちがよ~くわかる本』pp.136
http://ramenisno1.web.infoseek.co.jp/
『「やらないこと」から決めなさい!』pp.194
上位概念の有無は ICM と関わっていると考えられる。
“Wikipedia” 髪型項目
41
ことを意味する点で内項複合語と似ている。(下線筆者)
(77)耳あての先に糸を通し、三つ編みをする。78
付加詞複合語は内項が欠けてこそ、目的語を要求する述語に使われるとされ
ているが、事実、複合語の目的語は名づけの対象によってほぼ決まっているの
で、文に目的語を具現しないこともあり得る。
(下線筆者)
(78)次のステップとして、学校の敷地内を周回することにした。その過程
で車庫入れや縦列駐車の練習をした。79
治
政
大
たコーナリングフォースに従った結果が溝落としです。
極端に言うと、
立
ハンドルを切ると言うよりも、アクセルをちょいと踏んでコーナー内
(79)なぜできるのかというときっちりとした荷重移動により生み出され
‧ 國
學
側の前輪のタイヤを溝に落とすのです。80
(80)私はデパートの本屋で立ち読みをして、私の症状を治療するのを得意
‧
とする医療機関を調べた。81
io
er
買いをしてぶら下げて帰る姿も見られる。82
sit
y
Nat
(81)ズッキイニがぐんと値を下げ、酢漬けにして冬に備える人たちが、箱
(82)部屋干しをしたときは特に、湿気が部屋にこもりますので、ふだんよ
n
al
Ch
i
Un
v
り風通しをよくする工夫をし、窓の開け閉めを多めにします。83
engchi
(78)、
(79)における「車庫入れ」および「溝落とし」は内項との複合では
ないが、
「何」を車庫に入れるのか、
「何」を溝に落とすのか、当の行為に名前
をつけるとき、すなわち語を作る際に既に決められているので、たとえ文の中
に放出しなくても自明である(ここでは「車」と「車輪」である)。また、
(80)
の「立ち読み」と(81)の「箱買い」、
(82)の「部屋干し」も一つの行為とし
78
『大人かわいい手編み』pp.66
『あの橋を越えたら』pp.283
80
“Yahoo!知恵袋”
(http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1325087988)
81
『心をすくって』pp.33
82
『続素顔のフィンランド抄』pp.31
83
『使える!ラクラク家事の裏ワザ 556』pp.70
79
42
て捉えられるため、常に「何」を読むのか、
「何」を買うのか、
「何」を干すの
かというように他動詞として機能しなければならないということはない。時々
(81)のように何を買うのかは文脈から知れるが、名詞に使われた場合ははむ
しろ焦点が動作全体に置かれているのだと考えられる。さらに類例を追加する
と(23)で見た大相撲の決まり手が挙げられる。
(83)
大相撲の決まり手
突き出し、寄り切り、上手投げ、吊り落とし、送り投げ、一本背負い
…
治
政
大 、「寄り切る」の派生
「突き出し」、
「寄り切り」は対応する動詞「突き出す」
立
名詞として理解されるが、対応する動詞「*上手投げる」と「*吊り落とす」、
‧ 國
學
「*送り投げる」が存在しない「上手投げ」、「吊り落とし」などは動詞由来複
合語として理解される。さらに、「一本背負い」のような名詞「一本」と複合
‧
動詞「背負う」の派生名詞「背負い」が合成する一次複合語もある。繰り返し
sit
y
Nat
て述べるが、これらは語形成の仕方が異なりつつも、名前として機能する点は
io
り、むしろ複合語全体にあると思われる。
n
al
3.5.4
機能による意味変化
Ch
engchi
er
変わりがない。そして、焦点は「誰が何をするか」ということにあるというよ
i
Un
v
前節まで複合語を機能ごとに考察してきたが、実は複合語の意味は機能によ
って変わり、必ずしも文に現れる位置を入れ替えられるとは限らない。
(84)丸焼きのブタ→ブタの丸焼き(影山 2002)
(85)唐辛子の輪切り→輪切りの唐辛子
(86)パスタの早食い/パスタを早食いする→*早食いのパスタ(cf.
?パス
タの早茹で/早茹でする→早茹でのパスタ)
(87)7 人がけのロングシート→ロングシートの 7 人がけ/?に 7 人がけする
(88)3 人乗りの自転車→自転車の 3 人乗り/に 3 人乗りする
43
影山(2002)は(84)を挙げ、二種類の表現の違いを説明しているが、複合
語が形容詞に使われる場合と名詞に使われる場合、意味が変わるということに
言及していない。もし両方の意味を別々に扱わないと、なぜ(84)
、
(85)は複
合語が文における位置が交替できるが、(86)~(88)は交替できないかとい
うことは説明できなくなる。もちろん右側主要部規則から考えれば、そもそも
二種類の表現は異なると思われるが、問題は、複合語の意味は同じ解釈を受け
るかどうかということである。さらに LCS ではどのように記述すればいいのか
ということも問題になる。
(86)の「早食い」と「早茹で」はとちらも副詞的要素「早」との複合であ
るが、統語的には正反対な振る舞いを見せる。まず、名詞に使われる場合を考
治
政
大 「速く茹でる」、「速
マナーを修飾するため、動詞句で「正しく」表現すれば、
立
く食う」とそれぞれ修正する必要があると思われる。しかし、カニなど、茹で
えると、「早茹で」も「早食い」も「早く V する」という意味になり、動作の
‧ 國
學
すぎるとまずくなるものは「早茹でする」必要があっても、パスタなどは十分
茹でないと硬くて食べられないものは到底「早茹でする」ものとは考えられな
‧
い。一方、
「早食い」は競争や時間のないときによく行われることであるため、
sit
y
Nat
動詞や出来事を表す名詞に使っても、全く問題ないであろう。それに対し、形
io
er
容詞に使われる場合、
「早茹で」は被修飾語である対象物自体の属性になるが、
「早食い」は食べ物の属性にならない84ため、「*早食いのパスタ」といえない
al
n
のである。
Ch
engchi
i
Un
v
(87)と(88)が形容詞に使われる場合、「7 人(腰を)かけているロング
シート/3 人乗っている自転車」を意味するというより、むしろ「最大 7 人乗
れるロングシート/7 人乗れるように設計されたロングシート」などを意味す
ると思われる。一方、動詞か名詞に用いられる場合、先に見た可能の意味がな
くなり、「7 人で乗ること」などを意味することになる。それゆえ、法律で禁
じられていることは「自転車の 3 人乗り」であり、「3 人乗りの自転車」では
ない。
このように、付加詞との複合が LCS で起きるとすれば、上に見た二種類以上
の用法を併せ持つ複合語は次のように二種類の LCS を想定しなければならな
84
44
換言すれば、被修飾語のクオリアのどれも修飾できないのである。
い。
(89)「7 人がけ」と「3 人乗り」の LCS:
動詞、名詞の場合: [7 人/3 人で ACT-ON y]
形容詞の場合:[[7 人/3 人で ACT]CAUSE[y BECOME [BE FULL OF
PEOPLE]]]
(90)「早茹で」の LCS:
動詞、名詞の場合:[x ACT-ON y FAST]
形容詞の場合:[y BECOME QUICKLY [BE BOILED]]
治
政
大
れば、上のように一つの形態で二つの概念構造を持つことはまず考えられない。
立
私見では、語の構成に束縛されずに、新語を創り出すに先立って、意味が決ま
しかし、複合語の意味及び機能が構成によって決まるという杉岡の主張によ
‧ 國
學
っていると考えて初めて上に見た現象が説明できると思う。言い換えれば、あ
る行為や出来事(=意味)に対する名づけの必要(機能)があり、そこで既存
‧
の型で新語を創り出すわけである。
sit
y
Nat
(15)の語形成モデルでは、複合語が(物や出来事を含み)ある対象に対す
io
er
る名づけだと主張している。従って、複合語の統語的特性は複合語の構成に左
右されるのではなく、使われ方と意味によって変わるのだと考える。例えば、
n
al
Ch
i
Un
v
料理の名前としての「茶碗蒸し」はほぼ「卵を茶碗で蒸すもの」としか使われ
engchi
ておらず、調理法としての「茶碗蒸し」はないので、「~を茶碗蒸しする」は
ないと予想される85。それに対し、同じ料理の名前としての「塩焼き」はほか
に調理法としても使われるので、(66)で見たように動詞に使われるわけであ
る。
3.6
複合語の選択制限
私見では、従来の研究では動詞由来複合語の選択制限を論じるものは皆無で
85
Yahoo! Japan と Google で「茶碗蒸し」に「する」をつけて動詞用法に使われる例を検索し
たところ、他動詞に使われる例は僅か 1 件あった。しかも自動詞と同様に、どちらも結果的に
「茶碗蒸し」を作ることになっている。
(N. B. 「塩焼き」は動詞に使われた場合は「塩焼き」
にならないこともある。
)従って、
「茶碗蒸し」の動詞用法は恐らく一般的ではなく、英語の名
詞転換動詞に近いと考えられる。
45
ある。広辞苑第五版 CD-ROM 版によれば、選択制限は次のように規定されてい
る。
(91)せんたく‐せいげん【選択制限】
〔言〕(selectional restriction) 生成文法の用語。述語が、その主
語や目的語となる語句に課している意味上の制限。一般に、動詞「飲
む」の主語となる名詞句は生物、目的語となる名詞句は液体に限られ
る。
(91)に示している通り、選択制限というのはもともと生成文法の用語であ
治
政
大
言語一般に見られる概念である。具体例を示すと次の通りである。
(すべて斎
立
藤(2005:122)による。)
るが、内項と外項の区別やアクション・チェインなどと同様に、理論を問わず
‧ 國
學
(92)息子は一日中友達と積木で遊んだ。
‧
(93)赤ん坊がミルクを飲む。
sit
y
Nat
(94)*石が一日遊んだ。
io
er
(95)*赤ん坊が夢を飲んだ。
(96)*山がミルクを飲んだ。
n
al
Ch
engchi
i
Un
v
(92)、(93)は適格な文であるのに対し、(94)~(96)が不適格になるの
は次の選択制限によるからだと思われる。
(97)「遊ぶ」:主語に<人>という意味特徴を有する名詞句を取る
「飲む」:主語に<人>という意味特徴を有する名詞句、目的語に<
液体>または<物>という意味特徴を有する名詞句を取る(斎藤
2005:122)
さて、複合語の選択制限についてであるが、杉岡(1989)は次の例を挙げ、
複合語における「受け継ぎ」現象を説明している。
46
(98)a.
