タイトル 1 救急車への視認性を高めるための反射材の使用についての考察 考察の背景 平 成 24 年 1 月 夜 間 、 近 畿 地 方 の 高 速 道 路 上 に お い て 、 民 家 で 発 生 し た 急 病 事象に対応するため緊急走行中の救急車と、この救急車の前方を走行し、何ら かの目的で進路変更を行った大型トラックが接触する事故が発生した。救急車 は動力、電力を全て喪失した状態で本線上に停車、これを認めた救急隊長(救 急救命士)は機関員、隊員に反射材付き安全ベストの装着を指示した後、機関 員に大型トラック運転手の負傷程度を確認する様に指示し、自らは隊員と共に 発炎筒による救急車等への衝突防止処置を行った(これにより後続車は事故車 両 を 避 け る よ う に 通 過 す る こ と が で き た )。し か し な が ら こ の 後 、救 急 隊 長 は 警 察本部への通報中、後方から接近した普通乗用車に撥ねられ心肺停止状態とな った。 この事故は、始めに救急車と大型トラックの接触事故、続いて後続車に救急 隊長が撥ねられる事故が発生している。このうちの後段の事故において、救急 隊長は危険を鮮明に認識できた筈なのに何故退避をしなかったのか、という極 めて強い疑問を感じたことが今回の考察の動機である。 考察の結果、現行の救急車に問題点を認めたためこれに対処し、また対処の 課程で新たに生じた課題に取り組んでいるので報告する。 2 先行研究 救急車がその存在を他者の視覚に示す手法としては、主に赤色灯が用いられ ている。赤色灯は視覚のみならず心理的効果をも生み出し、事実上、その効果 は十分に高いものと見なされている。しかしながら今回の事故を踏まえ、あら ためて現行の救急車を顧みると、その効果の高さ故か赤色灯を補完する手段が ほとんど講じられていないことに気が付く。前述の救急隊長は、灯火を失い暗 闇に沈む救急車を認め、後続車の接近による二次災害の危険を正確に予測し、 それが故に自らは退避せず、安全ではない位置での命を賭した作業に従事せざ るを得ないと判断したものと推察した。 では、赤色灯を補完し非常時には代替手段となり得るものとはどのようなも のであろうか。赤色灯をはじめとする灯火類はその動力源を車両に依存してお り、また機械装置であるが故に故障を内包する宿命にある。赤色灯を補完する ものとは、これら赤色灯の弱点に反するものであれば良いと仮定し、道路の保 安器具としても多用されている反射材に注目した。反射材は、ほぼメンテナン スフリーで動力や故障の心配が無く、ランニングコストもかからない。予め救 急車に貼り付けておけば操作や作業の必要も無く、赤色灯が消えた瞬間には既 に効果を発揮しているはずである。 先 進 消 防 本 部 の 使 用 例 を 把 握 す る た め 調 査 を 実 施 し た 。詳 細 は「 3 実 態 調 査 」 で述べる。 調査の結果、救急車に反射材を貼付する例は散見されるものの、意匠・造形 の一種として使用される例、若しくは他者の助言を受けつつ限定的に取り入れ られる例のどちらかであり、消防本部が安全確保の手法として主体的に導入し ている例は認められなかった。 このことは、単純に言えば反射材がほとんど普及していない事実を示してい るが、もう少し踏み込んで言えば、救急車における反射材の効果を裏付ける研 究はもとより、赤色灯には弱点があり反射材にはその弱点を補完する可能性が ある、という認識そのものに乏しい事を示唆しており、先行研究は存在しない と間接的に裏付けるものと考えられた。事実、現在までに、救急車を含め緊急 自動車に反射材を使用した場合の効果を研究した文献・発言は発見できていな い。 一方、大型の貨物車に「再帰反射材」と呼ばれる高性能の反射材を貼付し、 これを貼付していない車両との被事故率を比較した調査は欧米において存在し たので後述する。しかしながらこの調査は、他者から見て輪郭、車体の全体像 が分かり難い大型車の視認性を向上させるのが目的であるため、反射材を赤色 灯の補完手段と捉える本考察にとって、正に先行調査と言えるものでは無い。 