目次 ……….. (2) ……….. (2) ……….. (10) 1.序論 1.1. 背景 1.2. 目的 2.1.3. eref によるピークの移動 ……….. (11) ……….. (11) ……….. (11) ……….. (14) ……….. (18) 2.1.4. eref の連続変化による DCTS ピークの分離 ……….. (20) 2.理論 2.1. Dischage Current Transient Spectroscpy(DCTS)法 2.1.1. DCTS 法の基本原理 2.1.2. 膜中のトラップの位置による DCTS 信号の違い 2.1.5. I dis (t ) ∝ t −n ……….. (24) ……….. (28) ……….. (28) ……….. (30) ……….. (31) との違い 2.2. 電流機構 2.2.1. 各原因による電流機構 2.2.2. 電流機構が存在する場合の理論曲線 2.3. キャリアの温度依存性 3.測定結果 3.1. チタン酸バリウムストロンチウム(BST)薄膜 3.1.1. 放電電流依存性 3.1.2. 絶縁性と電流機構およびトラップとの関係 3.2. ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)薄膜 3.2.1. 絶縁性と電流機構 3.2.2. PZT 試料の DCTS 信号 3.2.3. 疲労後の PZT 試料の DCTS 信号 3.2.4. 回復アニールによる絶縁性と DCTS ピークの変化 ……….. (33) ……….. (33) ……….. (33) ……….. (35) ……….. (37) ……….. (37) ……….. (38) ……….. (41) ……….. (43) 4.結論 ……….. (47) 謝辞 ……….. (49) 参考文献 ……….. (50) 1 1. 序論 1.1. 背景 近年の情報処理ではソフトウエアの肥大化が著しい。より多くのデータを処理する機会が増えたか らである。ワークステーション(WS)の世界では、例えばリアリティの高い3次元CG、より精度の 高い気象予報、膨大なインターネット資源のサービス等、この十数年で情報量が爆発的に膨れ上がっ ている。パーソナルコンピュータ(PC)の世界においても同様で、WS とは用途が違うものの情報量が 膨大になっている。PC での画像処理や音声処理などは、十年程昔では一部の職業に携わる人間にし かできなかった。ところが昨今の PC の高速化、大容量化によって、エンドユーザーレベルでも気軽 に楽しめる。例えば画像では、十年以上前では 16 色程度しか扱えなかった。PC で圧倒的なシェア の IBM-PC 互換機では Microsoft 社の Windows の登場を待たなければならなかった。Windows が 登場すると、これまで扱えなかったフルカラーで解像度の高い映像、CD と同等のクオリティーを持 った音声を気軽に楽しめるようになった。Apple 社の Macintosh シリーズでは、それよりも以前に このようなグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)を採用していたが、当時では気軽に買 える値段ではなかった。 エンドユーザーレベルで高度なマルチメディア系のソフトやデータを扱えるようになると、それま でのキャラクター・ユーザー・インターフェース(CUI)とは異なり、記憶装置、処理装置、表示装置 に多大な負担をかけることになる。例えば日本語一文字を表現するのに、CUI では2バイトで済ん だ。ところが、これを適当な大きさのフォントサイズで画像として処理させると、使う色数にもよる が数キロバイトの容量が必要になってくる。もちろん、文章として処理する場合にはキャラクターと して処理すればよいが、ユーザーとのインターフェースが高度になっていることは間違いない。 特に現在は、さらにマルチメディア化が進んでいる。DVD の登場で、静止画だけでなく動画も扱 うようになった。これは、圧縮技術の支援を受けているが、それでも大容量である。CPU にかかる 負担は、マルチメディア化によるデータ処理量の増加に伴って大きくなった。1 という量のデータ処 理を 1 秒でこなすのと、10 という量のデータ処理を 1 秒でこなすという処理とを比べると、後者の ほうが少なくとも 10 倍の処理能力が必要だからである。幸い、CPU の処理能力はデータの増加に 十分対応できる速度で進歩を続けてきた。IBM-PC 互換機で採用されつづけている Intel 社の CPU では、常にデータ量の増加に対応する開発を続けている。もともとハードとソフトは表裏一体で、ハ ードが進めばそれを有効活用するソフトが現れ、ソフトが進めばそれを利用するためのハードが登場 する。このように表現すると、 ハードのソフトの両方でバランスよく進歩を続けられるようにみえる。 しかし、問題はハード自体がバランスよく進歩を遂げていないことである。CPU 自体は 2000 年 度中に 1.4GHz の CPU を出荷できると Intel 社が発表しているように、順調に開発が進んでいる。 HDD も GMR ヘッドの登場により一気に大容量化が進み、エントリーモデルでも現在は 10GB 超の 容量である。グラフィックカードの方も、一昔前のワークステーションを遥かに凌駕するほどの性能 のチップが登場している。サウンドカードでは DVD-VIDEO の登場で、それに対応した複数チャネ ル同時出力のカードが出揃いつつある。問題はメモリである。もともと CPU とメモリは 1 対 1 の関 係である。人に例えると、いくら考える能力が優れている人でも、思い出すのに時間がかかるようで は結果として能力が高くないことになる。ところが、現在のメモリの動作周波数は一般的な SDRAM(Syncronus DRAM)モジュールで 100MHz 程度である。動作周波数ですでに CPU の数分の 2 一の動作速度である。また、数バイト分のデータをブロック転送するために、不要なデータを転送し てしまうことがあり、ロスが多い。さらに、動作速度こそ 100MHz であるが、実際は様々な待機時 間が必要で、これも動作ロスにつながる。この問題を解決するために、現在の一般的なコンピュータ ではキャッシング技術を用いている。 この技術では、 高速な CPU と低速のメインメモリとの中間に、 キャッシュメモリと呼ばれる高速なメモリを一時退避場所に設けている。このキャッシュメモリには、 高価ながら高速なメモリ素子を小容量用いている。CPU がよく使う命令およびデータをこのキャッ シュメモリに退避しておき、メインメモリとのアクセス数を減らして見かけ上高速なシステムにして いる。 そもそも、このキャッシュが存在していることが不自然である。先にも述べたとおり、CPU とメ モリの関係は 1 対 1 でなければならない。低速なメインメモリがシステム全体の足を引くのは避け なければならない。現に、一部のスーパーコンピュータなどでは、CPU の動作速度を 250MHz 程度 に抑え、250MHz の SDRAM を用いて 1 対 1 の関係を保っている。このままでは少々低速なシステ ムなので、この 250MHz のモジュールを複数取り付けて並列処理させて高速な計算を可能にしてい る。しかし、この並列処理は、OS の設計、アプリケーションの設計に高度な技術を要するので、PC にはあまり利用されていない。 そこで、メインメモリの速度を上げることが必要となってくる。数年前までのメモリ転送方式は、 Fast あるいは EDO 方式であった。これは簡単に述べると、システム自体には基本的に非同期であ り、メモリに都合のいいタイミングでデータを送っていた。現在は Syncronus 方式が主流である。 この方式はシステムバスに同期しており、比較的効率のいい転送方式であるが高速動作が難しい。次 世代メモリとして DDR-SDRAM、VCM-SDRAM、DRDRAM の 3 種類を主として市場に出回り始 めている。DDR-SDRAM はシステムクロックの立上がりと立下りを利用して、SDRAM に比べて 2 倍の速度で動作が可能である。VCM-SDRAM はメモリモジュール側に仮想的なキャッシュを用意し て、高速動作を可能にしている。DRDRAM はメモリセルに対するアクセス量を増やし、さらに高速 にデータを送りつづけることにより高速化を可能にしている。 従来のメモリでは 64Bit 転送であるが、 この DRDRAM では 16Bit 転送である。このように転送 Bit 数が少ないにもかかわらず、高速動作 が可能なので、将来の CPU 高速化に対しても十分対応できると、Intel 社及び Rambus 社では報じ ている。ただし、この DRDRAM はアクセスするメモリセルの数が多い分、複雑な回路構成を強い られる。また、高速な転送速度なので、回線品質が悪いと安全な動作を望めない。 以上のメモリモジュールは、すべてメモリセルが同じ構造である。違いはデータの転送方式、ある いはメモリセルへのアクセス方式の違いである。ここで、基本的な 1Tr/1Ca 構造 DRAM メモリでの 1 セルの回路図を図 1.1 に示す。キャパシタ部分で蓄えられた電荷による情報は、MOS-FET スイッ チを通してアクセスされる。このとき、読み出された微小な電荷は、センスアンプによって増幅され て、メモリモジュール外に信号として出力される。 マルチメディア化が進むと、PC はより家電製品に近くなることが望まれる。それによって、PC は省電力化と起動時間の短縮が望まれている。現在、省電力化に対応するために、OS とハードでパ ワーマネージメント機能への対応が進んでいる。これは、PC を使用しないときに周辺機器の電源を 切断して、最低限電力が必要な CPU とメモリにだけ電源を供給しつづける。このとき、すぐにスタ ンバイモードに移行できて、すぐに復帰できる。ただし、対応していない周辺機器も多々ある。また、 停電するとメモリ内のすべての内容が消えてしまう。ハイバーネーション機能というのもあるが、こ 3 Bit Line Word Line MOS-FET Capacitor Bit Line Capacitance: C b for Sence Amp. 図 1.1 1Tr/1Ca 構造 DRAM メモリーでの 1 セルの回路図 れは主にノート PC で使われており、メモリと CPU の内容を一旦 HDD に移して電源を切る機能で ある。次回電源投入時には HDD から直接メモリと CPU の内容を復帰させる。OS のロードがない 分だけ起動が少々早い。 以上より、現在の PC でメモリに問題点の多いことがわかる。この問題点をまとめると、 (a) 高密度化が難しい (b) 電源に対して情報が揮発性である (c) 高速化が難しい の 3 点である。これらについて考える。 問題点(a) 高密度化が難しい DRAM において、最も面積を占めるのがキャパシタである。なぜなら、キャパシタには最低 25 ∼ 30 fF の容量が必要だからである。もしも、この容量以下のキャパシタ容量しかなければ、取り出し た電荷信号はビット線間に存在するビット線間容量によって、信号が正確に読み出せなくなってしま う 1)。ここで、キャパシタ容量は C= Sε 0 ε r d (1.1) で決定される。ここで、 S はキャパシタの面積、 ε r はキャパシタ材料の比誘電率、 d はキャパシタ 膜厚である。容量を確保するために S を大きくすると、高密度化が期待できなくなる。現在は 3 次 4 元構造にして面積を稼いでいるが、これ以上の複雑な構造は製造プロセス上難しい。そこで次に、d を薄くすると容量は大きくなる。しかし、あまり薄くするとトンネリングが発生してしまう。現在で は限界の 4 ∼ 5 nm まで薄膜化されている。このように、現在は面積、膜厚共に限界まで来ている。 ゆえに新たな材料の模索が必要になっている。 従来はメモリのキャパシタ材料に SiO2 や Si3N4 を用いてきた。現在は新たな材料として TaO5 や BST(BaxSr1-xTiO3)等が検討されている。特に BST 材料は、ぺロプスカイト構造の強誘電体材料で、 x の比率によっては室温で常誘電相にもなる。また、バルクでは高誘電率( ε r > 1000 )の材料である。 ただし、この BST 材料をメモリ素子として使用するためには薄膜化する必要がある。BST 材料を薄 膜化すると、誘電率の低下、絶縁性の悪化という問題点が出てくる。 絶縁膜の絶縁性はトラップと関係があると報告されている 2)。そこで、絶縁膜中のトラップを測定 することによって、絶縁膜の漏れ電流の機構を調べることができる。 問題点(b) 電源に対して情報が揮発性である なぜ電源を切断すると情報が失われるかを述べると、図 1.1 で記憶情報であるキャパシタの電荷が、 自己放電で消失してしまうからである。このため、絶えず電源の必要なリフレッシュ動作が必要であ る。また、HDD のように非常に低速な不揮発性の補助記憶装置が必要になっている。この問題を解 決するためには、いつまでも電荷を保持できるメモリ素子が必要である。電荷を保持するためには、 電源が切断されてキャパシタに電界がかからなくなっても、キャパシタの分極が無くならなければよ い。この条件を満たす材料が強誘電体材料である。 