Seven Open Source Business Strategies for Competitive

Seven Open Source
Business Strategies for
Competitive Advantage
J OHN K OENIG
JOHN KOENIG is President at Riseforth and is
responsible for research
coverage of open source
and enterprise software.
He may be contacted at
jkoenig @ riseforth.com.
オープンソースは、ハードウェアやソ
IBM とHPのLinux関連サービスの年間売
フトウェアのベンダ、補足的なサービ
上 げ は 、 1 0 億 ドル を 超 える 。 O r a c l e
スまたは代替サービスのベンダに競争
は、"Unbreakable Linux"をスローガンに
力アップをもたらす大きな能力を秘め
掲げてLinux事業を積極的に推進し、両
ている。オープンソースソフトウェア
社に近い売上げを達成している。Linux
(OSS)の採用と成功に、Linuxは多大
の波に乗ろうと、米Computer
な貢献を果たしてきた。IBM、HP、
A ss o c i at e s や 米 Pe o p l e s o f t な どの 企 業
Red Hat、Oracle、最近のNovellなどの企
は、Linuxへのアプリケーション移植を
業がLinuxに資本を投下し、データセン
大胆なスケジュールで進めているとこ
ター運営などのエンタープライズアプ
ろだ。
リケーションへの Linux採用を本格化さ
せている。
このコラムでは、ライバル企業に差を
つけるための7つのオープンソース戦略
を解説する。(編注 :以下のリンクを
使って、それぞれの説明に直接移動で
きる。)
Copyright 2004 © by Riseforth, Inc. All rights reserved.
今日、ソフトウェアの個人ユーザや企業ユーザ
くの理由で、LinuxとOSSが採用される勢いには
は、コンピューティングやネットワーキングの
ますます拍車がかかっている。
ニーズを満たす手段を多くの選択肢から選ぶこ
とができる。OSSはその1つであり、選択肢の幅
が広いという理由で好まれることも多い。たと
えば、ソースコードを変更して、自社のニーズ
により適したソフトウェアを作成できる。OSS
を利用することによって、プロジェクトとアッ
プグレードを段階的にスケジュール化し、統合
を随意に決定し、OSSのコミュニティと直接意
見をやり取りすることが可能になる。プロプラ
イエタリなソフトウェアベンダの目標ではな
く、自社の目標に忠実な方向へプロジェクトを
具体化できる。OSSを利用すれば、少数のプロ
プライエタリなソリューションに限定されず、
多種多様なハードウェアベンダ、ソフトウェア
ベンダ、サービスプロバイダを選択肢に入れる
ことができる。こういったことや、その他の多
Linuxかオープンソースソリューションスタック
かは別として、オープンソースプラットフォーム
のアプリケーションとユーティリティには多く
の戦略がある。これらの戦略は、現行のマーケ
ティングやサービスに代わる、クリエイティブ
で高度な競争力を持つマーケティング、サービ
スを実現する。たとえば、オープンソースが先
駆けた技術が、後に業界標準になる場合もあ
る。オープンソースがもたらすマーケティング
意思決定のわかりやすい例として、企業や製品
の復活がある。たとえば、IBMは「パトロン」
戦略を駆使してオープンソースソフトウェアを
拡張し、新しい市場を確立したり、優勢なライ
バル企業に効果的に追いつこうとしている。
オープンソースの戦略には、理解しやすいもの
と、ソフトウェアセグメントの独占化や特許
Seven Open Source Business Strategies
2
ポートフォリオのレバレッジのように実践方法
に行った隣接層最適化の例を見ることができ
がわかりにくいものとがある。同様に、OSSか
る。
ら生まれる製品戦略やビジネスモデルが、古参
