ロケーションモデル作成支援機構の構築
村上 朝一 中西 健一 高汐 一紀 徳田 英幸
慶應義塾大学 環境情報学部
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
近年,様々な計算機器が環境に遍在するユビキタスコンピューティング環境が実現しつつある.
ユビキタスコンピューティング環境では,アプリケーションが位置情報を利用することによりユー
ザの利便性を向上させたりユーザに対し新しいサービスを提供できる.位置情報を利用するアプリ
ケーションは,位置情報センサが取得した情報と空間同士の位置関係を表現したロケーションモデ
ルを利用する.ロケーションモデルは位置情報センサを設置した環境の情報であり,アプリケーショ
ンを利用する前にシステム管理者が作成する必要がある.本研究の目的はロケーションモデル作成
のコストを軽減し,位置情報を利用するアプリケーションの導入・管理を容易にすることである.本
稿ではロケーションモデルをユーザの移動履歴から動的に作成し,アプリケーションに提供するミ
ドルウェアについて報告する.
!" # $%&#'()*
+ &, - ./!0
1/243*2658749):<;>=@?'ABA;!CED BGF)HJILKNMEOPKQRABAQRCTSVUWCED BG749):<10ABASXUWCTY
1RYGBG=W`RA 7ZHP[>URKN[PF]\^:P5_K
Ta_bdcEe_fhgji"kdlJm/n8o6phqrksn^tuvn8grbdfPwxnylNkdqTtGbgrphksn{z6|'uvphkG}~n^phoduEqTrphgji
v qTbd_e^bgu@6cT_kZksf
kdluv_pbbdn_ k]oduEqTn^bdn_cudzX|uvpk}~n^phoduEqTrphgji
j~jssvsj)s]]djsd]Ej] j¡x8s]¢])£]¤¥¦v§4T)s8s/j/8¨]v ¨]sT
¥©sT¡r)«ª8dj¬]jª4T¨)¬¨]¢£(¨]¢®v8¢)¯~°±²¬j8¡x²vT¨]s)³¤^¡r)´d8vj]v§s'´d¨®¡r³¬
]´s]ªdj¨]{j©s§¢d¡TE)vdsv8¬Xv8´ ]dµ¶³¡¬X¡T]Ts8]8¡r¦¡r]¨)TsT8¡T
vd8¬jTx¬T¤E¬jZ¡r
s§¢d¡TE)d·
]´s]ªdj¨]«¡r]x´d8E)v~¡Tj³EsWsT¥¸¶£ª4¬¹]¬jvh¶¥Jvº¬j¨®¡r³¬0¥©sj(j³´d8¡T´Gj)¡j](¡r)¬
ZT¶¥¦T"sR8¬jTx¬ ]8´jsW¡r]ªssjTx¬¯»J8¬ºª8vª4T ª8j³¬)x¬ ¢d¡TE)"«d´d¢¦)Tsvj]"¬£d¬j
¥©s®¡xª8jd´d8¡T¬¢¡E)d´dT¢{]J@]¢V¥]¢®´G) ¡r]ªssjTZ¬j]]]¯»Js¬j£d¬¶T¼)Tsvj¬¹s
¢d¡Ej]W´sT¢6r½dªs¬¬³´']¬~]xvªsR´s£Zv¡v¢¢£]¾svº8s¢vj]'¡T]x´vX8¬¬vZ´']sµ¶¡x¬
Z¬¶]´*v¹¬£d¬jT¿]´ds¬jxE]x¬T¯*»Jsj)s]-js´d£8]«®¡@]sTxE)-v/js¢¡E)d´dT¢N¤§s
¬£d¬jÀ¡T]@´s8¡r¹j88¬]¢¢®E)@]8´W]8v)TT¡r¬¶x¬JvV¢d¡Tvj]d·±¥Jv/¬jvh¶¥Jv¹¬j£d¬¶T¬T¯
Á
はじめに
近年,情報科学の進歩により,ユビキタスコ
ンピューティング環境 ÂÄÃÅ が実現されつつある.
ユビキタスコンピューティング環境には,セン
サや情報家電などの,様々な多機能化,小型化
を遂げた計算機器がネットワークに接続され,
人々の生活空間に遍在している.
