グローバル・ウォッチャー

グローバル・ウォッチャー 2008/8/29
2008/8/29
グローバル・ウォッチャー
市場営業統括部
チーフ・エコノミスト
山下 えつ子
電話 03-3282-5879
米国の地銀・中小銀行の動向
米国の FDIC(連邦預金保険公社)は 26 日に今年第 2 四半期の米国の商業銀行および貯蓄金融
機関の状況について四半期報告を発表した。第 2 四半期のこれら FDIC 加盟銀行の純利益合計は
49 億 6 千万ドル(前年同期比▲86.5%)で 1991 年以来の低水準。貸倒引当金は 502 億ドル(前年
同期の 4.4 倍)で同期の金利収入・非金利収入の 31.9%相当と 1989 年以来の高割合となった。
FDIC は金融市場の不安定さや資産価格の
下落が金融機関の収益にネガティブな影響
をもたらしているとし、大手銀行のみならず、
中小銀行にも広く影響が及んでいると説明
している。また、ベアーFDIC 総裁は 26 日の
会見で「クレジット・サイクルはまだ底打ち
していない」との認識を示した。
300
10億ドル
延滞債権
%
対貸出残比率
250
3.5
90日以上延滞
200
3.0
30-89日延滞
150
2.5
100
2.0
50
1.5
0
銀行の不良債権は 2007 年後半から目立っ
4.0
1.0
Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2
て増加し始め、2008 年 6 月末時点では 30 日
2005
∼89 日延滞債権および 90 日以上延滞債権の
(資料)FDIC
2006
2007
2008
合計は FDIC 加盟銀行全体
で約 2750 億ドル、貸出残
高に対する比率は 3.4%と
10億ドル
商業銀行の30日以上延滞債権
250
なっている。
200
不良債権の中味を見る
商工業向けローン
個人向けローン
クレジットカード
商業用不動産
住宅ローン
150
と、2008 年 6 月末時点の商
業銀行の 30 日以上延滞債
100
権のうち 38.0%が住宅ロー
ン、次いで商業用不動産貸
出が 30.0%、商工業向け貸
出が 10.8%を占める。
不良債権の増加額では
住宅ローンが 2007 年 Q3 か
50
0
2007Q1 2007Q2 2007Q3 2007Q4 2008Q1 2008Q2
(注)その他は少額のため省略。
(資料)FRB
1
本レポートは情報の提供を目的としており、何らかの行動を喚起するものではありません。ここに示した意見は本レポート作
成日現在の筆者の意見を示すのみです。データや数値の抽出範囲・基準は任意で設定している場合があります。データ・資料等
については、数値等の誤りが含まれている可能性があります。本レポートに基づき、お客さまが投資のご判断をされた結果に
基づき生じた損害・損失について当行は一切責任を負いません。投資や資金運用に関する最終決定は、お客様ご自身で判断され
るようお願い申し上げます。
グローバル・ウォッチャー 2008/8/29
ら急増、商業用不動産貸出が 2007 年 Q4 から急増している。
ただし、四半期ごとの償
却額を見ると、クレジット
カードローン、個人向けロ
ーン、商工業向け貸出では
償却が早いことが窺える
商業銀行の不良債権償却
10億ドル
25
20
商工業向けローン
個人向けローン
クレジットカード
商業用不動産
住宅ローン
15
ため(住宅ローンも償却は
早いがそれを上回って不
10
良債権化が進行している)、
金融機関のバランスシー
トの質の劣化はほぼ全貸
出分野に亘るものとなっ
ていることが分かる。
5
0
2007Q1
Q2
Q3
Q4
2008Q1
Q2
(注)その他は少額のため省略。
(資料)FRB
こうした中、FDIC が指定する問題金融機関
(problem institution、FDIC は財務・経営状
況に基づいて金融機関を 5 段階にレーティン
グし、下 2 段階を問題金融機関としている)
は 6 月末時点で 117 行、2007 年末の 76 行、2008
年 3 月末の 90 行から更に増加した。破綻銀行
数は 6 月末で 4 行、本日時点では 9 行である。
問題銀行や破綻銀行の件数については、90
年には全銀行の 12.4%が破綻もしくは問題金
融機関にレーティングされていたことと比べ
れば現状は遥かに少ないが、いずれも 2007 年
後半から増えてきている。また、問題金融機
関としてレーティングされている銀行の1行
当たり平均資産金額が上昇していることから、