この強誘電体材料を図 1.1 に示す従来の DRAM セル回路のキャパシタ部分に適応することによっ て、不揮発性メモリ 3)(FRAM)になる。その FRAM の 1 セル分の回路図を図 1.2 に示す。このよ うな回路構成にすることによって、FRAM は現在実用化されている。 Bit Line Word Line MOS-FET Ferroelectric Capacitor Bit Line Capacitance for Sence Amp. 図 1.2 1Tr/1Ca 構造 FRAM メモリの回路図 5 問題点(c) 高速化が難しい 現在の DRAM 素子では、どのような転送方式であっても構造が同じである。このとき、センスア ンプで増幅するのに時間がかかるので、高速化が難しい。これは、セル部分の微小な電荷をセンスア ンプで増幅するという動作が必要な、現在のセル構造では避けようのない問題である。この問題を解 決するためには、セル部分から大きな信号を送れるようにすればよい。そのために、現在では Field-Effect Transistor(FET)型不揮発性メモリ 4)が研究されている。 図 1.3 に基本となる Metal-Ferroelectric-Semiconductor(MFS)構造 FET 型不揮発性メモリを示す。 この構造のメモリでは、強誘電体の分極によってできたチャネルを流れる電流が情報になる。つまり、 FET の On-Off によって 0-1 情報が区別されるので信号レベルが大きく、センスアンプにかかる負担 が少なくなり、高速化が可能である。また、強誘電体を用いているため、外部電界の有無にかかわら ず残留分極によってチャネルの状態を保存できる。そのため、不揮発性である。また、読み出し時に ソース・ドレイン間に電圧をかけて、FET のチャネル状態で情報を得る。つまり、分極方向に対し ては分極が非破壊なので、反対情報の書き込み時以外に分極を反転させない。ゆえに高耐久性を実現 できる。また、ゲート絶縁膜としてキャパシタを配置しているために、ウェハにおけるセルの占有面 積を小さくできて、高集積化が可能である。これは問題点(a)の高密度化にも対応できる。また、こ のキャパシタの面積も、チャネルを情報信号として使用しているために、ビット線間容量を考えずに 設計できる。 このように、利点の多い MFS 構造 FET 型不揮発性メモリであるが、この構造の場合、強誘電体 の両界面から内部に電荷が注入されて、残留分極が打ち消されてしまう問題がある。 Gate Metal Ferroelectric Source − + n+ − + n-Chanel − + − Polarization + Drain n+ p-Type Semiconductor 図 1.3 MFS 構造 FET 型メモリの構造図(電界無印加かつチャネル保持状態) 6 この問題を解決するには、強誘電体内部に電荷が注入されなければ良いので、強誘電体層をバリア 層で守ることで解決できる。そこで、図 1.4 に示す Metal - Dielectric - Ferroelectric - Dielectric Semiconductor(MDFDS)構造 FET 型不揮発性メモリが当研究室で提案されている。この構造での常 誘電体の比誘電率を ε D1 、ε D2 とし、強誘電体の誘電率を ε F としたとき、各誘電体膜にかかる電界は、 E D1 : E F : E D 2 = 1 1 1 : : ε D1 ε F ε D2 (1.2) となる。この式から、常誘電体の誘電率を強誘電体の誘電率よりも充分大きくすると、常誘電体にか かる電界を小さく抑えることができる。ゆえに、この常誘電体膜中を進入する電荷にかかる電界が小 さくなって、電荷の注入を抑えられる。このようなバリア層を実現するためには、誘電率が高くて絶 縁性に優れている常誘電体薄膜を作製する必要がある。そのためには、誘電率の高い物質の絶縁性を 調べなければならない。もれ電流とトラップは密接な関係があると報告されているので、電流特性と トラップから評価する。 また、強誘電体にも問題点が多い。主な問題点としては、分極疲労現象 5)とインプリント現象 6) が上げられる。まず、分極疲労現象であるが、図 1. 5 (a)の実線に示すような正常なヒステリシスル ープが、分極反転を繰り返し行っているうちに、同じ電界をかけても図 1.5(a)の破線に示すように分 極量が減少してしまう。一方インプリント現象の方は、図 1.5(b)に示すように、かけた電界と分極量 とがずれたように一致しなくなる現象である。これらの現象は、キャリアが強誘電体内部でトラップ されて、ドメイン単位で分極を一方向に留めてしまう、ドメインピニングが原因であると考えられて いる 7)∼11)。 − Polarization + Gate Metal − + − + − + Source n+ − + − + − + − + − + − + n-Chanel E D1 Dielctric EF Ferroelectric E D2 Dielctric n+ p-Type Semiconductor Drain 図 1.4 MDFDS 構造 FET 型不揮発性メモリ構造図 7 : ε D1 :εF : ε D2 P Normal Fatigued 0 E - (a) 分極疲労時のヒステリシスループ P Normal Imprinted 0 (b) E インプリント時のヒステリシスループ 図 1.5 強誘電体のヒステリシスループ ドメインピニングが起こると、トラップされた電荷によって、分極はかけた電界とは関係なく固定 される。固定された方向で分極疲労になったり、インプリント状態になったりする。図 1.6(a)は正常 な状態の分極を示している。しかし、ドメインピニングが発生し、電界に関係無く分極が相殺される ようになると、そのドメインは分極方向が固定されてしまい、相対的に分極量が減少する。このとき 図 1.6(b)のように、強誘電体は分極疲労を起こしている。また、ドメインピニングによって、電界に 関係無く分極が一方向に発生している場合には、ヒステリシスループが電界方向にずれる。このとき は図 1.6(c)のようになる。このように、空間電荷のトラップによって、分極疲労あるいはインプリン トした状態になってしまう。ゆえに、強誘電体絶縁膜のトラップ評価が必要になる。 8 Polarization Space Charge (Positive) Space Charge (Negative) (a) 正常な状態の分極 Normal Domain Pinning Domain (Decrease Polarization) (b) 分極疲労した状態 Pinning Domain (Static Polarization) (c) インプリント状態 図 1.6 各状態でのドメインの分極 9 1.2. 目的 本研究では、トラップの評価方法として放電電流過渡分光(DCTS)法 12),13)を用いる。DCTS 法では、 グラフ上で各トラップに対応する時間でピークとして現れ、評価ができる。このとき測定範囲内にピ ークが存在しない場合について、新たにパラメータ eref を導入してピークを移動できるようにして、 測定範囲が狭かった問題点を解決する。また、複数の近い放出割合が存在する場合、ピークを分離す ることができなかった問題について、eref を連続で変化させて分離できるようにする。そして、DCTS 信号の放電電流依存性によって、トラップの存在する場所を特定できるようにする。また、トラップ への電荷注入を助長させる原因として、強誘電体薄膜の漏れ電流が考えられる。そして、この漏れ電 流もトラップに起因していると考えられているので、漏れ電流とトラップとの関係を調べる。 チタン酸バリウムストロンチウム(BST)薄膜についての電流‐電圧特性から電流機構を調べて、ト ラップとの関連を調べる。BST 薄膜中に存在するトラップが、膜のどの場所に存在するかを DCTS 信号の放電電流依存性によって調べる。そして、BST 膜が真空アニールされたときの電流特性の劣 化とトラップ密度との対応を調べて、BST 薄膜の真空アニールによる膜の劣化とトラップの関係を 調べる。 ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)薄膜についての電流‐電圧特性から電流機構を調べて、トラップとの 関連を調べる。PZT 薄膜中に存在するトラップを、 eref を用いて広範囲に渡って評価する。このとき 検出されたトラップの放電電流依存性を調べることによって、膜中のどの場所にトラップが存在する かを調べる。また、劣化した PZT 薄膜についてのトラップ評価を行う。このときのトラップの放出 割合の温度依存性を調べることによって、より具体的なトラップ評価を行う。そして、酸素回復アニ ールを行うことによって、膜中の酸素と劣化との関係を調べる。 10 2. 理論 2.1.Dischage Current Transient Spectroscopy (DCTS) 法 絶縁膜のトラップを評価する方法としては、以前から Thermally Stimulated Current(TSC)法 14) が一般的であった。この TSC 法は、一定の変化率で測定温度を低温側から高温側に変化させること によって、トラップを時間的かつ温度的に活性化させて、放出されるキャリアを放電電流として測定 する。このときの放電電流は、 E ν I TSC = I 0 exp − t − t kT β ∫ T T0 E exp − t dT kT (2.1) で表される。ただし、 I 0 はトラップ密度に関係する定数、 E t はトラップ密度、ν t はトラップからの 脱出周波数、β は温度上昇率、T0 は測定開始温度である。この TSC 測定の放電電流をグラフにプロ ットすると、存在するトラップに関係するピークを検出することができる。しかし、TSC 法では未 知数が多いために、そのピークから直接トラップを評価することはできず、理論曲線とのフィッティ ングで評価しなければならない。また、一定の温度上昇率で温度を低温から高温まで変化させねばな らず、測定装置の制御が難しいという問題もある。 そこで、温度を一定にして測定でき、かつ変換したグラフのピーク時間とピーク値から直接トラッ プを評価できる DCTS 法が提案されている。この方法は、一定の温度に設定して放電電流を測定し、 DCTS 法の定義式に従って変換するだけである。そのため、測定装置が非常に単純になる。また、 DCTS 変換したグラフからは直接トラップを評価することができるという利点がある。 2.1.1. DCTS 法の基本原理 Metal-Ferroelectric-Metal(MFM)構造のキャパシタの DCTS 測定には図 2.1 に示す測定回路を用 いる。キャパシタには図 2.2(a)に示すように、充電時に充電電圧 Vcha を印加して、放電時には放電電 圧 Vdis を印加する。すると、キャパシタの膜には、図 2.2(b)に示すように、充電時には充電電流 I cha (t ) 、 放電時には放電電流 I dis (t ) が流れる。このときの I cha (t ) は、膜中に捕らえられる電荷によって流れ る電流 I a (t ) と、リーク電流 I l (Vcha ) が加わった電流が流れる。また、 I dis (t ) は膜中から放出される 電荷によって流れる電流 I d (t ) とリーク電流 I l (Vdis ) が加わった電流が流れる。 放電時間中に膜中に存在している電荷量 Qt (t ) は Qt (t ) = Qt (0) exp( −e t t ) (2.2) である。ただし、 e t はキャリアの放出割合で、 Qt (0) は充電中に蓄えられた電荷量であり、 Qt (0) = qN t S (2.3) である。ただし、 N t は単位面積あたりに捕らえられているキャリア密度で、 S は MFM 構造キャパ 11 Discharging Charging V Vcha I A Metal Ferroelectric Metal (a) − ta 0 t Vdis I cha (t ) = I a (t ) + I l (Vcha ) I V (b) − ta 図 2.1 DCTS 測定回路 t 0 I dis (t ) = I d (t ) + I l (Vdis ) 図 2.2 印加電圧と測定電流 シタの電極面積である。この電荷量の時間経過による減少分が放電電流になるので、 I dis (t ) = dQ t (t ) + I l (Vdis ) = − qSN t e t exp( −e t t ) + I l (Vdis ) dt (2.4) となる。つまり、リーク電流を差し引いた放電電流は、時間と共に指数関数的に減少する。この放電 電流からは未知数の e t と N t を直接求めることができない。そこで、DCTS 信号を D (t ) ≡ −t [I dis (t ) − I l (Vdis )] exp(1) qS (2.5) と定義する。そうすると、式(2.4)より、 D (t ) = N t et t exp( −e t t + 1) (2.6) となる。この式より、 e t t = 1 のときに D (t ) のグラフが最大になる。このときのグラフのピーク値と ピーク時間からそれぞれ N t = D (t m ) (2.7) 1 tm (2.8) et = − − 3 1 12 を求めることができる。