このような環境のなかで,アプリケーション
が位置情報を利用することにより,ユーザの
現在位置に最適化したサービスを提供したり,
ユーザと計算機器とのインタラクションを減ら
すなどして,ユーザの利便性を向上させられる.
既に多様な位置情報取得センサ(位置情報セ
ンサ)が開発され,様々な粒度,制度の位置情
報が取得可能である.また,位置情報を利用す
るアプリケーションやアプリケーションに位置
情報を提供するミドルウェアも数多く開発され
ている.今後さらに,設置される位置情報セン
サの数が増加し,位置情報を用いるソフトウェ
アの多様化,実用化が進むと考えられる.
Æ
アプリケーションが利用する位置情報にはセ
ンサ取得データとロケーションモデルの二種類
がある.センサ取得データとは位置情報センサ
が取得した情報であり,ロケーションモデルと
は位置を表現するための現実世界のモデルであ
る.ロケーションモデルは空間の識別子,空間
同士の位置関係やその距離などの情報を含む.
センサ取得データとロケーションモデルの関
係について,図 Æ に具体的なアプリケーション
例を示しながら述べる.企業のオフィスや大学
のキャンパスなど,プリンタが複数存在する環
境で,ユーザの位置情報を利用してユーザに最
も近接するプリンタを検索する場合を考える.
ユーザに最も近接するプリンタを検索する為に
は,位置情報センサにより取得されるユーザの
現在位置を示す情報と,利用可能なプリンタの
をツリー構造で表現したモデルや,ツリー構造
に付加的に,同じ階層に存在する空間同士の相
対距離を定義したモデルなどが挙げられる ÂãË)Å .
ここで,ツリー構造のロケーションモデルを図
â に示す.それぞれの節点は1つの空間を表す.
このモデルは「A棟」には「1階」と「2階」
があり,さらに「1階」には「101号室」と
「102号室」があるというように,子の節点
が示す空間は,親の節点が示す空間に含まれる
ことを示す.また,人やオブジェクトの位置は
節点の識別子で表現する.
場所と,ユーザの現在位置からプリンタがある
場所までの距離の情報が必要である.前者がセ
ンサ取得データ,後者がロケーションモデルで
ある.
アプリケーションはロケーションモデルを利
用することにより,空間同士の距離を評価した
り,ユーザの現在位置をユーザが理解しやすい
空間の識別子で提供するなど,実現可能な機能
が増える.
図
ÆÇ
センサ取得データとロケーションモデル
図
次章では,既存のロケーションモデルについ
て説明する.その後第 È 章で,本研究の想定環
境と問題意識を述べ,第 É 章で目的を述べる.
さらに,第 Ê 章でアプローチについて述べる.
pÍ_-k
第 Ã ,Ë 章で本稿の提案する Ì
pÍ_-の設計・実
k
装について言及し,第 Î 章で Ì
を評価す
る.第 Ë 章で本稿をまとめる.
Ï
位置情報を利用するシステムが用いるロケー
ションモデルの形式には様々なものがある.ロ
ケーションモデルは,使用する位置情報センサ
の種類,取得するセンサ取得データの粒度やロ
ケーションモデルを利用するアプリケーション
によって異なる.既存のモデルは位置の表現方
kdÑPksfhkdÒspcEbdf4-k6yuvf uEgqTpc-k6yuvf
法によって Ð
と
の二種類に分類できる ®ƳŠ.
の例
図 È4Ç ツリー構造を用いたロケーションモデル
上での距離
Ö/×XØ×XÙN×XÚXÛNÜsÝ^ÙÞ,×
ßà4Ù
位置情報を,識別子を付けた空間の位置関係
kdÑPksfhkdÒspácEbdf-k6yuvf
で表現するモデルである.Ð
はそれぞれの空間に識別子を付けて管理するた
め,比較的大きな粒度の位置情報を表現する場
合に有効である.また,空間に識別子を付けて
管理するため,人が容易に理解可能な位置情報
を提供できる.
kdÑPksfhkdÒspcEbdf-k6yuvf
4uvtGbdnZgrpc
の例として,
4Ñ^Ð bdcu
ÂÄâÅ で用いられている空間同士の包含関係
kdÑPksfhkdÒspácEbdf§-k6yuvf
ツリー構造で表現したモデル上で空間間の
距離は,ある空間から空間へのパスがルート方
向へ戻る階層の数で表現する.しかし,図 È に
示すように,戻る階層の数が同じ場合,どちら
の空間がより近いかを比較できない.また,よ
り多くの階層を戻らなければならない空間の方
が,少ない階層を戻る空間よりも近い場合が存
在する.
