債権法改正で注目!

 はじめに
債権法改正に関して二〇〇九年四月に
﹁債権法改正の基本方針﹂
︵ 注 1 以 下、
本稿では
﹁基本方針﹂という︶
が公表され、
また法制審議会においても民法︵債権関
係 ︶部 会 で 検 討 が 開 始 さ れ、債 権 法 改 正
の方向性等について、
議論がされている。
これらは、来年の春ごろには検討の結果
が中間論点整理として公表される予定と
な っ て い る が、本 稿 で は、基 本 方 針 を ベ
ースとして、契約実務にどのように影響
が出るかという点をまとめることとした
ものである。
今回は、新たに典型契約として契約類
型に入れることが検討されている﹁ファ
イ ナ ン ス・ リ ー ス ﹂に 関 し て で あ る が、
内容的には基本方針を踏まえてはいるも
の の、本 稿 脱 稿 時 の 現 段 階 で は、い ま だ
法制審議会での検討が行われていないと
ファイナンス・リースとは
いうことを留意いただきたい。
従 来、リ ー ス 取 引 は﹁ フ ァ イ ナ ン ス・
リ ー ス 取 引 ﹂と﹁ オ ペ レ ー テ ィ ン グ・ リ
ース取引﹂に分類されているが、後者は、
法的性質を民法の典型契約のうち﹁賃貸
借 ﹂に て 理 解 す る こ と が で き る。し か し
﹁ファイナンス・リース﹂については、賃
ないという点で、従来から議論があった
払
支
約
料
ス
ー
リ
契
ス
ー
リ
納
意された使用料を貸手に支払う取引を
用 収 益 す る 権 利 を 与 え、利 用 者 は、合
し、合意された期間にわたりこれを使
者たる貸手が、当該物件の利用者に対
*﹁リース取引﹂とは、
特定の物件の所有
のリース取引をいうとされている。
一方、オペレーティング・リース取引
は、このファイナンス・リース取引以外
的に融資的な性格が強い取引である。
納 入 業 者 が 負 担 す る と い う、一 種、実 質
は瑕疵担保責任を一切負担せず、当初の
持管理費のすべてを負担し、リース会社
のリース料もリース物件の購入代金と維
止されている。かつ利用者がリース物件
までは、利用者においては中途解約が禁
を得るものであるが、支払いを完了する
とで、実質的には割賦販売と同様の効果
典型的なリース取引は、リース期間終
了時に、利用者がリース物件を買取るこ
︵リース︶取引とするものである。
てもらい、それをリース会社から賃貸借
めにリース会社にリース物件を買い取っ
うことで購入し、分割払いを達成するた
物 件 ︶を、一 定 期 間 の 分 割 払 い に て 支 払
こ の﹁ フ ァ イ ナ ン ス・ リ ー ス 取 引 ﹂と
は、通 常 は、図 の と お り、利 用 者 と 納 入
約
契
守
入
るということから、典型契約の賃貸借に
一種、信用供与としての側面を有してい
貸 借 と い う 法 形 式 に 沿 っ て い る も の の、
明治学院大学法科大学院教授
企業法務実務研究会代表
ところである。
河村寛治
ファイナンス・リース取引の
判定基準
企業の契約実務に大きな影響を及ぼすと見られ
ている債権法の改正。中でも関心の高いファイ
ナンス・リース契約について解説する。
とができないリース取引またはこれ
⑴ リース契約に基づくリース期間の
中途において当該契約を解除するこ
となった。
準も左記事項を考慮して判定されること
引として処理されることとなり、その基
︵注4︶により、会計上も税務上も売買取
められてきたが、今回の会計基準の改正
準 じ た﹁ 例 外 処 理 ﹂を 採 用 す る こ と が 認
準では、通常の賃貸借取引に係る方法に
る。この会計基準も従来のリース会計基
理基準がどうなるかという点が重要であ
して発達してきた経緯から、会計上の処
ま た、フ ァ イ ナ ン ス・ リ ー ス 取 引 が、
会計上および税務上のメリットがあると
決がある。
いう点を認めた︵注3︶、二つの最高裁判
ース物件の使用と対価関係にはない﹂と
るかどうかについて﹁そのリース料がリ
ものと、ファイナンス・リースに該当す
るという性質を有する﹂とされた︵注2︶
者が利用者に対して金融の便宜を供与す
も の で あ る が、実 質 的 に は、リ ー ス 提 供
物件を利用者に利用される内容を有する
ファイナンス・リース取引に関しての
判定基準は﹁形式的には自己の所有する
ファイナンス・リース
契約
そ の 経 済 的・ 機 能 的 な 面 も 考 慮 す る と、
債権法改正で注目!
