平松式ペットボトル人工雪発生装置とは?

 平 松 和 彦
平松 式ペットボトル人 工 雪 発 生 装 置と は?
下 図 は ペ ッ ト ボ ト ル 内 で 生 ま れ た 雪 の 結 晶 で す
Ⅰ はじめに
中谷宇吉郎博士のグループが世界ではじめて人工雪を作成
し た の は 1936 年 の こ と で 、 こ れ は 低 温 実 験 室 の 中 で 行 わ れ ま
し た 。私 は 常 温 の 室 内 で 雪 の 結 晶 の 成 長 過 程 を 観 察 す る こ と が
で き れ ば 、よ り 自 然 現 象 の 面 白 さ を 実 感 で き る と 思 い 、ペ ッ ト
ボ ト ル の 中 に 人 工 雪 を 作 成 す る 装 置 を 考 え て み ま し た 。こ こ で
は 、そ の 作 成 方 法 と 観 察 方 法 な ど を 紹 介 し た い と 思 い ま す 。私
は北海道に住んでいるので雪や氷の世界を理科の時間にじっ
く り と 取 り 上 げ た い と 考 え て き ま し た 。こ の 実 験 も 雪 や 氷 に つ
い て 学 ぶ 時 に 、ぜ ひ 手 軽 に 試 し て ほ し い し 、雪 を 見 た こ と が 無
い地方の子供さん達にも広まってほしいと思っています。
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Ⅱ それでは装置を作ってみましょう。
◆材料は次のようなものを用意しましょう。
・ ペ ッ ト ボ ト ル ( 5 0 0 m l )( 凸 凹 の 少 な い も の が よ い )
・発泡スチロール製クーラー(他の容器でもできます)
・ 釣 り 糸( 0 3 号 な ど 細 い も の デ ン タ ル フ ロ ス を 裂 い た も の な
どでも代用ができます)
・ゴム栓(椅子の先につけて床が傷つくのを防ぐ為のゴム足
でも代用できます)
・消しゴム(サイコロ状に切
って使用します。おもりにな
るものならなんでもいい)
◆装置の作り方
(1) ま ず カ ッ タ ー で ペ ッ
トボトルと同じ直径の穴をク
ーラーの蓋にあけます。ペッ
トボトルを押し込んでようや
く入るくらい、少し小さめに
あけましょう。
( 2 ) 釣 り 糸 5 0 cm の ち ょ う ど 真 ん 中 く ら い に 、 消 し ゴ ム
の断片をホチキスで固定します。
( 3 ) 糸 の 両 端 を 持 っ て 消 し ゴ ム を 錨( い か り )の よ う に ペ
ッ ト ボ ト ル の 底 に お ろ し 、口 か ら 吐 息 を 数 回 吹 き 入 れ
ます。
(4) 釣り糸がピンと張った状態で、ゴム栓をする。
( 5 ) ペ ッ ト ボ ト ル を ク ー ラ ー の 蓋( ふ た )の 穴 に は め 込 み
ます。
( 6 ) ド ラ イ ア イ ス 約 1 ∼ 1 .5 kg を 砕 い て 、 ク ー ラ ー の 壁
に そ っ て 並 べ ま す 。そ れ か ら 真 ん 中 に ペ ッ ト ボ ト ル が
くるようにして蓋をセットします。
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Ⅲ この装置の原理
(1)上空で雪の結晶が成長するよ
うな環境を、ペットボトル内につくるこ
とにします。必要なものはまず、第一に
氷点下の低温の環境、第二に空気中の塵
にかわる凝結核。つまり雪の結晶の中心
になる芯です。そして最後、三番目には
過飽和の水蒸気。ちょっとむずかしいですね。有り余るほど
たくさんの水蒸気です。
(2)低温の環境はペットボトルをまわりから冷やせば
よいわけですから、まわりをドライアイスで囲めばそれで解
決します。ドライアイスはマイナス約80度という低温です
から、簡単に、そして長い時間冷やしておくことができるの
です。このとき、ペットボトルの下部の約3分の2をクーラ
ーボックスにうめこみ、頭の丸い部分を蓋(ふた)の上に出
した形にすることが大事な点です。上部は顔を出しているの
で、室温に近いのに対して、下の方はドライアイスで冷やさ
れ 、ペ ッ ト ボ ト ル の 中 に は と て も 安 定 な 空 気 の 層 が で き ま す 。
つまり暖かくて軽い空気が上、冷たくて重い空気が底にたま
ることになります。そこではほとんど空気が上下に移動しま
せん。つまり安定な状態です。途中に結晶が成長するのに都
合のいい温度の場所ができます。その場所を斜めから見下ろ
すというのがこの装置のポイントです。クーラーの蓋の高さ
の 前 後 で は 1 cm に つ き 6 ℃ ∼ 7 ℃ く ら い の 割 合 で 温 度 が 下
がっていきます。
( 3 ) 空 気 中 に 浮 遊 す る 塵 ( ち り )、 つ ま り 凝 結 核 の か わ
りとして細い釣り糸を利用します。釣り糸のかわりにデンタ
ルフロスを裂いて細くしたもの、バイオリンの弓の毛(馬の
毛 )、ウ サ ギ の 毛 な ど で も で き ま す か ら や っ て み て く だ さ い 。
短い毛を使う場合はどうやってつるしたらいいかはみなさん
が考えてみてください。
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(4)水蒸気を入れるにはどうしたらいいでしょう。私
は、ペットボトルをセットする前に息を吹き入れておくとい
う方法を思いつきました。ほかにも方法があります。簡単な
方法を考えてみてください。水道の蛇口から水を入れてすぐ
捨てるとかいろいろな知恵があります。またいくつかの方法
を組み合わせてみても面白い。
Ⅳ 観察