アメリカとの意見交換
b.
アメリカと意見を交換する
_
c.
N
N[AG, COM]
NP
N
アメリカとの
N
意見 i
交換[AG, THi, COM]86
(杉岡 1989:170-171)
政 治 大
(98a)の名詞句が(98b)の動詞句の意味解釈を受けるのは、
(98a)の複合
立
語「意見交換」の主要部動名詞(i.e.交換)の項構造が前項の「意見」によ
‧ 國
學
って満たされているからだと杉岡が述べている。換言すれば、もともと主要
部動詞である「交換」は「誰が」
、「何を」、「誰と」という三つの項を要求す
‧
るが、「何を」に当たる「意見」と複合することによって、
「意見交換」とい
う複合語全体が要求する項が一つ減り、
「誰が」、
「誰と」しか要求しなくなっ
y
Nat
sit
たわけである。そして、
「誰と」に相当する「アメリカ」は複合語の外部に表
n
al
er
io
示されているから、
(98a)と(98b)は同じ意味だと理解されるのである。87一
i
Un
v
方、動詞由来複合語においてもこの受け継ぎの現象が見受けられる。
(99)a.
b.
(100)a.
b.
Ch
engchi
丸太の早切り/丸太を早切りする
丸太を早く切る
石けんの手作り/石けんを手作りする
石けんを手で(練って)作る
たとえば、
(99a)の「早切り」の主要部動詞の「切る」ももともと「誰が」、
「何を」という二つの項を要求するほか、様態、或いは結果などを意味する「ど
86
ここにおけるAG、TH、COM、i はそれぞれ動作主格(agent)、対象格(theme)、相手
格(comitative)同一指標(co-indexing)を示す。
87
ほかに「問題の早期解決」、
「開発途上国への資金投入」
、「本部への電話連絡」
、
「ソ連との
経済協力」
、「日本からの企業進出」なども挙げられている。
47
う」もとることができる。「早切り」は様態との複合であるため、ほかの様態
を意味するものを入れることができなくなるが、
(e.g. ??丸太のゆっくりの早
切り)複合語全体は基本的に主要部動詞「切る」が要求する項を受け継いでい
ると考えられる。同様に、
(100)の「手作り」も主要部動詞「作る」が要求す
る項を受け継いでいると考えられるから、(100a)は(100b)に対応する意味
解釈を受けるのである。
上の例を見る限りでは、どうやら複合語の前項以外と同様な意味を持つ要素
を排除すれば、ほかの項(目的語)に対する選択制限は特にないように見える。
このような手段、様態を意味するものとの複合は影山・由本(1997)、影山(1999)
で取り上げられた LCS による記述を通しても、手段表現に対する選択制限がわ
政 治 大
かる。
立
(101)「早切り」の LCS:[[x ACT-ON y FAST] CAUSE [y BECOME [BE SLICE]]]
‧ 國
學
(102)「手作り」の LCS:[ ]x ACT-ON[ ]y BY-MEANS-OF [HAND]z
↓
↓
‧
太郎が
↓
石けんを
手作りする
sit
y
Nat
io
er
たとえば、
(102)に示された「手作り」の LCS には既に手段あるいは道具を
意味する「手」
(HAND)が盛り込まれているため、
「手」及びほかの手段・道具
n
al
Ch
i
Un
v
を表す要素が自動的に排除されるのである。(??石けんを機械/手で手作りす
engchi
る;??石けんの機械/手による手作り)
ところが、筆者の観察によれば、主要部動詞が単独の場合に比べ、程度こそ
あれ、選択制限が厳しくなる複合語は決して少なくないことがわかった。
(103)a.
b.
(104)a.
b.
88
ちくわを輪切り88にする(cf. ちくわを輪に切る)
?こんにゃくを輪切りにする(cf. こんにゃくを輪に切る)
本屋で立ち読みする(cf. 本屋で立って読む)
?部屋で立ち読みする(cf. 部屋で立って読む)
「輪切り」のような前項が結果を表す複合語は「-する」をつけて直接に動詞に使えないが、
「部屋をきれいにする」
、「子どもを医者にする」というような変化構文と同様に、「する」が
項を要求するより、名詞が項を要求すると見ることができる。
48
(105)a.
b.
(106)a.
b.
(107)a.
b.
(108)a.
b.
お菓子を買い食いする(cf. お菓子を買って食う)
?お弁当を買い食いする(cf. お弁当を買って食う)
ウィスキーを水割りにする(cf. ウィスキーを水で割る)
?洗剤を水割りにする(cf. 洗剤を水で割る)
洗濯物を部屋干しする
?食品を部屋干しする
手焼き煎餅/煎餅を手焼きする
?手焼き魚/?魚を手焼きする
(109)*早食いパスタ(cf. (懐石より)早く食える(食べられる)パスタ)
治
政
大
んにゃく」に変わったとたん、適格性が大幅に下がると感じられる。動詞単独
立
の場合、どちらも「切る」が要求する結果格(i.e. 輪)と共起するので、
「輪
(103)では同じ「輪切り」であるが、対象格(TH)が「ちくら」から「こ
‧ 國
學
切り」が「切る」の項を受け継ぐと同時に新たな意味制約が加わったと考えら
れる。
(104)の「本屋」と「部屋」という場所格は主要部動詞「読む」にとっ
‧
て、必須項ではないが、上に示したように、動作を行う場所として取ることが
sit
y
Nat
できる。しかし、様態を表す「立つ」と複合した表現「立ち読み」は「部屋」
io
er
を取ることができなくなる。この現象は「輪切り」と同様に、複合語表現「立
ち読み」に新たに意味制約が加えられたことを物語っている。さらに(105)、
n
al
Ch
i
Un
v
(106)、
(107)も同様で、様態、道具あるいは材料、場所を意味するものと複
engchi
合するに伴い、対象格、目的語に動詞単独の場合では見られない意味制約が加
えられた。(108)と(109)は形容詞であるが、これは 3.5.1 節で述べたよう
に、ふつう「煎餅」は機械による大量生産が行われても、「魚」はそのような
焼き方をしないので、「手焼き」は単に「手で焼く」を意味するというより、
「丁寧に一枚一枚おいしく作り上げる」といったイメージが強いのだと思われ
る。また、「早食い」は被修飾対象の属性にならないのもそういうものが存在
しないからだと考えられる。(i.e. 3 分で完食できるパスタと 10 分で完食で
きるパスタ)
(103)~(109)の複合語の LCS と項構造を次のように記述する。
(110)「輪切り」:[[x ACT-ON y]CAUSE[y BECOME[BE[RING]]]
(x, y)
49
(111)「立ち読み」:[x ACT-ON y BY-MEANS-OF[STAND]] (x, y)
(112)「買い食い」:[x ACT-ON y BY-MEANS-OF[BUY]]
(x, y)
(113)「水割り」:[x ACT-ON y BY-MEANS-OF[WATER]]
(x, y)
(114)「部屋干し」:[x ACT-ON y [IN ROOM]]
(x, y)
(115)「手焼き」:[x ACT-ON y BY-MEANS-OF[HAND]]
(116)「早食い」:[x ACT-ON y FAST]
(x, y)
(x, y)
(110)を例にすると、定項の「RING」は動詞「切る」の項構造(x, y, z)
の結果に当たる z の部分であるが、x と y の部分は(主要部動詞の項を受け継
いだ結果として)動詞単独のときのままに保持されている。しかし、項構造及
治
政
大
もちろん、これらは音韻的特徴などから“語彙的複合語”とされているが、問
立
題は、同じ“語彙的複合語”なのに、なぜ先に見た杉岡(1989)の例は(103)
び LCS による記述は上に見たような意味制約を読み取ることが到底できない。
‧ 國
學
~(109)で見られる意味制約がないかということである。
果たして複合語の意味制約はどこから来たものか、筆者は名づけの動機から
‧
把握できると考える。まず、「輪切り」であるが、これはそもそも「円柱形」
sit
y
Nat
をしている物に対する切り方としてつけられた名前だと考えられる。従って、
io
の形」をしている物は「銀杏切り」となる。
n
al
(117)
Ch
engchi
野菜などの切り方
er
同じ「スライス」でも「長方形」をしている物は「短冊切り」となり、「銀杏
i
Un
v
輪切り、短冊切り、銀杏切り、乱切り、小口切り…
(103)の「こんにゃく」は一般に「長方形」の物だと認知されているので、
「輪」には切れても、「輪切り」にはできないと思われる。では、「立ち読み」
