D I 実 例 - 熊本県薬剤師会

くまもとDIニュース №252(2001.8)
D I 実 例
Q.1
ヘチマ化粧水の作り方および化粧品に関する法規制
薬局
毎年8月になると、必ず「ヘチマ化粧水」の作り方の問い合わせがある。過去には「くまもと
DIニュース」の1
6号(1
9
8
1年)と2
9号(1
9
8
2年)にとりあげているが、あらためてとりあげるこ
とにする。
●ヘチマ水の採取方法
ヘチマはウリ科の1年草である。まず、材料
の一つである新鮮なヘチマ水を採取する。ヘチ
マの茎を地上1mくらいのところで切り、熱湯
で消毒した容器の口の部分にそのヘチマの茎を
入れ、ほこりが入らないようにティッシュ等を
かぶせて、ヒモで固定して採取する。大体1lく
らい採水できるらしい。このままでも化粧水と
して使用できるが、腐敗しやすいので注意する。
ヘチマ水の成分は、硝石(硝酸カリウム)と、
一種のサポニンを含むと言われている。
●ヘチマ化粧水の作り方
ヘチマ化粧水は、各家庭で新鮮なヘチマ水と焼酎などを適当に配合して作られていたもので作
り方もいろいろとあるようだが、今回は製剤関連資料に掲載されているものを紹介する。昔の資
料やクチコミ情報では、保存剤としてホウ砂やホウ酸を紹介しているが、ホウ酸は化粧品の配合
禁止成分として指定されているので要注意である。
パラベン類は水に難溶性なので、あらかじめエタ
処方例
エタノール(95∼955
. %)
グリセリン
防腐剤(パラベン等)
香料(好みで)
新鮮ヘチマ水
100∼150ml
ノールに溶かしておく。新鮮なヘチマ水にパラベンを
50∼150ml
溶解したエタノールを加え、グリセリンを加えて十分
1g
にかき混ぜる。濾過して冷暗所に保存。家庭で作る場
2ml
全量1000ml
合にはコーヒー用のペーパーフィルター等を利用すれ
ばよい。長期間保存する場合には冷蔵庫に保管した方
がいいが、子供が誤飲しないように保存容器等には十分に配慮する。放置しておくと白濁を生じ
ることがあるが、これはペクチン質の析出によるもので、用時濾過すれば問題ない。
化粧品は薬事法によって規制されている。化粧品の製造には原則として「化粧品製造業」の許
可を取得する必要がある。つまり、ヘチマ化粧水を許可なく薬局で製造販売するのは薬事法違反
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くまもとDIニュース №252(2001.8)
となるので注意すること。
●パラベンとは?
パラベンとは、パラオキシ安息香酸エステル類の総称である。化粧品や医薬品の保存料として
広く使用されている。パラベン類の抗菌作用は、その酸に比べて静菌作用が強く、非常に広範囲
の微生物に有効である。アルキル基が大きくな
るほど抗菌活性は強くなり毒性は小さくなる。
pHの上昇で抗菌活性は低下する。サリチル酸や
安息香酸に比べてはるかに毒性が低く、皮膚刺
激や過敏症なども少ないといわれている。ただ
し、サリチル酸と構造が似ているためにアスピ
リン喘息の起因物質になる可能性がある。パラ
ベン類の場合、単独でなく併用することによっ
て相乗効果が現われ、より少量で防腐力を高め
ることができる。
防腐剤は全ての化粧品に対して、配合制限(1
0
0g中の最大配合量の範囲内)が定められている。
パラベン類を防腐剤として化粧品に配合する場合、合計量として1%までの使用が認められてい
る(紫外線吸収剤としては合計量として4%まで配合できる)
。
●化粧品による皮膚障害(化粧品皮膚炎)
1
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70年代後半以降、日本の化粧品メーカーは安全性を重視するようになり、わが国における化
粧品は低アレルギー・低刺激性になっており、化粧品による接触皮膚炎の頻度は昔に比べると減
少していてもおかしくないが、海外で購入した化粧品によるトラブルや、
「自然派化粧品」と称し
て配合されている正体不明の天然成分(植物エキス)によって起こるアレルギー性接触皮膚炎は
以前として報告されている。化粧品皮膚炎の原因として報告されているのは、基礎化粧品に使用
