JH04 教心第 57 回総会(2015) 学級集団の理解と集団の成熟度支援と子どもの育ち ―教育社会心理学研究のこれから― 企画・話題提供:松崎 学(山形大学) 企画・司会:田中宏二(広島文化学園大学) 話題提供:越 良子(上越教育大学) 話題提供:折笠国康(郡山女子大学短期大学部) 指定討論:弓削洋子(愛知教育大学) 【企画趣旨】 な関係を強制的に導入し,協同をおこなわせるも 学級集団育成が学力向上や個々の子どもの良い のである。こうした活動が学級づくりにおいて有 育ちにつながることは,学校教育関係者であれば 意義であることは,現場の教師の誰もが自明のこ 十分理解していると考えられる。他方,どのよう ととして首肯するであろう。ただし,この学級活 にしてそのような学級づくりを進めていくかにつ 動が子どもたちに及ぼす影響についての理論的考 いては,さまざまな方法が考えられ,現在模索の 察と実証的検討は,いまだ十分ではないように思 途上にあると言える。 われる。 このシンポジウムでは,学級集団構造の理解と 堀井(2014) ,堀井・越(2015) (ともに教心 その成熟度支援研究にアプローチしている先生方 学会総会発表論文集)は,中学校の学級での班活 に話題提供していただき,かつ,そのような学級 動について,それが機能することで,学級内人間 での個々の子どもの育ちについてもエビデンス 関係が影響を受け,向社会的行動の生起が影響を ベーストで言及していただき,いくつかの方向性 受けることを明らかにした。すなわち,班活動で を検討していただくことが,本シンポジウムの目 の相互依存と相互尊重の経験によって,班を超え 的である。 た学級集団に対する意識と自己への認識が変化し 指定討論では,教育社会心理学研究の立場から たことが示された。そしてこの結果については, コメントをいただき,討論のきっかけをご提供い 社会的アイデンティティ論やネットワーク論の観 ただく予定である。 点からの理解が可能である。この他の関連研究な ども参照しながら,学級をマネジメントする教師 【教師の指導行動と学級集団構造と個の育ち】 越 良子 の学級経営と,子どもたちの個と集団の発達を促 す機制について検討したい。 学級という集団は,集団であるがゆえに子ども たちに不適応を引き起こしうる。しかしまた,集 【学級集団成熟度支援の実践と個の育ち】 団であるからこそ,その集団機能が子どもたちを 折笠国康 育てるという一側面もある。学級集団は,集団と 学級集団が成熟した状態のヴィジョンを持つこ しての機能が十全に発揮されるならば,子どもた とが,その支援のスタートになるとの思いがあ ちが自律的に相互影響を与え合い,協同的に学習 る。教師,特に担任は学級経営や指導の際に多様 を成立させ,一人ひとりの心理社会的な発達を可 な選択や判断を求められるが,理想とする学級の 能にする教育機能をもっている。教師の指導行動 明確なヴィジョンをもつことで,常に選択や判断 としては,学級の集団機能をいかに肯定的な形で に一貫性を持つことが可能になると考えられる。 発揮させるかがひとつの重要な課題となると考え 学級経営や学級指導の際に,とかく学級全体の秩 られる。 序や外からの見た目に視点が当てられやすいとい この観点から,ここでは「学級活動」の機能を う傾向が,教師にはあるのではないだろうか。個 取り上げる。学級活動の実施は,教師の意図的・ の生徒がそれぞれ主体的に活躍でき,その活躍で 計画的な学級経営の一環といえる。特に係活動や きる個の生徒の集合体としての相互作用の結果と 班活動などの学級活動は,学級内に自然に発生し して,学級全体がますます個の生徒のためになっ たインフォーマルな友人関係の他に,フォーマル ていくといった視点がより重要なものであるとの ― 108 ― 教心第 57 回総会(2015) 思いがある。なぜならば,それが学級の真の成熟 のかかわり」因子の「有能感・貢献感」因子への した姿であると捉えるからである。 パスは十分高いものの,「凝集性」因子のパスは 抽象的な表現である 学級集団が成熟した状態 大いに低かった。つまり,集団成熟度の高い学級 とはどのような姿なのだろうか。上記の視点に 担任は,日常的なことばかけにおいて, 「有能感・ 沿って捉えたとき,一人ひとりが精神的健康のも 貢献感」と「凝集性」の両方を満足させるコミュ とに,困難を克服していく活力を持ち,級友と協 ニケーションがとられているものと推察された。 