EBMってなに? 「最善の根拠」を基に、それに「臨床家の専門性(熟練

Question
EBMってなに?
Answer
「最善の根拠」を基に、それに「臨床家の専門性(熟練、技能など)」、そして「患
者の希望・価値観」を考え合わせて、より良い医療を目指そうとするものです。
解説
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ポイント
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○「最善の根拠」、「臨床家の専門性(熟練、技能など)」、「患者の希望・
価値観」を考え合わせる医療です。
○決して臨床家の専門性を否定して、「根拠」となる研究論文だけを頼り
にするものではありません。
○「根拠」を基に、患者さんやご家族が医療者と話し合いながら治療方針
を決めていきます。
EBM(イービーエム)は、 “Evidence-based Medicine“の略で、「根拠(エビ
デンス)に基づく医療」と呼ばれています。1991 年にカナダのガヤットという研究者
が提唱した後、世界中に広がりました。EBM で重視している「根拠」は、科学的な根
拠、中でも実際に多数の人間で有効性や安全性を確かめた研究の成果です。EBMは、
こうした「最善の根拠」を基に、それに「臨床家の専門性(熟練、技能など)」、そし
て「患者の希望・価値観」を考え合わせて、より良い医療を目指そうとするものです。
近年、この3つの要素に「個々の患者さんの状態や置かれている環境」が追加されま
した。肥満している糖尿病の患者さんでも、変形性膝関節症を持っていたら(併存症)、
膝の痛みのため、一般的には勧められる運動療法を行うことが難しい場合もあります。
同じ患者さんでも地域の診療所と大学病院、または医療制度の異なる日本と米国では、
期待される医療、行われる医療は変わってきます。今日では、このような視点から、
研究の成果である根拠(エビデンス)やそれをまとめた診療ガイドラインを一般論と
して参照しつつ、患者さんの個別の状況や、医療の行われる場の特性も考慮して、
「よ
り良い医療」を考える必要があると言えます。
EBM が生まれる前、医療の「根拠」は、病気の起こり方や薬の効く理由といった医
学研究や、臨床家の経験が中心でした。しかし、理論的には効くはずの薬でも、実際
は効果がなかったり、副作用が生じたりする場合もあります。臨床家が「これが良い」
と自信を持っていても、それは患者さん全体からみると一部の、偏ったケースの経験
からの考えかもしれません。EBMは、多くの人間を対象に行う医学研究(疫学と呼
ばれます)の成果を重視して、これまでの考え方とうまくバランスを取ることを目指
しています。ですので、EBMは決して臨床家の経験に基づく判断を否定して、
「根拠」
となる研究論文だけを頼りにするものではありません。医療者として、
「 最善の根拠(一
般論としての知識)」と「臨床家の専門性(熟練、技能など)」の両方を活用して、患
者さんにとって最も良いと思われる医療を進めることがEBMの目標です。
初めは医療者向けに考え出されたEBMですが、医療を受ける方々にも役立ちます。
たとえば、治療を受けるか、受けないか迷う時に、
「根拠」を医療者に尋ね、または自
分で探し、信頼できる「根拠」が見つかれば、それと自分の経験や価値観と照らし合
わせて、する・しないを決めよう、という考え方です。これからは、「根拠」を基に、
患者さんやご家族が医療者と話し合いながら治療方針を決めていく場面も増えていく
ことが予想されます。
EBM は、医療者にとっても、患者さんやご家族にとっても、より良い医療、納得で
きる医療を実現していくために、役に立つ、共通の手がかりと言えるでしょう。
ブックガイド
○中山 健夫、2014、『健康・医療の情報を読み解く――健康情報学への招待 〈第 2
版〉』丸善
身近な健康や医療の情報の読み解き方を通して疫学や EBM の考え方を紹介して
います。
2012 年 9 月 17 日執筆
2015 年 5 月 7 日修正
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学
中山健夫