274 植 物 防 疫 第 66 巻 第 5 号 (2012 年) 日本産ジャガイモ青枯病菌の遺伝的および生理的特性 (独)農業環境技術研究所 堀 田 光 生 長崎県農林技術開発センター 菅 康 弘 沖縄県農業研究センター 九州大学大学院農学研究院 大 城 篤 土 屋 健 一 ス 3,biovar N2)が主な原因であると確認された。近年, は じ め に 上記以外の地域にも同青枯病の発生が拡大し,今後も警 植物病原細菌 Ralstonia solanacearum に起因する青枯 戒が必要となってきている。 病は,国内,海外のジャガイモ栽培地域で発生し,同作 今回,我々は国内におけるジャガイモ青枯病の防除に 物の安定生産にとって最も大きな阻害要因の一つとなっ 資するため,同病害の国内での発生状況や分離菌株の遺 ている。青枯病菌はこれまで病原性の違いにより五つの 伝的,生理的特性の解析により,その現状を明らかにす レースに分類され,生理的性質の違いによりさらに六つ ることを試み,いくつかの知見が得られたので報告する の biovar に分けられている。これらの中で,レース 1(ナ ス科ほか多種を侵す)biovar 1,3,4 およびレース 3(主 にジャガイモを犯す)biovar 2,N2 に属する株がジャガ イ モ 栽 培 に 影 響 を 与 え て き た(DENNY and HAYWARD, 。 (HORITA et al., 2010) I 国内産ジャガイモ青枯病菌の phylotype,biovar と その分布 我々は 1962 ∼ 2005 年に日本各地(7 道県,18 市町村, 2001) 。 青枯病は,病原細菌が土壌中で長期間生存後,定植さ 35 地区)からジャガイモ青枯病菌 188 菌株を分離・収 れた宿主の根部や傷口から感染・侵入し,萎凋症状を引 集し,それらの分布地域,phylotype,biovar について き起こす典型的な土壌伝染性病害であるが,ジャガイモ 調査を行った。その結果,同細菌は北海道から沖縄まで では地下塊茎に本細菌が感染し,保菌した塊茎が種イモ 日本各地に分布し,近年は特に西南暖地(九州,沖縄) 植物防疫 として利用されることで本病の発生を広範囲に拡大させ 。片山・木村 で多数の菌株が分離・収集された(表―1) (1986)は 1981 ∼ 83 年に長崎県内のジャガイモ栽培圃 る(片山,1991) 。 近年,DNA を用いた遺伝子解析が進められた結果, 場の発病調査を行い,同細菌を多数分離している。我々 青枯病菌は,それぞれ地理的な由来の異なる四つの系統 が 1993 ∼ 99 年に九州 3 県(長崎,佐賀,鹿児島県)で (phylotype I,アジア由来;II,アメリカ由来;III,アフ 行った圃場調査でも,25 地区で 100 検体以上の罹病植 リカ由来;IV,アジアの一部地域由来)に類別された 物から同細菌が分離され,ジャガイモ青枯病が西南暖地 (FEGAN and PRIOR, 2005)。Phylotype とレース,biovar に 明確な関係はみられていないが,過去 20 年間に西ヨー ロッパ,北アメリカ,アジア,アフリカの各地域で突発 的に多発したジャガイモ青枯病は,南アメリカ由来の系 表− 1 日本産ジャガイモ青枯病菌 phylotype,biovar,DNA フィ ンガープリントタイプの地理的分布(HORITA et al., 2010 改変) phylotype 統 phylotype II が,潜在感染した種イモや切り花の国際 的な流通を介して伝播したことが原因であると明らかに 分離地域 された(ELPHINSTONE, 2005;築尾,2008)。 I biovar N2 日 本 国 内 で は 戦 後 1950 年 前 後 に 北 海 道 で, ま た 1960 年代以降より主に長崎県など西南暖地においてジ ャガイモ青枯病が多発し(成田,1958;片山・木村, 1986) ,これらは二つの系統(レース 1,biovar 4 とレー Genetic and Biological Characters of Potato Isolates of Ralstonia solanacearum in Japan. By Mitsuo H ORITA , Yasuhiro S UGA , Atsushi OOSHIRO and Kenichi TSUCHIYA (キーワード:青枯病菌,ジャガイモ,biovar,phylotype) IV 北海道 静岡 奈良 佐賀 鹿児島 長崎 沖縄 合計 a a 2(1) 1(1) 0 0 5(1) 36(1,2) 30(1) 74 biovar 3 biovar 4 0 0 0 0 0 15(3―7) 1(10) 0 1(9) 2(9) 1(10) 46(9―13,15) 29(3,4,8) 44 19(9,10,14,16) 70 菌株数(DNA フィンガープリントタイプ) . ― 28 ―
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