はどうかというと、これは前項の「立ち」が意味制約をもたらしたというより
も、複合語全体の意味はどんな行為に対しての名前かを考えれば自明である。
つまり、
「立ち読み」は「立って読む行為」としては確かであるが、実は「(本
屋やコンビニなどで)ただ読みする行為」であるため、「部屋」ですると不思
議な感じが伴うのである。同じ本の読み方のカテゴリーを示すと次の通りであ
50
る。
(118)
本の読み方(様態・方法を含む)
立ち読み、買い読み、図書館読み、斜め読み、飛ばし読み、速読、チ
ョイ読み、じっくり読み、早読み、ツン読、購読、借り読み、回し読
み、試し読み…
「食う」もふつう「何かを買ってから、それを口に入れる行為」だと思われ
るため、「買い食い」は「買って食う」という意味にとどまらず、「(主に子供
治
政
大
る。
「お弁当」はおやつではなく、まともな食事にすることがほとんどだから、
立
自然に「買い食い」の対象から排除されることになると考えられる。同じ意味
が)菓子などを自分で買って食べる」89という行為に対する名前だと考えられ
‧ 國
學
カテゴリーの成員を示すと(119)である。
‧
(119)
食べ方(様態・方法を含む)
sit
y
Nat
io
n
al
er
立ち食い、居食い、拾い食い、、買い食い、盗み食い、つまみ食い…90
Ch
i
Un
v
「水割り」も上の分析と同様に、上位概念の有無かを確認することを通して、
engchi
なぜ(106)のような選択制限を見せるのかがわかる。
「水割り」は形態通りに
「対象物に水を入れて希釈して、或いは薄めて(使う)こと」を意味するが、
何を水で割るかも名づけが行われるときに既に決められたと考えられる。
(120)
酒の飲み方
炭酸割り、ウーロン茶割り、緑茶割り、ミルク割り、コーラ割り、ソ
ーダ割り…
89
『大辞林』より
「入れ食い」と「踊り食い」は「入れて食う」、
「踊って食う」の意味ではないことに注意
されたい。
90
51
上に示したのは必ずしも同じ酒の飲み方を指すのではないが、
(e.g. スコッ
チの水割り、ラム酒のコーラ割り、ウォッカのオレンジジュース割り91)酒に
よって、様々な飲み方があるものも存在する。
(121)
ウイスキーの飲み方
ストレート、オン・ザ・ロックス、ハーフロック、水割り、ハイボー
ル、ミスト、トワイスアップ、ホットウイスキー92…
治
政
大
としては同じだといえるだろう。ところで、上に見た「-割り」の前項に様々
立
な飲み物を代入することが可能であるが、
「酒割り」はまず「酒で割る」とは
(121)は「水割り」を除き、すべて外来語となっているが、飲み方の名前
‧ 國
學
考えられず、
「酒を割る(ための飲料水)」という意味になる。
同じ捉え方を「部屋干し」に適用すると次の通りになる。
er
io
sit
y
‧
干し方(方法・様態・場所を含む)
Nat
(122)
陰干し、部屋干し、天日干し、一夜干し、風干し、日干し、火干し…
n
al
Ch
engchi
i
Un
v
これらの「干し方」が取る目的語に見られる選択制限は上で見たように、そ
もそも対象物が名づけの段階で決まっていると考えられる。たとえば、
「部屋
干し」は先に見た「洗濯物」がデフォルト対象で、「天日干し」、「一夜干し」、
「風干し」なら「干物」が多いようである。
(123)その日入荷した魚を天日干ししています。93
(124)日本海各地から入ってくるミズガレイを一夜干しにすることをお勧
めする。94
91
92
93
94
52
『5 種語言圖典』より
http://www.suntory.co.jp/whisky/museum/enter/challenge/より。
http://www.fish-genkai.com/
『食い倒れ大阪発 単なる魚好きが語る鮮魚と商内』pp.243
中でも、たとえば「部屋干し」と「陰干し」、
「風干し」は概念が幾分似通っ
ていても、必ずしも言い換えられるとは限らない。95そもそもなぜ「部屋で」、
「陰で」、「風で」干すのかは言語外の問題だと考えられ、つまり、「物干し場
がないから、部屋で干す」とか「このような干し方をすると一番風味がある」
といったことが絡み合っているので、「部屋干し」なり「風干し」なりするわ
けである。
3.7
終わりに
本章は機能及び意味、という二つの面から動詞由来複合語を検討した。今ま
治
政
大
来複合語を非常に明快な二分法で、統語や意味などにおける違いの説明を試み
立
られている。しかし、上で見たように、形式重視の語形成モデルを通しては説
での動詞由来複合語に関する研究の集大成とも言える杉岡の主張では動詞由
‧ 國
學
明できないものも数多く見られている。最初に、内項との複合であるが、形容
詞に使われる(3.5.1)や目的語を取る他動詞(3.5.2)に使われるものを挙げ
‧
て説明した。次に、付加詞との複合であるが、必ずしも形容詞か動詞述語に使
sit
y
Nat
われないことについて議論した(3.5.3)。さらに、複合語の選択制限は項構造
io
er
や LCS による記述では必ずしも表現されないことも見た(3.6)。
本論文が提案する語形成モデルは基本的に ICM 理想化認知モデルとスキー
n
al
Ch
i
Un
v
マに基づいている。語形成のプロセスは基本的に次の三段階が想定される。最
初に第一段階では脳内にまだ“[[
e]動詞連用形]”というスキーマが形成され
ngchi
ておらず、経験したことを聞いた語/事例(の意味)で受け止め、再び同じ対
象に出くわしたとき、記憶した語を使うことになる。
(125)第一段階
95
たとえば「洗濯物を風干しする」、
「洗濯物の風干し」を Google と Yahoo!Japan で絞込検索
で調べた結果、0件だった。
53
そして、触れた語/事例の数が増えるに従い、語の構造から抽象化された
“[[
政 治 大
]動詞連用形]”というスキーマが次第に形作られてきた。
立
(126)第二段階
‧
‧ 國
學
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
i
Un
v
やがて第三段階に入ると、既に「語」として経験したことのない対象に新語
を造る方法を通し、名づけを行うことができるようになる。そして、既存の語
と新語から抽象化されたスキーマも事例の数に伴い、強力なスキーマとして定
着する。
(127)第三段階
54
語の ICM は基本的に各意味カテゴリーごとに厳密に定義しなければならな
治
政
大
ことにあるので、あえて個別の定義を省略するが、本章で見た通り、なぜ同様
立
に内項との複合なのに、付加的意味を感じさせるものとそうさせないものがあ
いのであるが、本論文の狙いは動詞由来複合語研究の新たな切り口を提供する
‧ 國
學
るか、また、文では見られない選択制限はどこから来たのかなどはこの ICM と
密接に関わっていると考えられる。
‧
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
i
Un
v
55
第4章
4.1
動詞由来複合語の多義性、音韻構造及び生産性
はじめに
第 3 章で提案した語形成モデルでは、複合語を「行為に対する名づけ」と捉
えているが、
(1)に見られるように、形態が同じ「[[
]動詞連用形]」が様々
な意味を表し得る。
(1) コト:崖崩れ、皿洗い、紅葉狩り、寸法直し、水遊び、家出、車上荒
らし…
ヒト:絵描き、馬乗り、空巣狙い、子供連れ、風船売り、牛飼い、魔
治
政
大
モノ:爪切り、栓抜き、写真立て、鉛筆削り、湯沸し、はえ叩き、輪
立
切り…
法使い…
‧ 國
學
サマ:ほら吹き、金持ち、嘘つき、左利き、前払い、後乗り、昭和生
まれ…
‧
トコロ:水溜り、物置き、屑入れ、清掃用具入れ、物干し、山沿い、
sit
y
Nat
川沿い…
io
al
n
…
er
トキ:連休明け、夜明け、夜更け、日暮れ、夕暮れ、夏休み、昼休み
Ch
engchi
i
Un
v
コト名詞を初めとして、ヒトやトキなどを意味する例も決して少なくない。
本章は第 3 章の語形成モデルを踏まえ、
(1)に見た複合語のプロトタイプ的な
意味は「コト」であると想定した上で、多義性(polysemy)のメカニズムはメ
トニミー(metonymy)による拡張であることについて論述する。そして、4.4
で複合語の音韻構造について論述し、4.5 で複合語の生産性を検討する。
4.2
先行研究
従来では動詞由来複合語の多義性を取り上げた研究は決して少ないとは言
えないが、多義性についての言及にとどまり、そのメカニズムまで論じないも
のが多いようである。