3 実態調査 A、 B の 2 種 の 調 査 を 並 行 し て 行 っ た 。 A 調査は当消防本部が現有する救急車の写真に反射材の取り付けをイメージ した加工を施し、この画像を救急車の販売業者に示し意見を得るものである。 B 調査はインターネットを用いて救急車の画像を検索し、反射材を使用して いると思われる車両については、所有する消防本部・消防署に電話で問い合わ せ、取り付けの程度、経緯を聞き取るものである。 まず A 調査について説明する。 一般に救急車の外装デザインを含むぎ装については、発注者である消防本部 が仕様書を作成し、製造業者・販売業者はその仕様書に基づき車両を製造する とされている。しかしながら、救急車の納入が数年に一度となるような規模の 小さな消防本部は、ぎ装に関する技術的知識はもとより、関係法令を読み解く スキルを維持するのが難しい。このため納入の都度、販売業者の助言に強く依 存するのが常である。当消防本部もこの例に該当する。 当消防本部の救急車を図①②に示す。これに反射材を取り付けたデザイン案 を施したものが図③④である。この図③④を販売業者に示し回答を得た。 その結果、図③④の赤色、および白色の帯は、何れも国土交通省が所管する 「 道 路 運 送 車 両 の 保 安 基 準 第 38 条 の 3」に 抵 触 す る の で 認 め ら れ な い 、と の 回 答であった。 なお車両前面に関しては、調査の初期の段階から反射材は使用できないと判 明していたため、車体への取り付けを回避し、運転席・助手席内のサンバイザ ー に 貼 付 す る こ と と し た ( 図 ⑤ )。 サ ン バ イ ザ ー は 、 〇 車体ではなく車内にあること 〇 日差しが強い時に限り展開されるものであり、この際に反射材が他者の 目に触れても眩しく光ることはないこと 〇 夜間は格納されており他者の目に触れないこと から、 「 周 辺 が 暗 い の に も 関 わ ら ず サ ン バ イ ザ ー を 展 開 す る と 反 射 す る 」と い う使用形態は、通常使用時・未使用時は何ら障害を起こさず、非常時に限り意 図的・選択的に効果を発揮できるものと考えた。販売業者によると、サンバイ ザ ー は 車 体 で は 無 い の で「 道 路 運 送 車 両 の 保 安 基 準 第 38 条 の 3」で は 規 制 さ れ ないとの回答であった。 続いて B 調査について説明する。 インターネットで画像を検索したところ、反射材を使用していると思われる 救急車の画像を複数見つけ出すことができた。このうち「他に比し反射材を多 用しているように見受けられるもの」 「 取 り 付 け 位 置 等 に 何 ら か の 一 貫 性・規 則 性が感じられるもの」について、所有する消防本部・消防署に電話し、取り付 けの経過、実態を聞き取った。ここでは3例を挙げる。 1例目は反射材を多用していると見受けられたS消防本部である。当該車両 を図⑥⑦に示す。車両の前面、側面、屋根面に反射材による文字や線の標記が 認められる。電話で照会すると、反射材の使用については写真で判別できると お り で あ る が 、 当 該 車 両 は 平 成 19 年 に 納 入 さ れ て お り 、 近 年 に お け る 規 制 当 局の指導の結果、その後の車両では同様の標示は不可能になっている、との回 答であった。 2 例 目 は 政 令 指 定 市 を 管 轄 す る K 消 防 局 で あ る 。同 局 提 供 の 写 真 を 示 す 。図 ⑧ は 平 成 18 年 度 納 入 の 車 両 、図 ⑨ は 平 成 20 年 度 、図 ⑩ は 平 成 25 年 度 で あ る 。 図⑧では赤色の反射材が水平に引かれているが、図⑨では反射しない材質に変 更 さ れ 、図 ⑩ で は 反 射 材 の 水 平 線 が 復 活 し て い る も の の 色 調 が 変 更 さ れ て い る 。 一連の経緯について照会したところ、以前は使用を許されていた反射材が近年 は認められなくなり、規制当局の指導を受けつつ変更を重ねた結果であるとの 事であった。