KISHIDAIA, No

KISHIDAIA, No.102, Mar. 2013
都内でアワセグモが見つかった
貞 元
己 良
アワセグモの記録は東京都の場合,既に新海栄一氏の「東京都産真正蜘蛛類」(1969 年
3 月)の目録に登場するが,これは故萱嶋泉初代東京クモ談話会会長が「三多摩地方のクモ
の研究」(1966 年 3 月中)の目録に登場している事が根拠になっている.萱嶋先生は生前
「アワセグモは植木鉢の下で多く見つかる」と述べられていたそうで,新海氏はこれまでク
モの採集をするときは必ず植木鉢の下を見ていたものの,「アワセグモを見たことがない」
そうである.
私と新海氏は今年度初めて,杉並区の自然環境調査に参加させて頂いた.杉並区の調査は
杉並区在住の梅林力氏が中心となって,これまで 5 回約 30 年に渡り調査されてきたそうで
あるが,今回(第 6 回)はメンバーを若干入れ替えて調査を継続することになったそうで
ある.調査では種類を多く検出させる為,素人の研究者では期待できないので,神奈川の只
者で無い主婦・萩本房枝氏や,トタテグモ専門の笹岡文雄氏,調査場所が散歩コースという
小峰光弘氏ら従来の研究者が限られた時間の中で徹底的に「クモを採集する」というスタイ
ルで場所によりバラつきが出ないように調査の精度を高めている.各人が採集したクモは新
海氏以外,全て私が持ち帰り同定してリストにして,まとめ作業を行う新海氏に渡す事にな
っている.
そんななかで今年 8 月 29 日の晴れた日,杉並区大宮 2-3 所在大宮八幡神社内で調査し
た採集品の中にアワセグモの幼体が 1 頭入っていた.標本は損傷がひどく脚は 4 本しかな
く右の第二脚は基節部分から皮一枚で繋がる状態で体もペチャンコに潰れていた.しかし標
本の体をよく診ると,潰れているのではなく元々扁平な構造に見え,眼域の配列を確認しア
ワセグモであることに気付いた次第であった.
翌月は 9 月 30 日が調査日であるが,台風が接近してきていることから 3 日前に新海氏か
ら延期を伝える電話が入った.しかし私は,アワセグモ採集者の記憶が無くなる前に今一度
大宮八幡神社の再調査をしたかったので「アワセグモが誰かにより採集されました.私の念
力で台風のコースを避けさせますから,29 日は予定通り調査をしましょう」と提案すると
新海氏は「本当にアワセグモか?」と半信半疑ながら了解してくれた.
当日は,昼から天気が崩れたものの朝は快晴であった.集合場所に赴くと既に到着してい
た新海氏が「アワセグモを見せてみろ」と催促するので思いっきりもったいぶりながら大事
に懐にしまっていた標本ビンを取り出し手渡すと,既にルーペを右手に構えていた新海氏は
ビンの中をじっくり見回しながら笑顔に変わり「確かにアワセグモだ」と歓喜の声を上げて
いた.暫らくするとトタテグモ専門の笹岡氏が集合場所に来たので,さっそく「前回の調査
のとき,カニグモかエビグモまたはコアシダカの幼生を採った記憶はないか」と質問したが,
首を傾げ「採った記憶はありません」と答えた.萩本氏からは携帯電話で「梅林氏の邸宅で
合流したい」と連絡が入ったので,三人は新海氏の車で梅林邸に向かった.私達が梅林邸に
1
着くと丁度,只者ではない主婦萩本氏が梅林邸の玄関呼び鈴を押しているところであった.
梅林氏の「まーまー,立ち話もなんだから中でコーヒーでも煎れましょう」という言葉を遮
り,私は梅林氏と萩本氏両名に「前回,コアシダカの幼生を採りませんでしたか」と質問す
ると,只者ではない主婦・萩本氏が「あっ,それ私です.妙に逃げ足の速いコアシダカの幼
体が居たので絶対に捕まえてやる,と心に決め一生懸命追いかけて捕まえたので印象に残っ
ています」と答えた.そこで私は,萩本氏に「標本を持ってきていますが,アワセグモです」
と告げると,採った本人が一番驚いていた.
私達 5 人は,さっそく新海氏の車に乗り込み梅林邸から約 10 分の距離にある大宮八幡神
社へ行き,「区の動物調査です」と言って腕章を見せながら神社参道に車を乗り入れた.そ
して,只者ではない主婦萩本氏に「何処に居たのか,案内して下さい」と申し向けると「こ
っちですよぉ」と言いながら私達を導いた場所は,神社で飼っている鳥小屋の裏のゴミ捨て
場であった.(・・・普通,こんな場所入ってこないよ・・・)やっぱり只者じゃないなぁ
という感想.ゴミ捨て場の脇は資材置き場にもなっているようで,私達5人は天候の許す限
り,徹底的にアワセグモの姿を探した.しかし中々見つからないが,しばらくして,資材置
き場の奥の方で只者ではない主婦萩本氏が重なった板の間に付着する卵を見つけ,新海氏の
同定により「アワセグモの卵のう」ということが判明した.俄然,ヤル気の出た私達は更に
色々な所を探していたが,突然,新海氏が「抜け殻を見つけた.」と言って見事な抜け殻を
私に渡し,みんなで回し見していたところ今度は「幼体,採った」と言い,生きた小さいア
ワセグモを披露した.「何処に居ましたか.」との問いに新海氏は,鳥小屋脇の樹を指差し
ながら「その太い木」と言うので,近くに居たトタテグモ専門の笹岡氏が樹に近寄り,得意
の眼力で睨み,当りを付けて表皮を一枚ペロッと捲ると,「でたー」と言う叫び声.全員が
声のする方へ目を向けると,成体と思われる大きな個体が樹の表面を凄い勢いで走り回る姿
を確認した.言葉では表現できないほどアワセグモの走る速度は早い!みんなで手を伸ばし,
逃げて行く方向を手の平で遮断するのが精一杯で悪戦苦闘した結果,やっとの思いで採集ビ
ンの中に入って頂いた.見事な成体♀であった.そして私達がその余韻に浸っていると,待
っていたかのように大粒の雨が降り出した.
私達はその後 2 頭目を探す事無く,その場を離れファミレスに逃げ込みアワセグモをテ
ーブルの中央に置いて鑑賞しながら昼食タイム,そして午後は梅林邸に立ち寄り時間の許す
限り雑談に暮れた.
2
KISHIDAIA, No.102, Mar. 2013
クモから得られた線虫類,冬虫夏草
および寄生蜂の記録
輿 石
紗 葉 子
はじめに
クモ類の寄生点滴は吉倉(1987)によりまとめられており,昆虫類では膜翅類や双翅類
が,それ以外ではダニ類,線虫類,線形虫類が挙げられている.今回,野外で採集したクモ
より線虫類や寄生蜂,冬虫夏草が得られたので報告する.
クモはろ紙を敷いたスチロール角型ケース(87×57×19mm)に,乾燥を避けるために
湿らせたティッシュを入れ,1 個体ずつ飼育した.エサは,東京農業大学内の圃場周辺で採
集したハエやウンカ類を,1~2 日おきに数匹ずつ与えた.特記ない場合クモは 2012 年に
筆者が採集し,標本は筆者が保管している.また,クモの同定は筆者が行ない,学名は日本
産クモ類(小野編 2009)によった.ただし,日本動物大百科(白山・町田 1997)による
と,線虫類と線形虫類とはそれぞれ線形動物門と類線形動物門とに属するとあり,今回得ら
れたものはすべて未同定のためどちらの門に属するのか分からないので,仮に線虫類として
表記する.また,城所竜弥氏にはサンプルの一部を提供して頂いた.寄生蜂は渡辺恭平氏(神
戸大学),三田敏治博士(東京農業大学),冬虫夏草は山本哲也氏(東京農業大学)が同定
した.この場を借りてこれらの方々にお礼申し上げる.
寄生記録
線虫類の未同定種 1
5 月 12 日 神奈川県秦野市名古木でイナダハリゲコモリグモ Pardosa agraria ♂を採集
5 月 22 日 線虫類が 1 個体脱出
5 月 28 日 クモが死亡
線虫類の未同定種 2
5 月 12 日 神奈川県秦野市名古木でキバラコモリグモ Pirata subpiraticus ♀を採集
5 月 23 日 線虫類が 2 個体脱出
5 月 27 日 クモが死亡
線虫類の未同定種 3
5 月 19 日 東京都武蔵村山市本町野山北公園でアオオニグモ Araneus pentagrammicus
♀を城所竜弥氏が採集
5 月 24 日 線虫類が 1 個体脱出
5 月 27 日 クモが死亡
3
線虫類の未同定種 4
5 月 26 日 静岡県伊豆市湯ヶ島本谷林道で Pardosa sp. ♀を採集
5月
線虫類が 1 個体脱出(脱出日不明)
ギベルラタケ Gibellula aranearum
6 月 14 日 東京都八王子市元八王子町八王子城跡で Pirata sp.を採集
7 月 2 日 ギベルラタケ Gibellula aranearum の未成熟個体を確認
メモ:写真を撮ったのみで標本は残していない.
Trychosis 属の不明種 1(ヒメバチ科トガリヒメバチ亜科)
7 月 22 日 山梨県南都留群山中湖村三国山で Pardosa sp. ♀と卵のうを採集
7 月 25 日 卵のうから 1 個体羽化(性別不明)
メモ:筆者の不手際により寄生蜂の身体がバラバラになってしまったが,80%アルコ
ール液浸標本にして東京農業大学昆虫学研究室に保管してある.
Trychosis 属の不明種 2(ヒメバチ科トガリヒメバチ亜科)
7 月 28 日 岐阜県高山市奥飛騨温泉郷中尾でヤマハリゲコモリグモ Pardosa brevivulva
♀と卵のうを採集
7 月 30 日 卵のうから 1♀羽化
メモ:同定者の渡辺氏から未記載種の可能性があると伝えられた.渡辺氏によると,
Trychosis 属はクモの卵のうに寄生することが知られているが,日本での寄主記
録はないし,世界的に見ても寄主まで同定された記録は数えるほどしかないそ
うだ.標本は東京農業大学昆虫学研究室に保管してある.
Gelis 属の不明種 1(ヒメバチ科トガリヒメバチ亜科)
8 月 10 日 山梨県北杜市大泉町サンメドウズ清里スキー場で Pardosa sp. ♀と卵のうを採
集
8月
卵のうから 2 個体羽化
メモ:最初に無翅型の Gelis sp.♀が羽化してから 1 日後に有翅型(おそらく♂で同種か
もしれない)が羽化した.この 2 個体はクモに捕食されてしまったため標本は
残っていない.寄主の標本は東京農業大学昆虫学研究室に保管してある.
引用文献
小野展嗣編 2009.日本産クモ類.東海大学出版会.
白山義久・町田昌昭 1997.線形動物と類線形動物.日本動物大百科
62-65,平凡社.
吉倉眞 1987.クモの生物学.学会出版センター.
4
7 無脊椎動物(日高俊隆監修):
KISHIDAIA, No.102, Mar. 2013
南西諸島に産するハエトリグモ
Bianor incitatus について
須 黒
達 巳
はじめに
2001 年に Logunov は Bianor, Harmochirus(ウデブトハエトリグモ属),Sibianor(ツ
ヤハエトリグモ属)などのハエトリグモの再検討を行った.この文献で扱われている Bianor
incitatus Thorell 1890 という種は,インドから中国,ジャワ,スマトラ,カロリン諸島な
どに産し,文献中の所検標本には日本の沖縄島産の標本も含まれている.しかし,この情報
が日本人に見落とされてきたため,日本では本種の存在が認知されておらず,和名もない.
本稿では本種の存在を再認識する目的で,形態的特徴の記述,採集情報の掲載ならびに和名
の提案を行う.
Bianor Peckham & Peckham 1885
ウデボソハエトリグモ属(新称)
体長 3.3~6.4mm.背甲はやや高く,後側眼が隆起する.上顎の前牙堤に 2 歯,後牙堤
に 1 歯を備える.腹部背面はしばしば対をなす点斑を有し,雄では硬板を備える種がある.
雄触肢は円形ないし半円形の盾板と,長く針状の栓子部をもつ.外雌器は水中メガネ型の開
口部と,中央に 1 または 2 個の釣鐘型の腔部を備える.近縁属であるウデブトハエトリグ
モ属やツヤハエトリグモ属では,雄または両性において第一脚脛節の肥大がみられるが,本
属では雌雄とも第一脚脛節は肥大しない.
旧北区,東洋区,エチオピア区および新熱帯区から約 30 種が記録されている.現在のと
ころ,日本から発見されているのは以下の 1 種である.
Bianor incitatus Thorell 1890
ウデボソハエトリ(新称)
(図 1-6)
シノニムリストについては,Platnick(2012)を参照.
所検標本.鹿児島県:1♂1♀,種子島西之表市現和,26-IX-2010,須黒達巳採集;2♀,
奄美大島名瀬市住用町川内,15-IX-2011,須黒達巳採集;1♂1♀,奄美大島龍郷町秋名,
16-IX-2011,馬場友希採集.沖縄県:1♂2♀,沖縄島名護市安部,16-XI-2007,谷川明男
採集.
体長雌 4.0~5.0 mm,雄 3.0~4.0 mm.体は暗褐色で,大半は明褐色の毛で覆われる.
雌雄とも後側眼の後ろに 1 つの白斑,腹部前端に 3 つの白斑,腹部背面に 2 対の黒斑を伴
った白斑を有する.雌では斑紋はやや不明瞭.雄触肢は半円形の盾板(図 5,Tg)と,それ
5
1
3
2
4
図 1-4. ウデボソハエトリ(新称)Bianor incitatus Thorell 1890(鹿児島県種子島産). 1, 3,
雌背面; 2, 4, 雄背面. スケール= 1.0 mm.
6
5
Em
6
7
CO
Tg
TA
Cv
図 5-7. ウデボソハエトリ(新称)Bianor incitatus Thorell 1890(鹿児島県種子島産). 5, 雄
左触肢腹面; 6, 同後側面; 7, 外雌器. Em: 栓子部, Tg: 盾板, TA: 脛節突起, CO: 開口部, Cv:
腔部. スケール= 0.2 mm.
をとりまく糸状の栓子部(図 5,Em),および強大な脛節突起(図 6,TA)をもつ.外雌
器は水中メガネ型の開口部(図 7,CO)と,中央に釣鐘型の腔部(図 7,Cv)を備える.
生殖器の形態においてウデブトハエトリ Harmochirus insulanus やキタツヤハエトリ
Sibianor aurocinctus, ク ロツヤ ハエトリ Sibianor nigriculus,ヤマトツヤハエトリ
Sibianor japonicus などに似るが,本種は全体に明褐色の毛に覆われ,背甲および腹部に白
斑をもつこと,雌雄とも第一脚脛節が肥大しないことで区別することができる.また,現在
のところ本種は南西諸島(種子島,奄美大島,沖縄島)からのみ採集されている.Bianor
属内の他の種との相違点については Logunov(2001)を参照されたい.
Logunov(2001)は「Japan: Okinawa, Shimabuku」(Shimabuku は島袋の誤り
と思われる)で採集された標本を検しており,これが本種の日本からの初めての記録である.
国外では,インドから中国,ジャワ,スマトラ,カロリン諸島に分布する(Platnick 2012).
和
名
第一脚脛節が肥大しないことから近縁属と区別できることに因み,Bianor 属はウデボソ
ハエトリグモ属(新称),Bianor incitatus はウデボソハエトリ(新称)とした.
謝
辞
本稿をまとめるにあたり,貴重な標本を提供してくださった農業環境技術研究所の馬場友
希氏に厚くお礼申し上げる.同じく標本を提供くださり,また原稿に対しご助言くださった
東京大学の谷川明男氏に心より感謝申し上げる.
7
引用文献
Logunov D.V. 2001. A redefinition of the genera Bianor Peckham & Peckham, 1885 and
Harmochirus Simon, 1885, with the establishment of a new genus Sibianor gen. n. (Aranei:
Salticidae). Arthropoda Selecta 9 (4): 221-286.
Peckham G. W. & Peckham E. G. 1885. Genera of the family Attidae: with a partial synonymy.
Transactions of the Wisconsin Academy of Science, Arts and Letters, 255-342.
Platnick I. N. 2012. The World Spider Catalog, Version 13.5.
http://research.amnh.org/iz/spiders/catalog/INTRO1.html
Thorell T. 1890. Diagnoses Aranearum aliquot novarum in Indo-Malesia inventarum. Annali del
Museo Civico Storia Naturale Di Genova Serie 2. T. 10: 132-172.
8
KISHIDAIA, No.102, Mar. 2013
2012 年四会合同合宿に参加して
貞 元
己 良
はじめに
今年の合宿は,飛騨高山で行われると聞いた.毎年悩むことは,遠くならば電車を乗り継
いで行きたいし,近場ならレンタカーで行きたいと思うところである.飛騨高山は地図を見
ても東京から出発した場合,近くもなければ遠くでもないし交通の便が悪い訳でもない.そ
こで私は二つのルートを考えてみた.一つは東京から中央本線で松本まで特急で出てレンタ
カーを借り,上高地を横目で見ながら飛騨高山に入る方法.二つ目は東京から東海道新幹線
で名古屋経由在来線に乗り継ぎ飛騨高山下車,旅行幹事の初芝氏から要請があればレンタカ
ーを借りる,という方法である.