ここで、図 2.3(a)にトラップ( e t = 7.84 × 10 s 、 N t = 1.0 × 10 cm −2 ) が存在する場合の放電電流の理想曲線を示す。この放電電流を式(2.4)を用いて DCTS 信号に変換す ると、図 2.3(b)のようなピークをが存在するグラフに変換できる。そして式(2.7)と式(2.8)より、この 12 1 D(t) [×1012cm-2] -Idis(t) [×10-11A] 6 4 2 0 10-1 100 101 102 Time [s] 103 104 0.5 0 10-1 (a) 放電電流特性 100 101 102 Time [s] 103 104 (b) DCTS 信号 図 2.3 最も単純な条件での放電電流と DCTS 信号の理論曲線 2 − − ( e t = 7.84 × 10 3 s 1 、 N t = 1.0 × 1012 cm -2 、 S = 4.91 mm ) − グラフのピーク値( D (t ) = 1.0 × 1012 cm 2 )が直接 N t に、そしてピーク時間( t m = 127s )から e t = 7.84 × 10 −3 s −1 が求められる。 トラップが1種類の場合において、以上のように求められることが解かった。次に、複数のトラッ プが存在する場合はどうなるか考える。この場合、各々の種類のトラップがそれぞれ独立して電荷を 放出する。 この各トラップから放出された電荷は、すべて測定器に検出されるので、流れる電流は各トラップか ら放電される電流の総和である。つまり DCTS 信号は、 D (t ) = ∑ N ti e ti t exp( −eti t + 1) (2.9) i で表される。ここで、図 2.4(a)にトラップが複数存在する場合の放電電流の理論曲線を、図 2.4(b) に DCTS 信号の理論曲線を示す。図 2.4(a)のように、各トラップの放電電流を足し合わせた電流が、 全体の放電電流になる。この放電電流を DCTS 信号に変換するので、図 2.4(b)のように、各トラッ プの DCTS 信号を足し合わせた信号が、全体の DCTS 信号になる。このとき、各 DCTS 信号はピー クから少々の広がりを持っている。そのため、ピークが近い時間に存在する場合、ピーク時間付近の 広がっている部分が他のトラップのピークと重なり合い、正確な評価が難しくなる。このため、ピー クが複数かつ近い時間に存在している場合には、各々のピークを独立して検出する方法が必要である。 13 10-8 1.5 Idis(t) [A] 10-9 10-10 D(t) [×1012 cm-2 ] et 3.74×10-1s-1 7.84×10-3s-1 1.64×10-4s-1 10-11 10-12 10-13 et 3.74×10-1s-1 7.84×10-3s-1 1.64×10-4s-1 3 Traps 1 0.5 3 Traps 10-14 -2 10 10-1 100 101 102 Time [s] 103 104 0 10-2 105 10-1 100 (a) 放電電流特性 101 102 Time [s] 103 104 105 (b) DCTS 信号 図 2.4 トラップが複数存在する場合 ( S = 4.91 mm 、各トラップの N t = 1.0 × 1012 cm -2 ) 2 2.1.2.膜中のトラップの位置による DCTS 信号の違い 先に述べた放電電流は、トラップされたすべての電荷が、充電の時とは反対方向に放出される場合 を考えていた。実際に測定を行う場合には、トラップが MFM キャパシタのどの場所に存在するか を考えなければならない。本研究では、トラップの場所による DCTS 信号の検出の違いを明らかに し、DCTS 信号からトラップの場所を評価できるようにする。 ここで、図 2.5 に示す3箇所にトラップが存在していると考える。まず、上部電極界面付近と下部 電極界面付近に存在するトラップについて考える。この両界面付近から放出される電荷は図 2.6 に示 すように、放出されたらそのまま電極へと流れて測定器に検出される。ここで簡単化のために正孔だ けについて考える。上部電極界面付近から放出された正孔は測定器の電流計に対して逆方向に流れる。 逆に、下部電極界面付近から放出された正孔は、電流計に対して順方向に流れる。そのため、上部電 極界面付近に存在するトラップの放電電流と DCTS 信号は、 I dis (t ) = − qSN t e t exp( −e t t ) + I l (Vdis ) D (t ) = N t et t exp( −e t t + 1) Top Electrode Ferroelectric Bottom Electrode (2.10) (2.11) (1) Top Electrode - Ferroelectric Interface (2) Between Two Electrode (3) Bottom Electrode - Ferroelectric Interface 図 2.5 トラップの存在する位置 14 Bottom Metal Ferroelectric Top Metal Ec Hole Ef Ef Et Ev I A 図 2.6 両電極界面付近から放出された正孔の移動経路 となり、DCTS 信号の定義式通りとなる。しかし、下部電極界面付近に存在するトラップの放電電 流と DCTS 信号は、上部電極界面付近の場合とは逆方向に流れるために、 I dis (t ) = qSN t et exp(−e t t ) + I l (Vdis ) D (t ) = − N t e t t exp( −et t + 1) (2.12) (2.13) と、符号が逆になる。図 2.7 に異なる場所にトラップが存在する場合の DCTS 信号を示す。このと − −1 き 、 上 部 電 極 界 面 付 近 の ト ラ ッ プ を e t = 3.74 × 10 1 s に 、 下 部 電 極 界 面 付 近 の ト ラ ッ プ を e t = 1.64 × 10 −4 s −1 に設定した。また、両トラップの N t を 1.0 × 1012 cm −2 とした。 D(t) [×1012 cm-2 ] 1 Top Metal Interface Peak et=3.74×10-1 s-1 Nt =1.00×1012 cm-2 0.5 0 -0.5 -1 Bottom Metal Interface Peak et=1.64×10-4 s-1 Nt=1.00×1012 cm-2 100 102 104 106 Time [s] 図 2.7 異なる場所にトラップが存在する場合の DCTS 信号 15 この図のように、上部電極界面付近から放出された正孔は DCTS 信号が正方向に、下部電極界面 付近から放出された正孔は DCTS 信号が負方向に検出される。ゆえに、DCTS 信号の正負によって、 上部界面付近からの放出なのか、下部電極付近からの放出なのかを評価できる。ただし、これは放出 されるキャリアが正孔の場合であった。キャリアが電子の場合には、DCTS 信号の負号が正孔の場 合とは逆になる。そのため、放出されるキャリアが電子か正孔かを特定できない場合には、上部電極 か下部電極かを特定できない。ゆえに、場所を特定するには、半導体上に強誘電体膜を成膜して、吸 収および放出されるキャリアを限定するとよい。 絶縁膜中に一様にトラップが分布している場合、捕獲された正孔によって絶縁膜にかかる電界が変 化する。このとき、一様に分布した正の電界が存在するので、次のポアッソン式から考える。 ρ d 2V =− 2 ε 0ε i dx (2.14) 今回の強誘電体絶縁膜を、この方程式に当てはめると、 ρ d 2V =− 2 ε 0ε F dx (2.15) となる。このとき、 x は下部電極からの距離、 ε F は強誘電体の比誘電率、 ρ は絶縁膜中に捕獲され ているすべての正孔密度である。ただし、強誘電体中に捕獲された正孔に、両界面付近に捕獲されて いる正孔密度を含めない。この式を解くと、 V = −x2 V ρ ρ + x dis + d 2ε 0 ε F 2ε 0ε F d (2.16) となる。ただし、 d は強誘電体膜の膜厚である。この式の電圧分布を図 2.8 に示す。このとき、電圧 のピークの場所を x b とすると、 x b よりも下部電極寄り(A の範囲)で放出された正孔は、内部電界 によって下部電極から放出される。また、x b よりも上部電極寄り(B の範囲)で放出された正孔は、 上部電極から放出される。この正孔の分岐点は、 xb = ε 0ε F Vdis d + ρ d 2 (2.17) である。測定器に検出される正孔は、上部より放出された量から下部より放出された量を差し引いた 量なので、放出された全体量からの割合は、 R= ε ε 1 {(d − xb ) − xb } = − 2 20 F Vdis d d ρ (2.18) 16 となる。ただし、この放出される割合が ± 100% 、つまり全放出量を越すことはありえないので、 R > 100% の場合には R = 100% 、 R < −100% の場合には R = −100% になる。そして、この式より R は Vdis に比例することがわかる。 ここで、膜中に存在する正孔の量、 ρ について考える。この ρ は、ある放電時間でまだ放出され ていない電荷量である。ゆえに、1種類のトラップだけのときは、 ρ = Q t (t ) なので、 R (t ) = − 2ε 0ε F Vdis Qt (t )d (2.19) Bottom Metal Ferroelectric A Top Metal B V x d Vdis xb 0 図 2.8 強誘電体膜中の電圧分布 となる。また、数種類のトラップが存在する場合には、 ρ = ∑ Q (t ) なので、 i t i R(t ) = − 2ε 0ε F i ∑ Qt (t ) d i (2.20) Vdis となる。以上より、強誘電体膜中に分布している場合の放電電流は、この出力割合をかけて、 I dis (t ) = − R(t )qSN t e t exp( −e t t ) + I l (Vdis ) D (t ) = R(t ) N t e t t exp( −et t + 1) (2.21) (2.22) となる。つまり、放電電圧依存性を調べて、場所を特定したい場合には、DCTS の式に R(t ) をかけ ればよい。ここで、図 2.9(a)に複数のトラップが、強誘電体膜中に一様に存在する場合の DCTS 信 − −1 − −1 − −1 号を示す。このとき、 e t = 3.74 × 10 1 s 、 e t = 7.84 × 10 3 s 、 e t = 1.64 × 10 4 s の 3 種類のト cm −2 としている。この図でわかるように、短時間側 のピークでは、DCTS 信号が放電電圧に比例して検出される。しかし、長時間側のピークでは、R(t ) の絶対値が100% になってしまうために、DCTS 信号に放電電圧の依存性が現れなくなる。放電電圧 ラップが存在し、各トラップの N t は 1.0 × 10 13 の値、誘電率、膜厚にもよるが、複数のトラップが存在する場合、長時間側のピーク、すなわち放出 の遅いトラップに捕らえられている電荷の影響が大きくなる。つまり、式(2.19)の分母が大きくなる と R(t ) が小さくなり、 R(t ) の絶対値が100% を越さない。そのために DCTS 信号に放電電圧依存性 が現れる。 17 0.5 100 R(t)=100 % 80 Vdis -1.5 V -1.0 V -0.5 V R(t) [%] D(t) [×1013 cm-2 ] 1 60 40 Vdis -1.5 V -1.0 V -0.5 V 20 0 10-2 100 102 104 0 -2 10 106 Time [s] (a) DCTS 信号の放電電圧依存性 100 102 Time [s] 104 106 (b) R(t ) の放電電圧依存性 図 2.9 複数のトラップが膜中に一様に分布する強誘電体膜の理論曲線 − −1 − −1 ( e t = 3.74 × 10 1 s 、 e t = 7.84 × 10 3 s 、 e t = 1.64 × 10 −4 s −1 の 3 種類、各トラップの N t は 1.0 × 1013 cm −2 ) その R(t ) の時間的推移を図 2.9(b)に示す。この図のように、時間が進むにつれて内部の正孔が放出 されて、 R(t ) の絶対値が放電電圧が高い方より、順次100% に飽和してしまう。ゆえに、DCTS 信 号に放電電圧の依存性を持たせたいときには、その誘電体薄膜の膜厚、誘電率を考慮した上で、放電 電圧を決定しなければならない。 以上より、DCTS 信号の放電電圧依存性を調べることにより、次のことがわかる。まず、放電電 圧に依存しないピークは金属電極界面付近である。また、キャリアが限定されている場合には、上部 電極、下部電極の特定が可能である。そして、放電電圧に依存するピークは、膜中に一様に分布して いるトラップであると特定できる。そのときには、放電電圧に比例した大きさのピークが検出される。 