迅速、効率的な電気泳動で 加速するタンパク質の機能解析

パーキンエルマートライアルレポート vol. 001
迅速、効率的な電気泳動で
加速するタンパク質の機能解析
寺脇慎一氏は、LabChip GXⅡシステムを活用して、結晶化を狙うタンパク質のドメイン解析を進めた。
その一部について紹介したい。
最適なフラグメントを探し出すツール
X線結晶構造解析によるタンパク質の立体構造決定では、
①純度の高い結晶化試料の調製、②結晶化、③X線回折
データの位相決定という3つのステップを順にクリアする
必要がある。第1のステップでしばしば起こる発現時や
精製途中におけるタンパク質の不溶化は、結晶化試料の
調製を困難にする重大な問題である。この問題を解決する
ために、発現領域や溶解度の高い溶液条件の検討が行われ
る。多大な労力と時間を費やす場合が多いのが実情だ。
寺 脇 氏 が 研 究 対 象 に 選 ん だBicaudal-D(BICD) は 、
N末端領域で分子モーターであるダイニンと相互作用し、
C末端領域では小胞膜などと相互作用することで微小管
寺脇 慎一 (てらわき しんいち) 氏
依存的な逆行性輸送を制御することが知られている。この
2006年3月
奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科
タンパク質を結晶化する上で、精製過程で不溶化すること
修了。博士(理学)。奈良先端科学技術大学院大学COE
が大きな問題点としてあった。研究を進めるにあたり、
研究員、科学研究費特別研究員、兵庫県立大学生命理学
LabChip GXⅡを利用してBICDの可溶性の機能領域を効率
研究科特任助教を経て、2011年4月より群馬大学工学部
的に同定することを考えたそうだ。LabChip
助教。
ユーザーの利便性を向上させる機能が大きく2つある。1つ
GXⅡには
は大量のDNA、RNA、タンパク質サンプルの電気泳動を
短時間で分析できる点。もう1つは泳動データがデジタル
データとして得られるので、異なる時に泳動したサンプル
間でも分子量比較を容易に行える点だ。この特長を活か
図1
BICD1のエラスターゼ限定分解の結果
LabChip GXによって、BICD1のエラスターゼ限定分
解サンプルの電気泳動をおこなった。1μg/ml〜
0.5mg/mlのエラスターゼ濃度条件で限定分解したと
ころ、赤矢印で示したような、エラスターゼによって
分解を受けにくい領域が複数観察される。
し 、BICDの 全 長 やN末 端 領 域 を エ ラ ス タ ー ゼ な ど の
メンバーにも利用してもらったところ、とても好評でし
プロテアーゼで限定分解したサンプルを網羅的に解析する
た」。寺脇氏のコメントはLabChip
ことで、結晶化に適したドメイン領域を迅速に絞り込もう
グ上だけのものでは無いことを裏付けていると言っていい
というのが寺脇氏のアイデアだ。
だろう。
タンパク質電気泳動の効率化
機能領域の解明に向けて
「実際に実験を行ってみて、LabChip
GXⅡの処理能力の
今回のLabChip
GXⅡの性能がカタロ
GXⅡを使用した分析によって、BICD1の
高さに驚きました。ゲルマットリックスを一度充填してし
N末端ドメインについては詳細な検討を行うことができた
まえば、その後384サンプルの分析が可能でした。そのお
そうだ。しかし、同定した断片領域を利用した結晶化で
かげで通常の電気泳動ゲルによる分析よりもはるかに効率
X線回折実験可能な結晶はまだ得られていないため、N末端
的で、コストパフォーマンスも良いことが実感できまし
た。データはデジタルフォーマットで出力されるため、
サ ン プル 間 の分 子量 比 較 が 容 易 に 行 え る だ け で な く、
マーカーから算出した分子量が迅速に表示されます
(図1)。これは、データを客観的に解釈する上で非常に
有効でした。今回は良い機会だったので、研究室の他の
ドメイン単独の構造解析には至っていないという。「これ
からさらに結晶化条件のスクリーニングを進めるととも
に、標的分子との複合体にも挑戦していきたいですね。
C末端ドメインについては、今回の検討では不溶化の問題
を解決することはできませんでした。この点に関しては
BICD1の全長の調製が可能になりつつあるので、やがて
は全体構造からC末端ドメインの機能的役割を明らかにし
※ 本レポートは、Bio GARAGE 08 2011年3月に掲載した記事を
パーキンエルマーのトライアルレポートとして再編集したものです。
BD130820-01
©2013
PerkinElmer Japan Co., Ltd. Aug. 2013