(Makino1976、影山 1982、西尾 1988)管見の限り、動詞
由来複合語の多義性にのみ焦点を置いて考察を進めた研究は語形成モデルの
56
研究と同様に、数的に非常に少ない。
4.2.1
奥津(1975)
奥津は変形論の立場から一連の複合名詞を分析し、変形規則を立てている。
氏によれば、複合名詞は連体修飾構造の「凝縮」だという。例えば、枯れ草の
ような「VN」型は「枯れた草」という連体修飾句が次に示す変形規則を受けて
複合語に変化すると考えられる。
(2) V1…Vn
V1…Vn
但し
Tense
N⇒
N
n≧1
立
政 治 大
學
されたと想定されている。
(3) 1.味ヲ
ツケル
コト
⇒味ツケコト⇒味ツケ
‧
‧ 國
本論文の考察対象に当たる複合語は(3)
、
(4)に示すプロセスを辿って形成
モノ
⇒カン切リモノ⇒カン切リ
3.モノヲ
トル
ヒト
⇒モノトリヒト⇒モノトリ
6.水ガ
(4) 1.早ク
2.共ニ
sit
er
利ク
⇒左利キサマ⇒左利キ
aサマ
iv
暮レル l トキ
n
C h ⇒日暮レドキ⇒日暮レ
U
i
e
h
n
c
g
タマッタ トコロ ⇒水タマリトコロ⇒水タマリ
n
5.日ガ
io
4.左ガ
y
切ル
Nat
2.カンヲ
起キル
稼グ
3.ヨチヨチト
コト/サマ/ヒト⇒早起キ
コト/サマ⇒共働キ
歩ク
コト/サマ⇒ヨチヨチ歩キ
(奥津 1975:169-170)
奥津は NV 型の後項の動詞は VN 型複合名詞の後項が消去されたものとし、NV
型を NVN 型の第三項名詞を消去して生成されたものだと主張している。さらに、
その提案の支持として、同じ意味を有する「日暮れ時」と「日暮れ」を取り上
げ、NV 型を NVN 型と関連づけるのが適当だろうと論じている。
57
4.2.2
西尾(1988)
西尾は次の例を挙げ、複合語がコトを意味するのか、ヒトまたはモノを意味
するのかは複合語固有の問題ではなく、動詞連用形が名詞化するときに起こる
意味変化という問題に通じるものと指摘している。
(5) 雪どけ、格上げ、味付け、俗受け(cf. 動き、歩み、さそい、取入れ)
(6) 金持ち、絵かき、羊飼い、軸受け(cf. つきそい、見習い、流れ)
(7) ねじ回し、油差し、帯留め、湯呑み(cf. はかり、はたき、つなぎ<
そばの~>)
西尾(1988:112)
治
政
大
(5)、(6)、(7)はそれぞれコト、ヒト、モノを表すが、括弧内の例と比べ
立
ればわかるように、複合語の多義性は確かに動詞単独の場合と共通している。
‧ 國
學
4.2.3
影山(1993)
、影山(1999)
‧
影山(1993)は「お茶汲み」と「茶こし」との比較を通し、興味深い指摘を
er
io
sit
y
Nat
している。
(8) 動詞要素が単純な動作を意味するときは、その動作に係わる人、道具、
n
al
Ch
i
Un
v
ないし慣習的な仕事という意味になる。「動作に係わる」の部分は動
engchi
的であるが、
「人、道具、ないし慣習的な仕事」の部分は静的である。
人間を表すか道具を表すかは、個々の動詞が持つ意味と派生名詞が使
用される状況によって自ずと決まってくる。仕事場でお茶を汲むのは
半ば規則的な仕事であるから、「お茶汲み」はその仕事ないしそれに
係わる人を意味するが、他方、お茶を漉すという規則的な仕事や、そ
れを専門に担当する人間というのはまずないから、「茶こし」は人を
指す意味にはならず、代わりに、お茶を入れるときにそれを漉すもの
が必要だから「茶こし」はその目的のために用いられる道具を意味す
ることになる。(影山 1993:192)
影山の指摘によると、複合語は人間の意味になるか、道具の意味になるかは
58
現実世界と密接に係わり合うことになり、本論文が採用した理論枠組みの一つ
である ICM 理想化認知モデルの考えとも合致しているとも思われる。しかし、
影山は後に影山(1999)でコトを表す以外のモノを一次複合語と扱っている。
4.2.4
籾山(2002)
、ジョン・瀬戸(2008)
籾山は「物忘れ」、
「物入れ」
、
「物書き」などを挙げ、それぞれコトを表した
り、モノを表したりするので、語が複合したあとの意味が予測できないと述べ
ている。一方、ジョン・瀬戸(2008)も「水割り」は「水」と「割り」の合成
よりも、「よろしくお願いします」のように一つとして覚えられると述べ、籾
山と同様な見方を示している。
治
政
大
4.2.5 先行研究のまとめ及び問題点
立
奥津(1975)の主張によれば、(3)と(4)に挙げた例の中間的段階におけ
‧ 國
學
る複合語(i.e. NVN 型)は実在していると予測されるが、事実、「日暮れ時」
や「爪切りばさみ」などは存在していても、
「*味付けこと」にせよ、
「*カン切
‧
り物」にせよ、どちらも言わないので96、奥津の分析にやや無理があるように
sit
y
Nat
思われる。しかし、NV 型を NVN 型と関連付けるのは必ずしも無意味なことで
io
er
はない。複合語の意味分析にはむしろ大変示唆的である。
影山(1993)は複合語の意味が使用状況によって決まるとしているが、コト
n
al
Ch
i
Un
v
の意味が先に解釈されるか、モノの意味が先に解釈されるかということに言及
engchi
していない。影山(1999)の考えは伊藤・杉岡(2002)で第三の種類の動詞由
来複合語とされた「梅干し」類と共通していると思われる。つまり、モノを意
味する動詞由来複合語を次の構造と想定し、主要部動詞が名詞化という派生過
程を辿って、前項名詞と結合するということである。
96
影山(2002)も筆者と同様な考えを示している。
59
(9)
N
N
N
V
梅
干し
伊藤・杉岡(2002:129)
一方、認知意味論の見地から籾山(2002)、ジョン・瀬戸(2008)があるが、
語の意味からいずれも分析不可能だという考えを示している。従来の立場をま
とめると、次のようになる。
治
政
大
(10)形式重視の立場から:1 一旦複合してから語尾を削除する
(奥津 1975)
立 2 語用論的要因に関わる
‧ 國
學
意味重視の立場から:意味は形態から予想できず、個別の記憶に頼ら
ざるを得ない
‧
sit
y
Nat
本論文の立場を述べると、形式重視の立場 2 と意味重視の立場の中間におけ
io
er
る位置である。つまり、複合語の意味は常に一つとして覚えるのでもなければ、
最初から決められたのでもない。むしろ使用場面+複合語の形態から推測でき
n
al
るのではないかと考える。
4.3
Ch
engchi
i
Un
v
動詞由来複合語の意味拡張
形式意味論の構成性の原理(compositionality principle)から考えれば、
確かにこれらの複合語は不透明(opaque)なものもあり、外心構造(exocentric)
とされても不思議ではない。しかし、一見したところ、結合関係が全く同じな
のに、果たして我々はいかにその意味を把握するのだろうか。
西尾(1961)で指摘されたように、日本語は英語のような接辞添加による造
語法に乏しい97が、語の意味を詳しく検討した結果、いずれも主要部動詞と関
わっていることに気付いた。従って、複合語の多義性は次のメカニズムに由来
97
英語の動詞由来複合語では「-ing」で出来事を表したり、
「-er」で人間や道具を表したり
するが、日本語はほとんど「[[ ]動詞連用形]」となっている。
60
すると想定できる。
(11)複合語の多義性のメカニズム98
立
政 治 大
‧ 國
學
‧
上の図では複合語の意味は出来事を意味するコト名詞がプロトタイプで、動
詞に関わる「誰が、何で、どこで、いつ」などの意味はメトニミーによる拡張
Nat
sit
y
だと示されている99。この考えの妥当性を検証するために、最初に影山(2002)
al
er
io
で取り上げられた「丸焼きのブタ」と「ブタの丸焼き」を考えよう。二つの表
iv
n
C
とという意味であるが、後者の「丸焼き」はブタが丸焼きにされてできたもの
hengchi U
n
現における「丸焼き」は、前者の「丸焼き」は調理法、つまり丸ごとに焼くこ
(=料理名)という意味である。そして両者を意味から分類すると、前者はコ
ト名詞であり、後者はモノ名詞に属することになるが、両者の関係はコトが先
で、モノが後だと思われる。図示すると次の通りになる。
(12)ブタを焼く(ACT)→ブタが焼けて(BECOME)→ブタが料理になる(BE)
↑
焼き方=丸焼き
↓
料理名=丸焼き
98
この主張は基本的に西尾(1961)と重なっているが、拡張がメトニミーによるものだとい
う部分は筆者の考えである。
