簡易化学反応を伴う二次元混合層制御の数値シミュレーション

日本流体力学会年会 2010
簡易化学反応を伴う二次元混合層制御の数値シミュレーション
Numerical simulation of controlled two-dimensional mixing layer with simplified chemical
reactions
○川越 真之, 慶大, 横浜市港北区日吉 3-14-1, E-mail: [email protected]
深潟 康二, 慶大, 横浜市港北区日吉 3-14-1, E-mail: [email protected]
Masayuki Kawagoe, Department of Mechanical Engineering, Keio University, Yokohama 223-8522, Japan
Koji Fukagata, Department of Mechanical Engineering, Keio University, Yokohama 223-8522, Japan
Numerical simulation of two-dimensional mixing layer with excitation mimicking the input of piezo-film actuator
is performed. By imposing excitation in some frequency, we investigate whether mixing is promoted or suppressed
using two measument indicators, vorticity thickness and concentration. We also investigate the region where the
present mixing control is valid in order to examine how far its effect continues.
1. 背景および目的
混合層は, 主流の速度差によって生じる最も基本的な流れであ
り, 工学的に重要な応用性を持つ. そのため, 混合層の混合度合い
を人為的に制御する手法の確立は, 例えば, 燃焼器において燃料
と酸化剤の混合を促進させ, 効率的かつクリーンな燃焼の達成を
可能にし, 環境・資源・エネルギー問題に大きく貢献する.
混合層の発達過程は, 上部流と下部流の合流部における流れの
状態に強く依存すると言われている [1] . 亀谷ら [2] はピエゾフィ
ルムアクチュエータを用いて擾乱と相関のない周期的撹乱を与
えた場合に混合度を制御しうる可能性を実験的に示し, 島田ら
[3]
の直接数値シミュレーション (DNS) によって, どのような撹
乱に対して混合層の発達過程が変化するのかが検証された. その
結果, 周期的撹乱によって混合を促進するだけでなく抑制するこ
とも可能であるという知見が得られた. しかし, 混合の抑制は, あ
る限られた領域内においてのみ成り立つことが懸念され, さらに
流下すれば混合が進む可能性がある. そこで本研究では, 島田ら
[3]
の DNS 解析の計算領域を拡大し, 下流の流れを調べ混合の促
進・抑制のメカニズムおよび適切な無次元化による統一的な説
明を探ることを目的とする.
Fig. 1 Velocity and concentration profile
∗
ここで, UH , UL はそれぞれ高速側と低速側の主流速度, Uref
は
非制御時の有次元流入速度分布である. 速度分布を Fig. 1 に示
す. このとき無次元流速はそれぞれ UH = 2, UL = 1 であり,
無次元速度差は ∆U = UH − UL = 1 となる. また, cA , cB は
上部と下部の無次元濃度, cP は混合により界面で生成する無次
元濃度である. c∗H , c∗L は上部と下部の一様な有次元濃度を表し,
|c∗H + c∗L | = 1 となる. レイノルズ数およびシュミット数は, 次の
ように定義する.
∗
∆U ∗ δω0
= 400
ν∗
∗
ν
Sc = ∗ = 1
D
Re =
2. 数値シミュレーション
2.1 支配方程式
本研究における流体の運動は連続の式とナビエストークス方
程式および化学種保存方程式によって支配されている.
∂ui
=0
∂xi
(1)
∂ui
∂(ui uj )
∂p
1 ∂ 2 ui
=−
−
+
∂t
∂xj
∂xi
Re ∂x2j
(2)
∂(ck uj )
1 ∂ 2 ck
∂ck
=−
+
− Rk cA cB
∂t
∂xj
ReSc ∂x2j
(3)
濃度については, Miyauchi & Tanahashi[4] を参考に, 平均濃度分
布を与えた. 無次元平均濃度分布 (図 1) を次式にそれぞれ示す.
cA (y) = 0.5 + 0.5tanh(2y),
cB (y) = 0.5 − 0.5tanh(2y) .
∗
ここで, 上式は速度差 ∆U ∗ と初期渦度厚さδω0
で無次元化され,
化学種保存方程式は, これらに無次元濃度を加えた 3 つのパラ
メータで無次元化されている.
初期渦度厚さ :
無次元濃度:
∗
∆U ∗ = UH
− UL∗
∆U ∗
∗
δω0
=
∗
∂Uref /∂y ∗ |x∗ =0
c∗
c= ∗
|cH + c∗L |
(8)
2.2 境界条件
流入境界 (x = 0) では, 平均流速分布とバックグラウンド擾乱
(以降, 擾乱) を重ね合わせて与えた. 無次元平均流速分布を次式
に示す.
Uref (y) = 1.5 + 0.5tanh(2y)
(9)
(k = A, B, P RA = RB = −R, RP = 2R)
速度差 :
(7)
(10)
(11)
混合層に制御を加えるための撹乱として, 式 (9) の代わりに次
式に示す, tanh 分布を周期的に振動させるような分布を流入面
(x = 0) に与えた.
