日本心理学会第 78 回大会 11. 記憶 2014 年 9 月 12 日 (金) 9:20-11:20 RY205 第 1 ポスター会場 3AM-1-090 顔記憶の記銘における既知の人物の連想による効果 【責任発表者・登壇者】井上 優子:1 【連名発表者・登壇者】重宗 弥生:1、月浦 崇:1 1:京都大学 【目 的】 未知の顔を記銘する際に,人物の性格を連想するような深い処理した場合に,顔の形の判断などの表面的な処理をした場合と比較 して,顔の記憶が促進されることが知られている (Bower & Karlin, 1974).しかし,未知の人物から既知の人物を連想する記銘方略に よって,記憶がどのような影響を受けるのかは明らかにはなっていない.また,同じ既知の人物であっても,個人的な関わりがある知 合いと個人的な関わりのない有名人とでは,保持している背景情報の質や量が異なっていることが考えられるが,その違いについては 未だに検証されていない.本研究では,未知の顔を記銘する際に,知合いや有名人などの既知の人物を連想することで,未知の顔の記 憶がどのような影響を受けるのかについて検証した. 【方 法】 実験参加者 健常な大学生及び大学院生 24 名 (うち女性 11 名,平均年齢±標準偏差:21.67 ± 2.15)が実験に参加した. 刺激 オリジナルに作成した認知実験用顔刺激データベースとインターネットから収集した 30 代から 50 代の男女の顔写真を合計 240 枚を使用した.これら 240 枚を,ターゲット写真 180 枚と,ディストラクター写真 60 枚に分割し,さらに,ターゲット写真 180 枚を 60 枚ずつの 3 リストに分割し,「知合い」条件,「有名人」条件,「顔の形」条件の 3 つの実験条件 (後述) を対応させた.写真の 群と実験条件の組合せは実験参加者間でカウンターバランスされた. 実験手続き 実験参加者は記銘課題と想起課題の 2 つの課題に参加した.記銘課題の時点では,実験参加者には想起課題で記憶テス トがされることは教示されなかった (偶発記銘). 記銘課題は 2 つのブロックから成り,各ブロックではターゲット写真のリストの 90 枚の写真を 1 枚ずつ, 「知合い」 , 「有名人」 , 「顔の 形」の条件を示す指示とともに,ランダムに提示した.実験参加者には,「知合い」条件では提示される顔写真から自分と個人的な関 わりがある 1. 親族,2. 友人,3. 知人のいずれかの知合いを,「有名人」条件では提示される顔写真から 1. 芸能人,2. 運動選手,3. 政 治家のいずれかの有名人を連想するように求め,連想した人物が 1.-3. のいずれであったかをボタン押しで判断するよう求めた.「顔 の形」条件では提示された人物の顔の形が 1. 丸/楕円,2. 逆三角,3. ベースのいずれであったかボタン押しで判断するよう求めた. 記銘課題の直後に実施された想起課題は 2 つのブロックから成り,各ブロックではターゲット写真 90 枚とディストラクター写真 30 枚を 1 枚ずつランダムに提示し,実験参加者には,記銘課題で提示された写真かどうかを,また提示されたものであると判断した場合 は「知合い」, 「有名人」 , 「顔の形」のどの条件で提示されたのかを判断するように求めた.想起課題において,各記銘条件のターゲッ ト写真に対して正しく記銘した条件を選択することができた試行を Source hit,各記銘条件のターゲット写真に対して実際に記銘した 条件とは異なる条件で記銘したと判断した試行を Item only hit と定義し,それぞれ Source hit 率と Item only hit 率を算出した.想起 課題の終了後,「知合い」「有名人」条件で 1) 連想した人数, 連想した人物についての 2) 既存の情報量, 3) 連想時に想起された情報 量に関して,10 cm の Visual Analogue Scale (VAS) を用いて主観的に評定するよう求めた. 