のソフトウェアベンダには受け入れにくいこと
も多い。Sun、BEA、Wind Riverといった企業
このケーススタディは、米Electronic Artsが人気
ゲーム"Sims"のオンラインバージョンをサポート
は、OSSによって自社のソフトウェアポート
するために信頼性の高い高速のサーバを必要と
フォリオの一部がコモディティ化される恐れが
したことに始まる。Oracleは、 Oracle9i Real Appli-
あるため、OSSが事業に影響を与えると感じて
cation Cluster(RAC)のLinuxバージョンを提案し
いる。
た。Oracleには、複数のオペレーティングシステ
ムをサポートしてきた長い歴史がある。事実、
次の図に、OSS戦略を利用して製品の価値を高
クロスプラットフォームの移植性があること
め、顧客をひきつけ、利益を上げている企業を
は、初期のOracleに競争力を与えていた。移植性
示す。個々の戦略やモデルについては、この後
があるので、特定のハードウェアやオペレー
で詳しく解説する。
ティングシステムのベンダに縛られずに済むと
いう安心感を顧客は得ていた。
最適化戦略
最適化戦略とは、Clayton Christensenの「モ
ジュール保存の法則」をオープンソースで表現
したものである。この法則をOSSに適用した場
合、ソフトウェアスタックの1つの層が「接着用
のモジュール」となり、両隣のソフトウェア層
の「最適化」を可能にする。この接着用モ
ジュール層はコモディティであり、利益をまっ
たくかほとんどもたらさないソフトウェアビジ
ネスである。たとえば、Linuxオペレーティング
システムがこれに該当する。Linuxのような接着
用モジュール型オペレーティングシステムに起
因する破壊は、Sun、Wind River、Microsoftなどの
他のオペレーティングシステムベンダの利益を
このプロジェクトを勝ち取るために、Oracleは自
社データベースソリューションにLinuxとサーバ
ハードウェアといったコモディティを組み合わ
せて、Oracle RACをLinuxクラスタに最適化し
た。こうすることで、より高い利益の得られる
価格をソフトウェアに設定できたのである。コ
モディティハードウェアで Linuxを使用する場合
と同等のパフォーマンスをOracle Unix(非RAC)
ソリューションのハードウェアで実現するとし
たら、200万ドル以上のコストがかかる。Oracle
はLinux RACソリューションを80万ドルで提供し
たが、これでもElectronic Artsにとっては130万ド
ル以上の節約になった。
デュアルライセンス戦略
侵食する。Christensenの法則下では、ソフトウェ
アスタック内で相互に依存する隣接層、最適化
デュアルライセンス戦略の下では、ソフトウェ
によってアプリケーションの価値が高められる
ア会社は、一定の制限があるがフリーで利用で
層、価格面で優位性のある層が勝者となる。米
きるソフトウェアと、商用配布権とより多くの
Mainstay PartnersによるROI評価に、Oracleが実際
機能を備えているが有償のソフトウェアを提供
する。この戦略では、フリーでソフトウェアを
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利用するには条件が付く。たいていは、変更し
一般に商用ライセンスでは、なんらかの単位に
たソフトウェアを配布する場合にソースコード
基づいて顧客に請求する必要がある。たとえ
の公開が義務付けられたり、フリーバージョン
ば、MySQLデータベースを商用利用すると、
を製品やソリューションのコンポーネントとし
サーバ単位で料金が発生する。MySQLの使用料
て商品化できなかったりする。この措置によっ
は誰が払ってもかまわない。配布元が払っても
て、サードパーティが元のオープンソースソフ
いいし、アプリケーションのユーザが払っても
トウェアのライバルとなるような製品を開発す
いい。Sleepycatデータベースの商用ライセンスの
ることが防止される。
場合、任意のプラットフォームで1つのアプリ
ケーションに限って使用が認められる。大方の
通常、デュアルライセンス戦略は統合された1つ