かける電圧によっては、 R(t ) の絶対値が 100% を越してしまい、電圧依存が現れない場合がある。 2.1.3. eref によるピークの移動 DCTS 測定法では、放電電流を測定する。この放電電流は時間とともに値が小さくなっていく。 そして、電流を測定できる範囲は測定装置の性能によって限界がある。すると、測定できる時間範囲 も限られる。それゆえに、評価できるトラップも限られてしまう。この問題を解決するには、温度を 変化させることによって、ピークを移動する方法がある。ただし、これは熱的な放出の場合に限られ る。また、あまりにも測定温度を変えると、膜にダメージを与えてしまう危険性がある。 そこで、本研究では DCTS 信号の定義式を新たに作り、ピーク時間を任意に変化できるようにす る。具体的には新たなパラメータ eref を導入した、 18 D (t , e ref ) ≡ −t [I dis (t ) − I l ] exp(1) exp(−eref t ) qS = N t e t t exp[− t (e t + eref ) + 1] (2.23) (2.24) を定義する。この式は式(2.5)にある DCTS 信号の原理式に、 exp( −eref t ) をかけただけである。しか し、この eref を導入することによって、ピーク時間が t m = 1 /(e t + e ref ) になる。つまり、 eref によっ てピーク時間を移動することが可能になる。この測定範囲内に移動したピークの時間と値から各々、 et = 1 − eref t m tm Nt = (2.25) D (t , e ref ) 1 − e ref t m (2.26) DCTS を求めることができる。 図 2.10 では、 実際に DCTS 信号のピークを移動させている。 このとき、 − −1 -2 信号の計算パラメータとして e t = 7.84 × 10 3 s 、N t = 1.0 × 1012 cm を用いた。このトラップから −1 の放電電流は図 2.10(a)のようになる。この放電電流を従来の DCTS 変換式( eref = 0 s と同等)で s −1 を用いて DCTS 変換すると、破線のグラフのようにピーク時間を移動できる。そして、移動したピークの t m = 12 s を − −1 式(2.25)で計算すると e t = 7.89 × 10 3 s を求められ、設定した放出割合を求めることができる。ま − -2 -2 た、ピーク値 D (t m ,6 × 10 2 ) = 1.12 × 1011 cm を式(2.26)で計算すると、N t = 1.0 × 1012 cm になり、 変換すると、図 2.10(b)の実線のグラフになる。新しく定義した eref に 6.00 × 10 −2 D(t,6.00×10-2 ) [×1012 cm-2 ] 設定した値を求めることができる。 0.2 D(t,0) [×1012 cm-2 ] -Idis (t) [×10-11 A] 6 4 2 -1 eref =0 [s ] 1 eref =6.00×10-2 [s-1] 0.1 0.5 0 10-1 100 101 102 Time [s] 103 0 104 10-1 100 101 102 103 Time [s] (a) 放電電流特性 (b)移動した DCTS 信号 図 2.10 eref を用いた DCTS ピークの移動 ( S = 4.91 mm 、 e t = 7.84 × 10 −3 s −1 、 N t = 1.0 × 1012 cm -2 ) 2 19 104 0 このように、ピーク時間の移動を自由に行うことができると、図 2.11 の実線に示すように、従来 の DCTS 変換ではピークが測定時間内に現れなかった場合に、ピークを測定時間内に移動して評価 − −1 することができるようになる。図 2.11 では、トラップのパラメータとして et = 1.13 × 10 3 s 、 N t = 1.0 × 1012 cm -2 で計算している。しかし測定時間が限られると、従来の DCTS 法ではピークを s −1 を用いて DCTS 信号に変換すると、破線のよ うにピークを測定時間内に移動できるようになる。このピークの t m = 156 s に式(2.25)を用いて、設 − −1 定 し た 値 et = 1.13 × 10 3 s を 求 め る こ と が で き た 。 ま た 、 こ の ピ ー ク の 値 D (t m ,5 × 10 −2 ) = 2.20 × 1011 cm -2 に式(2.26)を用いて、設定した値 N t = 1.0 × 1012 cm -2 を求めること 観測することができない。ここで、eref に 5.0 × 10 −3 ができた。 以上より、従来の方法では測定範囲外であったために評価不可能であったピークを、本研究で新し D(t,0) [×1012 cm-2 ] 1 -3 eref =5.00×10 s -1 2 0.5 1 eref =0 s-1 0 101 102 0 D(t,5.00×10-2 ) [×1011 cm-2 ] く導入したパラメータ eref を用いることによって、評価することが可能となった。 Time [s] 図 2.11 ピークが測定時間内に現れなかった場合のピークの移動 − −1 -2 ( et = 1.13 × 10 3 s 、 N t = 1.0 × 1012 cm ) 2.1.4. eref の連続変化による DCTS ピークの分離 DCTS 信号は鋭いピークを持たない。ゆえに、複数の近い放出割合をもつトラップが、互いに重 なり合う場合には、DCTS 信号は各々のピークが重なり合う。そのため、ピークがわかりにくくな ってしまう。この問題を解決するために本研究では、eref を連続で変化させることによって、各 eref で 支配的となるピークを取り出して、各々のピークを分離して評価する方法を考案した。 図 2.12(a)は、 eref を連続で変化させたときの DCTS 信号を示している。今回は、ピークの変化が わかりやすいように、比較的離れた放出割合のトラップを設定して計算した。2つのトラップの N t は cm -2 を用いて、 eref は短時間側のピークに 3.74 × 10 −1 s −1 を、長時間側のピークに 7.84 × 10 −1 s −1 を用いて計算した。 eref を変化させることにより、ピークが移動しつつ、ピーク値が 大きく変化していくことがわかる。そのとき、その eref で支配的となるピークのみが相対的に大きく なる。 eref を連続で変化させてグラフより求めた e t を図 2.12(b)に示す。このように e t を完全に分離 できる。トラップ密度についても同様で、 eref と N t の関係を図 2.12(c)に示す。長時間側のピークが 各 1.0 × 10 12 短時間側のピークと少し重なっているために、長時間側のピーク値が若干大きな値になっているが、 20 ほぼ設定した値を一定に検出できている。この方法で用いている eref によるピーク時間の変化よりも、 ピーク値の変化の方が非常に大きい。ゆえに、支配的なピークが替わる境界の eref でも、変化量を細 かくとって eref を変化させることによって、完全に分離することができる。つまり、分離できるピー クの解像度が高い。 D(t,eref ) [×1012 cm-2 ] 5 eref [ s-1 ] 4 -3 -6.00×10 -4.00×10-3 0 2.00×10-3 -3 4.00×10 6.00×10-3 3 2 1 0 -2 10 10-1 100 101 102 Time [s] 103 104 (a) eref の変化による支配的なピークの推移 1.2 Nt [×1012 cm-2 ] 1 et [s-1 ] 10-1 0.8 0.6 0.4 0.2 10-2 0 -5 (b) 0 -3 -1 eref [×10 s ] 5 (c) eref の連続変化による e t の分離 図 2.12 -5 0 -3 -1 eref [×10 s ] 5 eref の連続変化による N t の変化 eref の連続変化(各 N t = 1.0 × 1012 cm -2 、短時間側 e t = 3.74 × 10 −1 s −1 、 − −1 長時間側 e t = 7.84 × 10 1 s ) 21 このように、複数のトラップは eref を連続変化させることによって分離できることがわかった。そ こで今度は、グラフ上では分離の難しい複数のトラップが存在する場合の DCTS 信号について、ピ ークを分離してみる。分離の難しい、すなわち放出割合の近いトラップが存在する放電電流の理論曲 線を、表 2.1 の設定で計算した。この放電電流を従来の DCTS 法で表示すると、図 2.13 のようにな る。しかし、3つのトラップの DCTS 信号が重なり合い、実線で示される DCTS 信号は各々3つの ピークが区別しにくくなっている。 −5 −1 ここで、図 2.14 のように eref を連続で変化させる。まず、図 2.14(a)に eref を − 2.00 × 10 s から 1.01 × 10 −4 s −1 まで変化させたときの、DCTS 信号の形状を示す。ここでは、代表的な値として、 eref = 0 s −1 を用いたときの DCTS 信号を表示している。この eref の範囲内では、どのような eref の値 でも、トラップ 1 のピークが支配的となる。また、ピーク時間から e t を求めても、ほぼ同一の値を −4 −1 −4 −1 とる。次に、図 2.14(b)に eref が 1.33 × 10 s から 2.70 × 10 s まで変化させたときの、DCTS 信 − −1 号の形状を示す。この図では、代表的な値として、 eref = 5.00 × 10 4 s を用いて表示している。こ −4 −1 の eref の範囲内では、トラップ 2 のピークが支配的になる。最後に、図 2.14(c)に eref が 2.99 × 10 s −4 −1 から 2.00 × 10 s まで変化するときの DCTS 信号の形状を示す。この図では、代表的な値として、 eref = 5.00 × 10 −4 s −1 を用いて表示している。この範囲内では、トラップ 3 のピークが支配的になる。 表 2.1 設定したトラップ トラップ 番号 1 2 3 トラップの 放出割合 −1 [s ] 1.13 ×10 −3 7.84 × 10 −3 3.68 ×10 −2 22 トラップ 密度 [cm -2 ] 1.0 ×1012 5.0 ×1011 5.0 ×1011 D(t,0) [×1012 cm-2 ] DCTS Signal 1 Trap 1 Trap 3 Trap 2 0.5 0 101 102 103 104 Time [s] 図 2.13 近い放出割合を持つ複数のトラップが存在するために D(t,2.00×10-4 ) [×1012 cm-2 ] D(t,0) [×1012 cm-2 ] ピークを分離しにくい DCTS 信号 1 0.5 0 101 (a) 102 103 1 0.8 0.6 0.4 0.2 104 Time [s] −5 1.2 −1 eref を − 2.00 × 10 s −4 −1 から 1.01 × 10 s まで 0 (b) D(t,5.00×10-4 ) [×1012 cm-2 ] 変化させたときの DCTS 信号 (c) 101 102 103 Time [s] eref を 1.33 × 10 −4 s −1 −4 −1 から 2.70 × 10 s まで 変化させたときの DCTS 信号 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 101 104 102 Time [s] 103 104 eref を − 2.00 × 10 −5 s −1 から 1.01 × 10 −4 s −1 まで変化させたときの DCTS 信号 図 2.14 eref を連続変化させた時の DCTS 信号の形状の変化 23 このように、今回設定したトラップでは、3種類の eref 範囲で支配的となるピークが決定し、その 範囲内で各 e t および N t が一定になる。このため、 eref を連続で変化させることによって、図 2.15 に 示すように、完全に e t および N t を3種類に分解することができる。ここで、理論曲線を計算するに あたって用いた設定値と、 eref の連続変化で求めた値とを表 2.2 で比較している。これによると、ト ラップ 1 の誤差は e t と N t の両方でかなり小さい。そして、トラップ2とトラップ3では e t が設定し た値より小さくなっていて、 N t は逆に大きくなっている。これは、設定したトラップ1の N t が、 他のトラップよりも大きかったために、トラップ2、3が受ける影響が大きくなってしまったためで ある。以上より、近い放出割合を持つ複数のトラップが存在するとき、この方法を用いるとトラップ の区別はできる。しかし、近い放出割合のトラップの場合、e t と N t の値が互いに影響を受け合って、 近い値になってしまうので注意が必要である。 