規模のやや大きい銀行で問題を抱えている銀
行が増加しているものと推測される。
破綻銀行 問題銀行
(%)
1990
382
1,496
12.4
1991
271
1,430
11.7
1992
181
1,066
9.0
1993
51
575
4.7
1994
15
318
2.6
1995
8
193
1.7
1996
6
117
1.1
1997
1
92
0.8
1998
3
84
0.8
1999
8
79
0.9
2000
7
94
1.0
2001
4
114
1.2
2002
11
136
1.6
2003
3
116
1.3
2004
4
80
0.9
2005
0
52
0.6
2006
0
50
0.6
2007
3
76
0.9
2008(6月末)
4
117
1.4
(注)(%)は全銀行数に占める破綻銀行と
問題銀行の合計の割合。
(資料)FDICデータより作成。
米国では資産規模 100 億ドル以上の銀行(商
業銀行および貯蓄金融機関)が約 100 行あり、銀行数では全体の 1.4%ながら、資産合計では 77.6%
の割合を占める。今年これまでに破綻した 9 行のうち 6 行は資産規模が 10 億ドル未満の小銀行、
一方、最大規模だったインディマックは資産規模が 320 億ドルだった。
2
本レポートは情報の提供を目的としており、何らかの行動を喚起するものではありません。ここに示した意見は本レポート作
成日現在の筆者の意見を示すのみです。データや数値の抽出範囲・基準は任意で設定している場合があります。データ・資料等
については、数値等の誤りが含まれている可能性があります。本レポートに基づき、お客さまが投資のご判断をされた結果に
基づき生じた損害・損失について当行は一切責任を負いません。投資や資金運用に関する最終決定は、お客様ご自身で判断され
るようお願い申し上げます。
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資産規模
1億ドル未満
金融機関数
3,304
39.1%
資産合計(10億ドル)
177
1.3%
(資料)FDIC、2008年6月末時点
1億∼10億ドル 10億∼100億ドル
4,473
558
52.9%
6.6%
1,333
1,465
10.0%
11.0%
100億ドル以上
116
1.4%
10,326
77.6%
合計
8,451
100%
13,301
100%
破綻処理の結果、6 月末の FDIC の基金残高は昨年末対比 72 億ドル減少して 452 億ドルとなっ
た。基金の不足の緊急性は低いが、7 月に破綻したインディマックに対しては 40∼80 億の処理コ
ストがかかると推定されており、FDIC は将来に備えて保険料の引き上げを検討している。
2008年の破綻金融機関 一覧
閉鎖日
1/25
3/7
5/9
5/30
7/11
名称
ダグラス・ナショナル・バンク
ヒューム・バンク
ANBファイナンシャル
ファースト・インテグリティ・バンク
インディ・マック
州
ミズーリ
ミズーリ
アーカンザス
ミネソタ
カリフォルニア
資産規模
5850万ドル
1億8700万ドル
21億ドル
5470万ドル
320億ドル
預金残高
5380万ドル
1億3600万ドル
18億ドル
5030万ドル
190億ドル
破綻処理コスト
560万ドル
NA
2億1400万ドル
230万ドル
40∼80億ドル
7/25
ファースト・ナショナル・バンク
ネバダ
34億ドル
30億ドル
8億6200万ドル
7/25
8/1
ファースト・ヘリテージ・バンク
ファースト・プライオリティ・バンク
カリフォルニア
フロリダ
2億5400万ドル
2億5900万ドル
2億3300万ドル
2億2700万ドル
7200万ドル
8/22
コロンビアン・バンク・アンド・トラスト
カンザス
7億5200万ドル
6億2200万ドル
6000万ドル
(注)FDIC資料より作成
現在発生している地銀・中小銀行の破綻や問題銀行化については、先に見たようなほぼ全分野
におけるローン債権の質の劣化が背景にある。証券化商品に関わる損失は投資銀行や大手商業銀
行を中心とした問題だったが、信用の質の劣化は全地域・全規模の銀行に及ぶ問題である。
ローン・ポートフォリオを銀行の規模別に見ると、大銀行では住宅ローンおよび商工業向けや
個人向けのローンの割合が全体平均よりも高いのに対して、地銀・中小銀行では商業用不動産、
建設・開発向け融資に偏りがある。(下表、銀行全体平均よりも割合が高い部分を網掛けした。)
銀行の資産規模別・ローン・ポートフォリオ
1億ドル未満