会社で入っている共済組合のパンフレットからレンタカーを借りる際に,組合員証を提示
すれば「最高 25 パーセント引き」とあったのでこれを利用するため自宅で使用している車
の会社,マツダのディーラーへ連絡を入れた.たまたま懇意にしている支店長が電話に出た
ので事情を説明したところ支店長は「私の顔で…,レンタカー代金の半額で車を貸しますヨ」
と有り難い申し入れがあり,安い物にはそれなりのリスクが伴うものと考えがよぎったが,
支店長さんの顔を立てて,これを了承した.しかし上司の意志がそのまま部下に伝わるとい
う事は何処の社会でも,あまり無いわけで安易な口約束だけではいい物は手に入らないと痛
感した.車は明らかにディーラーで事故車の代わりに貸す車いわゆる代車で,ボディもキズ
だらけで走行距離もカーナビも相当年季の入った状態の車が後日,用意されていた.車を受
領しに行った日に限り支店長は不在で,不平不満も言えず「はっきり言って車に関しては素
人ではないよ」と一言,言いたいほど能天気な部下を横目で見ながら,いつ止まっても不思
議ではない中古オンボロ車に乗り込んだ.
この様な経緯から,今回の私の合宿参加の脚は自宅から全行程,車だった.
1日目
朝,5 時に目覚まし時計で起きられず妻の蹴りで目を覚ました.普段ならば時間前に目が
覚めるが,昨日は自宅から車で出発できると思うと嬉しくてアレ載せコレ載せと制限の無く
なった荷物の搬入が忙しく,逆に時間が掛かり寝る時間も遅れ,妻からも「何時に出るつも
りよ,早く起きなさいよ」と怒鳴られる始末であった.しかし,何とか出発予定時刻の 6
時丁度から約 30 分遅れで自宅を出発した.
途中,古いタイプで操作の難しいカーナビで到着予定時間と距離を計測したところ,概ね
6 時間で距離は 336 キロメートルであった.朝 6 時過ぎに出発した理由は,合宿初日は金
曜日で平日のため都心環状線の渋滞を避けなければならなかった.しかし,千葉から都心に
入った頃は時間も午前 7 時を過ぎ,あえなく渋滞にはまり無駄な時間をただ漫然とハンド
ルを握りながら過ごすことになった.その後,中央高速に入り都内最後の関所八王子 IC 手
9
前の石川 PA にて休憩,時計を見ると既に午前 9 時を回っていた.高速道路は松本 IC まで
順調だったので,50 キロ若しくは1時間走行したら休憩と決め,車に対しても自分に対し
ても優しい運転に心掛けた.
ナビに従い中央高速を松本 IC で出たところで,残りは約 100 キロメートルとの表示が出
た.飛騨高山までは,ほぼ一本道であったが休憩施設が無くトイレを我慢しながら,追い越
し禁止道路で妙にノロノロ走る地元の車に苛々しつつ駅か GS か公共施設を探し走行して
いた.暫らくして道が登り始めた頃,「道の駅 風穴の里」と書かれた看板が現れ速攻で炎
天下の駐車場に車を入れトイレに駆け込んだ.トイレから出て土産物などを見ていたが店先
売店で冷やした 16 等分スイカが 200 円で売られており大人気の様だったので私も便乗し一
つ買って頬張った.スイカは,冷静に(甘味が足りない)と感じつつ水代わりと割り切って
食べた.時間は既に午後 1 時を回っていた.その後,幾つかの長いトンネルを越え「上高
地,一般車駐車場こっち」等の看板と駐車場に手招きで半強制的に入れようとする係員を横
目で見ながらひたすら走り,車のエンジン部分から異音が発していることが気になりつつカ
ーナビで最後のトンネルを越えたことを知り,峠頂上付近の道路脇の空き地に車を乗り入れ
てエンジン停止,休憩.
約 30 分後,エンジンを再始動したところ異音は小さくなっていたが,ガソリンの残量が
四分の三に針メーター表示されており飛騨の街中で補給させようと思いつつ旅館に向け走
らせた.峠道の坂を下って直ぐに GS が現れたので躊躇なく GS に車を入れた.スタンドの
オジサンは非常に気さくで親しみやすく雑談に花を咲かせていた中で「面白い所,ありませ
んか」と質問すると「・・・鍾乳洞が面白いよ.地元では有名な,ちょっと金かけた観光施
設だよ.オレは行ったこと無いけどね」という話から,私の岐阜県最初のクモ採集場所が決
まった.
ガソリンスタンドのおじさんに頂いた「飛騨高山ドライブマップ」を参考に GS から約 4
キロ離れた地点に「飛騨大鍾乳洞」はあった.この場所は映画「千と千尋の神隠し」に出て
くる異国の街を表現したような空間で,人里はなれた山の中に忽然と現れた観光地であった.
広ぉい駐車場には車が殆んど停まっては居らず,「受付」と矢印表示のある前に車を止め,
観光客を装い最低限の採集道具をポケットに忍ばせて建物の 2 階にある受付に立ち入った.
受付には品の良さそうなおばさんが笑顔で「自慢の宝物殿を見てから洞窟にお入り下さい」
と言い入場料千円をしっかり取られた.宝物殿は,‥‥よく覚えていない.とても趣味の悪
い,財力を誇示した宝と称する品物が展示されていたような感じであった.
洞窟は入り口が玄関のような扉で中に入り後ろ手に扉を閉めると,そこはネオン輝く夜の
大都会であった.通路は平坦で舗装されており街路灯が明るく「お化け屋敷だって,こんな
に歩き易くねぇぞ」という感じで「オレは何しにここに来たんだ」と嗜虐の念に駆られる衝
動を感じていた.しかし,気を取り直し「千円分は採らせてもらおう」と考えを切り替え,
光の届かない空間に携帯ライトを当て時間をかけてじっくり採集活動をさせて頂いた.頑張
った甲斐あってサンロウドヨウグモは成体を含め多数,ホラヤミサラグモ成体♀,ホラヒメ
グモ sp.2 種幼体を採集した.後日,中部クモの杉山さんらが私の話を聞いて「洞窟に行っ
たが,何も採れなかった.」と文句を言われていたが,ここで申し上げます.
普通,洞窟に入るのに金は払いません.金を払う以上,元は取らせてもらう,それはクモ
研究者の常識です.洞窟から出てきたらスッカリ身体が冷え節々に痛みも感じていたので,
ベンチに座り日の光を浴びて復活を待ちつつ時計を見ると 5 時近かったので,慌てて車に
乗り込み宿に直行した.
10
1日目,夜間採集
夜間採集は宿の裏手に広がる水田等の農地を中心にこれらを囲む小高い丘の斜面林で行
われた.収穫は意外に多く,特に三重クモの塩崎氏は観察会が始まって直ぐムツトゲイセキ
グモを発見されていた.さすがクモも濃いが研究者も濃いという感じであった.
2日目,早朝及び午前中
朝,5 時に目が覚めた私は同室の方々を起さぬようそろりと抜け出し,昨夜夜間観察をし
た場所に一人で行ってみた.夜間観察ではライトが当たる部分しか見えないので,ムツトゲ
イセキグモが採れるような場所は,どんな所なのか確認しておきたかった.実際に行って見
ると,車が通れるアスファルト道路を境にして左手は飛騨護国神社の敷地境内の壁が連なり,
右手には一段下がって数軒の農家と水田,畑が広がり遠くにはお墓郡も見られ,これらを囲
むように小高い丘が連なるありふれた田園風景であった.こういう場所で珍品を見つけられ
るのは,やはり研究者自身の素質が大きく左右すると改めて感じた次第であった.昨夜も他
の研究者が左手の神社でユウレイグモ若しくはイエユウレイグモが居た.という話をしてい
たが確認したところ,どちらのユウレイグモでもなく勘が働きオスメスで採集しておいたが,
後日自宅の顕微鏡でタイリクユウレイグモと確認できた.早起きした甲斐があった.
朝食終了後,合宿参加者 30 数名は 10 台の車に分乗し連なって奥飛騨温泉郷,新穂高ロ
ープウェイの対岸「足洗い谷キャンプ場」に車を止め,午前中の採集観察会を行った.
この場所は河川敷があり奥穂高岳に上がる道や遠くに槍ヶ岳も見えクモを採集する場所
としては最高のロケーションであるが,日差しが強く採集の意気が上がらぬ点が残念であっ
た.私は研究者同士が一箇所に固まるのを避け,とりあえず 30 分健脚に物を言わせ坂道を
猛然と登ってみた.すると植相が変わり足元に熊笹が生えてきたので,熊笹の下に網を入れ
ひたすらビーティングに徹し 15 分叩いては中を確認,15 分叩いては中を確認,を暫らく
繰り返してみた.そしてエビスハエトリというハエトリグモを採集した.「日本産クモ類」
(小野博嗣編著)の 568 項-569 項には,「エビスハエトリ 体長雌 6.1~6.2mm(雄は
未知),兵庫県から記載されたが,次種(ウススジハエトリ)との差は必ずしも明確でない.」
と説明のあるクモである.後日,日本クモ学会山形大会の折,標本を池田博明氏にお渡しし
たところ「交尾孔のフラップの形態が普通のウススジハエトリと異なっており,原記載と同
様の外雌器なので御説の通り,エビスハエトリと同定可能な標本だと思います.以下略.」
と言う回答が得られたので現時点においては原記載以来採集例の無い,大変珍しいハエトリ
の採集ということになった.
河川敷では石の下を探っていた東京クモの新井氏がシノビグモを発見採集していたとい
い,更に渓流沿いでは中部クモの緒方氏がアズミヤセサラグモを成体でオスメス採集したと
報告し,東京クモの中島亜紀氏はシロタマヒメグモの卵のう付きを沢山見ました.と報告し
ていた.
2日目,午後
昼食は宿で作って頂いた御握りを朝出発時に渡されていたので,さらに歩いて登山で上の
方のクモを探しに行くという暴挙に出る方々と別れ,(当初は私も暴挙に参加する予定で会
ったが車を利用しないことが現地で判明したので辞退させて頂いた.)駐車場に車2台残し,
私達は数キロ離れた浦田川下流の河川運動公園駐車場に車を入れ日陰のある場所でそれぞ
れが昼食を取った.引き続き,午後の採集観察場所は,若干上流に上がった足湯設備のある
11
河川公園で「たから流路工河川公園」と看板が出ていた.公園の中は山あり谷あり小川あり
で,要するに人工的にスケールを大きくした箱庭を造った施設であったものの手入れが行き
届かず,半分放置されたような状態であった.しかし,このいい加減な空間の造りが色々な
クモや昆虫を棲息させていた様で,クモも特に造網性種が種類も多く見ることが出来た.
昨年のツインリンクもてぎ合宿ではクモ採集中にカブトムシを採集し子供連れで参加し
ていた会員の小学生の男の子にあげたところ,拒否されてしまったことがあり,子供でも昆
虫の嫌いな子がいると初めて実感させられたことがあったが,今回の合宿でも,この河川公
園でヒラタクワガタを採集し中部クモの小学生研究者に「いる」と言いながら恐る恐る見せ
たところ,大喜びで貰ってくれたのを見て「やっぱり,子供は昆虫の魅力を感じなければな
らない」と妙な感動を覚ええた.
2日目夜間採集
昼間の天気とは打って変わり雨が落ちてきていたので,近場で済ますこととなり宿の直ぐ
脇にある「高山城址公園」が夜間観察の場所であった.観察を始めると雨の勢いが強くなっ
ていたが「宿へ帰りたい」と言う人は一人も居らず,雨にも係わらずけなげに網を張ってい
るクモや虫を捕食しているクモ達の姿を追い求める方々の歓喜で観察会は異様な盛り上が
りを見せていた.この場所では,特にコアシダカグモやキンヨウグモの幼体が沢山見られた.
3日目
朝食終了後,荷物を全て持ち宿の前で記念撮影を行った後,最後の採集観察地へと行く.
行き先は,幹事の初芝氏から運転手全員が集められ地図上で場所が示され,高山市内の宮川
ダムにナビをセットするよう指示がなされて出発となった.車列の順番は前日の通りであっ
たが,私のオンボロ車のオンボロナビは「宮川ダム」とセットすると福島県の宮川ダムを指
し示し,皆と反対方向に走らねばならなかったのでナビの地図を拡大し宮川ダムへ設定する
作業を行っていたので出発が遅れた.しかし,宮川ダムへの行き方は旧道と新道と謎の道の
三通りがあったようで,最新ナビを搭載している先頭の初芝車とこれに続く 2 台以外は全
く違う道をナビに選択され,最終的にダムで合流となったが,簡単には行かなかった.最後
に出発した私のオンボロ車に,ナビをセット出来なかった 1 台の車が追従したまま新道で
も旧道でもない道を爆走していたが,暫らくして川沿いの道を走行中に同乗していた東京ク
モの水山氏が「この車,川を下流に向かって走っているわ.ダムに行くなら上流方向へ行か
なければいけない.」と言い出したので,同じく同乗していた東京クモの安藤氏が停止した
車を降りて道端の藪を掻き分け川の流れる方向を確認に行った.すると停止している私の車
の後方に 3 台の車が追いついて停止.降りて来たのは先頭で先行したハズの初芝氏車とこ
れに続く 2 台,そして暫らくすると更に数台の車が後方から追いついて停止した.初芝氏
は私の車の助手席に乗り込み「駐車場が分かり難いので案内します.」と述べ安藤氏を後方
の車に乗せ代えて出発し,目的地の駐車場様の広場に案内した.しかし,駐車場所でいくら
待っても中部クモの須賀先生車と長野の藤澤四駆車他 1 台の計 3 台が合流しないので,更
に先を走りダムそのものまで行ったのではないかと憶測され,初芝氏が一人車に乗り込んで
探しに行く結果となったが,無事須賀先生車らを発見し戻ってきたようであった.
この場所は高山的ではないが,下草を根気良くビーティングしたところコオニグモモド
キ♀やカギヅメカラスゴミグモ♂が採れた.場所的に夜間観察が面白いだろうと感じる場所
だった.
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昼食時,宿で頂いた御握りを食べる筈であったが,帰りの電車の予約時間が迫っていると
訴える東京クモの安藤氏と水山氏の願いを聞き届け,皆より一足先に現場を離れ高山駅に急
行した.その後,帰宅の徒に着いたがナビをセットしたところ「高山」から高速道路に乗る
予定が白川郷まで走らされ異変に気付いて,再セットしたところ東名高速経由で約 460 キ
ロメートル,時間にして午後 9 時 30 分が自宅到着時間と判明したので高速道路は殆んど激
走状態であったが,途中で事故渋滞にはまり自宅まで帰るのを諦め,横浜の実家に緊急避難
した.
まとめ
今回宿泊した宿は老舗の旅館で朝食・夕食に出された料理の質は,以前東京クモ談話会が
島根県の温泉津温泉で行った合宿以来の豪華な食事が並び,大変驚いた.残念なのは私達が
観光目的で旅館に泊まっている訳ではない,というところが飛騨高山の観光価値を見出せな
い部分と言える.
今回の合宿は東京クモと中部クモ,三重クモ,和歌山クモの4会合同と聞いた.前回は和
歌山で 19 年前に初合同合宿が行われたが,確か前回は台風直撃だったものの珍しいクモが
沢山採れた記憶がある.今回の幹事は,東京のクモ談話会事務局担当の初芝伸吾氏であった
が,各地同好会のツワモノどもが相手では荷が重すぎた感は歪めない.しかしながら,彼な
りに一生懸命に合同合宿を盛り立てようと努力する姿勢は大変ありがたいことと感じたの
は,私だけではないだろう.初芝氏は「もう,二度とやりたくない」と言っていたが,次回
何年か後も是非やって頂きたいと思うのが正直な感想である.
次回は,東京クモ談話会の合宿である.正規のルートで満足できるレンタカーを借りて,
合宿に臨むとしよう.
13
KISHIDAIA, No.102, Mar. 2013
サイホウキシダグモのオスを採集
須 黒
達 巳
サイホウキシダグモ Pisaura bicornis Zhang & Song 1992 は中国から記載されたクモ
である.外見はアズマキシダグモ Pisaura lama Böesenberg & Strand 1906 に大変よく
似ているが,雌雄とも生殖器の形態で容易に区別することができる.日本では Tanikawa
(2003)により沖縄県与那国島から記録されたほか,石垣島からも記録がある(新海・谷
川 2005)が,これまでにオスの採集記録がない.筆者は 2012 年 3 月 15 日,与那国島久
部良岳にて本種のオスを採集することができたので,触肢を図示しアズマキシダグモとの相
違点を記述する.
所検標本は以下の通りである.サイホウキシダグモ:1♂,沖縄県与那国島久部良岳,
15-III-2012,須黒達巳採集.アズマキシダグモ:1♂,茨城県つくば市小田,10-V-2010,
須黒達巳採集.
図 1,3 にサイホウキシダグモ(以下サイホウ)の雄触肢を,図 2,4 にアズマキシダグ
モ(以下アズマ)の雄触肢を示す.腹面から見たとき,サイホウは盾板突起の先端中央が抉
れる(図 1,棒線部).これに対し,アズマは盾板突起の先端中央が抉れない(図 2,棒線
部).後側面から見たとき,サイホウの脛節突起は短く,先端に 2 本の歯がある(図 3,棒
線部).これに対し,アズマの脛節突起は長く,先端に向かって一様に細くなる(図 4,棒
線部).サイホウの雄触肢の形態について,原記載と日本産の標本の間に大きな違いは認め
られなかった(Zhang & Song 1992).
最後に,原稿対しご助言くださった東京大学の谷川明男氏に,この場を借りて感謝申し上
げる.
