米国地方債1 における情報開示(ディスクロージャー)制度

「米国地方債 1 における情報開示(ディスクロージャー)制度」 ∗
東洋大学 国際地域学部
稲生 信男(いのう のぶお)
1.本稿の目的
証券の投資家への情報開示は、地方債に限らず、発行体が投資家の信認を獲得し、機動
的で安定的な資金調達を進めるうえできわめて重要である。どのように自治体財政・財務
2
の現状を投資家に適時かつ的確に伝達するか、つまり自治体経営に関する情報、なかで
も財政・財務状況に関する情報 3 を投資家に前広に伝え、発行体と投資家との間に存在す
る情報の非対称性を低減し、投資に伴う不確実性を抑制することが求められる。進展しつ
つある公会計改革の議論も、投資家サイドのニーズ、つまり地方債への投資に伴う不確実
性を低減させる「情報」の中身とは何か、といった議論がなければ、単なる計数整理の道
具で終わってしまうであろう。
この点で、日本の地方交付税制度のような財政調整システムを持たない、米国の州およ
び地方政府は、歴史的に早い段階から、市場を通して多数の小口投資家からも直接に資金
調達を行っている。地方債市場は順調な発展を遂げており、日本と比較して流通市場も活
況を呈しているといってよい。これはなぜか。地方債の利子が一般に連邦所得関連税の免
税措置の対象であることもあるが、発行体が市場との対話を進めている点も理由として指
摘できる。
市場との対話を進める道具の一つが、情報開示制度(ディスクロージャー)である。米
国地方債においては、情報開示が制度的に手当されたのは比較的最近であると同時に、開
示原則は証券業界の自主的ルールに基づくもので、直接に発行体を拘束するものではない
ものの、既に定着しつつある。 4
本稿では、第一に、米国地方債市場の状況を概観する。第二に、米国地方債の情報開示
ルールが導入された経緯を論じることで、規制当局が法律を制定して市場が効率的である
ための枠組みを作り、地方債市場における競争が完全競争的であることを目指した市場介
入(消極的開示)が行われていること、一方で、規制当局に対する州・地方政府サイドの
抵抗(積極的開示)が行われたことの両者が相まって、「結果的に」市場への情報開示を
強化する役割を果たしている点について論じる。第三に、投資家のリスクを低減すること
になるとして開示を要求される「情報」の内容について整理し、一方で、積極的な情報開
示が投資家間の情報格差を増大させるという新たな課題に論及する。最後に、日本の地方
債制度におけるリスク情報開示のあり方等について、若干の考察を試みる。
∗
本稿については、日本地方財政学会第 11 回大会において、横浜国立大学 隅田一豊 教授か
ら大変有意義なご指摘をいただいた。もとより、すべての誤りの責任は筆者にある。
1
2.米国地方債市場の現状
(注)図1∼図5については別紙を参照。
最初に、1980年以降の米国地方債市場の動向について素描しておく。まず起債額をみる
と、1980年以降、米国地方債は85年、93年、98年といったピークをつけて減少した後、現
在は最高水準の起債額を示している。【図1】 85年および93年の山は、連邦法人所得税等
の税制改正による影響が大きく、金融機関の地方債利子所得にかかる課税強化による地方
債市場の悪化等を危惧して、「駆け込み」的に起債額を増やしたことが原因といわれてい
る。一方、99年から2000年にかけては、順調な景気拡大を背景に州・地方政府の財政も好
転、起債額を減らしている。しかし、2001年以降の増加は、好景気が曲がり角にさしかか
ったことで、急速に自治体財政の状況が厳しくなったことによる。この結果、2002年にお
ける起債額は、長期債が3,584億ドル(1ドル120円換算で約43兆円。以下換算レートは同じ
とする)、短期債が723億ドル(8.6兆円)、合計が4,307億ドル(51.6兆円)といずれも過
去最高レベルとなった。保有額ベースでみても、2003年3月末には1兆7,706億ドル(212兆
円)に達している。
ここで、米国債券市場における地方債の位置づけをみる。【図2】 地方債は、債券市場
20.6兆ドル(2,500兆円弱)のうち、全体の9%弱を占める。もともと米国債券市場は多様
な商品がひしめく「激戦区」であり、地方債は連邦所得関連税が免税という点を武器に、
安定した地位を築いているとみてよい。
続いて、このようにほぼ安定した成長を続ける米国地方債市場を支える参加者を次にみ
てみる。【図3】 1980年以降の地方債保有者の割合をみると、保険(1980年20%→2002
年10%)ならびに商業銀行(37%→7%)がウェイトを大幅に落としているのに対して、ミ
ューチュアルファンドやMMFなどのファンド(投資信託)部門が急増(2%→36%)して
いることが見て取れる。これは、前述したように税制改正により銀行セクターを中心に地
方債保有メリットが減少したことによる。一方、後者のファンドの増加は、個人が節税メ
リットを生かして、ファンドを通じた地方債投資を増やしたためである。ファンドがすべ
て個人保有とは断定できないながらも、これまでの傾向を合わせ考えれば家計部門ととも
に過半の地方債は個人投資家によって消化・保有されているものと推測される。
ちなみに、日本の地方債保有者の構成比をみておくと、【図4】 保険・年金基金が全体
の4割を保有し、続いて銀行27%、郵便貯金16%と続く。米国と異なり、家計は2%にとど
まる。たしかに、郵便貯金等を通じて地方債を「間接的」に買い支えている面はあるもの
の、投資家が明確に地方債を「投資対象」と認識しているかどうかは疑わしい(ミニ公募
債は完全に浸透したとは言い難い)。
また、近時の米国地方債の取引量をみてみると、【図5】 起債増による残高の積み増し
のほか、安全な投資対象としての人気もあり、取引量は増加している。99年第1四半期に