力しながら生活する姿勢を持つ生徒の集団とする 一方,それら学級機能 3 因子が「本来感」に及 ことができると考えられる。このような状態で学 ぼす影響では, 「教師のかかわり」が「有能感・貢 級が機能したならば,昨今の学校現場で起きてい 献感」を経由して「本来感」に強い間接効果を示 る多くの問題は解決の方向に向かうのではないで した。しかし,満足群出現率の高い学級でも,一 あろうか。何よりも,生徒指導上の諸問題の予防 部に「教師のかかわり」から「本来感」に負のパ 的な機能を果たし,さらに,これからの激動の時 スが見出された(松 代をたくましく生きていく上での精神的な土台を あらためて,クラスター分析によって再分類す 培うことに貢献するとも考えられる。 ると,個々の子どもの育ち( 「本来感」・自主性因 今回の話題提供では, 2 年次の Q-U によるア , 2013)。 子の「問題場面での主体性」および「自己肯定感」) セスメントにおいて 荒れ始め型学級 (河村 , が優れていて,かつ,SD も小さい一群の学級集 2007)であった学級の,その後の 1 年間の変容を 団が存在することがわかった(松 題材にすることを予定している。3 年次から担任 そ れ ら の 学 級 担 任 は, 親 学 習 プ ロ グ ラ ム が変わり,SGE 等の導入は一切なく,教師の日常 STEP( Systematic Training for Effective Parenting ; のかかわり方の工夫による生徒達の気づきや,教 Dinkmeyer & McKay, 1976)を通して, ほめる・ 師の言動によるモデル学習の結果としての学級全 叱る に替わって 勇気づけ・I- メッセージ な 体の変容例である。3 年次に実施した Q-U や各種 どを活用して子どもとの間に相互尊重の関係性を アンケート結果が示すように,生徒の適応的な状 築くことができている可能性が示唆された。 態のよさが際立った学級となり,この学級が他の かつ,SD の小ささは,それによって,発達障 学級と質的に違った特徴的な何かが存在すると考 害児も低学年から中学年にかけて二次障害を創出 えることの妥当性が示されている。新 3 年担任の 管理型 でも なれあい型 ( 河村 , 2007) でもな されることなく,上学年に上がり,そこでは十分 い,今までにない民主的なリーダーシップの価値 観と手法である 勇気づけ (Dinkmeyer & Mckay, た。 1976) をもとに生徒との関係性を築いたという特 るためにも,相互尊重の民主的な関係性を,子ど 別な背景を有していたことが,大きな特徴として も時代に経験させることのできる教師のかかわり 各種アンケートの得点差に表れたものと考えられ が求められていると言える。インクルーシヴ教育 る。 を含めて,公教育がその責任を果たすことのでき , 2014)。 適応的に過ごすことができていることが示唆され 激動の21世紀を生き抜く力をどの子にも育て る選択を迫られている。 【学級集団機能と集団成熟度および個の育ち】 松 学 引用・参考文献(一部) 力動的な学級集団機能を把握するために,学級 Dinkmeyer, D. & Mckay, G. D.(1976).Systematic 機能尺度作成と,その因子の働きについて検討し training for effective parenting: Parent's , 2006ほか)。小学校では, 「子ども の主体性を尊重した教師のかかわり(以下,教師 handbook. Circle Pines, Minnesota: American Guidance Service, Inc.(柳平彬(訳) 1982 子ど のかかわり) 」因子が「有能感・貢献感」因子と「集 もを伸ばす勇気づけセミナー:STEPハンドブッ 団凝集性」因子に影響する構造が見出された。特 ク 1・2 発心社) てきた(松 に,Q-U 満足群出現率80-100%の学級では, 「教 師のかかわり」因子が後二者にある程度高いパス を示した。他方,同80%未満の学級では,「教師 ― 109 ―
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