Nt [×1012 cm-2 ] et [s-1 ] 1 10-2 0.8 0.6 0.4 0.2 Setting Value Setting Value 10-3 0 (a) 2 -4 -1 0 4 eref [×10 s ] 0 2 4 eref [×10-4 s-1 ] (b) N t と eref の関係 e t と eref の関係 図 2.15 eref を連続変化させた時の e t と N t の変化 表 2.2 計算に用いたトラップの放出割合と DCTS 信号より求めた放出割合との比較 トラップ 番号 1 2 3 eref の連続変化で求めた値 計算に用いた値 e t [s −1 ] N t [cm −2 ] e t [s −1 ] N t [cm −2 ] 1.13 × 10 −3 7.78 × 10 −3 3.68 × 10 −2 1.00 × 1012 5.00 × 1011 5.00 × 1011 1.2 × 10 −3 3.7 × 10 −3 1.9 × 10 −2 1.0 × 1012 9.6 × 1011 9.0 × 1011 2.1.5. I dis (t ) ∝ t − n との違い 図 2.4(a)では 3 種類のトラップが存在しているときの放電電流特性を示している。もしもこれが、 さらに多種類かつ、近い放出割合を持つトラップが存在している放電電流の場合、両対数グラフに表 示すると直線に近くなる。これは、一般的に絶縁膜からの放電に関して言われている、 24 I dis (t ) ∝ t − n (2.27) と同じような形になる。このときの n は任意の正数である。この式で表される放電電流は、両対数グ ラフにプロットすると直線になる。ここで、 n の値を次の3種類に分類して、放電電流から DCTS 変換した結果について考察する。 ・ n > 1 の場合 図 2.16 に n = 2.0 が場合の放電電流を DCTS 信号に変換した結果を示す。 eref を導入していない 場合は図 2.16(a)に示すように測定時間範囲内にピークを検出できない。そこで、 eref を変化させて ピークを移動すればよいが、この放電電流の場合、 eref をどのような値にしても図 2.16(b)に示すよ うに測定範囲内にピークを移動することができない。 D(t,-2.00×10-3 ) [×1013 cm-2 ] D(t,0) [×1014 cm-2 ] 1.5 1 0.5 0 1 10 (a) 102 Time [s] 103 3 2 1 0 101 102 Time [s] 103 (a) eref を導入した場合 eref を導入していない場合 図 2.16 n = 2 の場合の DCTS 信号の形状 ・ n = 1 の場合 この場合は、放電電流が時間の逆数になる。放出割合が et = 1 t (2.28) であるとき、トラップからの放電電流の式(2.4)が、時間の逆数の式になる。このような放出割合が 存在するトラップでは、放出割合がすべての時間に存在するので、一様に分布している放出割合が存 在するトラップに相当する。式(2.6)に式(2.28)を代入すると D (t ) は一定値になり、一様に分布して いる放出割合が存在していることがわかる。また、図 2.17(a)に示す DCTS 信号からも一様に分布し ている放出割合が存在していることがわかる。このとき、 eref を変化させると、 eref < 0 の場合には 25 単調増加になり、 eref > 0 の場合には単調現象になり、ピークを検出できない。 2 1 0 1 10 102 Time [s] D(t,-1.00×10-3 ) [×1015 cm-2 ] (a) 8 6 4 2 0 101 (b) 102 Time [s] 103 eref < 0 の場合 図 2.17 103 eref を導入していない場合 D(t,5.00×10-2 ) [×1014 cm-2 ] D(t,0) [×1014 cm-2 ] 3 1 0.5 0 101 102 Time [s] (c) 103 eref > 0 の場合 n = 1 の場合の DCTS 信号の形状 ・ n < 1 の場合 図 2.18 は n = 0.3 の場合の DCTS 信号であるが、この場合は eref を適当な値にすることにより、測 定範囲内にピークを検出できる。ゆえに、トラップされた電荷の放出によるピークとしてみてしまう 可能性がある。しかし、この場合は eref を連続変化させることによって、トラップの電荷からの放出 かどうかを判断できる。 eref を連続変化させた場合の eref と e t の関係を図 2.19(a)に、 eref と N t の関 係を図 2.19(b)に示す。式(2.27)に従う電流を検出したとすると、この図に示すように e t あるいは N t を階段状には分離できない。ところが、複数種類の放出割合を持つトラップの電荷からの放出では、 図 2.15 のように階段状に分離できる。ゆえに、測定範囲内にピークを観測できて、なおかつ eref の 連続変化で e t を階段状に分離できるピークは、トラップの電荷からの放出による放電電流を検出し ていると判断することができる。 26 D(t,2.00×10-3 ) [×1015 cm-2 ] 1.5 Idis(t) ∝ t-n by a Trap 1 0.5 図 2.18 0 101 102 Time [s] 103 n = 0.3 の場合の DCTS 信号の形状 1.5 Nt [×1019 cm-2 ] et [×10-3 s-1 ] 3 2 1 0.5 1 0 2 (a) 4 -3 6 -1 eref [×10 s ] 0 8 2 4 6 eref [×10-3 s-1 ] (b) eref と e t の関係 eref と N t の関係 図 2.19 n = 0.3 の場合での eref の連続変化 27 8 2.2. 電流機構 2.2.1. 各原因による電流機構 15) 絶縁膜に電圧をかけたときに微小ながら電流が流れる。一般的に、この電流は表 2.3 に示される機 構が原因で流れる。そして、これらの機構は表 2.4 に示されることが原因である。また、一つの絶縁 膜中に複数の機構が同時に存在する場合がある。このときは、ある電圧範囲、ある温度範囲において 1 種類だけが支配的になる。 表 2.3 絶縁膜中の電流機構とその式 電流機構 ショットキー放出 Poole-Frenkel 放出 トンネルまたは 電界放出 空間電荷制限 オーム性 (ホッピング) イオン伝導 式 ( − q φ B − qε / 4πε i J = A∗T 2 exp kT − q φ B − qε / πε i J ∼ε exp kT ( ) 3 ∗ 2 m q φ 4 2 ( ) 2 B J ∼ ε exp − 3qhε 8ε i µV 2 J= 9d 3 ∆Eae J ∼ε exp − kT J= ε exp − ∆Eai T kT ) 電圧-温度との関係 a V ∼T 2 exp + T 2a V ∼V exp + T b ∼V 2 exp − V ∼V 2 c ∼V exp − T ∼ d' V exp − T T ∗ ただし、 A = 有効リチャードソン定数、 φ B = バリアー高、 ε = 電界、 ε i = 絶縁膜の誘電率、 m ∗ = 有効質量、 d = 絶縁膜膜厚、 ∆Eae = 電子の活性化エネルギー、 ∆Eai = イオンの活性化エネルギー、 a ≡ q /(4πε i d ) 、 V = εd 、 b と c 及び d ' は V と T に依存する正の定数 28 表 2.4 絶縁膜中の電流機構と原因 電流機構 ショットキー放出 Poole-Frenkel 放出 トンネルまたは電界放出 空間電荷制限 オーム性(ホッピング) イオン伝導 電流の流れる原因 界面付近で放出された熱電子が障壁を超えることによる。 捕獲された電子が電界で活性化され、 伝導帯に熱励起されることによる。 金属のフェルミ準位から絶縁物の伝導帯に電子が トンネルする(トンネル) 。捕獲された電子が電界によって 伝導帯中にイオン化される(電界放出) 。 電荷の存在しない絶縁膜中に注入されたキャリアによる 熱的に励起された電子が各々独立したトラップ準位を 飛び移ることによる。 絶縁膜中のイオンが電界によって内部を移動することによる。 このように様々な機構が原因で電流が流れるため、複数種類の電流機構を区別する必要がある。方 法としては、 温度あるいは電圧を固定させて、 各々の電流機構を特徴化させることによって区別する。 その上で電流−電圧あるいは電流−温度のグラフをプロットする。もし、ある電流機構で直線になる グラフにプロットしてみて、直線に乗る部分があるならば、その電圧、あるいは温度範囲で、その電 流機構が支配的であることになる。このとき、どのようなグラフで、どの電流機構が直線になるかを 表 2.5 に示す。 表 2.5(a) 電流機構 ショットキー放出 Poole-Frenkel 放出 トンネルまたは 電界放出 空間電荷制限 オーム性 (ホッピング) イオン伝導 ただし、 a ≡ 絶縁膜中の各電流機構における電圧と電流の関係(温度一定) 電圧、温度と 電流との関係 a V ∼T 2 exp + T 2a V ∼V exp + T b ∼V 2 exp − V ∼V 2 c ∼V exp − T d' V ∼ exp − T T 電圧と電流の関係 ( T = 一定の時) プロットして 直線になるグラフ ∼ exp( V ) ln(J ) vs. V ∼V exp( V ) J ln( ) vs. V V 1 ∼V 2 exp( − ) V 2 ∼V J 1 ) vs. 2 V V ln(J ) vs. ln(V ) ∼V J vs. V ∼V J vs. V ln( q /(4πε i d ) 、 V = εd 、 b と c 及び d ' は V と T に依存する正の定数 29 表 2.5(b) 絶縁膜中の各電流機構における温度と電流の関係(電圧一定) ショットキー放出 Poole-Frenkel 放出 トンネルまたは電 界放出 a V ∼T 2 exp + T 2a V ∼V exp + T b ∼V 2 exp − V 空間電荷制限 ∼V 2 オーム性 (ホッピング) c ∼V exp − T d' V ∼ exp − T T イオン伝導 温度と電流の関係 ( V = 一定の時) 電圧、温度と 電流との関係 電流機構 1 ∼T 2 exp( ) T 1 ∼ exp( ) T プロットして 直線になるグラフ ln( J 1 ) vs. 2 T T ln(J ) vs. 温度変化に対して 電流一定 − 温度変化に対して 電流一定 − 1 ∼ exp( − ) T ∼ 1 1 exp( − ) T T ln(J ) vs. ln( J ⋅ T ) vs. 1 T 1 T 1 T q /(4πε i d ) 、 V = εd 、 b と c 及び d ' は V と T に依存する正の定数 ただし、 a ≡ 2.2.2.電流機構が存在する場合の理論曲線 ここで具体的に、理論式でシミュレーションした電流を評価してみる。そのため、ある絶縁膜を仮 定する。この絶縁膜のパラメータとして、膜厚 d = 500 Å、比誘電率 ε i = 3.0 、温度 T = 300 K と Poole-Frenkel と Ohmic を用いた。 Poole-Frenkel した。 また、 この絶縁膜に作用する電流機構として、 の パ ラ メ ー タ と し て 、 バ リ ア ー 高 φ B = 0.6 V 、 ト ラ ッ プ 密 度 に 関 係 す る 定 電 流 J 0:Poole −Frenkel = 1.0 × 10 −12 A ⋅ cm -2 と し た 。 ま た 、 Ohmic の パ ラ メ ー タ を 、 活 性 化 エ ネ ル ギ ー ∆Eae = 0.9 eV 、 J 0:Ohmic = 1.0 × 10 −5 A ⋅ cm -2 に設定した。 この絶縁膜の電流−電圧特性を普通にプロットしたものを図 2.20 に示す。このままでは、どの電 流機構が存在するのか判断し難い。 J [×10-10 A cm-2 ] 2 1 0 -1 -2 -5 0 V [V] 5 図 2.20 Poole-Frenkel 機構と Ohmic 機構が存在する場合に流れる電流の理論曲線 30 そこで、Poole-Frenkel 機構で直線になるグラフに、この電流−電圧特性をプロットした図が図 2.21 である。この図では、直線部分が2種類存在する。まず、傾きが無い、すなわち電流値が一定 の範囲が約 0.7 V 1/ 2 まで存在する。表 2.5(a)によると、Ohmic 機構の電流を電圧成分で割ると、印 加電圧に関係なく一定となる。つまり、電流を印加電圧で割った Poole-Frenkel のグラフでは、Ohmic 機構の電流は一定になる。ゆえに、この図の電流値が一定になっている範囲は、Ohmic 機構が支配 的になっていると考えられる。また、 一定の傾きをもった約1.4 V 1/ 2 以上の範囲では、Poole−Frenkel 機構が支配的になっていると考えられる。このようにして、このグラフから2つの機構に分けること ができる。 以上より、I-V 特性を測定して、対応するグラフにプロットすることによって、どの電流機構が存 在し、どの範囲で支配的かを特定できる。そして、トラップ評価と対応させることにより、より正確 な絶縁膜の電気的評価が可能になる。 