は一日あたり77億ドル(1兆円弱)であったが、2003年第1四半期は118億ドル(1.4兆円)
と大幅に増加している。マクロ的には、発行市場とともに流通市場についても活況を呈し
ているといってよい。
2
図1 米国地方債の長短別起債額内訳および保有額推移
4,500
20,000
17,706
短期債
長期債
地方債保有額
4,000
3,500
3584
18,000
16,000
14,000
3,000
723
12,000 注)短期債とは13ヶ月未満の年限の
10,000 地方債をいう。左軸は、短期債と
2,500
2,000
8,000
1,500
6,000
1,000
4,000
500
2,000
長期債の発行額、右軸は地方債の
保有額。単位はいずれも億ドル。
(資料)Federal Reserve Systemおよび
Thomson Financial Securities Data
のデータをもとに作成
0
0
1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002
図2 米国における債券発行残高構成比(2003年3月末現在)
図5
米国地方債の一日平均取引量(四半期毎推移)
140
16.1%
20.2%
118.2
120
合計 20.6兆ドル
100
11.6%
12.2%
77.1
80
8.7%
7.7%
60
23.5%
40
20
地方債
マネーマーケット
1980
20%
26.2
48.5
1990
35.3
1995
60%
20.2
1.6
40.3
1985
40%
80%
37.3
8.4 10.3
17.8
30.7
100%
36.5
事業・公
益法人
8.0%
その他
金融機
関
1.6%
5.6 8.5
11.6 9.9 6.85.4
12.4 7.2 8.4 6.0
12.4 7.7
10.3
34.6
2002
36.1
5.4
一般政
府
4.1%
ファンド
保険
商業銀行
銀行個人信託財産
その他
注)ファンドはミューチュアル・ファンド、MMF、クローズド・エンド・ファンドを含む。
(資料)The Bond Market Associationのデータをもとに作成
3
郵便貯
金
16.4%
(資料)日銀資金循環勘定「金融資産・負債残高表」
(2002年12月末)より作成
Q4
2003年Q1
Q3
Q2
Q4
2002年Q1
Q3
Q2
Q4
家計
2.0%
銀行等
26.7%
保険年
金基金
41.1%
5.7
6.8
6.6
家計
2001年Q1
図4 日本の地方債保有者の構成比
6.7
31.3
2000
Q3
Q2
Q4
注)太い線は移動平均線。業者間取引および顧客
と業者間の取引の双方を含む。
(資料)MSRBのデータをもとに作成
6.5 8.3
27.0
Q3
(単位:
億ドル)
図3 米国地方債の保有者割合の推移
0%
2000年Q1
注)連邦債務のうち市場性のあるもののみ。
(資料)The Bond Market Associationの推計データにもとづき作成
(但し、原典は、Federal Reserve System,
連邦財務省, GNMA, FNMA, FHLMCなど)
Q2
0
1999年Q1
連邦エージェンシー
資産担保証券
1998年Q4
財務省証券 注)
モーゲージ関連
社債
なお、日本の一日あたりの地方債の平均売買高を試算してみると、1999年には1,000億円、
2000年1,560億円、2001年1,986億円、2002年2,378億円、2003年1∼2月2,353億円となってい
る。5 99年以降、増加基調にあるものの、米国の取引量に比べると2割程度しかなく、6 流
通量は相当に見劣りする状況にある。
それでは、税制の恩典もあって個人投資家の参加が着実に進展している米国地方債市場
の情報開示は、どのような経緯で取り入れられたのであろうか。次にみてみたい。
3.情報開示制度導入の経緯とフレーム
(1)証券取引規制と米国地方債市場(完全競争的な市場の実現か、州権の重視か)
米国証券取引市場における規制の前提としては、効率的市場理論(効率的市場仮説)の
存在がある。この仮説は、「市場と情報の関係に関して、市場における価格形成は情報に
よって決定されるという前提に立ち、情報が正しく価格に反映する市場こそが効率的市場
である」 7 と考えるものである。このため、市場が効率的であるためには、すべての情報
が市場参加者に開示されなければならない。
この理論の教えるところは、公正な証券(債券)価格の形成には、情報の積極的な開示
が不可欠という点である。この点で、米国の債券市場については、セオリーどおりになっ
ているかどうかは疑わしいところとされてきた。これは、債券市場は株式市場一般と異な
り店頭取引市場(over the counter)であることによる。 8 このために、SEC(証券取引委
員会)は、証券取引法をはじめとする種々の証券関連規制を通じ、株式市場と同様に、債
券市場への規制と介入を行っている。
つまり証券取引法の機能は、市場が効率的であるための枠組みを作り、市場における競
争が完全競争的 9 であることを目指しているとみてよい。投資家の投資判断に役立つよう
な情報開示制度を人為的に設けて、市場の公正な価格決定機能を発揮させ、効率的な資源
配分を達成しようとする。
それでは、債券市場のなかでも、地方債市場についてはどうであろうか。地方債に関し
ては、後に詳しく見るように、証券取引法の情報開示規制が適用されていない。連邦政府
と同様に、長らくSECによる証券取引規制の、いわば例外的な扱いが行われてきたところ
である。これは、表向きは地方債の債務不履行となる可能性が、社債など他の債券と比較
して相対的に低いという説明が行われる。たしかに、表1に示すように、1940∼1994年ま
での米国地方債のデフォルト率は0.5%にすぎない。しかし、これだけではなく、証券市場