引用文献
Böesenberg W. & Strand E. 1906. Japanische Spinnen. Abh. Senck. naturf. Ges. 30: 93-422.
Tanikawa A. 2003. Two new species and two newly recorded species of the spider family
Pisauridae (Arachnida: Araneae) from Japan. Acta arachnologica 52: 35-42.
Zhang Y. J. & Song D. X. 1992. A new species of the genus Pisaura (Araneae, Pisauridae).Acta
arachnologica 1(1): 17-19.
新海明・谷川明男 2005.採集情報.遊絲,17: 12-15.
14
1
2
3
4
図 1-4 雄触肢.1,3,サイホウキシダグモ Pisaura bicornis Zhang & Song 1992;2,4,
アズマキシダグモ Pisaura lama Böesenberg & Strand 1906;1,2,腹面;3,4,後側面.
スケール= 0.2 mm.
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KISHIDAIA, No.102, Mar. 2013
走査電子顕微鏡で見たクモの微細構造
梅 林
その1
力
筆 者 は ク モ の 微 細 構 造 に 注 目 し , 走 査 電 子 顕 微 鏡 ( SEM : Scanning Electoron
Microscope)を用いて撮影を続けている.ここでは,これまでに撮影した画像のうち,篩
板類の「篩板」に着目し,オウギグモ,カタハリウズグモ,マネキグモ,ネコハグモの篩板
や出糸突起を撮影した電子顕微鏡写真を公開する.今後の研究の一助となれば幸いである.
図 1 オウギグモ メス 全糸疣
16
図 2 オウギグモ メス 左前疣(上)/図 3 右前疣(下)
17
図 4 オウギグモ メス 左中疣部分(上)/図 5 篩板(下)
18
図 6,7 オウギグモ メス 篩板出糸管
19
図 8 カタハリウズグモ メス 左中疣(上)/図 9 右中疣(下)
20
図 10 カタハリウズグモ メス 篩板(上)/図 11 篩板出糸管(下)
21
図 12 マネキグモ メス 左中疣(上)/図 13 ネコハグモ メス 右中疣(下)
22
図 14 ネコハグモ メス 左中疣部分(上)/図 15 右中疣部分(下)
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KISHIDAIA, No.102, Mar. 2013
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佐渡島にもイソコモリグモがいた
谷川
明男
2012 年 9 月 26 日から 30 日にかけて,馬場友希さん,高木 俊さん,ウィモルワン・
チョウォンさんとともに新潟県佐渡島においてクモ類の採集調査をした.調査期間中の 9
月 29 日には 1 日かけて島内の砂浜海岸を巡った.目的はタイリクミズコモリグモの生息調
査であった.数年前,イソコモリグモを探しに島南西部の素浜(そばま)を訪れたのだが,
イソコモリグモは見つからず,かわりにタイリクミズコモリグモを発見した.それで,佐渡
島でのクモ調査の一環としてタイリクミズコモリグモの生息密度の調査をめざしていたの
だが,今回はタイリクミズコモリグモが見つからず,イソコモリグモが見つかった.また,
島内 14 ヶ所の砂浜を回ったが,イソコモリグモが見られたのは次の 3 ヶ所だけであった.
2012 年 9 月 29 日
素浜中央部 N37.86034 E138.27880 巣穴と脱皮殻 谷川発見
素浜北東部 N37.86673 E138.28237 1♀と脱皮殻 チョウォン発見,巣穴
椿尾海水浴場 N37.88681 E138.29011 巣穴 谷川発見
高木発見
なお,今回採集できた1♀の mt-COI のハプロタイプは,佐渡島の対岸,柿崎の海岸だけ
から発見されていたタイプと同一であった.佐渡島は長い間本州との接続がなかったと推定
されているが,モグラの仲間や昆虫では本州との接続を示唆する場合があり,イソコモリの
データもそう遠くない過去には地続きであったか海峡の幅がかなり狭かったことをうかが
わせる.
チリイソウロウグモの卵のうと色とクラッチサイズ
池田
博明
2012 年 10 月 9 日に東京都町田市芹が谷公園で,チリイソウロウグモの母親がガードし
ている 3 個の卵のうが三色だった.写真の左から茶色(I),灰白色(II),焦げ茶色(III)
である.産卵順は色の濃さの順,すなわち,III→I→II であると推測した.I と III の色の差
は微妙であった.実際にはサイズ順だった.
つまり I→III→II だった.卵のうの最大高×
最大幅はそれぞれ,I が 6.0×4.9mm,III
が 6.0×4.7mm,II が 5.0×3.6mm だった.
室温に放置したガラス製の管びんの中で
10 月 13 日に焦げ茶色の卵のう(III)から
子グモが 51 頭,翌 14 日に 8 頭が出のうし
た.10 月 25 日には灰白色の卵のう(II)
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KISHIDAIA, No.102 Mar. 2013
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から 39 頭が出のうした.II の卵のうを開いてみると未孵化卵が 7 個あった.最も大きい卵
のう(I)からは出のうを観察できなかったので,開いてみると全て出のうした後であった.
残された卵殻(白色)を数えると 90 個であった.どの卵のうにも卵殻(白色)と脱皮殻一
種(淡い茶色)が残されており,I と III には未孵化卵は無かった.この母親の 3 個の卵の
うからは計 195 卵が産卵され,そのうち 188 個が孵化・出嚢したことになる.孵化・出嚢
率は 96%である.
産卵が遅い卵のうほど幼体サイズが小さくなると予想して適当に 6 頭を採取して背甲幅
を測定したが,III の平均は 0.39mm で,II の平均は 0.41mm だった.産卵が遅かった II
のほうがむしろ大きいくらいであった.
ちなみに,母グモの背甲幅は 1.36mm であり,産卵後の体長は 5.54mm であった.
ハタチコモリグモは大型美麗種だった!
高津
佳史
旧聞で恐縮ですが,観察例も多くないようなのでハタチコモリグモ(メス・成体)の記録
を報告します.
2010 年 5 月 26 日の事です.北海道小樽市の大浜海岸を散策中,砂浜に開いた丸い穴を
発見しました.場所柄もしやイソコモリか!と興奮して巣穴を見たが,巣穴の縁は糸で綴っ
てあるものの昼間から開け放しで何か違う様子でした.枯れ草を差し込んだところ,中から
出て来たのは体長 1cm を超える大型のコモリグモです.美しい薄紫色をした腹部には明瞭
な白斑を有していました.
巣穴は汀から 20m ほど内側のコウボウ
シバが生える砂丘斜面にあり,直径は 7~
8mm 程度,入口付近の砂は糸で裏打ちさ
れていました.1 時間後に見に行くと入口
は巾着を絞るように閉じられており,崩す
と深さは 5cm 程度と浅く,すぐ行き止ま
りになっていました.掘り出した美麗クモ
は持ち帰って砂を入れたプラ容器で飼育
したところ,6 月 5 日には同様の浅い巣穴
を掘り,6 月 20 日頃には白い卵嚢を抱え
ているのを確認できました.その後,猛暑
のせいか?6 月 26 日には死んでしまいました.
写真を谷川明男氏に送付したところ,ハタチコモリグモとご教示いただきました.改めて
本誌 94 号の新海・谷川両氏の記事(ハタチコモリグモは地中に管状住居を作る?)を読み
直した次第です.
最後に,お忙しい中,快く写真鑑定をお引き受け下さった谷川氏に御礼申し上げます.
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KISHIDAIA, No.102, Mar. 2013
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真冬のゲホウグモ
高津
佳史
少々古いですが真冬にゲホウグモに遭遇するという珍しい機会がありましたので報告し
ます.2010 年 2 月 22 日東京都八王子市加住町の民家庭先で拾われた個体を確認しました.
体長 10mm 弱のメスです.発見者の川口氏によれば,周囲に網は無くクモだけが庭のシャ
ガの葉上に居たとのこと.生きていたが全く動かなかったそうです.当日は晴れていたもの
の,気温 5~6 度で大変寒さの厳しい 1 日でした.
すぐに発見場所を見に行きましたが,近くにはスギの木が切り倒されており,葉が付いた
ままの枝や玉切りになった丸太が並べられていました.まさか枯れ枝に擬態したまま冬を越
していたとか?それともスギの葉陰や樹皮下などで越冬していた個体が伐採時に落下した
のでしょうか?寒さが厳しくなると思い出す真冬の珍事でした.
島根県で採集されたクモ
馬場友希・田中幸一((独)農業環境技術研究所)
2012 年 9 月 27 日に島根県にてクモを採集する機会を得たので,その採集リストを掲載
する.採集地は安来市東赤絵町(35°26'51.3" N,133°14'14.0" E)である.採集は田中が行い,
同定は馬場が行った.リスト中の F はメス成体,M はオス成体,y は幼体を表す.県内新記
録となる種については種名に★を付した.
★
Hypsosinga pygmaea (Sundevall 1831)
ヨツボシショウジョウグモ 1F1y
Mendoza canestrinii (Ninni in Canestrini & Pavesi 1968)オスクロハエトリ
1F1y
Pardosa pseudoannulata (Bösenberg & Strand 1906) キクヅキコモリグモ
1M1y
Tetragnatha caudicula (Karsch 1879)
トガリアシナガグモ
1F
★
Tetragnatha nitens (Audouin 1826)
ヒカリアシナガグモ
3F1M
Tetragnatha praedonia L. Koch 1878
アシナガグモ
1M
滋賀県で採集されたクモ
馬場友希・田中幸一((独)農業環境技術研究所)
2012 年 10 月 11 日に滋賀県にてクモを採集する機会を得たので,その採集リストを掲
載する.採集地は滋賀県大津市石居(34°56'40.1" N,135°55'38.6" E)である.採集は田中が
行い,同定は馬場が行った.リスト中の F はメス成体,M はオス成体,y は幼体を表す.県
内新記録となる種については種名に★を付した.
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KISHIDAIA, No.102 Mar. 2013
──DRAGLINES─────────────────────────────────
★
Gnathonarium exsiccatum (Bösenberg & Strand 1906)
ニセアカムネグモ
1F
Pachygnatha quadrimaculata (Bösenberg & Strand 1906)ヨツボシヒメアシナガグモ
4F2M
Tetragnatha praedonia L. Koch 1878
アシナガグモ
1F
Tetragnatha maxillosa Thorell 1895
ヤサガタアシナガグモ 1F
Ummeliata insecticeps (Bösenberg & Strand 1906)
セスジアカムネグモ 1F3M
★
和歌山県で採集されたクモ
馬場友希・田中幸一((独)農業環境技術研究所)
2012 年 10 月 12 日に和歌山県にてクモを採集する機会を得たので,その採集リストを
掲載する.採集地は和歌山市平尾(34°12'37.1" N,135°15'14.4" E)である.採集は田中が行
い,同定は馬場が行った.リスト中の F はメス成体,M はオス成体,y は幼体を表す.県内
新記録となる種については種名に★を付した.
Gnathonarium exsiccatum (Bösenberg & Strand 1906)
Leucauge blanda (L. Koch 1878)
★
Tetragnatha caudicula (Karsch 1879)
Tetragnatha maxillosa Thorell 1895
Tetragnatha praedonia L. Koch 1878
Ummeliata insecticeps (Bösenberg & Strand 1906)
★
ニセアカムネグモ
チュウガタシロカネグモ
トガリアシナガグモ
ヤサガタアシナガグモ
アシナガグモ
セスジアカムネグモ
1F2M
2F
4y
21F3M
2F
2F1M
福島県で採集されたクモ
馬場友希・田中幸一((独)農業環境技術研究所)
2012 年 9 月 20 日に福島県にてクモを採集する機会を得たので,その採集リストを掲載
する.採集地は福島県郡山市田村町金沢(37.349487N, 140.440613E)である.採集は田中が
行い,同定は馬場が行った.リスト中の F はメス成体,M はオス成体,y は幼体を表す.県
内新記録となる種については種名に★を付した.
Clubiona kurilensis Bösenberg & Strand 1906
Gnathonarium exsiccatum (Bösenberg & Strand 1906)
Heliophanus ussuricus Kulczyński 1895
Mendoza elongata (Karsch 1879)
★
Pachygnatha quadrimaculata (Bösenberg & Strand 1906)
★
ヒメフクログモ
ニセアカムネグモ
ウスリーハエトリ
ヤハズハエトリ
ヨツボシヒメアシナガグモ
1F1M
3F1M
1F2y
1M
4F4M
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KISHIDAIA, No.102, Mar. 2013
─────────────────────────────────DRAGLINES──
神奈川県箱根町で採集されたクモ II
馬場友希・大澤剛士((独)農業環境技術研究所)
2012 年 7 月 27 日に神奈川県足柄下郡箱根町にてクモを採集する機会を得たので,その
採集リストを掲載する.採集地は全て箱根ビジターセンター周辺である.採集は大澤が行い,
同定は馬場が行った.リスト中の F はメス成体,M はオス成体を表す.
Araneus acusisetus Zhu & Song 1994
Araneus uyemurai Yaginuma 1960
Diaea subdola O.P.-Cambridge 1885
Eriophora sachalinensis (S. Saito 1934)
Leucauge celebesiana (Walckenaer 1842)
Leucauge subblanda Bösenberg & Strand 1906
Leucauge subgemmea Bösenberg & Strand 1906
Xysticus croceus Fox 1937
Xysticus kurilensis Strand 1907
オオクマヤミイロオニグモ
ヤマオニグモ
コハナグモ
カラフトオニグモ
オオシロカネグモ
コシロカネグモ
キララシロカネグモ
ヤミイロカニグモ
チシマカニグモ
2F
1M
1F
1F
2F
1F
1F
1F
1M
静岡県御殿場市で採集されたクモ
馬場友希・大澤剛士((独)農業環境技術研究所)
2012 年 7 月 29 日に静岡県御殿場市深沢にてクモを採集する機会を得たので,その採集リ
ストを掲載する.採集は大澤が行い,同定は馬場が行った.リスト中の F はメス成体,M
はオス成体,y は幼体を表す.
Leucauge celebesiana (Walckenaer 1842)
Leucauge subgemmea Bösenberg & Strand 1906
Pardosa astrigera L. Koch 1878
Tetragnatha maxillosa Thorell 1895
オオシロカネグモ
キララシロカネグモ
ウヅキコモリグモ
ヤサガタアシナガグモ
3F
1F
1F
2F3y
多摩丘陵で採集されたクモ
馬場友希・大澤剛士((独)農業環境技術研究所)
2012 年 9 月 22 日に東京都町田市の小山田裏公園及び小山田緑地にてクモを採集
する機会を得たので,その採集リストを掲載する.採集は大澤が行い,同定は馬場
が行った.リスト中の F はメス成体,M はオス成体を表す.
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KISHIDAIA, No.102 Mar. 2013
──DRAGLINES─────────────────────────────────
Allagelena opulenta (L. Koch 1878)
コクサグモ
1F
Argiope minuta Karsch 1879
コガタコガネグモ
1F
Cyclosa argenteoalba Bösenberg & Strand 1906
ギンメッキゴミグモ
1F
Ebrechtella tricuspidata (Fabricius 1775)
ハナグモ
1M
Evarcha albaria (L. Koch 1878)
マミジロハエトリ
1M
Leucauge subgemmea Bösenberg & Strand 1906
キララシロカネグモ
1F
Nephila clavata L. Koch 1878
ジョロウグモ
1F1M
Pardosa astrigera L. Koch 1878
ウヅキコモリグモ
1F
Tetragnatha maxillosa Thorell 1895
ヤサガタアシナガグモ
2F
Tetragnatha praedonia L. Koch 1878
アシナガグモ
1F
富山県と福井県で採集されたクモ
馬場友希・大澤剛士((独)農業環境技術研究所)
2012 年 9 月 6-7 日に,富山県と福井県にてクモを採集する機会を得たので,その採集
リストを掲載する.採集は大澤が行い,同定は馬場が行った.リスト中の F はメス成体,M
はオス成体を表す.県内新記録となる種には★を付した.
富山県 (2012/9/6)
★
Neoscona adianta (Walckenaer 1802)
富山市婦中町浜子:1F, 射水市:1F
Tetragnatha maxillosa Thorell 1895
射水市:1M
Tetragnatha praedonia L. Koch 1878
富山市婦中町浜子:2F1M
ドヨウオニグモ
ヤサガタアシナガグモ
アシナガグモ
福井県 (2012/9/7)
Argiope bruennichi (Scopoli 1772)
坂井市三国町安島東尋坊:3F
Argiope minuta Karsch 1879
坂井市三国町安島東尋坊:1F
Argyrodes bonadea (Karsch 1881)
坂井市三国町安島東尋坊:4F
Cyclosa vallata Keyserling 1886
坂井市三国町安島東尋坊:1F
Neoscona adianta (Walckenaer 1802)
坂井市三国町安島東尋坊:1F
Neoscona melloteei (Simon 1895)
坂井市三国町安島東尋坊:4F
Neoscona scylla (Karsch 1879)
坂井市三国町安島東尋坊:1F
Nephila clavata L. Koch 1878
坂井市三国町安島東尋坊:1F2M
ナガコガネグモ
コガタコガネグモ
シロカネイソウロウグモ
マルゴミグモ
ドヨウオニグモ
ワキグロサツマノミダマシ
ヤマシロオニグモ
ジョロウグモ
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KISHIDAIA, No.102, Mar. 2013
─────────────────────────────────DRAGLINES──
滋賀県で採集されたクモ
馬場友希・大澤剛士((独)農業環境技術研究所)
2012 年 9 月 16 日と 17 日に滋賀県大津市と甲賀市にてクモを採集する機会を得たので,
その採集リストを掲載する.採集は大澤が行い,同定は馬場が行った.リスト中の F はメ
ス成体,M はオス成体を表す.