J/V [A cm-2 V -1 ] 10-10 Total 10-11 10-12 10-13 10-14 Ohmic 10-15 Poole-Frenkel 10 -16 0 1 1/2 V 1/2 [V ] 2 図 2.21 Poole-Frenkel 機構で直線となるグラフにプロットした理論曲線 2.3. キャリア放出の温度依存性 トラップだけに限らず、絶縁膜から熱的な要因で電荷が放出される場合、放出割合は、 ∆E e t = A exp − kT (2.29) というアレニウスの式で表される。ただし、 A は比例定数で、 ∆E は活性化エネルギーである。この 式は、縦軸が 1 / T 、横軸が ln e t のグラフにプロットすると直線になる。そして、このグラフの2点 からグラフの傾きは、 31 − ∆E ln e t2 − ln et1 = 1 1 k − T2 T1 (2.30) となる。この式より片対数グラフから ∆E を求めることができる。また、 A も傾きがわかれば以下の ように求まる。 ∆E A = et exp kT (2.31) これらのことから、トラップの e t の温度依存性がわかれば、 A と ∆E を求めることができる。 また、この放出がトラップからの放出であるとすると、式(2.29)の放出割合の式は E − Ev et = ν t exp − t kT (2.32) になる。このとき、 ν t はキャリアの脱出周波数であり、理論的に絶縁膜の光学フォノン周波数 ( 1× 1013 s -1 )に近い。そして、求めたν t ならびに E t がトラップとしての可能性があるかどうかを検討 することによって、キャリアの放出がトラップが原因なのか、それとも他に原因があるかを評価する ことができる。 32 3. 測定結果 本研究では、p-Si 基板上に成膜した BST 薄膜と、Pt 上に成膜した PZT 薄膜の2種類について、 DCTS 測定を行い、評価した。また、各々について電流−電圧特性を評価し、絶縁性についても評 価した。そして、このトラップの測定と、絶縁性の測定から、トラップと絶縁性の関係について評価 した。 3.1. BST 薄膜 本研究で用いた試料は、Al/BST/Si の MIS 構造ダイオードである。この MIS 構造ダイオードの構 造図を図 3.1 に示す。まず、基板となる p+-Si 上に、Ba0.4Sr0.6TiO3 の MOD 溶液をスピンコート法 で塗布する。そして、乾燥、プリベーク、ベークを経て焼成する。最後に上面に Al 電極を真空蒸着 させて、その試料を測定して評価した。今回用いた BST 試料のデータを表 3.1 に示す。 Al Top Electlode BST Thin Film p+-Si (a)全体図 (b)断面拡大図 図 3.1 BST 試料の構造図 表 3.1 BST 試料のデータ 絶縁膜材料 絶縁膜膜厚 成膜方法 基板材料 表面電極材料 電極面積 Ba0.4Sr0.6TiO3 512.8 Å MOD−スピンコート法 p+-Si Al 4.91 mm 2 円形 3.1.1. 放電電圧依存性 2.1.2 項で述べたとおり、放電電圧の依存性を調べることによって、トラップの場所を特定できる。 そこで、この BST 試料を、数種類の放電電圧を用いて DCTS 測定した。表 3.2 に DCTS 測定のパラ メータを示す。この表のように、充電時は同じパラメータを用い、放電電圧のみを変化させて放電電 圧依存性を調べる。Vdis = 0 V での放電電流特性を図 3.2 に示す。そして、この測定で得られた DCTS 信号を図 3.3 に示す。この図では、DCTS 信号の鋭いピークがみられない。ゆえに、トラップの放出 2.1.2 項で述べた通り、Vdis = 0 V で測定した DCTS 信号が、 割合が広く分布していると考えられる。 界面付近に存在するトラップである。今回は p-Si を用いて正孔をキャリアとして 33 表 3.2 DCTS 測定のパラメータ 充電 電圧 [V] 放電 時間 [s ] 電圧 [V] 時間 [s ] 3600 − 0.5 − 0.3 0 0.3 0.5 3600 2.0 1 10-10 -Idis(t) [A] Idis(t) [×10-10 A] 0.8 0.6 0.4 0.2 0 10-11 10-12 10-13 101 102 Time [s] 103 101 102 Time [s] 103 D(t,0) [×1011 cm-2 ] 図 3.2 放電電流特性 2 Vdis [V] 0.3 0.5 Vdis [V] -0.5 -0.3 0 1 0 101 Time [s] 102 図 3.3 BST 薄膜の DCTS 信号の放電電圧依存性 限定しており、さらに DCTS 信号が正方向に検出されているので、この検出された界面付近のトラ ップは上部電極界面付近に存在すると考えられる。そして、DCTS 信号が全域に渡って、放電電圧 によって変化しているのがわかる。 放電電圧との関係を調べるために図 3.4 に、8.5 s と 60 s の 2 点について DCTS 信号の値を縦軸に、 放電電圧を横軸にしてプロットしている。少々ばらつきがあるものの、式(2.18)と式(2.22)に示すよ うに DCTS 信号の大きさは、放電電圧に比例している。ゆえに、放電電圧で変化した分が、膜中に 分布しているトラップであることがわかった。 34 D(t,0) [×1010 cm-2 ] 1.8 1.6 1.4 1.2 Time 8.5s 60s 1 0.8 -0.5 0 0.5 Vdis [V] 図 3.4 DCTS 信号と放電電圧の関係 3.1.2. 絶縁性と電流機構およびトラップとの関係 本研究では、絶縁性とトラップの関係を調べるために、測定回数の増加に伴う膜のダメージについ て調べる。このとき、ダメージを受けたときの電流特性と、トラップとを比べて対応させることによ って、絶縁性とトラップの関係を評価することができる。 BST 試料を真空中のチャンバー内で、温度を 373 K に加熱して電流測定を行い、次に DCTS 測定 を行った。この 2 種類の測定を 1 回とカウントする。このとき、回数を重ねて測定すると、3 回目の 測定で絶縁破壊を起こした。ゆえに、回数を重ねていくと、絶縁膜がダメージを受けていく可能性が あると考えられる。ここで、1 回目と 2 回目の電流特性を図 3.5 に示す。この図から明らかなように、 1 回目よりも 2 回目のほうが電流が多く流れている。つまり、絶縁膜がダメージを受けていることが わかる。 10-5 -6 -2 J [A cm ] 10 Experimental 1st 2nd 10-7 10-8 10-9 373K 10-10 -2 0 V [V] 2 図 3.5 BST サンプルの電流特性 35 そこで、この BST 試料の電流特性がトラップとどのような関係にあるかを調べる。そのために、 Poole-Frenkel 機構かどうかを調べるために、縦軸 J / V 、横軸 V のグラフにプロットする。プロ ットした図が図 3.6 である。この図では、1 回目と 2 回目の両方とも Poole-Frenkel 機構とよく一致 する。そのため、この電流の増加はトラップの増加が原因であると考えられる。また、Poole-Frenkel 機構はトラップ密度と電流量が対応している。そのため、この図の電流の増加が 2 桁程度増加して いることから、トラップ密度も 2 桁程度増加していると考えられる。ここで、図 3.7 に 1 回目と 2 回目の DCTS 信号を示す。また、このときの DCTS 測定のパラメータを表 3.3 に示す。この図のよ うに、2 回目で DCTS 信号の増加があった。これは、絶縁破壊直前にトラップが出現したことを意 −2 味する。またこのグラフのピーク値から N t = D(t m ,0) = 1.0 × 1013 cm が、ピーク時間 t m = 245 s か − ら、 e t = 4.1 × 10 3 s が求められた。ただし、この図の点線に示すように、単一トラップの理論曲線 よりも、2 回目のピークの方が広がりを持っているので、放出割合が少々分布したトラップであると 考えられる。また、この 2 回目のトラップ密度の増加は 2 桁程度であった。 以上より、電流密度の増加と、トラップ密度の増加が対応していることがわかった。ゆえに、今回 測定した BST 試料では、電流密度の増加と、トラップ密度の増加には密接な関係があると考えられ る。 1.5 J/V [A cm-2 V -1 ] D(t,0) [×1013 cm-2 ] 1st 2nd 10-6 -7 10 10-8 373K 10-9 1 1.2 1/2 V 1.4 1/2 [V 1.6 1 ] 373K 0.5 0 1.8 Experimental 1st 2nd Simulation Nt=1.03×1013cm-2 et =4.08×10-3s-1 101 102 Time [s] 図 3.7 BST 試料の DCTS 信号 図 3.6 Poole-Frenkel 機構で 直線になるグラフ 表 3.3 DCTS 測定のパラメータ 充電 1 回目 2 回目 103 放電 電圧 [V] 時間 [s ] 電圧 [V] 時間 [s ] 2.0 3600 0 − 0.5 3600 36 3.2. PZT 薄膜 本研究で用いた PZT 薄膜は、図 3.8 に示す構造である。このとき、各種測定は上部 Pt 電極と下部 Pt 電極を使用しているために、PZT 試料は MFM 構造になっている。この PZT 試料は、Pt/SiO2/Si 基板上に MOCVD 法によって PZT 薄膜を成膜している。 そして上部電極に Pt を真空蒸着している。 表 3.4 に今回使用した PZT 試料の作成データを記す。 Top Pt Electlode PZT Thin Film Bottom Pt Electlode SiO2 Thin Film Si 図 3.8 PZT 試料の構造 表 3.4 PZT 試料のデータ PbZrxTi1-xO3 2000 Å MOCVD 法 Pt/SiO2/Si Pt 絶縁膜材料 絶縁膜膜厚 成膜方法 基板材料 表面電極材料 電極面積 0.79 mm 2 円形 3.2.1. 絶縁性と電流機構 本研究で使用した PZT 薄膜の電流特性を図 3.9(a)に示す。このとき、ドット No.1 を用いた。この 電流が Poole-Frenkel 機構で流れているかどうかを調べるために、図 3.9(b)に、Poole-Frenkel 機構 で直線になるグラフにプロットして示す。この図では、Poole-Frenkel 機構とよく一致する。ゆえに、 PZT 試料の電流機構はトラップが原因の一つと考えられる。 J [A cm-2 ] J/V [A cm-2 V -1 ] 10-10 10-11 10-11 (a) -2 0 2 (b) V [V] 0.5 図 3.9 PZT 試料1番ドットの電流特性 37 1 1/2 V 1.5 1/2 [V 2 ] 3.2.2. PZT 試料の DCTS 信号 この PZT 試料(ドット 1)を DCTS 測定して評価を行った。このときの DCTS 測定のパラメータ を表 3.5 に示し、図 3.10 に放電電流特性を示す。そして、この放電電流から変換した、 eref を導入 −1 していない場合の DCTS 信号( eref = 0 s )を図 3.11 に示す。この図では、DCTS 信号のピークが 観測されていない。そのため、トラップを評価できない。 s −1 から1.33 × 10 −3 s −1 −3 −1 まで変化させた場合の DCTS 信号の形状を示す。さらに、図 3.12(b)に eref を 1.33 × 10 s から 3.68 × 10 −3 s −1 まで変化させた場合の DCTS 信号の形状を、最後に、図 3.12(c)に 3.68 × 10 −3 s −1 から 1.11 × 10 −2 s −1 まで変化させた場合の DCTS 信号の形状を示す。このとき、 eref が連続変化をしてい − −1 るので、各グラフで代表的な eref のグラフにしている。図 3.12 (a)では eref = 1.00 × 10 3 s を、図 3.12 (b)では eref = 2.00 × 10 −3 s −1 を、図 3.12 (c)では eref = 1.00 × 10 −2 s −1 を用いて表示している。 そこで、eref を変化させてピークを探す。まず、 図 3.12(a)に eref を 2.09 × 10 −4 表 3.5 DCTS 測定のパラメータ 充電 放電 電圧 [V] 時間 [s ] 電圧 [V] 時間 [s ] 2.0 3600 − 1. 