を経由するという間接的なかたちとはいえ、連邦主義(federalism)を標榜しながらも州の
権限を憲法上明確に位置づけ、州の創造物(creatures of states)である地方政府の自治的活
動には干渉しない、という原理が支配しているためである。証券取引法は、直接的には州
あるいは地方政府に対して適用されていない。
4
表1
米国地方債のデフォルト率(起債件数ベース)
期間
デフォルト件数
長期債発行件数 デフォルト率
1940-59
79
40,907
0.19%
1950-59
112
74,592
0.15%
1960-69
294
79,941
0.37%
1970-79
202
77,620
0.26%
1980-94
1,333
130,092
1.02%
2,020
403,152
0.50%
合計
(資料)The Bond Market Association
それでは、SECはなぜ証券取引法上は州ならびに地方政府の情報開示義務を課していな
いにもかかわらず、間接的な方法で情報開示規制を持ち込むことになったのだろうか、ま
た州ならびに地方政府は、積極的な情報開示を目指す必要があったのだろうか。
(2) 証券取引関連法令・規則による開示規制−事実上の開示強制システム導入の経緯
米国証券取引法は、連邦債と同様に、地方政府の発行する地方債を情報開示規制の対象
としていない。具体的には、1933年法3条(a)項および1934年法3条(a)(12)号は、適用除外証
券(exempted securities)として地方債 1 0 を挙げる。
しかしながら、長らく規制の要否については議論 が行われてきたところである。特に1970
年代に入り、少数とはいえ、地方債取引業者が問題ある行為を行ったことが明るみに出た。
このほか、財政危機を宣伝して財政再建を円滑に進める、という政治的な配慮もあって地
方政府幹部から財務面などに関する過度にセンセーショナルな発言が行われたこともあっ
た。このため、市場における米国地方債の価格形成に歪みを生じた例もみられたようであ
る。これらを背景に、地方債への新しい規制ルールの導入により地方債への信認を回復す
る必要性が議論されるようになった。
こうして連邦議会は地方債市場への監 視を強めるようになり、1975年になって改正1934
年証券取引法を制定した。改正法は、地方債の取引業者にSECへの登録(register)義務を課
すとともに、地方債規則制定審議会(MSRB: Municipal Securities Rulemaking Board)1 1 設
立を促すこととなった。SECはこの改正法によって、地方債マーケットをコントロールす
る手段を得たわけである。
もっとも、SECが、発行体 である州政府や地方政府に対して「直接に」、起債に関する
さまざまな情報を提出させることは禁じられた。この点はMSRBも同様であり、MSRBが主
体となって「直接に」、発行体に対して情報提供を行わせることも禁じられている。あく
まで、SECの権限は、MSRBを通じて、地方債のブローカーやディーラーから発行体の情
報を提供させるという「間接的」な監視にとどまっている。
加えて、このような改正と相前後して、地方政府の財政危機 が表面化したことは、州政
府および地方政府が情報開示に取り組む姿勢を変化させるに至った。1975年のニューヨー
ク市におけるデフォルト(債務不履行)の危機が象徴しているように、1975年前後は地方
政府の厳しい財政運営が問題となった時期である。市場関係者は、投資家が発行体の財務
状況に敏感になったことを受けて、連邦規制当局の情報開示規制の強化を覚悟したといわ
5
れる。こうして、地方政府の財務担当者を支援する目的で設立されたGFOA(Government
Finance Officers Association) 1 2 は、1976年にディスクロージャーのガイドライン(Disclosur e
Guidelines for State and Local Government Securities)を策定したほか、1984年に設立された
GASB(Governmental Accounting Standard Board) 1 3 が「公会計」の面から財務情報の開示の
あり方について検討している。GFOAとGASB両者の対応は、一見地方債業界(ディーラー、
ブローカーのほか、会計士など)の動きにすぎないとも思われるが、これらと密接な関係
を持っている州ならびに地方政府サイドが、SECの動きを牽制するために、先回り的に積
極的な情報開示に打って出たものと思われる。
その後、SECは、こうした地方債業界等の自主 的なディスクロージャー強化の動きを見
つつも、1933年証券取引法と1934年証券取引所法に規定された詐欺防止条項の運用強化を
図るため、地方債における情報開示の「質」と「程度」の改善に影響力を行使するに至っ
た。こうして、1989年に取引所法規則15c2-12を制定し、情報開示を規則に盛り込み義務化
することに成功した。
前述のように、証券取 引関連の法規制によれば、地方債を発行している地方政府に対し
ては、直接情報開示を行わせるものでは「ない」。しかしながら、以上のような政治力学
とでもいうべきせめぎ合いの中で、結果的に地方政府や市場参加者は、情報開示への取り
組みを強化することを余儀なくされている。おそらくこの点は、SECの読みどおりといえ
るのではないかと考えられる。
結論的には、米国地方債市場に おける情報開示規制は、詐欺的行為の取り締まり、とい
った「消極的」な文脈から規制の枠組み作りが行われてきた点が指摘される。一方、近時
は、州政府や地方政府サイドが、より「積極的」に情報開示を目指す動きが目立っている。
図6
米国地方債市場の情報開示規制をめぐる力学
SEC
監督
間接規制
