VOL.966

2012.4.16 VOL.966
ヒットの真相&深層〈第40回〉
「超常識」がいまや「新常識」に
●大ヒットの“ 消えるペン”
には数多くの改良が必要でした。マイクロカプセルとは、
イ
2007年3月の国内発売以来、予想を上回るヒットを続け
ンクや香料を封入する小さなカプセル。
「フリクションインキ」
ているパイロット社のボールペン『フリクション』。
“消えるペン”
は、
このマイクロカプセルに「発色剤」
「発色させる成分」
「変
として、全世界で1億本以上を売り上げた商品です。
色温度調節剤」の3つの成分が入っており、常温では「発
「ボールペンで書いた文字は消えない」という常識を覆
色剤」と「発色させる成分」が結合して発色します。これ
した発想により、
ビッグ・ヒットを生んだ消せるボールペン。
〈ヒ
が専用ラバーでこすられ、摩擦熱 で65℃以上になると
「変
ットの真相&深層〉の一環として、
その背景についてみてい
色温度調節剤」が2つの成分の結合を妨げて、色が消え
きます。
たようにみえる仕組みです。
メタモインキの開発後、長年にわたりマイクロカプセルを
●新たな常識となりつつある「超常識」
?
小さくする、耐久性を高めるなど、筆記具に用いるための
ボールペンといえば、書いた文字などが消えてしまわない
改良を重ね続けて2002年、
ようやくこのインキを使った最
のが当たり前。その上で書き味や握り心地などを競ってい
初の筆記具『イリュージョン』をリリース。黒で書いた文字
た商品です。ところが、
『フリクション』大ヒットの理由は、書
が赤や青に変わるというものでした。
いたものが消せること。つまり、
ボールペンの常識を飛び越
そして2005年、変色温度の幅を80度前後(−20度∼65
えたところに、
ヒットの秘訣がありました。
度)
に拡大し、
メタモインキの進化型「フリクションインキ」が
消せるといっても、鉛筆を消しゴムで消すのとはまた別の
誕生したのです。
原理。ペンのお尻についている専用ラバーを使い、書いた
文字をこすることで、特殊インキが無色透明になるというも
●大成功を収めたフランス先行発売
ので、消しゴムカスも出ません。従来、手帳や資料に書き込
『フリクションボール』が初めて発売されたのは実は日本
んだ文字を書き直すには、修正液を使う“修正”しかありま
ではなく、2006年のフランス。この先行発売が大成功し、
さ
せんでしたが、
『フリクション』は鉛筆のようにサッと消して
らに2007年の国内販売でも予想外の売れ行きで東京の
書き直すことができます。この便利さがビジネスマンの間で
大手小売店では品切れ状態が続いたそうです。
大ウケし、人気に火がつきました。
今では、
ボールペンの主流であるノック式の『フリクション
また、
ノートや教科書、地図、雑誌などへの書き込みも気
ボールノック』を始め、
カラーペンや蛍光ペンなど、
さまざま
軽になり、
ビジネス層だけでなく学生、
主婦と幅広い層に浸透。
な『フリクション』シリーズが展開されています。
ボールペンも
「消せる」が常識となりつつあるようです。
消えてしまうため、証書や宛名書きには使用できない側
面もありますが、
これまでのボールペンでは考えられなかっ
●1975年、開発物語の幕開け
たところで活躍の幅を広げているようです。
パイロット社が温度により色の変わる「メタモインキ」を開
長年の粘り強い研究・開発の末に、成し遂げた『フリク
発したのは、37年も前。当時はこのインキの変色温度の幅
ション』の大ヒット。その秘訣は、他でもない勤勉で地道な
が狭い上、
マイクロカプセルも大きく、筆記具として使用する
日本人の気質あればこそだったのかもしれません。
お犬様を手厚く保護する施設が中野に
中野区に東京ドーム20個分の犬小屋があった
病所」
「寝所」などを備えていたというから驚きです。
のをご存知ですか?江戸時代、犬公方の異名を
一説によれば、
「跡継ぎが生まれないのは前世で
持つ徳川綱吉が「生類憐れみの令」を出したこ
殺生したことの報い。子どもがほしいなら生き物
とによって増えた野犬を収容するために作られた
を大事に」と僧に進言されたことがきっかけだっ
といいます。施設には病犬と子犬の「介抱所」
「看
たとか。現在では中野区役所の正面玄関前に
由来を記した犬の碑が建てられています。