Argiope bruennichi (Scopoli 1772)
ナガコガネグモ
大津市伊香立:1F 16.IX.2012.
Cyrtarachne yunoharuensis Strand 1918
アカイロトリノフンダマシ
大津市伊香立:1F 16.IX.2012.
Evarcha albaria (L. Koch 1878)
マミジロハエトリ
大津市伊香立:1F16.IX.2012.
Larinioides cornutus (Clerck 1757)
ナカムラオニグモ
大津市伊香立:2F 16.IX.2012.
Leucauge celebesiana (Walckenaer 1842)
オオシロカネグモ
大津市伊香立:3F16.IX.2012.
Mendoza canestrinii (Ninni in Canestrini & Pavesi 1968)
オスクロハエトリ
大津市伊香立:1F 16.IX.2012.
Neoscona adianta (Walckenaer 1802)
ドヨウオニグモ
甲賀市水口町みなくち子どもの森くつわ池:1M 17.IX.2012.
Neoscona melloteei (Simon 1895)
ワキグロサツマノミダマシ
甲賀市水口町みなくち子どもの森くつわ池:3F 17.IX.2012.
Nephila clavata L. Koch 1878
ジョロウグモ
大津市伊香立:1M 16.IX.2012.
Plexippoides doenitzi (Karsch 1879)
デーニッツハエトリ
甲賀市水口町みなくち子どもの森くつわ池:1M 17.IX.2012.
Tetragnatha maxillosa Thorell 1895
ヤサガタアシナガグモ
大津市伊香立:1M16.IX.2012. 甲賀市水口町みなくち子どもの森くつわ池:1F 17.IX.2012.
Tetragnatha praedonia L. Koch 1878
アシナガグモ
大津市伊香立:1F 16.IX.2012.
筑波山地で採集されたクモ
馬場友希 1・須黒達巳 2(1.(独)農業環境技術研究所 2.筑波大学大学院)
筑波山地は,茨城県の桜川市・石岡市・つくば市・土浦市・霞ヶ浦市の境界にまたがる,
標高 1,000m 未満の低山によって構成される山地である.著者らは,この筑波山地に属す
る筑波山と宝篋山にてクモ類を採集する機会に恵まれたので,その採集記録を公表する.種
同定は採集者各自で行った.リスト中の F はメス成体,M はオス成体を表す.県内新記録
となる種については種名に★を付した.
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KISHIDAIA, No.102 Mar. 2013
──DRAGLINES─────────────────────────────────
採集地の表記と地名, 緯度・経度
宝篋山:つくば市小田(36.156406N,140.127224E)
筑波山:桜川市真壁町羽鳥(36.242612N,140.099366E)
Hyptiotes affinis Bösenberg & Strand 1906
オウギグモ
宝篋山: 2012/11/25 1F 須黒採集
Miagrammopes orientalis Bösenberg & Strand 1906
マネキグモ
宝篋山: 2010/7/1 1M 須黒採集
Octonoba varians (Bösenberg & Strand 1906)
ヤマウズグモ
筑波山: 2012/7/15 1F 馬場採集; 宝篋山: 2010/5/10 1F1M 須黒採集
Lathys annulata Bösenberg & Strand 1906
カレハグモ
宝篋山: 2010/5/10 1M 須黒採集
Coelotes kitazawai Yaginuma 1972
アズマヤチグモ
宝篋山: 2012/12/16 1F1M 馬場採集
Dolomedes sulfureus L. Koch 1878
イオウイロハシリグモ
宝篋山: 2010/7/1 1F 須黒採集
Pisaura lama Bösenberg & Strand 1906
アズマキシダグモ
宝篋山: 2010/5/10 1F 須黒採集
Pardosa laura Karsch 1879
ハリゲコモリグモ
宝篋山: 2010/5/10 1M 須黒採集
Piratula clercki (Bösenberg & Strand 1906)
クラークコモリグモ
筑波山: 2012/7/15 1F 馬場採集
Ero japonica Bösenberg & Strand 1906
センショウグモ
宝篋山: 2010/7/1 1M 須黒採集
Asperthorax communis Oi 1960
ザラアカムネグモ
宝篋山: 2012/12/16 1F1M 馬場採集; 筑波山: 2012/7/15 1F 馬場採集, 2012/12/16
1M 馬場採集
Pseudomicrargus latitegulatus (Oi 1960)
ヒロテゴマグモ
宝篋山: 2012/12/9 2F3M 須黒採集; 筑波山: 2012/12/16 2F 馬場採集
Saaristoa nipponica (H. Saito 1984)
ヤマトマルサラグモ
宝篋山: 2012/12/16 3F2M 須黒採集
★
Saitonia ojiroensis (H. Saito 1990)
ミノブコヌカグモ
筑波山: 2012/12/16 1M 須黒採集
Solenysa melloteei Simon 1894
アリマネグモ
宝篋山: 2012/12/9 1M 須黒採集, 2012/12/16 6F 須黒採集
Turinyphia yunohamensis (Bösenberg & Strand 1906)
ユノハマサラグモ
宝篋山: 2010/4/10 1M 須黒採集
Anelosimus crassipes (Bösenberg & Strand 1906)
アシブトヒメグモ
筑波山: 2012/7/15 1F 馬場採集
Argyrodes bonadea (Karsch 1881)
シロカネイソウロウグモ
宝篋山: 2010/6/1 1M 須黒採集
★
Moneta caudifera (Dönitz & Strand 1906)
ハラナガヒシガタグモ
筑波山: 2012/7/15 1F 馬場採集
★
Parasteatoda asiatica (Bösenberg & Strand 1906)
キヒメグモ
筑波山: 2012/7/15 1F 馬場採集
Parasteatoda culicivora (Bösenberg & Strand 1906)
カグヤヒメグモ
筑波山: 2012/7/15 1M 馬場採集
31
KISHIDAIA, No.102, Mar. 2013
─────────────────────────────────DRAGLINES──
Parasteatoda kompirensis (Bösenberg & Strand 1906)
コンピラヒメグモ
筑波山: 2012/7/15 1F 馬場採集
Yunohamella lyrica (Walckenaer 1842)
タカユヒメグモ
宝篋山: 2010/7/1 1M 須黒採集
Yaginumena castrata (Bösenberg & Strand 1906)
ボカシミジングモ
筑波山: 2012/7/15 1M 馬場採集
Pachygnatha quadrimaculata (Bösenberg & Strand 1906) ヨツボシヒメアシナガグモ
宝篋山: 2012/11/25 1M 須黒採集; 筑波山: 2012/12/16 1M 馬場採集
Tetragnatha praedonia L. Koch 1878
アシナガグモ
宝篋山: 2010/5/10 1M 須黒採集
Argiope minuta Karsch 1879
コガタコガネグモ
宝篋山: 2010/9/11 1F 須黒採集, 2011/8/1 2M 須黒採集
Chorizopes nipponicus Yaginuma 1963
ヤマトカナエグモ
宝篋山: 2010/5/10 1M 須黒採集
Cyclosa atrata Bösenberg & Strand 1906
カラスゴミグモ
宝篋山: 2010/9/11 1F1M 須黒採集
Cyclosa argenteoalba Bösenberg & Strand 1906
ギンメッキゴミグモ
筑波山: 2012/7/15 1F 馬場採集
Cyclosa octotuberculata Karsch 1879
ゴミグモ
宝篋山: 2010/5/101M 須黒採集
Cyclosa sedeculata Karsch 1879
ヨツデゴミグモ
宝篋山: 2010/6/1 1F 須黒採集
Gibbaranea abscissa (Karsch 1879)
キザハシオニグモ
宝篋山: 2010/4/10 1M 須黒採集
Larinioides cornutus (Clerck 1757)
ナカムラオニグモ
宝篋山: 2010/5/10 1M 須黒採集
Neoscona scylla (Karsch 1879)
ヤマシロオニグモ
宝篋山: 2010/7/1 1F1M 須黒採集
Cheiracanthium lascivum Karsch 1879
ヤマトコマチグモ
宝篋山: 2010/6/1 2M 須黒採集
Anahita fauna Karsch 1879
シボグモ
宝篋山: 2010/7/1 1F 須黒採集
Micaria japonica Hayashi 1985
ヤマトツヤグモ
宝篋山: 2010/5/10 1F 須黒採集
Philodromus auricomus L. Koch 1878
キンイロエビグモ
宝篋山: 2010/6/1 1M 須黒採集
Philodromus subaureolus Bösenberg & Strand 1906
アサヒエビグモ
宝篋山: 2010/6/1 1F1M 須黒採集
Thanatus miniaceus Simon 1880
ヤドカリグモ
宝篋山: 2010/6/1 1F 須黒採集
Ozyptila nipponica Ono 1985
ニッポンオチバカニグモ
宝篋山: 2012/12/16 1M 須黒採集
Thomisus labefactus Karsch 1881
アズチグモ
宝篋山: 2011/8/1 1M 須黒採集
Anyphaena ayshides Yaginuma 1958
ナガイヅツグモ
筑波山: 2012/7/15 1F 馬場採集
Otacilia komurai (Yaginuma 1952)
コムラウラシマグモ
宝篋山: 2012/12/16 1M 馬場採集
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KISHIDAIA, No.102 Mar. 2013
──DRAGLINES─────────────────────────────────
Harmochirus insulanus (Kishida 1914)
ウデブトハエトリ
宝篋山: 2011/8/1 1F1M 須黒採集
Helicius cylindratus (Karsch 1879)
コジャバラハエトリ
宝篋山: 2011/8/1 3F1M 須黒採集
Marpissa pulla (Karsch 1879)
ヨダンハエトリ
宝篋山: 2010/5/10 1F 須黒採集
Mendoza ibarakiensis (Bohdanowicz & Prószyński 1987) キタヤハズハエトリ
宝篋山: 2010/4/10 1F 須黒採集, 2010/6/1 1F 須黒採集
Myrmarachne inermichelis Bösenberg & Strand 1906
ヤサアリグモ
宝篋山: 2011/8/1 1F 須黒採集
★
Myrmarachne kuwagata Yaginuma 1967
クワガタアリグモ
宝篋山: 2011/8/1 2M 須黒採集
★
Plexippoides annulipedis (S. Saito 1939)
マダラスジハエトリ
筑波山: 2012/7/15 1M 馬場採集; 宝篋山: 2010/4/10 1F 須黒採集, 2011/8/1 1F 須黒
採集
Rhene albigera (C. L. Koch 1848)
ヒメカラスハエトリ
宝篋山: 2011/8/1 3F3M 須黒採集
Yaginumaella striatipes (Grube 1861)
ウススジハエトリ
筑波山: 2012/7/15 1F 馬場採集
八丈島で採集したクモ
仲條竜太・久保真司
伊豆諸島の八丈島(33°06’ N,139°47’ E)は,東京から南へ約 290km の太平洋上に浮
かぶ,ひょうたん形の火山島である.八丈島からはこれまでに 29 科 95 種(新海ほか 2012
)のクモが記録されているが,このうちジョロウグモ Nephila clavata は,島から絶滅した
可能性が指摘されており(徳本 2000),その後の調査においても記録されていない(仲條
2008,笹岡 2009).一方,近年はスズミグモ Cyrtophora moluccensis がよく観察され
ている(仲條 2008,笹岡 2009).
八丈島ではリュウキュウツヤハナムグリ Protaetia pryeri(西村 1985,塚脇 1987,安
達 1988,奥田 1990)やサツマゴキブリ Opisthoplatia orientalis(大島 1984),キボ
シツツハムシ Cryptocephalus perelegans(平野 1988)などの昆虫類のみならず,ミナ
ミヤモリ Gekko hokouensis やメクラヘビ Ramphotyphlops braminus
(Ota et al. 1995)
といった爬虫類までもが移入されたと考えられており,外来種の定着による生態系への影響
が懸念される.
著者は 2008 年 9 月および 11 月に八丈島(33°06’ N,139°47’ E)にてクモ類を採集す
る機会に恵まれたため,ここに報告する.ジョロウグモの絶滅とスズミグモの大発生を安易
に関連づけることはできないが,今後の動向が注目される.
Atypus karschi Dönitz 1887
ジグモ
y,八丈富士,23-XI-2008,久保真司採集.八丈富士登山道の石段に巣をつくっていた.採
集個体の周囲に 10 個程度の巣を確認した.
33
KISHIDAIA, No.102, Mar. 2013
─────────────────────────────────DRAGLINES──
Octonoba sybotides (Bösenberg & Strand 1906)
カタハリウズグモ
F,大賀郷,12-XI-2008,仲條竜太採集.
Parasteatoda tepidariorum (C. L. Koch 1841)
オオヒメグモ
F,大賀郷,12-XI-2008,仲條竜太採集.
Leucauge blanda (L. Koch 1878)
チュウガタシロカネグモ
F,大賀郷,11-XI-2008,仲條竜太採集.
Cyrtophora moluccensis (Doleschall 1857)
スズミグモ
F,大賀郷,11-XI-2008,仲條竜太採集.大賀郷地区の林内および林縁部では本種が優占し
ており,多くの個体が卵のうを網につけていた.また,リュウキュウツヤハナムグリを捕食し
ている個体を数例観察した.
Argiope minuta Karsch 1879
コガタコガネグモ
F,大賀郷,11-XI-2008,仲條竜太採集.
Cyclosa confusa Bösenberg & Strand 1906
ミナミノシマゴミグモ
F,大賀郷,11-XI-2008,仲條竜太採集.
Cyclosa vallata Keyserling 1886
マルゴミグモ
F,大賀郷,11-XI-2008,仲條竜太採集.
Neoscona theisi (Walckenaer 1842)
ホシスジオニグモ
F,大賀郷,11-XI-2008,仲條竜太採集/F,12-XI-2008,仲條竜太採集.
Thomisus labefactus Karsch 1881
アズチグモ
F,大賀郷,12-XI-2008,仲條竜太採集.
Marpissa pulla (Karsch 1879)
ヨダンハエトリ
F,八丈富士,23-XI-2008,久保真司採集.
Rhene atrata (Karsch 1881)
カラスハエトリ
M,大賀郷,12-XI-2008,仲條竜太採集.
引用文献
安達元裕 1988.八丈島におけるリュウキュウツヤハナムグリの記録.月刊むし,205: 39.
平野幸彦 1988.八丈島のキボシツツハムシはどこから来たか.月間むし,212: 41.
仲條竜太 2008.八丈島のクモ.Kishidaia, 93: 58-59.
西村正賢 1985.八丈島でリュウキュウツヤハナムグリを採集.月刊むし,178: 17.
奥田則雄 1990.リュウキュウツヤハナムグリ八丈島に定着.月刊むし,238: 21-22.
大島 聡 1984.八丈島にてサツマゴキブリの生息を確認.月刊むし,163: 31-32.
Ota H. Furuse K. and Yagishita J. 1995. Colonizations of two exotic reptiles of Hachijojima island
of the Izu group, Japan. The Biological Magazine Okinawa, 33: 55-59.
徳本 洋 1999.八丈島のジョロウグモ絶滅か?Kishidaia, 76: 36-40.
塚脇智成 1987.リュウキュウツヤハナムグリ八丈島の記録.月刊むし,202: 28-29.
新海明・安藤昭久・谷川明男・池田博明・桑田隆生 2012. CD 日本のクモ. Ver. 2012 著者自刊 CD.
青ヶ島で採集したクモ
仲條
竜太
伊豆諸島最南端の有人島である青ヶ島(32°28’ N,139°45’ E)は,八丈島の南約 70km
に位置する面積約 5.98km2 の二重式の火山島で,14 科 39 種(笹岡 2009)のクモ類が知
られている.八丈島と小笠原諸島の中間に位置し,生物地理学的な興味が持たれるほか,お
よそ 230 年前の 1785 年(天明 5 年)3 月に始まった大噴火によって甚大な被害を被って
おり(樋口 2010),その後の回復過程について島嶼生態学的にも興味の持たれる島である.
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KISHIDAIA, No.102 Mar. 2013
──DRAGLINES─────────────────────────────────
著者は 2008 年 9 月に青ヶ島にてクモ類を採集する機会に恵まれた.採集したクモ類は直
ちに 80%エタノール液浸標本とし,実体顕微鏡下にて種の同定を行った.
調査及び同定にご協力くださった青ヶ島島民の皆様,東邦大学理学部地理生態学研究室の
長谷川雅美教授,京都大学大学院の水澤玲子氏,東邦大学大学院(当時)の深澤悟氏,日本
蜘蛛学会会員の笹岡文雄氏,東京大学大学院の谷川明男博士,園田学園女子大学の田中穂積
教授,北海道大学大学院(当時)の植松いのり氏に深くお礼申し上げる.
Uroctea compactilis L. Koch 1878
ヒラタグモ
M:13 日,アジサイ荘.住居の壁面で多数の巣を確認した.
Parasteatoda tepidariorum (C. L. Koch 1841)
オオヒメグモ
F:12 日,アジサイ荘.集落内で多数の個体を確認した.
Neriene oidedicata Helsdingen 1969
ヘリジロサラグモ
F:12 日,大里神社.F:13 日,池の沢遊歩道.
Tmeticus vulcanicus Saito & Ono 2001
ミヤケジマヌカグモ
M:13 日,NTT そば.NTT そばのササ林にて採集した.