直接規制
GASB
協調・緊張関係
GFOA
参加
支援
支援
引受業者等
(証券会社他)
MSRB
参加
参加
参加
州政府−地方政府
6
(3)規則15c2-12と情報開示
次に、以上のような経緯を経て導入された情報開示規制の枠組みを概観し、最近情報開
示媒体として位置づけが強化されている、開示された情報の集積システムについて論じる。
①財務情報の開示
規則15c2-12は、1934年法の詐欺防止条項との関係で、地方債市場の引受業者に対して 、
発行体に関する情報開示を強制している。決算状況等の情報開示を行わない場合には、引
受を行うことはできない。
具体的には、発行体である地方政府ではなく、地方債の引受業者が発行体から開示書類
(expr ess disclosure document review)を入手して、購入希望者に頒布するよう求めている。
14
引受業者に課しているのは、連邦規制当局などが、地方政府の資金調達活動を阻害す
ることを防止するためであり、州政府と州のもとにある地方政府の権限を尊重する姿勢が
うかがわれることは前述のとおりである。また、目論見書(official statement) 1 5 の写し
を 、MSRBに送付する必要がある。1 6 同時に、引受業者に対して、継続開示を行うよう、
地方政府との間で委任契約( commitments)を結ぶよう義務づけている。民間企業などと同
様 に、発行開示ならびに継続開示(continuing disclosure)義務を引受業者に負わせるわけ
である。
引受業者の発行開示については、原則として、元本100万ドル(およそ1億2千万円)以上
で ある場合に要求される。引受業者は、起債する地方政府から最終目論見書(final official
statement)を入手し て、内容を精査(review)する必要がある。但し、私募引受の場合な
ど 、一定の場合には免除される。
現在は、企業と同様に、地方政府においても継続開示についての規制が強化される傾向
にある。現時点での修正規則15c2-12によると、引受業者は、残債がある場合には、発行体
である地方政府(あるいは債 務返済義務のある者)と連携し、財務情報と経営指標を定期
的に年次報告書中に記載し、重要な事象が生じた場合には告知を行う同意を発行体から得
る必要がある。
一方、情報開示にかかるコストについては、連邦政府、州政府および地方政府が補助金
を与えるような行為は望ましくないものとされており、 1 7 市場参加者の負担によるもの
とされる。もっとも、情報開示については、革新的かつ効率的な方法によって行われるべ
きものとされ、開示コストの削減に、政府部門と民間サイドの双方が協働することが唄わ
れている。効率的な地方債市場形成に向けて州政府および地方政府側も取り組んでいる様
子が窺われるところである。
②情報開示媒体としてのNRMSIR(nationally recognized municipal securities information
repository)
SECは、最近ではITを活用した情 報開示に積極的になっている。これは、1984年から試
7
験的に稼動させてきた電子情報収集開示システムEDGAR(Electronic Data Gathering,
Analysis and Retrieval system) 1 8 の浸透が大きな影響を及ぼしているものと考えられる。
地方債についてみると、NRMSIRと呼ばれる情報収集・蓄積スキームを構築し、以下にみ
るように投資家への情報開示の促進とリスク情報の迅速な周知を図っている。
まず、ディーラーやブローカーは、年次報告書等の継続開示書類をNRMSIRに対して提
出する必要がある。このNRMSIRにおける実際の情報蓄積と一般投資家に向けた情報開示
に関しては、格付け会社などが担当している。投資家は、インターネットのホームページ
等を通じて地方政府の財務担当部署にアクセスした場合、NRMSIRの担当企業にリンクさ
れている場合が多く、リンク先のNRMSIRの担当者から直接か、あるいはインターネット
を通じて、発行体の開示情報を入手できる。 1 9 ただし、若干の手数料を負担する必要が
ある。
また、起債した地方政府等は、信用リスクに関連する情報に関して、重要事項(11項目)
20
が一つでも発生した場合には、NRMSIRやMSRBに対してすみやかに通知する必要が あ
る。ここでい う重要事項は、ほぼ3グループに分類可能である。第一に、信用リスクに直
接 関連する項目としては、元本および利息の支払遅延(デフォルト)、格付けの変更、第
二に、信用リスクに間接的に影響を及ぼす項目として、財務上の問題による減債積立金
(debt service reserves)の取り崩し、弁済による代位、担保財産の売却やリース関連の 処理
など、第三に、商品性の変更により投資家側に影響を及ぼす項目として、繰上返済、税務
当局の免税適格に関する解釈(opinion)の変更、地方債保有者の権利の変更、契約解除条
件の成就(失権条項)、などがある。
4.情報開示の内容
SECあるいは自主規制機関であるMSRB(MSRBは強制力を発動することはできない)は、
情報開示という行為自体については規制してはいるものの、3.(3)②で述べた一部のリス
ク関連情報を除き、どのような内容あるいは項目を開示すべきかについては定めていない。
このため 、SEC自身は、目論見書(official statement)を作成するにあたっては、GFOAが
作成したガイドラインや全米地方債アナリスト協会(National Federation of Municipal
Analysts)が作成したガイドラインを参照することを公認している。
GFOAのガイドラインにおける主要な記載事項を、①地方債に関連する基本的な事項、