【結 果】 記憶成績 Source hit 率, Item only hit 率それぞれにおいて,条件(知合い・有名人・顔の形)を被験者内要因とする 1 要因分散分析 を行った結果(Fig.1, Fig.2),Source hit 率では有意な条件の効果が認められた (F2,46=15.78, p<0.01) が,Item only hit 率では有意な 条件の効果は認められなかった (F2,46=3.06, n.s.).Source hit 率における下位検定の結果では, 「知合い」条件と「有名人」条件におい て,「顔の形」条件よりも有意に Source hit 率が高いことが認められた (p<0.05). VAS の評定値 1) 連想した人数, 2) 既存の情報量, 3) 連想時に想起された情報量,の各項目についての VAS の評定値 (cm) の平均 値が,「知合い」条件と「有名人」条件との間で異なるかを,対応のある t 検定 (両側) によって検証したところ,1) 連想した人数に 日本心理学会第 78 回大会 おいて有意差は認められなかった (t23=1.54, n.s.) が, 2) 既存の情報量 (t23=6.04, p<0.01) と 3) 連想時に想起された情報量 (t23=6.47, p<0.01) の項目において有意差が認められ,どちらも「知合い」条件において「有名人」条件よりも主観的な情報量は多かったことが 示された. 【考 察】 本研究では,未知の顔を記銘する際に,知合いや有名人を連想する記銘方略を用いることで,顔の記憶が有意に促進されることが示さ れたが,知合いと有名人との間では有意な記憶成績の差は認められなかった.しかし,それらの条件間での主観的な情報量には有意差 が認められた.これらのことは,未知の顔を記銘する際に既知の顔を連想することで顔の記憶は同程度に促進されるが,個人的な関わ りがある人物を連想する場合と関わりのない人物を連想する場合とでは,異なった記銘方略が採用されていることを示唆している. 【文献】 Bower G.H., & Karlin M.B. (1974). Depth of processing pictures of faces and recognition memory. J Exp Psychol, 103, 751-757. *本研究の一部は,最先端・次世代研究開発支援プログラム(LZ001,研究代表者:月浦 崇)の助成を受けた 顔記憶の記銘における既知の人物の連想による効果 ○井上優子 1・重宗弥生 1・月浦 崇 1 (1 京都大学大学院人間・環境学研究科) キーワード:連想,顔記憶,記銘 Effects of associating with familiar faces during encoding novel faces Yuko INOUE1, Yayoi SHIGEMUNE1 and Takashi TSUKIURA1 1 ( Graduate School of Human and Environmental Studies, Kyoto University) Key Words: association, face memory, encoding 【目 的】 未知の顔を記銘する際に,人物の性格を連想するような深 い処理した場合に,顔の形の判断などの表面的な処理をした 場合と比較して,顔の記憶が促進されることが知られている (Bower & Karlin, 1974).しかし,未知の人物から既知の人物 を連想する記銘方略によって,記憶がどのような影響を受け るのかは明らかにはなっていない.また,同じ既知の人物で あっても,個人的な関わりがある知合いと個人的な関わりの ない有名人とでは,保持している背景情報の質や量が異なっ ていることが考えられるが,その違いについては未だに検証 されていない.本研究では,未知の顔を記銘する際に,知合 いや有名人などの既知の人物を連想することで,未知の顔の 記憶がどのような影響を受けるのかについて検証した. 【方 法】 実験参加者 健常な大学生及び大学院生 24 名 (うち女性 11 名,平均年齢±標準偏差:21.67±2.15)が実験に参加した. 刺激 オリジナルに作成した認知実験用顔刺激データベース とインターネットから収集した 30 代から 50 代の男女の顔写 真を合計 240 枚を使用した.これら 240 枚を,ターゲット写 真 180 枚と,ディストラクター写真 60 枚に分割し,さらに, ターゲット写真 180 枚を 60 枚ずつの 3 リストに分割し, 「知 合い」条件, 「有名人」条件, 「顔の形」条件の 3 つの実験条 件 (後述) を対応させた.写真の群と実験条件の組合せは実 験参加者間でカウンターバランスされた. 実験手続き 実験参加者は記銘課題と想起課題の 2 つの課題 に参加した.記銘課題の時点では,実験参加者には想起課題 で記憶テストがされることは教示されなかった (偶発記銘). 