中国・洛恵渠灌区の塩類化農地における流水客土による除塩効果に関する研究 水利用学分野 東條 雅行 キーワード:土壌改良,リーチング,土壌特性,定量評価 1. はじめに 中国・陝西省洛恵渠灌区(図 1)は洛河を境に洛 排水路 洛河 塩湖 灌区境界線 流向 東,洛西区に分かれている.年平均気温は 13.3℃, 平均降水量は 550 mm で半乾燥気候に属している. 幹渠 支渠 斗渠 頭首工 洛東区 洛西区 1950 年代に灌漑が開始されて以降,農地の塩類化の 問題が発生した.1970 年代からその問題への対策の 1 つとして流水客土が導入された.流水客土とは増 水期において,黄土高原から流れてくる浮遊土砂を 大量に含んだ水を,堤防で囲んだ塩類集積農地に引 き入れ,リーチングと客土を同時に行なう土壌改良 図 1 洛恵渠灌区概要 法である.本研究では,流水客土による土壌の物理・ 水口 排水路 化学特性を明らかにし,塩類土壌改良効果の持続性 の定量評価を目的とした. ① ④ ③ 130 m 2. 調査概要 ② 調査対象圃場は,洛東区塩湖の北西部に位置する綿花畑であ ⑤ り,2002 年に流水客土が行なわれた.サンプリング地点を図 2 に示す.対象圃場の中心地点(③番)を圃場の代表とし土壌断 300 m 面調査を行い,同時に各層の採土を行なった.また土壌の物理 図 22 土壌サンプリング地点 土壌サンプリング地点 図 特性および化学特性の傾向を見るために,図 2 に示した他の 4 地点においても深さ 20 cm 間隔で 1 m までソイルオーガにより 表 1 土壌断面調査結果と透水係数 採土した.土壌の物理特性として,変水位透水試験により③番 において各層の透水係数を求めた.全地点のサンプルに対して 粒度試験を行い,粒径分布を明らかにした.化学特性は,飽和 Ap C1 C2 2Apb 2C1 2C2 3C 抽出法により得た土壌溶液の分析を行なった.測定項目は電気 伝導度(ECe),pHe および陽イオン(Na+,Ca2+, Mg2+, K+)である. さらに Bresler ら(1982)が提案した塩による綿花の減収率から, 流水客土の除塩効果の持続性を定量評価した. 3. 結果と考察 粘土 C2 層と 2Apb 層の境界線で 20-40 ら代表地点における客土の厚 さは,およそ 36 cm であった CL L L LiC SiC CL CL 透水係数 (cm/s) -4 1.2×10 -5 5.1×10 -5 4.0×10 -6 5.6×10 -6 1.1×10 -5 1.1×10 -5 4.7×10 砂 0-16 20 -4 0 深 さ (c m) て砂質から粘質な土性への急 深さ(cm) ある深さ 36 cm の地点におい 1 に示した透水試験の結果か シル ト 土性 0 -2 0 0-20 変が見られた.この事と,表 深さ (cm) 16 26 36 48 65 80 100+ 層位 0-20 40 -6 0 16-26 20-40 60 -8 0 26-36 8 0- 10 0 36-48 40-60 0% 2 0% 4 0% 60 % 80% 10 0% 40-60 粒径分布 48-65 60-80 60-80 65-80 80-100 80-100 80-100 0% 50% 100% 0% 50% 100% 0% 50% 100% と考えられる. そして図 3 に示した粒度試 (a)サンプリング地点① (b)サンプリング地点③ 図 3 粒径分布 69 (c)サンプリング地点⑤ 験結果より,流入部 0.0 から離れるにしたが ECe(dS/m) ECe(ds/m) 5.0 10.0 による客土効果は水 口(上流側)からの 0.0 8.5 0 20 20 20 40 40 40 60 60 60 80 80 80 100 100 100 深さ(cm) の事から,流水客土 8.0 0 くなり,粒径は小さ 確認された.これら 7.5 0 って客土の厚さは薄 くなるという傾向が pHe 7.0 15.0 ESP(%) 10.0 20.0 30.0 ① ② ③ 距離によって異なり, ⑤ (c)ESP (b)pHe (a)ECe ④ 均一ではないと考え られた. 図 4 土壌の化学特性 ECe については図 4 の(a)で示すように,③番の 65 cm までの層と②番の 100 cm までの層においては 塩類化の基準値である 4.0 dS/m に達していないものの,他の全層では基準値を超えており塩類化の進 行が確認された.土壌のソーダ質化の基準値は,pHe が 120 8.5 以上,交換性ナトリウム率(ESP)が 15%以上であるが, 100 ずれの層も基準値を下回った. 除塩効果の持続性の定量評価では,各地点の表面から 深さ 60 cm までの ECe の平均値が最も低かった②番で 1.5 dS/m であり,最も高かった④番で 8.7 dS/m であった.図 5 に示した減収が始まる 9 dS/m より低いこと事から,塩 類化による相対収量の減少はほとんど起こらないと言え る. 相 対 収 量 (%) ⑤番の 80-100 cm の層で ESP が 21.9%であった以外はい 80 60 40 20 0 8.710 1.5 0 20 30 ECe(ds/m) ECe(dS/m) 図 5 綿花の根群域の塩濃度上昇と相 4. まとめ 対象圃場では,流水客土後は綿花の収量を落とすこと 1981) 対収量の関係 (Carter, (Carter 1981) なくほぼ安定した栽培が行われており,流水客土の除塩効果の有効性を示していると言える.しかし ながら,綿花は非常に耐塩性の強い作物であり,この圃場では流水客土直後からは,より現金収入の 高いスイカ(比較的耐塩性)の栽培が行われ,2 年間だけで綿花に転作されている.この耕作履歴に 加え,土壌の化学特性の分析からも塩類化の進行が確認されたことから,流水客土の除塩効果は施工 直後では大きいものの,恒常的なものではないと考えられる.流水客土の除塩効果を持続的に発揮さ せるためには,実施にあわせた周辺排水システムの整備と,施工後のより適切な日常の排水(地下水) 管理が不可欠である. 今回は塩が作物の収量に及ぼす影響によって流水客土の除塩効果の持続性を評価した.今後は地下 水位と除塩効果の関係を明らかにすることや,継続的な観測によってより長期的な除塩効果を調査す ることを課題としたい. 参考文献 (1) 矢部陽介(2006):中国黄土高原下流域の塩害農地における流水客土,平成 18 年鳥取大学卒業論文 (2) 日本ペドロジー学会(1997):土壌調査ハンドブック,博友社,pp.51~56,72~75 (3) USDA(1954):Diagnosis and improvement of Saline and Alkali Soils, Agriculture Handbook No.60 pp.29 ~30 (4) E.Bresler B.L.McNeal D.L.Carter (1982):Saline and Sodic Soils principles-Dynamics-Modelings p.179 70 排水路 水口 1① 3③ 2② 5⑤ 300 m 図 22 土壌サンプリング地点 土壌サンプリング地点 図 表 1 土壌断面調査結果と透水係数 Table1 Results of soil profile survey and permeability test 層位 Ap C1 C2 2Apb 2C1 2C2 3C 深さ (cm) 16 26 36 48 65 80 100+ 71 土性 CL L L LiC SiC CL CL 透水係数 (cm/s) -4 1.2×10 -5 5.1×10 -5 4.0×10 -6 5.6×10 -6 1.1×10 -5 1.1×10 -5 4.7×10 130 m 4 ④
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