Leucauge blanda (L. Koch 1878)
チュウガタシロカネグモ
F:13 日,池の沢遊歩道.FM:13 日,アジサイ荘.F:14 日,ヘリポート.FM:14 日,
神子の浦.島内各地にて多数の個体を確認した.交接中の個体を除き,ほぼ全ての個体が,網
の下側に不規則網様の網をつけていた.
Araneus ventricosus (L. Koch 1878)
オニグモ
F:12 日,名主屋敷跡そば.集落内で多数の個体を確認した.
Argiope bruennichi (Scopoli 1772)
ナガコガネグモ
F:12 日,東京電力発電所前.島内各地で多数の個体を確認した.
Cyclosa confusa Bösenberg & Strand 1906
ミナミノシマゴミグモ
F:12 日,岡部地区.FM:13 日,池の沢遊歩道.FM:14 日,神子の浦.島内各地で多数
の個体を確認した.
Cyclosa alba Tanikawa 1992
シロゴミグモ
F:14 日,名主屋敷跡.谷川明男同定.屋敷入り口付近の植木に造網していた.
Neoscona subpullata (Bösenberg & Strand 1906) ヘリジロオニグモ
F:13 日,池の沢遊歩道.F:13 日,ヘリポートそば.
Diaea subdola O. P.-Cambridge 1885
コハナグモ
F:14 日,神子の浦.
Myrmarachne elongata Szombathy 1915
ヤガタアリグモ
F:13 日,東京電力発電所前.植松いのり同定.
Trochosa sp.
ナガズキンコモリグモの一種
Fys:12 日,明主屋敷跡.田中穂積同定.屋敷内のリターから採集した.発見時,仔グモを
背負っていた.ナガズキンコモリグモに似るが,外雌器の構造がやや異なる.
引用文献
樋口秀司 2010.伊豆諸島を知る事典.東京堂出版.
笹岡文雄 2009.伊豆諸島・青ヶ島のクモ類.Kishidaia, 95: 81-86.
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KISHIDAIA, No.102, Mar. 2013
資料発掘
シモングモに就いて
萱 嶋
泉
シモングモ Simonius typicus KISHIDA は岸田久吉先生が 1913 年にイウレイグモ科
(Pholcidae)のシモングモ亜科(Ninetidinae)に属するシモングモ属 Simonius の一種
として発表されたものである.
しかし,1941 年斉藤三郎先生は日本動物分類第 9 巻第 2 編第 2 号 136 頁に記載不十分
であると云ふ理由で,此のクモは単なる添書に挙げられているにすぎない.それでこのまま
にしておくならば,実際に本邦各地に棲息するシモングモを,認める者と認めない者とが出
る恐れがある.それ故に筆者は浅学を顧みず,属と種の記載を試みこれによって,本邦産の
イウレイグモ科には 2 亜科,3 属,5 種の存する事を判然としたいと思ふ次第である.
1930 年には湯原清次氏はその名著「蜘蛛の研究」90 頁に次の様に報じてゐる.「これ
の発見されたのは丹後で,岸田久吉先生は佛国の大学者シモン氏に捧げられての命名である.
イウレイグモに似て居るが,ちがふ点を挙げると,体は成熟したものでも 2mm を越えない
小さいものであること,イウレイグモに比して丸味を帯びて居ることである.日本産イウレ
イグモ科中唯一 6 眼のものであり,日本特有である.私の標本は博物室のタヒラギの中に
造巣して卵を口器につりさげてゐたのを捕へたものである.押入などに多い」
1932 年に筆者はシルビア第 3 巻第 1 号に台北帝大台中演習林動物目録を編んだが,其節
本種の棲息していることを報じた.
1936 年には植村俊夫氏が東亜蜘蛛学会会報第 1 巻に和歌山県蜘蛛目録を発表されたが品
種のその県に居ることを報告してをられる.
1941 年には斉藤三郎先生が,前記の書籍の 136 頁に添書として,次の如きことが記され
てゐる.即ち「本邦よりシモングモ亜科 Ninetidinae に属すると察知せらるるもの記せらる.
本亜科のものは頭部は左程隆起せず,眼列は殆ど頭部の全幅を占め後眼列は強く前曲し中窩
を欠く.シモングモ属 Simonius KISHIDA なるものは本亜科に属するものなる如く思はる
も其の標徴明らかならず,只氏の模式種とせるシモングモ Simonius typicus KISHIDA は 6
眼にして中窩を欠く点より本亜科に属するものならんと察知さる.氏(1913 年)の記事に
依れば,“シモングモは丹後の産で多くは押入の如き場所に居る.大形な標本にても 2 ミ
リを越へない.頸溝は有るが中窩は必ず欠いてゐる.日本特有の---6 眼の蜘蛛である”とあ
り更らに湯原云々(前述につき略)」
1950 年に八木沼健夫氏が蜘蛛の研究第1号に大阪府産蜘蛛目録を編れたが,それに大阪
市に棲息すると報告されてゐる.
1952 年には小村忠夫氏が ATYPUS 第 1 号に冬の蜘蛛(大阪府三島郡一帯)に本種をこ
の地方に棲息してゐる旨を報じて居られる.
筆者は宮崎県に於て昭和 21 年 12 月 10 日に高鍋町の自宅で♀成体を一頭採集しており,
翌年妻町,高岡町,本庄町に於て採集した.その標本によって記載をこれより試みる.
36
[以下未完]
Family Pholcidae
標徴 頭部は著しく小形にして歩脚は細長且 3 爪を有す.通常 8 眼なるも時に前中眼を欠
き 6 眼なり.8 眼なる時は前側・後中側の 3 眼一群をなして両側に位置し夜行性なり.前中
眼は小さく晝行性なり.上顎の小さき牙は上顎基部の歯状突起に相対す.通常下顎は前方接
近す.本邦産のもの一亜なり.
Sub-Family Pholcianae
頭部は隆起し眼列は頭部の巾より遥かに短く 8 眼又は 6 眼にして 3 眼宛の 2 眼群は広く
離る中窩を有す.
イウレイグモ属 眼域は幅より短し
イウレイグモモドキ属 眼域は巾より長し
Genus Pholcus
Walckenaer
8 眼にして 2 前中眼は一群に他の 6 眼は 3 眼宛 2 群をなす.中窩有り.腹部は長く中眼
域は梯形にして長さより狭し.
Genus Smeringopus Simon
前後両眼列は後曲し眼方形は巾より長し,後中眼間は眼直径の約 2 倍を示し腹部は細長
く胸板は後縁広く終る.
[中途終了]
■解題 池田博明
萱嶋泉氏蔵の論文資料の間に手書きの原稿があった.未発表資料である.説明原稿は三度
書き直されているが,科属の特徴は一度だけ下書きが書かれている.全形図も三度描き直さ
れて最終的には墨入れがされている.全形図下書きには「 1952 年 12 月 25 日 del
I.Kayashima」とメモされているが,この日付は標本を採集した日だろう.萱嶋泉氏は 1953
年 4 月 1 日(41 歳)に宮崎県立本庄高等学校教諭から宮崎県立高鍋農業高等学校教諭に転
任している.この未発表論文が書かれたのは 1953 年ころと推察する.シモングモの現在の
学名は Spermophora senoculata (Dyges 1836) である.図はシモングモの全形図,頭胸
部腹面,上顎,歩脚先端,爪,8 眼の顔面は別種だろう.
図 1 シモングモの原稿ととも
に保存されていたが,シモング
モとは無関係である.「キノボ
リトタテグモの巣」と判断した.
37
図 2 シモングモ(全形図,頭胸部腹面,上顎,歩脚先端,爪,8 眼の顔面は別種だろう.)
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KISHIDAIA, No.102, Mar. 2013
クモ観察記
佐 藤
1979~1983 年
幸 子
1978 年に始めた「クモの会」の会誌(謄写版印刷)にときどき書いたクモ観察記を編集
の池田氏が整理して投稿を薦めて下さいました.生態観察中心ですが,みなさんのお役に少
しでもたてばという思いで,再録させていただきます.いまとなっては同定ミスと思われる
種もありますが,当時の記録ということで,そのままに致しました.
座生沼の冬のクモ
1979 年 2 月 25 日
今月の「クモの会」観察会は千葉県の清水公園で行われました.東武野田線の清水公園駅
10 時 30 分集合.定刻に 7 名,遅れて 2 名(男子 3 名,女子 6 名).
今回は越冬クモのアパートを調べる予定だったのですが,駅前で集まりを待っている間,
に,そばの大木の表でチョロチョロ走りまわったり,ツツジの間に円網を張っているクモを
3 種発見.今年は暖かいのでほとんど越冬アパートから出てしまっているみたいです.公園
内の樹木,公園裏の水田.江戸川堤に行く間の道すじ(風とおしは良いが,あまり陽の当た
らない崖).沼地の間の小道とそれぞれ環境のちがう所を見て回り,わかった種名は下記の
通りです.一日じゅう良いお天気にめぐまれて,昼食後には熱いココアのデザートもあり,
とにかく快適な観察会でありました.
越冬アパートで越冬 0 種
各々テント内で越冬 5 種 キハダカニグモ・ヤミイロカニグモ・キハダエビグモ・エビ
グモ・ズグロオニグモ
テントなしで越冬 9 種 オスクロハエトリ・チャイロアサヒハエトリ・ウラシマグモ・
オトヒメグモ・ハナグモ・カバキコマチグモ・ハマキフクログモ・アズマキシダグモ・スジ
ボケハシリグモ
卵のうで越冬 4 種 ジョロウグモ・ナガコガネグモ・クサグモ・不明種
活動開始後 12 種 ウヅキコモリグモ・コモリグモの一種・ネコハエトリ・サガオニグ
モ・オニグモ・ゴミグモ・シロカネグモの一種・クスミサラグモ・シロブチサラグモ・アシ
ナガグモ・オオヒメグモ・ウズグモ
痕跡はあるがクモがいない 3 種 ミヤグモ・ヤマトカナエグモ・ヒラタグモ
[原報は藤井悦子(編)「クモの世界」No.2(1979 年 3 月 3 日発行)]
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八王子城跡の冬のクモ
1979 年 3 月 18 日
思ったより暖かい朝を迎えて高尾駅に集合したのが 10 時 15 分.25 分待ってバス停に並
びましたが,その時彼岸の入りで道路が車で混むということにやっと気がつきました.散々
待たされたバスにやっと乗って,とにかく八王子城跡にたどり着いたのが 11 時 30 分.3
月といえば春まだ浅く,毎年このころはクモが見られても子供が多く,よく名前が分からな
いと覚悟していたのですが,坂を登り始めてすぐ,だいぶ育ったクスミサラグモがあちこち
に皿網を張っているのに出会い,参加者 9 名ごきげんでした.また,石の鳥居の土台石に
はキノボリトタテグモが管状住居を作っていて,丸い小さな扉をさがしチョイと押して手ご
たえを試したり,ツバキの葉を三枚つづり合わせたその中の卵のうにオナガグモやアサヒエ
ビグモがとりついていたのをわいわい言いながら観察したり,ジグモの子の分散に見とれて
いるとアサヒエビグモがそれをねらっているのに気がついたり,とにかく楽しい一日でした.
比較的多かったのがクスミサラグモ,ユノハマサラグモ,アサヒエビグモです.次回の八王
子城跡はだいぶ暖かくなっているので,クモたちももっと元気で沢山笑顔を見せてくれると
思います.今から楽しみでなりません.今日の休憩サービスはミルクコーヒーでした.
キノボリトタテグモ・ジグモ・オオヒメグモ・オナガグモ(青)・バラギヒメグモ・ムナ
ボシヒメグモ・クスミサラグモ・ユノハマサラグモ・アシヨレグモ・サガオニグモ・オニグ
モの一種・ゴミグモ・メガネドヨウグモ・ウロコアシナガグモ・センショウグモ・ヒラタグ
モ・ヤチグモ・ヤマヤチグモ・アズマヤチグモ・エビチャコモリグモ・ハリゲコモリグモの
一種・ウヅキコモリグモ・ハナグモ・アサヒエビグモ・ムナアカフクログモ・マエトビケム
リグモ・シロカネグモの仲間・ワシグモの仲間・サラグモの仲間
卵のう(センショウグモ・ヤマトカナエグモ・アシヨレグモ・カラカラグモ類似)
ナガコガネグモの卵のうと越冬
野帳をめくってみますと,昭和 45 年(1970 年)秋となっています.
9 月 19 日 ナガコガネグモが卵のうを作る
10 月 6 日 卵のうの中で孵化
10 月 8 日 二齢 (卵のう内で最初の脱皮をしたという意味)
11 月 6 日 分散始まる (卵のうから出たという意味)
ナガコガネグモは秋に卵のうから出る幼体越冬型,その後ときどき卵のうについて調べて
みても,なぜか 11 月を越すと空になっているので,そういうものだと思っていましたが,
それがとんでもない誤解で,1979 年 2 月 25 日,卵のうを開けてみると二齢になりたての
子グモが入っていましたし,また,4 月 22 日,つまり昨日,開けてみた卵のうの中には,
二齢の子グモが元気でかたまっていました.
クモの世界はまだまだ分からないことが多く,ひとりでも多くのひとが観察をして,どん
な小さなことでも重大な意味を持っているのだということを自覚して発表して欲しいと切
実に感じました.
ナガコガネグモの卵のうについても三十例から五十例位の観察が必要です.
春,4 月頃まで分散しない卵のうは何時作られたのか.
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秋に作られた卵のうであったとして卵のままの越冬か,孵化したままでの越冬か.
それならなぜ他の多くの卵のうの様に三月頃に分散を始めないのか.
親のナガコガネグモがだいぶ遅くまで生きていたとか,気温の問題その他いろいろな事が
関係してくると思いますが,それらを頭の中に入れてナガコガネグモの卵のうについてそれ
ぞれ調べて下さい.
[原報は藤井悦子(編)「クモの世界」No.3(1979 年 5 月 5 日発行)]
房総の台倉の 5 月のクモ
1979 年 5 月 26-27 日
5 月 27 日に房総自然博物館のクモ観察会が台倉で行われるので,一泊の予定でその前日,
木更津駅前西口に集合しました.それからバスに乗り,粟倉で下車したのが 11 時 30 分.
しばらく歩いてお昼にしたのですが,腰を下ろしたまわりをアオオビハエトリがチョロチョ
ロ走り回っていますし,目の前のススキ状の葉の蔭にはヤマシロオニグモがしがみついてい
て,風にゆれています.食事が終わって立ち上がると右手のヤブの中でオオシロカネグモが
デイト中.この辺のオオシロカネグモの繁殖期は東京・埼玉あたりから比べるといつも早い
のだそうです.
粟倉から台倉までの間はほとんど車の通らない道をゆっくり時間をかけて見て歩きまし
た.オオシロカネグモの他にオスクロハエトリ,アシブトヒメグモ,ササグモ,クスミサラ
グモ(ムネグロサラグモかもしれない)など,成体でしかも雌のそばに雄がいるので今が繁
殖期だということがすぐ分かりました.
土曜日だったので学校帰りの子供たちがそれぞれのグループごとに寄って来て何をして
いるのかと聞きます.男の子は面白がって私達に参加し,一緒にクモを探しました.子供の
目は大人より鋭く,すぐに見つけて「ここにいたよ」「これナアに?」の連発です.ちょう
どそこは切り立った崖の上に溝があって,コクサグモの子とアシナガグモの仲間が多くいま
した.そのうちお母さんたちが自転車で通りかかり「早く帰んなさい」と声をかけられて宿
題があったのを思い出し,名残惜しそうな様子をしながら別れていきました.
ヌサオニグモは人家の垣根で多く見られました.写真を撮っていると今度は中年男性が数
人集まって来て何をしているのかと聞きます.そこで,クモを観察して調べていること,ク
モは正義の味方で農業には格別役に立っていること,是非大切にして殺さないでほしいこと
などを話しました.そのあたり全部農家なので一同目を丸くして感心していました.これで
この辺のクモの繁栄に少しは役立つのではないかと,それを信じながら別れました.
雑木林のやぶの中はクモの宝庫でした.まずサラグモがたくさん,ゴミグモがたくさん,
ヤマシロオニグモの網が樹間に張り渡され,その下の落葉の間をワシグモ,コモリグモが走
り回り,もちろんヤチグモもトンネルを作ってこちらをじっと見ていました.
房総自然博物館に着いたのが 6 時.その夜,私達を入れて合計 14 名が集まり,新海明氏
(国立音大附属高校教諭)を講師として,クモの勉強会,スライド,説明など楽しい時を過
ごしましたが,真夜中に大雷雨で家が揺れたそうです.
翌日は 10 時から観察会が始まりました.とにかく家の内外クモに取り巻かれている様な
もので,台所のコップの中にはヒラタグモの大きいのが落ち着いているし,やかんとザルの
間に一本糸が見えるので調べるとシモングモが食事中なのです.昨日とはうって変わり今に
も泣き出しそうな空を気にしながら,林道を観察して歩きました.ゴミをいっぱい付けたゴ
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ミグモやヨツデゴミグモの渦巻き隠れ帯に一同感心し,オナガグモを見やぶったり見やぶれ
なかったりで大騒ぎしているうちに,雷がドロドロ鳴り始め,とうとう雨が振ってきて,残
念ながら観察会は中止になりました.でも,昨夜の雨で湿った崖地にヤリグモの卵のうとそ
れを守る母グモの様子を見ることができたのは何よりでした.