(4)
(5)
Uctrl (y) = 1.5 + 0.5tanh(2(y − Asin(Ωc t)))
cA (y) = 0.5 + 0.5tanh(2(y − Asin(Ωc t)))
cB (y) = 0.5 − 0.5tanh(2(y − Asin(Ωc t)))
(6)
1
(12)
(13)
(14)
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ここで A は撹乱振幅, Ωc は撹乱の角振動数である. 本研究で
は, 撹乱振幅 A を 1 とし, 撹乱の角振動数を 3 ケース (Ωc =
0.2, 0.8, 1.6) 計算した. 境界条件は, 流出境界では対流流出条件
を,また計算領域上下境界では ∂u/∂y = 0, v = 0, ∂p/∂y = 0,
∂ck /∂y = 0 を設定した.
する様子が見られ, 混合が促進される様子が確認できる. 一方, (c)
ではブレイド領域と渦が重なり合い, 一続きの帯のような構造を
成している様子が見られる. 下流ではブレイド領域による出っ張
りが生じており, 混合が進んでいないことが伺える.
領域を拡大した結果, 撹乱振動数について新たな知見を得た
が, さらに下流においてもこの結果が成り立っているかは疑問で
ある. そこで, 混合層における 3 つの拡大過程について把握する
必要がある.
一般に混合層の拡大には 3 つの領域が存在することが分かっ
ている [1] . まず, 流下していた渦が, 流れに垂直な方向に並び始
め, 一対の構造を形成し, 層の厚さが急激に増す(領域 (I)). 厚さ
を一定に保ちながら, 一対の渦はペアリングによって, より大き
な 1 つの渦となる(領域 (II)). ペアリングが完了し, 混合層は線
形に発達する(領域 (III)). 領域 (III) に達した混合層は, それま
での流れの状態に関わらず線形に発達していくため, この領域で
は制御は一切意味を成さなくなる. したがって, 混合を促進ある
いは抑制するためには, 混合層が領域 (III) に至るまでに流れの
状態に差異を生み出さなければならない.
撹乱を加えた場合における 3 つの領域を確認するため, 運動
量厚さについて検討を行う. 主流方向長さに対する運動量厚さを
Fig. 5 に示す. ここで, R は R = (UH − UL )/(UH + UL ) で定義
されるパラメータである. また, f + = f x/Ū = x/λ (Ū は平均速
度 Ū = UH + UL = 1.5), θ+ = θ/λ である. (a) では Rf + = 0.9
まで厚さが急増し(領域 (I)), Rf + = 2.3 まで一定の厚さを保ち
(領域 (II)), その後ほぼ線形的に発達している(領域 (III)). した
がって, このケースでは既存の知見と一致しているといえる. 領
域 (I) が見当たらない他のケースでは, 特定周波数成分の持つエ
ネルギーの変化によって領域を特定することができる.Fig. 6 に
(c) における特定周波数成分の持つエネルギーの様子を示す.(c)
の場合, 撹乱周波数のピークが領域 (I) の終端と一致することが
過去の知見 [12] から知られている.x = 20 で撹乱周波数がピーク
となるため, Rf + = 1.1 まで領域 (I) であり, その後領域 (II) が
非常に長く持続していることが分かった.
すべてのケースで領域 (III) が見られることから, 混合層は既
に線形発達領域に達しており, 混合層制御の限界領域が明確に
なった. 生成物濃度の結果および拡大領域の考察より, (c) では混
合の抑制を達成したといえる.
2.3 計算手法
流れ場を DNS[5][6] を用いて解析した. 支配方程式の空間離散
化には二次精度の有限差分法 [7] を用いた. 時間積分には三次精
度省記憶型 Runge-Kutta/Crank-Nicolson スキーム [8] を, 時間分
割法にはデルタ型フラクショナルステップ法 [9] を用いた. 主流
方向に非周期的な領域での圧力ポアソン方程式は鏡像法と高速
フーリエ変換 [10][11] を用いて解いた.
∗
計 算 領 域 は 主 流 方 向 に Lx = 160δω
(Ωc = 0.2 の 場 合 の
0
∗
∗
み 640δω0 ), 主流と垂直な方向に −97.6δω
≤ y ≤ 97.6δω∗ 0 を
0
とった. 格子は主流方向 (x) は等間隔に 1024 点 (Ωc = 0.2 の場
合のみ 4096 点),主流と垂直な方向 (y) は不等間隔に 192 点の
スタッガード格子を用いた.
