ドラッカー マネジメント

社会生態学マネジメント
エッセー
生き方に役だつ
ドラッカー
マネジメント
今岡善次郎の
マネジメント・メルマガより
第51∼第65回
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はじめに
本書は週1回べ―スで2009年1月から2010年1月の1
年間に配信したメルマガを編集したエッセー集です。ドラッカー思
想にからめて日常生活から見える社会や組織や個人の生き方につ
いて思いついた事柄を話していますが多くの読者から「元気づけら
れる」
「ドラッカーをかみ砕いてくれている」等評価頂きました。
その意味でこのような編集版で手軽に読み直す電子書籍は日々の
生き方にお役に立てるかもしれません。
本書はドラッカーだけの紹介ではありません。ドラッカーの言葉
を紹介してはいますが、厳密な出典に拘らず、ドラッカー以外の賢
人を引用しながら自分の言葉で語ています。ドラッカーは人・組
織・社会のつながり(きずな)をつくる社会生態学のマネジメント
を発明した人だと思います。僕が介護生活の中でドラッカーの言葉
に感じたのはそこに心が触れる言葉があったからです。
一方僕の仕事の専門はサプライチェーンマネジメントであり、仕
事のつながりでモノとカネの流れをつくるマネジメントの方法論
として研究し実践してきました。米国の企業で仕事をしたきっかけ
で知った理論でしたが、その底流に流れている考え方は、世界で群
を抜く長寿企業の多い日本的経営や欧米で長く持続している優良
企業の原理が東西共通の知であることを発見しました。
ドラッカーは日本の資本主義の父と言われている「論語と算盤」
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で有名は渋沢栄一を影響を受けた一人として紹介しており、著作の
文章に儒教など東洋思想を見ることができます。本書ではドラッカ
ーとともに東洋思想で日本の政治経済界に影響を与えた安岡正篤
も順次取り入れます
目次
第51回『マネジメントの原理は「武術の型」
』
第52回『マネジメントは心の使い方』
第53回『効率と効果、部分か全体か』
第54回『生態系の生き物』
第55回『持戒、自己を律する』
第56回『生命の本質は動的平衡』
第57回『連携と共生』
第58回『マネジメントは技術』
第59回『組織は器官』
第60回『時間は普遍的な制約』
第61回『ドラッカーと安岡正篤』
第62回『科学と造化(天)
』
第63回『世のために尽くす勇気』
第64回『人間の根本』
第65回『明治維新は偉大なイノベーション』
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第51回『マネジメントの原理は「武術の型」
』
■2009年1月25日日曜日、日中武術国際友好演武大会が
町田市民ホールで開催されました。海外16カ国から合気道、太極
拳、気功、居合術、棒術、長刀、五行の太刀などの演武者が日頃の
成果を発表しました。私も高円寺教室の一員として太極拳のひとつ、
健身益気法を演武しました。太極拳でも42式があり24式があり
16式があり10式がある。いろんなバリエーションがあります。
日本の武術も様々な流派があり型がある。型の練習をしておくと護
身の実践にのなかで予期せぬ自体に対処できます。
■マネジメントの原理もいくつかの型を身につける訓練をすれば
いいのではないかと気づきを得ました。マネジメントも武術と同じ
く実践です。音階さえ弾ければ練習でうまくなる。音階の練習に相
当するマネジメント教育が可能ならば、その教材はイノベーション
になりますね。イノベーションは継続的学習と知識の生産性向上の
革新とならなければならない。
そして社会を変える原動力にならなければならない。社会を変える
のは革命でもなく、青写真のマニフェストでもなく、事業と同じマ
ネジメントであるとドラッカーが言っています。ドラッカーの社会
生態学的マネジメントは分権的、自律的、具体的、現場志向である。
知的計画的な戦略万能主義とは一線を画す。
フランスとイギリスで計画されたコンコルドは僅かな栄光と膨大
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な赤字を生んだ。分権的・自律的・現場志向ではなく、知的計画的