のライセンスの形をとらない。2つのライセンス
のどちらかを顧客が選べるようにするビジネス
ポリシーである。2つのライセンスとは、商用ラ
OEMライセンスとは違って、米Sleepycatのアプリ
ケーション限定ライセンスは、OEMライセンス
を選定し再配布するには便利で扱いやすい単位
である。 MySQLとSleepycatの両社は、サポート
イセンスと、たいていはGPL(General Public
される機能の数に応じて料金がスライドする階
License)である。では、デュアルライセンスベン
層式の料金体系を採用している。
ダにとって、料金をとらずにソフトウェアのラ
イセンスを与える動機は何だろうか。フリーの
デュアルライセンス戦略では、保守サービスを
選択肢があることは、さまざまな形で新しいビ
通じてコンサルタント料やトレーニング料を得
ジネスにプラスに働く。顧客に製品の存在を知
ることで、従来の商用ソフトウェアモデルの補
らせ、採用に踏み切らせるきっかけを広げた
完的な収益源を提供する。デュアルライセンス
り、市場での競争力を強めたり、ユーザの裾野
戦略は、大きなユーザ基盤を獲得できる。フ
が広がることでバグの発見やソフトウェアの改
リーソフトウェアが、多数ダウンロードされ、
善意見が増えたりする、といったことが期待さ
高い知名度を得ることは珍しくない。それとは
れる。
対照的に、実に多くのソフトウェア会社が、合
わせれば数10億ドルにもなる費用をこれまでに
興味深いことに、デュアルライセンスを使用す
るとアプリケーションの開発とテストを痛みを
伴わずに実行する道が開ける。開発者は、やや
こしい契約の手続きをとらずに、ソフトウェア
を試験プロジェクトで実地に試すことができ
る。ソフトウェアを内部的にフリーに使用でき
て、どこをどう変更しようが公開する義務がな
いことは、返金保証に優る好条件である。口う
るさく管理される試用ライセンス供与に比べる
と、競争力の点で非常に有利だ。
(そして今なお)投じ続け、ようやく一握りの
顧客(対価を払った顧客とまったく払ってない
顧客を含め)しか獲得できないといった現状が
ある。デュアルライセンス戦略は、市場に堅固
な地位を築くための強力な武器となる。たなざ
らし状態のソフトウェアプロジェクトがある多
くの企業やVCは、そういったプロプライエタリ
なソフトウェアのオープンソースとしての値打
ちを──特に、既に収益を上げている事業によ
り多くの見込み客を引き寄せる手段になるかど
うかを──再評価してみてもよいだろう。
Seven Open Source Business Strategies
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割合は4%に過ぎない。顧客ソリューションを提
コンサルタント戦略
1999年にClay Shirkyは、ある記事にこう書いた。
供するには、ハードウェア、ソフトウェア、保
守の統合が必然的に必要になる。ミドルウェア
統合は、コンサルティングビジネスにとってう
30年前、この国のあらゆるIT部門は、カスタ
まみのある分野の1つだ。顧客アプリケーション
ム製品の作成をビジネスとし、ソフトウェア業
のコンサルティングが顧客に最も近いベンダで
界はそれを前提として成長した。現在、オープ
あるシステムインテグレータや付加価値再販業
ンソースは、基本機能が無料で提供されるほぼ
者(VAR)によって行われることは、ますます
純粋なサービスモデルを提唱し、すべてのコス
多くなっている。これらのベンダは、OSSの長
トはカスタマイズに費やされている。
所を理解し、これまでMicrosoft、BEA、Oracleと
関 係 の あ っ た VA R や 再 販 業 者 の 目 を 幅 広 い
実際、1999年の米McKinsey Consultingの内部資料
O SSベースソリューションへと向けさせてい
によると、エンタープライズソリューション費
る。Red Hat、Novell、Sunが提供するLinux認定プ
用の30%がライセンス料で70%が開発費であ
ログラムをよりどころにして、JBossはOSSに対
る。2000年の米商務省のレポートによる
する顧客の不安感を取り除いている。コモディ