記銘課題は 2 つのブロックから成り,各ブロックではター ゲット写真のリストの 90 枚の写真を 1 枚ずつ, 「知合い」, 「有 名人」,「顔の形」の条件を示す指示とともに,ランダムに提 示した.実験参加者には, 「知合い」条件では提示される顔写 真から自分と個人的な関わりがある①親族,②友人,③知人 のいずれかの知合いを, 「有名人」条件では提示される顔写真 から①芸能人,②運動選手,③政治家のいずれかの有名人を 連想するように求め,連想した人物が①‐③のいずれであっ たかをボタン押しで判断するよう求めた. 「顔の形」条件では 提示された人物の顔の形が①丸/楕円,②逆三角,③ベースの いずれであったかボタン押しで判断するよう求めた. 記銘課題の直後に実施された想起課題は 2 つのブロックか ら成り,各ブロックではターゲット写真 90 枚とディストラク ター写真 30 枚を 1 枚ずつランダムに提示し, 実験参加者には, 記銘課題で提示された写真かどうかを,また提示されたもの であると判断した場合は「知合い」,「有名人」,「顔の形」の どの条件で提示されたのかを判断するように求めた.想起課 題において,各記銘条件のターゲット写真に対して正しく記 銘した条件を選択することができた試行を Source hit,各記銘 条件のターゲット写真に対して実際に記銘した条件とは異な る条件で記銘したと判断した試行を Item only hit と定義し, それぞれ Source hit 率と Item only hit 率を算出した.想起課 題の終了後, 「知合い」 「有名人」条件で 1) 連想した人数, 連 想した人物についての 2) 既存の情報量, 3) 連想時に想起 された情報量に関して,10 cm の Visual Analogue Scale (VAS) を用いて主観的に評定するよう求めた. 【結 果】 記憶成績 Source hit 率, Item only hit 率それぞれにおいて, 条件(知合い・有名人・顔の形)を被験者内要因とする 1 要 因分散分析を行った結果(Fig.1, Fig.2) ,Source hit 率では有 意な条件の効果が認められた (F2,46=15.78, p<0.01) が,Item only hit 率 で は 有 意 な 条 件 の 効 果 は 認 め ら れ な か っ た (F2,46=3.06, n.s.).Source hit 率における下位検定の結果では, 「知合い」条件と「有名人」条件において, 「顔の形」条件よ りも有意に Source hit 率が高いことが認められた (p<0.05). VAS の評定値 1) 連想した人数, 2) 既存の情報量, 3) 連 想時に想起された情報量,の各項目についての VAS の評定値 (cm) の平均値が,「知合い」条件と「有名人」条件との間で 異なるかを,対応のある t 検定 (両側) によって検証したとこ ろ,1) 連想した人数において有意差は認められなかった (t23=1.54, n.s.) が, 2) 既存の情報量 (t23=6.04, p<0.01) と 3) 連想時に想起された情報量 (t23=6.47, p<0.01) の項目におい て有意差が認められ,どちらも「知合い」条件において「有 名人」条件よりも主観的な情報量は多かったことが示された. 【考 察】 本研究では,未知の顔を記銘する際に,知合いや有名人を 連想する記銘方略を用いることで,顔の記憶が有意に促進さ れることが示されたが,知合いと有名人との間では有意な記 憶成績の差は認められなかった.しかし,それらの条件間で の主観的な情報量には有意差が認められた.これらのことは, 未知の顔を記銘する際に既知の顔を連想することで顔の記憶 は同程度に促進されるが,個人的な関わりがある人物を連想 する場合と関わりのない人物を連想する場合とでは,異なっ た記銘方略が採用されていることを示唆している. 【文献】 Bower G.H., & Karlin M.B. (1974). Depth of processing pictures of faces and recognition memory. J Exp Psychol, 103, 751-757. *本研究の一部は,最先端・次世代研究開発支援プログラム(LZ001,研究代表 者:月浦 崇)の助成を受けた
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