ユウレイグモ・シモングモ・クスミサラグモ(ムネグロサラ?)・ユノハマサラグモ・ア
シナガサラグモ・オオヒメグモ・アシブトヒメグモ・ツリガネヒメグモ・カグヤヒメグモ・
ユノハマヒメグモ・バラギヒメグモ・ヒロハヒメグモ・オナガグモ・ヤリグモ・ヤマシロオ
ニグモ・サツマノミダマシ・ワキグロサツマノミダマシ・オニグモ・ヌサオニグモ・ドヨウ
オニグモ・ゴミグモ・ヨツデゴミグモ・コガネグモ・ウロコアシナガグモ・アシナガグモ・
オオシロカネグモ・ハリゲコモリグモ・クサグモ・コクサグモ・アズマヤチグモ・ヤチグモ・
ササグモ・ヒラタグモ・シボグモ・ナンブコツブグモ・アズマキシダグモ・スジアカハシリ
グモ・スジボケハシリグモ・スジブトハシリグモ・アオグロハシリグモ・ワカバグモ・ハナ
グモ・キハダカニグモ・ヤミイロカニグモ・シャコグモ・アオオビハエトリ・ネコハエトリ・
オスクロハエトリ・マミジロハエトリ・カラスハエトリ
[原報は藤井悦子(編)「クモの世界」No.4(1979 年 7 月 7 日発行)]
市川市堀の内貝塚公園
1979 年 8 月 19 日
8 月 19 日,国分操車場バス停に 10 時集合.ジリジリと暑い日照りの中を貝塚目指して
歩くうちに,もう片側の家屋・垣根・土手などからネコハグモ,クサグモ,アオオニグモ等
が出てご機嫌.とにかくネコハグモが沢山いて,いろいろな場所でのいろいろな住居作りを
観察することができました.
堀の内貝塚は広い雑木林と一寸開けた草地とに分かれ,また人出も少ないので,クモの住
む環境としては最適です.でもカラスゴミグモ,ササグモの時期としては遅かったらしく彼
らに会えず残念でした.市川市立博物館で休憩の後,墓地をのぞいてみたのですが,お盆の
直後だったのでお掃除がゆきとどいていて,クモは皆無.藤井氏宅で解散しました.
<行き> ジョロウグモ,アシナガグモの一種,ネコハグモ,クサグモ,コクサグモ,ヤチ
グモの一種,アオオニグモ,ナガコガネグモ,オオハエトリ,オオヒメグモ,ズグロオニグ
モ
<貝塚> ミヤグモ,ゴミグモ,ウススジハエトリ,ツリガネヒメグモ,キハダカニグモ,
マミジロハエトリ,コガタコガネグモ,タテヤマサラグモ,センショウグモ,シャコグモ,
ワキグロサツマノミダマシ,エビグモ,コンピラヒメグモ,オオシロカネグモ,ヨツデゴミ
グモ,アシナガサラグモ,スジボケハシリグモ,ムナボシヒメグモ,ヒメグモの一種,アズ
チグモ,キララシロカネグモ,ウズグモの一種,フクログモの一種
<野原> ハナグモ,オニグモ,ウヅキコモリグモ
<庭先> ギンメッキゴミグモ,ヤチグモの一種,ゴマダラヒメグモ,タイリクアリグモ,
アシナガグモ
<卵のう> センショウグモ,ヤマトカナエグモ,ササグモ,ウヅキコモリグモ,ゴマダラ
ヒメグモ
[原報は藤井悦子(編)「クモの世界」No.5(1979 年 9 月 9 日発行)]
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オニグモの餌捕獲・捕食とつきあって3時間半
1979 年 6 月 25 日午後 8 時,オニグモの娘がガラス戸に網を張り始めました.家のなか
から見ると触肢,牙,お腹が丸見えで体長 1.3cm 位の淡灰色のかわいいクモでした.その
時は「あ,いつものオニグモの如くいつものやり方で餌を取って」と思い込んでいたのです
が,10 時,そのガラス戸の前に立ったのが運のつき,さっきまで糸でぐるぐる巻きの白か
った黒い甲虫(0.8cm)が,こしき内に移動していて,しかも真っ黒で(ぐるぐる巻きの糸
が見えず)びしゃびしゃに濡れているのです.なぜだろうと思い様子をみることにしました.
クモは右手中央にかかったハエ(甲虫と同じ大きさ)を糸で真っ白にくるみ込み,こしきの
中に持ち帰りました.
別々に食べるのかと思うとそうでなく,脚で 2 匹をひとつにまとめて新しい白いハエの
方を吸ったりかんだり.そのうちハエをくるんだ白い糸が濡れてきて黒くなってきました.
「そうか,タンパク質を溶かす液を出すのだから,当然タンパク質の糸は溶けるのだ」ま
ったく当たり前のことに気がつきました.食事をするときはいつでも左第1脚と触肢 2 本
を使いました.固いふたつの物体を,特に一方は翅が固くて歯がたたないらしいのを,まと
めて一緒に食べるのはたいへんらしく,時々目にも見えない細い糸を 2 個にかけています.
びしゃびしゃの上にかけるのですから,これも溶けてしまうはずだと思うのですが,糸は 2
個の分離を妨げていて,しかもだんだん密着していくのが不思議です.
ときどき,蚊が網にかかります.すぐに食物を放り出して飛んで行くと一口で噛みとり,
U ターンしてこしきに戻ります.10 秒くらい蚊を牙の間でぐるぐる回し,もしゃもしゃ牙
を動かすうちに,蚊からしづくが垂れそうなほど水っぽくなります.するとそのまま先刻の
まとめた餌にかぶりつきます.つまり,蚊・ハエ・甲虫と 3 個を一緒に食べ始めるのです.
肉だんごは時間をかけているううちにミックスされて何となく甲虫の翅のついた1個にな
りました.それから延々3 時間この肉だんごにとりつき,ポイと下に落としたのは翌日の午
前 1 時過ぎでした.
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食事中に 1cm 位の太ったハエが網の左下方にかかりました.クモはタテ糸を走って飛ん
で行き,ハエの脇腹にかみつきました.そのとき獲物を押さえる脚をヨコ糸の間から 1 本 1
本出してそのうえどの糸もクモの身体にくっつかないのです.それはまたたく間のことでし
たが,その後第 1 脚・第 2 脚の 4 本を使ってしきりにヨコ糸を払い取ってはひと噛みでの
びてしまったハエの身体をつかむので,糸いぼから糸を出さずヨコ糸を利用してハエの身体
に巻きつけるのかと思いました.事実,帯のような糸を使用したのは最後の 2 巻位でした.
だからこのハエは,3 分の 2 は黒い状態でタテ糸にくくりつけられ,クモ本人はすぐこしき
内の肉だんごに飛び返りました.
蚊が網にかかったとき,こしきより上方の場合はごく普通のオニグモ型行動なのですが,
こしきより下方の場合はタテ糸を伝わって蚊をくわえ,U ターンしてこしきに戻るとき,ヨ
コ糸の真ん中をちょうど私たちがハシゴを登るようなあんばいで第 2・3・4 脚を一つ一つ
かけて登っていくのです.だからヨコ糸はヨコ糸同士メチャメチャにくっつきます.クモ本
人は一応自分の出した一本の糸を力縄にして登って行くつもりなのですが,でもその糸は第
1脚 2 本しか使用しませんでした.往復タテ糸を使う場合もありましたが,タテ糸を戻る
とき,左第 3・4 脚を長く伸ばしてハープを弾くようにヨコ糸をコスって行くので,この場
合もヨコ糸同士くっついて円網下方の状態は非常に見苦しいものになりました.
ジョウカイボン(細長いホタルに似た甲虫.色は黄色)が右手下方にかかりました.これ
は固くて元気です.飛んで行って首の付け根に噛みついたオニグモは獲物をかけたタテ糸の
両側のヨコ糸を大至急取り払って空にしました.それから,クモは一本のタテ糸の上にまた
がり,大股を開いたお行儀の悪い恰好で夢中で餌をぶん回し始めました.太ったハエがかか
ったときは,ヨコ糸を一本ずつ非常に丁寧に取ったのですが,今度は片側一振り,別側一振
りといった調子で早くいっぺんに取り払う意志が見られました.
例の肉だんごを捨てた後,オニグモはジョウカイボンを取りに行きました.最初に獲物の
そばのタテ糸(こしきから遠い方)を切り,切り離したタテ糸を左第 4 脚一本でつかんで
獲物を口にくわえ,まだ獲物についている一方のタテ糸を切るとそのままこしきに戻るので
すが,どの場合も糸は脚で切っているものの様です.
気がついたら午前 2 時近くになっていました.私の足はまるで棒の様.26 日の午前中,
クモは雨戸の上部の溝に隠れていましたが,やっぱり白い美しいオニグモでした.網のあっ
た下のコンクリートの上には最初の 3 個体合成肉だんごとジョウカイボンと大きなハエが
丸くなって落ちていました,さわるとカサカサでした.
[原報は藤井悦子(編)「クモの世界」No.5(1979 年 9 月 9 日発行)]
八王子
滝山城跡のクモ
1979 年 9 月 2 日
国鉄八王子駅北口集合 10 時.曇天のクモの観察会には最適の日でありました.滝山城跡
下のバス停で降り,知っている人でなければわからない小路を入って行くと,すぐうっそう
とした森の中になります.崖地の木の根にはセンショウグモの卵のうが沢山ぶら下がり,ヤ
チグモの住居入口がぽっかりと白く浮き立って見えます.小さな社がありましたが,蚊が多
くてろくろく見ないうちに飛び出しました.ヤマジグモの金平糖形の卵のうがとても多く,
そのうえヒメグモの仲間が産卵中でもう団居をしているものもありました.ユウレイグモも
団居をしていました.何より面白かったのはアオバハゴロモを食べて青くなったヒメグモが
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2 個体も見られたことです.サラグモの仲間も非常に多く良い勉強ができました.特にサラ
グモの住居に入り込んだヤリグモがとても大きくなっていたのが印象的でした.
千畳敷のススキの原はクモの宝庫です.特にオオトリノフンダマが卵のうを作り,また,
あちこちでブランコをしていました.シロスジトリノフンダマシもいましたし,夜中に見ら
れるコガネグモダマシもススキの茎に隠れていました.全体的に感じたことはオニグモの仲
間がほとんど見られず各種の子グモが非常に多かったので困りました.でも,この滝山城跡
は八王子城跡同様に人が少なく,何時来てもクモの勉強のできる良いところだと思いました.
トウキョウウズグモ,ユウレイグモ,オオヒメグモ,ツリガネヒメグモ,カグヤヒメグモ,
ヒメグモ,オナガグモ,ヤリグモ,フタオイソウロウグモ,アシナガサラグモ,クスミサラ
グモ,ムネグロサラグモ,ツリサラグモ,センショウグモ,ジョロウグモ,ナガコガネグモ,
コガタコガネグモ,オニグモ,ズグロオニグモ,ゴミグモ,オオトリノフンダマシ,シロオ
ビトリノフンダマシ,コガネグモダマシ,ヤマジグモ,アシナガグモの一種,オオシロカネ
グモ,キララシロカネグモ,ヒラタグモ,クサグモ,コクサグモ,ヤマヤチグモ,メガネヤ
チグモ,イオウイロハシリグモ,ウヅキコモリグモ,ササグモ,ハナグモ,エビグモ,アズ
チグモ,ウデブトハエトリ,アサヒハエトリの一種,ネコハエトリ,マミジロハエトリ,カ
ラスハエトリ,イナズマハエトリ,アオオビハエトリ,カバキコマチグモ,コアシダカグモ
<卵のう> センショウグモ,カグヤヒメグモ,ヤマジグモ,クサグモ,ヒメグモ,オオト
リノフンダマシ,イソウロウグモの一種
[原報は藤井悦子(編)「クモの世界」No.6(1979 年 11 月 11 日発行)]
昼寝をしたオオヒメグモ
夏の夜間観察などの場合,昼間元気に飛び歩いていたハエトリグモが真っ暗ななかでそれ
も下草のかげにぶら下がってぐっすり眠っている(のだと思うのだが)かわいい姿をよく見
かける.それはそれで,まあ疲れたのだろうとみているが,ときどき,昼間に物影で眠って
いるクモがいる.テラスに重ねたダンボールのかげが彼らのお気に入りらしく,ハエトリグ
モばかりでなく,ネコハグモの雄までぶら下がっていた(1979 年 10 月 11 日).大抵は 1
~2 時間位でことたりるらしく,今まで死んだ様に動かなかったのが急にもそもそ動き出し
て,ぶら下がった 4cm 位の糸を伝って上にはい上がって行くから,やっぱり昼寝といって
よいのだろう.
10 月 15 日のことである.以前から庇の下を住居にしていたオオヒメグモが 15cm 位の
糸を垂らしてその先で昼寝を始めたのが 14 時.いままで見たクモたちは第1図の形であっ
たが,そのオオヒメグモは第2図の姿のままでビクとも動かない.昼の日射がだんだん陰っ
て 17 時.動かない.とうとう夜になって真っ暗.家の中の電灯がクモに反射してはっきり
と浮き上がって見えるのだがまだ動かない.生きているのか死んでいるのか心配になってそ
ばに行って確かめたかったが我慢した.そのうち何となく手足を動かし始めたのが 22 時.
第 2 図中のロの糸はどうしたのか暗くてわからなかったが,イの糸をそろそろとたぐって
上に上って行った.こんなに長い昼寝があるのかな.
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[原報は藤井悦子(編)「遊糸原」No.1(1980 年 4 月 4 日発行)]
ザラアカムネグモの産卵
1980 年 3 月 30 日,横浜市の称名寺にクモを訪ねたところ,枯草の下にザラアカムネグ
モを見つけた.お腹が大きかったので卵を産んでもらって色々と調べようと家に連れ帰り容
器に入れた.容器は直径 12cm 高さ 7cm の味噌入れで
雑草と木片と餌のトビムシも一緒に入れた.
4 月 8 日 20 時~24 時の間に産卵.卵のうは木片の
下側に産みつけられた.
4 月 20 日 29 個の卵のうち 21 個が孵化.
4 月 21 日 親グモは卵が孵化するまで網も張らずに
卵のうの近くをうろうろしていたが今日見ると地表から
3cm 位のところに皿網を張り,餌を食べていた.
4 月 30 日 昨日まで食欲旺盛で大きな餌に食らいつ
いていたのに,朝地上に落ちて死んでいた.
非常に不思議だったので東京蜘蛛談話会の新海栄一氏
に尋ねたところ,ヤミイロカニグモを研究している人の
話に食べ過ぎて死ぬクモがいるとのこと.私の見たザラ
アカムネグモも確かにそう見えた.腹八分目はクモの世
界にも通じるようである.
[原報は藤井悦子(編)「遊糸原」No.2(1980 年 6 月 6 日発行)]
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神武寺のクモ
1980 年 7 月 6 日
今日は筑波山の予定だったのだが,参加申し込みがなかったので変更して神武寺にした.
藤井悦子・佐藤の二人だけで東逗子駅に 10 時 30 分集合.ゆっくりと神武寺の山に向って
上り始めた.道幅も広く湿地の崖もあり,杉の林,桜並木もあって涼しい山道なのだが,不
思議に蚊の来襲がない.クモの観察にはもってこいの場所である.全山で目立ったのはシロ
カネグモ達の美しい銀色であった.みな大きく成長し見事であった.その上,センショウグ
モの成体雌雄ともに見られた.ヒメグモの仲間の住宅に入り込んでクモを食べているのであ
る.寺の山門の虫食穴にはミヤグモが入り込んでそれぞれ住居を作っていた.ミヤグモ特有
の住居の作り方をみなに見てもらいたかった.神武寺から京浜急行神武寺駅に出る道は奥多
摩の山道によく似ていてそのうえ幅が広い.時間さえ許せば一晩がかりで観察したいと思い
ながら帰路についた.
ツリガネヒメグモ,コンピラヒメグモ,オオヒメグモ,カグヤヒメグモ,ヒメグモ,ヘリ
ジロサラグモ,サラグモの一種,コサラグモの一種,ウズグモ,ヒラタグモ,シボグモ,ミ
ヤグモ,オニグモ,ヤマシロオニグモ,アオオニグモ,オオトリノフンダマシ,サツマノミ
ダマシ,ヨツデゴミグモ,ギンメッキゴミグモ,ナカムラオニグモ,チュウガタシロカネグ
モ,オオシロカネグモ♂♀,コシロカネグモ,アシナガグモ,コモリグモの一種,ジョロウ
グモ,センショウグモ♂♀,アズマキシダグモ,イオウイロハシリグモ,ヤバネウラシマグ
モ,ケムリグモの一種,ワシグモの一種,ヤチグモの一種,ヤマヤチグモ,ヤチグモ,クサ
グモ,コクサグモ,ヤミイロカニグモ,ハナグモ,シャコグモ,デーニッツハエトリ,ネコ
ハエトリ
<卵のう> シボグモ,オオヒメグモ,カグヤヒメグモ
[原報は藤井悦子(編)「遊糸原」No.3(1980 年 8 月 8 日発行)]
チリグモの卵のう
1980 年 8 月 12 日,横浜市港南区の家のテラスのコンクリート壁の小さな穴に卵のうを
見つけました.地表より 12cm 上で穴は直径 5mmです.卵のうは白色球形で卵は無造作に
まとめてあり,穴の入口は薄い糸でおおわれていました.
卵色は淡黄色,卵数は 12 個.卵同士の粘着力は非常に弱く孵化前四日頃から 1 個ずつボ
ロボロになります.8 月 17 日孵化(0.8mm1齢),8 月 20 日脱皮(0.9mm,2 齢),8
月 24 日分散.