なお、反射材による文字の標記については後述する。 3 例 目 は 北 海 道・東 北 地 区 に 所 在 す る U 消 防 本 部 で あ る 。管 轄 内 人 口 約 4000 人 、 消 防 職 員 数 は 30 名 に 満 た な い 、 い わ ゆ る 小 規 模 消 防 本 部 で あ る 。 平 成 23 年に納入された車両である図⑪を示す。照会によると、反射材の使用に関して は現行法令における最大限の解釈を販売業者とともに追究した結果であるとの こ と で あ っ た 。「 道 路 運 送 車 両 の 保 安 基 準 第 38 条 の 3」 に よ る 再 帰 反 射 材 の 表 示例(図⑫)と比較すると、U 消防本部の救急車に引かれた反射材の線と非常 に強い相関が見られた。 なお、K 消防局の例と同じく文字については後述する。 4 検証 A 調査は、一の案を一の販売業者に照会したのみであるので、調査の量とし て不十分である可能性がある。しかしながら販売業者は、反射材の使用の有無 や可否について利害が生じないことから、その判断について中立性・客観性が 確保されていると言える。また調査が、調査者と所属する消防本部が自らでは 関係法令を読み解く力に乏しかったが故に販売業者に依頼されたものであるこ とから、調査を依頼する側のあらゆる思惑が、依頼される側の判断に影響を与 えた可能性はない。 B 調 査 の 対 象 と な っ た 画 像 は 、 平 易 な キ ー ワ ー ド (「 救 急 車 」「 反 射 」 等 ) を 基に検索ソフトがインターネット上から見つけ出したものであり、調査者にと っては(キーワードを決める以外は)無作為に抽出されたものである。また、 対象となった各消防本部は組織機構的に無関係であり、規模にも相違がある。 5 考察 2種の調査から、反射材の使用が制限される原因は、国土交通省が所管する 「 道 路 運 送 車 両 の 保 安 基 準 38 条 の 3」( 以 下 「 保 安 基 準 第 38 条 の 3」) で あ る らしいと判った。また以前は比較的自由であった標示が近年は認められなくな っている傾向も判明した。 で は 何 故 、 保 安 基 準 第 38 条 の 3 は 反 射 材 の 使 用 を 制 限 す る の で あ ろ う か 。 同条の細目を読み進めると、同基準における反射材の位置付けが理解できる。 条文そのものは長文であり、且つ条文特有の難解さ(厳密ではあるが回りくど い言い回し)を伴うため、ここに原文のまま引用すると論点を惑わす可能性が ある。下記に簡略して示す。 ① 定 員 が 10 名 以 上 の 車 両 か 、 こ れ に 似 た 形 状 の 車 両 に 使 用 す る 。 ② 車体の輪郭、車幅や車長を周囲に示すことを目的とする。 以上である。 ( 保 安 基 準 第 38 条 の 3 に お い て 反 射 材 は 、 反 射 材 の 中 で も 特 に 性 能 の 高 い 「再帰反射材」に限り使用を認めている。一般に再帰反射材とは「何れの角度 か ら 光 が 入 射 し て も 、そ の 入 射 し た 方 向 に 光 が 帰 っ て 行 く 性 質 を 有 す る 反 射 材 」 と定義されている) 反 射 材 の 効 果 は 、夜 間 の 外 出 を 思 い 浮 か べ れ ば 誰 に で も 理 解 で き る 筈 で あ る 。 にもかかわらず、何故、用途を厳しく制限する必要があるのだろうか。 再帰反射材の取扱業者のホームページに「車両用反射材の事故低減への有効 性についての研究報告」として下記の記載を認めた。 ① 「 暗 闇 ・ 薄 暮 状 況 下 で の ト ラ ッ ク 事 故 : ド イ ツ HUK - フ ェ ア バ ン ト 保 険 組 合車両技術オフィス(本部ミュンヘン)とドイツ連邦共和国立ダルムシュタ ット工科大学照明技術研究所の共同研究報告」 ②「車両の輪郭マーキング:ドイツ連邦共和国立ダルムシュタット工科大学照 明技術研究所の研究報告」 ③ 重 量 ト レ ー ラ ー に 取 り 付 け た 再 帰 性 反 射 テ ー プ の 有 効 性:米 国 高 速 道 路 交 通 安 全 局 ( National Highway Traffic Safety Administration ) 技 術 報 告 書 № DOT HS 809 222 」 この業者に照会したところ、上記②の「車両の輪郭マーキング FO 76/00 最終報告 ダ ル ム シ ュ タ ッ ト 技 術 大 学 照 明 技 術 研 究 所 」の 提 供 を 得 た 。ま た 同 時 に 上 記 ① ~ ③ の 全 て に 関 係 し た 記 述 の あ る 、「 TUV Rheinland Group 物車両の被視認性 重貨 委 託 番 号 SER-B27020B-E3-2003-Conspicuity-S07.28185 最 終 報 告 書 」( 欧 州 経 済 委 員 会 運 輸 / エ ネ ル ギ ー 総 局 の 命 令 に 基 づ く 第 三 者 認 証 機 関 に よ る 最 終 報 告 書 : 以 下 TUV 報 告 書 ) を 入 手 す る こ と が で き た 。 こ れ ら の 内 容 を 確 認 し た と こ ろ 「 1990 ~ 1991 年 に 行 わ れ た 、 再 帰 反 射 材 に よ る 標 示 を 施 し た ト ラ ッ ク 約 1000 台 と 標 示 の 無 い ト ラ ッ ク 約 1000 台 を 対 象 と した実験の結果、再帰反射材による標示を施したトラックの被事故件数は、標 示 の 無 い ト ラ ッ ク の 30 分 の 1 で あ っ た 」 と の 旨 の 記 述 を 認 め た 。 また、 「米国フロリダ州とペンシルバニア州で発生した事故統計に基づいて再 帰 反 射 マ ー キ ン グ の 有 効 性 を 調 査 し た と こ ろ 、年 間 の 死 亡 事 故 件 数 を 191~ 350 件削減できる」 ( 2001 年 の 報 告:全 米 に 換 算 し た 場 合 )と の 旨 の 記 述 を 認 め た 。 最 終 的 に TUV 報 告 書 は 「 重 貨 物 車 両 に 再 帰 反 射 マ ー キ ン グ を 取 り 付 け る こ とには妥当性が認められる」と結論付け、国際連合の下部組織である「欧州経 済 委 員 会 」に 勧 告 、同 委 員 会 は「 ECE R 104 ( 欧 州 経 済 委 員 会 規 制 第 104 号 )」 と し て 再 帰 反 射 材 を 使 用 す る 基 準 を 取 り 決 め て い る 。 こ の 「 ECE R 104 」 の 内 容 は 「 保 安 基 準 第 38 条 の 3」 と 酷 似 し て い る 。 国土交通省と国内自動車関係団体により構成され、国際連合を中心とした自 動 車 の 基 準・認 証 制 度 の 調 和 の 推 進 に 当 た る 団 体 に 照 会 し た と こ ろ 、 「 ECE R 104 は 1998 年 1 月 に 国 連 で 承 認 さ れ 、 国 内 で は 『 道 路 運 送 車 両 の 保 安 基 準 第 38 条 の 3』 と し て 2005 年 12 月 21 日 に 公 布 ・ 施 行 さ れ た 」 と の 回 答 を 得 た 。 これにより、 「 道 路 運 送 車 両 の 保 安 基 準 第 38 条 の 3」は「 ECE R 104」を 準拠したものであると結論付けられた。 やや遠回りであるが、海外で定められた基準を国内で準拠するに至った経過 について触れる。船舶や航空機と比較し、比較的限定された地域でのみ使用さ れる自動車は、従前は他国や他地域での使用を考慮する必要性が低く、基準や 仕様について製造国の使用実態に合っていれば良かった。しかしながら国際的 な 流 通 が 活 発 に な る と 、国 ご と に 異 な る 基 準 や 仕 様 に よ る 製 造 コ ス ト の 増 大 や 、 異なった認証手続きを要する煩雑さが問題となった。