99
英語の「-er」事象名詞も似たような現象を見せているが、詳しくは島村(2005)を参照さ
れたい。
61
同じ(12)の分析を受けられるものを数例挙げておく。
(13)輪切りの唐辛子→唐辛子の輪切り
(14)水煮のうずら卵→うずら卵の水煮
(15)塩焼きのサバ→サバの塩焼き
(16)唐揚げの鶏肉→(鶏肉の)唐揚げ
(17)浅漬けの白菜のキムチ100→白菜(のキムチ)の浅漬け
上の例において、後の表現はすべて前者によって支持されていると思われる。
治
政
大
ないし、「水煮」という動作を行わないとしないと「水煮」というものが出な
立
いのである 。
言い換えれば、「輪切り」という動作をしないと「輪切り」というものになら
101
‧ 國
學
次によく「モノ」の意味によく使われる複合語を見ると、次の「コト」の意
味に使われている例が見つかった。
‧
sit
y
Nat
(18)自分で歯磨きが困難な場合でも、できるだけ自分でしてもらうのがア
io
er
クティブ・ケアです。102
(19)ヘリコプターでビールの栓抜き世界一決定戦103
n
al
Ch
i
Un
v
(20)ケガをさせないためにも、爪切りの習慣は大切です。104
engchi
(21)理論に裏打ちされたお茶の販売は、袋詰めの際の分量にも厳密だ。105
(22)海のほうに出れば、スケッチブック片手に絵描きを楽しむ人や海水浴
を楽しむ家族など、微笑ましい光景に出会うことができる。106
100
『カピオラニ公園のベンチで』pp.19
居酒屋などのメニューでは上位カテゴリーとして「揚げ物」や「焼き物」などと書かれて
いるのを多く見られ、一見、奥津(1975)の分析の支持となるように見えるが、
「鍋物」や「串
物」などのような「NN」型の複合語もあるので、「NV」が「NVN」から来たとは言い切
れない。
102
『絵でわかる!疲れない、疲れさせない介護』pp.117
103
テレビ番組『ワールド★レコーズ』
104
『猫の医・食・住』pp.103
105
『京都を買って帰りましょう』pp.66
106
『フランスの旅 No.5』pp.136
101
62
(18)はよく「歯を磨くときに使う粉状やペースト状のもの」という意味に
使われると思われるが、ここでは「歯を磨いてきれいにすること」107という意
味になっている。(19)は「栓を抜くための道具」とも表し得るが、その番組
では単に「栓を抜くこと」という意味に使われている108。(20)も道具の「爪
切りばさみ」という意味に多く用いられるが、ここでは「爪を切る習慣」とな
っている。
「袋詰め」は「瓶詰め」、
「缶詰め」と同様に、
「缶/瓶/袋に詰めてで
きた(場合によっては保存食として)食品」を意味すると同時に、(21)のよ
うに「袋に詰めること」も意味し得る。(22)は「絵を描くことを職業にする
人」ではなく、「絵を描くこと」を表している。
(18)~(22)はすべて具体なモノが抽象のコトに使われる例であるが、そ
治
政
大
とはほとんどないようである。
立
の逆の場合、つまり、コトの意味が多く使われるが、モノの意味に拡張するこ
‧ 國
學
(23)(コト以外の意味で)
?魚釣り(cf. 魚釣り竿/釣り竿)
‧
?灰上げ(cf. 灰上げ機(石井 2007))
sit
y
Nat
?ギョーザ焼き、?パン焼き(cf. ギョーザ焼き器、パン焼き器)
io
?尾曲がり(cf. 尾曲がり猫)
n
al
Ch
?枝打ち(cf. 枝打ち師)
engchi
er
?蚊取り(cf. 蚊取り線香、蚊取りマット、蚊取りラケット)
i
Un
v
こうして、辞書に載っていない新語(しかも「NV」という形態で)が道具
などを意味するのにある程度の困難度があると想定される。従って、具体物を
明示するときには上に見たように、語尾に具体物を意味する接尾辞や語をつけ
る方法が採られている。実際、第 3 章で見た内項複合語が形容詞に使われた「魚
焼き網」、
「枝きり鋏」、
「人斬り包丁」なども同じような語形成プロセスに由来
すると考えられる。109
107
『大辞林』より
ヘリコプターの足に栓抜き(道具)をつけて、地面に置いてあるビールの栓を抜く試合と
いう内容である。
109
しかし、筆者が百円ショップで「卵立て」や「包丁かけ」などと名づけられた道具を見か
けるが、それらが道具の意味と感じられるのは、示されたものがすぐ目に入ったからだ(i.e.
108
63
4.4
動詞由来複合語の音韻構造
第 3 章では複合語の機能を中心に考察を進めてきたが、複合語の音韻構造に
ついては論じなかった。
伊藤・杉岡(2002)では、二種類の複合語が違うレベルで形成される証拠と
して、複合語の音韻構造も検討されている。まず、内項複合語はアクセントが
起伏型であり、主要部動詞の第一音が連濁しない。一方、付加詞複合語はアク
セントが平板型となっており、主要部動詞の第一音も連濁する。なお、上の原
則から外れた「梅干し」類があると指摘されている。
(i.e. 内項との複合なが
ら、アクセントが平板化するか、主要部動詞の第一音が連濁する。)
治
政
大
(24)梅干し、宛名書き、人相書き、効能書き、筋書き、野菜いため、卵焼
立
き、石組み、らっきょう漬け、わざび漬け(伊藤・杉岡 2002:128)
‧ 國
學
「梅干し」類とは上のような例で、一見したところ、内項複合語のように思
‧
われるものである。しかし、杉岡によれば、「梅干し」は単に「梅を干したも
sit
y
Nat
の」ではないので、このタイプの複合語は主要部が「-書き」および料理方法
io
er
を意味する一部の作成動詞に限られているという。
ところが、筆者の観察によれば、この主張に一致しないのに、連濁が起きっ
n
al
Ch
i
Un
v
ているかアクセントが平板型になっているものは他にもあった。次の例を参照
されたい。
engchi
(25)アクセントが平板化し、動詞も連濁するもの:
色ずり、いいとこ取り、足踏み、腹切り、人殺し、瓶詰め、衣替え、
線引き、釘付け、物乞い、くじ引き…
アクセントが平板化するのみ:
値上げ、値下げ、灰汁抜き、水切り、わき見、雨乞い、底上げ、上塗
り、下塗り、水撒き、味見、値上がり、値下がり、格上げ、格下げ、
色分け、鯛焼き、顔負け…
記号と意味が一体化している)か、一部の動詞連用形が道具を表す接尾辞になっているからだ
(e.g. 「-入れ」)と考えられる。
64
連濁のみ:
腹ごしらえ、様変わり、宮仕え、山籠り、店じまい、腕試し、戸締り
…
これらの例は第 3 章で述べた、「動名詞」に使えるとされたものが多く、言
い換えれば、杉岡の一般化では普通名詞に使われるはずのものが動名詞に使え
るようになるか、意味が特殊化すると、その変化が音韻特徴にも反映されるの
だと考えられる110。事実、内項との複合で、形容詞に使われるものも一部音韻
上の変化を見せている。
治
政
大
箱入り、先割れ、皮むき(尾高型?)、魚焼き、枝きり、蚊取り、人
立
斬り、子持ち
(26)平板型のアクセント:
‧ 國
學
平板型のアクセントかつ連濁:
ラバー貼り、コンクリート敷き、指出し、革張り
‧
sit
y
Nat
第 3 章では内項複合語は動詞句に近いと述べた。3.5.3 で挙げた例文におけ
io
er
る「ケーキ作りの技術」、
「ミルク飲みの動作」などは「ケーキを作る技術」や
「ミルクを飲む動作」に言い換えてもさしつかえないように思われる。しかし、
n
al
Ch
i
Un
v
動詞や形容詞に使われる場合、意味の変化を伴うことも多いようである。たと
e n g cば h i
えば、3.5.1 でも述べたように、「ラバー貼りラケット」はただラバーを貼っ
たものを意味するのではなく、「初心者、或いは一般向けの卓球のラケット」
を指すと思われる。また、「~を水切りする」も料理ことばとして使われるこ
とが多いのではないだろうか。周知の通り、日本語では語の複合に伴い、アク
セントや連濁に加え、母音交替、音添加などの音韻的変化は珍しくない。(加
藤 et. al 編 1989;窪薗 1995111)従って、動詞や形容詞に使われる内項複合
110
「動名詞」に使えるものはすべて音韻的変化が起きるといったら、そうでもないようであ
る。筆者の調査対象では、
「地均し」
、「世渡り」、
「手合わせ」、
「後押し」
、「後片付け」
、「体当
たり」
、
「人違い」
、
「夜更かし」8 語はアクセントが起伏型となっているし、連濁も起きていな
い。
111
窪薗はさらに複合語の第 1 要素(i.e. 前項)が名詞化するという形態的な変化があると指
摘している。
65
語は音韻的変化も実は意味変化に伴われたものだと考えられる。