と、1962年以降、パッケージソフトへの投資額
ティサーバ、Linux、OSSデータベース、Webサー
が全ソフトウェア投資額の30%に達したことは
バ、ミドルウェアがClay Shirkyの予測どおりに採
ない。ということで、Linuxであろうとなかろう
用されれば、10X Softwareのようなシステムイン
と、ソフトウェアライセンスが情報技術(IT)
テグレータは、提示するソリューションに含ま
投資に占める割合は減少し、コンサルタントと
れるライセンスコストをほぼゼロに抑え、低価
サービスの占める割合が一貫して増加してい
格、高収益で最良の提案を顧客に提示できる。
る。
年間契約戦略
オ ープ ン ソ ース コ ン サ ル タ ン ト 業 の 米 1 0 X
S
o
f
t
w
a
r
e
は、MySQL、Apache、JBoss、Tomcat、Eclipseなど
Culpepperによると「サービスからの収益──保
の代表的なオープンソースソフトウェアを対象
は、ライセンスからの収益に比例して増加す
にエンタープライズ統合コンサルタントを提供
る。20年を超えると、標準的なソフトウェア会
している。同社の顧客には、ミッションクリ
社ではライセンスからの収益1ドルに付きサービ
ティカルなアプリケーションを実行する大手企
スからは2ドルの収益が得られる。」
守とコンサルティングの両方からの収益──
業が含まれる。BEA Weblogicのようなプロプライ
エタリなソフトウェアからオープンソースのソ
以下の表は、Novellに見られるこの傾向と、多く
リューションスタックにミドルウェアを移行す
のOSS企業で採用されている年間契約戦略を示
るプロセスを改良し促進するため、JBossと提携
している。Novellは有力なLinuxディストリビュー
を結んでいる。Red Hatによると、Linuxベースの
ションのサプライヤであるSUSEを買収したが、
ソリューションの収益全体にLinux自体が占める
その背景にこの戦略がある。この表には、Red
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Hat Linuxディストリビューションからの保守収
サービスを次のように定義する。「エンタープ
益 を 急 増 さ せ て い る R e d Hat の 業 績 も 示 し
ライズテクノロジサービスは、エンタープライ
た。NovellのNetWareとは違って、Red Hat Linux
ズコンサルティングとエンジニアリングのサー
ディストリビューションはライセンス収益をRed
ビスの収益および顧客トレーニングと教育の収
Hatにもたらさない。しかし、Red Hatの保守収
益から構成されている。」
益は明らかにNovellの保守収益を上回るペースで
増えている。SUSEを買収したおかげで、Novell
は先細りのNetWare保守収益を、急成長を見せる
Linux市場に基づく保守収益で補うことができ
る。また、200万台の老朽化したWindows NT
ベースサーバを、保守契約を含めLinux OSで更新
するチャンスもある。
NovellとRed Hatのほかにも、年間契約モデルが
利用されるオープンソース領域や市場は他にた
くさんある。たとえば、米Covalent
は、LAMP(Linux、 Apache、MySQL、PHP)と
呼ばれる定番の組み合わせのOSSを中心として
年 間 契 約 と サ ポ ー ト ビ ジ ネ ス を 構 築 して い
る。Sunは、 StarOfficeと、開発
者およびエンタープライズソフ
トウェアの多くを年間契約モデ
ルで提供している。同社は、年
間契約とメンバーシップが好ま
れることをよく知っているの
だ。米Lindowsは、オープンソー
スデスクトップアプリケーショ
ンを集めた大規模なライブラリ
を1年間利用できる年間契約を
提供している。米EJB Solutions
は 、 年 間 契 約 を ベース と して
右の表では、2004年第一四半期の決算報告書を
使って、Red Hatの財務内容(過去9か月)と
Novellの財務内容(過去12か月)を比較してい
ディストリビューションを100以上のオープン
ソースプロジェクトに提供している。