これを解消するため、欧 州経済委員会の下部に「自動車基準調和世界フォーラム」と呼ばれる組織が設 立され、国際的な基準の調和が図られることとなった。これにより、例えばあ る国で有効と認められた基準は、他の国では必ずしも再現作業等を要さずとも 有効と認めることができるようになった。再帰反射材については、同組織にお い て 1998 年 ( 平 成 10 年 ) に 基 準 が 定 め ら れ 、 本 邦 に は 2005 年 ( 平 成 17 年 ) に 「 道 路 運 送 車 両 の 保 安 基 準 第 38 条 の 3」 と し て 準 拠 さ れ た 。 欧州の規定が、いわば横滑り式に導入された経緯から、本邦における再帰反 射材は事実上、箱形の荷台を持つ大型貨物車を目的とするものとして特化して おり、他の車両への使用は禁止しているわけでは無いが考慮はしていない。現 状で救急車に再帰反射材を取り付けるとなると大型貨物車向けの基準を(強引 に)はめ込むしかない、と言うことである。大型貨物車向けの新たな基準が、 それ以外への適用を逆説的に制限してしまう副作用を引き起こしている、と表 現すべきかも知れない。A 調査の販売業者によると、同社が取り扱う救急車は 「乗用車ではなく貨物車を基に改造を施していること、箱形の荷台を持つ貨物 車 と 類 似 す る 形 状 で あ る こ と 」 を 根 拠 と し て 保 安 基 準 第 38 条 の 3 を 適 用 で き るとの論理であり、規制当局側もこれを問題視していないとのことであった。 B 調査の結果、以前は認められていた反射材による標示が近年は認められな く な っ て お り 、そ の 傾 向 は 平 成 18 年 以 降 に 現 れ 、保 安 基 準 第 38 条 の 3 が 公 布・ 施 行 さ れ た 平 成 17 年 に 近 接 す る こ と 、平 成 19 年 に 納 入 さ れ た S 消 防 本 部 救 急 車 に 比 し 平 成 23 年 納 入 の U 消 防 本 部 救 急 車 は 保 安 基 準 第 38 条 の 3 に 基 づ く 標示例に酷似するものであると判明した。 さらに、当消防本部がその例であるように、消防本部側に関係法令を読み解 く力が不足し業者の助言に依存している現状は、見方を変えれば、救急車を運 用する主体的立場である者が法令に盲目的に従わざるを得ない一方、法解釈に 長ける協力者には法令を改正しようとする動機が発生しない状態、と言い換え ることができる。加えて、各消防本部が別組織であり個別に対処していること が、法令の不合理を提議しこれを改正しようとする世論の形成に至らない一因 となっているものと考えられた。 な お 、こ こ で 反 射 材 に よ る 文 字 の 標 記 に つ い て 触 れ る 。保 安 基 準 第 38 条 の 3 は文字についての具体的な記述が無い。少なくとも現時点までの法解釈におい て、文字については禁止も許可も顕著化していない。K 消防局の救急車が、線 の変更は要したが文字の変更は殆ど見られないのは単にこのためと推定される。 このことは、車体前面には使用できない反射材がサンバイザーには可能であっ た 件 と 併 せ 、 保 安 基 準 第 38 条 の 3 を 救 急 車 に 適 用 す る こ と に 本 質 的 な 不 合 理 があることを裏付ける例であると考えられる。 6 結論 反射材の効果は一般に広く認められているのにも関わらず、救急車への取り 付 け を 拡 充 で き な い 直 接 的 な 原 因 は「 道 路 運 送 車 両 の 保 安 基 準 第 38 条 の 3」で ある。しかしながらこの基準は、主として大型貨物車に関する安全性を向上さ せる目的で施行されたものであって所要の効果を発揮している。この基準を救 急車に用いざるを得ない状態であることこそが問題の本質である。 大型貨物車向けとはいえ、再帰反射材そのものの有効性は欧米で証明されて いる。