既存のロケーションモデル
ÓPÔ±Õ
â4Ç0Ð
また,ツリー構造のモデルは空間の包含関
係を表現しているが,空間間の経路を表現でき
ない.
â
Ó
ÔÓ
Þ,à8ä]åÛNÜÞ,×
ߦà6Ù
位置情報を絶対的,または相対的な座標で表
uEgqTpcRk6yuvf
は連続的
現するモデルである.
な数値の組み合わせで空間を表現するため,比
較的小さな粒度の位置情報を表現する場合に有
-uEgqTpácR-k6yuvf
効である.しかし,
は位置情報
を座標で表すため,表現された位置情報が現実
世界のどこを指すのかを人が直感的に理解する
ことが難しい.
æ
ç fhkdè^bdf æ ké
uEgqTpc k4_uvf
rphgrpksn_pnyÒ*4i6guvt(の例として,
ê
ÂÄÈÅ で利用する地表面を2次
元の絶対座標で表現したロケーションモデルや,
ë cgrphoduvìbgr ÂÄÊdÅ で用いられている3次元の座標
の座標で表現したロケーションモデルなどが挙
げられる.ここで,空間を3次元の座標で表現
したロケーションモデルを図 É に示す.このロ
ケーションモデル上では,位置を3つの数字の
組で表現する.
きる必要がある.位置情報は部屋単位の粒度,
あるいは,さらに細かい粒度で,取得できるこ
とを想定している.
î{ÔÓ
空間間の経路,距離を表現可能なモデル
の必要性
位置情報を用いたアプリケーションで,二つ
の空間間の経路を検索したり,その距離を評価
するなどの機能を実現するためには,空間間の
経路,距離を表現するロケーションモデルが必
要である.
空間間の経路,距離を表現するロケーション
モデルを利用することにより,プリンタやディ
スプレイなどの物理的なサービスを提供する
計算機器が複数存在する環境で,ユーザに最も
近接するサービスを検索するアプリケーション
や,屋内でのナビゲーションシステムなどが実
現できる.
î{Ôhî
uEgqTpc'k4_uvf
yÉ Ç
-uEgqTpác'-k6yuvf
図
の例
モデル作成コストを軽減させる必要性
ロケーションモデルは位置情報センサを設
置した環境のモデルである.そのため,ロケー
ションモデルは位置情報を用いるアプリケー
ションを導入,管理するシステム管理者が作成
する必要がある.
ロケーションモデルの作成には,システム管
理者が位置情報センサを設置した空間の識別子
や空間同士の位置関係などについての情報を入
力しなければならないため,システム管理者に
とって負担である.また,アプリケーションを
一般の家庭で用いる場合,計算機器に関する高
度な知識を持たないユーザ自身が上記の入力を
行う必要がある.
そのため,ロケーションモデル作成のコスト
を軽減し,計算機器に関する高度な知識を持た
ないユーザが容易にロケーションモデルを作成
できるようにする必要がある.
また,
上では2点間の直線距
離を計算で求められるため,直線距離をあらか
じめ定義する必要がない.しかし,2点間に壁
や障害物などが存在する場合の距離を計算する
場合は,あらかじめモデル上に壁や障害物の座
標を定義する必要がある.
í
î{Ô®ï
本研究の目的
本研究では空間間の経路,距離を利用するア
プリケーションの実現を容易にするため,空間
間の経路,距離を表現可能なロケーションモデ
ルをアプリケーションに提供し,ロケーション
モデル作成の手間を軽減させることを目的と
する.
問題意識と目的
本章ではまず本研究の想定環境を説明し,次
に空間間の経路,距離を表現するモデルの必
要性と,モデル作成コストを軽減させる必要性
について述べる.その上で,本研究の目的を述
べる.