動詞由来複合語についての音韻特徴は吉田(2008)でも一般化が行われ、次
の表にまとめられている。
表 1112
動詞
動詞の頭子音 動詞原形の 前項が 1 モ 前項が 2 モ 前項が 3 モー
のモ
アクセント ーラ
ーラ
ラ以上
起伏(木流
起伏(皿回
起伏(筏流し)
し)
し)
ーラ
3
無声
頭高
有声
立
平板
起伏(醤油差
平板(首吊
(スプーン曲
り)
起伏
(金貸し)
頭高、起伏
げ)
(ボタンつけ)
平板(論語読
(人食い)
み)
y
(艶出し)
sit
io
n
al
し)
(衣替え)
er
音
Nat
動詞末尾が母
‧
有声
政 平板治 大起伏(缶き
り)
學
無声
‧ 國
2
Ch
i
Un
v
まず主要部動詞(の連用形;後項)が 3 モーラの場合、前項が内項か付加詞
engchi
かに関わらず、すべて起伏型になっている。(注 110 で挙げた例は「後押し」
を除き、すべてこの原則に当たっていることに注意されたい。)次に、主要部
動詞も前項も 2 モーラで、しかも動詞の頭子音が無声子音で、動詞原形のアク
セントが頭高型の場合、複合語全体は起伏型のアクセントになる。さらに、主
要部動詞が同様に 2 モーラで、前項が 3 モーラ以上のものと複合する場合、動
詞の頭子音が有声で、しかも動詞原形が頭高型か起伏型のアクセント及び動詞
末尾が母音の場合を除き、複合語全体は起伏型のアクセントになる。その他の
場合(網掛けの部分以外の場合)、複合語全体は平板型のアクセントになる。
吉田の一般化では、内項複合語にもかかわらず、アクセントが付加詞複合語
112
66
表 1 は吉田(2008:7)をもとに筆者が書き直したものである。
と同様に平板型のアクセントになっているものが多く見せている。吉田の指摘
は複合語の音韻特徴は必ずしも結合関係に影響されないことを物語っている。
なお、上の一般化に当てはまらない例もあるが、それは比喩表現や揶揄表現の
もの(e.g. いいとこどり、大根切り)や日本人に定着した習慣を表すものが
多い(e.g. 衣替え、席替え)と説明されている。
杉本(2008a)でも「筋読み」、
「サバ読み」、
「裏読み」、
「票読み」、
「秒読み」
など、内項との複合でありながら、アクセントが平板型となっているものは意
味の特殊化が起きているものだと指摘されているが、以上の考察を総合的に考
えると、動詞由来複合語を音韻構造からでも二分法にするのが難しく、むしろ
次の図のように連続性をなしているのではないかと考えられる。
治
政
大
図 1. 各種の複合語の相互関係
立
‧
‧ 國
學
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
i
Un
v
113
繰り返して述べたように、内項複合語は動詞句に近いため、前項と後項の関
113
この図では単純語と扱っている例、すなわち今やあまり複合語と意識されないものも含ま
れているが、それは使用頻度や場面による結果だと思われ、語の構成上ではやはり複合語と分
析できるであろう。
67
係は推測しやすいだろう(主要部が非対格自動詞の場合はガで、主要部が他動
詞の場合はヲである)。それに対し、付加詞複合語は前項と後項の結合関係は
いくつか考えられるので、意味的にも音韻的にも特殊な一次複合語に近いと考
えられる。しかし、内項複合語でも意味変化が起きるものがあり、単純語か付
加詞複合語に似た統語構造や音韻構造を示している。
具体例を示すと、たとえば、
「鯛焼き」は「鯛を焼くもの」ではなく、
「鯛の
形をしている焼き菓子」であるので、語の結合関係は「~を焼く」と想定でき
ても、語のアクセントは平板型となっているので、むしろ単純語(つまり、分
析不可能と見なす)か付加詞複合語と考えていいだろう。次に、
「普段使い」114、
「普段着」を比較してみると、どちらも前項が「普段」で、後項が他動詞だと
治
政
大
さしつかえないように思われるが、さらに「普段着」と「水着」
、
「古着」、
「晴
立
れ着」、「雨着」と比べたところ、「普段に/水に着るコト/モノ」は考えられて
いう構成をなしているが、後者はコト名詞からモノ名詞に変化したと考えても
‧ 國
學
も、「?晴れに着る」、「??古く着る」(cf. 着古す)といったように、次第に言
い換えにくくなることに気がついた。中でも、特に「雨着」は母音交替という
‧
音韻変化が起きているので(あめ→あま)、もはや付加詞複合語とは見なせず、
sit
y
Nat
一次複合語であると思われる。
io
al
n
次のように修正する。
er
このように、音韻特徴も考え合わせると、第 3 章で提案した語形成レベルを
Ch
engchi
i
Un
v
(27)認知意味論に基づいた動詞由来複合語の語形成モデル(修正後)
114
「流行に左右されることなく長く普段使いできるのが魅力の北欧のテーブルウェア。
」
(『北
欧スタイル』
)
(掲載ページは著作権のため表示されていない。)
68
立
政 治 大
‧
‧ 國
學
n
er
io
sit
y
Nat
al
Ch
engchi
i
Un
v
69
筆者自身を例にすれば、今までで聞いたことのある複合語に「牛飼い」や「馬
飼い」といったものがあった。これらの例から“[[
]飼い]”というスキーマ
が抽出でき、次回“○○を飼う(行為/人間)”を言い表したい場合、そのスキ
ーマから「猫飼い」や「カメレオン飼い」などの言葉が作り出せる。また、
「自
転車の乗り方」として「二人乗り」という言葉を聞いたこともある。しかし、
筆者自身の経験から他の乗り方もあり、それは「片手乗り」や「両手放し乗り」
である。この二つの乗り方を意味することばは経験したがないので、スキーマ
を通して名づけるのである。
4.5
動詞由来複合語の生産性
治
政
大
二種類の複合語は表 1 に示された意味や構造に違いを見せるほか、
生産性にも
立
相違点が反映されていると述べられている。杉岡の指摘によれば、内項との複
最後に複合語の生産性について検討するのだが、伊藤・杉岡(2002)では、
‧ 國
學
合は規則的な語形成であり、文脈さえ与えられれば、新しい語が「可能な語」
から「実在する語」の変わることが容易だという。たとえば、国広(2002)の
‧
「窓閉めにご協力下さい」における「窓閉め」は使用場面から「(電車の)窓
y
sit
io
n
al
er
る。(下線筆者)
Nat
を閉めること」と感じ取られるし、次の例もすぐに意味が理解できると思われ
Ch
(28)超能力によるスプーン曲げ
engchi
i
Un
v
無理な機首上げが、今回の飛行機事故を引き起こした。
(コンピュータの)プログラムのバグひろい
運動会の応援では、1 年生が声出し、2 年生が手叩きをする。
暴走族によるバイクのナンバー隠し
(伊藤・杉岡 2002:130)
その一方で、付加詞との複合は語彙的色彩が濃く、レキシコン(lexicon;
心的辞書)にリストされているため、内項複合語ほど新しい語を作ることは難
しいとされている。
(29)道具+動詞:#車運び(車で運ぶ)、#ハサミ切り(ハサミで切る)
70
様態+動詞:#早喋り(早く喋る)、#網採り(網で採る)
原因+動詞:#仕事悩み(仕事で悩む)、#雨濡れ(雨に濡れる)
結果+動詞:#薄伸ばし(薄く伸ばす)、#高積み(高く積む)
(伊藤・杉岡 2002:131)
杉岡は上の例はいずれも「可能な語」でも、
「実在しない」語だとしている。
時々「ななめ聴き」や「片働き」115のような耳新しい表現も耳にするが、それ
は質的に規則による造語とは異なり、アナロジー(XY→ZY)116による造語だと
説明されている。
杉岡の指摘にうなづくものがあるものの、筆者の考察によれば、内項だから
治
政
大
りながら、生産的なものもいくつか見受けられる。
立
最初に内項との複合を見るが、次の複合語は容認されにくいと思われる。
といって、何でも複合できるというわけではない。逆に、付加詞との複合であ
‧ 國
學
(30)?雪降り、*霰降り、*槍降り(影山 1993)(cf. 雨降り)
‧
(31)*人食べ、*東京住み(Sugioka1996:)(cf. 人食い、東京住まい)
sit
y
Nat
(32)(?)桜見、??桃見、??植物見、??肘掛け椅子とりゲーム、??家具とり
io
er
ゲーム(cf. 花見、椅子取りゲーム)(河上 1996:35)
(33)*孫殺し、*犬殺し(斎藤 2005:)(cf. 人殺し、親殺し)
n
al
Ch
engchi
i
Un
v
まず(30)は影山(1993)による指摘である。氏は「名詞+動詞連用形」型
の複合語(i.e. 本稿でいう動詞由来複合語)は高い生産性を持つものの、中