道路運送車両の保安基準を改正し、救急車への再帰反射材による標示を 拡充すべきである。このことは救急車のみならず、これを取り囲む交通環境、 ひいては社会全体の安全の向上に広く寄与できるものと考える。 7 今後の課題 法令の生い立ちを求め過去に遡上する過程で、欧米で精密、且つ大規模な調 査が行われ、その効果が証明された後に法令に盛り込まれたと判明した。法令 を改正するには明確な根拠が必要である。本邦における救急車への反射材の取 り付けについても根拠が必要であり、これは専門機関に委ねるしかない。消防 職員や消防本部がまず取り組むべきは、この調査を行う世論の形成であり、こ れには長期的な取り組みを覚悟しなければならない。 しかしながら、これを短縮できる手法があるかも知れない。 英 国 国 営 医 療 サ ー ビ ス の 救 急 車 を 示 す( 図 ⑬ )。ま た 、同 国 の 消 防 車 両 、警 察 車 両 を 示 す ( 図 ⑭ ⑮ )。 図⑬には反射材による黄と緑の特徴的な市松模様が施されているが、これは 単なるデザインに留まらない。まず、黄を基調として「緊急サービス機関」で ある事を広く示している。次に緑で、緊急サービス機関のうちの医療サービス を担う車両であると絞り込んで示す。消防車両は黄と赤のペア、警察車両は青 のペアでそれぞれの役割を示す。 反 射 材 は「 視 認 性 」に 効 果 的 な 手 段 で あ る の み に 留 ま ら ず 、 「 識 別 」の 手 段 と しても定義されているのである。 黄を基調としているのにも理由がある。反射材は白が最も反射性能が高く、 次いで黄であり、他の色はこの2色に比し輝度が劣る。反射材の「色」とは限 られた資源であると認識し、これを効果的に使い分けていると言える。 災害現場での有意性に焦点を絞り、関係各機関を横断し包括する画期的シス テムを構築した英国を調査し、その先進性を証明できれば、本邦においても大 規模な実験等を要することなく迅速に同様の仕組みを導入できる可能性がある。 英国の実態と今日に至る過程を調査すべきである。 参考文献 (1) 神戸市会都市消防委員会 2012 年「 高 速 道 路 上 で の 活 動 に お け る 安 全 管 理検討委員会」を踏まえての対応について (2) ダルムシュタット技術大学照明技術研究所 「車両の輪郭マーキング 最 終 報 告 FO 76/00」 ( 3 ) TUV Rheinland Group 2004 年 「 重 貨 物 車 両 の 被 視 認 性 SER-B27020B -E3-2003 -Conspicuity-S07.28185 ( 4 )国 土 交 通 省 最終報告書」 自動車基準認証国際化研究センター 際基準調和と相互承認の拡充にむけて」 委託番号: 2010 年「 自 動 車 の 国 図、表及び写真 図 、表 及 び 写 真 図① 図③ 当消防本部救急車側面 図② ①の後面 図④ 図①②に反射材の取り付けをイメージした加工を施したもの 図⑤ サンバイザーに反射材を貼付した状態 図、表及び写真 図⑥ S 消防本部救急車 図⑦ ( 図 ⑥ ⑦ は 「 QQ 指 令 」 ホ ー ム ペ ー ジ よ り 図⑥の右側面 特定を避けるため一部加工) 図⑧ 図⑨ 図⑩ 平 成 18 年 度 納 入 車 両 平 成 20 年 度 納 入 車 両 平 成 25 年 度 納 入 車 両 赤色の線が一旦廃止された後、白色に変更され復活している。 (図⑧~⑩は K 消防局提供 図⑪ 特定を避けるため一部加工) 図⑫ U 消 防 本 部 救 急 車 と 保 安 基 準 第 38 条 の 3 の 表 示 例 と の 相 関 (図⑪はU消防本部提供 特定を避けるため一部加工 ーエムホームページより引用) 図⑫は住友スリ 図、表及び写真 図⑬ 英国の救急車 図⑮ 英国の警察車両 図⑭ 英国の消防車両 ( 図 ⑬ ⑭ ⑮ は http://bos-fahrzeuge.info/よ り 引 用 )
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