î
Ô±Õ
想定環境
本研究はオフィスビル,大学のキャンパス,
商店街や家庭など,複数の部屋が存在する環境
を想定している.また,このような環境に位置
æ
情報センサが設置されているか,ユーザが
端末などを携帯し,ユーザの位置情報を取得で
È
ð
アプローチ
本研究では,前章で述べた目的を達成する
ため,グラフ表現を用いたロケーションモデ
Þóòô ñ ×
ÜsÝyäÛÍ×VõöÞ,×
ßà4Ù/àZ÷{ئåàZø]øvàZßöÝ_øÝ
ルñ
ò"å)Ý_ØJùú をユーザの移動履歴から動的に生成
を基に,ある空間間をユーザが移動したと
判断すると,その空間間に移動可能な経路
が存在すると判断し,それぞれの空間を示
す頂点を繋ぐ辺を作成する.
重み
辺の重みは,頂点で表現された空間間の相
対距離である.本研究では,空間間の移動コ
ストをその空間間の移動にかかる時間で表
現する.本システムは実際に取得されたセ
ンサ取得データから,ユーザやオブジェク
トが空間間を移動した履歴を蓄積し,空間
間を移動するのにかかった時間を算出する.
算出した移動時間を空間間の相対的距離と
して,辺の重みとする.
し,アプリケーションに提供するミドルウェア
û Û ü{Þ,צô û ×
ߦàýÛþõVä]à4Ú^åÝyä]à4ß¿üPØÝ_ÜsàýÞ,×
ßà4Ùáÿ
Ûþõ§Ú ø øEä)à¸ú を構築した.本章ではまず
について述べ,次に の動的生成とアプリ
ケーションへの提供について述べる.
ï{Ô±Õ
Þóò
ñ
はひとつの空間を頂点,空間間に存在
する経路を辺,経路を移動するのにかかるコス
トを重みで表現した重み付きグラフのロケー
ションモデルである.
上では任意の2空
間間の移動コストをグラフの最短距離経路検索
で算出できる.
を用いることにより,ア
プリケーションは空間間の経路情報とその移動
コストを利用できる.
の例を示す.図中左があるエリ
図Ê に
アの空間を表現した平面図であり,右がその空
間を表現した である.
本システムは以上の手順で,ユーザの移動
履歴から を生成する.また,人が理解し
やすい空間の識別子が必要であれば,システム
管理者が本システムの提供するモデル管理機能
を用いて空間に任意の識別子を付けることがで
きる.
ï§Ôhî
Ê4Ç
ñ Þ¼ò
図
グラフ表現を用いたロケーションモデル
ï{ÔáÓ
ñ Þóò
のアプリケーションへの提供
本システムはオフィス,大学キャンパスや
ショッピングモールなど複数の空間が存在する
環境で,空間間の経路や距離を利用するアプリ
ケーションの実現支援を目的とする.この目的
を実現するため,本システムはアプリケーショ
を含む位置情報を提供する.
ンに対して また本システムは,アプリケーションに対し
て
の提供を開始した後も,ユーザの移動
を検出する度に を更新する.これにより,
位置情報センサの追加・削除などによるシステ
ムが認識可能な空間の構造変化に対応できる.
以下に本システムが提供する情報を示す.
の動的生成
本システムはユーザの移動履歴から
を
動的に生成する.本システムが を動的に
生成することにより,システム管理者がロケー
ションモデルを作成する手間が軽減され,位置
情報を用いるアプリケーションの導入・管理コ
ストを下げられる.以下で の動的生成に
ついて述べる.
対象オブジェクトの位置
ユーザやオブジェクトが存在する空間の識
別子及び,空間内に存在するユーザやオブ
ジェクトの識別子をアプリケーションに提
供する.
対象オブジェクトの移動イベント
ユーザやオブジェクトがある空間から出た,
あるいはある空間に入ったという移動の情
報をイベントとしてアプリケーションに提
供する.
空間間の経路,距離
ある空間から他の空間へ移動可能な経路が
存在するか否か,及びその経路を移動する
のにかかるコストをアプリケーションに提
供する.
頂点
の頂点は位置情報センサが認識可能な
ひとつの空間である.位置情報センサ上で,
本システムのセンサモジュールが起動する
と,認識可能な空間が追加されたと判断し,
の頂点を作成する.