でも「-降る」のような結合相手を選択するものがあり、そして、そういう場
合は複合語全体がレキシコンにリストされるとしている。
次の(31)は杉岡自身117による指摘で、成立しない理由は同義語が存在する
ための、阻止効果(blocking effect)によって制限されるのだという。
115
例は伊藤・杉岡(2002:131)による。
杉岡がいうアナロジーと筆者が考えるアナロジーは違うことに注意されたい。
(筆者は
“[[ ]動詞連用形]”というスキーマを規則、前項がすべてアナロジーだと考えている。)
117
Sugioka(1996)
(筆者は入手していないので、ここで言及している部分はすべて浅尾(2007)
によるものである。
)
116
71
さらに、河上(1996)118では(32)の例が挙げられ、語形成には基本レベル
は複合しやすいが、上位レベルも下位レベルも複合しにくいと指摘されている。
最後の(33)は斎藤(2005)が指摘したもので、上の例と同様に、内項との
複合でも、結合相手がほとんど指定されているものもあり、文のように自由に
結合できるほどの生産性を持つわけではない。
以上の指摘によれば、内項複合語でもむしろ一部非生産的なものがあるのが
判った。
さて、付加詞の場合であるが、次の複合は生産的だと思われる。
(34)[-生まれ](東京生まれ)、[-行き](渋谷行き)、[-沿い](浅尾
治
政
大
(35)石焼き、窯焼き、鉄板焼き、串焼き、包み焼き、炒め焼き…
立
(36)箱買い、カートン買い、まとめ買、箱売り、卸売り、ばら売り…
2009)
‧ 國
學
(37)2 人乗り、7 人がけ、3 階建て、5 枚綴り…
(38)早食い、早起き、早茹で、早歩き、早打ち…
‧
(39)手作り、手編み、手縫い、手揉み、手選り、手打ち、手焼き…
er
io
sit
y
Nat
(40)朝寝、昼寝、朝帰り、夜遊び、夜逃げ、夜釣り…
上の例で見た通り、生産性を影響する要素は主要部動詞だけではなく、前項
n
al
Ch
i
Un
v
も一つの要因だと考えられる。まず高い生産性を得られる動詞を見ると(34)
engchi
~(36)が挙げられる。(34)は浅尾(2009)が指摘したもので、これらの動
詞が高い生産性を持つのは、前項に固有名詞が来られるからだと考えられる。
しかし、なぜ固有名詞と結合できる動詞は生産的なのかというと、同氏が
(2007:6)で述べたように、固有名詞の機能はカテゴリー化ではなく、個体
の識別であり、狭い意味カテゴリーに多くの語が存在するので、固有名詞と結
合できる動詞語基が高い生産性を得るわけである。ただし、浅尾が指摘した「-
行き」と「-沿い」の前項に来るものはむしろ主要部動詞にとっての必須項で
あり、付加詞複合語と位置づけるのは必ずしも適切ではないと思われる119。主
118
指摘した部分の執筆に当たるのは早瀬尚子氏である。
「-行き」を内項複合語だと考えると、これも形容詞として使われることが多く見られ(e.g.
盛岡行きの電車)、杉岡の一般化に反している。ほかに付加詞と複合できるものは「-読み」
(杉本 2008b)や「-譲り」、
「-離れ」などが挙げられる。
119
72
要部動詞にとっては付加詞で、固有名詞と結合できるのは筆者が差し当たり見
つけたのは「-育ち」や「-暮らし」
、
「-向け」
(e.g. 「山形育ち」、
「マンシ
ョン暮らし」、
「小学生向け」)がある。
(35)と(36)が生産的なのは現実世界
においてはそれらの多くは有標かつ有意義な動作だからだと考えられる120。こ
れは、前節で見た複合語の選択制限にも関わる。たとえば、「石焼き」という
と、
「芋」をすぐ思い浮かべるのではないだろうか。また、
「窯焼き」というと、
「パン」や「ピザ」が思い出される。「みかん」は「箱買い」、「箱売り」する
が、
「ドリアン」はふつうそうしない。
「電気製品の卸売り」は一般的でも、
「自
動車の卸売り」はまずふつうではないと思われる。臼杵(2008:110)は Marantz
(1984)が提案する「仲介道具」
(intermediary instrument)及び「促進道具」
治
政
大
介道具は動詞と複合できるが、促進道具は複合できないとしている。促進道具
立
であるため、不適格とされている「*ケーキのフォーク食べ」があるが、これ
(facilitating instrument)121という区別を日本語に導入し、道具でも、仲
‧ 國
學
は「フォーク食べ」(或いはフォーク食い)は特に対象物に影響を与えるか、
影響されることはないからだと考えられる。
‧
(37)の事情は(34)と似ており、前項に来る要素は数量詞なので、叙述対
sit
y
Nat
象の属性になる「合理的」な範囲の数字であれば、通常は自由に新しい複合語
io
er
が作れると考えられる。
(38)~(40)は前項が有力だが、
(35)、
(36)の動詞
と同様に「有標」なものと考えてさしつかえないだろう。ここ数年、テレビで
n
al
Ch
i
Un
v
よく「早食い勝負」を見かけるが、「?遅食い勝負」は一度も見たことがない。
engchi
なぜなら、早さで勝負するのがふつうだからだと考えられる。しかし、一般の
動作と比べ、「遅-」も有標だから、次のような「実在する語」になる可能性
も認めざるを得ない。
(41)早食いグループと遅食いグループの違いは何か?(日本生理人類学会
第 49 回大会座長報告)122
(42)室内でのテレビゲームの流行で屋外での運動不足や、勉強時間も多く、
120
第 3 章の(118)~(120)の例も参照されたい。
Marantz(1984)に対する言及は臼杵(2008)によるものである。なお、日本語訳は島村(2006)
によるものである。
122
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002510738/en
121
73
遅寝、遅起きの習慣も見逃せない。123
ただし、「遅-」は「早-」よりマイナス的なイメージをもたらしやすいた
め、造語力がやや弱いのも予想される。(cf. 早茹で麺/??遅茹で麺)
さて、「手-」は 3.5.1 で述べたように、現在の社会では何でも機械に頼る
ので、「手で」ということはわりといいイメージを感じさせる。実は筆者は筑
波大学交換留学中にたまたま「機械練り石鹸」を見かけ、なぜ「機械で練るこ
と」を強調するのかということに不思議に感じたのだが、のちに調べたところ、
次のことがわかった。
治
政
大
あり、わく練りは、枠に流し込んで冷却固化させ、成型して得られる
立
固形石鹸です。現在流通している汎用化粧石鹸のほとんどは機械練り
(43)機械練りは、機械力によって練り混ぜ、成型して得られる固形石鹸で
‧ 國
學
で製造されており、当社でも機械練りで石鹸を製造しています。機械
練りで作った石鹸は、水によく溶け泡立ちが良い石鹸になりますが、
‧
やや溶けくずれしやすい性質があります。一方、わく練りで作った石
sit
y
Nat
鹸は、機械練り石鹸と比べて水に溶けにくく、泡立ちがやや劣ります
io
er
が、溶けくずれしにくい性質を持っています。透明石鹸は、わく練り
で製造されています。124
n
al
Ch
engchi
i
Un
v
本来わざわざ「機械で練るや作ること」を言うまでもないことを、上のよう
な「有標」になった場合、やはり複合語を作れるのだろう。
(40)にある一群は前項に昼夜を表すことばが来るのが特徴的である。これ
らは石井(2007)の「朝酒」や「朝風呂」に対する指摘で説明できる。すなわ
ち、
「本来は朝にするものではないが、あえて(特別に)朝に~すること」
(石
井 2007:171)だから、有標である。
最後に杉岡がいう「質的に違う」ものを検討したい。「キャベツの百切り」
(沢木編 1989)と「立ち読み及び座り読みを禁ずる」
(佐竹編 1989)、
「ななめ
聴き」は指示対象がほぼ同じだから奇妙に感じられるのではないかと思われる。
123
124
74
『人生の分岐点』pp.137
http://www.cow-soap.co.jp/web/site-info/question/sekken/q10130.php
「百切り」と「千切り」は幅が違っても、どちらも「細長く切られた/刻まれ
たキャベツ」であり、「立ち読みと座り読みを禁ずる」というのは結局「ただ
読みが禁止される」ことになるのではないだろうか。さらに「ななめ聴き」は
杉岡自身が後ろに書いているように「早送り」という意味となっている。
もし付加詞複合語は単なる XY→ZY という置き換えだとすると、
「二度寝」も「?