それでは観察を始めます。ペットボトルをセットした時刻
は書き取っておくといいでしょう。数分後には釣り糸の下部
から白く霜がついてくるのがわかります。さらに15分もす
ると針のような形の結晶が水平に伸びてきませんか? 観
察を続けていくにしたがって、結晶が成長していく様子を見
ることができると思います。出来ないときはどうしてなのか
考えてみましょう。
Ⅴ この装置の特徴
室内で人工雪を作成する試みは過去まったくなかったの
ではありません。しかしそのどの装置も一台を作成するのに
かなりの手間と費用がかかりました。今日紹介した装置は今
までのどの装置よりも作りやすい上に、簡単に観察できると
ころが特徴です。まとめると次のようになります。
(1)過飽和の水蒸気を封じ込めることに以前は苦労して
いたが、これを吐息に含まれる水蒸気ですませる点。
(2)筒状の中に雪の結晶が出来ても、回りに霜がつくの
で観察がむずかしかったのだが、この装置では曇っていない
上部から下部の霜のつく低温部を斜めに見下ろすことになる
ので、観察しやすい。いままでの装置では、霜を取るための
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特 別 な 液 体 を 塗 る と か 、観 察 す る 部 分 だ け ヒ ー タ ー で 暖 め て 、
霜を融かすなどの工夫が必要でした。つまりペットボトルの
上の丸い部分をうまく利用しているのです。
(3)費用があまりかからず、簡単に作ることができるの
で同時に何台も用意して実験をすることができる。それによ
って、それぞれの様子を比べてみることができます。息を入
れる量によって、結晶の形が微妙に異なるとか自然現象がい
つも同じではないことを理解することができる。
(4)装置のつくりがとても単純なので、みなさんが材料
や方法を自分たちで考えていろいろ応用することができるこ
と。工夫する余地を与えることができる。釣り糸の表面を加
工するとか、吐く息のかわりに水蒸気をどう入れるかなど、
発想を広げていくことができるのです。
Ⅵ これまで行われた例
新 聞 紙 上 や テ レ ビ で 報 道 さ れ た こ と に よ っ て 、全 国 各 地 か
ら問い合わせがありました。また、授業などで実施された様
子を多くの方々から知らせてもらうことができました。どの
場合も数台用意して、同時に実験をおこなうという、この簡
単な装置にふさわしい形の授業や実験教室でした。
・ 旭川西高等学校理数科の課題研究
・ 旭 川 西 高 等 学 校 普 通 科( 地 学 Ⅰ B 授 業 )
・ 士別市、小学生向けのおもしろ「科
学教室」
・ 豊富高等学校での地域研究
・ 歌志内小学校における九州、山田市
の小学生との交流事業
・ 旭川市、旭川市博物館主催「子供博物館」
・ 安城市、かがくのひろば
・ 横浜市、フェリス女学院高校
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・ 広島インターナショナルスクール
・ 名古屋市、親と子のわくわく科学ひろば
・ 加賀市、中谷宇吉郎雪の科学館 ゴールデンウィーク
企画
・ 福岡市、97’お天気ひろば
・ 紋別市、流氷科学教室
・ 高遠町、少年自然の家、子ども科学実験教室
・ほか多数。
Ⅶ まとめ
科学の発達はめざましく、わたしたちのまわりには最先端
の機械があふれています。とくにコンピュータでは、文字ば
かりか映像や音声もあつかうことができるようになりました。
あたかも本当であるように見えていても、実は架空の世界を
感じていることも多くなりました。 本物を自分の目で確か
める前に、写真やビデオで見ることができるということは便
利なようですが、いいことばかりではあ
りません。
わたしたちは自分の感覚で、生まれて
初めての体験をして、そのときの印象を
大切にしなければなりません。どうして
自分では体験出来ないときに、他の方法
を使ってそれに近い体験をすることもい
いのですけれど、もしも実際に体験できるならば、危険が無
いかぎりは自分で体験したほうがずっと強烈な印象を得るこ
とができます。ただ人から聞くだけとか写真で見るよりも、
自分で本物に触れることが大切なのです。
そして、科学の実験はたのしまなければならないと考えま
す。この実験はただ結晶の成長を観察するばかりではなく、
装置を自分で作るところも大事なのです。この実験が新聞や
雑誌で紹介されたあと、ほとんど同じ形の立派な機械を作ろ
う と し た 会 社 も あ り ま す 。で も 先 生 が 機 械 を 持 っ て き て 、
「ほ
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ら 、ス イ ッ チ を 入 れ て ご ら ん ? 」「 は い 、入 れ ま す 。」「 黙 っ て
見 て い て ご ら ん ? 」「 は い 」と 言 っ て 、結 晶 が で き る と こ ろ を
見ることはできます。でもその機械を自分で作れたらもっと
楽しいと思います。科学者たちは自分の研究のために一番都
合のいい機械を用意したり、工夫するところから研究をはじ
めます。装置を作ったり、応用したりすることも科学の実験
の大切な部分だとわたしは考えています。
みなさんもひと工夫してみませんか。
Ⅸ 文献
藤 岡 由 夫 ,1971: 中 谷 宇 吉 郎 , 雷 鳥 社 , 239p. 全 国 理 科 教
育 セ ン タ ー 研 究 協 議 会 編 ,1985: 地 学 教 材 の 研 究 ,東 洋 館 , 2 3 5 p .
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