青写真で社会を変えるとの自信はもう一つの「コンコルドを生みだ
すだけだ」と言っています。
一部のエリートが社会をつくり,リードするのではない。社会を良
くするには一人ひとりの人間が自らの人生において自らの意思に
よってさまざまなキャリアを探し進んでいくのが当然となる社会
を建設する。そのためには、志しを持った人たちの一人ひとりの
継続的学習と知識の生産性向上が必要であるとドラッカーは述べ
ています。
■我々団塊の世代が学生であった1970年前後、大企業や公的機
関など組織への嫌悪感が反体制運動と重なっていた。
「個人の自由
を奪うものとしての組織」への恐れがあった。当時の若者ならヒッ
ピー、現代の青年ならフリーターのような無気力な生き方かもしれ
ません。反体制は革命というより、反組織だったかもしれません。
しかしドラッカーは組織に抵抗する「自由」なるものへ疑問を投げ
かけます。組織は自由を奪うものという内向きの捉え方ではなく、
現代社会は、企業、病院、介護施設、消防署、学校、役所、非営利
法人など多元社会の組織が作り出す財やサービスなどがなければ
成り立たない。自立した存在として機能する組織を否定すると
そこに出てくるのは専制であると。
1929年前後の経済危機から経済格差が広がって、社会不安が企
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業など組織に矛先が向かった時、ドイツ社会はヒットラーを生んで
しまった。ドラッカーの問題意識の原点は、その時代の問題意識だ
ったようです。
知識を通じて生活の糧を稼ぎ、社会に貢献するのは組織だけである。
組織が成果を上げなければ個人の自己実現もなく、全体主義が押し
付けられるだけだ。従って、自由と尊厳を守るのは組織をして成果
を上げさせるマネジメントだけである。責任あるマネジメントこそ、
全体主義に代るものであると。
■「マネジメントは仕事である」とドラッカーは言います。シンプ
ルな言い方ですが難しいですね。私のメルマガはドラッカーを噛み
砕いて分りやすく解説してくれているいると言って頂いています。
ドラッカーは言葉の引用だけではなく分かりにくい。日常の事例に
当てはめてドラッカの言葉を借りて自分の考えを述べることでは
じめて理解できます。
ドラッカーによると、マネジメントは何を行うかではなく、何に貢
献するか、と問うべきであると言っています。ドラッカーを引用し
て解釈するだけなら、又、マネジメントとは何か、マネジメントの
役割は何か、マネジメントとはどんな機能を持つべきか、と問うだ
けなら、マネジメントを内側から見ているだけにしかすぎない。マ
ネジメントはスキル中心でも職能中心でもない。マネジメントは仕
事である。実践である。成果を上げることであると。
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一字一句忠実に引用することは私のメルマガの目的ではありませ
ん。私がドラッカーを語る意味は私の目から見てドラッカーをどう
利用するかという点で読者のお役に立ちたいを思うからです。
ドラッカーの原理と一つの経営原理として認められているトヨタ
式経営を比較することは、ニュートン力学がマックスウエルの電磁
場の理論とモデル化という点で似ていて双方を理解するのに便利
なのと同じ理由です。ドラッカーの原理は多くの企業や個人の現実
に反映されて進化する。
■妻の介護を仕事とすると、その目的は「人生の最後の瞬間まで人
生を楽しませる」と以前言いました。行動としては週二回面会し、
手をつないで散歩し、ケーキ、お茶を楽しませる。面会の都度洗濯
物を預け、持ち帰る。洗濯することや散歩すること自体は行為であ
り目的ではない。目的があってはじめてマネジメントと言えます。
「マネジメントは仕事である」と言いました。一人の介護だって人
生のマネジメントです。マネジメントは企業のものでもエリートの
ものでもない。マネジメントは仕事人、すなわち・・・
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おわり
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