パトロン戦略
る。Red Hatの「年間契約」収益は、たいていの
企業が保守収益として報告するものに相当す
IBM のような企業が、あるいはどのような企業
る。Red Hatの四半期報告書には「基本年間契約
であれ、時間、エネルギー、開発者、コードを
は、エンドユーザに1年間の保守を提供する。年
オープンソース組織に無償で提供するのはなぜ
間契約の期間中、エンドユーザは、設定のサ
だろうか。そこには戦略的な理由がたくさんあ
ポートと、その間にテクノロジのアップデート
る。IBMがそうするのは、標準の採用を促進
およびアップグレードがあればそれらを受ける
し、膠着した市場にくさびを打ち込むためであ
ことができる」と書かれている。Red Hatでは
る。ある企業がオープンソースソフトウェアを
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独立した組織に寄贈する場合、その背後には、
時、Apacheは Webサーバ市場で約50%のシェアを
デファクトスタンダートと支持コミュニティが
占めていたが、Microsoftが着実にシェアを伸ば
そのソフトウェアの周辺に集まることを期待す
していた。IBMはApacheを採用することで、
る思惑がある。また、パトロン戦略を使うと、
Microsoftにブラウザプラットフォームの覇権を
ソフトウェアスタックの特定の層をコモディ
奪われたNetscapeの二の舞を避けた。Apacheの普
ティ化し、その層から収益を得ているライバル
及にさらに拍車がかかり、現在では Webサーバ
を排除することもできる。たとえば、 IBMは
市場の70%を占めている。IBMのパトロン戦略
Linuxの大物パトロン企業として、x86オペレー
は、MicrosoftによるWebサーバ市場独占を阻止す
ティングシステムをコモディティ化し、Microsoft
ることに成功したのである。
WindowsやSun Solarisに支払うサーバ費用を除去
することを目指している。そうすることで、ク
ラスタ化、可用性、プロビジョニング、セキュ
IBMは、4000万ドルを費やして開発したEclipse
コードをオープンソースとして公開し、統合開
リティ、管理ソフトウェアを通じてソフトウェ
発環境(IDE)の枠組みを再構築した。Eclipseは
アスタックの価値を高めるチャンスがIBMには
Linux、Java、またはWindowsをターゲットとする
訪れる。
開発をサポートできるので、IBMの Rationalツー
ルを簡単に統合できる標準クロス開発プラット
パトロン戦略を成功させるには、パトロンが
フォームがSunまたはMicrosoftのIDEに置き換わ
ソースコード以上のものを提供する必要があ
る見込みがある。
る。また、リーダーシップと一貫性も欠かせな
い。Mozillaは、この点で失敗したプロジェクト
IBMは独自のソフトウェアを開発するために
の例だ。1998年1月、ブラウザ市場の60%を握っ
E c l i p s e を 使 用 で き る が 、 そ れ を 別 と して
ていたNetscapeは、 Microsoftにシェアを奪われつ
つあった。1998年4月1日、Netscapeはソースコー
ドを一般に公開した。後にこれがMozillaに姿を
変える。明らかにMicrosoftは簡単な標的に狙い
を定めた。Mozillaプロジェクトからのリリース
は遅れ、バグが多発した。2004年1月に
は、Microsoftのシェアは95%に達し、Mozillaは
シェア2%にまで没落した。ソフトウェアをオー
も、EclipseにはIBM の活動の場を大規模な開発
コミュニティにまで広げる可能性がある。フ
レームワークをコモディティ化することによっ
て、IBMは一連の開発ツールの付加価値を高め
ることができる。開発プラットフォームに高度
に統合されたツールであれば、顧客はIBMにラ
イセンス料を支払ってそのツールを購入するだ
ろう。また、Eclipseはフリーなので、プログラマ
プ ン ソ ース コ ミ ュ ニ テ ィ に 寄 贈 す る だ け で
が教育の一部としてEclipseを学習する可能性が高
は、Netscapeブラウザの後継者を救うのに十分で
