おばあちゃんの家が消えた! 8年前の秋に隣町の南外れの一角にホームセンターがオープンした。オープン記念セールがあった ので私たちも出掛けた。駐車場に車を止めると、駐車場と接している道路向こうに、昔、故郷に住ん でいた頃の我が家に似た家が目に止まった。H21年度彩の国いきがい大学伊奈学園に一年制課程専 科コースが開設されました。木造の平屋建てで外壁は板張り、窓枠は木枠でそこには格子も付いてい る。廊下つきの縁側の木製のガラス戸。屋根は古びたスレート瓦で一部トタン屋根。その屋根には傾 いだ古びたテレビアンテナ取り付けられている。西側へ細長い家なので、狭いながら庭も奥行きがあ る。その後、ホームセンターに来る度にどんな人が住んでいるのか関心をもって眺めていた。いつも 静まり返っているのがこの家の常である。 ある時、偶然にもその家の隣人が回覧板を持ってきて、おばあさんと話している光景を目にして、 住人はおばあちゃんであることを知った。3年前、その看板を届けたその人の家も取り壊されて今は 空き地となり、売り地となっている。おばあちゃんの家の周りは空き地となり、古びたおばあちゃん の家のみが目立つようになった。それ以来、おばあちゃんが元気なのか気にするようになった。昨年 7月のアナグロ放送終了する直前に、おばあちゃんの家の屋根にある古いテレビアンテナもデジタル 放送用の新しいテレビアンテナに取り替えられていたので、おばあちゃんは元気に暮らしているのだ と安堵したことを覚えている。 毎週一度はホームセンターに来るので変った様子は無いかと、おばあちゃんの家を目にしている。 3月下旬に入ってから来た時にびっくりしたのは、古びたおばあちゃんの家を重機で解体するのでは なく、大工さんが手作業で解体し、それを廃材としてトラックに積み込まれているではないか。私は 思いきってトラックの運転手に聞いて見ると、「96歳の一人暮らしのおばあちゃんが亡くなり、築 50年の古びた家に住む人もいないので解体して更地にして地主に返すようだ」と教えてくれた。 築50年と言えば、おばあちゃんが 油の乗りきっている40代の時である。 新しい家の付近の一帯は今でこそ住宅 や学校なども建て込んでいるものの、 当時は畑と田圃の広がる田園風景の中 に位置していたのである。新しい家に 引っ越してきた当時のおばあちゃんは 生活に潤いが漲り、人生の中で一番輝 いていたのではないだろうかと推測で きる。今の私にとっておばあちゃんの 家族構成など知る由もないが、月日が 経つに連れて、子供達は独立して家を 離れ、夫婦二人だけになり、やがてお ばあちゃんの一人暮らしへと変り、家 も建築当時のまま修繕を重ねて今日に 至ったことも推測できる。今は取り壊 されて何も無い更地になっているが、おばあちゃんの半世紀に渡って生活した歴史がここにあったこ とは紛れも無い事実ある。 私が故郷に住んでいた頃の我が家に似た家が目に止まったということから、おばあちゃんの家は私 の心の心象風景としていつまでも残っており、これからもホームセンターを訪れる度におばあちゃん の家を思い出すことであろう。(郷土の会 岡村)
© Copyright 2024 Paperzz