5 3600 10 -Idis(t) [A] 6 10-12 4 2 0 100 101 102 103 Time [s] 10-13 104 100 101 1 0.5 0 図 3.11 102 Time [s] 図 3.10 放電電流特性 D(t,0) [×1011 cm-2 ] -Idis [×10-12 A] 8 -11 100 101 102 Time [s] 103 eref 未導入時の PZT 試料の DCTS 信号 38 103 104 D(t,2.00×10-3 ) [×1010 cm-2 ] D(t,1.00×10-3 ) [×1010 cm-2 ] 8 Experimental Simulation et=2.01×10-3s -1 Nt =1.11×1011cm-2 6 4 2 0 100 101 102 103 Time [s] (a) eref を 2.09 × 10 −4 −1 −3 s から 1.33 × 10 s −1 Experimental Simulation et=2.01×10-3s-1 Nt=8.58×1010cm-2 6 4 2 0 100 101 (b) eref を 1.33 × 10 −3 102 Time [s] 103 −1 s から 3.68 × 10 −3 s −1 まで変化させた場合の DCTS 信号 まで変化させた場合の DCTS 信号 D(t,6.00×10-3 ) [×1010 cm-2 ] 8 8 Experimental Simulation et=1.72×10 -2s-1 Nt=5.65×1010cm-2 6 4 2 0 100 101 102 Time [s] 103 (c) eref を 3.68 × 10 −3 s −1 から 6.00 × 10 −3 s −1 まで変化させた場合の DCTS 信号 図 3.12 eref を連続変化させた場合の DCTS 信号の eref を連続変化させたときの、それぞれの eref で支配的になっているピークについて評価する。図 3.13 に、 変化させた eref と、 そのときに支配的になっているピークの et ならびに N t との関係を示す。 このように、 eref を連続変化させることによって分解できたトラップを、表 3.6 に示す。 以上より、測定範囲内にピークの現れなかった DCTS 信号でも、eref を連続変化させることによっ てピークを移動できることがわかった。また、 eref を連続変化させることによって、分解しにくいト ラップを分解できることがわかった。そして、この PZT 薄膜(ドット 1)には、少なくとも表 3.6 に示す3種類のトラップが存在することがわかった。また、図 3.10(b)の両対数グラフでは、今回測 定された放電電流は直線に近くなっていた。これは、式(2.27)で表される、時間の − n 乗に比例する 放電電流である可能性がある。しかし、 eref を連続変化させることによって、 et と N t を完全に分離 できているので、今回測定された放電電流は 3 種類のトラップからの電荷の放出による放電電流で あることがわかった。 39 Nt [×1011 cm-2 ] 1 et [s-1 ] 10-2 10-3 0.5 0 2 -3 4 eref [×10 s ] (a) 0 6 -1 0 2 -1 eref [×10 s ] (b) eref と et の関係 4 -3 6 eref と N t の関係 図 3.13 連続変化させた eref と、 et ならびに N t の関係 表 3.6 eref の連続変化によって検出した et と N t ( T = 300K ) − トラップ番号 検出した et [s 1 ] 検出した N t [cm -2 ] 1 2.2 × 10 −3 5.1 × 10 −3 1.3 × 10 −2 1.1 × 1011 8.4 × 1010 6.4 × 1010 2 3 検出したトラップについて、電圧依存性を調べることによってトラップの存在する場所を調べる。 あるピークについて、放電電圧を変化させることによって電圧の依存性を調べていく。しかし、複数 のトラップが存在している場合、放電電圧によっては支配的なピークと成りえない場合がある。なぜ なら、内部に一様に分布しているトラップの場合には、放電電圧が小さいと DCTS 信号が小さくな るからである。また、界面付近にトラップが存在する場合には、放電電圧が大きいと内部に一様に分 布しているトラップが支配的になってしまって、界面付近の信号が支配的にならずに検出できない。 放電電圧を、先に設定した − 1.5 V だけでなく、− 1.0 V 、− 0.5 V 、0 V 、0.5 V 、1.0 V 、1.5 V の計 7 種類で DCTS 測定を行った。しかし、今回検出できた3つのトラップについても、放電電圧 が低いと、トラップ 1 とトラップ 2 をうまく検出できなかった。ゆえに、トラップ 3 について測定 − −1 − −1 を進めた。図 3.14 に、 eref = 1.00 × 10 2 s で変換した DCTS 信号を示す。 eref = 1.00 × 10 2 s で は、トラップ3が支配的になっている。この図では、放電電圧の変化に従って DCTS 信号の値が変 化している。このときの、トラップ 3 の N t と放電電圧との関係を図 3.15 に示す。この図のように、 放電電圧とトラップ 3 の N t の検出値とは、比例関係にあることがわかる。これは、膜中に一様に分 布する場合の DCTS 信号の検出量を示した、式(2.18)と式(2.22)によく一致する。ゆえに、このトラ ップ 3 は、絶縁膜中に一様に分布するトラップであることがわかった。また、 Vdis = 0 V での値が、 界面付近に存在するトラップであることがわかった。 40 2 1 6 Nt [×1010 cm-2 ] D(t,1.00×10-2 ) [×1010 cm-2 ] Vdis [V] -1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 3 4 2 0 0 100 101 102 103 Time [s] 104 -1 図 3.14 各放電電圧での DCTS 信号の変化 0 Vdis [V] 1 図 3.15 放電電圧の変化による トラップ3の N t の変化 3.2.3. 疲労後の PZT 試料の DCTS 信号 次に、PZT 薄膜が各種測定によって疲労した後のピークを測定した。このとき、新たにドット 2 を用いているので、ドット1の測定による気圧変化と温度変化によるダメージを受けている。このド ットで観測されるピークの温度依存性を調べた。今回用いた温度は、 298 K 、 323 K 、 348 K 、 423 K の 4 種類である。そして、各温度ごとに表 3.7 に示すパラメータで DCTS 測定を行った。例 として、図 3.16 に 348 K での放電電流特性を示す。 表 3.7 DCTS 測定のパラメータ 充電 放電 電圧 [V] 時間 [s ] 電圧 [V] 時間 [s ] 2.0 600 0 3600 4 10-10 Idis(t) [A] Idis(t) [×10-10 A ] 5 3 2 1 0 (a) 10-12 348K 100 101 102 Time [s] 10-11 103 348K 100 (b) 図 3.16 ドット 2 の放電電流特性 41 101 102 Time [s] 103 D(t,6.00×10-3 ) [×1012 cm-2 ] D(t,9.51×10-2 ) [×1012 cm-2 ] Experimental Simulation et=3.83×10 -1s-1 Nt=1.23×10 12cm-2 1 0.5 348K 0 0 10 101 102 Time [s] (a) eref = 1.00 × 10 −2 s −1 の DCTS 信号 図 3.17 1.5 1 348K 0.5 Experimental Simulation et=6.09×10-2s-1 Nt=1.53×1012cm-2 0 0 10 101 Time [s] 102 (b) eref = 1.00 × 10 −2 s −1 の DCTS 信号 348 K の時の DCTS 信号 そして、図 3.17 にこの放電電流を DCTS 信号に変換した結果を示す。図 3.17(a)に示すように、 eref が 9.5 × 10 −2 s -1 付近でまず 1 番目の支配的なピークを得ることができる。そして、図 3.17(b)に示す −3 -1 ように、 eref が 6.0 × 10 s 付近で 2 番目の支配的なピークを得ることができる。このように、各温 度で測定した DCTS 信号について、eref を連続変化させて支配的なピークを探し出し、温度と検出で きた放出割合についての関係をプロットした図を図 3.18 に示す。式(2.29)のアレニウスの式で直線 になるように、縦軸を対数表示、横軸を温度の逆数で表示している。ここで、近い放出割合での DCTS ピークは、互いに重なり合って近い値で検出されることを考慮しなければならない。つまり、298 K の 1 番目に検出された e t と 2 番目に検出された e t は、この図で表示されているよりも実際は少し離 れた値であると考えられる。これは他の温度に関しても同様である。このことを考慮して式(2.29)に フィッティングするように直線を引くと傾きのある(a)の直線と、傾きの無い(b)の直線を引くことが できる。このとき、 423 K に関しては温度が高くなっているので、 eref を操作しても、他の温度の 1 番 目 に 現 れ た ピ ー ク に 相 当 す る et を 検 出 す る こ と が で き な か っ た 。 そ の 代 わ り に 、 新 た に e t = 1.9 × 10 −2 s -1 付近のピークを検出することができたが、このピークに関しては逆に他の温度の低 い測定域では検出されなかった。 (a) 348K et [s-1 ] 10-1 423K 323K 298K (b) 1st. Peak 2nd. Peak 3rd. Peak 10-2 2.4 2.6 2.8 3 -1 3.2 3.4 1000/T [K ] 図 3.18 PZT 試料の温度と検出された e t との関係 42 ピーク(a)に関しては図 3.18 より明らかなように、温度に関係する放出割合を持つと考えられる。 ここで、フィッティングした直線の傾きから ∆E と A を求めると、 ∆E = 0.11 eV 、 A = 21 s と求 -1 められる。このピークがもしトラップであるとするならば、 ∆E はトラップ準位 E t − E v に、 A は脱 出周波数ν t に対応する。トラップ準位として、 E t − E v = 0.11 eV という値は妥当である。しかし、 -1 脱出周波数としての ν t = 21 s という値は、理論的に近いといわれる膜の光学フォノン周波数の 1013 s -1 からは程遠い。また、TSC 法を用いた実験でも、PZT 薄膜のトラップは E t − E v = 0.5 eV 、 ν t = 10 8 s -1 であると報告されている 11)。ゆえに、今回検出されたピーク(a)は温度に依存性があるも のの、トラップではないと考えられる。また、ピーク(b)に関しても温度に依存性が無いゆえに、ト ラップでは無いと考えられる。 ところで、ドット 1 での無疲労時に観測されていたピークが、今回のドットでは観測でされなか った。このことについて、表 3.8 に示すように、先のダメージを受けていないドット 1 のデータと比 べると、ドット 1 は少ない密度のピークが 3 種類検出されたのに対し、このドット 2 では、より大 きな放出割合、多い密度のピークが 2 種類検出されている。具体的には、密度が一桁程度増加して いる。このことは、まずドット 1、つまり無疲労時には比較的密度の少ないトラップが存在していて、 他にピークが存在していないので支配的であったと考えられる。ところが、疲労時のドット2では、 新たに密度の多いピークが発生して、無疲労時のピークよりもより支配的になっていると考えられる。 ゆえに、このドット 2 の測定時で、無疲労時に存在していたピークは、密度の多いトラップが発生 してしまったために、検出されなくなってしまったと考えられる。 表 3.8 ドット 1 とドット 2 のピークの比較 ドット 1 (未疲労) ドット 2 (疲労) e t [s -1 ] ( 300 K ) N t [cm -2 ] 2.2 × 10 −3 5.1 × 10 −3 1.3 × 10 −2 5.8 × 10 −2 2.6 × 10 −1 1.1 × 1011 8.4 × 1010 6.4 × 1010 1.4 × 1012 1.3 × 1012 3.2.4. 回復アニールによる絶縁性と DCTS ピークの変化 先の実験で、BST 試料の測定を真空中で加熱した状態で行うと、BST 試料がダメージを受けてい ったことがわかった。ここでなぜ、真空アニール状態ではダメージを受けるのかを考える。酸化物強 誘電体の場合、内部の酸素が抜け出ていくために劣化が起こる。PZT も酸化物強誘電体なので、真 空アニール状態で内部の酸素が活性化されて抜けていき、ダメージを受けると考えられる。 そうすると、逆に劣化した強誘電体に酸素を供給しながらアニールすることによって、劣化した強 誘電体が回復するということも考えられる。劣化した PZT を Ar:O2=1:1 の雰囲気中で、150 ℃、 30 min の回復アニールをすることによって、ヒステリシスループが回復し、TSC 測定法によって検 出したトラップ密度が減少したという報告がある 11)。 この報告と同様に、劣化した PZT 試料が回復アニールによってトラップ密度が減少するかを調べ る。ここで、回復を評価するために、電流−電圧特性によって絶縁性の回復を調べ、また、DCTS 法によってトラップ密度の変化を調べる。 