い。Eclipse IDEを習得したプログラマは、IBMの
はなかったのである。
Rational製品ラインとして提供される堅牢なソフ
ト ウ ェ ア ツ ール の 終 生 の 利 用 者 に な る だ ろ
Apache Webサーバも興味深い例だ。IBMは、社内
う。IBMには、大学ライセンシングプログラム
に熱心な支持者がいたが社外ではほとんど支持
を通じてビジネス開発を追求することもできた
されなかった自社Webサーバを断念した。当
だろうが、そうはしなかった。代わりに、コン
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ピュータサイエンスとエンジニアリング教育に
トを支援している。また、SGIは、同社の得意と
関わる者ならどこの誰でも利用できるオープン
する高性能コンピューティング市場をターゲッ
ソースソフトウェアに長期的に4000万ドルを投
トとした多数のオープンソースプロジェクトを
資した。Eclipseコミュニティグループのデータに
支援している。
よると、Eclipseのダウンロード数は1日あたり
10,000件を超え、450以上のEclipse関連プロジェ
クトが活動している。このような活動は、IBM
のRationalツールの見込み客を生み出すだろう。
しかし、他の大手ソフトウェアプロバイダと同
様に、IBMはこのオープンソースソフトウェアが
ホスト戦略
2 0 0 4 年 1 月 、 J a v a D e v e l o p e r ' s J o u rn a l の イ ン タ ビ ュ ー の 中 で 、 S c o t t M c N e alyは次のような予測を語った。
Rational、Websphere、DB2、Notesなどの自社製品
ソフトウェアライセンシングモデルとソフト
と競合しないように慎重に舵取りする必要があ
ウェア開発モデルは、徹底的に簡素化されるだ
る。比較的近い将来に、オープンソースはそれ
ろう。2003年は、多数の企業がサービスプロバ
らの領域を侵食し、IBMやその他の独立ソフト
イダモデルをようやく軌道に乗せた年だ。米
ウェアベンダ(ISV)は付加価値を提供する別の
Salesforce.com、eBay、Googleのような企業は、ソ
分野を見つけることを迫られると予想される。
フトウェアビジネスに身を置いてはいるが、ソ
フトウェアを販売してはいない。利用させたり
IBMは、どの領域のオープンソースを後押しする
か検討に検討を重ねてきた。社内には、Open
貸したりしているのである。2004年には、この
分野の活動がさらに活発化する。
Source Steering Committeeという組織があり、多く
のOSSイニシアチブを承認してきた。IBMのOSS
同様に、2004年3月のOpen Source Business Confer-
イニシアチブは、明らかにデスクトップ分野よ
enceでは、Tim O'Reillyが「オープンソースパラダ
り も サ ーバ 分 野 に 集 中 して い る 。 そ の 結
イムシフト」と彼が呼ぶものについて論じ、
果、IBMはSun Solarisオペレーティングシステム
「隠れたサービスビジネスモデル」を探すよう
を コ モ ディ テ ィ 化 し 、 デ ー タ セ ン タ ー で の
企 業 に 提 言 し た 。 そ の 例 と して 「 G o o g l e と
Microsoftサーバの採用を減速させることに成功
Amazonでは、Webアプリケーションとそのデー
した。ただし、
タをプログラム可能コンポーネントとして扱う
Microsoft
O f f i-
ceのデスクトップ独占を打ち破ることにはまだ
APIが使用されている」と指摘した。
成功していない。
オープンソースビジネスモデルを見ていくと、
ほ と ん どの 大 手 O E M ( O r i g i n a l E q u i p m e n t
サービスプロバイダがOSSから得られるものは
Manufacturer)とソフトウェアプロバイダは、パ
明らかに多い。GPLライセンスソフトウェア
トロン戦略をある程度まで実行している。現
を、制限なしに、変更したコードを公開する義