辺
の辺は空間間の移動可能な経路である.
本システムは受け取ったセンサ取得データ
ñ Þóò
É
設計
pNy-k
本章では Ì
の設計について述べる.ま
ず,本システム全体のソフトウェア構成につい
て述べ,次に各モジュールについて説明する.
PÔ±Õ
pÍyソフトウェア構成
k
は位置取得部,履歴管理部,モデル
Ì
管理部及び要求解析部からなる.
履歴管理部,モデル管理部及び要求解析部は
同一ホスト上で動作する.また,位置取得部は,
位置情報センサが十分な計算機能とネットワー
ク接続性を持つ場合は位置情報センサ上で,十
分な計算機能,又はネットワーク接続性を持た
æ
ない場合は位置情報センサが直接繋がれた
あるいは,サーバ上で動作する.
pÍyk
Ì
におけるソフトウェア構成を図 Ã に
示す.以下に,各モジュールの機能について述
べる.
図
Ã4Ç0Ì
pÍyk
ÔÓ
アプリケーションからの要求を受け取り,要
求を解析し,位置情報を返す.位置情報を返
す際に必要であれば,モデル管理部や履歴
管理部に問い合わせる.また,位置取得部か
ら配送された移動イベントを,事前に登録
されたアプリケーションに対して配送する.
また,空間識別子と対象オブジェクト識別
子の登録を管理する.システム管理者の入
力に基づいて空間識別子と対象オブジェク
ト識別子を登録する.
基本動作
前節で述べた各モジュールは次の様に動作
する.
Æ
ユーザが空間間を移動すると,位置取得部
が移動イベントを生成し,モデル管理部,履
歴管理部及び要求解析部へ配送する.
â 移動イベントを受け取った各モジュールが
それぞれ以下の処理をする.
モデル管理部が を更新する.
履歴管理部が履歴を更新する.
要求解析部が事前に登録されたアプリケー
ションへ移動イベントを配送する.
È
アプリケーションが要求解析部に対して位
置情報を問い合わせる.
É
要求解析部がアプリケーションからの要求
を解析し,モデル管理部あるいは履歴管理
部に問い合わせ,位置情報を返す.
次節以降では,本節で述べた本システムを構
成する各部について設計の詳細を説明する.
Ôhî
におけるソフトウェア構成
位置取得部
位置情報センサからセンサ取得データを取
得し,対象オブジェクトの移動を検知した
際に移動イベントを生成し,モデル管理部,
履歴管理部及び要求解析部へ配送する.
モデル管理部
モデル管理部は を管理する.位置取
得部から移動イベントを受け取り,その情報
を基に を更新する.また,要求解析部
からの要求に対して, の情報を返す.
履歴管理部
履歴管理部は位置情報の履歴を管理する.位
置取得部から移動イベントを受け取り,履歴
を更新する.また,要求管理部からの要求
に対して,履歴情報を返す.
要求解析部
Ê
位置取得部
位置取得部は位置情報センサが取得したセ
ンサ取得データを受け取り,移動イベントとし
てモデル管理部,履歴管理部及び要求解析部に
渡す.
システム管理者が位置情報センサをネット
ワークに接続し,位置取得部を起動すると,認
識可能な空間が追加されたことをモデル管理部
に通知する.これにより,新しい空間の識別子
に
が登録され,モデル管理部の管理する 新しいノードが生成される.
位置情報センサから取得したセンサ取得デー
タはすべて,対象オブジェクトが空間内に入っ
たイベントと空間から出たイベントに変換して
扱う.この移動イベントには以下の属性がある.
位置情報センサの種類にかかわらず,センサ取
得データをこの属性を持つ移動イベントとして
扱うことにより,システムを位置情報センサ非
依存にする.
表
対象オブジェクト識別子
空間識別子
}
w kdq
Ì
項 目
(*),+ -.