②発行体に関連する事項、③信用リスクに関連する事項に分類のうえ、整理すると、概要
は表2のとおりである。
まず、地方債に関連する基本的な事項としては、起債目的、資金調達計画、返済財源や
担保などがあげられる。いわば、当該地方債に関する仕様に関する情報が詳細に開示され
る。例えば、2003年6月に起債したイリノイ州の一般財源保証債(GO: General Obligation
Bonds) 2 1 の目論見書を例に説明すれば 、起債目的は、公共投資一般、高速道路建設、公
共交 通ならびに空港関連の設備、学校建設ならびに環境対策である。当該地方債はコール
オプションがついてい るため繰上償還条項の記載がみられる。また、起債に要する引受業
者 の手数料(underwriter’s discount)部分についても明記されている。
次に、発行体に関連する事項としては、発行体の地域の状況が記載されており、さらに
8
レベニュー債(Revenue Bonds)の場合には、事業体の組織や運営に関する詳細な情報が掲
載される。イリノイ州のGOでは一般財源保証債のために、前者の情報の記載がみられる。
第三の信用リスクに関連する事項としては、財務諸表、将来の債務償還見通し、リスク
補完スキーム(保証の有無と内容、保証会社)のほか、現在起こされている訴訟の状況 な
どの法的リスクなどについての状況が記載される。イリノイ州のGOで は、リスク補完スキ
ームとして、2010年から2020年に償還期限の到来する元本部分については、保証会社であ
るMBIA 2 2 の保証を付けている。この保証契約に基づく元利金の支払いは無条件かつ取消
できない旨の内容となって おり、目論見書中に明示的に記載されている。
情報開示の趣旨が、投資家の保有する、あるいは、保有しようとする地方債の償還確実
性の論証にあるために、信用リスクについての記載が重要な位置づけにある。具体的な書
きぶりなどについては、個々の発行体により微妙に異なっているところである。
上記のような、発行体と当該地方債についての開示された情報ならびにリスク情報(財
務リスク、法的リスク)をもとに、投資家は自己責任により地方債への投資(新発債、既
発債の購入)、あるいは売却による収益の実現(あるいは損切り)を図ることとなる。
表2
種
別
目論見書(official statement)の記載項目と内容
記載項目
開示対象の地
方債に関する
基本的な事項
売り出される証券について
の記述
発 行体に 関連
する事項
起債する地方政府や当該事
業(enterprise)に関する記述
信用リスクに
関連する事項
財政状況に関する情報
具体的な記述内容
売出し目的についての完全な情報、資金調達
計画、返済財源や担保( security )、当該地方
債の優先順位(priority)、call(繰上償還)条
項、履行方法、変動利付債か固定利付債かの
別
発行体の行政区域や提供する公共サービスの
レベル、人口的要素
(レベニュー債などの場合には、当該事業体
の組織・マネジメント・収入構造・経営実績
や今後の経営プラン、等)
一般に認められた会計原則および監査基準を
みたしている財務諸表、ならびに発行体ある
いは債務者の資金管理面での活動や運営の実
績
起債制限、将来の借入見込み、債務償還の見
通し
(保証会社などによる保証を 受ける場合)
発行体の要返済債務に関す
る記述
リ スク補完の内容と程度に
関 する情報
基本的な証拠書類に関する
記述
法的なリスク に関す る記述
契約証書、事務取扱会社との信託協定、起債
や利害関係人の権利を根拠づける議決
売り出される 地方債に重大な影響を 及ぼすも
のと考えられる裁判や行政上の手続き
格付けの概要、引受業者や財務コンサルタン
ト(financial advisors)に関する記述、追加的
な情報の入手に関する記述 など
その他の記述
(資料)GFOA, “Disclosure Guidelines for State and Local Government Securities,” 1991 をもとに作
成
9
5.情報開示における近時の課題
以上のよう に、 SECによる間接的な情 報開示 規制と、地方債の発行体側および引受業者
などブローカーやディーラー等の市場関係者の努力により、地方債をめぐる情報開示は充
実しつつある。
一方、情報開示 の積極化に伴う困難な問題 も 指摘されている。ここでは、規則15c2-12
の射程内および射程外の課題に分けて論じる。
まず、射程内の問題について。近時、規則15c2-12の情報開示規制を回避する行為が散見
されるとの指摘が ある。 2 3 第一に、継続的 な 情報開示義務に伴う事務量を削減するため
に、起債当初の開示情報を絞り込む行為がみられること、第二に、個別投資家からの非公
式な問い合わせへの対応をとりやめたこと、第三に、投資家から問い合わせがあった場合
にNRMSIRを紹介 し、NRMSIR が有する情報ス トックをもって開示情報としては足りると
すること、などである。この点については、射程外の問題としてあげるインサイダー取引
の問題にも関わる。
次 に、射程外の問題について。情報開示について、規則15c2-12の要求する内容以上の情
報 提供を行うかは、本来発行体の任意である。一般的には、新発債の円滑な消化と、流通
市場における売買の活発化により投資 家の厚みを増すものとして肯定的に捉えられている。
24
ここで問題は、個々の投資家の情報開示要請に応えることが、不公正な情報開示にな
らないか、という点である。いわゆるインサイダー取引の問題である。このため、第一に、
情報開示担当を継続的に行う担当者を置くべきこと、第二に、公正な情報開示(fair
disclosure)の理念 に照らし、原則的にはすべての投資家に対する情報開示を充実すべきであ
ること、などが指摘されている。 2 5