小さな子グモたちを見たらチリグモでした.念のため卵のうのあった付近を調べてみます
と沢山のチリグモが生活していました.
[原報は藤井悦子(編)「遊糸原」No.4(1980 年 10 月 10 日発行)]
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横浜市の我が家とその付近のクモ
横浜に引っ越してから丸一年がたちました.その一年の間,家の内外のクモ達と付き合っ
て来ましたので書き出してみたいと思います.住んでいる家はコンクリート造り,5 階建て
アパートで 30 軒が一緒に住んでいます.階段の踊り場が 2 軒分の玄関先になっており,普
通の団地造りとまったく同じです.
A
家屋内に住んでいるクモ
押入れの内部
ユカタヤマシログモ
台所
オオヒメグモ
トイレ
ユカタヤマシログモ,オオヒメグモ,チリグモ
テラス
オオヒメグモ,チリグモ,ヒラタグモ,ヤチグモの一種
洗面所
アシダカグモ
B 時々訪れるクモ (テラス,家屋内,てすり)
ヤミイロカニグモ,アサヒエビグモ,ハナグモ,ズグロオニグモ,ネコハグモ,フ
クログモの一種,アズチグモ,ハンゲツオスナキグモ,ワキグロサツマノミダマシ
C 家の外に住んでいるクモ
1 アパートの外壁
オオヒメグモ,チリグモ,ムナボシヒメグモ,シモングモ,ヤ
チグモの一種
2 南側の庭
(枯草の下)
ヤミイロカニグモ,ツメケシグモ,コモリグモの一種,ケシグモの
一種
3 北側の庭
(地表雑草の間にシート網を張る)
ナニワナンキングモ,クロテナガグモ,ノコ
ギリヒザグモ,サラグモの仲間
(樹間に現れる) ジョロウグモ,オニグモ,アシナガグモ,ハナグモ,アリグモ,
アサヒエビグモ,クサグモ
D アパートからマーケットまでの間
ネコハグモ,オオヒメグモ,ヒメグモ,オニグモ,アオオニグモ,ジョロウグモ,
ゴミグモ,コガタコガネグモ,コクサグモ,クサグモ,ヤミイロカニグモ,ヤチグモ
の一種
以上ですがそれぞれ家の内外,庭,それも南側・北側とわけてどんなクモが何月頃現れる
か観察していくと毎日が楽しくそのうえ勉強になります.明日とは言わず,今日から観察を
実行してみてください.データがなかなか見当たらないことも重要なデータであることを忘
れないで下さい.
[原報は日下部光代(編)「遊糸原」No.5(1980 年 12 月 12 日発行)]
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偏食について
昨年 1980 年の夏から秋にかけて,5 階建てコンクリート住宅の外の階段下に住んでいる
シモングモたちを見つけて観察を続けたことがあります.クモたちにとって自然界に生き抜
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くことはきびしいものだとは思っていましたが,それにしても脱皮失敗で死んでいる個体を
見るのです.クモの飼育をする場合,同じ餌だけ与えて育てると脱皮の失敗で死んだり,い
つまでたっても成体にならなかったりなどの様々な故障があることを今年になって聞きま
した.ウヅキコモリグモを飼育していた方の話ではショウジョウバエで育てていたところ,
何か身体がブヨブヨの感じになって脱皮途中で死んでしまうのだそうです.
それで,私の観察していたシモングモの生活を思いかえしてみると,彼や彼女たちの食べ
物は蚊だけであったことに気が付きました.けれども,シモングモの一生をつぶさに見てい
たわけではありませんので(春まだ暖かくない頃は姿を見せませんでした),そうだと断言
することはできませんが,言われてみれば,心あたりのある話ではあります.
いま私の飼育しているナニワナンキングモはトビムシを与えたり,蚊を与えたり,大きく
なるとショウジョウバエを食べさせています.クモにも偏食のあることなど何も知らずにと
にかく雑食させていたのですが,おかげ様でみな元気で,いま三代目が結婚適齢期に入り,
一組の夫婦ができたところです.やがて産卵を見ることでしょう.まるで自分の孫ができる
様に嬉しくてたまりません.
[原報は日下部光代(編)「遊糸原」No.7(1981 年 4 月 9 日発行)]
手賀沼のクモ
1981 年 4 月 19 日
常磐線柏駅 10 時 30 分集合.人数が3人と少なかったので浅間茂氏の車に乗って手賀沼
に向かった.曇天の間から薄日も漏れて昨夜の天気予報にあった雨は解散まで持ちそうであ
った.場所は真ん中の大橋で上沼・下沼とわけられる手賀沼の下沼・沼南町下側で見渡す限
り田んぼの中の空気の良いところである.ほとんど人通りのない場所なので珍しいカントウ
タンポポの咲く小道の真ん中にナカムラオニグモの子供が悠々と網を張っているのだ.毎年
のことであるが,春いちばん先に姿を見せるゴミグモが行く先々に現れる.他のクモ達も子
供がほとんどであった.コガタコガネグモかチュウガタコガネグモかわからず,もっと同定
力を養わなければと勉強不足を痛感した.コモリグモにしても同じことである.難しくてわ
からないではすまされない.それで敢えて挑戦することにした.そのつもりで探すとだいぶ
大きくなったウヅキコモリグモの♂♀が小さな子供とともにぽろぽろと出て来た.淡い色の
ヤマトコモリグモも大騒ぎで逃げ隠れる.沿岸ではキクヅキコモリグモのまだ小さいのが見
つかった.沼岸といえば,コンクリートの下側からヤマトコノハグモの大・中とたくさん出
てきて久しぶりのご対面にゴキゲンであった.
何よりゴキゲンだったのは浅間氏のテリトリーを3ケ所案内してもらったこと.それも歩
いてはとても無理な行程を車で運んでもらったこと.沢山のモズ,ヒヨドリ,オナガ他のB
GMがあり,かわいいイタチやオオバンなどのアトラクションも加わって非常に楽しい一日
でありました.
ヘリジロサラグモ♂♀,ウズグモ,ユウレイグモ,バラギヒメグモ,ムネグロヒメグモ,
オオヒメグモ,ヤマトコノハグモ,オナガグモ,ゴミグモ,オニグモ,ワキグロサツマノミ
ダマシ,ナカムラオニグモ,ヤマシロオニグモ,コガネグモの一種,ギンメッキゴミグモ,
コガネグモダマシ,アシナガグモ,シロカネグモの一種,オオシロカネグモ,ジョロウグモ,
クサグモ,ヤチグモの一種,メガネヤチグモ,コモリグモの一種,ウヅキコモリグモ♂♀,
ヤマトコモリグモ,キクヅキコモリグモ,アズマキシダグモ,イオウイロハシリグモ,カバ
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キコマチグモ,ハマキフクログモ,キハダカニグモ,ヤミイロカニグモ,オオヤミイロカニ
グモ,ハナグモ,シャコグモ,アサヒエビグモ,ネコハエトリ,オスクロハエトリ♀,マミ
ジロハエトリ,ヤハズハエトリ
[原報は藤井悦子(編)「トタテズグモ」No.1(1981 年 5 月 5 日発行)]
わが家の北側の小さなクモ
チリグモ・ナニワナンキングモ・クロテナガグモ
「遊糸原」No.5 で報告した私の家の北側,1981 年 9 月の初めにコンクリート製の平た
い石をひっくり返してみました.クモの姿はなく,3 種類の異なった卵のうが 6 個産みつけ
られていました.チリグモ 2 個,ナニワナンキングモ 1 個,クロテナガグモ 3 個.卵のう
の直径はそれぞれ 1.4mm~2.0mm の小さなものですが,石の底の小さなくぼみを利用し
て作られていました.以前見かけた小さな黒いクモはナニワナンキングモとクロテナガグモ
であるということまで分かりました.
チリグモ 成体体長 2.0~2.5mm.コンクリートの建物を好む.直径 5mm 位のくぼみ
に網を張り,その中に住む.卵のうもそこに産みつけられるが,白色でフワフワしている.
卵は黄色で 13 個前後.コンクリートの建造物の壁面に住居を作るのですがコンクリート製
の平たい石の底で地表と接してところに住居があり,卵のうもあったということは非常に面
白いと思います.
ナニワナンキングモ 成体体長 1.8~2.6mm.雑草の最下部の葉と地表の間にできたわ
ずかな空間に直径 2cm 位のシート網を作り住居とする.同じような場所に生活しているト
ビムシ,アリを餌とする.卵のうは褐色でニカワ質ヘルメット型.卵は黄色で 3~29 個.
クロテナガグモ 成体体長 2.0mm 前後.ナニワナンキングモとまったく同じ場所に同じ
ような住居を作る.餌も同じである.卵のうはピンク色で柔らかな二枚貝形.卵はオレンジ
色,10~14 個.
以上のクモたちは人間にとってあまりにも小さく,あまりにも目立たない存在なので,知
る人も調べる人も少ないようです.しかし,私たちの生活の場に私たちと一緒に生きている
ということをあらためて認識していただきたいと思います.
[原報は藤井悦子(編)「トタテズグモ」No.4(1981 年 10 月 10 日発行)]
八王子城跡のクモ
1981 年 9 月 27 日
高尾駅南口 10 時 15 分集合.集まったのは藤井悦子さんと私.以前来た時から見ると,
高尾駅南口はがらりと変わっていて,おそば屋さん,お寿司屋さん,ちょっとしたレストラ
ンのほかに気の利いたパン屋さん,本屋さんもあって,早く来すぎても本を立ち読みしてい
れば退屈しないし,お弁当を持ってこなくてもお寿司屋さんでおいしいノリ巻・太巻を売っ
ています.特にパン屋さんは入ってびっくりするほど色々なサンドウィッチやらサラダ各種
のほか大好きなケーキがあって大喜び.朝食ぬきであったのに気がついて二人で朝食を買い,
城山の入口の大鳥居のところで食べました.お店は早くから開いているので朝食を食べるこ
ともできます.
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昨日からの雨がからりと上がり,気温はぐんぐん上昇し,太陽の光は強くて痛いほどです.
食事中,そばの木の柱でオオシロカネグモがぶら下ったり上ったり何かモタモタしているな
あと思いながら川の流れを見ていたら,そのクモが糸を流して私の肩に取り付き,網を張る
つもりなのです.藤井さんが私の肩の糸を外してそばの板につけてやりましたが,クモにと
っては気にいらなかったらしく,板の裏側に移動して動かなくなってしまいました.
細い谷川の岸にヨリメグモの住居を見つけました.川の水の動かないところを選んで,水
面に糸を何本も垂らしている様子は 1 個の造形美術を見るようです.お見事というほかあ
りません.
いつもの通りゆっくり歩きながらクモの住居を訪問し,クモと話して数時間,頂上の休憩
所に着いて昼食となりました.が,またひと騒動.山を登っている間じゅう何だかスズメバ
チが多いことに気がついておりましたが,それが藤井さんの甘いコーヒーに誘われてブンブ
ン飛び回ります.それで落ち着いた食事どころではなくなりました.
入口の大鳥居から頂上まで登って来て気が付いたことは次の通りです.
入口の川の上にドヨウグモが見られなかった.
ジョロウグモの交接が始まっているのにまだ網を張っている♂がたくさん見られた.
ヒメグモが沢山いてそのほとんどが卵のうを作っていた.
チリイソウロウグモが卵のうを保護していた.
ヨツデゴミグモがゴミグモより標高の高いところで見られた.
コガタコガネグモがコガネグモより標高の高いところで見られた.
オナガグモの大・中・小が全山いたるとろで見られ,卵のうを保護しているものもいた.
頂上のお社で見たオナガグモの成体は腹部の先端と第1脚の先端だけがわずかに褐色のほ
かは真っ黒.そして脱色したように白い卵のうを守っていた.色の違いを数えてみた.体の
半分以上緑だった個体 28,見た瞬間に緑とは思えない個体とまさしく茶色の個体 12,黒い
個体1
野外観察に出るたびに必ずなにかしら面白いもの珍しいものに出会います.そして来て良
かったなあと本当に思います.臨時バスが運行されていたのでバス停でコーヒーを飲む暇も
なく,早く帰ることができました.八王子城跡はクモの観察に適した良い場所で四季を通じ
ていつでも来たい場所であります.
ジグモ,ユウレイグモ,マネキグモ,ウズグモ,コケヒメグモ,オナガグモ,ヒメグモ,
オオヒメグモ,ツリガネヒメグモ,チリイソウロウグモ,ボカシミジングモ,クスミサラグ
モ,ユノハマサラグモ,アシナガサラグモ,サガオニグモ,ヤミイロオニグモ,オニグモ,
ヨツデゴミグモ,ヤマトゴミグモ,コガネグモ,ワキグロサツマノミダマシ,ヤマオニグモ,
コガタコガネグモ,ハツリグモ,アオオニグモ,ヤマシロオニグモ,ヤエンニグモ,ジョロ
ウグモ,オオシロカネグモ,コクサグモ,ヤチグモ,ヨリメグモ,カバキコマチグモ,アズ
マキシダグモ,スジボケハシリグモ,シボグモ,コモリグモの一種,コハナグモ,オオヤミ
イロカニグモ,キハダエビグモ,シャコグモ,ネコハエトリ,デーニッツハエトリ,マミジ
ロハエトリ,ヤマジハエトリ
[原報は藤井悦子(編)「トタテズグモ」No.4(1981 年 10 月 10 日発行)]
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アサヒエビグモ
雄の求愛
1981 年 6 月 23 日(火) 室温 22℃.このごろアサヒエビグモの姿が家の内外に多く見
られるようになった.夜など壁の上で虫を捕えているので「何を食べているの?見せて」と
顔を近寄せるとカーテンの陰に隠れてしまう.それが今日の昼過ぎ.テラス立てたアンテナ
の横ポールを目にもとまらぬ早さで走り回る者がいるのに気がついた.黒々とした触肢を振
り立てた♂のアサヒエビグモが家つき娘の♀を追いまくっているのだ.彼女はまだ結婚の意
志がないらしく最後には横ポールの中に入ってしまった
[原報は藤井悦子(編)「トタテズグモ」No.7(1982 年 3 月 21 日発行)]
千葉県市川市
孔法寺のクモ
1982 年 3 月 7 日
京成線市川真間駅 10 時 30 分集合.早春の息吹を感じながら一同,孔法寺に向かって出
発したといつもは始まるのだが,8 時 15 分に起こった地震のために聞くも涙,語るも涙の
物語になってしまった.
まず常磐線が一時不通になった.そのため電車の接続が乱れ,いつも定時には到着してい
る浅間茂さんが 30 分遅れ.私も 15 分遅れ,京成の駅に行ったときは誰の姿もなかったの
で,もう出発したのかと孔法寺に足を急がせた頃,藤井悦子さんは誰も集合時刻に来ないの
で心配して国鉄駅に急いでいる途中であったらしい.どういうわけか私も浅間さんも国鉄と
私鉄の市川駅間を行ったり来たりしている藤井さんに会えなかった.本当に気の毒なことを
したと悲しくなってしまった.1 時頃,やっと電話連絡が取れてほっとしたが,このごろ毎
日音大受験生のお世話で過労になってしまっている彼女は休養ということにして,孔法寺か
ら国分寺のそばを通り,畠のゴミ捨て場や生け垣を見ながら,中国分へ抜けて解散した.
昨日と比べて急に西高東低の気圧配置に変わった今日はクモも少なく,見つけても丸くか
じかんで隠れているものばかり.だが,孔法寺内のゴミ捨て場にあった朽木の中にナンブコ
ツブグモ♂♀が沢山いたこと,中国分に抜ける途中の畠のゴミ捨て場のそれもビニールをク
チャクチャ丸めた中にスソグロサラグモ♂♀がそろって沢山いたことが興味深かった.外国
のスソグロサラグモも同じように開けた場所(畠など)にあるゴミ捨て場(廃棄物置き場)
のゴミの内部にもぐって生活していると報告されている.それとまったく同じであったのが
うれしく楽しい.
浅間さんと別れた後,藤井さん宅に寄り,本日の報告をしてコーヒーをごちそうになって
帰途についた.
ジグモ,ウズグモ,オオヒメグモ,カレハヒメグモ,スソグロサラグモ,ナンブコツブグ
モ,オニグモ,ズグロオニグモ,ギンメッキゴミグモ,アシナガグモ,シロカネグモの一種,
ヒラタグモ,クサグモ(2齢),メガネヤチグモ,ムナアカフクログモ,フクログモの一種,
シボグモ,ウヅキコモリグモ,アサヒエビグモ,アリグモ
[原報は藤井悦子(編)「トタテズグモ」No.7(1982 年 3 月 21 日発行)]
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手賀沼の夏のクモ
1982 年 7 月 11 日
10 時 30 分 国鉄柏駅集合.天気予報では曇り後雨.参加者が 3 名であったので,浅間
さんのジープで行くことになった.観察場所は昨年回った沼南のA地点・B地点,手賀沼畔,
そして湖北にある古利根沼.手賀沼の観察会でよいことはクモのほかに鳥や植物の観察がで
きることだ.まず釣堀そばの崖地に巣を作っているカワセミの話.手賀沼に行かず,釣堀の
魚を餌にしているそうな.走っているジープのそばをアマサギ,コサギ,カルガモが飛び,
広々とした田んぼは緑色の毛足の長いじゅうたんを敷いたようで,実に心さわやかな風景で
あった.