在、HPは、自社製品の展開やカスタマイズに役
務なしに、内部で利用できる。そのため、オー
立つツール、ユーティリティ、ソリューション
プンソースを利用しても、競争上のリスクは皆
を提供する60以上のオープンソースプロジェク
無に等しい。 GPLライセンスは、変更したコー
Seven Open Source Business Strategies
8
ドに対する知的所有権の保持と秘匿を認めてい
バが稼動しており、このサーバインフラストラ
る。ソフトウェアを配布しない限り、変更した
クチャを単なる検索をはるかに超える用途に活
コードを公開する必要はない。オープンソース
用することが計画されている。
を使用することで、コストを抑制でき、なおか
つ高度な信頼性を備えたエンタープライズ品質
2002年のComputerworldでは、IT化のリーダー的
のサービスを入手できる。
存在である金融サービス企業がLinuxサーバの配
備を急速に進めていると報告された。代表的な
たとえば、2003年6月に、Salesforce.comの
例が米E-Tradeで、同社はインターネットを基盤
CTO、Dave MoellenhoffはオープンソースのEclipse
とするオンラインバンキングとセキュリティト
とLinuxを利用していることをLinuxPlanetに明ら
レーディングのサービスで成功を収めている。
かにした。アプリケーションサービスプロバイ
ダ(ASP)であるSalesforce.comは、月単位のユー
ザ年間契約モデルに基づいてネットネイティブ
の顧客関係管理(CRM)アプリケーションを提
供している。金融アプリケーションとCRMアプ
こういった企業に共通するものは何だろうか。
それは、OSSをITプラットフォームの基礎とす
るホストサービス企業だということだ。
組み込み戦略
リケーションを提供する別のASP、米Netsuiteも
OSSを積極的に利用してサービスを顧客に提供
Linux は、組み込みシステム市場の半分以上で使
する企業である。
用 さ れ る オペ レ ー ティ ン グ シス テム で あ
る。TIVOなどのコンシューマ製品や、サーバか
Amazonを見てみよう。同社の売り上げは、毎年
数10億ドルに達する。AmazonはOSSの大口ユー
ザだ。 AmazonのSECファイリングに関する数年
前のCNETの記事によると、「コストの安いテ
ら携帯電話までの大小さまざまなデバイスで利
用されている。全世界で、多くの低コスト通信
製品にLinuxの採用が急速に進められている。
クノロジインフラストラクチャを利用するLinux
Linuxを採用することで、実用性と拡張性を備
ベースのテクノロジプラットフォームに移行す
え、最小限のコストですばやく実装できるプ
ることで」数百万ドルが節減されたという。
ラットフォームをハードウェアベンダが入手で
きることはよく知られている。新しいプロジェ
GoogleがLinuxとコモディティサーバを使用して
達成したコスト削減はさらに大きく、サーバイ
ンフラストラクチャのコスト削減は数百万ドル
に上る。Google創立者の1人Sergey Brinは、2002年
のLinuxWorldで行った基調講演の中で、Googleが
10,000台を超えるサーバでLinuxを稼動させ、ス
ピードと正確性で有名な検索サービスを通して
広告収入を得ていると述べた。うわさによる
と、現在Googleでは100,000台を超えるLinuxサー
Seven Open Source Business Strategies
クトを立ち上げるときに、ほとんど苦労せず
に、Linuxを使ってデザインと実行可能性のテス
トを始められる。Linuxは汎用ハードウェアで動
作するので、エンジニアリング、プロトタイ
プ、デモンストレーションのハードウェアコス
トは最小限で収まる。ハードウェアベンダは、
このような長所によって節減される予算を、顧
客にとって価値あるものを作る目的に回すこと
ができる。
9
ハードウェア全般を扱う能力もある。組み込み
Red
HatのCTO、Michael
T i e-
ア プ リ ケ ー シ ョ ン に 高 度 な リ アル タ イム パ
mannは、2002年5月にLinux Devicesの論説で、あ