43 回復アニールのパラメータを表 3.9 に示す。また、測定するタイミングを表 3.10 に示す。このと き、実験の不手際によって、19 時間ほど測定ができなかった。もし PZT 試料が回復アニールによっ て回復するならば、この時間中に多少なりとも PZT 試料は回復していると考えられる。この測定タ イミングでは、まず DCTS 測定の前の電流特性を調べ、DCTS 測定の後の電流特性と比較すること によって、DCTS 測定中の絶縁性の回復を調べる。また、DCTS 測定も 3 回行い、DCTS 測定中の トラップ密度の変化も調べる。このときの DCTS 測定のパラメータを表 3.11 に示す。 表 3.9 回復アニールパラメータ 温度 423K 雰囲気 Ar:O2=1:1 ガス圧 0.1atm 表 3.10 測定のタイミング 実験の不手際により 測定できず(回復中) 測定開始時 I-V 測定 00h00m ∼ 19h15m 19h15m ∼ 21h35m 21h35m ∼ 28h50m 28h50m ∼ 31h20m 1回目 DCTS 測定 2回目 DCTS 測定 3回目 DCTS 測定 測定終了時 I-V 測定 表 3.11 DCTS 測定のパラメータ 充電 放電 電圧 [V] 時間 [s ] 電圧 [V] 時間 [s ] 2.0 600 0 3600 図 3.19(a)に DCTS 測定前と測定後の電流特性図を示す。間に 3 回 DCTS 測定を行ったにもかか わらず、電流特性に変化が現れなかった。そうすると、この電流はトラップに関係のない電流機構で ある可能性がでてくる。そこで、トラップに関係のある Poole-Frenkel 機構が存在するかどうかを調 べるために、図 3.19(b)に Poole-Frenkel 機構で直線になるグラフにプロットした。このように、少々 ずれが生じているものの直線に乗っているので、Poole-Frenkel 機構で電流が流れていると考えられ る。 トラップに関係があると考えられるので、DCTS 測定を行ってトラップを評価した。このときの 放電電流を図 3.20 に示す。そして DCTS 変換した結果を図 3.21 に示す。 44 10-4 J/V [A cm-2 V-1 ] J [A cm-2 ] Before DCTS After DCTS 10-6 10-8 10-10 423K 10-7 10-8 423K 10 -2 -1 0 V [V] 1 Experimental Poole-Frenkel Ideal -9 2 0.5 (a)DCTS 測定前後の電流特性 1/2 V (b) 1 1/2 [V 1.5 ] Poole−Frenkel 機構で直線になるグラフ 図 3.19 回復アニール前後の電流特性 10-9 1st 2nd 3rd 4 10 -Idis(t) [A] Idis(t) [×10-10 A] 6 2 10-11 10-12 423K 423K 10-13 0 100 101 102 Time [s] 103 (b) 104 100 101 102 Time [s] 図 3.20 放電電流特性 D(t,2.00×10-3 ) [×1012 cm-2 ] (a) 1st 2nd 3rd -10 2 1 1st 2nd 3rd 0 0 10 101 Time [s] 423K 102 図 3.21 回復アニール中の DCTS 信号の変化 45 103 104 この時検出されたピークは、先の温度依存性で求めることができた、温度に依存しないピーク ( et = 5.8 × 10−2 s -1 )である。そして、このピークは測定を進めるごとに減少している。このことから、 回復アニール中にピークの密度が減少していくことがわかった。 まとめると、回復アニール中に、DCTS 測定によって測定されたピークの密度が減少しているが、 流れる電流量が全く変化しなかった。 他の測定では、 空気中あるいは真空中で測定を行った場合には、 測定を進めていくと必ず電流特性が悪化していたが、今回の酸素リッチな雰囲気では全く悪化しなか った。このことから、酸素不足の雰囲気で測定を進めることによって、絶縁膜中の酸素が欠乏してい き酸素空孔が発生し、トラップとして働いて電流特性を悪化させるものと推測できる。今回は電流特 性を悪化させるトラップのピークを観測できなかった。しかしながら、普段の測定において、充分に 酸素リッチな雰囲気で測定をすれば、絶縁膜の劣化を防ぎながら安定して測定できるものと考えられ る。 46 4.結論 DCTS 法は TSC 法と比較して、試料の温度が一定で、なおかつ DCTS 変換して得られたピークか ら直接評価が可能という点で、比較的手軽な測定方法であると言える。しかしながら、従来の DCTS 法では測定時間範囲内にピークが現れなかった場合では、評価が不可能であった。 本研究では、新たに eref を導入してピークを測定範囲内に移動できる方法を提案した。その結果と して、測定範囲を大幅に広げることに成功した。 また、複数種類のトラップが存在する場合において、 eref を連続で変化させることによって、その eref で支配的になるピークを次々に検出できるようになった。このことより、近い放出割合のトラッ プであるために区別のつきにくかった、各トラップの密度と放出割合を完全に区別できるようになっ た。 そして、トラップの存在する場所によって DCTS 信号の出力に変化が現れることを示した。その ことから、放電電圧に依存するピークは絶縁膜内部に存在するトラップからの放出であることがわか った。また、放電電圧に依存しないピークは絶縁膜と電極の界面付近に存在するトラップからの放出 であることがわかった。 BST 薄膜については、DCTS 測定によって、放出割合が分布しているトラップが、絶縁膜内部に 一様に存在していることが、DCTS 信号の放電電流依存性よりわかった。また電流−電圧特性から、 この絶縁膜にはトラップに関係する電流機構(Poole-Frenkel 機構)が存在することがわかった。そ して、真空アニール( 373 K )で測定回数を重ねて絶縁膜を劣化させると、電流−電圧特性の劣化がみ られた。このとき、電流密度の増加と対応してトラップ密度が増加したので、このトラップ − −1 -2 ( e t = 4.1 × 10 3 s 、 N t = 1.0 × 1013 cm 、ただし測定温度は 373 K )は電流機構と密接な関係があ ることがわかった。 PZT 薄膜については、電流‐電圧特性からトラップに関係する電流機構(Poole-Frenkel 機構)が 存在することがわかった。このとき、DCTS 法でトラップ評価を行ったが、 eref を導入していない場 合はピークが現れなかった。そこで、 eref を導入して適当な値を用いると、ピークが測定時間範囲内 −3 −1 に 現 れ た 。 そ し て 、 eref を 連 続 変 化 さ せ る こ と に よ っ て 、 ト ラ ッ プ 1 ( e t = 2.2 × 10 s 、 N t = 1.1 × 1011 cm -2 ) 、 ト ラ ッ プ 2 ( e t = 5.1 × 10 −3 s −1 、 N t = 8.4 × 1010 cm -2 ) 、 ト ラ ッ プ 3 ( e t = 1.3 × 10 −2 s −1 、 N t = 6.4 × 1010 cm -2 )の 3 種類のトラップに区別することができた。そして、 トラップ 3 については、放電電圧の依存性を調べることによって、膜中に分布しているトラップで あることがわかった。これらトラップについては、放出割合の温度依存性を調べて、トラップ準位と 脱出周波数を調べて、トラップである可能性を調べる必要がある。しかし、トラップ 3 として評価 されたピークは、少なくとも絶縁膜中に捕獲された電荷が存在するために、トラップであると考えら れる。 疲労した PZT 薄膜では、新たにピークが 2 つ現れた。このとき測定温度に依存するピーク ( e t = 2.6 × 10 −1 s −1 、 N t = 1.3 × 1012 cm -2 )と、測定温度に依存しないピーク( e t = 5.8 × 10 −2 s −1 、 N t = 1.4 × 1012 cm -2 )を検出できた。そして、測定温度特性をとることによって、温度に依存するピ 47 ークは ∆E = 0.11 eV 、 A = 21 s −1 であることがわかった。トラップと仮定して対応をとると、 E t − E v = 0.11 eV 、ν t = 21 s −1 となる。このとき、脱出周波数がトラップとして妥当な値ではなか ったので、この温度に依存するピークはトラップでなかったと考えられる。 そして、0.1 atm 、Ar:O2=1:1 の雰囲気中で 423 K の酸素回復アニールを行うと、先の測定温度に 依存しないピークの値は減少した。このとき、電流−電圧特性からこの絶縁膜中の電流機構にはトラ ップに関係する電流機構(Poole-Frenkel 機構)が存在することがわかった。しかし、この電流−電 圧特性には改善がみられなかった。ゆえに、この測定温度に依存しないピークは、膜中の酸素量には 関係するが、電流特性には全く関与しない放出であることがわかった。 また、放電電流を両対数グラフにプロットしたときに直線に近くなったが、式(2.27)のように時間 の − n 乗に比例する電流と違って、eref と et や eref と N t のグラフにプロットしたときにすべて数段階 に分離できた。ゆえに、今回測定された放電電流は、温度依存性のある放出によって流れた電流であ ることがわかった。 48 謝辞 本研究を行うに当たり、学部 3 年生時より 4 年以上に渡って、最後まで御指導、御鞭撻いただい た大阪電気通信大学 松浦 秀治 助教授に深く感謝致します。また、公私共に御付き合いしていただ き、大学生活が大変豊かなものになりました。特に、学部生時代に卒業も危ぶまれていたほど勉強嫌 いだった私に、勉強と研究の楽しさを教えて頂きました。無事に学部を卒業して、大学院へも進学で きたのは、松浦先生が私を見捨てずに御指導して下さったからです。この場を御借りして、心より感 謝の意を表させていただきます。 また本研究で用いた、貴重な PZT 試料を快く御提供していただいた、姫路工業大学 清水 勝 助教 授に深く感謝致します。 そして実験の御協力を頂いた、大阪電気通信大学 松浦研究室 の安藤 正樹氏、牛丸 順氏、丸目 耕 蔵氏、南出 大樹氏、関本 安泰氏、内倉 政治氏、西 昌和氏に心より感謝致します。特に、測定結果 の解析に多大なアイデアと力を貸していただき、互いに議論してきた関本氏、内倉氏、西氏の 3 名 には深く感謝の意を表します。 最後に、研究を進めるに当たってお世話になったすべての方々に心より感謝致します。 49 参考文献 1) T. C. May. et al. :IEEE Trans. Electron Device, ED26 (1979) 2. 2) Y. Fukuda et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 35 (1996) 5178. 3) S.S.Eation et al.: IEEE Int. Solid-State Circuits Conf. Tech. Dig. :1988, p. 130. 4) Y.Taraui: IEEE Int. Electron Device Meeting Tech. Dig. :1994, p. 7. 5) H. M. Duiker et al.: J. Appl. Phys. 68 (1990) 5783. 6) K. Nakao et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 37 (1998) 5203. 7) D. Dimos et al.: J. Appl. Phys. 76 (1994) 4305. 8) Y. Shimada et al.: Appl. Phys. Lett. 71 (1997) 2538. 9) G. E. Pike et al.: Appl. Phys. Lett. 66 (1995) 484. 10) Y.Shimada et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 35 (1996) 4919. 11) H. Okino et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 37 (1998) 5137. 12) H. Matsuura et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 34 (1995) L185. 13) H. Matsuura: Jpn. J. Appl. Phys. 36 (1997) 3569. 14) R. R. Haering et al.: Phys. Rev. 117 (1960) 451. 15) S. M. Sze: Physics of Semiconductor Device 2nd ed.,Part 3, Chap. 7,p. 402. 50
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