354
D#E%F
Ð
タイムスタンプ
PÔhï
モデル管理部
D B,G B
ÆÇ
実装環境
環 境
! #"%$'&
/ 0 (21
6879;:=< > > > -@? ) <A<7 CB@
4 E%FIH 4JAB@9CB@-9*K9L7 A7 NM ) -A<7 ! OL!ÄQPSRE@T
{ÔþÕ
モデル管理部は を管理し,位置取得部
が生成した移動イベントを基に更新する.移動
イベントを受け取り,対象オブジェクトが空間
間を移動したと判断すると,移動イベントのタ
イムスタンプから空間間の移動にかかった時間
を算出する.算出した移動時間を用いて,
上で空間間の距離を表現する重みを更新する.
また,モデル管理部は要求解析部の要求に対
の情報を返す.要求解析部に提供す
して る情報は以下である.
pÍy実装の概要
k
Ì
は表 Æ に示す開発環境で実装した.
本システムはモジュールのプラットフォーム独
bvob
空間間を移動するのにかかる時間
立性を確保するため, U
言語を用いて実装
を行った.
また,今回の実装では位置情報センサとして
a§é k4yu
V a§é k4yu
 ÉÅ を使用した.V V a¦é は単体では
bvob
k6yu V Zé
に
U の実行環境がないため,
æ
æ
âdÈdâ ケーブルで を繋げ, 上で本システ
ムのモジュールを実装した.実装の概観を図 Ë
に示す.
存在する空間の識別子
PÔ
履歴管理部
移動イベントの履歴を管理する.位置取得部
が生成した移動イベントを受け取り,移動イベ
ント履歴を更新する.
また,履歴管理部は要求解析部に対して移動
イベントの履歴情報を提供する.要求解析部に
提供する情報は以下である.
対象オブジェクトが存在する空間の識別子
特定の空間に存在する対象オブジェクトの
PÔ
識別子
図
要求解析部
実装
位置取得部
位置取得部は位置情報センサからのセンサ
取得データを受け取り,移動イベントを生成す
る.移動イベントクラスの属性を表 â 示す.
また,位置取得部を多種の位置情報センサに
対応させるため,各センサ用クラスの基底とな
るクラスを用意した.本実装ではこのクラスを
V a¦é k6yu
拡張して
用のクラスを作成した.
{Ôhî
pÍ_-k
本章では Ì
の実装ついて述べる.まず,
実装の概要と実装環境について述べ,次に位置
取得部,モデル管理部及び要求解析部の実装に
ついて説明する.
実装の概観図
{ÔÓ
アプリケーションからの位置情報要求に対し
て,モデル管理部や履歴管理部に問い合わせ,
や履歴の情報をアプリケーションに提供
する.さらに,あらかじめ要求解析部に登録さ
れたアプリケーションに対して移動イベントを
配送する.
また,要求解析部は空間の識別子と対象オブ
ジェクト識別子を管理する.システム管理者の
入力に基づいて空間の識別子と対象オブジェク
ト識別子の登録を行う.
ËZÇ
Ã
モデル管理部
移動イベントの属性を用いて,
の重み
æ w
bvob
ë
として U
のインタフ
を計算する為の
ェースを用意した.このインタフェースを利用
することにより,重みの算出アルゴリズムを容
易に変更可能になる.また,今回の実装では全
表
型名
4J-A7W
4J-A7W
R \ ) B@
^ 7 +_) <AB + X
フィールド名
<XCB@Y );ZE
RL[ ) Y, ZE
7 - ]L
7 +_) <AB + X
â4Ç
移動イベントクラスの属性
説明
空間を一意に指す識別子である
対象オブジェクトを一意に指す識別子である
対象オブジェクトが空間に入ったのか,あるいは出たのかを示す
イベントの生成された時刻を示す
Ôhï
要求解析部
アプリケーションが,本システムの提供する
ë æ w を用意した.本
位置情報を利用するための
実装では,オブジェクトの位置,移動イベント
ë æ w
や空間間の移動コストを取得するための
とオブジェクトや空間の識別子を登録・削除す
ë æ w を作成した.
るための
`
評価
Ô±Õ
他モデルとの比較
,ツリー構造を用いたロケーションモ
デル,及び座標を用いたロケーションモデルを
比較する.それぞれのモデルの性質を表 È にま
とめる.表中の○は表現可能,×は表現不可能
をそれぞれ示す.