一度寝」から来たと考えなければならないし、「夜遊び」や「朝帰り」も「?
昼遊び」と「?夜帰り」から来たと考えなければならない125。
「片働き」については、そもそも「共働き」に対し「片働き」は無標なこと
ともいえるので、わざわざ複合語を作ることはないだろう。
以上二種類の複合語の生産性を見てきたが、生産的かどうかということは、
政 治 大
必ずしも二種類の複合語が異質である証拠とはならないことがわかった。
立
終わりに
學
‧ 國
4.6
本章では複合語の多義性及び音韻構造、生産性をめぐって考察を行った。ま
ず 4.3 で複合語の多義性について検討し、複合語の多義化は従来指摘されたよ
‧
うにNVNの第三項名詞による削除ではなく、メトニミーによるものだと主張
sit
y
Nat
した。次に 4.4 で複合語の音韻構造について論述し、内項との複合でも、複合
io
er
語全体のアクセントが平板化するか、主要部動詞の第一音が連濁するものがあ
るのを見たが、これは意味の特殊化に伴った現象だと考えられる。最後に、4.5
n
al
Ch
i
Un
v
では二種類の複合語の質的に違う証拠として指摘された生産性も検討し、主要
engchi
部動詞にとっては内項でも、上位か下位概念を表すものは結合しにくい一方、
内項複合語ほど生産的ではないとされてきた付加詞複合語は「有標なもの」と
なら、高い生産性を見せることがわかった。
125
筆者が見かけた「XY→ZY」から来たと思われ、しかも指示対象が違う例として、
「二目惚れ」
があった。
75
第5章
5.1
結論
本論文の結論
本論文は認知意味論の観点に立ち、日本語の動詞由来複合語の語形成モデル
の提案を試みた。早い時期で行われた研究は動詞由来複合語をほかの複合名詞
と一緒に扱うものが多かった。しかし、複合語の中でも結合関係が様々なもの
(i.e. 一次複合語;語根複合語)と比較的に捉えやすいもの(i.e. 二次複合
語;動詞由来複合語)がある。伊藤・杉岡(2002)はさらに後者を内項複合語
と付加詞複合語と分け、統語、意味、音韻などの面をめぐって、二種類の動詞
由来複合語が違うレベルで生成されるとしている。語彙性および規則性という
治
政
大
えよう。ただし、筆者の考察によれば、二種類の複合語は統語といい、意味と
立
いい、音韻といい、両者の間に必ずしもきれいに線を引くことができず、むし
二面性を考え、動詞由来複合語の研究を行った伊藤・杉岡の功績は大きいとい
‧ 國
學
ろ連続性を見せていると考えてよい。
本論文の主張と杉岡と決定的に違う点は、複合語の機能や意味は構成によっ
‧
て決まるのではなく、機能や意味といった、外部世界における「需要」(動機
sit
y
Nat
付け)があって初めて我々の中に存在するスキーマを通して、複合語を創り出
io
er
すというところにある。内項か付加詞かに関わらず、複合語の意味は基本的に
次のように「動作/活動の名前」として捉えることができると考える。
n
al
Ch
engchi
i
Un
v
(1) 内項との複合:山登り、金魚すくい、水切り、値上げ、種抜き、金箔
張り…
付加詞との複合:車庫入れ、磯釣り、早食い、手作り、朝摘み、炭焼
き…
そして、複合語の機能(統語)は意味に大きく影響されると考えられる。た
とえば、
「山登り」や「金魚すくい」などはある行為を示す「ひとまとまり性」
が強いため、「山登りする」、「金魚すくいする」を言わないと予想される。そ
の一方で、「水切り」や「値上げ」は「何の水」、「何の値」が疑問なので、他
動詞によく使われるだろう。さらに、「種抜き」や「金箔張り」はふつうな行
為とは思えないので、形容詞に使うことになる。付加詞複合語は従来「複雑述
76
語」と位置づけられてきたのは動作の及ぼす対象(目的語)が複合語の内部に
存在しないためだろう。しかし、だからといって、「ひとまとまり性」が弱い
といったら、そうでもない。「車庫入れ」、「磯釣り」ないし「立ち食い」など
は使用場面の頻度により、デフォルト対象が決まり、何を入れるか、何を釣る
か、何を食うかを常に一々明示する必要はない。たとえ目的語をはっきりいう
必要があっても、動詞単独の場合と比べ、選択制限が厳しくなることもある。
これも名づけを行う際に決められたと考えてよいだろう。なぜほかのものが自
動的に排除されるのかというと、それは複合語が示す対象(=意味)に関わる
百科事典的知識が我々の ICM に蓄積されているからだと考えられる。筆者は
ICM の導入に従って、従来「語彙化」とされてきた語に関する様々な現象が説
治
政
大
以上は第 3 章で敷衍したことであるが、複合語の多義性及び音韻構造は第
4
立
章で説明した通り、形態通りの意味から離れる、つまり意味が特殊化するにつ
明できると考える。
‧ 國
學
れ、音韻構造においても変化が起きる。従って、「梅干し」は単に「梅を干し
たもの」という意味ではなくても、第三種の動詞由来複合語というカテゴリー
‧
を設けるまでもないだろう。それに比べて、動詞にまつわる各種の情報、たと
sit
y
Nat
えばその動作を行う人やその動作を行うのに必要な道具などの意味は基本的
io
er
にメトニミーによる拡張だと見られるので、意味の透明性も高く、音韻的にも
ほとんど変化が起きないのである。最後に生産性についても検討したが、本論
n
al
Ch
i
Un
v
文の主張によれば、内項、付加詞を問わず、複合語は同じスキーマによる造語
engchi
なので、外部世界で動機付けがあれば、すぐスキーマで造語を行えるので、二
種類の複合語はどちらが生産的なのかは一言や二言では言い切れない。
5.2
今後の課題
今後の課題として、次の二点を挙げておく。
一、研究対象
二、句および他の合成語との連結
まず研究対象についてであるが、本論文では主要部が漢語動名詞である複合
語を考察対象から外したが、主要部が漢語動名詞の複合語も結合関係から内項
77
複合語と付加詞複合語と分類することができる。
(2) 内項との複合:
意思表示、世論調査、自己紹介、記者会見、交通渋滞、地盤沈下、法
律改正…
付加詞との複合:
テレビ放送、アンケート調査、衛星放送、単身赴任、個別指導、短期
研修…
外項との複合:
文部科学省認可(の財団法人)、○○大学所蔵の(専門書)、Hotmail
政 治 大
スタッフ厳選(のメルマガ)、ミニカーファン製作(のオリジナルミ
ニカー)…
立
‧ 國
學
主要部が漢語動名詞の場合も主要部が和語動詞の場合と同様に、内項、付加
詞に関わらず、直接に目的語を帯びる他動詞に使われることがある。この現象
‧
について、本論文が提案した語形成モデルで説明できるか、課題にしたい。な
sit
y
Nat
お、ほかの二種類と比べ、生産性がそれほど高いとは思えないが、外項との複
io
er
合が許されるのも興味深い。
次に句と他の合成語との連結であるが、本稿は認知意味論のスキーマおよび
n
al
Ch
i
Un
v
ICM 理想化認知モデル、カテゴリーなどの理論を導入し、動詞由来複合語の語
engchi
形成モデルを提案したが、句、および他の合成語との連結は便宜上、特に言及
もしなかったし、筆者の今の力では及ばないところである。なお、本論文の提
案によれば、複合語に関わる百科事典的知識を語ごとの ICM に記述しなければ
ならないことになるが、詳細な記述は今後の研究を待たねばならない。
78
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広辞苑第 5 版
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