いう。
8
会社法務A2Z 2010.8
会社法務A2Z 2010.8
9
保
文
注
・
定
選
利用者
(ユーザー)
業者との間で選定した対象物件︵リース
売買契約
よっては単純にその法的性質を理解でき
売買代金
3
1
2
リース会社
納入業者
特集 契約実務への影響を徹底リサーチ
図 ファイナンス・リースの仕組み
(注1)
『別冊NBL №126 債権法改正の基本方針』
(注2)最高裁昭和57年10月19日判決(民集36巻10号2130頁)
(注3)最高裁平成5年11月25日判決(金融法務事情1395号49頁)
(注4)企業会計基準委員会による「リース取引に関する会計基準」
(平成19年3月30日:企業会計基準第13号)
るのでしょうか。
小堀光一
は、有 効 に 締 結 さ れ た 契 約 を、契
ま す。な お、解 除 条 項 と 解 約 条 項
間満了により終了することがあり
継続的契約においては、契約が期
ありますが、
﹁業務提携契約﹂など
1 契約を終了させる条項
契約を終了させる条項には、主
に﹁解除条項﹂
﹁解約条項﹂などが
の催告手続を要することなく本契
各号の一に該当した場合は、何ら
﹃本契約当事者は、相手方が次の
ています。
除権︶を設ける契約書が多くなっ
ような独自の契約解除権︵約定解
係が毀損された場合に備え、次の
権があります。
条 ︶な
この法定解除権は、契約書に記
載がなかったとしても、法律上の
要件さえ満たせば、権利として認
① 本契約に違反し、相当の期
間を定めて催告しても違反事
実が是正されないとき
② 手形、小切手を不渡りとし
たときまたは支払停止もしく
は債務超過となったとき
③ 差 押、仮 差 押、仮 処 分、担
保権による競売の申立または
滞納処分を受けたとき
④ 破 産、特 別 清 算、民 事 再 生
もしくは会社更生手続等の申
立を受け、または自らこれら
を申し立てたとき⋮﹄
通知
︵3︶期間満了による契約終了の
特集 契約実務への影響を徹底リサーチ
められます。
ず、一 般 的 に、相 手 方 と の 信 頼 関
約当事者の一方の意思表示により
に 基 づ く 解 除 権︵ 民 法 第
解除権には、履行遅滞に基づく
解 除 権︵ 民 法 第 条 ︶や 履 行 不 能
2 業務提携契約における
解除条項
︵1︶法定解除権
的消滅をもたらす点で異なります。
滅をもたらし、後者は契約の将来
者は、
︵基本的に︶契約の遡及的消
約を解除することができる。
みに委ねる契約書はあまり見られ
し か し、今 日 に お い て は、特 に
解除条項を設けずに法定解除権の
︵2︶独自の契約解除権
弁護士 消滅させる点で共通しますが、前
契約の終了場面は?