3. 結果および考察
渦度厚さを用いて混合度を評価する. 主流方向長さに対する渦
∗
度厚さを Fig. 2 に示す. ここでは, Lx = 160δω
までの領域で各
0
ケースの比較を行う. 角振動数 Ωc = 0.2(以下, (a))では, 渦度
厚さは急激に増加し, x = 80 付近のピーク値は, no control(以
下, (nc))の約 3 倍となった. しかし, その後は停滞し, x = 160
での値は (nc) の約 1.1 倍となった. これより (a) では, 上流から
x = 80 付近に至る領域内に限り, 混合が促進される可能性が考
えられる. 角振動数 Ωc = 0.8(以下, (b))では, 上流では (nc) よ
りも大きな値をもつが, x = 65 で (nc) の値を下回り, 下流では
(nc) の約 0.8 倍の厚さとなった. また, Ωc = 1.6(以下, (c))にお
いても, 同様の傾向が見られ, (nc) に比べて拡大が遅れているこ
とが分かった.
次に, 簡易化学反応によって生成した濃度を用いて混合度を評
価する. Fig. 3 に主流方向長さに対する生成物濃度の積分量を示
∗
す. 渦度厚さの場合と同様に, 主流方向長さ Lx = 160δω
までの
0
領域で比較を行う.(a) では, 傾きを増しながら混合は進み, 最終
的に (nc) の約 1.3 倍の値となり, 混合促進の効果を裏付ける結果
となった.(b) では, 下流にいくにつれ (a) に次ぐ勢いで値は大き
くなり, x = 160 では (nc) の約 1.2 倍となった. これより, (b) は
混合を抑制するのではなく, むしろ促進するという結果が判明し
た.(c) では, 一時的には (a), (b) よりも混合度合いが高くなる領
域が見られるが, その後の傾きは小さくなり, x = 119 で (nc) の
値を下回り, 最終的には (nc) の 0.85 倍となった. 混合を抑制する
効果があるのは唯一 (c) だけであった.
渦度厚さと生成物濃度を評価指標として混合度を評価した結
果, (b) において異なる結論を得た. この原因は, 渦度厚さの定義
に付随する問題と考えられる. 一つは, 擾乱のみの場合に比べて
x = 0 の時点で既に約 2.6 倍の差が生じていることである. この
差は渦度厚さの定義に依存するもので, 撹乱のケースに関係なく
存在する. もう一つは, 渦度厚さは速度の勾配より算出されるた
め, 混合層がわずかに上下する影響を敏感に反映してしまう点で
ある. この影響は上流部に見られる尖りに現れている. 厳密かつ
現実的に混合度合いを検証するには, 生成物濃度の方が相応しい
といえる.
撹乱ケース (a), (c) で見られた混合促進・抑制効果はその渦
構造からも明らかである.Fig. 4 に瞬時の生成物濃度の分布を示
す.(nc) と各ケースを比較すると, (a) では複数の渦が激しく混合
Fig. 2 Vorticity thickness
2
日本流体力学会年会 2010
Fig. 3 Integral amount of product concentration
Fig. 6 Energy of specific frequency (Case (c))
(nc)
4. 結論
先行研究 [3] の 4 倍以上の計算領域を用いた数値シミュレー
ション, およびエネルギーの分解を用いた詳細な分析により, 混
合層下流領域における流入撹乱の影響を検証した. 渦度厚さ・生
成物濃度・運動量厚さを解析した結果, 擾乱と同程度の波長で撹
乱したとき混合は抑制され, 擾乱に比べ十分長い波長で撹乱した
とき混合は促進することが分かった.
(a)
参考文献
(1) Kit, E. et al., J. Fluid Mech., 589, 479-507 (2007).
(2) 亀谷ら, 日本流体力学会年会 2008 講演論文集, 神戸, 2008
年 9 月 4 日-7 日, Paper No. 33044, 4pp.
(3) 島田ら,日本流体力学会年会 2008 講演論文集,神戸,2008
年 9 月 4 日-7 日, Paper No. 33033, 4 pp.
(4) Miyauchi, T. & Tanahashi, M. , JSME Int. J. , Ser B, 36
(1993), 307-312.
(5) Fukagata, K. & Kasagi, N., J. Comput. Phys., 181, 478-498
(2002).
(6) Fukagata, K. et al., Phys. Fluids, 18, (2006), Art.051703.
(7) 梶 島 岳 夫, 日 本 機 械 学 会 論 文 集 (B 編), 65, 1607-1612
(1999).
(8) Spalart, P. R. et al., J. Comput. Phys., 96, 297-324 (1991).
(9) Dukowicz, J. K. & Dvinsky, A., J. Comput. Phys., 102, 336347 (1992).
(10) Ethridge, F. & Greengard, L., SIAM J., 23, 741-760 (2001).
(11) Mitsuishi, A. et al., J. Turbulence., 8, 1-27 (2007).
(12) Ho, C. M. & Huang, L. S., J. Fluid Mech., 119 443-473
(1982).
(c)
Fig. 4 Distribution of instantaneous product concentration
Fig. 5 Normalized momentum thickness
3