不動産関連
建設・開発
商業用不動産
複合住宅
ホームエクィティ
1∼4世帯住宅
商工業向け
クレジットカード
その他個人向け
67.7%
9.0%
19.7%
1.7%
2.3%
27.2%
14.5%
0.1%
7.4%
全体
100.0%
(資料)FDICより作成、2008年6月末時点
1億∼10億ドル 10億∼100億ドル 100億ドル以上
77.5%
15.1%
26.9%
3.1%
3.8%
25.6%
13.4%
0.3%
4.7%
100.0%
72.5%
15.9%
24.3%
4.3%
4.4%
22.1%
15.6%
3.0%
4.9%
100.0%
54.8%
5.2%
8.3%
2.3%
9.5%
28.0%
20.1%
6.1%
9.7%
100.0%
合計
60.0%
7.8%
12.7%
2.6%
8.1%
26.9%
18.7%
5.0%
8.4%
100.0%
3
本レポートは情報の提供を目的としており、何らかの行動を喚起するものではありません。ここに示した意見は本レポート作
成日現在の筆者の意見を示すのみです。データや数値の抽出範囲・基準は任意で設定している場合があります。データ・資料等
については、数値等の誤りが含まれている可能性があります。本レポートに基づき、お客さまが投資のご判断をされた結果に
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銀行の規模別かつローンの種類別に各不良債権比率を見ると、資産規模 10∼100 億ドルの中規
模銀行の建設・開発向け融資は 7.0%が不良債権化(延滞 90 日以上)しており、ローン全体では
2.21%が不良債権、と銀行の規模別では最も高い不良債権比率である。小規模銀行では商業用不
動産、複合住宅、また商工業向け貸出において全体平均を上回る不良債権比率となっている。
銀行の規模別・ローン種類別の不良債権比率
資産規模
1億∼10億 10億∼100 100億ドル以
ドル
億ドル
上
不動産全体
1.65
1.97
2.67
2.90
建設・開発
3.76
5.29
7.01
6.03
商業用不動産
1.57
1.21
1.05
1.22
複合住宅
1.95
1.43
2.06
0.86
ホームエクィティ
0.70
0.67
0.76
1.40
1∼4世帯住宅
1.31
1.21
1.94
3.58
商工業向け
1.51
1.24
1.05
0.84
クレジットカード
1.15
1.43
2.10
2.42
その他個人向け
0.94
0.58
0.48
0.97
全体
1.48
1.75
2.21
2.06
(注)不良債権は90日以上延滞債権。比率は各貸出債権に占める不良債権の割合。
(資料)FDIC、2008年6月末時点。
1億ドル未満
合計
2.70
6.08
1.18
1.20
1.31
3.11
0.90
2.38
0.91
2.07
これらから地銀・中小銀行が抱える問題は次のようなことである。
(1) 地銀・中小銀行においては建設・開発、商業用不動産へ貸出ウェイトが高く、しかも特に
中規模銀行では、恐らく大銀行との競合で融資拡大を急いだためか、それらの不良債権化
が平均以上に高い。先に見たように、建設・開発向け、商業用不動産融資は償却されずに
バランスシートに残っている場合が多いと思われる。
(2) 小規模銀行でも商業用不動産、複合住宅ローンで(1)と同様の問題があるようだ。また、
地場の一般企業および個人向けローンに強く、景気減速の影響を受けた不良債権の増加が
進行中と見られる。
FRB のシニア・ローン・オフィサー・サーベイでは、今年に入ってからローンの種類に関わら
ず銀行の融資基準が厳しくなっている。景気減速に伴う銀行の不良債権の増加は融資基準の厳格
化や貸出量の縮小などを通じた信用収縮(クレジット・クランチ)によって景気を更に減速させ
る可能性がある。地銀の動向はそれ自体の持つ問題と同時に、今後の地域経済にも影響を及ぼす
恐れもあるため、注目を要する。
(了)
4
本レポートは情報の提供を目的としており、何らかの行動を喚起するものではありません。ここに示した意見は本レポート作
成日現在の筆者の意見を示すのみです。データや数値の抽出範囲・基準は任意で設定している場合があります。データ・資料等
については、数値等の誤りが含まれている可能性があります。本レポートに基づき、お客さまが投資のご判断をされた結果に
基づき生じた損害・損失について当行は一切責任を負いません。投資や資金運用に関する最終決定は、お客様ご自身で判断され
るようお願い申し上げます。