ツリー構造を用いたモデルは空間の包含関係
を表現できるが,座標を用いたモデルと は表現できない.
は任意の â 空間間に移動可能な経路が
存在するか否かを表現できる.しかし,座標を
用いたモデルとツリー構造を用いたモデルは空
間間の経路を表現できない.
また,座標を用いたモデルは座標内の任意の
â 点間の距離を算出でき,
は任意の â 頂
点間の距離を最短距離経路検索で求められる.
しかし,ツリー構造を用いたモデルは空間間の
距離を定義できない.
座標を用いたモデルは,比較的狭い空間にお
ける,粒度が小さい位置情報の処理に適してお
り,
は比較的広い空間における,粒度が
大きい位置情報の処理に適している.そのため
は,本研究が対象とするオフィス,大学
キャンパスや商店街などの比較的広い空間で,
経路と距離を扱うアプリケーションに適してい
ると言える.
ÔÓ
a
ÔÓ
Ô±Õ
a
ÔÓ
ÔáÓ
û Ûü{Þ ×
実験方法
本実験は,慶応義塾大学 徳田研究室が研究
成果の発表とデモを行った会場にて2日間行っ
た.実験会場には研究成果の発表やデモを見る
ため多数のゲストが訪れた.来場したゲストに
V a¦é k6yu
のタグ渡し,発表やデモを見
受付で
ている間,常に携帯して頂いた.
使用機材
V a¦é k4_u
V a¦é¶w@d
社の
位置情報センサは
w@d を
V a¦é¶wed
はタグがそれぞれ固有の
を
用いた.
一定間隔で発信し,リーダがその電波を捉える
ことにより,リーダの検出範囲内にあるタグの
w@d
を取得する.リーダの検出範囲は約3メー
トルから約20メートルまでを8段階で調節で
æ
V Zé
d
â
d
È
â
きる.また,リーダは
で
に接続
æ*
ë
し,
を Ì に接続した.
実験会場
実験会場には建物の1フロアを使用した.会
V a
場に
リーダを4個設置し,実験を行った.
また,実験期間中,会場では7個のデモが行わ
れていた.実験会場の見取り図を図 Î に示す.
本章では,まず定性的評価として,
と
他のロケーションモデルとの比較を行う.次に
測定実験とその結果について述べる.
a
a
の運用実験
本節ではまず,本システムの運用実験につい
て述べ,次に実験で得られた測定データを用い
て作成した の現実世界のモデルとして
の正当性を評価する.
本実験は âbcbsâ 年 ÆdÆ 月に,慶応義塾大学
湘
V a
南藤沢キャンパスにて開催された
âbcbsâ
«ÑPuvn V uvuEqTc(aykdqe_t
âbcbsâ )の会場で行った.
(
以下に実験の詳細を述べる.
ての移動時間の履歴を算術平均するクラスを実
装した.
Ë
実験結果と考察
約 Æ Éfbc b 回のリーダ間の移動データが取得で
き,
が生成された.全ての移動データを
使い,かかった移動時間の単純平均を用いて生
成した を図 g に示し,各空間間の実際
の距離と生成された における辺の重みを
表 É に示す.