業務提携の
「終了」
を通知されたら
#01
どといった、法で定められた解除
543
541
事例
﹁A株式会社﹂は﹁B 商事﹂から、
業務提携基本契約を終了する旨の
B商事には、少なくともウチに生
じる費用くらい負担させないと。
︶
K 君は、B 商事との業務提携基
本契約書を探し出し、条文を確認
件だよね。B商事との業務提携契
書 ﹄は、K君 が 担 当 し て く れ た 案
﹁ B商事との﹃業務提携基本契約
び出しました。
入社四年目の法務部員・K君を呼
意思表示がない場合は、本契約を
手方からの書面による契約終了の
だし、期間満了三カ月前までに相
一年一〇月三一日までとする。た
平成一九年一一月一日から平成二
期間︶か⋮﹃本契約の有効期間は、
します。
約 の 際 に、I T 環 境 も 整 え た し、
さらに一年延長するものとし、以
通知を受け取りました。
お客さんもたくさん増えたんだか
後も同様とする。
﹄か⋮。そうする
﹁なになに⋮第5条︵契約の有効
ら、B商事との業務提携が解消さ
と、今日は平成二二年七月二五日
﹁ A 株 式 会 社 ﹂の Y 法 務 部 長 が、
れることで、ウチに大きな負担が
だから⋮あっ、マズイ!﹂
業務提携基本契約第5条に基づく、
や ら、契 約 解 除 の 通 知 で は な く、
で す か ら、B 商 事 の 通 知 は、ど う
た、業績にも問題がないというの
K 君によれば、A株式会社は何
ら債務不履行等をしておらず、ま
契 約 終 了 の 通 知 が き た ん だ か ら、
がないのに、いきなり B商事から
はないはずだ。ウチには何も問題
つ い て、想 定 し に く い︿ 想 定 し た
かわらず、契約が終了する場面に
ような問題が起きていないにもか
ものですから解除条項に該当する
発展を継続的に実現しようとする
に よ っ て、双 方 協 力 の 下、互 い の
を、B 商事に請求することができ
携契約の解消によって生じる費用
また、
契約を継続できない場合、
A株式会社は、B 商事との業務提
るのでしょうか。
果たしてK君はA株式会社とB
商事との業務提携契約を継続でき
※ ※ ※
﹁A株式会社のKですけど⋮﹂
。
かけます。
顔色が急変したK 君、震える手
でB商事の担当者に急いで電話を
生じることは明らかだよ。何とか
してくれないかな﹂
。
K 君は、内心穏やかではありま
せん。
︵ B商事との﹃業務提携基本契約
書﹄って何だっけ? ⋮あ、そう
いえば入社したてのころに契約書
のひな形をそのまま使ってその契
約書を作成した気がするな。マズ
イ か な ⋮。で も、そ も そ も、ウ チ
は債務不履行などの問題は何も起
期間満了による契約終了の通知で
くない?﹀ことも理由の一つと考
こしていないし、業績だって問題
あ る と 思 わ れ ま す。以 下 で は、業
えられます︶
。
で す︵ 業 務 提 携 契 約 は、当 該 契 約
務提携契約における有効期間満了
の際の取扱いについて考えてみま
その結果、契約の有効期間は、
﹃本契約の有効期間は、平成○年
とが多くなっています。このこと
3 業務提携契約における
有効期間の満了
業務提携契約のような継続的契
約では、有効期間が定められるこ
という、ひな形そのままの条項と
ものとし、以後も同様とする。
﹄
は、本契約をさらに○年延長する
しょう。
○月○日から平成○年○月○日ま
は、住宅を賃借する場合の賃貸借
される場合も散見されます。当該
で と す る。た だ し、期 間 満 了 ○ カ
契約において、契約期間
条項は、必ずしも常に問題がある
希 望 が 矛 盾 し て し ま い、
書 面 と︵ 一 方 ︶当 事 者 の
る と い う 場 合、
約の無限を望んでい
契 約 の︵ 一 方 ︶当 事 者 は、契
契 約 書 の 書 面 は 有 限 を 謳 い つ つ、
というわけではないのでしょうが、
る契約終了の意思表示がない場合
月前までに相手方からの書面によ
が定められてい
ることを思い
出していただければ
良いと思います。
し か し、業 務 提 携 契 約 は、賃 貸
借契約などの継続的契約とは異な
り、契約当事者の有効期間に対す
る意識が弱いこともままあるよう
18
会社法務A2Z 2010.8
会社法務A2Z 2010.8
19
知っておきたい
契約リスク
債権法
改正前
に
会社間取引が複雑化する中、
契約業務におけるリスクも高まる一方だ。
事例を基に、
契約トラブルの対処法を考える。