ヘリウム-3輸送用,地球-月周回軌道の計算(Abstract)

論文要旨
九州東海大学 生産工学専攻
増
田
孝
弘
論文題目
ヘリウム-3輸送用,月-地球周回軌道の計算
論文要旨
中性子発生が少なく,放射性物質であるトリチウム(T)も使用しないクリーンな D-3He 核融合発電
を行うためには 3He を月から地球へ効率的かつ低コストで輸送する方法が必要である.本研究ではこの
目的のために,少ない燃料で月‐地球間を往復できるような輸送機の周回軌道を数値計算によって見い
出し,その軌道特性を明らかにした.
地球と月の重心を中心とする月の公転周期Ωで 回転する座標系上で輸送機の運動方程式を求め,
V‐FORTRAN プログラムを製作し計算を行った.ここでは微分方程式の数値計算に4次のルン
ゲ・クッタ・ギル法を用いた.一般に二つの天体が接近すると方程式の特異点の影響で計算が困難
になるため,レビ・チビタ変換を使い特異点を取り除く正則化を行う必要がある.本研究において
も,正則化を行ないその軌道特性を調べた.
まず,正則化プログラムを簡単にチェックするため,月の公転速度Ωを 0 として正則化した場合
としていない場合の楕円軌道の比較計算を行った.Fig.1 では軌道が急激に変化をするような初期
条件を与え,正則化をしないで計算をすると右上に飛んでいく事がわかる.そこで正則化を行うと,
Fig.2 に示すように地球付近で不安定な軌道であったものが月まで戻ってくる軌道になっているこ
とがわかる.このように正則化軌道計算プログラムは正確に動作している事がわかった.さらに,
月の公転速度を加え,正則化した場合としていない場合の周回軌道の計算を行ったが,同じ結果が
得られたことより本研究の周回軌道では正則化の必要がないことが明らかとなった.
このプログラムを用い月−地球間の半永久的周回軌道の計算を行った(Fig.3).輸送機は地球を出発
して 3.43 日後に月と1回目の会合をし,その後 26.9 日後に 2 回目,さらに 26.9 日後に3回目の月会合
を行う.このように3回の会合までは軌道変更の必要はないが,3回目の会合前から少しずつ軌道がず
れ始め,月と会合しなくなる.そこで,3回目の会合時に1回目会合に用いた初期条件の座標(X,Y)
と速度(VX,VY)の値を新たな初期条件(リセット)にすると軌道が元に戻り,周回を続ける事が出
来る.実際にはこの軌道修正は徐々に行わなければならないが,この軌道修正を奇数回おきに行うこと
で半永久的に月−地球を周回できることが明らかとなった.
このように運動方程式の正則化を行うことで月‐地球周回軌道の正確な計算が出来るようになった.
その結果,これらの正則化可能な信頼性の高い計算プログラムを用いることによって,月‐地球周回軌
道の存在を明らかにすることができ,奇数回目の月会合時に軌道修正を行えば半永久的に月と地球を周
回することが可能であることがわかった.
Fig. 1. Unstable and incorrect orbit without regularization for the initial velocity of
Vx0=‐0.1262 km/s,Vy0= 2.30 km/s and position of X0=‐6778.0 km and Y0= 0.0 km.
Fig. 2.
Accurate orbit by regularization in the range of the distance of 30,000 km.
The initial velocity and position are the same as in Fig. 1.
Fig. 3. Periodical orbit between the Earth and the Moon