本実験によって,ユーザの移動履歴から
が生成されることが分かった.また,
に
V uvcuEÑ_grphksn6é kdqrqTpykdq
間以外の重みは実
おける
際の距離を反映していると言える.さらに,
表
(*) -A7Y
^ hX W 7Y;B@
図
表
ÉyÇ
Î4Ç
È4Ç
モデルの比較
座標を用いたモデル
ツリー構造を用いたモデル
ic( "
空間の包含関係
×
○
×
jk) Y ) LX 7 P --A79 jk) Y ) X\A7 P 44 i B R
44 i B RnP 4 ³,T
4 ³,TIP -A-A79L -
+
! / +
i( "
O +
/L! m +
における重み
#l\! m
TJl\! >
;oLÄ! TrL! O
uvcuEÑ^grphksn6é kdqrqpykdq
V
参考文献
qsr#tvuxwzy|{#} ~=Leh
~h\#5~
hc
{#s
'L@C
A~CJ#
~ I#}#h} %{J~¡Jc~
h¢£5hc
~¤ ¤
¥ ]¢N¯%¦h§¨
© v =eJ
Ac}ª«¬C
Q#¢£~hc
J}£®#~¯
#@ ¯±° ª8js]¤±¦|²|²³d¦ ¯
q ¦ tµ´ ¯ ´ sºvZ´¶y
° ¯=° 8vT³¯»X]ª4]¢])¡v¢P¥]¢´
´sT¢sW8¬jsW¬]j®¡º¬jª8]¡T¬¯°± 5{#~@CN ¤
° Tª¦|²|² r ¯
q ·Ct °¯º
¸ ¯¹
¹ TsZ¯/»Js~]¢]8]¢^ª4)¬jL)ssR¬j£¬j¯
ªººº»®|f@J
} c ¤|
¥ )¢Í¯ · 8² ¤]ªsª^¯ ·¼½ §c¾ ¤|/
¿ ¡TT~Z
r ¨¨ · ¯
q § t °±±¹
¿ Eµ° £d¬j¬¯J
À
¡rd´d¬jªs´sTªZÁ ´@¬£d¬jT¯
jª'ÂÃà ¥©¥©¥¯ 8´8E)¬£d¬¯ ¡T]j¢Ã ªsd´d8¡x¬T¯
q Ät ¸ ¯"vx´y¤³º
¸ ¯c]Å )s¬¤]8´vº
¸ ¯c
Æ ]ª8ªZ¯'<
¸ s¥&¢]·
¡Tvj]j³¡xssSÇ s)§s/)¡j¨]/h'
È ¡r)¯y°± ªººº
É J}@¢#h±#zhÊËc±~@C
A~C±¢@Ì*Í'ÎQÏ Ð|Ñ ÍfÒ|ÓLÍkÔJÌÕ#¯
{@#}¬Ö|×|×fÔØ
q ¼CtµÙ T®¬¯ »Js²¡r]ªssjT@)WsÚ¦ r ¬¶¡rTs·
js£]¯>°± ®J~J±
A~ ÛÜunJ} ~@CÒ³ÏÝcÎQÞ ÐÌ×JͱӳÖ|ßJÍcÌ
®Q
Q#µ{@#}¬Ö|×|×³Ö ¯
q¾ t
間の経路上にはデモが少な
く移動に時間がかからないことを考慮に入れる
の重みは移動にかかるコ
と,生成された ストを表現していると言える.
しかし,今回の実験結果で,実際には存在
V uvcuEÑ^grphksn6é
しない
â6ÆÉ 間の辺が生成された.
V uvcuEÑ_grphksn
â6ÆÉ の間にあ
と
これは,ユーザが
kdqrqTpykdq
_ bè
V a¦é
る,
または を通過した際に
uV vbd_uEq
がタグを認識しなかったためと考えら
れる.
今後の課題として,このように実際には存在
しない経路が生成されるのを防ぎ,
の正
確さを向上させることが挙げられる.その際,
十分な数の移動履歴を取得した後にはずれ値を
除外する手法を検討する.
p
おわりに
本論文では,グラフ表現の ロケーショ
ンモデルをユーザの移動履歴から動的に生成
し,アプリケーションに提供するミドルウェア
pÍyk
Ì
を設計・実装し,評価を行った.本シス
テムがロケーションモデルを動的に生成するこ
とにより,システム管理者がモデル作成のため
Þóò
に行う入力を減らし,位置情報を用いるアプリ
ケーションの導入・管理コストを下げられる.
また,本研究では空間を頂点,空間間の経路
を辺,経路の移動コストを重みとするグラフ表
現のロケーションモデルを利用した.これによ
り,空間間の経路や移動コストを用いるアプリ
ケーションを実現できた.
における重み比較
空間間の距離
空間間の距離
○
×
○
図 g4Ç 生成された ñ
実験会場の見取り図
実際の距離と 空間間の経路
×
×
○
¯
楠本晶彦,岩井将行,中澤仁,大越匡,徳田英
幸 物理的位置情報に基づくサービスの自動検
出を実現するミドルウェアの構築
¿ ªá_マルチメディ
â Ù â*ã
ア,分散,協調,とモバイル
シン
à
¦h²²|²
ポジウム
Î
¤
s¯
0°
¯
© Copyright 2025 Paperzz