26
6.結論と若干の考察
本稿では、米国地方債市場における自治体財政・財務にかかる情報開示制度が、SECの
規制強化(消極的情報開示)と、これに対して自主・独立性を重んじる州ならびに地方政
府側の情報開示強化への取り組み(積極的情報開示)の相克のうえに発展を遂げている姿
を素描した。
次に、積極的情報開示が進むことが 、投資家間の不公平を呼ぶ可能性について論及した。
後者の点は、近時米国市場で特に問題となっているIR(Investor Relations)の抱える課題−
証券アナリスト偏重等による投資家ないし市場関係者の間における情報格差の拡大の問題
−にも関連する問題であると考えられる。
ここで、自治体における情報提供活動が、提供する相手に応じて、複雑な側面を持つこ
とに触れておきたい。
民間企業においては、納税者住民という地位を有する利害関係人は存在しない。あくま
で、投資家(広義には、事業資金などを融資する金融機関もここに含まれる)が存在する
のみである。投資家は、自ら行う投資の収益に対して自己責任を負うために、投資に伴う
不確実性を低減するように情報開示を求める。
10
一方、自治体の場合には、ごく単純化すれば、地方債を購入する投資家に加え、納税者
住民が存在することから アカウンタビリティ(説明責任)の問題を生じる。このため、納
税 者に対する「情報公開」の問題と、投資家に対する「情報開示」の問題という、異なっ
た「情報」の問題がある。
この点、GASBは、報告書「財務報告の目的」 2 7 において、財務報告の主要な利用者に
ついて、多様な情報利用者の中から3グループを選択している。第一に、市民グループ、第
二に、立法府お よび監督官吏、第三に、投資家および債権者(個人および機関投資家、債
権 者、都市証券引受業者、公債格付機関、金融機関など)である。 2 8 このうち、本稿で
とりあげた目論見書との関係でいえば、第三の投資家および債権者が対象である。GASB
は報告書において、投資家および債権者に対しては、利用者が当該債務を返済する能力を
評価する際に有益な資料となることを求めて いる。つまり、納税者住民(市民グループ)
に対する「情報公開」に必要な情報と、投資家に対する「情報開示」に対する情報には質
的量的に差があるとの認 識がある。この点は、今後の日本の情報開示のあり方を考えるう
えで銘記する必要がある。
最後に、日本の地方債制度における情報開示に関し、リスクについての考え方ならびに
情報開示制度の二点について、これまでに論じた 米国での状況を踏まえつついくつかの論
点を提示してむすびとしたい。
(1)地方債のリスク(信用リスク)
地方債における自治体財政・財務状況にかかる情報提供の目的の一つは(もう一つはア
カウンタビリティ 2 9 である)、投資家のリスク回避あるいは低減のための手段を提供する
ことにある。上述の効率的市場仮説の議論に照らせば、自治体財政・財務状況のうち、リ
スク情報を適時かつ的確に投資家に伝達することは、地方債の投資家層を拡大するための
必要条件となる。
ここでいうリスクとは「信用リスク」を指しており、具体的には債務不履行をいう。狭
義には元利金の支払い不能を指すが、期日どおり支払がなされないという広義の債務不履
行をも含む。これまでの議論をみると、行政側には、地方財政制度、地方債計画、地方交
付税交付金による地方財政の下支えにより、直接的には、地方財政再建促進特別措置法 3 0
により、地方債にはデフォル トがない、とする論調が多い。しかしながら、期日どおりの
元 利金の支払い(タイムリー・ペイメント)という観点からみると、広義のデフォルト、
いわゆる「リスケ」情報も重要である(外資系金融機関はこの点を問題とすることがある)。
正確に言えば、狭義ならびに広義双方のデフォルト・リスクがない、ということを投資家
向けにも開示することが望ましい 。民間銀行のクレジットラインの開示など、活発な議論
が 期待される。
( 2)地方債制度における情報開示
日本の地方債における情報開示における論点を提示すれば以下の通りであろう。
11
第一に、直接的には地方債に関する情報開示制度が存在しないことである。証券取引法
は、地方債証券を有価証券としながらも、国債証券と同様に、情報開示制度の適用除外証
券と定めている(2条1項2号、3条)。地方債が国債と同様にデフォルト・リスクがきわめ
て低いため、とされる。 3 1
第二に、したがって、現在のところ自治体によるIR活動は、制度的手当てのない形式で
の自主的情報開示とならざるをえない。「制度開示」が整備されないままに「任意開示」
が進む状況にある。
第三に、広がりつつある自治体のIR活動についても課題がみられる。IR自体(札幌市な
ど一部の自治体を除き)事実上はじまったばかりであり評価は難しいものの、IRの基本原
則や開示方針の提示がないうえに、開示内容にばらつきが大きい。 3 2 これは制度開示が
ないためであるが、何をもってIRとするかについて整理する必要があろう。
やや具体的に例をあげると、 3 3 経営方針の説明、行政改革などへの取り組み姿勢など
の定性情報もやや 多い。一方、投資家に必要な償還能力等の検証材料については情報が乏
し い。特に財務諸表については、連結対象となるはずの公社等の情報が盛り込まれないこ
とも多いことから実態がわかりづら く、かつ他団体との比較可能性に乏しい。ミニ公募債
に ついては納税者住民向けの広報としての色彩も強くなるとしても(「住民参加型」とう
たっているため)、今後広範な投資家層を呼び込むには、リスク情報の充実が重要と なっ
てこよう。
【脚
注】
1
米国における州は、憲法を持ち、立法、行政、司法の各機関を擁するところから独立した政
府であり、設置・改廃 が選択可能な、単なる「地方」政府ではない。ただ、地方債に関しては、