されている殺菌防腐剤や乳化剤、美容液等に配合されている保湿剤、増粘剤による刺激反応が多
い。
具体例を挙げると、つい先日、某化粧品会社の基礎化粧品を使用した女性から「顔がかぶれた」
と苦情があり、調べたところホルマリンが検出されたため東京都から回収指示が出されたケース
があった。防腐剤として海外で配合されているホルマリンは日本では使用禁止となっている。同
じ化粧品でも国が変わると法律も変わり含有成分が異なるケースが少なくない。海外で購入した
化粧品を使用する際にはいきなり顔に塗るのではなく、まず目立たないところで試してみること
をお勧めする。
●化粧品の全成分表示
化粧品については、平成1
3年4月1日から成分の承認制度を廃止する等の規制緩和が行われた。
この規制緩和は企業責任を前提としており、成分の安全性の確認と全成分表示等消費者への情報
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提供を求めている。つまり、現在、化粧品については原則として配合されている成分を全て表示
しなければならないこととなっている。
また、新たな化粧品基準として、配合禁止リストや配合制限リストであるネガティブリスト
(防腐剤、紫外線吸収剤及びタール色素以外の成分)と配合制限リストであるポジティブリスト
が定められている。化粧品原料は、配合禁止・配合制限リスト収載成分及び特殊成分(防腐剤、
紫外線吸収剤、タール色素)リスト以外の成分は、原則として企業の責任で自由選択ができるこ
とになっている。
●家庭で作る場合の注意事項
最近はエコロジーブームの影響もあってか、家庭でさまざまな化学製品を手作りするケースが
少なくない。そのために、従来利用されることのなかった化学薬品が家庭内に保管されることに
なり、それによる誤飲・誤食事故も増えている。つい先日も、重曹と間違えてホウ酸を天ぷらの
衣に混ぜて乳児に食べさせてしまったという電話相談が当センターにあったが、ホウ酸の乳児の
致死量は1∼2gなので医療機関で吐かせてもらうように回答した。
消費者が化学薬品を自ら取り扱う場合には、それら化学薬品の販売を行う薬剤師が保管につい
て十分な注意換気を行うべきである。例えば、飲み物と混同しやすいので、清涼飲料水のペット
ボトルや空き瓶等に薬品を移し替えて保管しないこと。家庭内では小児の手の届かない(高さ1
m以上)場所に鍵をかけて保管をすることなど、懇切丁寧に指導を行うべきである。
また、手作り石鹸を浴用石鹸としてバザーなどで販売したり、手作りの化粧水などを各地域の
物産館で販売しているケースがよく見受けられるが、それぞれについて化粧品製造業の許可の取
得が必要である。残念ながら、それを知らずに販売されているケースも少なくないようだ。許可
なく販売した場合には薬事法違反となるので、関係者には十分に注意をしていただきたい。
参考資料
1)
ヘチマ水の作り方,くまもとDIニュース,1
61
, 11
,9
81
2)
ヘチマ水を製剤する時の防腐剤、特にパラベンや安息香酸の溶解法について,くまもとDIニュース,291
, 31
, 982
3)
神奈川県薬剤師会,薬事情報Q&A19
9
01
, 99
0
4)
福岡県薬剤師会,薬局店頭におけるQ&A総集編,1
99
8
5)
木村雄四郎;ヘチマ汁の効用と化粧水の調製法,日本医事新報,30581
, 411
, 982
6)
化学物質による皮膚障害(1
6) 各論9.化粧品による接触皮膚炎(2),医薬ジャーナル,371
, 5
, 2
, 001
7)
柏木秀雄;練り歯磨製品にて喘息発作が誘発されたアスピリン喘息の1例,治療,801
, 02
, 856-28631
, 998
8)
中央書院,最新・化粧品成分用語事典,1
99
6
9)
日本化粧品工業連合会ホームページ, http://www.jcia.org/
1
0)
配合禁止成分を含有する化粧品の発見について(第2報), 東京都衛生局ホームページ,http://www.metro.tokyo.jp/
協力:熊本県健康福祉部薬務課
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