フォーマンスが要求される場合、Linuxカーネル
る技術戦略を提唱した。その戦略でキーとなる
のは、プロプライエタリなオペレーティングシ
ステムを置き換える単なる製品として Linuxを使
う の で は な く 、 オ ープ ン ソ ース を プ ラ ッ ト
フォームとして見ることだ。「Linuxを無料でラ
イセンスできることは、状況をほとんどまった
く変えない」と彼は言う。ハードウェアベンダ
をリアルタイムOS下でタスクとして実行するこ
ともできる。 Linuxには、ドキュメントの整備さ
れたデバイスドライバがある。大規模な支援コ
ミュニティが存在し、多くのプロプライエタリ
ベンダから提供されるサービスよりも充実し
た、すばやい対応が可能だ。embedded Linuxの開
発ツールは、改良が進められている。
は、Linuxを含む標準とコモディティをプラット
フォーム戦略として利用するべきであり、実際
2003年12月、Business 2.0に、embedded Linuxと
に価値あるものを生み出すソフトウェアを開発
オープン標準の強力な潜在力を解説する記事が
することでこの組み合わせの地位を高める必要
掲載された。Linuxをコモディティハードウェア
がある。たとえば、セットトップベンダが真に
で実行することで、ネットワークデバイス開発
オープンなプラットフォームと標準を追求して
の米Neoterisは、付加価値ソフトウェアの開発に
いたとすれば、この分野はもっと有力なビジネ
集中的に取り組むことができた。Neoterisは、機
スになっていただろう。しかし、オープンソー
能の豊富な製品をライバルより数か月早く、よ
スを使えばただで手に入るソフトウェア機能を
り低価格で出荷した。この戦略は、2003年10月
開発するために、相変わらず企業は資金を浪費
に明白な形で報われることになる。設立3年目の
している。こういった企業は、サードパーティ
Neoterisは、米Netscreenによって2 億6500万ドルの
のプロプライエタリなプラットフォームを購入
株式と現金で買収されたのである。
したり、独自にプロプライエタリな開発プラッ
トフォームを作成したりすることにこだわる
が、そういったプラットフォームに際立った長
所があるわけではなく、顧客に訴える魅力にも
乏しい。
対照的に、Linuxなどのオープンソースソフト
ウェアが組み込み市場にもたらす価値は大き
い。Linuxには組み込みシステムに適した技術的
長所として、安定性、小さいフットプリント、
ネットワーキングがある。IPv6の実装によ
り、Linuxは多数の組み込みデバイスに対応でき
る。Linuxカーネルの安定性には定評があり、レ
結論:進むべき道を決める
オープンソースビジネス戦略を適切に計画する
方法はいくつもある。オープンソースは、収益
カーブをより早く上昇に向かわせ、製品により
高い価値を与え、ライバルの機先を制するため
の強力な武器となる。このコラムで紹介したビ
ジネスモデルには、従来からの商用ソフトウェ
アとよく似ているものと、新しいサービスやビ
ジ ネ ス を 生 み 出 す も の と が あ る 。
Amazon、Google、Neoterisなどの例は、Linuxやそ
の他のOSSが、厳密にはソフトウェアビジネス
イテインシは比較的低く、組み込みデバイスの
Seven Open Source Business Strategies
10
に属さない企業の飛躍的な成長や比較的短期間
での黒字化にも役立つことを示している。
経営者は、オープンソースビジネス戦略を理解
し、どれを採用するのが自社にとって都合がよ
いか判断する必要がある。投資家は、ポート
フォリオに加える企業を評価するときに、この
コラムで紹介したモデルを考慮に入れる必要が
ある。トレンドをいち早くつかんで手を打て
ば、競争に優位に立つことができる。このコラ
ムが、ソフトウェア業界を根本的に変えるオー
プンソースビジネス力学を理解するための明快
な序章となることを願う。
Seven Open Source Business Strategies
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