連邦財務証券などとの対比で、地方政府の発行するmunicipal securitiesと同一に分類されてい
る。証券取引法等の規制上の扱いも同様である。そこで本稿では、州政府と地方政府の発行す
る債券を全て地方債として総称し両者を区別しない。
2
碓井博士によると、「財務」という用語は地方自治法の用語であり、自治体の 資金調達や財
産管理の事務ないし作用を示す、とする。一方、自治体と国との間における、資産や財 産関係
を論じる場合、「財務」という用語は必ずしも適切でなく、自治体と国との関係を扱った「地
方財政法」といった法律もあると指摘される。そこで、日本の自治体における資金や財産に関
する問題を論じる場合には「財務・財政」と捉える。碓井光明『要説自治体財政・財務法(改
訂版)』、学陽書房、1999、p.3。なお、米国では、自治体(地方政府)と国(連邦政府)との
間における資金や財産をめぐる関係は、1985 年にレベニューシェアリングが廃止され連邦政
府が財政調整機能を放棄したような形となっており、連邦の「財政」の機能は、少なくとも地
方行政に関する限り低下しつつあるように思われる。おそらく米国の自治体の資金を巡る諸問
題のみをあげて論じる場合には、「財務」という用語が適切であろう。
3
一般に、「情報」は投資に伴う不確実性(リスク)を減少させるものと考えられている。金
子 郁容『「不確実性と情報」入門』、岩波書店、1990、p.110。
4
もっとも、「専門家およびきわめて洗練された投資者は読んでいるが、大多数を占める洗練
されて いない投資者は目論見書を読まずに投資決定を行っているのが現状である」。黒沼悦郎
『アメリカ証 券取引法』、弘文堂、2001、p.40。さらに、特定の証券に関する目論見書を作成
して 投 資家 に交 付 する とい う 証券 法に つ いて は、 そ の前 提が 誤 りで ある と する 見解 も あ る 。
12
Kripke, Homer, The SEC and Corporate Disclosure: Regulation in Search of a Purpose. New York :
Law & Business, inc, 1979.
5
日本証券業協会のデータに基づいて試算した。地方債(公募地方債と縁故地方債)の平均月
間売買高は 1999 年 22,007 億円、2000 年 34,314 億円、2001 年 43,691 億円、2002 年 52,311 億
円、2003 年 1∼2 月 51,770 億円である。これをもとに、 1ヶ月の取引日数を 22 日(1ヶ月 30
日、休日は 8 日)と想定し、取引日数を除して算出した。
6
前述したように、2003 年 3 月末の米国地方債の保有残高は約 212 兆円であり、一方 2002 年
度の日本の地方債残高は 194 兆円である。
7
岸田雅雄『証券取引法』、新世社、2002、p.156。
8
店頭取引市場の場合には、ディーラー(証券会社)が積極的に取引を仲介し、自ら在庫を抱
える等により取引の前提条件を整え、ディーラーと投資家との間で相対により取引価格を提示
する(これを「マーケットメイク」という)。このため、多数の需要者と供給者の存在、とい
う完全競争市場の要件をみたしていない。
9
完全競争市場では、参加者の保有する取引に関する情報に差はなく、取引コストが小さいた
めに、売買を行う際、当該市場で取り引きされる証券という財が もっとも効率的に配分される。
こうした完全競争市場の前提条件は、価格が需給原則によって決定される「流通市場」でもっ
ともよくあてはまる。一方、「発行市場」では、厳密には、(発行)価格が所与(発行会社が決
定)のものであるために完全競争の前提は成立しない。
10
正確には、米国政府または州もしくは地方政府の発行もしくは保証する債務証書で ある 。
デービッド・L・ラトナー、トーマス・リー・ハーゼン『米国証券規制法概説』、商事法務、2003、p.27。
11
MSRBは 1975 年に議会に より設置されたもので、州政府や地方政府などが資金調達を行う
ために必要な起債を行う場合に、引受や売買を行う証券会社や金融機関を規制する規則を制定
することを目的としている。当審議会は、地方債売買に関与する企業、州および地方政府など
から構成される。ニューヨーク証券取引所などのように、当審議会は自主規制機関であるが、
SECの監督下に置かれている。規則を制定する場合には、SEC の認可が効力要件となっている。
た だし、自主性を重 んじて、連邦政 府の助成金を受けることはな く、証券会社や金融機 関の 賛
助 金等をもとに活動を行っている。
12
GFOAは、1906 年に米国およびカナダの州、郡ならびに市の連邦政府および地方政府の財
務担当者を教育する目的で設立された非営利法人であ る。
13
GASBは、州および地方政府に適用される会計基準の設定機関である。1984 年に、財務会
計 財 団 ( FASB: Financial Accounting Standard Board) の も と で 、 前 身 の 全 米 政 府 会 計 審 議 会
(NCGA: National Council on Governmental Accounting)の任務を継承して設立された。
14
新発債の場合、目論見書を個々の投資家に対して送る必要がある(MSRB Rule G-32 を参
照 )。
15
“official statement”については、「公式説明書」と邦訳する場合がみられる。英文の民間企業
の目論見書は“perspectives”という単語が当てられている点に配慮するものと思われる。ただ、
投資家向けに財務情報やリスク情報を開示する資料であり 、実質的に意味するところは同じで
あると思 われることから、ここでは目論見書としておく。
16
MSRB Rule G-36, 1990.