A地点では雑草が胸のあたりまで伸び,誰も通らない道の上をクモ達は十分に網を張り渡
して生活していた.ジョロウグモはまだ小さいけれど,クサグモはずいぶんと大きくなり,
コガネグモも 1 個体観察された.道からはずれた藪の中では私の大好きなヨダンハエトリ
の♂♀が数多く飛び跳ねており,その下ではヤマジグモ,朽木のそばではサラグモが生活し
ていた.しかし,徘徊性のクモ達は上手に逃げてしまうので,さっぱりわからない.藤井さ
んはヤチグモの観察に夢中!
お昼はジープの内で食べたが,その頃から風が強くなって来たことに気が付く.食後再び
藪の中に入り,観察しなおしてから,B地点に急行.
B地点は悲劇の場所でもあった.丘の下の道を歩く途中に卵のう 2 個を守っているカラ
カラグモの母親に出会った.それを写そうと浅間さんが自宅にカメラを取りに行った 30 分
弱の間に,カラカラグモの母親はササグモに噛みつかれ,可哀そうな姿になっていた.きび
しい自然環境の定めはよく知っているので,ササグモを叱るわけにもいかず,唯々我々の手
落ちを悔やむのみ.
手賀沼のほとりは益々強くなり行く風でクモの姿はあまり見かけられず,ナカムラオニグ
モとコモリグモの仲間だけ.水面にはいま問題になっているアオコが浮いていた.コシアキ
トンボの♂がいて,腰の明るいところが白色が♂で黄色が♀と教わった.
古利根沼は浅間さんのお宅の近くにあり,夜になるとトリノフンダマシが沢山見られると
の話だが,いまはまだ明るく,残念ながら 1 個体も観察できなかった.しかし,キララシ
ロカネグモの♂やビジョオニグモ,卵のうを 6 個も付けたゴミグモその他がいてご機嫌で
あった.帰りは天王台駅まで送ってもらい,雨に会わずに解散した.
ジグモ,ウズグモ♀卵のう,シロブチサラグモ♂♀,ユノハマサラグモ,サラグモの一種,
アシブトヒメグモ♀・まどい,ヒメグモ,カグヤヒメグモ,ツリガネヒメグモ,ヤリグモ,
センショウグモ,ナガコガネグモ,コガタコガネグモ,チュウガタコガネグモ♀,コガネグ
モ♀,ゴミグモ♀卵のう 4~6,ヨツデゴミグモ,カラスゴミグモ♀,ギンメッキゴミグモ,
ヤマシロオニグモ♂,ワキグロサツマノミダマシ,サツマノミダマシ,ナカムラオニグモ♀,
コゲチャオニグモ,ビジョオニグモ,アシナガグモ,ウロコアシナガグモ,キララシロカネ
グモ,コシロカネグモ♀,ジョロウグモ,アズマヤチグモ,シモフリヤチグモ,ヤチグモ,
クサグモ♂♀,コクサグモ,カラカラグモ♀卵のう,ヤマジグモ♀卵のう,コモリグモの一
種♀卵のう♂,ウヅキコモリグモ♀卵のう団居,カイゾクコモリの一種,ナミハグモの一種,
ササグモ,イオウイロハシリグモ,カバキコマチグモ,ムナアカフクログモ,ワシグモの一
種,キハダカニグモ,ハナグモ,アズチグモ,ヤミイロカニグモ♀,アサヒエビグモ♀卵の
う,キハダエビグモ,シャコグモ,アリグモ♀,デーニッツハエトリ,ヨダンハエトリ♂♀,
アオオビハエトリ,ネコハエトリ,マミジロハエトリ,オオハエトリ
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[原報は藤井悦子(編)「トタテズグモ」No.10(1982 年 8 月 20 日発行)]
埼玉県 上尾(運動公園と水上公園)のクモ
1983 年 4 月 10 日
高崎線上尾駅 10 時 30 分集合.今日の天気予報はくもり後雨.朝から寒かった.昨日の
暖気で満開になった桜が可哀そう.また,クモたちもどこかへ潜り込んでしまっているにち
がいない.下見をしてくれた西條さんの案内で運動公園から観察を始めた.すぐ目立ったの
は植え込みや垣根に小さなクサグモが網を張ってもう一人前の生活を始めていることだ.そ
れからムナアカフクログモの成体♂♀が同じ枯れ木の中にかなり集まって寒さをしのいで
いるのを観察した.
昼食は桜の下でお花見をしながら食べた.公園の中は広く,特に水上公園の方は自然状態
の場所が多かった.1 時 20 分,雨がパラツキ始めたのだが,時間も場所ももったいないの
で観察を実行.2 時 30 分とうとう本降りとなったので残念ながら解散した.
西條雄介君リスト:ジグモ幼,マネキグモ,ウズグモ幼,ヘリジロサラグモ♀,
オオヒメグモ幼,バラギヒメグモ亜,オニグモ幼,ズグロオニグモ幼,ギンメッキゴミグ
モ幼,ギンナガゴミグモ,ゴミグモ幼,オオシロカネグモ幼,シロカネグモの一種幼,セン
ショウグモ,クサグモ幼,ヤチグモの一種幼,ウヅキコモリグモ♀,ムナアカフクログモ♂
♀幼,フクログモの一種幼,ハナグモ幼・成,キハダカニグモ幼,コカニグモ幼,セマルト
ラフカニグモ幼,エビグモ♀,ネコハエトリ幼,ハエトリグモの一種幼,アリグモ亜
<卵のう>センショウグモ,ヤマトカナエグモ
[原報は藤井悦子(編)「トタテズグモ」No.15(1983 年 4 月 30 日発行)]
高尾山の 9 月のクモ
1983 年 9 月 15 日
京王線高尾山口駅 10 時 30 分集合.西條雄介・佐藤幸子・池田博明のほか 10 時 41 分着
の日下部さんを加えて総員 4 名で駅前から観察を始めた.天気は一日中雨であったが,次
から次へとクモの姿が目に付く.今までのクモ観察のうちいちばんのスローテンポで,昼食
はケーブルカーの待合室であった,午前中特に気づいたことはイオウイロハシリグモやアズ
マキシダグモなど大形のハシリグモが子グモたちの団居のそばにいてひそかに守っている
姿であった.親が見えず,団居だけの光景もあり,とにかく上記の 2 種の巣立ちの時期が
今なのであることが分かった.その他卵のうとしてはアシナガグモの卵のうが面白く,白く
平たいフワフワの卵のうの表面に黒い色のポチポチを付着させている.まるでオナモミを見
る様であった.
時間がかかりそうだからと,それでも早めに昼食休憩を切り上げて出発した.雨が降るの
にもかかわらず,ハイキングの大人や子供たちが思ったよりも多く,我々をどんどん追い越
して行き,それが戻ってきてどんどん帰ってゆく.だが,我々は相変わらずゆっくりゆっく
り.「高尾山琵琶滝水行道場」のいかめしい柱の立つ分かれ道に到着したのが 2 時であっ
た.
琵琶滝の近くにヤマトゴミグモがいて久しぶりの対面に喜んだが,激しい雨のため円網は
破れてみる影もない.しかし頭を上に向けて占座しガンバっている姿はけなげであった.滝
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の後の山頂では大きな樹の幹にキノボリトタテグモを見つけたが,ほかのトタテグモの仲間
は発見できず残念であった.
それから先は倒木のため通行止めとなっていたので,道をそのまま引き返し,駅前解散と
なった.ちょっと気がついたのは今日はジョウロウグモの体長のバラつきが非常に大きく,
♀の網で待っている♂よりも小さい♀がたくさん見られたことである.小さくても成熟して
いるのか,それとも 10 月上旬の産卵期に成長が間に合わずに死んでしまうのか,何が原因
しているのだろう.全体的に個体数の多かったのがジョロウグモ,シロカネグモの仲間,オ
ナガグモであったが,それと同じ位,オニグモの幼体が多く,まったく困り果てた一日であ
った.
日下部リスト:ウズグモ,マネキグモ,ユウレイグモ,ツリサラグモ,チビアカサラグモ
♀,ツリガネヒメグモ♀卵のう,ヒメグモ♀,オオヒメグモ♀卵のう,アシブトヒメグモ,
ヤリグモ卵のう,オナガグモ,ズグロオニグモ,ヤマシロオニグモ,オニグモ♀卵のう,サ
ガオニグモ,アシナガグモ♂♀卵のう,オオシロカネグモ♀,ジョロウグモ♂♀,センショ
ウグモ,ヒラタグモ♀卵のう,クサグモ♀卵のう,コクサグモ,ヤマヤチグモ,メガネヤチ
グモ,アズマキシダグモ♀,イオウイロハシリグモ♀卵のう,スジブトハシリグモ♀卵のう,
ヤミイロカニグモ,シャコグモ,アリグモ,マミジロハエトリ,アオオビハエトリ
[原報は日下部光代(編)「トタテズグモ」No.17(1983 年 10 月発行)]
新年のごあいさつ
新年おめでとうございます.また新しい年がめぐって参りました.これから過ごしてゆ
く 12 ケ月の間に,どんなクモに会えるか,どんな勉強ができるかと考えると,たのしみで
なりません.それは毎月行われるクモのかんさつ会に参加する度に,かならず新しい発見が
あるからです.しかし,それと同時に感じることは,この数年の間に都市化が急速に進んで,
その影響がクモの生息にも現れてきていることです.特に地域の自然を守る会などの要請が
あってでかけてゆきますと,区画整理予定の場所に,自然の中に住むクモがたくさん生活し
ているのです.この貴重なクモたちが一,二年先にはまったくいなくなってしまうと思うと,
本当にもったいないやら残念やらで,夜も眠れません.ですから,私たちはこのクモ達の生
活の安全のために住民運動が通るようにクモの保護の方から出来るだけバックアップして
ゆく方向に進んでゆきたいと思います.皆様もそのつもりで,今年はできるだけ多くの方が
観察会に参加し,多くの眼でクモたちの生息状態を観察していただきたいと思います.
[原報は日下部光代(編)「トタテズグモ」No.18(1984 年 2 月 4 日発行)]
■解題 池田博明(編集)
クモの会は 1978 年から毎月(!)観察会を行っていて,その記録が謄写版印刷の会誌に
報告されている.会誌は「クモの世界」「遊糸原」「トタテズグモ」と誌名が変わり,「ト
タテズグモ」の最終号は 1991 年 12 月 1 日発行の 36 号である.以前,会報のハエトリグ
モの生態観察(アオオビハエトリ,ネコハエトリ,マミジロハエトリ)を再録させていただ
いたことがあった(池田,2005).
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佐藤幸子さんの観察会報告や生態報告は上記 18 号以降もあるが,今回掲載分からも佐藤
さんの観察の姿勢が理解できる.私が「クモの会」に入会したのは 1983 年の 5 月だが,佐
藤さんの観察には強烈な影響を受けた.ひとくちで言うとクモ 1 頭 1 頭に対する愛情が強
いのである.1 種ではない.1 頭である.いまどきの観察者にも必要な観点ではないだろう
か.佐藤さんの報文を読み返してみて,あらためてそのことを感じた.佐藤さんに無理にお
願いして再掲を許可していただいたのも,そんな思いからである.
観察会の日時や場所の記録,他の方の報告も許可を得て掲載していきたいと思う.
引用文献
池田博明,2005.クモの会会報から再録Ⅰ
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ハエトリグモの生態観察の記録.Kishidaia,87:11-14.
KISHIDAIA 投稿規定
1)投稿資格は本会会員とする.ただし共著者には,会員以外の者を含むことができる.依頼原
稿については,本会会員でなくとも,運営委員会の承認があればよい.
2)投稿内容は,クモや東京蜘蛛談話会に関しての論文,解説,記録,紀行文,感想などとする.
3)原稿の採否については,運営委員会にて決定する.また,原稿に対して加筆・削除・訂正な
どをお願いすることがある.
4)頁数は図表を含めて,刷り上がり 8 頁以内とし,超過頁分は著者負担となる.ただし超過頁
分の代金を徴収しない場合があり,別項に記す.超過頁代は 1 頁につき 2500 円とするが,
印刷費の変更等により,金額が変ることがある.
5)特別な費用を要する印刷は,その実費を著者負担とする.
6)別刷りは 50 部単位で作成するが,その費用は全額著者負担とする.
7)論文の著者校正は 1 回だけとする.DRAGLINES など短文の場合は著者校正を省略する場合
がある.
超過頁分を徴収しない場合
補 1)談話会活動報告(観察会報告・合宿報告など)は超過頁代を取らない.
補 2)各県別目録を積極的に掲載する方針が 1997 年 4 月の総会で確認され,主旨に沿う原稿に
関しては超過頁代を取らずに掲載する.
補 3)その他運営委員会で認めたもの.
原稿作成上の注意
1)手書き原稿は白紙に黒字,横書きで書いて下さい.
2)文章は 5 行目から書き始め,1 行目にタイトルを,3 行目に著者名を書いて下さい.
3)ワープロなどで原稿を作成した場合は,プリントアウトしたものではなく FD あるいは CD
をお送りください.
4)図は製図用インクなどにて完成したものにして下さい.図,写真などを画像ファイルとして
お送りくださる場合には,本文中に貼り付けたものだけではなく,元の画像ファイルそのも
のもお送りください.画像解像度は刷り上りのサイズで 300dpi 以上でないときれいに印刷
できません.デジタルカメラで撮影した写真は解像度などを変更せずにもとのままのファイ
ルでお送りください.
5)原稿は電子メールでも受付けます.ただし添付ファイルが開けない事も予想されますのでテ
キストファイルで送って下さい.なお,原稿ファイルでは,中央ぞろえや字下げなどの書式
の設定は一切行わないでください.
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お知らせ
会員の中島晴子(作曲家:中島はる)さんが 2013 年 2 月に逝去されました.次号では追悼
文を募ります.編集幹事までお寄せください.
なお,談話会ホームページから中島さんの談話会活動履歴資料をダウンロードできます.
東京蜘蛛談話会
運営委員
池田 博明・小野 展嗣・木村 知之・甲野 涼・新海 明・谷川 明男・仲條 竜太・萩本
房枝・初芝 伸吾・安田 明雄・八幡 明彦
会
長:新海 栄一 〒185-0011 東京都国分寺市本多 1-6-6
本
部:小野 展嗣 〒305-0005 茨城県つくば市天久保 4-1-1
国立科学博物館動物研究部
会誌編集:仲條 竜太 〒194-0041 東京都町田市玉川学園 7-7-10-103
E-mail: [email protected]
(原稿送付先)池田 博明 〒258-0018 神奈川県足柄上郡大井町金手 1099
E-mail: [email protected]
通信編集:谷川 明男 〒247-0007 神奈川県横浜市栄区小菅ヶ谷 1-4-2-1416
E-mail: [email protected]
事 務 局:初芝 伸吾 〒186-0002 東京都国立市東 3-11-18-203(有)エコシス
E-mail: [email protected]
会
計:安田 明雄 〒231-0861 神奈川県横浜市中区元町 5-219
E-mail: [email protected]
郵便振替:00170-8-74885 東京蜘蛛談話会(年会費:一般 3800 円/学生 2000 円)
会計監査:梅林 力・加藤輝代子
KISHIDAIA No.102 2013 年 3 月 31 日 印刷
編集者 仲條 竜太
2013 年 3 月 31 日 発行
発行者 新海 栄一
発行所 東京蜘蛛談話会
茨城県つくば市天久保 4− 1− 1 国立科学博物館動物研究部 小野 展嗣 方
印刷 株式会社オーエム
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大阪市東成区中道 4-5-14-101
KISHIDAIA
Bulletin of Tokyo Spider Study Group
No.102,Mar. 2013
─ 目
次 ─
貞元 己良:都内でアワセグモが見つかった ....................................................... 1
輿石 紗葉子:クモから得られた線虫類,冬虫夏草 および寄生蜂の記録 ................. 3
須黒 達巳:南西諸島に産するハエトリグモ Bianor incitatus について ................ 5
貞元 己良:2012 年四会合同合宿に参加して ..................................................... 9
須黒 達巳:サイホウキシダグモのオスを採集 .................................................. 14
梅林 力:走査電子顕微鏡で見たクモの微細構造
その 1 ................................... 16
DRAGLINES
谷川 明男:佐渡島にもイソコモリグモがいた ............................................... 24
池田 博明:チリイソウロウグモの卵のうと色とクラッチサイズ ...................... 24
高津 佳史:ハタチコモリグモは大型美麗種だった! ...................................... 25
高津 佳史:真冬のゲホウグモ ..................................................................... 26
馬場 友希・田中 幸:一島根県で採集されたクモ .......................................... 26
馬場 友希・田中 幸一:滋賀県で採集されたクモ .......................................... 26
馬場 友希・田中 幸一:和歌山県で採集されたクモ ....................................... 27
馬場 友希・田中 幸一:福島県で採集されたクモ .......................................... 27
馬場 友希・大澤 剛士:神奈川県箱根町で採集されたクモ II ........................... 28
馬場 友希・大澤 剛士:静岡県御殿場市で採集されたクモ .............................. 28
馬場 友希・大澤 剛士:多摩丘陵で採集されたクモ ....................................... 28
馬場 友希・大澤 剛士:富山県と福井県で採集されたクモ .............................. 29
馬場 友希・大澤 剛士:滋賀県で採集されたクモ .......................................... 30
馬場 友希・須黒 達巳:筑波山地で採集されたクモ ....................................... 30
仲條 竜太・久保 真司:八丈島で採集したクモ.............................................. 33
仲條 竜太:青ヶ島で採集したクモ............................................................... 34
萱嶋 泉:シモングモに就いて ........................................................................ 36
佐藤 幸子:クモ観察記
1979~1983 年 ......................................................... 39