17
GFOA, “Disclosure and Federal Regulation of the Market for Municipal Securities
(2003)”(http://www.gfoa.org/services/policy/gfoapp7.shtml#pptf21), 2003.6.16 取得。
18
EDGARの導入目的は、投資家や企業の利益のために証券市場の効率性と公平性を増進させ
るためである。伝達スピードが重要な(time-sensitive)企業情報を可能な限り早く公開する仕
13
組みとなっている。基本的には民間企業を対象とする。日本では、EDINET(証券取引法に基
づく有価証券報告書等の開示書類に関 する電子開示システム)が導入されている。
19
Nationally Recognized Municipal Securities Information Repositories (NRMSIRs)としては、
Bloomberg Municipal Repository、DPC Data Inc.、FT Interactive Data 、Standard & Poor’s J. J. Kenny
Re pository の4団体により運営されているデータベースがある。
20
これらは、“11 Deadly Sins”と呼ばれている。Mysak, Joe, Handbook For Muni-Bond Issuers.
Princeton, NJ: Bloomberg Professional Library, 1998, p.68.
21
元本は 4 億6千万ドルで、一部に保証が付けられている。
22
MBIA社は、格付会社であるスタンダードアンドプアーズおよびムーディーズよりAAAの
格付けを取得している。ちなみに、当GOの格付けは前者からAA、後者からAa3 の格付けを得
ている。
23
青木世一「米国地方債における情報提供活動に関する法 的要件と議論」『地方債月報 』、 第
266 号、2001.9、p.37。
24
こ れ は 、「 投 資 家 向 け 自 発 的 情 報 開 示 プ ロ グ ラ ム 」( Voluntary Disclosure and Investor
Relations Program)と呼ばれている。同上、p.35。
25
同上、p.36。
26
これに対して、第一に、地方政府は情報提供が自由であること(open record lawの存在)、
第二に、自治体職員が情報提供と交換に利益を受けることはありえないこと、第三に、自治体
自身が情報提供を認めていること、を理由に個別の問い合わせに答えることは問題が ないとい
う見方もある。同上、p.38。
27
GASB, Objectives of Financial Reporting (Concepts Statement, No.1). GASB, 1987.
28
隅田一豊『住民自治とアカウンタビリティ』、税務経理協会、 2001、p.134。
アカウンタビリティは、公会計規制の中心概念であり、市民の「知る権利」に対する政府
の義務とされる。この意味で、単なる住民向けの「説明 責任」という一面にとどまらず、政府
の行政行為をも規律する規範的概念である点には留意を要する。藤井秀樹監訳『GASB/FASAB
公会計の概念フレームワーク』、中央経済社、2003、p.2。
29
30
31
昭和三十年十二月二十九日法律第百九十五号。
岸田、 前掲書、2002、p.33。
32
IR 活動にあたっては、IR 活動の「基本原則」を定め、「開示方針」(ディスクロージャー・
ポリシー)を策定するこ とが必要である。例えば、基本原則には、経営者のコミットメント、
マイナス情報についてもプラス情報と同様に開示すること、投資家への公約は必ず実行する
こと、顧客本位の情報開示、といったことが盛り 込まれる。また、開示方針には、情報開示
の基準、開示方法、将来見通し、情報開示におけるインターネットの位置づけ、一定の期間
(これを沈黙期間 という)重要な情報(例えば決算情報)について沈黙すること、などが定
め られる。米山徹幸「制度開示から任意開示へ:
「IR の基本原則」「開 示方針」の策 定が出発
点 」『地方債月報』、第 275 号、2002.6、p.10。
33
紙幅の関係から、一般的な指摘にとどめる。詳細な分析は別稿に譲ることとしたい。なお、
一部の先進的自治体(東京都 他)には、これらの情報を相当程度の水準で網羅している例が
みられる。
14
【参考文献】
青 木世一「米国地方債における情報提供活動に関する法的要件と議論」『地方債月報』、第266
号、2001.9。
金 子郁容『「不確実性と情報」入門』、岩波書店、1990。
岸 田雅雄『証券取引法』、新世社、2002。
黒 沼悦郎『アメリカ証券取引法』、弘文堂、2001 。
隅田一豊『住民自治とアカウンタビリティ』、税務経理協会、2001。
デ ービッド・L・ ラトナー、トーマス・リー・ハーゼン『米国証券規制法概説』、商事法務、2003。
藤 井秀樹監訳『GASB/FASAB 公会計の概念フレームワーク』、中央経済社、2003。
米 山徹幸「制度開示から任意開示へ:「IRの基本原則」「開示方針」の策定が出発点」『地方
債月報』、第275号、2002.6。
GASB, Objectives of Financial Reporting (Concepts Statement, No.1). GASB, 1987.
GFO A, Disclosure Guidelines for State and Local Government Securities. 1991.1.
Kripke, Homer, The SEC and Corporate Disclosure: Regulation in Search of a Purpose. New York :
Law & Business, inc, 1979.
Mysak, Joe, Han dbook For Muni-Bond Issuers, Princeton. NJ: Bloomberg Professional Library, 1998.
The Bond Market Association, The Fundamentals of Municipal Bonds. New York, NY: John Wiley &
Sons, 2001.
このほか、文中でとりあげた団体のインターネットHPを参照した 。
15